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いぬかみっな使い魔 第21話(実質20話)
タイン陣地を撤退したレコンキスタ首脳陣は、敵の追撃をなんとか振り切る
ことに成功し、撤退を続けていたものの下がり続ける士気に頭を抱えていた。
「将兵に脱走が相次いでおります!」「いかがいたします、閣下!」
「脱走に歯止めをかけられません!」「かなりが敵に取り込まれております!」
「敵は3万5千ほどにも膨れ上がっている模様です。」
「わがほうの数はすでに2万5千にまで減りました。」
「これ以上の撤退は士気の決定的な低下を引き落とします。」
「さいわいもうすぐスコットランドの主城スコッチ城だ。」
「ここで踏みとどまって反撃するべきだ!」「うむ、そうですな。」
「スコッチ城は防御に適している。」「追撃が迫っているしな。」
レコンキスタは、スコットランドの中心都市にして最も堅固な城砦都市、
スコッチ城を目指し、何とか無事に入城した。一部の部隊はここを
素通りすると、シティ・オブ・サウスゴータに向かっていた。
連合艦隊が残した駐留戦力が申し訳程度に過ぎないと看破し、
一気に取り戻す予定で急行している。そこでも反撃の準備を整える予定だ。
いまだ保有している小さな港もさほど遠くない距離にあり、
そこをレコンキスタ残存艦隊の基地とした。
問題は二つ。
一つは、件の港は小さい規模であり、レコンキスタ艦隊の半分しか停泊できない点。
残りは交代で上空警戒任務に出すしかない。元から撤退援護に必要なので
今は問題ではないが、後々艦を停泊させるため盤木を土メイジに作らせている。
これらは敵が攻め寄せたらすぐに破壊されてしまいかねないものでしかないが、
無いよりはあったほうがずっとましなのである。風石の消耗がまったく違う。
もう一つが、この城に蓄えられた兵糧が心もとないことだ。
サウスゴータに向かった部隊が奪還に失敗すれば。あるいは連合艦隊が兵糧を
奪いつくしていれば。さらに言えば兵糧の輸送に失敗すれば、彼らに未来は無い。
綱渡りのような状況が続いている。
そんな幕僚達の動揺しまくっている中でただ一人、いや、二人だけが泰然と構え、
落ち着き払っていた。まるで、この程度なんでもないとの態度である。
「やれやれ。君たちは、忘れてしまったのかね?」
レコンキスタ首魁、オリヴァー・クロムウェルが一言述べると、
その場がぴたりと静まった。
「…閣下?」
「我々は、旗揚げの直後から、長いこと寡兵で多くの敵と渡り合ってきた。
先日までのようにより多くの戦力で戦えたことなど、ごく最近になってからだ。
この程度の戦力差など、何だというのかね?」
その通りであった。王国軍に始めて勝てたのは、レキシントンの戦場での事。
それまで彼らは、地方の一揆か大き目のゲリラと大差ない存在であったのだ。
彼らレコンキスタは長いこと少ない戦力でより多くの王軍に勝利してきた。
クロムウェルの巧妙もしくは卑劣な作戦と王軍のなかから頻繁に現れる裏切り者の
活躍、豊富な資金と補給によって幾度と無く劇的な逆転勝利を成し遂げてきたのだ。
それまでと比べれば、いまだいくつもの都市を支配し、2万5千もの地上戦力と
大艦隊を持っている状況ははるかに良い。
「な、なるほど。」「しかし、士気の低下は深刻です。」「何とかせねば。」
「さよう、戦いになりませぬ。」「現状では敵が来ただけで降伏しかねませぬ。」
クロムウェルは一つうなずくと、脇に立つ青年と何事か相談し、うなずいた。
「良かろう、閲兵の準備を。私自身が将兵の士気を鼓舞するとしよう。
そう、その時には何か景気付けになるものを。そうだな、演説開始前に
全員に金貨2枚を支給。ワインを一杯与え、演説の後皆で乾杯するとしよう。」
その日の朝。レコンキスタ地上戦力全軍に対して閲兵が行われた。
その場で提供された酒は、一旦とあるテントに集められた。
その作業に従事した人夫達の中に、一人の黒髪の青年が混じっていたのであるが、
誰も特に気にしなかったという。
そう。アンドヴァリの指輪から滴った雫がぶどう酒の樽に入っても、
気にするものはいなかった。クロムウェルは演説と乾杯の後、
全軍の見守る中一人の伯爵を“虚無の魔法”によって生き返らせた。
それを見た将兵達は熱狂的な喝采を上げ、レコンキスタの士気は回復したのである。
