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「読んで」
との一言とともに手渡された文庫本には、走り書きが記された短冊が挟み込まれていた。
日付は12月17日。
場所は図書館である。
既に宇宙人や未来人、超能力者の存在を肯定できるようになっていた彼が、
その真意を予測できていたかは定かでない。ともあれ彼は、駅に通じる坂道を自転車で駆け下りた。
彼女は図書館の軒の下に立ち、闇にまぎれて待っていた。
しかし彼は、彼女の場違いな格好に違和感を覚え、しばし言葉を失う。
いつかの映画撮影で使用した衣装、黒いマントにとんがり帽子である。手製の魔法の杖まで持っている。
何か面倒なことが起こるのではないかと額に手を当てる。
しかし意を決し、マントの下に制服を着た少女へと口を開いた。
「……それで、何の用だ?」
すると彼女は、おもむろに杖――スターリングインフェルノを彼に向け、
普段と変わらない口調で、しかし用意された台詞を読み上げるように、
「わたしは悪い魔法使い」
そう言い放った。
服装以外には、普段と変化があるとは思えない。
ただ一つ、前後の繋がりを持たない言葉だけが、彼の困惑を深めた。
いや、それさえも非日常系ファンタジーの一環と認識した可能性もある。
しかし、だからこそ彼は、普段と変わりのない言葉を返そうとしたのだ。
「すまん。お前が何を言おうとしているのか、俺には――」
「構わない」
長門有希は言葉を遮り、そのまま彼の身体を引き寄せ――
+ + +
何時間にも相当する一瞬の後、風が不意に彼女の帽子を飛ばした。
それと同時に、不意に何かが落ちる音に気付き、思わず彼は顔を上げる。
コンクリートの地面に本が散乱していた。
『クリスマスとお正月飾り』、『トップパティシエが魅せるスイーツの世界』、『サンタクロースの謎』……。
しかし彼の目を釘付けにしたのは、本の持ち主である。般若のように憤怒に燃え上がっているわけでも、
絶望に打ちひしがれているわけでもない。彼が目にしたことのない、失望の色が、隠しきれずに滲み出ていたのだ。
「ユキ、どうして?」
長門有希に向かうのは失望、彼に向かうのは軽蔑の眼差し。
「違うんだ、これは……」
口を付いて出た平凡な台詞も、少女――涼宮ハルヒによって掻き消される。
「イヤッ! 意味わかんない!」
彼は助けを求め、長門有希に視線を向ける。
だが予想に反し、彼女は腕を絡め、彼に寄りかかる。
「ぴと」
彼女の発した擬音は、深刻なエラーを象徴していたものかもしれない。しかし、涼宮ハルヒを激情に駆り立てるには十分であった。
「いや……」
それは神の心の震えに他ならなかった。
「いやあっ!」
瞬間、二人の少女を白い光が包んだかと思うと、男一人を残し、二人はその場から完全に消失していた。
「これが、わたしの選択――」
消え去る瞬間、長門有希はそう呟く。
長門有希と涼宮ハルヒの消失は、神と呼ばれた少女の、現実からの逃避行動であったのかもしれない。
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