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#navi(虚無のパズル)
6000年前、大地の底から現れた大魔王デュデュマが世界を滅ぼした。
デュデュマにはいかなる文明の力もかなわず、人々はあきらめ、滅びを受け入れはじめていた。
これは大地の法則なのだと。
進みすぎた文明への、大地を汚し傷付けつづけた、自分たちへの報復なのだと。
「違う」
「大地は、そんなことでデュデュマを生み出さない」
「デュデュマが生み出されたのは……」
世界が滅びゆく中、人類が全ての希望をなくしてゆく中
それでも、デュデュマに立ち向かう者たちがいた。
彼らは文明の力を使わず、たいした武器も持たずにデュデュマに向かってゆく。
彼らはデュデュマに似た力を持っていた。
唯一デュデュマに対抗できる力。
それが 「魔法/マテリアル・パズル」。
彼ら「魔法」の使い手によって、デュデュマは倒された。
世界は滅んだが、人類は細々と生きながらえた。
そして、6000年後。
この大地のために、再びその力が必要になった。
その力を使う者、「魔法使い」達が……
『虚無の魔法使いと不老不死の3人』
ぼくはまた、この扉の前に立っている。
この扉の向こうには……
──────魔法使いティトォ
どんな時だって、あたし達は一緒だろ?
──────魔法使いアクア
たとえ、もしこの身体が別れる日が来ても
一度ひとつになった魂は、二度と離れることはないよ。
──────プリセラ
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ」
ルイズは目をつむり、呪文を唱え、目の前の空間に向かって杖を振り下ろす。
すると、白く光る鏡のようなゲートが現れ……
直後に爆発した。
また失敗なの?とルイズはがっくりとする。
しかし、煙の中にもぞもぞと動く影を見とめ、ルイズは思わず身を乗り出した。
もうもうとした土煙が晴れると、そこには確かにルイズの召喚に応じた者が居たのだった。
「あんた…誰?」
ルイズはその姿をまじまじと眺め、尋ねた。
ルイズは、フクロウやら、トカゲやら、はたまた幻獣やらとそういったものが呼び出されると信じていた。
しかしそこに居たのは、果たして小柄な人間であった。
ルイズの肩にも届かないくらいに背の低いその人間は、古びた青い服に身を包み、
目深に被ったフードが顔を隠していて、男か女か、若者か老人かも分からない。
突然現れたその青い服の人は、呆けたように、きょろきょろと周りを見渡している。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
誰かがそういうと、ルイズと青い服の人の周りを取り囲み、事の成り行きを見守っていた少年少女達からどっと笑い声が上がる。
彼らは皆揃いの制服とマントを身に付けており、どうやら学生のようだ。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん!」
「さすがはゼロのルイズだ!」
生徒達から次々にからかいの言葉が投げかけられる。
ルイズは、ぶるぶると肩を震わせると、そのピンクがかったブロンドの髪をひるがえし、そばからの禿頭の男性に詰め寄った。
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね、ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一回召喚させてください!」
コルベールは目を伏せ、ふるふると首を振る。
「それはダメだ。二年生に進級する際に召喚される『使い魔』によって君たちの今後の属性が固定される。それにより専門課程へ進むことになる。一度呼び出した使い魔を変更することはできない。なぜなら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ」
「でも、あれ!平民です!」
ルイズが食い下がると、再び周りから笑いが漏れる。ルイズが人垣をきっと睨んでも、笑いは止まらなかった。