マジックアイテムで虚無の担い手を装っているとの噂は、
彼らの頭からきれいに消え去っていた。
第9日目早朝、ランスの港。この時、啓太は一人のゲルマニア商人と会っていた。
「やあ、トルネコさん、良く来てくれました。アンリエッタ姫殿下の軍事教師
をしております川平啓太です。よろしくお願いしますよ。」
「これはご丁寧に、ケータ殿。早速商談に入らせていただいてよろしいですかな?」
「ええ、時は金なり、リソースは常に足りない。手っ取り早いのは大歓迎です。」
戦争とは数の暴力と数の暴力が鬩ぎ合うものである。
現実世界よりも個人の力量差が与える影響が顕著なハルケギニアにおいても
それは変わらぬ真理であり、兵多ければ勝利の基本則は変わらない。
作戦で局所的に優位を作り、敵軍の士気や統制を崩壊させて勝利しようとしても、
数の差が絶対的に違えば話にならないのである。
となれば、数の暴力を維持しなければならない。すなわち、膨大な兵員を
食わせるための兵糧、武器弾薬、各種秘薬を必要なだけ集め、与えねばならない。
啓太は、各地で戦利品を獲得させ、大雑把な量で言えば充分すぎるほどの
物資を手に入れさせているのであるが、いかんせん細かいところではどうしても
足りないものが出てきてしまう。そのため、購入という手段も必要なのだ。
啓太は、華々しい戦闘の裏でこういった地味な部分に関しても抜かりなく
手配りをしていた。その一つが、このトルネコという太った大商人との商談だ。
本籍はゲルマニアで、ツェルプストー家の武装商船に混じってただ一隻、
他の商会から参戦している大型武装商船の持ち主だ。アルビオン内にも
多数の支店を持っているとのことで、啓太は大商人トルネコを呼んだのである。
平民出身で魔法がろくに使えないそうなのだが、大手柄を立てて貴族に叙勲され、
立派なマントを羽織ってそろばんの飾りがついたごつい錫杖を持っている。
最近ゲルマニアの商人系貴族で流行っている正義のそろばんという武器だ。
ゆったりとした上着の下には、戦地のためか軽めの鎧を着込んでいるようだ。
体の動きに無駄や隙がなく、歴戦の戦士である事にうなずける。
「このリストが当商会がすぐに供給できる主な商品の品目と量です。
こちらは多少の時間がかかるもの。こちらは確約は出来ぬものの供給できる見込み
のある品のリストです。連合艦隊に必要そうなものを選びましたので、
他にもご入用な物がございましたら承ります。物によっては他から買い取る等して
ご提供できるかもしれません。」
「ほう、これはすばらしい。これで時間がだいぶ節約できます。
おい、これを頼む。不足物資のリストと照合して(後略)」
啓太は、すぐにリストを薬草クラブ員達に渡し、あれこれ指示を出して
買取物資のリストを作らせ始めた。艦隊の参謀達とはすでにある程度の
相談を済ませ、段取りは整えてある。というより、参謀達のあまりに低劣な
補給計画に関する能力を知ってしまい、泣きたくなってしまってから数日たつ。
以後啓太は、各種の現代的な補給計算法などのレクチャーを
姫様や薬草クラブ員達はおろか将軍や提督、参謀達にする羽目になった。
75 名前:いぬかみっな使い魔 sage 投稿日:2008/11/02(日) 22:37:46 ID:3FKmb1hK
この時代、補給計画とは将軍や提督の経験則による非常に大雑把なものでしかない。
正面戦力の必要物資の量等は割と正確に推し量れても、必要物資が距離や時間
などにより幾何級数的に増える事や、攻撃力が距離の二乗に反比例して減る事も
あまり理解されていない。そんな連中を教育して補給計画立案の補助まで
しなければならないのだから事実上の作戦参謀たる啓太の負担は
相当なものである。ストレスも溜まりやすいといえる。
しかし啓太は、とある事情からストレス解消の最大の方法を失っていた。
故に、ある種のイジメを薬草クラブ員達にすることでストレス解消をしていたのだ。
だが、それも限界に来ていた。これ以上は啓太とクラブ員、双方が持たない。
ゆえに。
啓太は、薬草クラブ員達にとある褒美を与えることを計画していた。
啓太の前述した悩みゆえにちょっとばかり伸びていたのであるが、
リストの中に書いてあったとある品名に気づいた時。
「これは!」
バ イ ア グ ラ !!
