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「ラスボスだった使い魔-25」(2011/01/22 (土) 16:37:42) の最新版変更点
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#navi(ラスボスだった使い魔)
底部のジェット噴射口を駆使し、機体を敵艦隊の上空でホバリングさせる。
ルイズは開いた搭乗口から敵艦を見下ろしながら、詠唱を開始した。
「……エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」
「『虚無の魔法』か。どのような物なのか、詳細は書いていなかったのか?」
額に浮いた汗を手でぬぐいながら、ユーゼスはエレオノールに尋ねる。
「『エクスプロージョン』って言うくらいだから、多分爆発する魔法だとは思うんだけど……」
しかし、何しろ初めて見る魔法なので、エレオノールも推測や予想しか話せなかった。
「もしかしたら、今までの御主人様の『失敗』は、その『エクスプロージョン』の出来損ないなのか?」
「……かも知れないわね」
「……オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……」
『ゼロのルイズ』が『虚無のルイズ』に、『無能』が『伝説』に変わろうとしている。
「……ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ……」
エレオノールは大きな不安と小さな期待を、ユーゼスは興味を持ってその光景を見ていた。
「……ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル―――!!」
呪文が完成し、ルイズは敵艦隊に向かって杖を振り下ろす。
一瞬の後、タルブの空に強烈な光のカタマリが現れた。
タルブの空の戦いはひとまず終わったが、タルブの陸ではそれ以上の激戦が繰り広げられていた。
敵は新型の大砲を使って、上空からこちらを攻撃してくる。
ウワサに名高いアルビオンの竜騎士隊が見当たらないのが不思議と言えば不思議だったが、軍と軍との戦いならば竜騎兵などの出番はそれほど無い。
そもそも艦隊をあらかた潰されてしまったトリステイン軍には、アルビオン艦隊に対抗する力など存在しないのだ。
おそらくこの砲撃が終われば、敵は降下して直接攻撃を仕掛けてくるだろう。
砲撃によって数は減らされ、陣形は乱され、士気はくじかれ、トリステイン軍はもはやガタガタである。
「……!」
そんな中で、トリステイン軍のある一人の兵士はこの状況に歯噛みしていた。
その兵士は女性であり、短く切りそろえた金髪と澄んだ青い瞳を持っていたが、その眼光はまぎれもなく戦士のそれであった。
名前を、アニエスと言う。
アニエスは、とある事情からある程度の権力を欲している。
そして平民の自分が名を上げるには、戦場で功を上げるのが最も手っ取り早い……と考え、喜び勇んでこの戦いに参じたのだが、この体たらくでは功を上げるどころか生き残ることすら危うい。
(生き残りさえすれば、『私の目的』を達成するチャンスもいずれ巡ってくるかもしれない……)
本気で逃げ出すことを考え始めるアニエス。
と言うか、事実として自軍の内の何人かは逃げ出し始めている。
そして砲弾の雨にさらされ続け、いい加減に『もう逃げるか』と一歩を踏み出したその時。
自分たちを殲滅せんと攻撃し続けていたアルビオン艦隊は、突如として発生した巨大な光に飲み込まれていったのだった。
―――光が消えると、アルビオン艦隊は炎に包まれていた。
全ての戦艦の帆と甲板が、赤く燃えている。
そしてつい先ほどまでトリステイン軍に砲撃を行っていた大艦隊は、それまでの猛攻が嘘だったかのように墜落していく。
「……………」
その場にいる誰もが、呆気に取られていた。
こちらからは何もしていないのに、いきなり敵がやられたのだから当たり前である。
それはアニエスも例外ではない。
トリステインの軍勢は、しばしそうして呆然としていたが、
「諸君! 見よ! 敵の艦隊は滅んだ! 伝説のフェニックスによって!!」
マザリーニ枢機卿の叫びによって、ハッと我に返る。
なるほど、上空を見れば確かに『何か』の姿の確認が出来た。
マザリーニ枢機卿は『伝説の不死鳥だ』などと言っているが……アレは本当に鳥なのだろうか? 遠いのでよく分からないが、どこか違う気がする。
しかしアニエスの疑問などには構わず、全軍の士気は爆発的に増大した。
「うおおおおおおぉーッ!! トリステイン万歳!! フェニックス万歳!!!」
そこかしこから自分たちを鼓舞する大声が轟き、それらは巨大な渦となる。
「むう……」
集団心理とは恐ろしい。
(だが何にせよ、これはチャンスだ……)
アルビオンに傾いていた『流れ』は、一気にトリステインへと引き寄せられた。
上空には、泡を食った様子で落ちてくるアルビオン軍の面々。
浮き足立った敵(先ほどまでは自分たちが浮き足立っていたのだが)の掃討など、そう難しいことではない。
「全軍突撃ッ! 王軍ッ!! 我に続けえッ!!」
アンリエッタ王女の声が、高らかに響く。
(言われるまでもない……!)
一人でも多くの敵を倒し、戦果を上げるため、アニエスは銃を握り締めながら駆け出していった。
「ぐ、う…………っ!!」
『謎の飛行する鉄のカタマリ』に吹き飛ばされたワルドは、かなり離れた位置の森の中に流され、墜落していた。
身体中が痛い。
あの『謎の飛行する鉄のカタマリ』と激突する際、とっさに風魔法を使ったので衝撃はある程度は殺せていたが……それでもかなりのダメージだ。
左腕の義手など、完全に壊れてしまっている。
……当たったのが身体の左側ではなく右側であれば、もう一つ義手を用意しなければならなかっただろう。
「おのれ、ガンダールヴ……!」
『謎の飛行する鉄のカタマリ』からわずかに見えた銀髪と顔は、まぎれもなく自分の左腕を奪った、自分のかつての婚約者の少女の使い魔だった。
「…………!!」
ユーゼスへの憎悪を募らせながら、ワルドはこれからのことを考える。
アルビオン艦隊は、燃え落ちている。
おそらくこの戦いは負けだろう。
取りあえずはクロムウェルの元に戻り、体勢を立て直さなければなるまい。
こうなったら『紫の髪の男』についても、本格的に調査を開始しなければ。
「何にせよ、戻らねばならんか……」
詳しい作戦は、戻って落ち着いてから練ることにしよう、と歩き始める。
そして歩いている内に、森の中の開けた場所に出て……そこに、ある人物が待ち構えていた。
「ふむ……、ビートルの試運転は、それなりに上手く行っているようですね」
「な、お前は……!?」
遠くタルブの空を飛ぶ『謎の飛行する鉄のカタマリ』を眺めながら、白衣を着込んだ男は自分に目をやる。
「まあ、詳しい乗り心地や使い勝手については、後でユーゼス・ゴッツォに伺うとして……。
……さて、この場での私の用事はビートルやユーゼス・ゴッツォではなく、あなたです」
動転するワルドを眺めながら、『紫の髪の男』は告げた。
「それではお話をしましょうか、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵」
(どこで俺についての情報を……いや、あのガンダールヴか)
あの銀髪の男から、さわり程度でも自分のことについて聞いていたのだろう。
元トリステイン軍グリフォン隊隊長。
今はレコン・キスタの一員。
ラ・ロシェールの酒場で自分たちの話を盗み聞きしていた人物は、この男であること。
そして、大まかな外見とフルネーム。
これだけの情報があれば、推測や調査はたやすい。
そして『紫の髪の男』は、ワルドにある確認を取った。
「……私の周辺をコソコソと嗅ぎ回っていたのは、あなたですね?」
「!」
(気付かれていたのか!?)