「これは伝統なんだ、例外は認められない。君は望むと望まざるとにかかわらず、彼と…いや、彼女か?まあ、どちらにせよ、契約しなければならない」
「そんな…」
ルイズはがっくりと肩を落とす。
「さて、では、儀式を続けなさい」
「えー、アレと?」
「そうだ、早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね?何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
そうだそうだ、と野次が飛ぶ。
ルイズはため息をつくと、青い服の男(女?)の前にしゃがみ込んだ。
「あんた、名前は?」
フードの中の顔をのぞこうと、ルイズは身体を低くする。
青い服の人は、おもむろにローブの下から何やら人の頭ほどの大きさの木の実を取り出すと、ルイズに向かって投げつけた。
ルイズの額を直撃した木の実は、ごいん、と鈍い音をさせながら、綺麗な放物線を描いて、青い服の人の手に戻った。
「まず、そっちが名乗んなよ」
青い服の人が、はじめて声を上げた。女の声であった。それもどうやら、かなり若いようだ。
「な、な、な、な…」
ルイズは痛みと驚きに目を白黒させていたが、やがて肩を震わせながら、叫んだ。
「ぶぶぶ、無礼者!平民が、貴族に!なんて無礼!」
青い服の少女は、つーんとそっぽを向いて、ルイズの怒りなどどこ吹く風だった。
「人にー、ものを尋ねるときはー、まず名乗るのがー、礼儀じゃないんですかー?」
わざわざ噛んで含めるような物言いをする少女に、ルイズはますます頭に来たが、なんとか心を落ち着け、返した。
「ルイズ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」
「あたしはアクア、大魔導士アクア。よろしくね」
「大魔導士?って、あんた。メイジだったの?」
ルイズが聞き返すと、間髪入れず、木の実が飛んできた。
ごいん、と鈍い音を響かせ、ルイズの額を痛めつけたあと、またアクアの手に戻っていった。
「まだあたしの話の途中だよ。ここ、どこよ。あんたたち、なに。なんであたしがこんなとこにいるのさ」
「こ、こ、こ、こ、こいつ!このガキ!」
ルイズが生意気なアクアに掴みかかろうとした瞬間、コルベールがそれを制し、ごほんと咳払いをした。
「ミス・ヴァリエール、『コントラクト・サーヴァント』を。早く」
ルイズは怒りに震えていたが、やがてアクアの方に向き直り、ずんずんと大股で近付いてきた。
アクアの前にしゃがみ込むと、顔を隠しているフードに手をかける。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
早口に呪文を唱え、強引にフードを取る。
(なによ、やっぱりガキじゃないの)
フードの中から現れたのは、大きくて目尻が吊り上がった目の、濃い栗色の髪をふたつ括りにした、ほんの小さな女の子の顔だった。
なにか言う暇も与えず、ルイズは強引に、その小さな唇に唇を押し当てた。
「ん」
ルイズがゆっくりと唇を離すと、アクアの顔がすぐ近くに見えた。
アクアは驚いたのか、大きな目をまんまるに見開いている。
そんな様子を見て、ルイズは顔を真っ赤にしてしまう。
まったく、このラ・ヴァリエールが。なんでこんな子供と、キキキ、キスなんか。
ううん、いいのよルイズ。相手は女の子だもの。それに、これは契約、数には入らないわ。
でも!ファーストキスだったのに。
そんなふうに言い訳を心の中でこね回しているうちに、ルイズは自分をみつめるアクアの瞳に気付く。
大きくて、吸い込まれそうな瞳。
でも、なにか違う。なにかおかしい。
その瞳は、まるでガラス玉をはめ込んだ、人形の瞳のようだった。
「…終わりました」
ルイズは照れを隠すように、こほん、と咳払いをする。
すぐさま、木の実が飛んできた。
何度も同じ手をくらうルイズではない。ルイズは木の実を顔の前で見事キャッチすると、アクアに恨みを込めて投げ返した。
ファーストキスの恨み。乙女の恨みである。
しかしアクアは木の実を蹴り返し、木の実はまたもやルイズの額を虐めるのであった。