ご褒美の即日渡しが1ミリ秒で決まった。
いや、秘薬の名前自体はもっと別のものだ。しかし、自動翻訳能力を
付与された啓太のノウミソは、その比較的レアな秘薬の効果を理解したとたん、
バイアグラという名前以外には認識できなくなった。
なってしまったのである。
「おや、ケータ殿、なにか秘薬のリストに問題でも?」
啓太が突然大声を上げたので、トルネコは心配そうに聞いてきた。
薬草クラブ員達も手を止めて啓太のほうを見た。
「い、いや、それほどの事ではありません。おいみんな、作業の手を休めるな!
物資の調達と輸送にはどうしても注文してからタイムラグが生じる。
となればあらかじめ手配しておかなきゃ必要なときに物資が
届いていない事になる。物資の不足は戦場で致命的な隙をさらす
原因となる事はわかるだろう。時間との勝負だ、急げ!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
啓太の一喝に、薬草クラブ員達は作業を再開した。
「見事な統制ですな。トリスティン魔法学院の生徒達は、みなこのように
即戦力となる優秀なものたちばかりなのですか。素晴らしいですな。」
トルネコが、感心したように言う。
「ええ、優秀です。即席で叩き込んだんですが、皆訓練にかじりついてくれます。
うん、がんばってくれてるし、これは例の褒美をやらないとな。」
「「「「(キュピーン)!!!!」」」」
突然機嫌が良くなった啓太の言葉に、薬草クラブ員達の目が光った。
啓太の言うご褒美とは、高確率でエロイ事関連なのである。
間接的にエロイ事、すなわち女にモテるために有用な金や知識の供与等も含めれば
その確率はさらに高くなる。その啓太が提示した今回の褒美は。
ある意味非常にでかかった。
薬草クラブ員達は、さらに猛然と作業を進めた。
「ほう! これはこれは。トリスティンの優秀さを垣間見させてもらいましたよ。」
トルネコがさらに褒める。
「はは、褒めすぎですよ、トルネコさん。さて、話を商談に戻しますが。
その、こちらの入手が不確実な秘薬のリストについてですがね。」
啓太は、勤めてさりげなくトルネコに探りを入れた。
「なんでございましょう?」
「ええ、ここからここまでの秘薬が欲しいのですが。量は、これくらい、かな。」
啓太は秘薬リストの一角を指差し、取り出した別の紙に品目と量を書いていく。
「どうです、いつぐらいまでにお願いできますか?」
啓太の目は、大いなる期待に輝いていた。
「そうですな、アルビオンの親交の在る商会と交渉して手に入り次第、ですな。
ものによっては私自身がダンジョンに直接もぐって探してきます。
期待されても困りますが、早ければこの期日、遅ければこう、(中略)それ以降は
短期間ではまず難しいためにですな、値段は(後略)」
「ふむ、おおよそ(後略)」
ダンジョンに自ら乗り込んで商品を手に入れるという、商人としては
およそありえない発言であったが、地下深くの洞穴でのみ手に入る秘薬も