驚くワルド。行動には細心の注意を払っていたと言うのに、どうやって自分の動きを察したのだろうか。
ワルドの内心の動揺にも構わず、『紫の髪の男』は言葉を続けた。
「……遠巻きに私の話を盗み聞く程度ならば無視しても構わなかったのですが、こうも周りで動き回られると目ざわりなのですよ」
「ぐ、う……」
一歩後ずさるワルドだが、男は追及の手を止めない。
「取りあえず、私の周辺を探っていた理由を聞かせていただきましょうか」
物腰は柔らかかったが、『言動にわずかな偽りも許さない』、とその視線が語っている。
「……!」
やがてワルドは神妙な面持ちをしながら、ブツブツと小声で何かを呟き始めた。
「? ……申し訳ありませんが、もう少し大きな声で喋っていただけませんか?」
(馬鹿め!!)
首を傾げる『紫の髪の男』を内心であざ笑いながら、杖を抜き放つ。
呪文の詠唱は、すでに完了した。
あとは発動させるだけだ。
バリィイイイイインッ!!
相手に驚く暇も与えず、杖の先から電撃がほとばしる。
『ライトニング・クラウド』を浴びせながら、ワルドはようやく『紫の髪の男』に対しての回答を行った。
「フン、お前に話す必要などはない……!」
と言っても、死体に話しても意味がないのだが。
それでは死体を検分し、この男が持っているはずの『力』についての情報を集めよう……などと思っていると、何と自分の言葉に対しての返答が聞こえてきた。
「……そうですか。それは残念です」
「何!?」
『ライトニング・クラウド』の放電が終わり、事象の結果が明らかになる。
そこに立っていたのは、無傷の男。
白衣にわずかな焦げ目すら無ければ、特に防御を行った様子も無い。
「な、何だと……!?」
「ククク……。その程度の電撃で、ネオ・グランゾンの歪曲フィールドを破ることは不可能ですよ」
「ね、ねおぐらんぞん……!?」
泡を食うワルドに追い討ちをかけるように、『紫の髪の男』の背後が歪み―――そこに、魔神が出現した。
「おや、『かくれみの』が解けましたか。やはり戦闘しながらの展開は出来ませんね。……しかし歪曲フィールドの壁の内側に立つというのも、妙な感じです」
後ろの巨人を振り仰ぎながら、『紫の髪の男』は軽く呟く。
藍色の金属でその身を固め、黄金の輪を背負い、見る者全てに等しく恐怖と畏怖を与えるその威容を前にして、なぜああも平然としていられるのか。
その答えは、ただ一つ。
「これが……、お前の力……!?」
「その通りですよ、ワルド子爵。しかし、電撃でコレにダメージを与えたいのであれば、せめてグレートマジンガーのサンダーブレーク程度は……と言っても分かりませんか」
ヴン、と闇の魔神の硬質な瞳が光り、ワルドは思わず後ずさった。
『紫の髪の男』は、仕方がないと言わんばかりに溜息をつく。
「素直に『私の周辺を探る理由』を話していただければ、その内容次第では見逃さないこともなかったのですが……」
ワルドを見据えたまま、彼は一つの宣言を下した。
「今の攻撃のお礼は……させていただかなくてはなりませんね」
「ユ、ユビキタス・デル・ウインデ……!」
即座にワルドは詠唱を開始した。
攻撃を行うためではなく、逃げるために。
「む?」
どうやら『紫の髪の男』はこちらの行動を観察する余裕があるらしく、悠長に詠唱を見逃している。
……口惜しいが、この男には勝てない。
だが、いずれはその力を……。
「さらばだ!!」
『偏在』で5体の分身を作り出した直後に、捨てゼリフを残してその場から飛び立つワルド。
5体はそれぞれ、素晴らしいスピードでバラバラの方向に逃げて行った。
(これで確率は5分の1か……!)
全く別の方向に逃げれば、相手も始末には手こずるはずだ。
もしかすれば最初に『本体』を引き当てられる危険もあるのだが、そこは賭けである。
そうワルドは思っていた。
だが。
「?」
自分以外の4体の分身たちの視覚に、妙なモノが映し出される。
一言で言うならば、宙に浮かんだ黒い穴。
穴は恐ろしいほど暗く深く、その奥にあるものは全く見えない。
一体何なのだと疑問に思った瞬間、その穴の中から光が飛び出し、4体の分身たちは同時に消滅した。
「な、な……!?」
分身たちが消滅したのと完全に同じタイミングで、少し離れた4つの地点に爆発が起こる。
……自分の分身がいるはずの地点と、全く同じ場所だった。
「…………!!」
一体、どうやって『本体』と『分身』を見分けたのか。……いや、それ以前にあの攻撃は何だ。自分はあんな攻撃など、見たことも聞いたこともありはしない。
驚愕するワルドだったが、そんな彼を更にたたみかけるかのように、今度は本体である彼自身の視界にも『黒い穴』が現れた。
それも、1つや2つではない。
10個、20個……いちいち数えている精神的余裕などワルドには存在していないため詳しい数は分からないが、とにかく多くの『黒い穴』が四方八方、ワルドの周辺を取り囲んでいた。
《……なかなか賢い逃げ方です。決断も早ければ、手際も良い。あなたは優秀ですね》
「…………う、うう…………!」
もはや言葉も出ないワルドに向かって、『紫の髪の男』の声を発しながら闇の魔神が空を飛んでやって来た。
《相手が私ではなければ、逃げることも出来たかもしれませんが……。ここまでです》
そしてフワリとワルドの前に降り立つ、闇の魔神。
―――周囲は『黒い穴』、その向こうには絶対的な力。
逃げ場は、ない。
《では、あらためてお尋ねしましょう。……私の周辺を探っていた理由は何ですか?》
変わらぬ口調が、ワルドに投げかけられる。
どのような仕組みかは分からないが、この闇色の魔神は『紫の髪の男』の意識や声を伝達させる能力があるらしい……と、ボンヤリとそんなことを考えるワルド。
だが、そんなことを考えている場合ではない。
下手なことを言えば、自分も『偏在』で作り出した分身たちと同じ運命を辿ることになる。
……しかし、この男相手にごまかしや嘘が通用するだろうか?
