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「ゼロのしもべ第2部-20」(2010/05/05 (水) 06:35:55) の最新版変更点
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20話
ここで現状を整理しておきたいと思う。だって、作者が混乱するから。
鉄人28号は、上空で発生した竜巻を操る老人と対峙している。
一方、老人の片割れ。モノクルを嵌めた中年は、操縦者を抹殺せんと先行し、残月と闘っている。
アルビオンの先行降下部隊はタルブの村に攻め込んだ。が、こう着状態に陥っており、援軍待ち。
その援軍は、降下地点で樊瑞のまやかしによって道を失っていたが、突然現れたヒッピー男によって解放された。
そしてその樊瑞と、ヒッピー男中条の死闘が、今まさに展開されんとしていた。
また、アンリエッタは、自ら軍を率いてタルブの村へと向かっている。
以上は、バビル2世たちが開戦を知る前。当日の夕方までの出来事である。
そのうち、タルブの村攻防戦についに決着がついた。
これ以上こう着状態が続けば、援軍がやってきてしまう。そう判断した上層部によって、
「焼き払うこともやむなし」
という結論が出たためである。
すぐさま、上空の戦艦から援護の艦砲射撃が行われた。
その中を、悠然とサンダーが突き進み、家々を破壊していく。
トリステイン・タルブ防衛部隊司令官、ジーガ・ド・スバラは戦死。
生き残った400あまりの兵は、タルブの村を領地にもつメイジの指揮の下、森に逃げ込んだ。
森には先にタルブの村人が逃げ込んでいたはずだったが、さらに奥まで逃げたのだろう。姿は見えなかった。
アルビオン軍は森に逃げ込んだ敵兵めがけて追撃の艦砲射撃を行った。
しかたなくトリステイン軍はさらに4リーグあまりも後退し、ここに第1次タルブ平原争奪戦はアルビオン側の勝利によって幕を
閉じた。
が、厳密にはこれはアルビオン側にとっては戦略的敗北と言ってよかった。ようやく船をおろせる段階になって、援軍として駆
けつけたトリステインと、再交戦をする必要が出て来たのである。
敵は、森に逃げ込んだ兵団と合わせておよそ2000。対するアルビオン側は艦砲射撃の援護があっての3000。数字の上ではアルビ
オン側が有利であったが、上空の船団の風石があとどれほど持つか、ということを考えればあまり差はない。
おまけに敵は地形を知り尽くした強みがある。
アルビオン側は、戦闘の終結を喜ぶ間もなく、ただちにトリステイン側の攻撃に備えて陣形を整える必要があった。
一方、残月・鉄人・樊瑞の戦いは未だに続いていた。
残月の戦いは非常に厳しいものがあった。
まず、ショウタロウ老人とシエスタを守る必要がある。
すくなくとも1人ならばなんとかなったかもしれないが、つい残月が調子に乗って、
「自分の足なら、日帰りでタルブまで帰れますよ」
と言ってしまったのがことのはじまり。お姫様抱っこで走ること1時間。よりによって着いたのは激戦真っ只中のタルブの村であ
った。
まあ、天罰だともいえるが、巻き込まれる人間はたまらない。
しかもシエスタは、怯える妹や弟たちに
「安心しなさい。お姉ちゃんが、あんなやつら倒してやるから」
と鉄人を出撃させたのだ。もうこの時点で、残月の今の運命は確定した。
あとは知っての通り。操縦者を打ち倒さんと突撃してきた傭兵コンビ名無しの片割れと、残月は激しい火花を散らしていた。
残月は、とにかく敵をシエスタたちから離さなければならない。
名無しはなんとか隙を見てシエスタたちに衝撃波をぶつけようとする。
一方、鉄人は鉄人で、空中で大戦闘を繰り広げていた。
いくら叩き壊しても、堪えずに瓦礫の嵐は鉄人に襲い掛かる。しょせん木であるため鉄人は堪えないが、隙あらばロープやマスト
が絡み付いてくる。
老人は、鉄人の攻撃を巧みにかわしながら操縦者であるショウタロウたちを外へ外へと誘い出すべく、鉄人を誘導する。
つまり、逃げて欲しい残月。逃がさぬように行動する老人。ショウタロウたちを狙う中年。そして逃げることのできぬショウタロ