「なにすんの、いきなり。言っとくけどね、あたしにそんな趣味はありませんからね……む」
アクアは眉根を寄せてぷりぷり怒っていたが、突然右手に走った痛みに、言葉を途切れさせた。
「いた!いたたた!なにこれ!」
アクアの攻撃にうずくまっていたルイズは、涙目のまま、アクアに言う。
「騒がないで。すぐ終わるわよ。『使い魔のルーン』が身体に刻まれているだけよ」
「なにそれ!勝手なことするんじゃないよ!いたた!」
しかし、痛みはすぐに消え去った。
アクアが右手を確認すると、ヘビがのたくったような、文字のようなものがくっきりと刻まれていた。
「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
禿頭のコルベールが、アクアの右手に刻まれたルーンを覗き込みながら、嬉しそうに言った。
「ふむ。珍しいルーンだな。ちょっとメモさせてもらうよ」
そういってコルベールは、アクアの右手に刻まれたルーンをスケッチした。
「相手がただの平民だから『契約』できたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったなら、『契約』なんかできないって」
生徒達の何人かから、声が上がる。
ルイズが睨みつける。
「バカにしないでよね!わたしだってたまにはうまくいくわよ!」
「ほんと、たまによね。ゼロのルイズ」
見事な巻き髪とそばかすを持った女の子が、ルイズをあざ笑った。
「ミスタ・コルベール!『洪水』のモンモランシーがわたしを侮辱しました!」
「誰が『洪水』ですって!わたしは『香水』のモンモランシーよ!」
「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』のほうがお似合いよ!」
「よくも言ってくれたわね!ゼロのルイズ!ゼロのくせになによ!」
ルイズとモンモランシーがきゃあきゃあ言い合う横で、アクアは右手をかざしながら、
「ったく、ひとの身体にへんなもん刻んでくれちゃってさ」
とこぼしていた。
「こらこら、貴族は互いを尊重し合うものだ」
コルベールが、2人をなだめる。
「さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」
コルベールはそう言うときびすを返し、宙に浮いた。
アクアはぽかんと口を開けて、その様子を見つめた。
生徒達も次々と、宙に浮いた。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ、『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「その子供、あんたの使い魔にお似合いよ!」
口々にそう言って、笑いながら飛びさってゆく。
投げかけられた侮辱に、ルイズは悔しくて、俯いてしまう。
「ねねね、見た、今の。飛んだよ、空。スゴーイ」
ルイズの気持ちなど微塵も気にかけずに、そんなふうに無邪気に言うアクアに、ルイズは力が抜けてしまった。
「あんた、なんなのよ」
「そりゃこっちのセリフだよ。あんたこそ、何さ。なんで飛ぶの」
「そりゃ飛ぶわよ。メイジが飛ばなくてどうすんの」
「メイジ?」
メイジ。ウィザード。ウィッチクラフト。魔術師。
「魔法使い?」
ルイズはなにを今更、といったふうにため息をつく。
「そうよ。ここはかの有名な、トリステイン魔法学院だもの。そして、わたしは二年生のルイズ・ヴァリエール。あんたを召喚した、ご主人様よ」
「召喚?魔法学院?」
アクアは目をぱちくりとさせた。
「え、じゃあ今の、みんな魔法使い?マジで?」
ぽりぽりと頬を掻く。
「やだなあ、そんなに魔法使いがいるなんて。ありがたみってもんがないじゃないさ」
「なに言ってんの?貴族の子息子女の集まりよ。ありがたがんなさいよ」
ハルケギニアにおいて、魔法の力を使えるものの多くは貴族である。
しかしそのことを知らないアクアには、ぴんと来なかった。
「で。ルイズは飛ばないわけ」
「うるさい」
ルイズはアクアをじろりと睨みつけた。