(こうなったら、イチかバチか……)
仕方がないので、ワルドは正直に全てを打ち明けた。
銀色の髪のガンダールヴが持つ、知識と力を見たこと。
あの男と話していた『紫の髪の男』ならば、同等程度の知識と力を持っていると考えたこと。
そして、調査を開始したこと。
あわよくば、その力を手に入れようともしたこと。
話している途中で『ガンダールヴとは何か』、『その銀色の髪の男の能力は』などという質問もされたが、それにも偽りなく答えていく。
《ふむ、なるほど……》
……どうやら、ある程度は納得してくれたらしい。
《1つだけ確認しますが。……今までの話を総合するに、あなたは私のことを利用しようとしたのですか?》
「そ、そうだ。その力を手に入れてみたいと、思った……」
《……そうですか》
その回答が腑に落ちたのか、ワルドを取り囲んでいた『黒い穴』が消えた。
はあ、とワルドは大きく息を吐く。
これでひとまずは安心だ。
……あくまで『ひとまずは』であるが。
「…………っ」
この闇の魔神の前にいる以上、心の底からの安心など出来ない。
それにこれを操る『紫の髪の男』が少し気まぐれを起こせば、自分の命は瞬時に刈り取られてしまうだろう。
逃げなくてはならない。
そう考えるや否や、ワルドは即座に行動する。
自分のこれまでの人生の中でもトップクラスに素早い詠唱を行い、呪文を完成させた。
「っ!!」
強力な突風が発生し、盛大に土煙を舞い上げ、その土煙は闇の魔神をスッポリと覆う。
「よし……!」
続いて『フライ』を詠唱。
慌ててはいけない、しかし遅いのは論外、速度と正確さを両立させて、最大速度で低空飛行、そして森の中に逃げる。
……後ろから、『紫の髪の男』の声が聞こえてくる。
《……このネオ・グランゾンの力の片鱗を目にして、なおも抵抗したその勇気は評価して差し上げましょう……》
後ろを振り向くべきかどうか迷うが、振り向いたりすれば速度が落ちるので振り向けない。
だが、『見てみたい』という気持ちはある。
《しかし、分不相応な勇気や野心は命を縮めるだけですよ》
「ぐ……!」
そして恐怖心と好奇心のせめぎ合いの末、ワルドは後ろを振り向いた。
そして見た。
闇色の魔神の胸の部分が開く光景を。
その開いた箇所に白い光が集まり、光がまたたく間に黒い闇へと変わる瞬間を。
《……光栄に思いなさい。生身の人間相手に、直接攻撃を下すのはこれが初めてです》
付け加えるなら、『アインスト』と呼ばれるモノを除けば『ハルケギニアの存在』に対しての攻撃もこれが初めてであったのだが、ワルドにはそんなことを知る由もない。
《極小サイズですが……》
魔神は胸にある『闇のカタマリ』を片手で操作すると、それをワルドに向かって投げつけた。
《ブラックホールクラスター、発射!》
『闇のカタマリ』は、高速で自分に向かって来る。
森の木々を、石を、地面を、空気を無尽蔵に吸い込みながら。
「う、うあ、あああああ……!」
ワルドは逃げる。
だが、逃亡もむなしく『闇のカタマリ』はワルドの身体を捉えてしまった。
「ぁ…………!!」
瞬間、世界から音と光が消えた。
どこかよく分からない場所へ、無理矢理に連れて来られた。
ここはどこだ。
一体何なのだ。
闇が渦を巻いていることしか分からない。
そしてワルドがその存在を完全に消されてしまう直前―――
―――自分が追っていた『紫の髪の男』の、名前すら知らないことに気付くのだった。
「少々、ムキになってしまったかも知れませんね」
周辺の木や地面ごと『消滅』してしまった地点を見ながら、『紫の髪の男』……シュウ・シラカワはあっけらかんと言った。
「…………明らかなオーバーキルだと思いますけどね、私は」
そんなシュウの使い魔であるチカは、相変わらずサラッとメチャクチャなことをする主人に向かって呆れたような……と言うか、実際に呆れた口調で呟く。
(つーか、ワームスマッシャーだけじゃなくブラックホールクラスターまで使うって酷すぎるような……)
一応、そのことを主人に言ってみると、
「彼は私に攻撃を加え、そして何よりもこの私を利用しようとしました。当然の報いです」
そんな答えが返ってきた。
「……は、はあ、そうですか……」
チカとしても、そう言われてしまっては強引に納得するしかない。
そして使い魔との話を切り上げたシュウは、ネオ・グランゾンに記録されている映像を見ながら、先ほどアルビオン軍の艦隊を襲った『謎の光』について考える。
「ビートルと『光』と艦隊の位置関係からするに、おそらくこれはビートルに乗った人間が行ったもの……。
当然ながらプラーナコンバーターを付けただけの機体にそんなことが可能なわけはありませんし、ユーゼス・ゴッツォもわざわざ『力』を軍事行動に使うわけがない……。
となると、残りの人間がアレを行ったことになりますが……」
可能性が高いのはユーゼスの『主人』である、あの少女か。
「ふむ……」
記録映像は、墜落する戦艦の中から次々にメイジや兵士たちが脱出していく場面に差しかかった。
「……死傷者がいる様子はありませんか。あの『光』が残した効果は、艦隊の炎上と『風石』とやらの反応の消失のみ……。どうやらサイフラッシュとコスモノヴァを合わせたような性質を持っているようですね」
『サイフラッシュ』と『コスモノヴァ』。
どちらもシュウと浅からぬ因縁を持つ、魔装機神サイバスターの武装である。
『サイフラッシュ』とは、簡単に言うと周囲にエネルギーを放射する武装なのだが、その際に攻撃を行う操者の意思を反映し、ダメージを与える対象を選別することが出来る。
また『コスモノヴァ』は膨大なエネルギーを敵にぶつけて、次元を歪ませた上であらゆる物質を粉砕するという武装だ。……コレは以前にネオ・グランゾンを破壊した攻撃でもあるので、シュウとしても多少の思い入れがある。
「……………」
と、昔を懐かしんでいる場合ではない。
「どこにも似たような攻撃はあるものですが……しかし、これを個人の力で放つとは……」
シュウの見立てでは、あの『光』のエネルギー総量はサイフラッシュやコスモノヴァに劣る。
だが、アレは明らかに『人間が放つ攻撃』の範疇を逸脱していた。
このネオ・グランゾンとて、アレをマトモに受ければ『多少のダメージ』を受けてしまうだろう。
ぜひ一度じっくり研究してみたい所だが……。
「まあ、アレの分析や考察はユーゼス・ゴッツォに任せますか」
実に都合よく『力の行使者』の近くにいるのだから、せいぜい頑張ってもらおう。
「それにしても……ユーゼス・ゴッツォ、アインスト、ラ・ギアスの物とは異なる魔法、ガンダールヴ、そしてあの『光』……」
この世界の存在と事象に関して、興味は尽きない。
加えて、自分を召喚したティファニアが扱う『記憶を消去する魔法』についても気にかかる。
ユーゼスから受け取った『ハルケギニアの魔法』の研究レポートを見るに、そのような『部分的な記憶消去』の魔法などは存在していない。
「ハルケギニア……面白い世界です。しばらく滞在してみましょう」
そう言えばユーゼスたちは今、何をやっているのだろうか……と、ネオ・グランゾンのレーダーを確認してみる。レーダーに反応するような兵器はハルケギニアに今のところビートル1機だけしかないので、補足は容易なのだ。
「おや?」
反応はあった。すぐ近くの上空だ。
……しかし、その反応がやけに弱い。
ネオ・グランゾンの視線を動かして映像でビートルの様子を確認してみると、何だかフラついている。
「何かトラブルでもあったんでしょうかね? やっぱり未調整ですし」
「では、取りあえず連絡してみますか。……これもアフターサービスというやつです」
そして、シュウはチカに命じてビートルに通信を繋げさせた。
「ど、どうしたの、ユーゼス? 何だか、凄く顔色が悪いけど……」
「……くっ……、身体に……力が、入らない……?」
ユーゼスは、猛烈な疲労と脱力感とめまいに襲われていた。
事が済んで、後は戻るだけ……という段階になって、いきなり何だと言うのだろうか。
(このまま、気絶してしまうわけには……)
意識を失いでもしたら、ビートルは即座に墜落してしまう。
だが少しばかり気を張ったところで、この症状に抵抗が出来るとは思えない。
(どうすれば、いい……?)
