「ゼロの使い-04」(2008/12/05 (金) 20:15:54) の最新版変更点
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#navi(ゼロの使い)
その日の夜、メディルは主人の部屋で、ルイズから大目玉を食らった。あの決闘騒ぎの後、強制的に部屋に連行されたのだ。
「いい!?あんたの魔法はどれ一つとっても桁外れなんだから、矢鱈と他人に撃つんじゃないわよ!?」
「御意。」
そんな人物に決闘を任せたのは誰だと、彼は反論しなかった。
不本意とはいえ、彼女は今の自分の主。逆らうことは出来ない。
その時―メディルは微かな空気の震えを感じ取った。
「何か聞こえなかったか?」
「はぁ?何も聞こえないわよ。気のせいじゃないの?」
「そうか?中庭の方から巨人が壁を殴るような音が聞こえたのだが・・・」
「・・・もしかして・・・」ルイズが何かを思い出し、ベッドから立ち上がり、机の上に置いた杖を持って、使い魔を連れて部屋を出て行った。
中庭では、30メイルはあろうかと言うゴーレムが主を肩に乗せ、学院の壁にパンチを連続で繰り出していた。
このゴーレムの主は今トリステインを騒がせている貴族専門の盗賊・土くれのフーケである。
「全くとんでもない壁だねぇ。」
今破壊しようとしている壁は『禁忌の箱』と呼ばれるものに入った『秘術の書』と呼ばれる秘宝が眠る宝物庫の壁だった。
普段なら扉や壁を土くれに変えて、獲物をいただくフーケだが、流石に学院の宝物庫には通用せず、止む無くゴーレムによる破壊と言うフーケらしからぬ野蛮な手段をとったのだ。
しかし、何度殴りつけても壁は崩れるどころか、ヒビ一つ入らない。フーケは焦っていた。
「早くしないと・・・教師共ならまだしも、あのとんでもない使い魔に襲われたら一巻の終わりだ。」
無論、それはメディルの事である。あれは化け物だ。と彼女の経験が言っている。
そして、それは正しい考えであった。化け物という意味で。
その時、ゴーレムの右肩が爆発し、腕が轟音と共に地面に落ちた。
振り向くと、最も会いたくなかった者を引き連れた、桃色の髪の少女がいた。
「土くれ!大人しく縛につきなさい!」
しかし、この盗族が大人しくお縄になるはずも無く。
「チイッ!こうなりゃヤケだ!」
フーケはすぐさま錬金で落とされた右腕を修復し、そのままゴーレムの両腕をルイズ達に振り下ろす。
メディルは余裕で回避したが、ルイズは辛うじて避けたと言う程度だった。
その様子がフーケには不可解だった。
(おかしい・・・魔法で迎撃してこないなんて・・・)
てっきり、あっさりと返り討ちにされると思っていただけに、この光景は意外だった。
が、すぐにチャンスだとばかりに攻撃態勢に入る。巨体ゆえ、動作は緩慢だったが。
「何で魔法を使わないのよ!」
ルイズが強力なメイジであるにも拘らず、目の前の敵に魔法を使わなかった使い魔に喚く。
「他人に魔法を撃つなと言うからそれに従っている。」メディルは事務的に返した。
「くっ・・・もういいわよ!!」
メディルは役に立たぬと判断したルイズが、再び杖をゴーレムに向ける。
ルイズは失敗魔法をぶつけ続けるが、いくら壊してもたちどころに修復してしまう。
ならば、フーケ自身をと思うが、狙いがうまく定まらず、ゴーレムに無意味な傷を付けるに終わった。
そして敵は動きは遅いが、拳や腕の攻撃範囲は広く、ルイズは繰り出される度、紙一重でかわしていた。
やがて、杖を持つ手も震え、足にも限界が来た。
「自慢の使い魔も、戦わなけりゃどうって事はないわね。」
フーケの嘲笑を合図に、再び両腕を振り下ろそうとするゴーレム。
ルイズは逃げようとしたが、足がもつれて転んでしまった。
殺られる・・・!!死を覚悟し、目を瞑った。
「イオナズン!!」
世界の果てまで届く様な爆音が響いた。
ルイズが恐る恐る目を開けると、ゴーレムは文字通り粉々に吹き飛んでいた。フーケが壊そうとしていた壁ごと。
呪文の主が淡々と告げた。
「私が受けた指令は『主人を守る』そして『他人を撃つな』。だから『人間』は撃たずに主を守った。何か問題は?」
