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「ご立派な使い魔-10」(2013/05/21 (火) 21:57:08) の最新版変更点
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オスマンはただじっと黙って、報告を受けていた。
秘書として雇ったロングビルが、まさかフーケだったというこの事実を扱いかねているのだろうか。
重々しい雰囲気を放つこの老人から、ルイズやキュルケらの若い者達は目が離せない。
「なるほどのう。うむ、了解した」
が、意外にも、オスマンはフーケのことについてはあまり触れようとはせず、すぐに穏やかな顔に戻る。
「ミス・ロングビルを雇い入れたのは私の失敗だったようじゃな。反省するとしよう」
「は……はあ」
コルベールもいささか首を傾げた。
見ている限りでは、オスマンのロングビルへのセクハラぶりも相当なものだったと思うのだが。
それが失われたというのに妙な落ち着きぶりである。
そういうコルベール自身が、それなりに懸命に彼女を口説いていたということもあって、ますます不思議に思える。
「その、オールド・オスマン。フーケについてはそれだけですか?」
「いずれにせよ終わってしまったことじゃ。後からどうこうと言っても仕方ないわい」
「はあ……」
「ま、そんなことよりもミス・ヴァリエール。ミス・ツェルプストー。ミス・タバサ。
君たちにはシュヴァリエの爵位が送られるよう、申請を出しておいた。
ミス・タバサはもう持っておるからの、精霊勲章の方じゃが」
「光栄ですわ」
キュルケが優雅に一礼する。
その一方、ルイズはぶつぶつと何事か呟いて、オスマンの言葉には答えなかった。
「ん? どうしたんじゃ、ミス・ヴァリエール。
そちらの使い魔どのについては、使い魔ということもあってシュヴァリエは……」
「あ……いいえ。その。……使い魔はどうでもいいんです。ただ結局フーケも」
「フーケも?」
「いえ……なんでもありません」
フーケですら敵わなかったということに、ルイズは少なからずショックを受けていたのだ。
そのせいで今でも気もそぞろである。
学院長の言葉を、聞き流してしまうほど。
「どうでもいいって薄情ね。マーラ様が気の毒でしょうに」
「グワッハッハ。たかが人界の称号なぞ、ワシには何の意味も持たんわな。
男たるモノ、わざわざ地位や名誉にこだわらなくとも己のモノだけで十分じゃ」
「いやはや……聞きしに勝るご立派ぶりですね」
コルベールも冷や汗をかいているようだ。
すると、そこでオスマンがごほんと咳払いをする。
「さて、今日はフリッグの舞踏会じゃ。その準備もあるじゃろうし、若い子とコルベール君は行った行った」
「はあ。なんだか唐突に感じますが」
「唐突でもなんでもいいんじゃよ。あ、使い魔どのは残っとくれ」
追い散らかすようにオスマンが手をひらひらと振る。
その態度にいささか釈然としないものを感じながらも、コルベールにキュルケ、タバサは部屋を出て行った。
ルイズはそれでもまだ考えていたようだが、やがて姿を消す。
そして、学院長室には、今やオスマンと、そしてマーラだけが残った。
「さささささ早速じゃが使い魔どの!」
「ふむ、やはりのう。これを待ちわびていたという訳かな」
「そ、そ、その通りじゃ! 実は使い魔どのを見送ってからずっと期待が大きすぎてどうにも出来ず……」
オスマンは、ずずいと身を乗り出した。
それはもう、マーラに顔がくっつく程である。
ここからもオスマンの期待ぶりが窺えるというものだ。
「た、頼む! いかに魔法を極めようとてどうにもならぬ部分が……」
「そう焦るでないわ。初めにじゃな……」
そして。
そのしばらく後、学院長室から
「よっしゃああああああああ!」
という叫び声が聞こえたというが、学院長本人は黙して語らなかったためその原因は不明である。
ただそのことをコルベールが問い詰めた時、オスマンは不気味なほど自信に満ちた表情を浮かべていたというのが、