ウ、という構図が出来上がってしまっていた。そして悲しいかな、対抗できるは残月ただ1人。もし、鉄人を退けば老人は即座に残月
を2人がかりで襲うだろう。
残月は放たれる衝撃波を、懸命に魔法で相殺し、逸らし、交わし続けていた。
だが衝撃波は一向に衰える気配がない。自分の魔力が非常に上昇しているとはいえ、いつまでももつものではない。
なんとかして一点攻勢に出ねば、いずれジリ貧となりシエスタたちが危ないのは目に見えていた。
「ふん。まさかこのわしの衝撃波をこれほど食らって、いまだに死なぬとはな。」
感心したように男が言う。にやっと残月は嗤って応える。服は焼け焦げ、大小さまざまな裂傷が、体中についている。
「退くわけにいかない事情があれば、人は耐えることができるものさ。」
かつてその退くわけにいかぬ事情は、国のためであり、名誉のためであった。今は、シエスタのためであり、トリステインのため、
アンリエッタのためでもある。
「それにしても、先住魔法を自由自在に操るとは、一体何者なのだ、お前は……」
肩で息をしながら問うと、中年の男は下らぬことを、と言いたげな視線を送った。
「なんどか同じようなことを聞かれたが、これは先住魔法とやらではない。どうせ、貴様らには説明してもわからぬことだ。」
「――超能力、というやつか?」
「なに!?」
超能力。以前、隠し宝物庫でコウメイが目覚めたときに、ビッグ・ファイアとの会話で聞いた言葉だ。
意味はわからなかったが、口ぶりからおそらく先住魔法に似て非なるものと推察した。
おそらく、自分の命を救い、身体能力や魔力を大幅に上昇させたものも、その超能力であろうと残月は感づいていた。
そして、この男の操る能力。先住魔法か、と見当をつけたのだが本人が否定した。ならば…
そう思いカマをかけた結果が、これであった。あきらかに、この男が狼狽した。
「今だ!」
残月は胸のボタンを引きちぎった。このボタンでも、今の自分の身体能力ならば、投げるだけで並の銃弾に匹敵する威力を誇る。
「ぐあっ!な、なんだと!?」
虚を突かれて、男はかわしきれず仕方なく左腕で受け止めた。一連の動作から、おそらく投げたのは胸のボタン。そう威力はあるま
い。そう考えての行動であった。
「は……針、だと…」
針が、受け止めた腕を貫通し、肩へ刺さっていた。
驚いたのは残月も同じであった。自分が投げたはずのボタンが、なぜか針に変化しているのだ。
『今、自分は錬金を行ったか…?』
いや、錬金はおろか、魔法など使ってはいない。なぜならば、杖を振ってはいないからだ。そんなことはわかりきったことだ。
だが今はそんなことにこだわっている場合ではない。残月はトリッキーに、回転しながら石を拾い、それを投げつけた。
「ちぃぃ!」
男が、今度は用心し、空中で石を弾き落とした。
落とされた石は、やはり針に変形しているではないか。
「貴様……なんだ、その能力は!?」
血走った目で残月を睨みつける男。残月は、杖を大きく掲げ上げ、余裕たっぷりに言った。
「今から私に倒される、あなたが知ったところでどうなるというのですかな?」
石をいくつも空中に投げた。石はすでに鋭利な針へと変化していた。
「ウィンド・ブレイク!」
針を突風に乗せ、発射した。針は唸りをあげて男に襲い掛かった。
「しまった!」
地上で、ショウタロウが叫んだ。大空高く、鉄人がついにロープとマストに絡みとられ、身動きできなくなってしまったのだ。
無理に動かそうにも、まったく反応していない。
「シエスタ、しょうがない。鉄人はあきらめるぞ!」
ショウタロウ老人がシエスタの手を引いて逃げ出す。
「でも、ひいおじいちゃん。残月さんが。」
チラッと自分をここまで運んできた変態仮面を見る。さきほどから、血を吐き、全身を大地に叩きつけられながら、襲い掛かってき
たアルビオンのメイジ(とシエスタは思っている)と戦っているのだ。それも、どう考えても自分たちを守るために。
「だからこそ逃げねばなるまい。ここは残月くんが戦いやすいようにするためにも、もはや動かなくなった鉄人は捨てざるをえない!