ルイズは首を大きく横に振った。
空中のフーケが舌打ちしながら、つぶやいた。
「くっ・・・悔しいが、あいつは敵う相手じゃない、ここは引き上げ・・・」
「メディル!そいつは例外!!撃ちまくって!!」
「御意。だが撃ちまくる必要はない。」
メディルは空中のフーケに狙いをつけて、普段よりいっそう不気味な口調でつぶやいた。彼の世界で恐れられた恐怖の言葉を。
「ザキ。」
その瞬間、フーケの耳に訳の分からない言葉が響き、その言葉を聞いた瞬間、フーケの心臓が止まった。
何が起こったのかわからぬまま、彼女の体は地に、魂は地獄に落ちた。
その様子を見たルイズは喜びのあまり思わずメディルに抱きついたが、本人はノーリアクションであった。
「やったわね!でもあれはどういう呪文なの?」
「即死の魔法だ。より高位のものなら複数の生物の命を奪うことも可能だ。」
「・・・つくづくとんでもないメイジねあなたは。」
「それより、怪盗の顔を拝んだらどうだ。恐らくこの学院内部の人間の筈だ。」
そんな馬鹿なと疑いながらも、言われるまま死体のフードを剥ぐと、そこにはルイズの見知った、学院長秘書のロングビルの顔があった。
「フーケの正体が・・・彼女だったなんて・・・あれ?」
ルイズは辺りを見回したが、メディルの姿は無かった。
あるのは盗賊の死体と戦いで壊れた壁と、夜空に浮かぶ2つの月だけであった。
メディルは先程崩壊した壁から宝物庫に侵入していた。実はコルベールの研究所を訪れる前に、宝物庫(扉を開ける事は出来たが、無用なトラブルを避けるため入らなかった)に来ていたのだ。
彼にとって、馴染み深い気を内部から感じたが故に。ちなみに、フーケは彼の後に宝物庫に来ていた。
「起きろ、パンドラ。私だ。」
彼に命じられたそれは勢いよく口を開けた。
それは緑色の宝箱・・・に見えた魔物だったのだ。それもある意味魔王よりも恐ろしいと謳われた程の。
鋸歯の並んだ口の中には一本の巻物が入っていた。メディルにとって見間違える筈の無い巻物だ。
メディルが知る由も無いが、これがフーケの狙った『禁忌の箱』と『秘術の書』の正体だった。
「どうやらここの責任者に掛け合う必要がありそうだな。」と言い残し、彼は自分を呼ぶ主の元へ帰った。
翌日、フーケの一件で二人は学院長に呼び出されることになった。何故かコルベールも同席している。
「よくやってくれた。ミス・ヴァリエールにはシュヴァリエの称号が間もなく授与されるであろう。」
「光栄にございます。」と会釈するルイズ。辛うじて平静さを保っているものの、今の彼女は幸福の絶頂にいた。
「それにしてもミス・ロングビルがのう・・・盗人とはいえ、生け捕りにすることは出来んかったのかのう?」
「学院長殿、此度の立役者に対して、そのような物言いはどうかと。どの道極刑は免れなかったでしょうし。」
「コルベール、君も彼女には御執心じゃなかったのかね?」
「え・・・ええ。確かに。」と言いながら頬を染めるコルベール。
「そろそろこちらの用件も言わせてもらいたいのだが。」
「コラ!学院長に対してなんて口を・・・」ルイズが怒鳴る。
「学院長殿、宝物庫に眠っている箱と巻物。あれは私がかつて持っていたものに相違ありません。お返しいただきたい。」
「ほう・・・あの恐るべき生き物と巻物は君の世界のものじゃったか。」
「一体どういうことですか、学院長。」
「ふむ・・・あれは30年前・・・森を散策していたワシは3頭のワイバーンに襲われた。
じゃが、奴らの足が偶然、落ちていたあれにあたり、怒ったあれは『ザラキ』とか言う呪文で2頭を仕留め、
最後の一頭の頭を噛み砕いたのじゃ。あれの口の中に巻物が見えたのはほんの一瞬じゃった。」
「メディル・・・ひょっとしてあんたの使った呪文の・・・」
「うむ。強化版だ。しかし、私はその上を使うことが出来る。やってみるか?」
「遠慮しとく。」と青い顔で否定するルイズ。
「まあ、君の世界のものだとは君を見たときからうすうす感じていた。今日、君がそう申し出ることも予測していた。」
オスマンが目線を送ると、コルベールがあの禁忌の箱を取り出し、受け取ったメディルが中身の確認を行う。