唯一残された意味のある証言となっている。
女を口説いて回るオスマンの姿が目立つ舞踏会は、つつがなく行われている。
ただ今年の舞踏会は妙なことに、会場の中央に幕のかけられた大きなオブジェが設置されていた。
宴もたけなわというところで、ある少年が声をあげる。
「では、お集まりの皆様! ここで、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが錬金にて作り出した彫像をお目にかける!」
それはギーシュの声だった。
何事かと思い、誰もが彼に注目すると、ニヤリと笑って応える。
「この彫像の造形には、オールド・オスマン、そしてコック長マルトー氏の協力も頂いたことを申し上げておきたい。
お二人のアドヴァイスで、完成度はますます高まったと自負しているものさ」
「なんだなんだ、ギーシュの奴」
「どうしたんだ?」
まことに不思議そうにギーシュを見る生徒達だが、会場で働く平民や……
そしてオスマン、あるいはシュヴルーズ等一部教師は頼もしげにギーシュを見ている。
「本来ならば僕の如き者よりも、もっとこの序幕を行うのに相応しい人物はいるだろう、と思う。
しかし光栄なことに、僕はあのお方の弟子ということでこの大役を仰せつかった訳だ。
その重責に恥じぬだけのモノを作り上げた、と僕は自負する……ともあれ、御託は不要だ。
ただモノを持って判断すべし、というのが道を歩むものの気概だからね。
では……お見せしよう。この学院の新たなるシンボルだ……」
会場の片隅でうなだれていたルイズが、そこでよろよろと顔を上げる。
傍らには、抜き身のデルフリンガーが一振り。
「娘ッ子、なんだと思う?」
「ギーシュの作るものなんてどうでもいいわよ……
それよりわたしはどうしたら……残された方法はどこにあるのか……」
「んーむ……あんまり思いつめるのもどうかと思……」
そこで。
ついに、ギーシュが手に持った糸を引き抜こうとする。
「それでは! 幕を貫通しよう!」
「うむ! 頼むぞ!」
「おう! やってくれい!」
ギーシュの声に、何故かオスマンとマルトーの二人が声援を送った。
その幕が引き下ろされ、現れたモノとは。
太く、長い青銅の柱だ。
しかしただの柱ではない。
先端が丸みを帯びて……その。
まあ、つまり。
なんだ。
マーラの頭部に似た形、と言えばいいのか。
「これこそ新たなるシンボルの姿さ!
ただご立派なる方の姿を彫像にするだけでは、本物を見ればいいということになるからね!
その象徴ともいうべき場所のみをこうして形にした、入魂のオブジェだよ!」
会場が騒然となった。
無論当惑している者が多いのだ、が。
……ルイズはその人々を見て、心底やるせない気持ちになる。
喜んでる連中もいる。しかもそれなりの数が。
「オ、オールド・オスマン! こ、これをシンボルって! 正気ですか!?」
当惑している者の代表、コルベールがそう学院長に食ってかかった。
しかしオスマンはピュ―と口笛を吹くばかりだ。
「ええんじゃねえの? いいじゃん格好良くて。本塔直すついでに固定化かける予定じゃし」
「何考えてるんですかあんたは!」
「まあまあミスタ・コルベール。こういうものは昔っから信仰の対象としてな」
「どうして貴方まで意気投合してるんですかマルトーさん!?」
ルイズは、デルフと顔を見合わせて、盛大にため息をつく。
「……侵食が進んでるわね。どうしよう、デルフ」
「やっぱ俺達で何とかするしかねーのかなぁ……」
「セクシーなオブジェね。ギーシュにしてはセンスいいわ」
「理解できない」
「ふふ」
キュルケも喜んでいる連中の一部のようだ。タバサは、まあ、そうでもないようだが。
というか。なんだろう、この状況。
「素敵ですね」
シエスタは相変わらずヤバい目つきで褒め称える。
「ははは、僕もこの素晴らしいプロジェクトに参加できて光栄の至りだよ!
このオブジェがあれば、朝な夕なにご立派の元にあると実感できる!