遠くなりかけている意識を総動員して対策を考えるが、その思考も鈍っていた。
やむを得ないのでクロスゲート・パラダイム・システムを使うか、とユーゼスにしては短絡的な結論に行き着きかける。
その時、ビートルの通信機がピピピ、と電子音を発した。
「……む……?」
気だるい身体を動かして、通信機を操作するユーゼス。たったそれだけの動作が、今は酷く辛かった。
「……何、だ……?」
《やはりトラブルに見舞われていたようですね、ユーゼス・ゴッツォ》
「ミスタ・シラカワの声……? どういうマジックアイテムなの、これ?」
いきなりシュウの声が聞こえてきたので驚くエレオノール。だが、彼女の疑問を解消している余裕はユーゼスにはなかった。
「シュウ・シラカワ……、この症状に心当たりは……あるか?」
《……ジェットビートルの通信機は音声のみですので、そちらの様子は分かりません。口頭で説明していただけませんか?》
そして、ユーゼスは息も絶え絶えに自分の状態を説明した。
それを聞いたシュウはなるほど、と呟いてユーゼスが陥った状態を分析する。
《典型的なプラーナの使い過ぎですね》
「使い過ぎ、だと……?」
《ええ。未調整のプラーナコンバーターを行使したことにより、必要以上にプラーナを消費してしまったのでしょう。このままでは危険ですよ》
「……ぐ……」
何でもないことのように言うシュウに対して文句を言おうとしたが、その力もない。
そんな衰弱しているユーゼスに代わって、隣のエレオノールがシュウと話し始めた。
「危険ですよ、って……どうすればいいのよ!?」
《適切な処置をして、ゆっくりと休息を取れば大丈夫です。……まあ、簡単な応急処置の方法もありますが……》
「その『応急処置』っていうのは、どんなことなの!?」
《それは―――》
(…………っ、ぅ…………)
エレオノールとユーゼスの会話が、途中で途切れる。
いや、会話自体は続いているのだが、それを聞き取れなくなったのだ。
いよいよもって、危なくなってきたらしい。
「ちょ、ちょ、ちょっと、それ以外に方法はないの!?」
《相応の設備がない以上、これしかありません》
「う……、うう~~~……」
再びエレオノールとシュウの声が聞こえ始めた。どうやらこの難聴の症状は断続的なもののようだ。
……と、何か悩んだ様子のエレオノールが、ためらいながら自分をどかしてビートルの操縦癇に触り始めた。
「何を、している……?」
「……いいから、ちょっと黙ってなさい」
なぜか顔が赤いが、どうしたのだろうか。
《操縦桿に触りましたね? そこから『自分の中の何か』が吸われていく感覚がするでしょう。それがプラーナです。では、その流れを感じ取り、制御してください》
「簡単に言わないでよ、もう……!」
シュウから何かのレクチャーを受けるエレオノール。
そして彼女はそのまま目を閉じて集中を始めると、『これで良いのかしら』などと呟いてユーゼスに向き直った。
「…………?」
「……か、感謝しなさい。貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」
どこかで聞いたようなセリフである。
続いて真っ赤な顔で『ちょっと目をつむってなさい』と言われたので、言われた通りに目を閉じていると……。
「んっ……」
「……んむ?」
唇に柔らかいものが触れる感触と、口内に空気が注がれる感触を同時に感じた。
「なっ……!!」
それに真っ先に反応したのは、やられたユーゼスではなく彼の主人であるルイズである。
『エクスプロージョン』を使用した反動なのか大きな疲労感に襲われ、後ろの座席でグッタリとしていたのだが、いきなりあんな光景を見せられてはグッタリなどしていられない。
「な、なななな、なん、なん、何をしてるんですかっ!? エ、エエエエレオノール姉さまっ!! い、い、いきなりなななな何をっ!!?」
「……応急処置よ、応急処置」
「はあ!?」
ワケが分からない。
どういうことだ、と更に姉を問い詰めようとしたら、『遠くの相手の声を伝えるマジックアイテム(ルイズは通信機についての説明を受けていない)』を通してシュウが説明した。
《ユーゼス・ゴッツォはプラーナを大量に消費し、危険な状態にありました。ですので、ミス・エレオノールのプラーナを彼に補給させたのです》
「補給!?」
《弱ったプラーナを補給するには、他者から口移しを行うのが最も手早い方法ですからね》
「……ふむ、確かに少し楽になったな」
ユーゼスは手を開いたり閉じたりして、自分の身体の状態を確かめた。どうやら先ほどまでよりは良好らしい。
……なお、『プラーナを口移しされた』ことに対する動揺は見られなかった。
それに対して『プラーナを補給した』エレオノールはと言うと、
「ま、まったく……困ったものだわ」
そう言いながらも、少しボンヤリとしながら唇を指で撫でている。
ルイズはワナワナと震えながら文句の1つや2つや10や20も言いたいところだったが、『応急処置』という名目がある以上は下手に口出しは出来なかった。
なので、消極的な抗議を行う。
「…………なんで、姉さまがそれを?」
「だ、だって、あなたは『虚無』の魔法を使って疲れていたでしょう? そんな様子の妹に、応急処置なんて難しいことはさせられないわ」
「……………」
ジトーっと姉を軽く睨むルイズ。
そのままわずかな時間が流れると、ユーゼスがある異変に気付いた。
「……ミス・ヴァリエールの顔色が悪くなっているが」
「え?」
紅潮しているから少し分かりにくいが、確かに顔色が悪い。
《自分のプラーナをあなたに分け与えたのですからね。彼女のプラーナが不足するのは当然でしょう》
「……では、近くの安全な場所にビートルを着陸させるぞ。私に対しての本格的な治療も受けたいからな」
《ならば私も近くにいますので、そちらと合流しますよ》
シュウの言葉を聞いて、ビートルを動かすユーゼス。
……このジェットビートルのこれからの取り扱いや、プラーナコンバーターの調整、今後のトリステインとアルビオンの動向、そして主人の『虚無』など、問題は山積みだ。
しかし、取りあえずの問題は……。
恥ずかしそうにチラチラとこちらに向けられるエレオノールの視線と、射殺さんばかりに向けられてくるルイズの視線の、相反する2つの視線に対してどのように対応するかである。
#navi(ラスボスだった使い魔)
#navi(ラスボスだった使い魔)
底部のジェット噴射口を駆使し、機体を敵艦隊の上空でホバリングさせる。
ルイズは開いた搭乗口から敵艦を見下ろしながら、詠唱を開始した。
「……エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」
「『虚無の魔法』か。どのような物なのか、詳細は書いていなかったのか?」
額に浮いた汗を手でぬぐいながら、ユーゼスはエレオノールに尋ねる。
「『エクスプロージョン』って言うくらいだから、多分爆発する魔法だとは思うんだけど……」
