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「ナイトメイジ-28」(2008/12/27 (土) 14:23:19) の最新版変更点
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#navi(ナイトメイジ)
ルイズが絶望と悲嘆に暮れ、頭を抱えて床に跪き、おまけにごろごろ転がって、やけ食いもちょっとばかりした何日か後のこと。
この日もルイズは自室で始祖の祈祷書を広げて
「うーん、うーん」
唸っていた。
別に何回も見ていれば読めるページが増加してくれるんじゃないかと期待しているわけではない。
とゆーか、それはもう済ませて無駄だとわかった。
では、何をしているかというと詔を作ろうとしているのだ。
トリステインの王室には結婚式の際、1人の巫女を選出し、その巫女に始祖の祈祷書を手に詔を唱えさせるという伝統がある。
そのため今の時期、祈祷書は誰にでも貸してよいというものではない。
そこでルイズを巫女に指名した上で、彼女に祈祷書を貸与したのである。
さて、この祈祷書、ルイズ以外の誰が見ても白紙である。
なら詔はどうするかというと、選出された巫女、すなわちルイズが作らなければならない。
そういうわけでルイズは失意のどん底に一度はたたき込まれた精神状態の中で祝いの詔を考えているわけである。
「ぬーーうぐぐぐぐぐ」
と言っても、そんなもの簡単に作れるものではない。
勉学において優秀なルイズはハルケギニアでも有名な詩をいくつも諳んじることができる。
だが、残念ながらルイズのクリエイティブな才能は詩歌を作ると言う方向性においては全く発揮されなかった。
「ねー、ベル。なんかいいのない?」
「そうねー」
全く気のない返事である。
「どうもこうピンと来ないのよね」
「そうねー」
「うまく表現できないのよ」
「そうねー」
ルイズは首を捻ってベッドの上を見る。
ベルはさっきからそこに寝っ転がって全く同じ調子で同じ返事を繰り返していた。
「ねえ、人の話聞いてる?」
「そうねー」
「ところで、この前モンモランシーのカエルの伴奏でキュルケのサラマンダーと学院長のネズミがダンスを披露したんですって」
「そうねー」
「全然聞いて無いじゃないの!」
手近にあった鞄を思い切りぶん投げるが、ベルは寝返りであっさりよける
「危ないわね」
「主人の話はしっかり聞きなさいよ」
「聞いてるわよ。で、なに?」
「あーんーたーわー」
今度はベルに爆発を一発お見舞いするが、それもまた回避されてしまう。
もう一発はベッドのクッションが木っ端微塵になりそうなのでやめた。
「罰よ!何か詔が思いつきそうなこと言いなさい」
「どんなことよ、それ」
「うーん、じゃあ、私が知らない詩を教えてよ。ベルは遠いとこからきたんでしょ。そこの詩で良いわよ」
やる気になったのか、考え始めている。
珍しい。
「四大系統に関する感謝の詩がいいわね」
「そうねー」
また、気のない返事が出てきた。
長引きそうなのでルイズは手を叩いてベルの意識を引き戻す。
「じゃあ、何でも良いわ。とにかく一つずつ行くから。まずは水に関する詩ね」
手を叩くリズムを早くして急す。
10回ほど叩くと首を捻っていたベルがようやく答えた。
「古池や蛙飛びこむ水の音」
確かに詩だ。
詩には違いない。
「あんた、モンモランシーと仲良かったっけ?」
「べつに」
まあ、そういうものなのだろう。
「じゃあ次、土ね」
「朝露や撫でて涼しき瓜の土」
なんかまた短いのを答えてきた。
「じゃあ、火」
「文ならぬいろはもかきて火中哉」
「風!」
「やれ打つな蝿が手をする足をする」
「えっと……」
なんというか、かわされたというか、はぐらかされたというか、すかされたというか。
とにかく予想外なのが出てきた。
