「ゼロと波動-01」(2008/11/08 (土) 03:06:37) の最新版変更点
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#navi(ゼロと波動)
#setpagename( ゼロと波動 第一話 )
「へ・・・平民??」
爆発と共に現れた使い魔は、人間だった。
元は白かったであろう、上着と呼べるかどうか怪しい布を身体に巻きつけ、丈夫そうな黒い紐を使って腰の辺りで縛りとめている。
腕を通すために開けられた穴もズボンも、裾は破れてボロボロだ。
そして頭には赤いハチマキ。
「はは!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
「しかも物乞いのオッサンだよ!」
「流石はゼロ!」
周りから漏れる失笑、揶揄。
確かにボロ布を纏った姿は物乞いにしか見えない。
「ミスタ・コルベール!!やり直しを!召喚のやり直しをさせてください!!」
桃色がかったブロンドの髪の少女――ルイズ・フランソワーズは目に涙を浮かべながら頭が多少寂しい責任者らしき男に訴えた。
「ミス・ヴァリエール、残念ですがそれはできません。貴女も知っている通り、春の召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」
「でも!」
「確かに平民を召喚したというのは前代未聞ですが、規則は規則です。彼が死なない限り、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です」
にべもないコルベールの言葉にルイズはがっくりと肩を落として、自分が召喚してしまった男を改めて見てみた。
年齢は・・・ミスタ・コルベールよりいくらか若いぐらいだろうか。
身長は決して低くはないけど、それほど高いわけでもない。まあ、それでも自分と比べれば随分と高いが・・・
ただし、体格は並外れている。
オーク鬼のような横幅と厚み。
首は顔よりも太いし背中も盛り上がっている。筋肉の筋がはっきり浮き出た腕なんてまるで丸太だ。
いや、丸太なんて柔らかそうなものじゃない。石・・・そう、土のメイジが石や鋼で錬金した彫刻のよう。
はぁ、せめてコイツにツノでも生えてればなぁ・・・首から下だけなら亜人みたいなのに・・・
ルイズは不満全開な顔で男を睨みつける。
他の生徒が召喚した使い魔であるサラマンダーや風竜を見て目を白黒させていた男は、ルイズの視線に気づくと初めて口を開いた。
「そんなに睨み付けないでくれ、あと、教えて欲しいんだが、ここはどこだ?なぜ俺はここにいる?そして、キミ達は何者だ?」
桃色髪の少女は黙って睨み付けてくるだけで一向に口を開こうとしない。
「ここはトリステイン魔法学院です。彼らは学院の生徒、そして、私は教師をしているジャン・コルベールです。貴方はここにいるミス・ヴァリエールに召喚されたのですよ」
無言で睨みつけるルイズに代わり、コルベールが答えた。
「とりすていん?聞いたことがないな・・・それに召喚ってなんだ?俺はアマゾンのジャングルにいたはずなんだが・・・?」
「召喚は召喚よっ!私がアンタを召還したのっ!だいたいトリステインを知らないなんてどんだけ田舎者なのよ!」
割って入ってルイズが叫ぶ。
勝手に召喚しておいてそんな言い草もあったものではないが、そこは典型的な貴族であるルイズ、平民の事情なんて考えない。
そんな彼女も大声を出したことで多少は吹っ切れたのか
”平民を使い魔にしなければならない”ということに諦めがついたらしい。
「平民のアンタを使い魔にしてあげようってんだから感謝しなさいよね!!」
ルイズは意を決すると、コンストラクト・サーバント<契約>の呪文を唱えて男の顔に手を伸ばす。