「あんたさっき、大魔導士とか言ってたわね。貴族には見えないけど、メイジなの?」
「まあね」
さらりと肯定した。
「あたしら、割と有名人なんだよ。ま、それも善し悪しだけどね。聞いたことない?」
一拍おいて、アクアは言った。
「不老不死の身体を持った、三人の魔法使い。その一人が、このあたしさ」
アルカナ大陸は「木の国」と呼ばれ、昔から木を育てそして絶やさぬよう、生活に使い続けてきた。
高度なメモリア文化も部分的にしか取り入れず、昔ながらの暮らしのまま自然と共に生きる国であった。
主食は米よりもパンとパスタ。
肉よりも、海の幸山の幸。
名物に森エビの包み焼きピザなどがある。
アルカナ大陸の片田舎に位置する、ミルネシア地方。
そのさらに辺境に、切り立った崖や底なし沼に囲まれ、とても人が足を踏み入れられない土地があった。
そんな断崖の上で、三人の魔法使いは暮らしていた。
その首にかけられた賞金を狙う者、不老不死の秘密を狙う者から逃れ、彼らはこのミルネシアにたどり着いたのだった。
そして彼らはミルネシアの天然結界の中で、下界との関わりを持たずに、50年以上も三人だけで暮らしていた。
あくる朝、アクアは顔を洗うために、近くの水場に桶を持っていった。
その途中、突然に彼女の前に、光る鏡のようなものが現れたのである。
50年以上も代わり映えのしない生活を送ってきたアクアは、その鏡に強く興味を引かれた。
とりあえず、石を投げ入れてみた。反応なし。ほほう。
木の枝を折って、突っ込んでみた。やはり反応なし。ふうむ。
右手をそっと差し入れてみた。それがいけなかった。
突然ものすごい力でアクアは鏡に引きずり込まれ、目の前が真っ暗になった。
鏡は、アクアを引きずり込むと、跡形もなくその姿を消してしまった。
そして次にアクアが目覚めたとき、彼女は魔法学院の生徒達に取り囲まれていたのである。
「信じられないなあ」
窓から空を見上げながら、アクアはひとりごちた。
トリステイン魔法学院の女子寮。ルイズの部屋であった。
高価そうな家具が十二畳ほどに並べられている。
彼女はルイズにここに連れてこられたのだった。
アクアが見上げる空はとっぷりと暮れて、大きな月が輝いていた。ふたつ。
ふたつの月だなんて、聞いたことがない。
ここはアルカナ大陸どころか、世界首都メモリアを擁するアクロア大陸ですらない。アクアの元いた世界とは全く別の場所のようだった。
「信じられないのはこっちよ。あんたは百年以上も生きている、不老不死のメイジで、おまけに別の世界から来たですって」
ルイズはじとっとした目をする。
「あんたねえ、わたしのこと、世間知らずの箱入り娘だと思ってるんでしょ」
ほんとのことなのに。若いくせに頭が固いんだね、とアクアはため息をつく。
「だいたいねえ、そんなこと言うんだったら、なにか証拠を見せなさいよ。そうじゃなきゃ、信用なんてできないわ」
ルイズは寮に戻る途中、アクアに『フライ』を使ってみせるよう言った。
しかしアクアは、「あたしの魔法は、そういうんじゃないから」などと言って、結局魔法らしきものは一度も使うことがなかった。
「見たいの?あたしの魔法」
「見たいかって……ええ、そうね。ぜひ見ておくべきだと思うの」
この得体の知れない使い魔の力を、把握する必要がある、とルイズは考えた。しかし。
「やだね」
と、アクアはばっさりと切り捨てた。あまりの返答に、ルイズはぽかんとした。
続いて、ふつふつと怒りが込み上がってくる。
こここ、この使い魔。生意気なばかりか、ご主人様の言うこと、ひとつも聞かないじゃないの!
ルイズは怒鳴りつけてやろうかと口を開くが、アクアに機先を制された。
「見せる?今?あんたにここで?いきなり人を喚び出して、奴隷にしようなんてやつには見せらんないね」
アクアの人形のような瞳が、ぎらりと危険な色に光る。
「どうしてもってんなら、それなりの覚悟はできてるんだろうねェ」
ずん、と部屋が重苦しい雰囲気に包まれる。
この小さな身体のどこから、これだけの威圧感が出るのだろう?
やばい。こいつ、やばい。
怖い、帰りたい。
って、どこへ!ここがわたしの部屋じゃないの!
