「魔法陣ゼロ-07」(2009/01/02 (金) 23:24:00) の最新版変更点
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#navi(魔法陣ゼロ)
7 決闘
「しっかし、広いなあ」
学院の門に立つ衛兵からトイレに関する情報を手に入れたあと、二人は本塔の周りを歩いていた。
そびえ立つ塔を見上げたニケは、首が痛くなった。
一部の地域で『学校』というものを見た事はあった。だが、ここまでゴツい物ではなかった。
中央にそびえる巨大な本塔を5本の塔が囲み、それぞれの塔が渡り廊下と城壁で接続されている。
このトリステイン魔法学院は、ちょっとした城のような規模だった。
「ねえ、あっちに人がたくさん集まってるよ」
「ホントだ。なんだろ?」
塀と渡り廊下に囲まれた広場には、多くの生徒達が集まって騒いでいた。
何かをとり囲んでいるようだが、人垣に阻まれて全く見えない。
近くにいた男子生徒に、ククリが尋ねた。
「ねえ、ここで何か始まるの?」
「青銅のギーシュと平民が決闘するらしいぞ。その平民が、ギーシュを侮辱したとかなんとか。
ところで、見かけない顔だね。誰かの妹さんかな?」
「ありがとー。それから、違うよ」
前をスタスタと歩くニケに追いつこうと、ククリは走りながら答えた。
ニケが人ごみを掻き分け、ククリがすぐ後ろをついていく。
なんとか一番前までたどり着くと、輪の中心には一人の男が立っていた。
その男はすぐこちらに気付き、急に表情を変えた。
「遅いぞ、平民! このギーシュ・ド・グラモンを待たせるとは、いい度胸だ!」
「あ……やばっ」
ニケは引き返そうとしたが、人々に押し返されて出れない。
「おいおい、ギーシュと決闘するんじゃなかったのか? もう待ちくたびれたんだ、早く始めてくれよ」
「け、決闘? ニケくんが!?」
「ええ!? 無礼な平民って、あんたのことだったの!?」
驚いて自分を見つめるククリとルイズに、ニケは返事をできなかった。
(ま、まずい……すっかり忘れてた)
「さあ来い、決闘だ!」
ギーシュがバラの花を振ると、花びらが一枚飛び出した。
地面に舞い落ちるその瞬間、花びらは光を放つ。そして、甲冑を装備した人形に変化した。
人形はニケに向かって一歩前進し、拳を構える。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?
青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「ちっ、仕方ないなあ」
ニケは、広場の中央に向かって歩き出した。
ワルキューレは女の姿をしてはいるが、ニケよりもかなり背が高く、重さもありそうだ。
(こいつに殴られたら痛そうだな……)
「行け、ワルキューレ!」
ワルキューレが、ニケに向かって突進してきた。
しかし、スピードは一般人程度。
「よっと」
ワルキューレのパンチを、ひらりとかわす。
さらに二度三度と攻撃してきたが、ニケに避けられない攻撃ではなかった。
「ふん、随分とすばしっこいね」
ギーシュが再び杖を振る。ニケの背後に、ワルキューレがもう一体出てきた。
二体のワルキューレが、ニケを前後から襲った。ニケは、後ろに大きくジャンプして避ける。
着地すると、二体目のワルキューレのすぐ後ろだった。
「チャンス!」
ニケは腰の短剣を抜き、目の前の背中に突き立てる。
観客から歓声がわいた。
~~~
「すごいじゃない。あんなに深く刺さって――」
「刺さってない」
ニケの意外な強さに関心したキュルケを、隣に立つ小柄な少女が否定した。
「あら、本当ね」
それを聞いたルイズが、驚いて叫ぶ。
「ど、どうゆうこと!? だって、ニケの剣が――」
「刺さっているように見えるだけ」
「え?」
「ゼロのルイズ、あなたは視力もゼロなの? 剣をよく見なさい」
「えーと……あっ!」
確かに、刺さってはいなかった。
~~~
「しっ、しまった! 剣が折れてたんだった!」
昨日戦ったのは、やたらと固いモンスターだった。
それを知らず攻撃した時に、剣が折れてしまっていた。
折れた剣がワルキューレの背中に当たる様子は、遠目には剣が刺さっているようにも見えた。
「なんだい、その剣は? 僕をバカにしているのか?」
二体のワルキューレが、突進して来た。さっきよりも速い。
「ちょ、ちょっと待て! タンマ!」
しかし、待てと言われて待つワルキューレではない。
なんとかギリギリで攻撃をかわしたが、そろそろ疲れてきた。
「そ、そうだ! 光魔法『キラキラ』!」
光魔法の最高峰『キラキラ』は、勇者のみが使える、自然界のあらゆるものから剣を取り出す魔法だ。
自分自身からエネルギーを取り出せば、自分をかたどった光り輝く剣が生み出される。
ニケは、右手に意識を集中させた。
ニケの姿をした剣が、右手に現れ――
「なんじゃこりゃあ!?」
なんかムキムキとした剣が、右手に現れた。
ギラギラと黄金色に輝き、筋肉を見せつけるようなポーズをしている。
「なんだそれは!? 何かのマジックアイテムか?」
「すごい、キラちゃんがレベルアップしてる! でも、あんまりかわいくない……」
「なんだか分からないけど……行け!」
「ヤーカリカリ!」
『自分の剣』は凄まじい速度で伸び、ワルキューレに向かって突進していく。
以前より遥かに強烈な反動に、ニケは驚いた。
本来なら、体が後ろに倒れてしまうほどの反動だ。しかし、不思議と余裕で耐えられた。
(よし、この勢いなら倒せるかも!)