届かない。
「しゃがみなさいよ!」
訳の解らないまま言われた通りしゃがむ男。
ルイズは改めて男の顔を両手で挟むと、唇を合わせた。
「な!?何をするんだ!!?」
突然キスされた男は慌てふためいてルイズから離れた。
突如、左手の甲に激痛が走る。
「な・・・!?」
手の甲と拳の部分のみを覆うグローブを外すと、手の甲に光と共に不思議な模様が浮かび上がりつつある。
「ルーンが刻み込まれているだけです。すぐに収まりますから少しの間だけ我慢してください」
しばしの間、光を放ちながら模様は刻み続けられたが、なるほどコルベールが言った通り、激痛はすぐに治まった。
自分の手の甲に浮かんだ不可解な模様を消そうとこすったり叩いたりしてみるものの、模様が落ちる気配はまったくない。
戸惑う男に告げるコルベール。
「これで貴方は正式にミス・ヴァリエールの使い魔となりました。それにしても・・・変わったルーンですね・・・ちょっと見せてもらっていいですか」
コルベールは取り出したスケッチブックに浮き出たルーンを模写しだす。
自分の描いたスケッチに間違いがないかを確認したコルベールは満足気にうなずいた。
「さて、全員召喚の儀式を済ますことができましたね。では皆さん、学院に戻りましょう」
その場にいた少年少女たちは返事をすると、何事かをつぶやいて棒切れを振る。
すると突然、自分にキスした少女を残して全員が宙に浮き始めたではないか。
そしてそのまま学院と思しき建物に向かって飛んで行ってしまった。
男は唖然とした。
自分も宙に浮いたり瞬間移動したりする魔人やヨガ行者には会ったことがある。
が、彼らは・・・特に前者は常識を超越した特殊な存在だった。
しかし、今目の前で起こった出来事は、どうみても普通の少年少女たちの所業だ。
「・・・何がどうなってるのか・・・まったく解らん・・・」
見たこともない生き物や少女からのいきなりのキス、空を飛ぶ生徒たち、自分の左手に突然現れた刺青・・・
もはや理解の範疇を超えていた。
本来ならもっと取り乱してしかるべきなのだが、長年の修行で身につけた精神力がなんとか理性を保たせていた。
いや、もしかしたら、余りに常軌を逸していたせいで返って冷静でいられたのかもしれない。
空飛ぶ少年たちを見送りながら思考を巡らし、とりあえず緊急的に自分の身に危険が及んでいる訳ではなさそうだと判断する。
だとすると、不可解極まりないこの場所で下手に動き回るのはあまり得策とはいえない。
しばらくはこの場所で様子を伺った方がいい。
それに元々、ジャングルに篭って修行するつもりでいたのだ、その修行が多少険しくなったにすぎない。
厳しい修行なら望むところだ。
コルベールと名乗った男の話によれば、今の自分はどうやらこの少女の使い魔ということらしい。
使い魔というものが何をするものなのかは解らないが、未知の経験もまた修行。
そう、万物全てが修行である。
しばらくはこの少女についてみるのもいいだろう。
「俺はリュウだ、よろしく頼む。ヴァリエール」
笑顔で右手を差し出す。
「私のファーストネームはルイズよ・・・っていうか!アンタは私の使い魔なのよ!?私のことはご主人様と呼びなさい!!」
文句を言いながらも、一応、出された右手に握手で応える。
無骨でゴツゴツしたリュウの分厚い手は、とても暖かく、優しくルイズの手を包んだ。
「そうか、わかった、よろしく頼む。ルイズ」
「だからご主人様だって言ってるでしょ・・・まぁ、いいわ・・・」
思わず顔を背けるルイズ。頬が熱い。
何故だろう、この男の手に包まれていると広い広い草原に寝転んでお日様の光を浴びている・・・そんな穏やかな感覚に陥る。雰囲気がちょっとちぃ姉さまに似てるかも・・・
いやいやいやいやそれはない!