「さて、ここからはミス・ヴァリエールには席を外してもらう。」
「え・・・あ、はい!」
相手が相手とあってか、ルイズは素早く退室した。
「さて・・・メディル君・・・君のそのルーンだが・・・」
「さしずめ、知識を与えるルーン・・・と言ったところでしょうか?」
その言葉に、オスマンもコルベールも腰を抜かした。
「な・・・何故その事を・・・」
当然の驚きだった。異世界の存在であるメディルが知り得る筈の無い、ルーンの効能を言い当てたのだから。
そのルーンに関する情報はこの学院内では生徒の閲覧を禁じている、魔法の罠が多数張り巡らされたフェニアのライブラリーにしか無く、
いかにメディルといえど、侵入すれば何らかの痕跡くらいは残す筈だったからだ。無論、そんな物は無かった。
少なくとも、フーケ襲撃と同じ頃、コルベールがルーンを調べに行った時には。
「何故・・・?それはそうだろう。・・・この巻物の文字が・・・読めるのだから!!」
「しかし、それは君の世界の文字で・・・」「この巻物は・・・」
コルベールの言葉を遮り、メディルがいつもとは違った声と口調で答え始めた。
「この巻物は私を含めた多くの魔術師が解読に挑み、挫折した古代魔法の書!!
この私の英知と魔力・・・そして莫大な時間をもってしても只の一文字も解読できなかったものが、
今はすらすらと読める。考えられることは只一つ、この世界で身に付けたこのルーン。」
「な・・・なるほど・・・」と納得するコルベール。
「それはミョズニルトンという伝説の使い魔のもので、あらゆるマジックアイテムを使いこなす頭脳をもたらすと言うのじゃ。」
「そうか。クククク・・・ハハハハハッ!!」
普段は冷静沈着なメディルが異様なまでに興奮していた。
この巻物は魔王軍在籍時代、彼が暇を見つけては研究していたものだった。
無論、解読によって得た結果を魔王軍の利益にするつもりではいたし、魔王自身の許可も得ていた。
しかし、彼は魔王の配下である前に、一人の魔術師だった。
解読を始めた動機は、軍務よりも私的な好奇心だった。
#navi(ゼロの使い)
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その日の夜、メディルは主人の部屋で、ルイズから大目玉を食らった。あの決闘騒ぎの後、強制的に部屋に連行されたのだ。
「いい!?あんたの魔法はどれ一つとっても桁外れなんだから、矢鱈と他人に撃つんじゃないわよ!?」
「御意。」
そんな人物に決闘を任せたのは誰だと、彼は反論しなかった。
不本意とはいえ、彼女は今の自分の主。逆らうことは出来ない。
その時―メディルは微かな空気の震えを感じ取った。
「何か聞こえなかったか?」
「はぁ?何も聞こえないわよ。気のせいじゃないの?」
「そうか?中庭の方から巨人が壁を殴るような音が聞こえたのだが・・・」
「・・・もしかして・・・」ルイズが何かを思い出し、ベッドから立ち上がり、机の上に置いた杖を持って、使い魔を連れて部屋を出て行った。
中庭では、30メイルはあろうかと言うゴーレムが主を肩に乗せ、学院の壁にパンチを連続で繰り出していた。
このゴーレムの主は今トリステインを騒がせている貴族専門の盗賊・土くれのフーケである。
「全くとんでもない壁だねぇ。」
今破壊しようとしている壁は『禁忌の箱』と呼ばれるものに入った『秘術の書』と呼ばれる秘宝が眠る宝物庫の壁だった。
普段なら扉や壁を土くれに変えて、獲物をいただくフーケだが、流石に学院の宝物庫には通用せず、止む無くゴーレムによる破壊と言うフーケらしからぬ野蛮な手段をとったのだ。
しかし、何度殴りつけても壁は崩れるどころか、ヒビ一つ入らない。フーケは焦っていた。
「早くしないと・・・教師共ならまだしも、あのとんでもない使い魔に襲われたら一巻の終わりだ。」
無論、それはメディルの事である。あれは化け物だ。と彼女の経験が言っている。
そして、それは正しい考えであった。化け物という意味で。
その時、ゴーレムの右肩が爆発し、腕が轟音と共に地面に落ちた。
振り向くと、最も会いたくなかった者を引き連れた、桃色の髪の少女がいた。