注文リストにあったので、啓太は特に気にすることもなく詳しい商談に移った。
そして。
勤めてさりげなく、バイアグラ(仮称)の注文交渉を織り込んだのであった。
そして。それからしばらくの後。
すなわちアルビオン上陸9日目の朝、ランス港郊外。
啓太は、数十人の漢達を前に、訓示を垂れていた。
「諸君! ついにこの日が来た!」
マントをまとったメイジ達が整列する前を、威圧的にのし歩く。
「4つのレコンキスタ艦隊を撃破し、4つの港を陥落せしめ、
レコンキスタに占領されしロンディニウムを襲撃して捕虜を奪還し、
各地の資源集積地を襲って軍需物資を手に入れ…
我々トリスティン軍はまさに獅子奮迅、連戦連勝街道をひた走った!」
集まった漢達の顔に、強い誇りと自負が浮かんだ。
1週間前には祖国を小国と揶揄していた卑下の色は、もはやかけらほども無い。
「アンリエッタ姫はアルビオン王女として、アルビオン親征艦隊司令に正式になり、
レコンキスタから開放された多くの艦艇と人員が、ゆるぎない忠誠を誓ってくれている!」
先日、念のためにと啓太が正式な辞令をアルビオン国王ジェームズ一世に
求めるように進言し、直ちにその辞令と、アルビオン王国王位継承権
第2位の認定書が送られてきたのだ。これによって、トリスティン艦隊は
名実共にアルビオン王女の直卒する親征艦隊となり、寝返ったアルビオン艦隊への
正当な指揮権が発生し、取り込み工作は実に簡便な作業へとなった。
さらに、新たな“国王候補”が誕生した事により、多くの変化が在った。
王国を滅亡させるためには国王と皇太子、首都の3つを同時に押さえねばならない。
首都は押さえ、二人をすでに追い詰めている…はずだったのに、
強い戦略眼と指揮能力、巨大なカリスマを持(っているようにみえる)ち、
巨大な戦力を手にしたアンリエッタという皇太子の予備が出現したのだ。
これをも倒さねば目的を果たせないのだからレコンキスタは消沈もする。
逆にアルビオン陣営には希望と士気の上昇がもたらされていた。
今では、レコンキスタをきりきり舞いさせている“強い王女”が。
“未来の強い女王候補”が予備として存在しているのだ。アンリエッタ王女は、
敵の後方霍乱のみならず、ガリア傭兵3千と補給物資を送ってくれ、
両軍が対峙している戦場にも一度現れ、レコンキスタ艦隊に損害を与えてくれた。
アルビオン将兵の彼女への信頼は、すでに熱狂の域にまで達していた。
それらの作戦を練り、提示することで、軍師としての地位を確定しつつある
“アンリエッタ姫の軍事関連教師”である啓太は、戦闘の合間の補給と
休養のこの日…ナゼか、意欲満々な連中を前に訓示を垂れている。
「全ての作戦は、全ての戦闘は、今日この作戦の為の準備でしかなかった!」
全員、それを知って作戦の協約に署名した、固い結束を持つ連中だ。
中には、元帥の息子たる土のトライアングルメイジまでいたりする。
「わずかな齟齬が、この作戦の失敗にと繋がる。故に、間違いは許されない!
