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「Fatal fuly―Mark of the zero―-07」(2008/12/25 (木) 22:41:21) の最新版変更点
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#navi(Fatal fuly―Mark of the zero―)
「さぁ、ロック。準備はいい?」
「あ、ああ。ちょっとドキドキしてきたな」
「そんなのわたしだってそうよ。絶対にしくじらないでよね」
「それだけは心配しなくていいぜ」
「ほんとかしら……」
現在品評会の真っ只中である。
前日から作られていた大仰な舞台の上で、数々の種族の使い魔達が主人の命に従い、王女を含む観客へ向けての芸を披露していた。
生徒達の熱の入りようといったら、ある意味で召喚の儀の時よりも凄いものがある。
そんな姿を終始にこやかに、時折拍手を交えつつ見ているのはアンリエッタ姫殿下だ。
いや、無論他にも姫の護衛兵、教員、また他学年の生徒達も観客として存在しているのだが、誰しもが姫殿下の一挙手一投足から目を離すことができない。
次の出番を今か今かと待ち構え、舞台袖で互いの意志を確認しあうルイズとロックもそれに該当する。
「けど、最悪の順番よね」
「ありゃあ反則だ」
やる気はある。それは見世物になるのに抵抗がいまだあるロックにもだ。
しかし、直前の演目がタバサの呼び出した風竜によるものとは、不運にも程がある。
人がする芸など、一国の姫からしたらそれこそ飽きるほどに見てきただろう。最初からそんなハンデがあるのに、そこから更に一歩どころか数十歩の間を空けられた気分だ。
しかし、いや、だがしかし。ルイズはその小さな拳を音が鳴るほどに握りこむ。
青い炎のような闘志を滾らせるルイズとは裏腹に、ロックは内心困り果てていた。
(こんなんでいいのかな)
色々な意味を含んだ言葉を呟きながら、胸に手を当ててすぅ、と息を吸い込んだ。
どうせなるようにしかならないし、折角根回しして協力者を得たのだ。せめて恥にならぬ働きをすればいい。
舞台ではタバサの駆る風竜が空での舞いを終え、着陸して一礼を送った事で演目の終了となっていた。
盛大な拍手が上がる中、ロックは後方に控えている男性に指で合図をした。
「やれやれ。特定の生徒への贔屓はよろしくないのだがね」
合図を受けた男、ギトーは鼻から短く息を吐き、レビテーションの魔法を唱える。
ふわりと浮かんだのは錬金で作り上げた直径で四メイルはあろうかという巨大な岩や、空になった酒樽。他には食堂などで使われる薪などが、次々と浮き上がり舞台へと運ばれていった。
「まぁ、研究の代価としては安くついている、か。せいぜい、姫殿下にいい所でも見せるがいい」
皮肉った口調で送り出すギトー。
それに合わせ、ルイズはロックを伴って熱気冷めやらぬ舞台へと躍り出た。
※
「はいっ!」
ルイズが両手に抱えていた薪を一本ずつ空高く放り投げた。
バラバラに飛び散ったその総数は六。そして、更にルイズは追加で五本の薪を新たに抱え込んだ。
「シッ」
放り投げられたその一本が十メイル程の高さから、四メイルの高度まで達した時、ロックがその身を跳ね上げて足刀を突き出した。
ぱかん、と音を立てて薪を割る。まるで刃物を用いたかの如く綺麗な断面に驚くより、ただの平民だと思っていた男がフライも用いずに高く飛翔した事にギャラリーは唸った。
二本目が降下するロックの目の前に到達する。中空で拳を振れば、またそれが割れて地に落ちた。
息を吐かせる暇も無い。
離れた場所に飛んだ三本目は、目を凝らしてさえ見失う程の素早さで駆けたロックのオーバーヘッドキックで砕かれ、四本目は振り返ることすらせずに放たれた連続のオーバーヘッドでまたも、であった。
五本目六本目は落ちてくるのがほぼ同時。しかし、少し離れた位置にいながらもロックは余裕を持ってその場に佇む。まだ五メイルほどの高さ、ならば十分だ。
「はぁぁぁぁ……」
腹の底から息を吐き出し、腕に気を充実させる。真空投げで相手を投げ飛ばし、羅刹でそれを狙い打つ体勢と同一だ。
タイミングを合わせ、
「もらったぁ!」
射線が重なった二つの薪が、ロックの手より放たれた気の棘で打ち砕かれた。
一見してあり得ぬ光景に、ざわ、と観客全員から動揺が漏れる。最も、以前あれを見たことのある二年生は別として。
それを尻目に、ルイズは新たな薪を先ほどとは違い、同一地点に投下場所を定め、断続して投げた。
これもまた六本。そのポイントにいるロックは、最初の一本が頭上近くに来るまで今度はしゃがんでじっとしていた。困惑するギャラリーの顔に、ルイズはにぃっとほくそ笑んだ。
「ライジングタックル!」
しゃがみ、身体のバネに溜めていた力を言葉と共に解放する。