きっと、みんなも学業ますますはかどるはずさ!」
調子に乗って語り続けているギーシュだったが、そこに。
左右から、痛烈な飛び蹴りが飛んできた。
「ぐふあっ!?」
「だからいい加減にしろって言ってるでしょギーシュ!」
「大概にしてくださいギーシュさま!」
モンモランシーとケティだが、随分といい連携を見せるようになったものだ。
そのまま気絶したギーシュを引きずって会場を去っていく。
結構、仲良くなったらしい。
「っていうか……何この状況。カオスにも程があるわ」
「カオスだよなぁ……どうするよ娘ッ子」
「今のわたし達にはどうすることも出来ないわ。悔しいけど……」
「……くそったれ」
もうすっかりカオスな状況となったパーティ会場である。
が、そこに更なるカオスをもたらす、混沌の具現が出現する。
悠然と会場の中央に進み出でたるは、あのルイズの使い魔。魔王マーラだ。
ギーシュの後に入場する予定だったのだが、そのギーシュが倒されたのでこうして繰上げとなった。
今まで騒然としていた会場も、この姿にはたちまち静まり返る。
コルベールも、
「くっ……やはり実物はご立派な……」
その勢いを弱めてしまったほどだ。
そしてそのマーラは、しばらく会場を見渡すと。
ゆらゆらと、その身を揺らし始めた。
「おお……」
「なんという動きだ……」
「ご立派な中に色気がある……」
観衆はたちまちのうちに呑み込まれて行く。
その揺れる姿は、神話を切り取ったかのような幻想的な姿なのだ。
元々あのオブジェに喜んでいた者は当然として、騒いでいた者までその姿に見入っていく。
しかし……ルイズは気づいていた。この踊り……これは。
「……セ、セクシーダンス……」
効果は全体魅了である。
マーラはそんな特技覚えなかったはずだが。合体事故か何かか。
「おでれーた……ここまでカオスな使い魔、はじめて見たぜ……
俺も娘ッ子も、あと学院も終わったな」
デルフリンガーが絶望のため息をもらした。
この日、トリステイン魔法学院にある一つの組織が生まれた。
いや、まだ組織というには繋がりは強くなかったのだが、しかし、ある理念のもとにまとまっていたのは事実である。
オスマンやマルトー、ギーシュを中心として人望を集めたその組織。
それはこう呼ばれる……
『ガイア教』と。
そしてこの日の出来事を、後の世の人々はこう呼んだ。
『ガイアの夜明け』と。
#navi(ご立派な使い魔)
オスマンはただじっと黙って、報告を受けていた。
秘書として雇ったロングビルが、まさかフーケだったというこの事実を扱いかねているのだろうか。
重々しい雰囲気を放つこの老人から、ルイズやキュルケらの若い者達は目が離せない。
「なるほどのう。うむ、了解した」
が、意外にも、オスマンはフーケのことについてはあまり触れようとはせず、すぐに穏やかな顔に戻る。
「ミス・ロングビルを雇い入れたのは私の失敗だったようじゃな。反省するとしよう」
「は……はあ」
コルベールもいささか首を傾げた。
見ている限りでは、オスマンのロングビルへのセクハラぶりも相当なものだったと思うのだが。
それが失われたというのに妙な落ち着きぶりである。
そういうコルベール自身が、それなりに懸命に彼女を口説いていたということもあって、ますます不思議に思える。
「その、オールド・オスマン。フーケについてはそれだけですか?」
「いずれにせよ終わってしまったことじゃ。後からどうこうと言っても仕方ないわい」
「はあ……」
「ま、そんなことよりもミス・ヴァリエール。ミス・ツェルプストー。ミス・タバサ。
君たちにはシュヴァリエの爵位が送られるよう、申請を出しておいた。
ミス・タバサはもう持っておるからの、精霊勲章の方じゃが」
「光栄ですわ」
キュルケが優雅に一礼する。
その一方、ルイズはぶつぶつと何事か呟いて、オスマンの言葉には答えなかった。
「ん? どうしたんじゃ、ミス・ヴァリエール。
そちらの使い魔どのについては、使い魔ということもあってシュヴァリエは……」
「あ……いいえ。その。……使い魔はどうでもいいんです。ただ結局フーケも」
「フーケも?」
「いえ……なんでもありません」
フーケですら敵わなかったということに、ルイズは少なからずショックを受けていたのだ。