人間は生きていればなんとかなる。わかるか、シエスタ。」
「……は、はい。」
たしかに理屈はわかる。だが、あの変態仮面は自分たちのために戦ってくれている。それに、あの鉄人はひいおじいちゃんがあれほ
ど大切にしていたものじゃないか。自分の曽祖父の心情を察すると、胸が痛む。
「ふん。どうやら、ようやくこいつのことは諦めたか。」
空高く、老人が呟く。鉄人の目から光が消え、力が抜けていく。
リモコンのスイッチを切ったのだ。
「ならば、こいつは遠慮なく使わせてもらうか。」
拘束していた布や縄が緩んでいく。鉄人もろとも落下していく老人。
だが、次の瞬間、鉄人が空中で静止した。
「敵に渡すな大事なリモコン。じゃが、リモコンが必要ない男も、ここにいるのじゃ。」
鉄人に老人が飛び移った。目の光を失ったまま、鉄人が動き出す。
「ゆくぞ、鉄人!」
老人の声に応えるように、鉄人が地上の残月めがけ襲い掛かっていく。
「おじいちゃん!鉄人が!」
「な、なんだと!?」
操縦しているように動き出した鉄人を振り向き見て、2人は絶句した。
リモコンでしか動かぬはずの鉄の兵隊が、まるで生きているかのように滑らかに空中を滑ってこちらへ飛んでくるではないか。
「鉄人!やめろ!」
あわてて操縦器のスイッチを入れて、操る。鉄人は空中でブレーキがかかったように止まる。
「ほう。やはりリモコンのほうが強力か。だが、わしも負けぬぞ。」
空中で、鉄人が取り合いをされるおもちゃのように引っ張られていく。命令を受けるのに、その命令と逆の動きをするように、別の
力がかかっている。そんな動きだった。
「どうやら味方は村を落としたようじゃが、こんな物騒なものが敵にあればどうなるかわからぬ。残念だが、こちらの手に入らぬとあ
らば破壊させてもらうぞ。」
鉄人の動きはますます妙なことになっていく。ビスが飛び、関節が音を立て、ねじが外れていく。
老人が余裕の笑みを浮かべた。
が、その瞬間―――
ズダダダダダ、と鉄人装甲表面で何かが連続して弾けた。
「ぬをぉっ!?」
鉄人めがけ、銃弾が射ち下ろされているのだ。
老人が、見上げたそこには鳥のごとき黒い影――。
交差した瞬間、樊瑞の身体が消えた。
周囲が完全な闇に包まれ、一切の気配が消えた。
「ふふふ。こんなまやかしが、私に通用すると思ったかな?」
上着を脱ぎ、周囲の空間をかき回す。
たちまち闇は晴れ、もとの草原に戻る。
「これはお返ししようか。」
上着から何かを抜いて、空に投げつけた。何かがジャンプをする気配。
「ほう。わしの仙術はやはり効かぬようだな。」
中条が投げつけたのは、何十枚もの札。それを上着で掻きとり、幻覚を振り払ったのだ。
「ならば、肉弾戦だ!」
「受けて立とう。」
拳と拳が火花を散らす。
打撃を避け、すかし、かわす。隙を見つけては拳を叩き込み、受け止め、弾き返す。
やがて、一瞬の隙を突き放った中条の蹴りが、樊瑞の腹を捉えた。樊瑞の身体は、岩めがけ吹っ飛んだ。
「ぐ、ぐおお!」
岩が樊瑞の背中に突き刺さった。
樊瑞が、中条を睨みながら立ち上がる。
「まだだ!まだ負けたわけではないぞ!」
「ほう。たいしたタフネスだ。だが……こちらの拳もそろそろ限界でね。」
右腕の袖をまくって、拳を突き出した。
「きみが止める気がないなら、これで強制的に終わらせるしかないだろう。」
握り締めた拳から、液体が噴出する。
「なぜだかわからぬが、君は将来我々にとって邪魔な存在になる気がする。ならば、今のうちに決着をつけよう!食らえ、ビッグ・バ
ン・パンチ!」
「させん!」
中条の懐深く入り込み、自ら右拳を左拳にぶつけた。タイミングがずれたせいで中条のパンチが空振り、互いの身体が大きく弾けと
んだ。
中条は華麗に着地する。だが背中に怪我を負った樊瑞はもんどりうって地面に倒れこんだ。
「ふーんふっふっふー。まさか、このような田舎にキミのような男がいるとは。世界は広い。きみがいなければ、戦闘はもう少し早く
終わっていたのだろうがね。」
後方で、黒煙を上げる村を指す。そう、村はついに陥落したのだ。
思わず村を見る樊瑞。その目に飛び込んだのは…
「な、なんだ……、あれは?」
「むっ!?」
つられて中条が振り向いた。
「鳥か!?ドラゴンか!?」
「まさか、もうバビル2世が来たのかッ!」