腕を広げ身体を逆さに、そして両腕を開いて錐揉み回転するロックが、空へ向けて上昇しながら六本全ての薪を叩き割っていくではないか。
流石の離れ業に、誰しもが感嘆の息を漏らし、両手を盛大にたたき合わせる。
着地したロックは額に浮かんだ汗をジャケットの袖で拭い、ルイズと視線を合わせた。
「おっけい!」
かつてロックの口から聞いた言葉がルイズから漏れていた。
それを受けてロックは爽やかに白い歯を見せた笑みを浮かべて親指を立てた。ルイズもそれに倣って返す。
そして二人、まずは観客席へ一礼。観客席から歓声が湧き、次の芸は何だと騒ぐ。
そこでルイズが指を差したのは、ギトーによって運ばれた巨大な岩。
まさかあれまで……? と口々に言い始めるギャラリーへ、ルイズは言葉を放った。
「これもまた、さっきの薪と同じようになりますわ」
流石に無理だろう? 魔法も使わずに? でかすぎるだろ、いくらなんでも。
そんな声が次々と溢れてくる中、実際の所ルイズも同様の見解が頭の隅にこびりついていた。
しかし、出来ると言ったことは必ずこなすロックの姿を見ているし、常識外れを今まで見せてきてくれている。きっとやれるはずだ。ルイズはそうして固唾を呑んで彼を見守る。
かたや舞台袖で光景を見守るギトーは、つまらなそうな顔でこう呟いた。
「嫌がらせにもっともっとでかくすればよかったかな。あれでは拍子抜けにも見えん事はない」
ロックの力量をその身体で知っているからこその言葉である。
丁度その近くにいたロックが、それを聞きとがめて小声で漏らした。
「次絶対に手加減してやらねー」
「こちらの台詞でもある」
「……よく言うぜ」
やり取りを終え、ぶんぶんと腕を振り回してロックは目前の巨岩へと意識を集中させた。
十分に身体は温まった。ギアをトップまで上げればあの程度屁でもない。
岩まで駆け出し、踏み切る。突き出した肘が巨岩全体に亀裂を走らせた。
だが、それで終わりではない。
残った片手には溜めた気が解放されるのを今か今かと待ち望んでいる。
「はぁっ!」
裂帛の気合を込めて突き出された掌は、青白い軌跡を生み出し、ぶつかった岩を内側から四散させた。
ざわめくギャラリーと同じく、ルイズまでが嬌声を上げる。頭上に舞い降りる埃など気にする事なく、またもロックが親指を突き立てた。勿論ルイズはそれを返す。
しかし、二人は気付いていながら黙っていた。ざわめきの色合いがどうにも黒くなっていっている事に。
「では、これが最後です」
厳かに一礼をしたルイズが指差したのは、舞台の端にある空の酒樽。そして、ロックは中央の位置からその反対方向へと歩き出した。
周りを気にする事無く、掌に宿った気の塊を玩びながら、ロックは地面を撫でるようにその手を掬い上げた。
烈風拳。
放たれた目視可能の風が、舞台を奔り樽へと向かう。端から端へ、しかしそれはほぼ一瞬の出来事だ。気による烈風に抗えぬ無機物は、その姿を真っ二つにして舞台を転がった。
先ほどまでとは違い、今度はしぃん、とした静けさが場を支配した。
「そこを動くな!」
誰の声か、それが分からぬままに気付けばロックはその場に釘付けにされた。
周りを囲むのは、姫の元に侍っていた護衛の兵士達。携えた得物を突きつけ、ロックを睨んでいる。
実際は覚悟していた事である。
ルイズから聞いたこの世界での常識で、杖を持たぬ者がロックのような技を行使する事など出来ない事を。
そして、それが出来るのは人間ではなく畏怖や嫌悪の対象であるエルフなどだと。
無論、それの対策には抜かりがない。ルイズが慌てて舞台袖に合図を出すと、そこからギトーが飛び出る、予定だった。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いてくださいな」
その場の空気を制したのは、他でもないアンリエッタ姫殿下の一言だった。
朗らかに笑う彼女が壇上へと歩き出し、それに見とれているギャラリーを他所に、ロックの元へと近づいてこう言った。
「御覧なさい? この方の耳は尖ってはいないし、翼も生えていない。口だってほら」
ごめんなさい、と断りをいれ、アンリエッタはロックの口元へと手をやる。
もが、と声を上げたロックの口は開かれ、皆の元へ公表された。
「先ほど彼の笑顔を見ましたけど、この通り牙もない。何を心配する事があるのかしら?」
何とも乱暴な釈明だったが、当初予定していたものよりは余程いい納得材料だ。今更、手品でしたという切り札は必要あるまい。
袖のギトーはふむ、と頷き、ルイズとロックはその胸を撫で下ろした。
下がっていく護衛兵達を目に、姫の脇で侍っていながらも、ロックを取り囲まなかった唯一の者がその顔に蓄えられた髭を撫でて呟いた。
「あれが、ロック。ロック・ハワード」
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