「馬鹿にされた気がするわね」
「たぶん気のせいね」
たぶん、である。
「それって詩?」
「分類としては詩ね」
「韻、ふんでないじゃない」
「韻律ならあるでしょ」
「……」
とりあえず黙ってみる。
「変な詩ね。もっと言葉を美しく飾るのが詩ってものでしょ」
「変で良いじゃない。知らない詩がいいと言ったのはルイズよ」
「……」
どう言えばいいかわからなくなってきた。
「だいたい、そんなのどこで聞いてきたのよ」
「試験があったのよ」
期末とか、中間とか、抜き打ちとか、模試とかとはベルは決して言わない。
どっかの学園に潜入する時にはこういう事も押さえておかないといけないのだ。
最悪、下がる男には勝っておかなければならない。
「火といえば……」
そこにシエスタが口を挟んでくる。
この日も今までなにも言わなかったので気付いていなかったが、洗濯したルイズとベルの服を籠に詰めて持ってきていたのだ。
「お芋の用意できそうですよ」
「そう、後はルイズを待つだけね」
「楽しみですね」
「楽しみね。赤外線」
やたらニコニコ笑顔を振りまく2人にルイズもまた笑顔を見せる。
ただし、オーク鬼も裸足で逃げ出しそうな代物ではあったが。
「ふーたーりーとーもー」
おまけに湯気のごとくオーラみたいなものも立ち上ぼらせているし。
「でてってよーーーっ!」
いつ唱えたのかわからないが魔法は失敗する。
5回ほど連続で爆破音が起こり、部屋にはもうもうとした煙が充満品しなにも見えない。
いつの間にか開いた窓から煙が抜ける頃には、ベルもシエスタもどこかに逃げた後だった。
籠を抱えて後ろを振り返るシエスタはルイズの部屋から立ち上る煙を見てほっと一息ついた。
とにかくびっくりした。
ベルに教えられて部屋の窓から飛び下りたはいいが、なんで爆発を起こすほどルイズが怒ってしまったのかさっぱりわからなかったのだ。
でも、怒らせてしまったことには変わりない。
次からはもっと気をつけようと決心したシエスタは籠を抱えなおして次の洗濯物を取りに行こうとした。
「シエスタ」
女子寮の出入り口から声がする。
走っていくと、ベルが扉の段差に腰をかけて待っていた。
「用意はできてる?」
「はい。いつでも出発できますよ」
「じゃあ今から行きましょう」
「今からですか?」
「そう。今から」
急な話たが、できないことはない。
少し同僚に説明しないといけないだろうけど。
「でも、ミス・ヴァリエールは良いんですか?」
「そうね……じゃ、言ってきてちょうだい。でかけるって」
さっき爆裂させたすぐ後だ。
実のところちょっと怖い。
「では、言ってきますね」
シエスタはぱたぱた足音を立てて、さっき上ったばかりの階段をもう一度上っていく。
その足音を聞きながらベルはどことも知れない場所に顔を向けた。
「そこの、青い髪のメイジさん。あなたも一緒にどう?」
2人を追い出したルイズは再び机に向かう。
──これで静かになった
とはいえ、静かになったところでひょいひょい良い詩が浮かんでくる者ではない。
状況としては最初に戻ったも同然でルイズはまたもや額に青筋の一つくらい立てそうになりながらうんうん唸り始めた。
「あの、ミス・ヴァリエール……」
扉が少しだけ開いて、シエスタの声が聞こえてきた。
煮詰まりまくった集中をしているルイズはそちらに顔を向ける余裕もない。
白紙の祈祷書を睨みつけたまま。
「なに?」
とだけ答えた。
「ベル……………………………ブに行くんです。あ、タル……………………な…………で、………リエールはどうします?」
頭の中が詔で一杯になっているルイズにはシエスタの言っていることが全部頭に入らない。
どうするかと聞いているようだが、とにかく今は邪魔されたくない。
なのでルイズは適当に答えることにした。
「いいわー」
「わかりました。そう伝えますね」
扉の留め金がカチリと音を立て、足音が少しずつ遠ざかっていく。