中条が、わき目も振らず、タルブの村の彼方、空に現れた影めがけ、駆け出した。
「ば、バビル2世!?貴様、逃げる気か!」
追いかけようとする樊瑞。しかし、背中の激痛がそれを許さない。
「ば、バビル…2世…?」
樊瑞の網膜は、鳥のようなものの上に乗った少年の姿を捕らえた。
「被害は!?」
「死者23。負傷、119。うち重症37.戦える人間は全部で387名です。」
タルブ攻防戦から数時間。空中の戦艦からの砲撃に追われ、からくも逃げることができた防衛部隊は、ようやく被害状況を掴むことが
できた。そして、合流したアンリエッタ率いる王軍に対して、被害報告を行っていた。
「敵はおそらく現在3000名が降下しています。」
「すると、こちらの兵力2173で、3000のアルビオンと戦うことになりましたな。」
マザリーニが幽鬼のように痩せた顔を青ざめてアンリエッタに話しかける。
「さらに言えば、ラ・ロシェールへの援軍を送る必要もあります。するとタルブ奪回戦に回すことができるのは、1000あまり…」
いくつもの勲章をぶら下げた将軍が、悲痛な表情で呟く。
道中、マザリーニからタルブを守りきればラ・ロシェールは守れると力説され、この村の重要性に気づいた将軍であったが、そもそも
守るべきがラ・ロシェールである以上、そこをほうってさすがにタルブに全勢力を投入するだけの度胸も、無謀さも持ち合わせてはいない。
「殿下。ここはラ・ロシェールに軍を移動させ、そこの守備に全力を尽くすべきかと…」
もはやそれしか方法はないだろう。タルブの村での時間稼ぎは、この援軍がラ・ロシェールという要害地に立て篭もるためにあったと言
ってよい。
それだけで、アルビオンの作戦は事実上失敗したも同然なのだ。なぜならタルブをとったのは、ラ・ロシェールをとるための布石に過ぎ
ず、内戦が終わったばかりのアルビオンに、戦略上の重要点をとれなくなった以上いつまでも兵を駐屯させるだけの実力がないことは目に
見えて明らかだ。
「ここは、それが最善なのですか?」
ユニコーンに跨った女性が応える。戦場には似合わぬ、ウェディングドレス姿の女性だ。そう、アンリエッタであった。
「タルブの村を死守してくれていたかたがたの意見もお聞きしたいのですが。」
いや、それには及びませぬと懸命に止める将校たち。しかたなく、このあたりの領主が呼ばれ、質問に答える。
だが回答は同じ。ラ・ロシェールに軍を回すべきだ、と。
『王女は敵軍に蹂躙されたこの地を取り戻したがっているのだな』
と、マザリーニは思う。だが、今はまず皮膚の病が内臓にまわらぬようにするのが先決。ここは王女に隠忍自重してもらわねば…
そう思い、足を踏み出したマザリーニの背後から
「たいへんだー!」
という兵士の叫び声。
「なにごとだ!」
将官がどなりつけるように返す。だが、血相を変えた兵士は、慌てて走りこんでくるのを止めない。
「よさんか。兵が怯えるではないか!」
叫んだ兵士を殴りつける将官。兵士は、北側を指差し、泡を吹くように叫んだ。
「ば、化け物です!怪鳥が、こちらめがけ飛んでくるのです!」
「怪鳥だと!?」
森から、鳥の声が消えた。
馬がいななきを止め、怯えるように身を縮める。
あわてて空を見上げるアンリエッタたち。突然周囲が暗くなり、空が消えた。
空一面を、巨大な生き物が覆っていたのだ。
アニエスも、その巨大な化け物を見た。
震えが止まっていた。
最も嫌悪する火に包まれ、さらには忌むべき火のメイジを使ってまで敵を食い止めようとしたのに、結局は転進するしかなかった。
そのときの感情で、吐き気を覚え、めまいを感じていたというのに…いっさいのものが消えていた。
理由はわからない。なにか、圧倒的なものを見たがゆえの感動が、悪感情を中和したのだろうか。
アニエスは、その化け物鳥がアルビオンの艦隊に突入していくのを、追いかけるように走った。
「なんだ、あれは……」
肩に針を受けながらも依然として残月と戦っていた男は、空の彼方からやってくる大きな影に気づいた。
それは鳥のように見えた。だが、あれほど大きな鳥は見たことがない。
見れば、足に何かをぶら下げている。巨大な、人間のような何かを。
「ま、まさか!あれは!」
「ロプロス様!?」
残月もまたその影に気づき、叫んだ。
その声に、男が残月のほうをはっとした表情で向く。