「土くれ!大人しく縛につきなさい!」
しかし、この盗族が大人しくお縄になるはずも無く。
「チイッ!こうなりゃヤケだ!」
フーケはすぐさま錬金で落とされた右腕を修復し、そのままゴーレムの両腕をルイズ達に振り下ろす。
メディルは余裕で回避したが、ルイズは辛うじて避けたと言う程度だった。
その様子がフーケには不可解だった。
(おかしい・・・魔法で迎撃してこないなんて・・・)
てっきり、あっさりと返り討ちにされると思っていただけに、この光景は意外だった。
が、すぐにチャンスだとばかりに攻撃態勢に入る。巨体ゆえ、動作は緩慢だったが。
「何で魔法を使わないのよ!」
ルイズが強力なメイジであるにも拘らず、目の前の敵に魔法を使わなかった使い魔に喚く。
「他人に魔法を撃つなと言うからそれに従っている。」メディルは事務的に返した。
「くっ・・・もういいわよ!!」
メディルは役に立たぬと判断したルイズが、再び杖をゴーレムに向ける。
ルイズは失敗魔法をぶつけ続けるが、いくら壊してもたちどころに修復してしまう。
ならば、フーケ自身をと思うが、狙いがうまく定まらず、ゴーレムに無意味な傷を付けるに終わった。
そして敵は動きは遅いが、拳や腕の攻撃範囲は広く、ルイズは繰り出される度、紙一重でかわしていた。
やがて、杖を持つ手も震え、足にも限界が来た。
「自慢の使い魔も、戦わなけりゃどうって事はないわね。」
フーケの嘲笑を合図に、再び両腕を振り下ろそうとするゴーレム。
ルイズは逃げようとしたが、足がもつれて転んでしまった。
殺られる・・・!!死を覚悟し、目を瞑った。
「イオナズン!!」
世界の果てまで届く様な爆音が響いた。
ルイズが恐る恐る目を開けると、ゴーレムは文字通り粉々に吹き飛んでいた。フーケが壊そうとしていた壁ごと。
呪文の主が淡々と告げた。
「私が受けた指令は『主人を守る』そして『他人を撃つな』。だから『人間』は撃たずに主を守った。何か問題は?」
ルイズは首を大きく横に振った。
空中のフーケが舌打ちしながら、つぶやいた。
「くっ・・・悔しいが、あいつは敵う相手じゃない、ここは引き上げ・・・」
「メディル!そいつは例外!!撃ちまくって!!」
「御意。だが撃ちまくる必要はない。」
メディルは空中のフーケに狙いをつけて、普段よりいっそう不気味な口調でつぶやいた。彼の世界で恐れられた恐怖の言葉を。
「ザキ。」
その瞬間、フーケの耳に訳の分からない言葉が響き、その言葉を聞いた瞬間、フーケの心臓が止まった。
何が起こったのかわからぬまま、彼女の体は地に、魂は地獄に落ちた。
その様子を見たルイズは喜びのあまり思わずメディルに抱きついたが、本人はノーリアクションであった。
「やったわね!でもあれはどういう呪文なの?」
「即死の魔法だ。より高位のものなら複数の生物の命を奪うことも可能だ。」
「・・・つくづくとんでもないメイジねあなたは。」
「それより、怪盗の顔を拝んだらどうだ。恐らくこの学院内部の人間の筈だ。」
そんな馬鹿なと疑いながらも、言われるまま死体のフードを剥ぐと、そこにはルイズの見知った、学院長秘書のロングビルの顔があった。
「フーケの正体が・・・彼女だったなんて・・・あれ?」
ルイズは辺りを見回したが、メディルの姿は無かった。
あるのは盗賊の死体と戦いで壊れた壁と、夜空に浮かぶ2つの月だけであった。
メディルは先程崩壊した壁から宝物庫に侵入していた。実はコルベールの研究所を訪れる前に、宝物庫(扉を開ける事は出来たが、無用なトラブルを避けるため入らなかった)に来ていたのだ。
彼にとって、馴染み深い気を内部から感じたが故に。ちなみに、フーケは彼の後に宝物庫に来ていた。
「起きろ、パンドラ。私だ。」
彼に命じられたそれは勢いよく口を開けた。
それは緑色の宝箱・・・に見えた魔物だったのだ。それもある意味魔王よりも恐ろしいと謳われた程の。
鋸歯の並んだ口の中には一本の巻物が入っていた。メディルにとって見間違える筈の無い巻物だ。
メディルが知る由も無いが、これがフーケの狙った『禁忌の箱』と『秘術の書』の正体だった。
「どうやらここの責任者に掛け合う必要がありそうだな。」と言い残し、彼は自分を呼ぶ主の元へ帰った。