それが消えても良いフレーズは一つも浮かんでこなかった。
#navi(ナイトメイジ)
#navi(ナイトメイジ)
ルイズが絶望と悲嘆に暮れ、頭を抱えて床に跪き、おまけにごろごろ転がって、やけ食いもちょっとばかりした何日か後のこと。
この日もルイズは自室で始祖の祈祷書を広げて
「うーん、うーん」
唸っていた。
別に何回も見ていれば読めるページが増加してくれるんじゃないかと期待しているわけではない。
とゆーか、それはもう済ませて無駄だとわかった。
では、何をしているかというと詔を作ろうとしているのだ。
トリステインの王室には結婚式の際、1人の巫女を選出し、その巫女に始祖の祈祷書を手に詔を唱えさせるという伝統がある。
そのためアンリエッタの結婚が迫った今の時期、祈祷書は誰にでも貸してよいというものではない。
そこでルイズを巫女に指名した上で、彼女に祈祷書を貸与したのである。
さて、この祈祷書、ルイズ以外の誰が見ても白紙である。
なら詔はどうするかというと、選出された巫女、すなわちルイズが作らなければならない。
そういうわけでルイズは失意のどん底に一度はたたき込まれた精神状態の中で祝いの詔を考えているわけである。
「ぬーーうぐぐぐぐぐ」
と言っても、そんなもの簡単に作れるものではない。
勉学において優秀なルイズはハルケギニアでも有名な詩をいくつも諳んじることができる。
だが、残念ながらルイズのクリエイティブな才能は詩歌を作ると言う方向性においては全く発揮されなかった。
「ねー、ベル。なんかいいのない?」
「そうねー」
全く気のない返事である。
「どうもこうピンと来ないのよね」
「そうねー」
「うまく表現できないのよ」
「そうねー」
ルイズは首を捻ってベッドの上を見る。
ベルはさっきからそこに寝っ転がって全く同じ調子で同じ返事を繰り返していた。
「ねえ、人の話聞いてる?」
「そうねー」
「ところで、この前モンモランシーのカエルの伴奏でキュルケのサラマンダーと学院長のネズミがダンスを披露したんですって」
「そうねー」
「全然聞いて無いじゃないの!」
手近にあった鞄を思い切りぶん投げるが、ベルは寝返りであっさりよける
「危ないわね」
「主人の話はしっかり聞きなさいよ」
「聞いてるわよ。で、なに?」
「あーんーたーわー」
今度はベルに爆発を一発お見舞いするが、それもまた回避されてしまう。
もう一発はベッドのクッションが木っ端微塵になりそうなのでやめた。
「罰よ!何か詔が思いつきそうなこと言いなさい」
「どんなことよ、それ」
「うーん、じゃあ、私が知らない詩を教えてよ。ベルは遠いとこからきたんでしょ。そこの詩で良いわよ」
やる気になったのか、考え始めている。
珍しい。
「四大系統に関する感謝の詩がいいわね」
「そうねー」
また、気のない返事が出てきた。
長引きそうなのでルイズは手を叩いてベルの意識を引き戻す。
「じゃあ、何でも良いわ。とにかく一つずつ行くから。まずは水に関する詩ね」
手を叩くリズムを早くして急す。
10回ほど叩くと首を捻っていたベルがようやく答えた。
「古池や蛙飛びこむ水の音」
確かに詩だ。
詩には違いない。
「あんた、モンモランシーと仲良かったっけ?」
「べつに」
まあ、そういうものなのだろう。
「じゃあ次、土ね」
「朝露や撫でて涼しき瓜の土」
なんかまた短いのを答えてきた。
「じゃあ、火」
「文ならぬいろはもかきて火中哉」
「風!」
「やれ打つな蝿が手をする足をする」
「えっと……」
なんというか、かわされたというか、はぐらかされたというか、すかされたというか。
とにかく予想外なのが出てきた。
「馬鹿にされた気がするわね」
「たぶん気のせいね」
たぶん、である。
「それって詩?」
「分類としては詩ね」
「韻、ふんでないじゃない」
「韻律ならあるでしょ」
「……」
とりあえず黙ってみる。