平民が、それもこんな薄汚い男がちぃ姉さまに似てると思うなんて私は馬鹿ですか阿呆ですか。
ブンブンブンと首を振りつつも、すっかり怒気を抜かれてしまい、思わずルイズと呼ぶことを認めてしまったではないか。
まあいい、これからみっちり使い魔として教育してやるんだから!でも、ご飯はちゃんとあげようかな・・・などと思いつつ学院に向かって歩を進め始める。
「ルイズは彼らみたいに飛んでいかないのか?」
「うるさいわね!歩きたい気分なのよ!」
前言撤回。やっぱ、コイツむかつく。ご飯は床決定。
リュウはリュウで、それにしてもよく怒る娘だなと思いつつ桃色がかったブロンドの髪を持つ少女、ルイズに続くのだった。
#navi(ゼロと波動)
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「へ・・・平民??」
爆発と共に現れた使い魔は、人間だった。
元は白かったであろう、上着と呼べるかどうか怪しい布を身体に巻きつけ、丈夫そうな黒い紐を使って腰の辺りで縛りとめている。
腕を通すために開けられた穴もズボンも、裾は破れてボロボロだ。
そして頭には赤いハチマキ。
「はは!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
「しかも物乞いのオッサンだよ!」
「流石はゼロ!」
周りから漏れる失笑、揶揄。
確かにボロ布を纏った姿は物乞いにしか見えない。
「ミスタ・コルベール!!やり直しを!召喚のやり直しをさせてください!!」
桃色がかったブロンドの髪の少女――ルイズ・フランソワーズは目に涙を浮かべながら頭が多少寂しい責任者らしき男に訴えた。
「ミス・ヴァリエール、残念ですがそれはできません。貴女も知っている通り、春の召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」
「でも!」
「確かに平民を召喚したというのは前代未聞ですが、規則は規則です。彼が死なない限り、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です」
にべもないコルベールの言葉にルイズはがっくりと肩を落として、自分が召喚してしまった男を改めて見てみた。
年齢は・・・ミスタ・コルベールよりいくらか若いぐらいだろうか。
身長は決して低くはないけど、それほど高いわけでもない。まあ、それでも自分と比べれば随分と高いが・・・
ただし、体格は並外れている。
オーク鬼のような横幅と厚み。
首は顔よりも太いし背中も盛り上がっている。筋肉の筋がはっきり浮き出た腕なんてまるで丸太だ。
いや、丸太なんて柔らかそうなものじゃない。石・・・そう、土のメイジが石や鋼で錬金した彫刻のよう。
はぁ、せめてコイツにツノでも生えてればなぁ・・・首から下だけなら亜人みたいなのに・・・
ルイズは不満全開な顔で男を睨みつける。
他の生徒が召喚した使い魔であるサラマンダーや風竜を見て目を白黒させていた男は、ルイズの視線に気づくと初めて口を開いた。
「そんなに睨み付けないでくれ、あと、教えて欲しいんだが、ここはどこだ?なぜ俺はここにいる?そして、キミ達は何者だ?」
桃色髪の少女は黙って睨み付けてくるだけで一向に口を開こうとしない。
「ここはトリステイン魔法学院です。彼らは学院の生徒、そして、私は教師をしているジャン・コルベールです。貴方はここにいるミス・ヴァリエールに召喚されたのですよ」
無言で睨みつけるルイズに代わり、コルベールが答えた。
「とりすていん?聞いたことがないな・・・それに召喚ってなんだ?俺はアマゾンのジャングルにいたはずなんだが・・・?」
「召喚は召喚よっ!私がアンタを召還したのっ!だいたいトリステインを知らないなんてどんだけ田舎者なのよ!」
割って入ってルイズが叫ぶ。
勝手に召喚しておいてそんな言い草もあったものではないが、そこは典型的な貴族であるルイズ、平民の事情なんて考えない。
そんな彼女も大声を出したことで多少は吹っ切れたのか
”平民を使い魔にしなければならない”ということに諦めがついたらしい。
「平民のアンタを使い魔にしてあげようってんだから感謝しなさいよね!!」
ルイズは意を決すると、コンストラクト・サーバント<契約>の呪文を唱えて男の顔に手を伸ばす。
届かない。
「しゃがみなさいよ!」
訳の解らないまま言われた通りしゃがむ男。