「な、なぜ、貴様その名を知っている!」
だが、その声が残月の耳に届くことはなかった。
ロプロスの羽ばたきで起きた突風が、音をなにもかも吹っ飛ばしたからである。
鉄人の上で、身構えた老人に、何かがぶつかってきた。
腕をつかまれていた。
学生服姿の少年が、腕を掴んでいた。
「エネルギー衝撃波を食らえ!」
老人の身体にエネルギーが瞬間的に送り込まれ、吹っ飛んだ。
落下する老人に目もくれず、少年はゼロ戦へ鉄人を足場にジャンプして戻る。
「ロプロス、ポセイドンを着陸させろ!ポセイドンは敵を攻撃しろ!」
そう、バビル2世であった。
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20話
ここで現状を整理しておきたいと思う。だって、作者が混乱するから。
鉄人28号は、上空で発生した竜巻を操る老人と対峙している。
一方、老人の片割れ。モノクルを嵌めた中年は、操縦者を抹殺せんと先行し、残月と闘っている。
アルビオンの先行降下部隊はタルブの村に攻め込んだ。が、こう着状態に陥っており、援軍待ち。
その援軍は、降下地点で樊瑞のまやかしによって道を失っていたが、突然現れたヒッピー男によって解放された。
そしてその樊瑞と、ヒッピー男中条の死闘が、今まさに展開されんとしていた。
また、アンリエッタは、自ら軍を率いてタルブの村へと向かっている。
以上は、バビル2世たちが開戦を知る前。当日の夕方までの出来事である。
そのうち、タルブの村攻防戦についに決着がついた。
これ以上こう着状態が続けば、援軍がやってきてしまう。そう判断した上層部によって、
「焼き払うこともやむなし」
という結論が出たためである。
すぐさま、上空の戦艦から援護の艦砲射撃が行われた。
その中を、悠然とサンダーが突き進み、家々を破壊していく。
トリステイン・タルブ防衛部隊司令官、ジーガ・ド・スバラは戦死。
生き残った400あまりの兵は、タルブの村を領地にもつメイジの指揮の下、森に逃げ込んだ。
森には先にタルブの村人が逃げ込んでいたはずだったが、さらに奥まで逃げたのだろう。姿は見えなかった。
アルビオン軍は森に逃げ込んだ敵兵めがけて追撃の艦砲射撃を行った。
しかたなくトリステイン軍はさらに4リーグあまりも後退し、ここに第1次タルブ平原争奪戦はアルビオン側の勝利によって幕を
閉じた。
が、厳密にはこれはアルビオン側にとっては戦略的敗北と言ってよかった。ようやく船をおろせる段階になって、援軍として駆
けつけたトリステインと、再交戦をする必要が出て来たのである。
敵は、森に逃げ込んだ兵団と合わせておよそ2000。対するアルビオン側は艦砲射撃の援護があっての3000。数字の上ではアルビ
オン側が有利であったが、上空の船団の風石があとどれほど持つか、ということを考えればあまり差はない。
おまけに敵は地形を知り尽くした強みがある。
アルビオン側は、戦闘の終結を喜ぶ間もなく、ただちにトリステイン側の攻撃に備えて陣形を整える必要があった。
一方、残月・鉄人・樊瑞の戦いは未だに続いていた。
残月の戦いは非常に厳しいものがあった。
まず、ショウタロウ老人とシエスタを守る必要がある。
すくなくとも1人ならばなんとかなったかもしれないが、つい残月が調子に乗って、
「自分の足なら、日帰りでタルブまで帰れますよ」
と言ってしまったのがことのはじまり。お姫様抱っこで走ること1時間。よりによって着いたのは激戦真っ只中のタルブの村であ
った。
まあ、天罰だともいえるが、巻き込まれる人間はたまらない。
しかもシエスタは、怯える妹や弟たちに
「安心しなさい。お姉ちゃんが、あんなやつら倒してやるから」
と鉄人を出撃させたのだ。もうこの時点で、残月の今の運命は確定した。
あとは知っての通り。操縦者を打ち倒さんと突撃してきた傭兵コンビ名無しの片割れと、残月は激しい火花を散らしていた。
残月は、とにかく敵をシエスタたちから離さなければならない。
名無しはなんとか隙を見てシエスタたちに衝撃波をぶつけようとする。
一方、鉄人は鉄人で、空中で大戦闘を繰り広げていた。
いくら叩き壊しても、堪えずに瓦礫の嵐は鉄人に襲い掛かる。しょせん木であるため鉄人は堪えないが、隙あらばロープやマスト
が絡み付いてくる。