そのせいで今でも気もそぞろである。
学院長の言葉を、聞き流してしまうほど。
「どうでもいいって薄情ね。マーラ様が気の毒でしょうに」
「グワッハッハ。たかが人界の称号なぞ、ワシには何の意味も持たんわな。
男たるモノ、わざわざ地位や名誉にこだわらなくとも己のモノだけで十分じゃ」
「いやはや……聞きしに勝るご立派ぶりですね」
コルベールも冷や汗をかいているようだ。
すると、そこでオスマンがごほんと咳払いをする。
「さて、今日はフリッグの舞踏会じゃ。その準備もあるじゃろうし、若い子とコルベール君は行った行った」
「はあ。なんだか唐突に感じますが」
「唐突でもなんでもいいんじゃよ。あ、使い魔どのは残っとくれ」
追い散らかすようにオスマンが手をひらひらと振る。
その態度にいささか釈然としないものを感じながらも、コルベールにキュルケ、タバサは部屋を出て行った。
ルイズはそれでもまだ考えていたようだが、やがて姿を消す。
そして、学院長室には、今やオスマンと、そしてマーラだけが残った。
「さささささ早速じゃが使い魔どの!」
「ふむ、やはりのう。これを待ちわびていたという訳かな」
「そ、そ、その通りじゃ! 実は使い魔どのを見送ってからずっと期待が大きすぎてどうにも出来ず……」
オスマンは、ずずいと身を乗り出した。
それはもう、マーラに顔がくっつく程である。
ここからもオスマンの期待ぶりが窺えるというものだ。
「た、頼む! いかに魔法を極めようとてどうにもならぬ部分が……」
「そう焦るでないわ。初めにじゃな……」
そして。
そのしばらく後、学院長室から
「よっしゃああああああああ!」
という叫び声が聞こえたというが、学院長本人は黙して語らなかったためその原因は不明である。
ただそのことをコルベールが問い詰めた時、オスマンは不気味なほど自信に満ちた表情を浮かべていたというのが、
唯一残された意味のある証言となっている。
女を口説いて回るオスマンの姿が目立つ舞踏会は、つつがなく行われている。
ただ今年の舞踏会は妙なことに、会場の中央に幕のかけられた大きなオブジェが設置されていた。
宴もたけなわというところで、ある少年が声をあげる。
「では、お集まりの皆様! ここで、この僕、ギーシュ・ド・グラモンが錬金にて作り出した彫像をお目にかける!」
それはギーシュの声だった。
何事かと思い、誰もが彼に注目すると、ニヤリと笑って応える。
「この彫像の造形には、オールド・オスマン、そしてコック長マルトー氏の協力も頂いたことを申し上げておきたい。
お二人のアドヴァイスで、完成度はますます高まったと自負しているものさ」
「なんだなんだ、ギーシュの奴」
「どうしたんだ?」
まことに不思議そうにギーシュを見る生徒達だが、会場で働く平民や……
そしてオスマン、あるいはシュヴルーズ等一部教師は頼もしげにギーシュを見ている。
「本来ならば僕の如き者よりも、もっとこの序幕を行うのに相応しい人物はいるだろう、と思う。
しかし光栄なことに、僕はあのお方の弟子ということでこの大役を仰せつかった訳だ。
その重責に恥じぬだけのモノを作り上げた、と僕は自負する……ともあれ、御託は不要だ。
ただモノを持って判断すべし、というのが道を歩むものの気概だからね。
では……お見せしよう。この学院の新たなるシンボルだ……」
会場の片隅でうなだれていたルイズが、そこでよろよろと顔を上げる。
傍らには、抜き身のデルフリンガーが一振り。
「娘ッ子、なんだと思う?」
「ギーシュの作るものなんてどうでもいいわよ……
それよりわたしはどうしたら……残された方法はどこにあるのか……」
「んーむ……あんまり思いつめるのもどうかと思……」
そこで。
ついに、ギーシュが手に持った糸を引き抜こうとする。
「それでは! 幕を貫通しよう!」
「うむ! 頼むぞ!」
「おう! やってくれい!」
ギーシュの声に、何故かオスマンとマルトーの二人が声援を送った。
その幕が引き下ろされ、現れたモノとは。
太く、長い青銅の柱だ。
しかしただの柱ではない。
先端が丸みを帯びて……その。
まあ、つまり。
なんだ。
マーラの頭部に似た形、と言えばいいのか。
「これこそ新たなるシンボルの姿さ!