しかし、何しろ初めて見る魔法なので、エレオノールも推測や予想しか話せなかった。
「もしかしたら、今までの御主人様の『失敗』は、その『エクスプロージョン』の出来損ないなのか?」
「……かも知れないわね」
「……オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……」
『ゼロのルイズ』が『虚無のルイズ』に、『無能』が『伝説』に変わろうとしている。
「……ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ……」
エレオノールは大きな不安と小さな期待を、ユーゼスは興味を持ってその光景を見ていた。
「……ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル―――!!」
呪文が完成し、ルイズは敵艦隊に向かって杖を振り下ろす。
一瞬の後、タルブの空に強烈な光のカタマリが現れた。
タルブの空の戦いはひとまず終わったが、タルブの陸ではそれ以上の激戦が繰り広げられていた。
敵は新型の大砲を使って、上空からこちらを攻撃してくる。
ウワサに名高いアルビオンの竜騎士隊が見当たらないのが不思議と言えば不思議だったが、軍と軍との戦いならば竜騎兵などの出番はそれほど無い。
そもそも艦隊をあらかた潰されてしまったトリステイン軍には、アルビオン艦隊に対抗する力など存在しないのだ。
おそらくこの砲撃が終われば、敵は降下して直接攻撃を仕掛けてくるだろう。
砲撃によって数は減らされ、陣形は乱され、士気はくじかれ、トリステイン軍はもはやガタガタである。
「……!」
そんな中で、トリステイン軍のある一人の兵士はこの状況に歯噛みしていた。
その兵士は女性であり、短く切りそろえた金髪と澄んだ青い瞳を持っていたが、その眼光はまぎれもなく戦士のそれであった。
名前を、アニエスと言う。
アニエスは、とある事情からある程度の権力を欲している。
そして平民の自分が名を上げるには、戦場で功を上げるのが最も手っ取り早い……と考え、喜び勇んでこの戦いに参じたのだが、この体たらくでは功を上げるどころか生き残ることすら危うい。
(生き残りさえすれば、『私の目的』を達成するチャンスもいずれ巡ってくるかもしれない……)
本気で逃げ出すことを考え始めるアニエス。
と言うか、事実として自軍の内の何人かは逃げ出し始めている。
そして砲弾の雨にさらされ続け、いい加減に『もう逃げるか』と一歩を踏み出したその時。
自分たちを殲滅せんと攻撃し続けていたアルビオン艦隊は、突如として発生した巨大な光に飲み込まれていったのだった。
―――光が消えると、アルビオン艦隊は炎に包まれていた。
全ての戦艦の帆と甲板が、赤く燃えている。
そしてつい先ほどまでトリステイン軍に砲撃を行っていた大艦隊は、それまでの猛攻が嘘だったかのように墜落していく。
「……………」
その場にいる誰もが、呆気に取られていた。
こちらからは何もしていないのに、いきなり敵がやられたのだから当たり前である。
それはアニエスも例外ではない。
トリステインの軍勢は、しばしそうして呆然としていたが、
「諸君! 見よ! 敵の艦隊は滅んだ! 伝説のフェニックスによって!!」
マザリーニ枢機卿の叫びによって、ハッと我に返る。
なるほど、上空を見れば確かに『何か』の姿の確認が出来た。
マザリーニ枢機卿は『伝説の不死鳥だ』などと言っているが……アレは本当に鳥なのだろうか? 遠いのでよく分からないが、どこか違う気がする。
しかしアニエスの疑問などには構わず、全軍の士気は爆発的に増大した。
「うおおおおおおぉーッ!! トリステイン万歳!! フェニックス万歳!!!」
そこかしこから自分たちを鼓舞する大声が轟き、それらは巨大な渦となる。
「むう……」
集団心理とは恐ろしい。
(だが何にせよ、これはチャンスだ……)
アルビオンに傾いていた『流れ』は、一気にトリステインへと引き寄せられた。
上空には、泡を食った様子で落ちてくるアルビオン軍の面々。
浮き足立った敵(先ほどまでは自分たちが浮き足立っていたのだが)の掃討など、そう難しいことではない。
「全軍突撃ッ! 王軍ッ!! 我に続けえッ!!」
アンリエッタ王女の声が、高らかに響く。
(言われるまでもない……!)
一人でも多くの敵を倒し、戦果を上げるため、アニエスは銃を握り締めながら駆け出していった。
「ぐ、う…………っ!!」
『謎の飛行する鉄のカタマリ』に吹き飛ばされたワルドは、かなり離れた位置の森の中に流され、墜落していた。
身体中が痛い。
あの『謎の飛行する鉄のカタマリ』と激突する際、とっさに風魔法を使ったので衝撃はある程度は殺せていたが……それでもかなりのダメージだ。
左腕の義手など、完全に壊れてしまっている。
……当たったのが身体の左側ではなく右側であれば、もう一つ義手を用意しなければならなかっただろう。
「おのれ、ガンダールヴ……!」
『謎の飛行する鉄のカタマリ』からわずかに見えた銀髪と顔は、まぎれもなく自分の左腕を奪った、自分のかつての婚約者の少女の使い魔だった。
「…………!!」
ユーゼスへの憎悪を募らせながら、ワルドはこれからのことを考える。
アルビオン艦隊は、燃え落ちている。
おそらくこの戦いは負けだろう。
取りあえずはクロムウェルの元に戻り、体勢を立て直さなければなるまい。
こうなったら『紫の髪の男』についても、本格的に調査を開始しなければ。
「何にせよ、戻らねばならんか……」
詳しい作戦は、戻って落ち着いてから練ることにしよう、と歩き始める。
そして歩いている内に、森の中の開けた場所に出て……そこに、ある人物が待ち構えていた。
「ふむ……、ビートルの試運転は、それなりに上手く行っているようですね」
「な、お前は……!?」
遠くタルブの空を飛ぶ『謎の飛行する鉄のカタマリ』を眺めながら、白衣を着込んだ男は自分に目をやる。
「まあ、詳しい乗り心地や使い勝手については、後でユーゼス・ゴッツォに伺うとして……。
……さて、この場での私の用事はビートルやユーゼス・ゴッツォではなく、あなたです」
動転するワルドを眺めながら、『紫の髪の男』は告げた。
「それではお話をしましょうか、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵」
(どこで俺についての情報を……いや、あのガンダールヴか)
あの銀髪の男から、さわり程度でも自分のことについて聞いていたのだろう。
元トリステイン軍グリフォン隊隊長。
今はレコン・キスタの一員。
ラ・ロシェールの酒場で自分たちの話を盗み聞きしていた人物は、この男であること。
そして、大まかな外見とフルネーム。
これだけの情報があれば、推測や調査はたやすい。
そして『紫の髪の男』は、ワルドにある確認を取った。
「……私の周辺をコソコソと嗅ぎ回っていたのは、あなたですね?」
「!」
(気付かれていたのか!?)