老人は、鉄人の攻撃を巧みにかわしながら操縦者であるショウタロウたちを外へ外へと誘い出すべく、鉄人を誘導する。
つまり、逃げて欲しい残月。逃がさぬように行動する老人。ショウタロウたちを狙う中年。そして逃げることのできぬショウタロ
ウ、という構図が出来上がってしまっていた。そして悲しいかな、対抗できるは残月ただ1人。もし、鉄人を退けば老人は即座に残月
を2人がかりで襲うだろう。
残月は放たれる衝撃波を、懸命に魔法で相殺し、逸らし、交わし続けていた。
だが衝撃波は一向に衰える気配がない。自分の魔力が非常に上昇しているとはいえ、いつまでももつものではない。
なんとかして一点攻勢に出ねば、いずれジリ貧となりシエスタたちが危ないのは目に見えていた。
「ふん。まさかこのわしの衝撃波をこれほど食らって、いまだに死なぬとはな。」
感心したように男が言う。にやっと残月は嗤って応える。服は焼け焦げ、大小さまざまな裂傷が、体中についている。
「退くわけにいかない事情があれば、人は耐えることができるものさ。」
かつてその退くわけにいかぬ事情は、国のためであり、名誉のためであった。今は、シエスタのためであり、トリステインのため、
アンリエッタのためでもある。
「それにしても、先住魔法を自由自在に操るとは、一体何者なのだ、お前は……」
肩で息をしながら問うと、中年の男は下らぬことを、と言いたげな視線を送った。
「なんどか同じようなことを聞かれたが、これは先住魔法とやらではない。どうせ、貴様らには説明してもわからぬことだ。」
「――超能力、というやつか?」
「なに!?」
超能力。以前、隠し宝物庫でコウメイが目覚めたときに、ビッグ・ファイアとの会話で聞いた言葉だ。
意味はわからなかったが、口ぶりからおそらく先住魔法に似て非なるものと推察した。
おそらく、自分の命を救い、身体能力や魔力を大幅に上昇させたものも、その超能力であろうと残月は感づいていた。
そして、この男の操る能力。先住魔法か、と見当をつけたのだが本人が否定した。ならば…
そう思いカマをかけた結果が、これであった。あきらかに、この男が狼狽した。
「今だ!」
残月は胸のボタンを引きちぎった。このボタンでも、今の自分の身体能力ならば、投げるだけで並の銃弾に匹敵する威力を誇る。
「ぐあっ!な、なんだと!?」
虚を突かれて、男はかわしきれず仕方なく左腕で受け止めた。一連の動作から、おそらく投げたのは胸のボタン。そう威力はあるま
い。そう考えての行動であった。
「は……針、だと…」
針が、受け止めた腕を貫通し、肩へ刺さっていた。
驚いたのは残月も同じであった。自分が投げたはずのボタンが、なぜか針に変化しているのだ。
『今、自分は錬金を行ったか…?』
いや、錬金はおろか、魔法など使ってはいない。なぜならば、杖を振ってはいないからだ。そんなことはわかりきったことだ。
だが今はそんなことにこだわっている場合ではない。残月はトリッキーに、回転しながら石を拾い、それを投げつけた。
「ちぃぃ!」
男が、今度は用心し、空中で石を弾き落とした。
落とされた石は、やはり針に変形しているではないか。
「貴様……なんだ、その能力は!?」
血走った目で残月を睨みつける男。残月は、杖を大きく掲げ上げ、余裕たっぷりに言った。
「今から私に倒される、あなたが知ったところでどうなるというのですかな?」
石をいくつも空中に投げた。石はすでに鋭利な針へと変化していた。
「ウィンド・ブレイク!」
針を突風に乗せ、発射した。針は唸りをあげて男に襲い掛かった。
「しまった!」
地上で、ショウタロウが叫んだ。大空高く、鉄人がついにロープとマストに絡みとられ、身動きできなくなってしまったのだ。
無理に動かそうにも、まったく反応していない。
「シエスタ、しょうがない。鉄人はあきらめるぞ!」
ショウタロウ老人がシエスタの手を引いて逃げ出す。
「でも、ひいおじいちゃん。残月さんが。」
チラッと自分をここまで運んできた変態仮面を見る。さきほどから、血を吐き、全身を大地に叩きつけられながら、襲い掛かってき
たアルビオンのメイジ(とシエスタは思っている)と戦っているのだ。それも、どう考えても自分たちを守るために。
「だからこそ逃げねばなるまい。ここは残月くんが戦いやすいようにするためにも、もはや動かなくなった鉄人は捨てざるをえない!