「変な詩ね。もっと言葉を美しく飾るのが詩ってものでしょ」
「変で良いじゃない。知らない詩がいいと言ったのはルイズよ」
「……」
どう言えばいいかわからなくなってきた。
「だいたい、そんなのどこで聞いてきたのよ」
「試験があったのよ」
期末とか、中間とか、抜き打ちとか、模試とかとはベルは決して言わない。
どっかの学園に潜入する時にはこういう事も押さえておかないといけないのだ。
最悪、下がる男には勝っておかなければならない。
「火といえば……」
そこにシエスタが口を挟んでくる。
この日も今までなにも言わなかったので気付いていなかったが、洗濯したルイズとベルの服を籠に詰めて持ってきていたのだ。
「お芋の用意できそうですよ」
「そう、後はルイズを待つだけね」
「楽しみですね」
「楽しみね。赤外線」
やたらニコニコ笑顔を振りまく2人にルイズもまた笑顔を見せる。
ただし、オーク鬼も裸足で逃げ出しそうな代物ではあったが。
「ふーたーりーとーもー」
おまけに湯気のごとくオーラみたいなものも立ち上ぼらせているし。
「でてってよーーーっ!」
いつ唱えたのかわからないが魔法は失敗する。
5回ほど連続で爆破音が起こり、部屋にはもうもうとした煙が充満してなにも見えない。
いつの間にか開いた窓から煙が抜ける頃には、ベルもシエスタもどこかに逃げた後だった。
籠を抱えて後ろを振り返るシエスタはルイズの部屋から立ち上る煙を見てほっと一息ついた。
とにかくびっくりした。
ベルに教えられて部屋の窓から飛び下りたはいいが、なんで爆発を起こすほどルイズが怒ってしまったのかさっぱりわからなかったのだ。
でも、怒らせてしまったことには変わりない。
次からはもっと気をつけようと決心したシエスタは籠を抱えなおして次の洗濯物を取りに行こうとした。
「シエスタ」
女子寮の出入り口から声がする。
走っていくと、ベルが扉の段差に腰をかけて待っていた。
「用意はできてる?」
「はい。いつでも出発できますよ」
「じゃあ今から行きましょう」
「今からですか?」
「そう。今から」
急な話たが、できないことはない。
少し同僚に説明しないといけないだろうけど。
「でも、ミス・ヴァリエールは良いんですか?」
「そうね……じゃ、言ってきてちょうだい。でかけるって」
さっき爆裂させたすぐ後だ。
実のところちょっと怖い。
「では、言ってきますね」
シエスタはぱたぱた足音を立てて、さっき上ったばかりの階段をもう一度上っていく。
その足音を聞きながらベルはどことも知れない場所に顔を向けた。
「そこの、青い髪のメイジさん。あなたも一緒にどう?」
2人を追い出したルイズは再び机に向かう。
──これで静かになった
とはいえ、静かになったところでひょいひょい良い詩が浮かんでくるものではない。
状況としては最初に戻ったも同然でルイズはまたもや額に青筋の一つくらい立てそうになりながらうんうん唸り始めた。
「あの、ミス・ヴァリエール……」
扉が少しだけ開いて、シエスタの声が聞こえてきた。
煮えたぎった頭で集中をしているルイズはそちらに顔を向ける余裕もない。
白紙の祈祷書を睨みつけたまま
「なに?」
とだけ答えた。
「ベル……………………………ブに行くんです。あ、タル……………………な…………で、………リエールはどうします?」
頭の中が詔で一杯になっているルイズにはシエスタの言っていることが全部頭に入らない。
どうするかと聞いているようだが、とにかく今は邪魔されたくない。
なのでルイズは適当に答えることにした。
「いいわー」
「わかりました。そう伝えますね」
扉の留め金がカチリと音を立て、足音が少しずつ遠ざかっていく。
それが消えても良いフレーズは一つも浮かんでこなかった。
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