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虚無の少女と蒼穹の少年
何度も何度も、必死で呪文を唱えたのに呪文は少女に応えてくれなかった。
既に日は落ちかけ皆が帰りだす中、少女はもうこれで最後にしようとありったけの気合いを込めて呪文を唱える。
その気合いと思いは、報われることとなる。
「きゃあっ!!」
轟音と共に現れたのは青い鋼の巨人。
やった。私はなんてものを呼び出せたのだろう。と思ったのも束の間。
その巨人は片腕を無くし、ところどころが痛んでいるのがすぐに分かった。
どうしよう、あの巨人は痛がっているのではないかと思った矢先、
巨人の胸元が開き、一つの人影が視界に入る。
ぴったりと身体に貼りつくような服に、見たこともない意匠の兜を被った小柄な、おそらく男性。
先に足場のような器具がついた紐に足をかけ、するすると降りてくる。
兜の人物は少女の前に立ち、兜を脱いだ。
若い。私と同じ位の年なのではないか。
顔立ちは悪くなく、むしろ整っていると言ってよい。
このへんでは見かけない系統の顔だ。しいて言うなら昔行商に来た、砂漠の民に近い。
所は変わってロマリア。
ハルケギニアの民の心をまとめる若き教皇。
その横には眼帯の青年が控えていた。
「我が天使よ、戻ったか」
ガリアのヴェルサルテイル宮殿では、
ウェーブのかかったすみれ色の髪と藤色のドレスの若く美しい貴婦人が、国王ジョセフに任務の労を労われていた。
否、ドレスを着ているから貴婦人に見えるのであって、身体は華奢ではあるものの胸の膨らみは無いに等しい。
男性物の衣装を着せればどこの王子にも負けない貴公子に早変わりするだろう。
そのような中性的な魅力の人物であった。
またまた所変わってアルビオン。
酒場ではとある狩人が森で怪我をしたときに「金色とすみれ色の妖精に助けられた」という話をしていた。
金色の娘はとにかく胸が大きくて、すみれ色の娘の胸は本当に平らだったとか。
あと、すみれ色の方は「こんな服しか無いのか」と、スカートに握り締めながらぶつくさ言っていたとかなんとか。
学園に仕えるメイドは、洗濯物を取り込んでいた。
彼女が居る所からでも、轟音と共に現れた鋼の巨人ははっきりと見える。
似ている。と彼女は思った。
タルブの生家の裏山に、にょきりと生えるように突き刺さっている橙色の鋼の翼と、倒れている桃色の巨人。
祖父と祖母はそれに乗って空から落ちてきたと話していたが、大人達は酒の席の与太話だと笑い飛ばしていた。
しかし彼女と従姉だけは真剣に、その話を信じていた。
ブリミルの昔話に出てくるような天にまで届く高き恵みの塔。
鋼の巨人たちによる激しい戦争。
天から舞い降りる鋼の天使たち。
それは彼女達にとっては、半分が真実で半分がおとぎ話であった。
祖父も祖母も年の割には元気で若く見えたが、半年前に流行ったガリア風邪であっけなく始祖の元へ召されてしまった。
しかし、そんなことは今はどうでもいい。
あの鋼の巨人は、一体何なのか。家の裏庭に突き刺さってるあれと同じ物なのか。
居てもたってもいられなくなった黒髪に月目のメイドのシエスタは鋼の巨人の方へ走り出していった。
少年にまっすぐ見つめられてどぎまぎしている少女が先に口を開いた。
「あ、あんた名前は?」
「俺は刹那・F・セイエイ。」
「俺がガンダムだ。」
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