驚くワルド。行動には細心の注意を払っていたと言うのに、どうやって自分の動きを察したのだろうか。
ワルドの内心の動揺にも構わず、『紫の髪の男』は言葉を続けた。
「……遠巻きに私の話を盗み聞く程度ならば無視しても構わなかったのですが、こうも周りで動き回られると目ざわりなのですよ」
「ぐ、う……」
一歩後ずさるワルドだが、男は追及の手を止めない。
「取りあえず、私の周辺を探っていた理由を聞かせていただきましょうか」
物腰は柔らかかったが、『言動にわずかな偽りも許さない』、とその視線が語っている。
「……!」
やがてワルドは神妙な面持ちをしながら、ブツブツと小声で何かを呟き始めた。
「? ……申し訳ありませんが、もう少し大きな声で喋っていただけませんか?」
(馬鹿め!!)
首を傾げる『紫の髪の男』を内心であざ笑いながら、杖を抜き放つ。
呪文の詠唱は、すでに完了した。
あとは発動させるだけだ。
バリィイイイイインッ!!
相手に驚く暇も与えず、杖の先から電撃がほとばしる。
『ライトニング・クラウド』を浴びせながら、ワルドはようやく『紫の髪の男』に対しての回答を行った。
「フン、お前に話す必要などはない……!」
と言っても、死体に話しても意味がないのだが。
それでは死体を検分し、この男が持っているはずの『力』についての情報を集めよう……などと思っていると、何と自分の言葉に対しての返答が聞こえてきた。
「……そうですか。それは残念です」
「何!?」
『ライトニング・クラウド』の放電が終わり、事象の結果が明らかになる。
そこに立っていたのは、無傷の男。
白衣にわずかな焦げ目すら無ければ、特に防御を行った様子も無い。
「な、何だと……!?」
「ククク……。その程度の電撃で、ネオ・グランゾンの歪曲フィールドを破ることは不可能ですよ」
「ね、ねおぐらんぞん……!?」
泡を食うワルドに追い討ちをかけるように、『紫の髪の男』の背後が歪み―――そこに、魔神が出現した。
「おや、『かくれみの』が解けましたか。やはり戦闘しながらの展開は出来ませんね。……しかし歪曲フィールドの壁の内側に立つというのも、妙な感じです」
後ろの巨人を振り仰ぎながら、『紫の髪の男』は軽く呟く。
藍色の金属でその身を固め、黄金の輪を背負い、見る者全てに等しく恐怖と畏怖を与えるその威容を前にして、なぜああも平然としていられるのか。
その答えは、ただ一つ。
「これが……、お前の力……!?」
「その通りですよ、ワルド子爵。しかし、電撃でコレにダメージを与えたいのであれば、せめてグレートマジンガーのサンダーブレーク程度は……と言っても分かりませんか」
ヴン、と闇の魔神の硬質な瞳が光り、ワルドは思わず後ずさった。
『紫の髪の男』は、仕方がないと言わんばかりに溜息をつく。
「素直に『私の周辺を探る理由』を話していただければ、その内容次第では見逃さないこともなかったのですが……」
ワルドを見据えたまま、彼は一つの宣言を下した。
「今の攻撃のお礼は……させていただかなくてはなりませんね」
「ユ、ユビキタス・デル・ウインデ……!」
即座にワルドは詠唱を開始した。
攻撃を行うためではなく、逃げるために。
「む?」
どうやら『紫の髪の男』はこちらの行動を観察する余裕があるらしく、悠長に詠唱を見逃している。
……口惜しいが、この男には勝てない。
だが、いずれはその力を……。
「さらばだ!!」
『偏在』で5体の分身を作り出した直後に、捨てゼリフを残してその場から飛び立つワルド。
5体はそれぞれ、素晴らしいスピードでバラバラの方向に逃げて行った。
(これで確率は5分の1か……!)
全く別の方向に逃げれば、相手も始末には手こずるはずだ。
もしかすれば最初に『本体』を引き当てられる危険もあるのだが、そこは賭けである。
そうワルドは思っていた。
だが。
「?」
自分以外の4体の分身たちの視覚に、妙なモノが映し出される。
一言で言うならば、宙に浮かんだ黒い穴。
穴は恐ろしいほど暗く深く、その奥にあるものは全く見えない。
一体何なのだと疑問に思った瞬間、その穴の中から光が飛び出し、4体の分身たちは同時に消滅した。
「な、な……!?」
分身たちが消滅したのと完全に同じタイミングで、少し離れた4つの地点に爆発が起こる。
……自分の分身がいるはずの地点と、全く同じ場所だった。
「…………!!」
一体、どうやって『本体』と『分身』を見分けたのか。……いや、それ以前にあの攻撃は何だ。自分はあんな攻撃など、見たことも聞いたこともありはしない。
驚愕するワルドだったが、そんな彼を更にたたみかけるかのように、今度は本体である彼自身の視界にも『黒い穴』が現れた。
それも、1つや2つではない。
10個、20個……いちいち数えている精神的余裕などワルドには存在していないため詳しい数は分からないが、とにかく多くの『黒い穴』が四方八方、ワルドの周辺を取り囲んでいた。
《……なかなか賢い逃げ方です。決断も早ければ、手際も良い。あなたは優秀ですね》
「…………う、うう…………!」
もはや言葉も出ないワルドに向かって、『紫の髪の男』の声を発しながら闇の魔神が空を飛んでやって来た。
《相手が私ではなければ、逃げることも出来たかもしれませんが……。ここまでです》
そしてフワリとワルドの前に降り立つ、闇の魔神。
―――周囲は『黒い穴』、その向こうには絶対的な力。
逃げ場は、ない。
《では、あらためてお尋ねしましょう。……私の周辺を探っていた理由は何ですか?》
変わらぬ口調が、ワルドに投げかけられる。
どのような仕組みかは分からないが、この闇色の魔神は『紫の髪の男』の意識や声を伝達させる能力があるらしい……と、ボンヤリとそんなことを考えるワルド。
だが、そんなことを考えている場合ではない。
下手なことを言えば、自分も『偏在』で作り出した分身たちと同じ運命を辿ることになる。
……しかし、この男相手にごまかしや嘘が通用するだろうか?