学院に置いて、ルイズの暮らす部屋は、考えようによってはラ・ヴァリエールの領地も同然であり
貴族のプライドを大切にするルイズには、領地を捨てて逃げることなど許されないのであった。
う~、とか、む~、とかうなりながら睨み合っていたが、やがてアクアが折れた。
「ま、いいさ。あんたの使い魔、やってあげてもいいよ」
これにはルイズも驚いた。これまで話してみて、アクアという少女は自分の意に添わないことは頑として受け入れない、そんな人物だと思っていたからである。
「え、ホントに?」
「帰る方法、ないんでしょ。だったら行く当てもないしね」
「使い魔か主人、どちらかが死ぬまで契約は解かれないのよ?」
「別にいいよ、100年生きたんだ、もう何十年か待つくらい平気さね。それに、ここがあたしたちのいた世界と違うってんなら、逆に都合がいい」
「それって、あんたたちを狙う賞金稼ぎから逃げられるからってこと?」
「それもあるけどね」
それもある。しかし一番は、不死の身体を、その身に宿したものを大地から遠ざけられるということだ。
その本当の力を知り、恐るべき目的のために『それ』を狙う者から。
(もっとも、『奴』は、やがて他の方法を見つけ出すかもしれない)
(かつてドーマローラにしたように、『あれ』を実らせることに成功するかもしれない)
(いつかは元の世界に帰って、決着を付けなければならないだろうけど)
(とりあえずは、身を隠すのが一番だ。あたしたちを見つけられなかった100年の間、奴の目的は停滞している)
(今さら急に、事を起こすこともないだろう)
「でさあ、使い魔ってなにすんの?」
どうやらこの少女は、本当に使い魔の仕事をやってくれる気になったらしい。
ついさっきまでアクアにビビっていたのを隠すように、ルイズはこほんと咳払いすると、威厳が見えるように精一杯胸を反らせて、言った。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるわ。使い魔が見聞きしたことを、主人も知ることができるのよ」
「へえ」
「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、なんにも見えないもん!」
「ついてないね」
「それから、主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬の材料のコケとか硫黄とかね。…あんた、そういうの探せる?」
「あー、無理無理。あたし薬剤の知識とかからっきし」
「でしょうね」
ルイズはため息をつき、苛立たしげに言葉を続けた。
「そしてこれが一番なんだけど!」
使い魔は主人を守る存在である。その能力で、主人を守るのが一番の務めなのだ。
しかし、下手をすると10歳前後くらいにしか見えない小さなアクアに、それを求めるのは無茶だろうと思った。
メイジを自称してるけど、どんなもんだか!『フライ』すら使えない大魔導士様に、主人の護衛は務まらないに違いなかった。
「……洗濯、掃除、その他雑用」
「小間使いじゃん」
「あんたに任せられそうなのって、それくらいだもん」
ふわあ、とルイズはあくびをした。
「さてと、しゃべったら、眠くなっちゃったわ」
ルイズはもそもそを服を脱ぎ捨てると、薄いネグリジェを身に付けた。
やせっぽちな子だねえ、貴族の子女とか言ってたけど、いいもん食べてないんじゃないの。
と、ルイズに負けず劣らずやせっぽちなアクアは、そんな人のことを言えない感想を抱いていた。
「あたしはどこで寝ればいいの?」
部屋にベッドはひとつしかない。
女の子に「床で寝ろ」とも言えないルイズは、
「わたしのベッドに寝なさいな。広いし、構わないわ」
と言った。
その言葉にアクアも服を脱ぐと、ベッドにもぐりこもうとして、ルイズに止められた。
「ちょっと待った。あんた、汚いわよ」
「なんてこと言うの。女の子に」
「ホントのことじゃない!その服いつから洗ってないのよ!」
人里を離れ、人の目のない場所で三人だけで暮らしていると、どうしてもだらしなくなってしまうのだった。
「使用人の宿舎にお風呂あるから!身体洗ってきなさい!あと、服も!」
騒ぐルイズに、アクアは渋々と部屋を出ようとして、ルイズに呼び止められる。
「ああ、待って。ついでにそれも洗濯しといて」
と、先ほど脱ぎ捨てた下着を指差した。
「えー」
「えー、じゃないでしょ。これからあんたのこと養っていくのはわたしなんだから。寝床やご飯を用意してあげるのよ。それくらいの仕事はしなさい」
どうにも生意気なアクアに立場を分からせようと、ルイズは少しきつい口調で言った。
アクアはぶつくさ言いながらも、下着を拾って使用人宿舎の方へ向かっていった。
「アクア!ドア閉めてきなさいよ!」
アクアが開けっ放しにしたドアを閉めると、ルイズはベッドに潜り込む。
ルイズは今日何回目かの大きなため息をついた。
使い魔として呼ばれたのは、小さな女の子。しかも可愛げがないし、びっくりするほど生意気だ。
ほんと、先が思いやられるわ。
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