剣の頭がワルキューレの腹に突っ込み、ワルキューレが吹っ飛んだ。
胴体がグシャリと潰れて折れ曲がり、もはや使い物にはならなさそうだ。
「くっ! なかなかやるな……。
この僕も、ちょっと本気を出す必要がありそうだ」
ギーシュは、さらに5体のワルキューレを作り出した。今度のワルキューレは、それぞれの手に武器を持っている。
それに対して、ニケは――
「……! ……!」
頭を抱えて、うずくまっている。
「ん? どうしたんだ? 僕の圧倒的な実力を見て、怖くなったのかな?」
(う~~~! 痛い痛い、頭が痛い!)
『自分の剣』の攻撃が当たった瞬間、ニケの頭に激痛が走っていた。
あまりの痛さに、動けないほどだ。
「降参するかい? 今謝るなら、君の勇気に免じて、命だけは助けてやろう。
このまま続けてもかまわない。僕の杖を奪うか、降参させたら君の勝ちだ。
だが、そんな事が平民にできるわけがないだろう?」
ワルキューレ達が武器を構える。それを見たニケは、この戦いに疑問を持った。
(7対1とか、反則なんじゃ……奴は中ボスじゃなくてザコ敵なのか?
――え? あれ?)
ふと、ニケは気付いた。今自分はうずくまっている。
にもかかわらず、ワルキューレ達が構える様子が『見えて』いる。しかも、こちらに向かってはいない。
ワルキューレの向く先には、うずくまる自分自身が見えた。
『自分の剣』の長い胴体が、こちらまで伸びている。
(こ、これって……『自分の剣』の視界なのか!?)
視覚だけではない。ワルキューレが動くたびにカチャカチャと出す音もはっきりと聞こえた。
手を動かそうと思うと、その通りに動く。指の一本一本まで自在に動かせる。
(あのバラの花が、杖なんだろうな。じゃあ――)
「あと10秒だけ待ってやる。それまでに降参しなければ、一斉に攻撃するぞ!」
ギーシュはこちらに向かって杖を向けたポーズを取ったり、観客の女の子に向かってウインクしたりしている。周りを警戒している様子は一切無い。
『自分の剣』を、ゆっくりと伸ばしてみた。
「10、9、8、――」
地面を這わせて、ギーシュの足元までたどりついた。まだギーシュは気付いていない。
光っているせいでかなり目立つのだが、ギーシュは自分に酔っているようだ。
「ねえタバサ、あれって何なのよ?」
「分からない」
ギーシュの背後で、剣を上に伸ばす。杖を持つ手の、すぐ後ろまで来た。
周囲から飛んでくるヤジが、謎の物体を怪しむ低い声に変化する。それでもギーシュは気付かない。
「3、2、1――」
ガシッ!
『自分の剣』の小さな手が、ギーシュの杖を掴んだ。
すぐに剣をシュルシュルと縮め、杖を手元に引き寄せる。
ワルキューレ達は力を失い、その場に崩れ落ちた。
「な、何をした!?」
「見ての通り、杖を奪ったんだよ。
これでオレの勝ち、だろ?」
「ひ、卑怯だぞ! 怖がるふりをして、油断させた隙に杖を奪うなんて……!」
「お前が勝手にカウントなんかしてるからいけないんだ」
「で、でも――」
「ギーシュ、往生際が悪いわよ? 負けを認めなさい」
「そ、そうよ! あんたの負け!」
「うぅ……わかったよ、キュルケにルイズ。僕の負けだ」
野次馬達がどよめく。ドットメイジとはいえ、貴族が平民に負けたのだ。
あのマジックアイテムのおかげだ、いやギーシュがバカなだけだ、と議論している者もいる。
「ニケくんっ!」
人垣の中からククリが飛び出した。
その後から、ルイズも歩いてくる。
「大丈夫? ケガしてない!?」
「ああ、痛かっただけでケガはしてないよ」
「あんた、本当に強かったのね……。
で、何なのよあれは? さっきの閉じ込められたのと合わせて、ちゃんと話してもらうわよ」
ルイズに連れられ、ニケとククリは立ち去った。
それを眺める、キュルケと小柄な少女。
「光を放ち、自在に伸びて手先も動く人形……聞いた事ないわね。
手の中に隠し持っていたのかしら。タバサ、どう?」
「違う。初めは持っていなかった」
「杖も呪文も使ってないから、ゴーレムじゃないのよね」
「彼は『光魔法』と言っていた」
「もしかして、先住魔法……?
ククリも変な魔法を使ってたし、あの二人は気になるわね」
「気になる」
「あら、あなたも? じゃあ、さっそく――」
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