ルイズは改めて男の顔を両手で挟むと、唇を合わせた。
「な!?何をするんだ!!?」
突然キスされた男は慌てふためいてルイズから離れた。
突如、左手の甲に激痛が走る。
「な・・・!?」
手の甲と拳の部分のみを覆うグローブを外すと、手の甲に光と共に不思議な模様が浮かび上がりつつある。
「ルーンが刻み込まれているだけです。すぐに収まりますから少しの間だけ我慢してください」
しばしの間、光を放ちながら模様は刻み続けられたが、なるほどコルベールが言った通り、激痛はすぐに治まった。
自分の手の甲に浮かんだ不可解な模様を消そうとこすったり叩いたりしてみるものの、模様が落ちる気配はまったくない。
戸惑う男に告げるコルベール。
「これで貴方は正式にミス・ヴァリエールの使い魔となりました。それにしても・・・変わったルーンですね・・・ちょっと見せてもらっていいですか」
コルベールは取り出したスケッチブックに浮き出たルーンを模写しだす。
自分の描いたスケッチに間違いがないかを確認したコルベールは満足気にうなずいた。
「さて、全員召喚の儀式を済ますことができましたね。では皆さん、学院に戻りましょう」
その場にいた少年少女たちは返事をすると、何事かをつぶやいて棒切れを振る。
すると突然、自分にキスした少女を残して全員が宙に浮き始めたではないか。
そしてそのまま学院と思しき建物に向かって飛んで行ってしまった。
男は唖然とした。
自分も宙に浮いたり瞬間移動したりする魔人やヨガ行者には会ったことがある。
が、彼らは・・・特に前者は常識を超越した特殊な存在だった。
しかし、今目の前で起こった出来事は、どうみても普通の少年少女たちの所業だ。
「・・・何がどうなってるのか・・・まったく解らん・・・」
見たこともない生き物や少女からのいきなりのキス、空を飛ぶ生徒たち、自分の左手に突然現れた刺青・・・
もはや理解の範疇を超えていた。
本来ならもっと取り乱してしかるべきなのだが、長年の修行で身につけた精神力がなんとか理性を保たせていた。
いや、もしかしたら、余りに常軌を逸していたせいで返って冷静でいられたのかもしれない。
空飛ぶ少年たちを見送りながら思考を巡らし、とりあえず緊急的に自分の身に危険が及んでいる訳ではなさそうだと判断する。
だとすると、不可解極まりないこの場所で下手に動き回るのはあまり得策とはいえない。
しばらくはこの場所で様子を伺った方がいい。
それに元々、ジャングルに篭って修行するつもりでいたのだ、その修行が多少険しくなったにすぎない。
厳しい修行なら望むところだ。
コルベールと名乗った男の話によれば、今の自分はどうやらこの少女の使い魔ということらしい。
使い魔というものが何をするものなのかは解らないが、未知の経験もまた修行。
そう、万物全てが修行である。
しばらくはこの少女についてみるのもいいだろう。
「俺はリュウだ、よろしく頼む。ヴァリエール」
笑顔で右手を差し出す。
「私のファーストネームはルイズよ・・・っていうか!アンタは私の使い魔なのよ!?私のことはご主人様と呼びなさい!!」
文句を言いながらも、一応、出された右手に握手で応える。
無骨でゴツゴツしたリュウの分厚い手は、とても暖かく、優しくルイズの手を包んだ。
「そうか、わかった、よろしく頼む。ルイズ」
「だからご主人様だって言ってるでしょ・・・まぁ、いいわ・・・」
思わず顔を背けるルイズ。頬が熱い。
何故だろう、この男の手に包まれていると広い広い草原に寝転んでお日様の光を浴びている・・・そんな穏やかな感覚に陥る。雰囲気がちょっとちぃ姉さまに似てるかも・・・
いやいやいやいやそれはない!
平民が、それもこんな薄汚い男がちぃ姉さまに似てると思うなんて私は馬鹿ですか阿呆ですか。
ブンブンブンと首を振りつつも、すっかり怒気を抜かれてしまい、思わずルイズと呼ぶことを認めてしまったではないか。
まあいい、これからみっちり使い魔として教育してやるんだから!でも、ご飯はちゃんとあげようかな・・・などと思いつつ学院に向かって歩を進め始める。
「ルイズは彼らみたいに飛んでいかないのか?」
「うるさいわね!歩きたい気分なのよ!」
前言撤回。やっぱ、コイツむかつく。ご飯は床決定。
リュウはリュウで、それにしてもよく怒る娘だなと思いつつ桃色がかったブロンドの髪を持つ少女、ルイズに続くのだった。
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