人間は生きていればなんとかなる。わかるか、シエスタ。」
「……は、はい。」
たしかに理屈はわかる。だが、あの変態仮面は自分たちのために戦ってくれている。それに、あの鉄人はひいおじいちゃんがあれほ
ど大切にしていたものじゃないか。自分の曽祖父の心情を察すると、胸が痛む。
「ふん。どうやら、ようやくこいつのことは諦めたか。」
空高く、老人が呟く。鉄人の目から光が消え、力が抜けていく。
リモコンのスイッチを切ったのだ。
「ならば、こいつは遠慮なく使わせてもらうか。」
拘束していた布や縄が緩んでいく。鉄人もろとも落下していく老人。
だが、次の瞬間、鉄人が空中で静止した。
「敵に渡すな大事なリモコン。じゃが、リモコンが必要ない男も、ここにいるのじゃ。」
鉄人に老人が飛び移った。目の光を失ったまま、鉄人が動き出す。
「ゆくぞ、鉄人!」
老人の声に応えるように、鉄人が地上の残月めがけ襲い掛かっていく。
「おじいちゃん!鉄人が!」
「な、なんだと!?」
操縦しているように動き出した鉄人を振り向き見て、2人は絶句した。
リモコンでしか動かぬはずの鉄の兵隊が、まるで生きているかのように滑らかに空中を滑ってこちらへ飛んでくるではないか。
「鉄人!やめろ!」
あわてて操縦器のスイッチを入れて、操る。鉄人は空中でブレーキがかかったように止まる。
「ほう。やはりリモコンのほうが強力か。だが、わしも負けぬぞ。」
空中で、鉄人が取り合いをされるおもちゃのように引っ張られていく。命令を受けるのに、その命令と逆の動きをするように、別の
力がかかっている。そんな動きだった。
「どうやら味方は村を落としたようじゃが、こんな物騒なものが敵にあればどうなるかわからぬ。残念だが、こちらの手に入らぬとあ
らば破壊させてもらうぞ。」
鉄人の動きはますます妙なことになっていく。ビスが飛び、関節が音を立て、ねじが外れていく。
老人が余裕の笑みを浮かべた。
が、その瞬間―――
ズダダダダダ、と鉄人装甲表面で何かが連続して弾けた。
「ぬをぉっ!?」
鉄人めがけ、銃弾が射ち下ろされているのだ。
老人が、見上げたそこには鳥のごとき黒い影――。
交差した瞬間、樊瑞の身体が消えた。
周囲が完全な闇に包まれ、一切の気配が消えた。
「ふふふ。こんなまやかしが、私に通用すると思ったかな?」
上着を脱ぎ、周囲の空間をかき回す。
たちまち闇は晴れ、もとの草原に戻る。
「これはお返ししようか。」
上着から何かを抜いて、空に投げつけた。何かがジャンプをする気配。
「ほう。わしの仙術はやはり効かぬようだな。」
中条が投げつけたのは、何十枚もの札。それを上着で掻きとり、幻覚を振り払ったのだ。
「ならば、肉弾戦だ!」
「受けて立とう。」
拳と拳が火花を散らす。
打撃を避け、すかし、かわす。隙を見つけては拳を叩き込み、受け止め、弾き返す。
やがて、一瞬の隙を突き放った中条の蹴りが、樊瑞の腹を捉えた。樊瑞の身体は、岩めがけ吹っ飛んだ。
「ぐ、ぐおお!」
岩が樊瑞の背中に突き刺さった。
樊瑞が、中条を睨みながら立ち上がる。
「まだだ!まだ負けたわけではないぞ!」
「ほう。たいしたタフネスだ。だが……こちらの拳もそろそろ限界でね。」
右腕の袖をまくって、拳を突き出した。
「きみが止める気がないなら、これで強制的に終わらせるしかないだろう。」
握り締めた拳から、液体が噴出する。
「なぜだかわからぬが、君は将来我々にとって邪魔な存在になる気がする。ならば、今のうちに決着をつけよう!食らえ、ビッグ・バ
ン・パンチ!」
「させん!」
中条の懐深く入り込み、自ら右拳を左拳にぶつけた。タイミングがずれたせいで中条のパンチが空振り、互いの身体が大きく弾けと
んだ。
中条は華麗に着地する。だが背中に怪我を負った樊瑞はもんどりうって地面に倒れこんだ。
「ふーんふっふっふー。まさか、このような田舎にキミのような男がいるとは。世界は広い。きみがいなければ、戦闘はもう少し早く
終わっていたのだろうがね。」
後方で、黒煙を上げる村を指す。そう、村はついに陥落したのだ。
思わず村を見る樊瑞。その目に飛び込んだのは…
「な、なんだ……、あれは?」
「むっ!?」
つられて中条が振り向いた。
「鳥か!?ドラゴンか!?」
「まさか、もうバビル2世が来たのかッ!」
中条が、わき目も振らず、タルブの村の彼方、空に現れた影めがけ、駆け出した。
「ば、バビル2世!?貴様、逃げる気か!」
追いかけようとする樊瑞。しかし、背中の激痛がそれを許さない。
「ば、バビル…2世…?」
樊瑞の網膜は、鳥のようなものの上に乗った少年の姿を捕らえた。
「被害は!?」
「死者23。負傷、119。うち重症37.戦える人間は全部で387名です。」