全員、充分な睡眠をとり、必要な秘薬と道具を用意してきているな!?」
啓太は厳しい目つきで、薬草クラブ員を中心として、
同じ志を持った王軍や空軍の高級士官たちを見つめる。
「段取りはきちんと頭に入っているな? よし、では、作戦開始!」
かくして、彼らは…
アンリエッタ王女殿下が最初に入る事になる『 お 風 呂 』
の新築作業に入ったのであった。
事の起こりは、ラ・ロシェールに到着した晩に船上で一泊した時に遡る。
フネを降りて、女神の杵亭にて休もうとしたアンリエッタ達女性陣を、
マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが止めたのだ。
「殿下。現在ラ・ロシェールにはレコンキスタに雇ってもらおうと
アルビオンに向かう傭兵が多数おります。さらに、レコンキスタの間諜も
多数潜んで虎視眈々と監視をしております。アルビオンに攻めあがるには、
ここを拠点とする事になりますからな。となりますと、レコンキスタへの
示威行為をしているトリスティン艦隊は敵とみなされましょう。
暗殺を警戒せねばなりませぬ。襲撃しやすい地上の宿では危険すぎます。
ご不自由をおかけしますが、今夜は船室でお休みください。」
最もな話である。啓太も、すぐに賛同した。収まらないのはルイズだ。
「それでは姫様がお風呂に入れませんわ! それにベッドにせよ食事にせよ姫様に
ご不自由をおかけすることになるますわ! 警備を強化すればよい話でしょう!」
これも最もな発言だ。王女となれば身奇麗にしてその美貌を公開するのは公務だ。
美しい姫のために、と将兵は勢いづき、士気が上がる。
薄汚れた姫では士気が上がらない。これは戦術上の大問題なのだ。
姫様付きの女官となればその辺りを心配するのは責務である。
「そこは濡れタオルで拭いて洗面器で髪を洗うなどしていただいて、ですな。
工夫していただきたい。無論、入浴券は数倍お出し出来ますので。」
船の上における入浴券とは、銭湯のチケットとは違う。
洗面器を持って所定の場所に行くとお湯を一杯くれる、というものだ。
洗面器一杯のお湯で口をゆすぎ、顔を洗い、体を拭かなければならない。
量が少ないために結構コツがいる。船の上では水も燃料も貴重で、
水兵程度なら週に1枚、下士官で2枚、士官で数枚という配給態勢だ。
蒸気船時代以降の海軍であれば話は別だ。蒸気機関の余熱で海水を温め、
毎日でも風呂に入れるのであるが、ここはハルケギニア。
空の上では海水すら入手は難しく、雨を集めてわずかに風呂用水にしている。
港で停泊中といえど水事情は余りよくない。世界樹が生えるのはなぜか
岩山の上で川が遠い上に井戸を掘っても岩又岩。人工的に作られた鉄塔の港でも、
さびを防ぐために乾燥した土地が選ばれる。港は真水を得にくいのだ。
故に水はまず飲料水、それも長期移動のフネに積み込む飲料水に回される。
港は農業に今ひとつ適さない事が多いから生鮮食料も遠くから運ぶ事になる。
必然的にフネでは飲み水は配給制となって1日の量が決まっており、
食事も出航後日が経つにつれ生鮮食品が減り、カビや虫の沸いたビスケットと
硬い乾燥肉だけ、なんて事になる事が多い。
だから上陸して思う存分飲み食いでき、ゆっくり風呂に入れる上陸は、
船乗りにとって何よりの休暇であり娯楽なのである。
意外な事に女を抱けるから、というのはあくまで副次的な理由なのだ。
ちなみに、庶民は蒸し風呂に入るのが普通だが、蒸し風呂は出た後冷水を
大量にかぶるのが常だ。垢をこすり落とすタオルをゆすぐのにも水が必要だ。
蒸し風呂だから温水は少なく済んでも水が大量に必要なのは
風呂に共通する補給上の問題なのである。
なおも抗議していたルイズに、啓太が懇々と諭した。
「ルイズ。これから姫様は当面こんな状況が続く事になる。
なにしろ、俺たちはレコンキスタの勢力圏に殴り込みをかけるんだ。
敵地で油断は出来ない。ずっと船にこもってもらうことになる。
幸い今日は、味方の港にいる。失敗してお湯を使いすぎても、
港から多少は補充できる。訓練のためにはいい条件だ。がんばれ。」
「それは…」
まっとうな事を言われて、言いよどむルイズに、アンリエッタが声をかけた。
「ルイズ、ルイズ、私のルイズ。国を守り民を守るは王族の義務。
そのために戦地におもむくことも義務。ほうっておけばアルビオンを
蹂躙した後に、トリスティンに襲い掛かるであろうレコンキスタを倒し、
後顧の憂いを払うのも義務。幸い私は、勝利の目算を得られた上で
戦いに望む事が出来るのです。望外の幸運です。わずかな不自由が
何だというのでしょう。この程度、甘んじて受けねばなりませぬ。」
「姫様…!!!」「きょろ~!?」
毅然としたアンリエッタに、ルイズは尊敬と感動の眼差しを浮かべた。
二人して試練に打ち勝つのがどーのこーのと手を取り合って感動している。
その二人を見て、ともはねが
「お姫様、かっこいいです!」
とうんうんうなずいていた。
その脇で啓太は、暖かいまなざしで彼女達を見守っていた。
生徒が成長していくのを見るのは、師として実にうれしいことだからである。
(「とはいえ、こんな不自由をいつまでもさせるわけに行かないよな。」)
うれしくなった啓太はそんなふうに考えた。
そして啓太は、さらに考えを進める。
(「早めに姫様だけでも帰れるようにするか? ごく短期間の援護だけして
後はアルビオンに自力でがんばってもらえば…いや、それだと領土を得られない。
となると、絶対に暗殺されない方法でお風呂に入ってもらう?