翌日、フーケの一件で二人は学院長に呼び出されることになった。何故かコルベールも同席している。
「よくやってくれた。ミス・ヴァリエールにはシュヴァリエの称号が間もなく授与されるであろう。」
「光栄にございます。」と会釈するルイズ。辛うじて平静さを保っているものの、今の彼女は幸福の絶頂にいた。
「それにしてもミス・ロングビルがのう・・・盗人とはいえ、生け捕りにすることは出来んかったのかのう?」
「学院長殿、此度の立役者に対して、そのような物言いはどうかと。どの道極刑は免れなかったでしょうし。」
「コルベール、君も彼女には御執心じゃなかったのかね?」
「え・・・ええ。確かに。」と言いながら頬を染めるコルベール。
「そろそろこちらの用件も言わせてもらいたいのだが。」
「コラ!学院長に対してなんて口を・・・」ルイズが怒鳴る。
「学院長殿、宝物庫に眠っている箱と巻物。あれは私がかつて持っていたものに相違ありません。お返しいただきたい。」
「ほう・・・あの恐るべき生き物と巻物は君の世界のものじゃったか。」
「一体どういうことですか、学院長。」
「ふむ・・・あれは30年前・・・森を散策していたワシは3頭のワイバーンに襲われた。
じゃが、奴らの足が偶然、落ちていたあれにあたり、怒ったあれは『ザラキ』とか言う呪文で2頭を仕留め、
最後の一頭の頭を噛み砕いたのじゃ。あれの口の中に巻物が見えたのはほんの一瞬じゃった。」
「メディル・・・ひょっとしてあんたの使った呪文の・・・」
「うむ。強化版だ。しかし、私はその上を使うことが出来る。やってみるか?」
「遠慮しとく。」と青い顔で否定するルイズ。
「まあ、君の世界のものだとは君を見たときからうすうす感じていた。今日、君がそう申し出ることも予測していた。」
オスマンが目線を送ると、コルベールがあの禁忌の箱を取り出し、受け取ったメディルが中身の確認を行う。
「さて、ここからはミス・ヴァリエールには席を外してもらう。」
「え・・・あ、はい!」
相手が相手とあってか、ルイズは素早く退室した。
「さて・・・メディル君・・・君のそのルーンだが・・・」
「さしずめ、知識を与えるルーン・・・と言ったところでしょうか?」
その言葉に、オスマンもコルベールも腰を抜かした。
「な・・・何故その事を・・・」
当然の驚きだった。異世界の存在であるメディルが知り得る筈の無い、ルーンの効能を言い当てたのだから。
そのルーンに関する情報はこの学院内では生徒の閲覧を禁じている、魔法の罠が多数張り巡らされたフェニアのライブラリーにしか無く、
いかにメディルといえど、侵入すれば何らかの痕跡くらいは残す筈だったからだ。無論、そんな物は無かった。
少なくとも、フーケ襲撃と同じ頃、コルベールがルーンを調べに行った時には。
「何故・・・?それはそうだろう。・・・この巻物の文字が・・・読めるのだから!!」
「しかし、それは君の世界の文字で・・・」「この巻物は・・・」
コルベールの言葉を遮り、メディルがいつもとは違った声と口調で答え始めた。
「この巻物は私を含めた多くの魔術師が解読に挑み、挫折した古代魔法の書!!
この私の英知と魔力・・・そして莫大な時間をもってしても只の一文字も解読できなかったものが、
今はすらすらと読める。考えられることは只一つ、この世界で身に付けたこのルーン。」
「な・・・なるほど・・・」と納得するコルベール。
「それはミョズニルトンという伝説の使い魔のもので、あらゆるマジックアイテムを使いこなす頭脳をもたらすと言うのじゃ。」
「そうか。クククク・・・ハハハハハッ!!」
普段は冷静沈着なメディルが異様なまでに興奮していた。
この巻物は魔王軍在籍時代、彼が暇を見つけては研究していたものだった。
無論、解読によって得た結果を魔王軍の利益にするつもりではいたし、魔王自身の許可も得ていた。
しかし、彼は魔王の配下である前に、一人の魔術師だった。
解読を始めた動機は、軍務よりも私的な好奇心だった。
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