タルブ攻防戦から数時間。空中の戦艦からの砲撃に追われ、からくも逃げることができた防衛部隊は、ようやく被害状況を掴むことが
できた。そして、合流したアンリエッタ率いる王軍に対して、被害報告を行っていた。
「敵はおそらく現在3000名が降下しています。」
「すると、こちらの兵力2173で、3000のアルビオンと戦うことになりましたな。」
マザリーニが幽鬼のように痩せた顔を青ざめてアンリエッタに話しかける。
「さらに言えば、ラ・ロシェールへの援軍を送る必要もあります。するとタルブ奪回戦に回すことができるのは、1000あまり…」
いくつもの勲章をぶら下げた将軍が、悲痛な表情で呟く。
道中、マザリーニからタルブを守りきればラ・ロシェールは守れると力説され、この村の重要性に気づいた将軍であったが、そもそも
守るべきがラ・ロシェールである以上、そこをほうってさすがにタルブに全勢力を投入するだけの度胸も、無謀さも持ち合わせてはいない。
「殿下。ここはラ・ロシェールに軍を移動させ、そこの守備に全力を尽くすべきかと…」
もはやそれしか方法はないだろう。タルブの村での時間稼ぎは、この援軍がラ・ロシェールという要害地に立て篭もるためにあったと言
ってよい。
それだけで、アルビオンの作戦は事実上失敗したも同然なのだ。なぜならタルブをとったのは、ラ・ロシェールをとるための布石に過ぎ
ず、内戦が終わったばかりのアルビオンに、戦略上の重要点をとれなくなった以上いつまでも兵を駐屯させるだけの実力がないことは目に
見えて明らかだ。
「ここは、それが最善なのですか?」
ユニコーンに跨った女性が応える。戦場には似合わぬ、ウェディングドレス姿の女性だ。そう、アンリエッタであった。
「タルブの村を死守してくれていたかたがたの意見もお聞きしたいのですが。」
いや、それには及びませぬと懸命に止める将校たち。しかたなく、このあたりの領主が呼ばれ、質問に答える。
だが回答は同じ。ラ・ロシェールに軍を回すべきだ、と。
『王女は敵軍に蹂躙されたこの地を取り戻したがっているのだな』
と、マザリーニは思う。だが、今はまず皮膚の病が内臓にまわらぬようにするのが先決。ここは王女に隠忍自重してもらわねば…
そう思い、足を踏み出したマザリーニの背後から
「たいへんだー!」
という兵士の叫び声。
「なにごとだ!」
将官がどなりつけるように返す。だが、血相を変えた兵士は、慌てて走りこんでくるのを止めない。
「よさんか。兵が怯えるではないか!」
叫んだ兵士を殴りつける将官。兵士は、北側を指差し、泡を吹くように叫んだ。
「ば、化け物です!怪鳥が、こちらめがけ飛んでくるのです!」
「怪鳥だと!?」
森から、鳥の声が消えた。
馬がいななきを止め、怯えるように身を縮める。
あわてて空を見上げるアンリエッタたち。突然周囲が暗くなり、空が消えた。
空一面を、巨大な生き物が覆っていたのだ。
アニエスも、その巨大な化け物を見た。
震えが止まっていた。
最も嫌悪する火に包まれ、さらには忌むべき火のメイジを使ってまで敵を食い止めようとしたのに、結局は転進するしかなかった。
そのときの感情で、吐き気を覚え、めまいを感じていたというのに…いっさいのものが消えていた。
理由はわからない。なにか、圧倒的なものを見たがゆえの感動が、悪感情を中和したのだろうか。
アニエスは、その化け物鳥がアルビオンの艦隊に突入していくのを、追いかけるように走った。
「なんだ、あれは……」
肩に針を受けながらも依然として残月と戦っていた男は、空の彼方からやってくる大きな影に気づいた。
それは鳥のように見えた。だが、あれほど大きな鳥は見たことがない。
見れば、足に何かをぶら下げている。巨大な、人間のような何かを。
「ま、まさか!あれは!」
「ロプロス様!?」
残月もまたその影に気づき、叫んだ。
その声に、男が残月のほうをはっとした表情で向く。
「な、なぜ、貴様その名を知っている!」
だが、その声が残月の耳に届くことはなかった。
ロプロスの羽ばたきで起きた突風が、音をなにもかも吹っ飛ばしたからである。
鉄人の上で、身構えた老人に、何かがぶつかってきた。
腕をつかまれていた。
学生服姿の少年が、腕を掴んでいた。
「エネルギー衝撃波を食らえ!」
老人の身体にエネルギーが瞬間的に送り込まれ、吹っ飛んだ。
落下する老人に目もくれず、少年はゼロ戦へ鉄人を足場にジャンプして戻る。
「ロプロス、ポセイドンを着陸させろ!ポセイドンは敵を攻撃しろ!」
そう、バビル2世であった。
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