「デモゼロ-10」(2008/12/17 (水) 21:57:38) の最新版変更点
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#navi(デモゼロ)
馬鹿力のルイズ
フーケの隠れ家で悪魔の種を取り返した
しかし、どうした事だろう
悪魔の種は、ルイズの手の上で消えてしまった
………否
ルイズの中に、吸収された
そして、聞こえてきたのはロングビルの悲鳴、それと
獣のような、何者かよくわからぬ、雄叫び
「…ロングビル!?」
ただ事ではない、この悲鳴
…まさか、フーケが現れたのか!?
ルイズたちは杖を構え…ルイズだけは、デルフリンガーを逆手に持って…小屋から飛び出した
そこに広がるのは、目を疑うような状況
囲まれている
この小屋が…見たこともないような化け物に、囲まれていた
人間を歪に肥大化させ、裂けた皮膚から筋肉繊維が露出しているような、醜い化け物
鋭い牙や爪をもったその姿は、まるで人を傷つけるために、食らうために存在しているように見えた
それが、ざっと四、五体
「っつ……」
ぽたり
その化け物共を睨みつけ、杖を構えるロングビル
ぽたり
左肩の服が破け、血に染まっていた
右肩の上では、モートソグニルが必死に肩に掴まって、そこから化け物たちを睨みつけている
「ミス・ロングビル!こ、これは一体…!?」
「わ、わかりません…気がついたら、もう、囲まれていて…」
キュルケの問いに、荒く息を吐きながら答えるロングビル
見た目ほど酷い怪我ではないようだが…とにかく、早く治療するべきだろう
…だと、しても
まずは、この化け物共に囲まれているこの現状だから、脱出しなければならないのだが
「な、何よ、あれ…あんな化け物、見た事もないわ…」
「……初めて見た」
勉強熱心で、様々な魔物に関する知識も持ち合わせているルイズも
図書室の本は、学生が読むことを許可されている物ならほぼ読み終えているはずのタバサでさえも、初めて見た化け物
こちらに向けてきているのは、敵意、殺意
剥き出しのその殺意に、ルイズはぞくりと体を振るわせた
「あ、悪魔の、種は?」
油断なく化け物たちを睨みつけ、杖を向けたまま、尋ねて来るロングビル
化け物たちは、こちらの様子を窺っているのか…ひとまず、飛び掛ってくる様子はない
「そ、それが…消えて、しまって」
「え?」
「相棒の体ん中に、入っちまったんだよ!!」
うまく答えられないルイズに変わって、デルフリンガーが叫ぶ
な、とロングビルは、驚愕の表情を浮かべた
「は、入ってしまった、って…」
「わかりません。でも、私が手に持ったら…消えて、しまって。でも…わかるんです。悪魔の種が、私の体の中に、入ったって」
そうだ
ルイズは、今もその存在を感じる事ができる
…あの、悪魔の種は
ガルムハンマーとやらは、自分の中にある
そして…自分は、それを「使える」のだと、漠然と理解できた
だが、何故だ?
何故、そんな物が自分の中に入ってきて
それを、扱う事が、できるのだ?
わからない、わからない、わからない、わからない
理解しているはずなのに、理解できぬ現状に、ルイズの思考は混乱していた
「…とにかく、この場は逃げるべきね。タバサでも正体のわからない化け物がこんなにいるんじゃあ。私たちじゃ、対処しきれないでしょうし」
「私も、そう思います。あの化け物…恐ろしい怪力です。油断したら、私たちなどあっと言う間に粉みじんでしょう」
キュルケとロングビルの声で、思考の渦から引き上げられるルイズ
タバサが口笛を吹いて、待機していたシルフィードを呼び寄せようとした
きゅいー!と声をあげ、シルフィードがルイズたちの頭上まで飛んでくる
幸い、シルフィードが隠れていた辺りには、化け物たちがやってこなかったらしい
とにかく、シルフィードに回収してもらって…
「え?」
ルイズの、視界に
何かが、シルフィードに向かって、跳び上がったのが…見えた
「っ駄目、逃げて!!」
「きゅい!?」
がし、と
跳び上がったそいつは、シルフィードの背中に張り付いた
きゅいいいいーーー!?とパニックに陥ったのか、シルフィードは暴れ出す
「きゅい!きゅいぃーー!」
ぶんぶんぶん!!