(こうなったら、イチかバチか……)
仕方がないので、ワルドは正直に全てを打ち明けた。
銀色の髪のガンダールヴが持つ、知識と力を見たこと。
あの男と話していた『紫の髪の男』ならば、同等程度の知識と力を持っていると考えたこと。
そして、調査を開始したこと。
あわよくば、その力を手に入れようともしたこと。
話している途中で『ガンダールヴとは何か』、『その銀色の髪の男の能力は』などという質問もされたが、それにも偽りなく答えていく。
《ふむ、なるほど……》
……どうやら、ある程度は納得してくれたらしい。
《1つだけ確認しますが。……今までの話を総合するに、あなたは私のことを利用しようとしたのですか?》
「そ、そうだ。その力を手に入れてみたいと、思った……」
《……そうですか》
その回答が腑に落ちたのか、ワルドを取り囲んでいた『黒い穴』が消えた。
はあ、とワルドは大きく息を吐く。
これでひとまずは安心だ。
……あくまで『ひとまずは』であるが。
「…………っ」
この闇の魔神の前にいる以上、心の底からの安心など出来ない。
それにこれを操る『紫の髪の男』が少し気まぐれを起こせば、自分の命は瞬時に刈り取られてしまうだろう。
逃げなくてはならない。
そう考えるや否や、ワルドは即座に行動する。
自分のこれまでの人生の中でもトップクラスに素早い詠唱を行い、呪文を完成させた。
「っ!!」
強力な突風が発生し、盛大に土煙を舞い上げ、その土煙は闇の魔神をスッポリと覆う。
「よし……!」
続いて『フライ』を詠唱。
慌ててはいけない、しかし遅いのは論外、速度と正確さを両立させて、最大速度で低空飛行、そして森の中に逃げる。
……後ろから、『紫の髪の男』の声が聞こえてくる。
《……このネオ・グランゾンの力の片鱗を目にして、なおも抵抗したその勇気は評価して差し上げましょう……》
後ろを振り向くべきかどうか迷うが、振り向いたりすれば速度が落ちるので振り向けない。
だが、『見てみたい』という気持ちはある。
《しかし、分不相応な勇気や野心は命を縮めるだけですよ》
「ぐ……!」
そして恐怖心と好奇心のせめぎ合いの末、ワルドは後ろを振り向いた。
そして見た。
闇色の魔神の胸の部分が開く光景を。
その開いた箇所に白い光が集まり、光がまたたく間に黒い闇へと変わる瞬間を。
《……光栄に思いなさい。生身の人間相手に、直接攻撃を下すのはこれが初めてです》
付け加えるなら、『アインスト』と呼ばれるモノを除けば『ハルケギニアの存在』に対しての攻撃もこれが初めてであったのだが、ワルドにはそんなことを知る由もない。
《極小サイズですが……》
魔神は胸にある『闇のカタマリ』を片手で操作すると、それをワルドに向かって投げつけた。
《ブラックホールクラスター、発射!》
『闇のカタマリ』は、高速で自分に向かって来る。
森の木々を、石を、地面を、空気を無尽蔵に吸い込みながら。
「う、うあ、あああああ……!」
ワルドは逃げる。
だが、逃亡もむなしく『闇のカタマリ』はワルドの身体を捉えてしまった。
「ぁ…………!!」
瞬間、世界から音と光が消えた。
どこかよく分からない場所へ、無理矢理に連れて来られた。
ここはどこだ。
一体何なのだ。
闇が渦を巻いていることしか分からない。
そしてワルドがその存在を完全に消されてしまう直前―――
―――自分が追っていた『紫の髪の男』の、名前すら知らないことに気付くのだった。
「少々、ムキになってしまったかも知れませんね」
周辺の木や地面ごと『消滅』してしまった地点を見ながら、『紫の髪の男』……シュウ・シラカワはあっけらかんと言った。
「…………明らかなオーバーキルだと思いますけどね、あたしは」
そんなシュウの使い魔であるチカは、相変わらずサラッとメチャクチャなことをする主人に向かって呆れたような……と言うか、実際に呆れた口調で呟く。
(つーか、ワームスマッシャーだけじゃなくブラックホールクラスターまで使うって酷すぎるような……)
一応、そのことを主人に言ってみると、
「彼は私に攻撃を加え、そして何よりもこの私を利用しようとしました。当然の報いです」
そんな答えが返ってきた。
「……は、はあ、そうですか……」
チカとしても、そう言われてしまっては強引に納得するしかない。
そして使い魔との話を切り上げたシュウは、ネオ・グランゾンに記録されている映像を見ながら、先ほどアルビオン軍の艦隊を襲った『謎の光』について考える。
「ビートルと『光』と艦隊の位置関係からするに、おそらくこれはビートルに乗った人間が行ったもの……。
当然ながらプラーナコンバーターを付けただけの機体にそんなことが可能なわけはありませんし、ユーゼス・ゴッツォもわざわざ『力』を軍事行動に使うわけがない……。
となると、残りの人間がアレを行ったことになりますが……」
可能性が高いのはユーゼスの『主人』である、あの少女か。
「ふむ……」
記録映像は、墜落する戦艦の中から次々にメイジや兵士たちが脱出していく場面に差しかかった。
「……死傷者がいる様子はありませんか。あの『光』が残した効果は、艦隊の炎上と『風石』とやらの反応の消失のみ……。どうやらサイフラッシュとコスモノヴァを合わせたような性質を持っているようですね」
『サイフラッシュ』と『コスモノヴァ』。
どちらもシュウと浅からぬ因縁を持つ、魔装機神サイバスターの武装である。
『サイフラッシュ』とは、簡単に言うと周囲にエネルギーを放射する武装なのだが、その際に攻撃を行う操者の意思を反映し、ダメージを与える対象を選別することが出来る。
また『コスモノヴァ』は膨大なエネルギーを敵にぶつけて、次元を歪ませた上であらゆる物質を粉砕するという武装だ。……コレは以前にネオ・グランゾンを破壊した攻撃でもあるので、シュウとしても多少の思い入れがある。
「……………」
と、昔を懐かしんでいる場合ではない。
「どこにも似たような攻撃はあるものですが……しかし、これを個人の力で放つとは……」
シュウの見立てでは、あの『光』のエネルギー総量はサイフラッシュやコスモノヴァに劣る。
だが、アレは明らかに『人間が放つ攻撃』の範疇を逸脱していた。
このネオ・グランゾンとて、アレをマトモに受ければ『多少のダメージ』を受けてしまうだろう。
ぜひ一度じっくり研究してみたい所だが……。
「まあ、アレの分析や考察はユーゼス・ゴッツォに任せますか」
実に都合よく『力の行使者』の近くにいるのだから、せいぜい頑張ってもらおう。
「それにしても……ユーゼス・ゴッツォ、アインスト、ラ・ギアスの物とは異なる魔法、ガンダールヴ、そしてあの『光』……」
この世界の存在と事象に関して、興味は尽きない。
加えて、自分を召喚したティファニアが扱う『記憶を消去する魔法』についても気にかかる。
ユーゼスから受け取った『ハルケギニアの魔法』の研究レポートを見るに、そのような『部分的な記憶消去』の魔法などは存在していない。
「ハルケギニア……面白い世界です。しばらく滞在してみましょう」
そう言えばユーゼスたちは今、何をやっているのだろうか……と、ネオ・グランゾンのレーダーを確認してみる。レーダーに反応するような兵器はハルケギニアに今のところビートル1機だけしかないので、補足は容易なのだ。
「おや?」
反応はあった。すぐ近くの上空だ。
……しかし、その反応がやけに弱い。
ネオ・グランゾンの視線を動かして映像でビートルの様子を確認してみると、何だかフラついている。
「何かトラブルでもあったんでしょうかね? やっぱり未調整ですし」
「では、取りあえず連絡してみますか。……これもアフターサービスというやつです」
そして、シュウはチカに命じてビートルに通信を繋げさせた。
「ど、どうしたの、ユーゼス? 何だか、凄く顔色が悪いけど……」
「……くっ……、身体に……力が、入らない……?」
ユーゼスは、猛烈な疲労と脱力感とめまいに襲われていた。
事が済んで、後は戻るだけ……という段階になって、いきなり何だと言うのだろうか。
(このまま、気絶してしまうわけには……)
意識を失いでもしたら、ビートルは即座に墜落してしまう。
だが少しばかり気を張ったところで、この症状に抵抗が出来るとは思えない。
(どうすれば、いい……?)