ただご立派なる方の姿を彫像にするだけでは、本物を見ればいいということになるからね!
その象徴ともいうべき場所のみをこうして形にした、入魂のオブジェだよ!」
会場が騒然となった。
無論当惑している者が多いのだ、が。
……ルイズはその人々を見て、心底やるせない気持ちになる。
喜んでる連中もいる。しかもそれなりの数が。
「オ、オールド・オスマン! こ、これをシンボルって! 正気ですか!?」
当惑している者の代表、コルベールがそう学院長に食ってかかった。
しかしオスマンはピュ―と口笛を吹くばかりだ。
「ええんじゃねえの? いいじゃん格好良くて。本塔直すついでに固定化かける予定じゃし」
「何考えてるんですかあんたは!」
「まあまあミスタ・コルベール。こういうものは昔っから信仰の対象としてな」
「どうして貴方まで意気投合してるんですかマルトーさん!?」
ルイズは、デルフと顔を見合わせて、盛大にため息をつく。
「……侵食が進んでるわね。どうしよう、デルフ」
「やっぱ俺達で何とかするしかねーのかなぁ……」
「セクシーなオブジェね。ギーシュにしてはセンスいいわ」
「理解できない」
「ふふ」
キュルケも喜んでいる連中の一部のようだ。タバサは、まあ、そうでもないようだが。
というか。なんだろう、この状況。
「素敵ですね」
シエスタは相変わらずヤバい目つきで褒め称える。
「ははは、僕もこの素晴らしいプロジェクトに参加できて光栄の至りだよ!
このオブジェがあれば、朝な夕なにご立派の元にあると実感できる!
きっと、みんなも学業ますますはかどるはずさ!」
調子に乗って語り続けているギーシュだったが、そこに。
左右から、痛烈な飛び蹴りが飛んできた。
「ぐふあっ!?」
「だからいい加減にしろって言ってるでしょギーシュ!」
「大概にしてくださいギーシュさま!」
モンモランシーとケティだが、随分といい連携を見せるようになったものだ。
そのまま気絶したギーシュを引きずって会場を去っていく。
結構、仲良くなったらしい。
「っていうか……何この状況。カオスにも程があるわ」
「カオスだよなぁ……どうするよ娘ッ子」
「今のわたし達にはどうすることも出来ないわ。悔しいけど……」
「……くそったれ」
もうすっかりカオスな状況となったパーティ会場である。
が、そこに更なるカオスをもたらす、混沌の具現が出現する。
悠然と会場の中央に進み出でたるは、あのルイズの使い魔。魔王マーラだ。
ギーシュの後に入場する予定だったのだが、そのギーシュが倒されたのでこうして繰上げとなった。
今まで騒然としていた会場も、この姿にはたちまち静まり返る。
コルベールも、
「くっ……やはり実物はご立派な……」
その勢いを弱めてしまったほどだ。
そしてそのマーラは、しばらく会場を見渡すと。
ゆらゆらと、その身を揺らし始めた。
「おお……」
「なんという動きだ……」
「ご立派な中に色気がある……」
観衆はたちまちのうちに呑み込まれて行く。
その揺れる姿は、神話を切り取ったかのような幻想的な姿なのだ。
元々あのオブジェに喜んでいた者は当然として、騒いでいた者までその姿に見入っていく。
しかし……ルイズは気づいていた。この踊り……これは。
「……セ、セクシーダンス……」
効果は全体魅了である。
マーラはそんな特技覚えなかったはずだが。合体事故か何かか。
「おでれーた……ここまでカオスな使い魔、はじめて見たぜ……
俺も娘ッ子も、あと学院も終わったな」
デルフリンガーが絶望のため息をもらした。
この日、トリステイン魔法学院にある一つの組織が生まれた。
いや、まだ組織というには繋がりは強くなかったのだが、しかし、ある理念のもとにまとまっていたのは事実である。
オスマンやマルトー、ギーシュを中心として人望を集めたその組織。
それはこう呼ばれる……
『ガイア教』と。
そしてこの日の出来事を、後の世の人々はこう呼んだ。
『ガイアの夜明け』と。
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