必死に振り落とそうとしているが、そいつはしっかりとシルフィードの背中にしがみ付いているようで、離れない
遠めだからよく見えないが……あれは、タコ?
いや、違う
タコのように見えるのは上半身だけで、下半身は人間のように見えた
どちらにせよ、あれも見た事もないような化け物だ
空から逃げる、と言う選択肢が…失われた
嫌なのねー!ぬるぬるして気持ち悪いのね、離れるのねー!!とか聞こえてくるような気がするが気のせいだろう
シルフィードは韻竜ではなく風竜なのだから喋るはずがない、混乱しているせいで、変な幻聴が聞こえてきているようだ
「…どうしましょうか」
「………」
す、と
タバサが、決意した表情で杖を構える
それを見て、キュルケもまた、杖を構えた
ロングビルも、構えた杖を下ろそうとしない
「相棒、覚悟決めるしかないんじゃねぇのか?」
「……そうね」
あぁ、そうだ
もう、この選択肢しか、ないではないか
すなわち…この化け物共を、倒して
ここから、生きて帰る
それしかないじゃないか
杖を、デルフリンガーを、握り緊める
タタカエ
タタカエタタカエタタカエタタカエタタカエ!!
頭の中で響く声
煩い、わかっている
言われなくたって、もう、戦うしかないのだから
「ファイヤーボール!!」
キュルケが発した火球が、化け物たちに向かってまっすぐに飛んでいった
シャギャァ!と奇声をあげて、化け物たちは火球の直撃を避けるべき動き出す
爆音と共に、一体が吹き飛ばされ、二体が直撃を避けて横に跳ぶ
タバサの放ったエア・ハンマーがその片割れを吹き飛ばしたが、それらの攻撃で、相手もまた、動き出した
奇声をあげながら、地を蹴り、こちらに向かってくる
グロテスクな化け物が、迫ってくる恐怖
しかし、ルイズはその恐怖を押し殺す
震えている場合ではない、恐怖している場合ではない
…戦わなければ!
「ファイヤーボール!」
どごぉん!!
キュルケのように魔法を放とうとして、しかし、発生したのは爆発
が、その爆発はむしろキュルケの火球以上に圧倒的な威力を持って化け物を吹き飛ばした
吹き飛ばされた化け物が、太い木の幹に激突し、動かなくなる
「…っ走りますよ!」
ロングビルの掛け声を合図に、四人は走り出す
この化け物共相手に、律儀に相手をする必要はない
逃げ出し、魔法学院に、この事を報告しなければ
シルフィードを置いていくのは心が痛むが…無事に生き延びてくれる事を祈るしか、ない
逃げ出そうとするルイズたちの姿に、化け物が咆哮をあげる
びりびりと空気を振るわせる、まるで遠吠えのような声
まるで、その咆哮を聞きつけたかのように…新たに、化け物たちがルイズたちの目の前に立ちふさがった
「っく…まだいるの!?」
再び魔法を放とうと、杖を構えるキュルケ
しかし、魔法は放たれること、なく
「………っ!?」
「…キュルケ!?」
声にならない悲鳴をあげるキュルケ
キュルケの魔法で吹き飛ばされた化け物が、何時の間にか背後まで近づいてきていて
その鋭い牙が…キュルケの右肩に、深く、食い込んでいた
「っこの!」
助けなければ!
左手に構えていたデルフリンガーを、化け物に振り下ろすルイズ
しかし、化け物は即座にキュルケを放し背後に飛びのき、デルフリンガーは宙を切る
ぱ…と、キュルケの肩から噴出した血が、ルイズの視界を埋め尽くす
「キュルケ…キュルケ!」
「…だい、じょうぶ」
気丈に声を絞り出すキュルケだが…血は、とどまる事なく溢れ続ける
ロングビルが受けた傷よりも、ずっと深い
「タバサ!」
「…水の秘薬がないから、簡単な治療しか、できない」
いつもの無表情ではなく、苦虫を噛んだ表情で答えながら、タバサが呪文を唱え、杖を振るう
とにかく…とにかく、出血だけでも止めなければ、命が危ない
荒く呼吸をするキュルケを、ルイズはじっと見つめた
…許さない
許さない!!