遠くなりかけている意識を総動員して対策を考えるが、その思考も鈍っていた。
やむを得ないのでクロスゲート・パラダイム・システムを使うか、とユーゼスにしては短絡的な結論に行き着きかける。
その時、ビートルの通信機がピピピ、と電子音を発した。
「……む……?」
気だるい身体を動かして、通信機を操作するユーゼス。たったそれだけの動作が、今は酷く辛かった。
「……何、だ……?」
《やはりトラブルに見舞われていたようですね、ユーゼス・ゴッツォ》
「ミスタ・シラカワの声……? どういうマジックアイテムなの、これ?」
いきなりシュウの声が聞こえてきたので驚くエレオノール。だが、彼女の疑問を解消している余裕はユーゼスにはなかった。
「シュウ・シラカワ……、この症状に心当たりは……あるか?」
《……ジェットビートルの通信機は音声のみですので、そちらの様子は分かりません。口頭で説明していただけませんか?》
そして、ユーゼスは息も絶え絶えに自分の状態を説明した。
それを聞いたシュウはなるほど、と呟いてユーゼスが陥った状態を分析する。
《典型的なプラーナの使い過ぎですね》
「使い過ぎ、だと……?」
《ええ。未調整のプラーナコンバーターを行使したことにより、必要以上にプラーナを消費してしまったのでしょう。このままでは危険ですよ》
「……ぐ……」
何でもないことのように言うシュウに対して文句を言おうとしたが、その力もない。
そんな衰弱しているユーゼスに代わって、隣のエレオノールがシュウと話し始めた。
「危険ですよ、って……どうすればいいのよ!?」
《適切な処置をして、ゆっくりと休息を取れば大丈夫です。……まあ、簡単な応急処置の方法もありますが……》
「その『応急処置』っていうのは、どんなことなの!?」
《それは―――》
(…………っ、ぅ…………)
エレオノールとユーゼスの会話が、途中で途切れる。
いや、会話自体は続いているのだが、気が遠くなってそれを聞き取れなくなったのだ。
いよいよもって、危なくなってきたらしい。
「ちょ、ちょ、ちょっと、それ以外に方法はないの!?」
《相応の設備がない以上、これしかありません》
「う……、うう~~~……」
再びエレオノールとシュウの声が聞こえ始めた。どうやらこの難聴の症状は断続的なもののようだ。
……と、何か悩んだ様子のエレオノールが、ためらいながら自分をどかしてビートルの操縦癇に触り始めた。
「何を、している……?」
「……いいから、ちょっと黙ってなさい」
なぜか顔が赤いが、どうしたのだろうか。
《操縦桿に触りましたね? そこから『自分の中の何か』が吸われていく感覚がするでしょう。それがプラーナです。では、その流れを感じ取り、制御してください》
「簡単に言わないでよ、もう……!」
シュウから何かのレクチャーを受けるエレオノール。
そして彼女はそのまま目を閉じて集中を始めると、『これで良いのかしら』などと呟いてユーゼスに向き直った。
「…………?」
「……か、感謝しなさい。貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」
どこかで聞いたようなセリフである。
続いて真っ赤な顔で『ちょっと目をつむってなさい』と言われたので、言われた通りに目を閉じていると……。
「んっ……」
「……んむ?」
唇に柔らかいものが触れる感触と、口内に空気が注がれる感触を同時に感じた。
「なっ……!!」
それに真っ先に反応したのは、やられたユーゼスではなく彼の主人であるルイズである。
『エクスプロージョン』を使用した反動なのか大きな疲労感に襲われ、後ろの座席でグッタリとしていたのだが、いきなりあんな光景を見せられてはグッタリなどしていられない。
「な、なななな、なん、なん、何をしてるんですかっ!? エ、エエエエレオノール姉さまっ!! い、い、いきなりなななな何をっ!!?」
「……応急処置よ、応急処置」
「はあ!?」
ワケが分からない。
どういうことだ、と更に姉を問い詰めようとしたら、『遠くの相手の声を伝えるマジックアイテム(ルイズは通信機についての説明を受けていない)』を通してシュウが説明した。
《ユーゼス・ゴッツォはプラーナを大量に消費し、危険な状態にありました。ですので、ミス・エレオノールのプラーナを彼に補給させたのです》
「補給!?」
《弱ったプラーナを補給するには、他者から口移しを行うのが最も手早い方法ですからね》
「……ふむ、確かに少し楽になったな」
ユーゼスは手を開いたり閉じたりして、自分の身体の状態を確かめた。どうやら先ほどまでよりは良好らしい。
……なお、『プラーナを口移しされた』ことに対する動揺は見られなかった。
それに対して『プラーナを補給した』エレオノールはと言うと、
「ま、まったく……困ったものだわ」
そう言いながらも、少しボンヤリとしながら唇を指で撫でている。
ルイズはワナワナと震えながら文句の1つや2つや10や20も言いたいところだったが、『応急処置』という名目がある以上は下手に口出しは出来なかった。
なので、消極的な抗議を行う。
「…………なんで、姉さまがそれを?」
「だ、だって、あなたは『虚無』の魔法を使って疲れていたでしょう? そんな様子の妹に、応急処置なんて難しいことはさせられないわ」
「……………」
ジトーっと姉を軽く睨むルイズ。
そのままわずかな時間が流れると、ユーゼスがある異変に気付いた。
「……ミス・ヴァリエールの顔色が悪くなっているが」
「え?」
紅潮しているから少し分かりにくいが、確かに顔色が悪い。
《自分のプラーナをあなたに分け与えたのですからね。彼女のプラーナが不足するのは当然でしょう》
「……では、近くの安全な場所にビートルを着陸させるぞ。私に対しての本格的な治療も受けたいからな」
《ならば私も近くにいますので、そちらと合流しますよ》
シュウの言葉を聞いて、ビートルを動かすユーゼス。
……このジェットビートルのこれからの取り扱いや、プラーナコンバーターの調整、今後のトリステインとアルビオンの動向、そして主人の『虚無』など、問題は山積みだ。
しかし、取りあえずの問題は……。
恥ずかしそうにチラチラとこちらに向けられるエレオノールの視線と、射殺さんばかりに向けられてくるルイズの視線の、相反する2つの視線に対してどのように対応するかである。
#navi(ラスボスだった使い魔)
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