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#navi(ゼロ=パペットショウ)
それは、大量の棺桶と、眼鏡をかけた老紳士だった。
「コ、個、刃?
(ここは?)」
ゼロ=パペット・ショウ
開幕
「あんた、誰……?」
目の前に現れた老紳士に対し、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは恐る恐る話しかける。老紳士は貴族なのだろうか。
黒を基調としたコート。同じく品の良い黒のシルクハット。少し擦り切れている部分も見えないわけではないが、かといって平民が手を出せるような安物にも見えない。
つまり、老紳士は貴族=メイジであるわけだ。
ゼロと蔑まされてきた自分の召喚に、メイジが応えてくれた。
メイジの実力は使い魔に反映される。ならば、メイジが自ら使い魔になろうとしてくれる自分は、一体どれほどの実力と判断されるのか。
この揺るぎない事実はルイズにこの上のない喜びを与える。そう、与えるはずだった。
目前に、大量に積み重なる異様な棺の山が存在しなければ。
誰も、この異様を前に言葉を出せない。
召喚されたものは、堆く不吉に積み重なる棺桶と、一人の老紳士。
そして、棺桶から地面に流れ、零れ、拡がってゆく―――大量の赤黒い液体。
声ひとつ、無い。誰もが、想像してしまったからだった。
もしかして、もしかすると。
『あの大量の棺桶一つ一つ、その全てに、今も血を流し続ける死体が詰め込まれているんじゃないか?』
と。
「あ、あ、あんた……、何?」
恐怖に震えながらも、老紳士に話しかけたルイズは勇敢だったのだろう。他の生徒は動くことすら出来ない。
ただ一人、教師である炎蛇のコルベールは杖に手をかけ、油断一つ無い表情で老紳士を見つめてはいたが。
しかし、勇気を振り絞ったルイズの問いかけにも、老紳士は答えない。ただ茫然と立ち尽くし、辺りを見渡す。それだけだった。
ゆっくりと、老紳士は視線を巡らせる。一人一人を、その表情を、貌を、身体を、“観察”するように。
『それだけの視線が、何故こんなにも恐怖を感じさせる!?』
それが、皆の心情だった。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
あの男の視線が怖い。あの男の表情が怖い。あの男の、心根が、怖い。
あの男は欠けている。人として欠けている。何か重要な部品が、ことごとく欠けている。
まるで、崖の上から底の見えない谷底を覗き込むような、そんな恐怖がここにいる全員を襲っていた。
「ヒトニ、名ヲ訊ネ留トキ刃、自分カラ名乗ルの蛾、礼儀ジャナイノ死(デス)カ?
(人に名を訊ねる時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないのですか?)」
初めは、それが言葉だと理解できなかった。
老紳士は何らかの障害を持っているのか、彼の言葉は酷く聞き取りにくかった。
掠れているのではなく、やはり大切な何かが欠けているかのような口調。それもまた酷くルイズに恐怖をもたらす演出だった。
「わ、わたしは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あ、あなたは?」
恐怖に震えたルイズの名乗り。仮面のような無表情で、何ら反応を示さない老紳士。若干の苛立ちとさらなる恐怖に煽られるルイズ。
しかし、この問答を見たコルベールは、僅かな安堵の溜め息をついていた。
確かに聴き取りにくい声ではあったが、会話が成り立ったことには違いがない。
棺の群れと立ち上る血臭は未だにコルベールの本能を刺激するが、会話が成り立ったことにより即座に襲ってくるような気はないのだと推察できた故の安堵だった。
老紳士からの返答はない。しかし、彼の手が、コートの下に隠されたその腕が、軽く動いた様をルイズは目撃した。
ゴトリ、と棺桶が開く音。
誰もがその中から現れることを確信した。赤く血に染まった屍が、棺桶の蓋を押し開け亡者の如く這い出てくることを。
ルイズが恐怖に目を見開く。コルベールや数人の生徒が杖を取り出す。臆病な生徒達が、背を向けて走り去ろうとする。
「GUNG-HO-GUNSの4。レオノフ・ザ・パペットマスター」
棺桶から現れたのは、人形のように冷たい目をした青年で。老紳士の隣に傅き、老紳士の代わりに名乗りを挙げていた。
ディテクトマジックという魔法がある。メイジの間では比較的簡単な、基本と言っても良いスペルだが、それ故に熟練のメイジほど重宝している魔法だった。
効果は、一定の対象の、探知と調査。
青年が現れた瞬間に、炎蛇のコルベールはディテクトマジックを青年へと放っていた。
一瞬の早業。棺から現れた青年が、どれほどの脅威なのか。それを判別するためだったのだが。
「人形!?」
驚愕の声は高らかに響いた。
当然だった。コルベールは青年が人形だとは思ってもいなかった。
青年がどの様な武器を持ち、杖を持ち、果てはマジックアイテムを所持しているか。それを確認するための作業だったというものを。
その声を耳にしたルイズも、改めて人形を凝視する。
それは、あまりにも生々し過ぎた。瞳孔の収縮や息づかいすら再現されている。
その肌は自らの肌と比べても何ら遜色もなく、頭髪なども絹糸のようで本物としか思えない。ただその冷たい眼差しだけが、軽い恐怖を煽るだけで。
この様な出来の人形など、トリステインどころかハルケギニア中を探しても見つかりはしない。そうとまで思わせる代物だった。何と言ってもこの人形は、言葉を口にしたのだから。
ガンホーガンズという言葉の意味は理解できないが、レオノフ・ザ・パペットマスターいう名前は恐らく老紳士のものを示すのだろう。人形使い。この老紳士は、人と見違う様な精巧な人形を操るメイジだったのか。
この事実はルイズの心を容易く掌握した。生まれて初めて成功した魔法。サモンサーヴァント。それによって現れたのが、これほど特殊な魔法を操る貴族だったのだ。
今度こそルイズの心は喜びによって満たされていた。老紳士の背後にそびえ立つ、流血する棺の群れの事すら忘却して。
「こ、此度はわたしの召喚にこたえてくださって、あ、ありがとうございます。ミスタ」
喜びと緊張。少しどもってしまったが、おかしな所はなかっただろうか。年長の貴族であるメイジ相手への感謝の言葉は、果たして老紳士に伝わったのだろうか。ルイズは自らの態度を改めながらも、その言葉を止めることはなかった。
「それで、その。早速ですけどコントラクトサーヴァントを……」
ここで、ルイズは気付く。老紳士がメイジであるからには使い魔召喚の儀であることは理解しているだろう。しかし、果たして魔法の使えない自分のような小娘の使い魔になるようなことを、この老紳士の矜持は許すのだろうかと。
自分が立派な使い魔を持ちたい事と同様に、召喚の儀に応じた老紳士も、立派な主を持ちたいと思うのではないだろうか。果たして自分は、“ゼロ”のルイズは、この素晴らしい人形を操るメイジに相応しい主なのだろうか。
その不安はルイズの脳裏を暗雲のように埋め尽くしてゆく。私でいいのか。魔法の使えない、私でいいのか。この老紳士に相応しい主に、果たして私は成れるのか。
喜びと不安に文字通り一喜一憂するルイズを、老紳士は凍れる様な眼差しで“観察”し続ける。ただ、その傍らの人形が、歪んだ笑みで呟いた一言には、誰も気づけなかった。
『悪くない、素材だ』
#navi(ゼロ=パペットショウ)
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