内側から湧き上がる怒り
フーケが、キュルケとシエスタを危険な目にあわせた時と同じような
いや、それ以上の怒りが、ルイズの内側から湧き上がってくる
ざわり、ざわり
怒り、だけではない
体の内側から、何かが湧き上がってくるような衝動
びき、と…爪が伸び始めている事に、ルイズは気づいていない
「ちゅ……」
…そして
キュルケが負傷した、その姿を、見て
っとん、と
ロングビルの肩から、モートソグニルが、飛び降りた
次の、瞬間
四人の目の前で、目を疑うような光景が映し出された
ロングビルの肩から飛び降りたモートソグニル
その姿が掻き消え…代わりにそこに現れたのは、端整な顔立ちをした青年
質の良さそうな服に身を包んだ青年は、き、とルイズたちを囲む化け物たちを睨み付けた
刹那…化け物の一体が、シャギャ!?と何か恐ろしいものでも見たような悲鳴をあげ、後ずさる
「…ここから、逃げるのでちゅ!
青年に、そう声をかけられても
思考が、追いついてこない
「早く、早く逃げるのでちゅ!ここは僕に任せるのでちゅ!」
青年は叫ぶ
じゅる、と、その青年の服の袖口から、植物の蔦のような…
いや、一言で言うならば、触手のようなものが現れ、すぐ傍の木に向かって伸ばされる
……ぼごっ
触手が木を引っこ抜き、化け物たちに向かって投げつけられる
一体が逃げ遅れて押しつぶされ、ギャアと悲鳴をあげた
「早く!早く、逃げるのでちゅ!」
…逃げる?
何を、言っているんだ
こいつらは、ロングビルを傷つけたではないか
キュルケを、傷つけたではないか
…逃げる?
冗談じゃない!!
私は、こいつらを絶対に許さない
この手で……ギッタンギッタンにしてやる!!
「…ルイ、ズ?」
ざわり
ルイズの髪の毛が、ざわざわと、逆立っている
何かの比喩などではなく…本当に、逆立ってきているのだ
びき、びき、と
杖を、デルフリンガーを掴む手の、爪も、伸び始めていて
「相棒…おい、どうなってんだ、相棒!?」
デルフリンガーの叫びは…果たして、ルイズの耳に届いているのだろうか?
メキメキ、と聞こえてきた音は、何の音だ?
出血のせいか、視界が霞む中…それでも、キュルケは必死に、目の前のルイズを見つめていた
許さない
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!
怒りに染まる思考
内側から湧き上がる衝動を、ルイズは抑えようとしなかった
衝動に任せ…体に起こる変化に、途惑いながらもそれを止めようとはしない
めきめきと音をたて、筋肉が肥大化していく
服がそれに耐えられなくなったのだろう、ビリビリと裂けていくが、気にもとめない
体中が毛で覆われていっている、爪が、牙が伸びている
顔の形も、変わっているような気がした
タバサは、目の前で起きている光景を、信じられない、と言った表情で見つめていた
目の前で、ルイズの姿が変化していっている
それは、まるで人狼が、人の姿から元の姿へと変わっていくような変化
…しかし、桃色の毛並みをした人狼など、果たして存在するのか?
モートソグニルは、あぁ、やっぱり、と思った
やはり、彼女は自分と同じようになっていたのだ、と
何故、もっと早く彼女に伝えなかったのだろう
何故、もっと早く気づけなかったのだろう
後悔しても遅いのだ
変化を終えて…ルイズは、吼えた
二つの月が見下ろす下、吼えるルイズの姿は
彼女が夢の中で見た桃色の毛並みの獣人、そのものだった
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