キュルケみたいに小型のバスタブを持ち込んで入るとか? 姫様が満足するかな?
宿で暗殺される可能性の要素はアレとコレとソレと…あ!」)
啓太が、残り湯大作戦なるものを思いつき、色々と画策しだしたのには。
こんなきっかけがあったのであった。
「と、いうわけでだ! 有志を募りたい!」
ある日啓太が執務室で計画を打ち明けると、皆が一斉につり込まれ、たりはしなかった。
「浴場を作って、褒美に二番風呂を使わせてもらう?」
「覗き部屋を作るわけでもないのにそんなかったるいことはなあ。」
「姫様たちの後に入れるだけじゃあ、さすがにやる気が起きないよ。」
「そりゃまあ名誉といえばいえるけど、2番風呂ってだけだろ?」
口々に否定の言葉を吐く薬草クラブ員達に、啓太はちっちっちっと指を振った。
「わかっていないな、君たち。2番風呂には入れるって事はだ。いいか。」
機密保持のために盗聴防止魔法を常動でかけているのに、
さらに耳を寄せさせ、声を潜めて言う啓太である。
「例えば。姫様が使った洗面器やタオルで、体を洗える!」
「おお!?」「なに!?」「姫様の洗面器で!?」「それは!」
早くも数名の男子が、前かがみになった。
「さらに。王族が入るとなれば、当然風呂用椅子を用意するよな?」
「あ、ああ。」「そ、そうだな。」「う、うん。」
「当然姫様はその椅子に座る。湯着だけのお尻で座る!
2番風呂となれば! その椅子にほお擦りなんか出来ちゃうんだぞ!」
湯着とはいわゆる脇や下が大きく開いていて体をこするタオルなどを
入れやすい、うすでの服だ。申し訳程度に体を覆う布地の裾は短く、
当然ながら下着=ぱんつはつけず、事実上椅子には生尻で座ることになる。
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
雄たけびが上がった。
すでに、ほぼ全員が前かがみである。
「さらに。あの高貴なアンリエッタ姫だけでなく、キュルケやタバサ、
ルイズなんかも一緒に入ってもらう予定だ。お姫様二名に女官が二名。
あとは、護衛としてともはねにも行って貰うかな。よりどりみどり!」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
再び雄たけびが上がった。
「そしてもちろん! 風呂の残り湯、すなわちアンリエッタ姫たちが
その身を浸し、汗を流した浴槽のお湯は、俺たちが好きにしていいわけだ!」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
三たび雄たけびが上がった。
「そそそそ、それは、匂いをかいだりしてもいいのか!?」
「おう、嗅げ嗅げ!」
「ひ、姫様のあんなところやこんなところを浸したお湯を触っても!?」
「おう、触れ触れ!」
「あああああ、あまつさえ、のののののの、飲んだりしても!?」
「おう、飲め飲め!」
「ううううう(鼻血)」「す、すごいよ啓太君!」「い、生きてて良かった!」
「一生ついていきます!(鼻血)」「先生と呼ばせてください!(鼻血)」
「俺は今、モーレツに感動している!(滂沱の涙)」「俺もだ!(滂沱の涙)」
「お、おれ、一生壷に入れて宝物にするよ!」「俺も!」「おれも!」
「おう! 土メイジに頼んで固定化かけてもらいな!」
このあたり、純情な童貞少年達の心理を見事に突いた啓太の作戦勝ちである。
なお、建築員たちは童貞ではなくなっているものも多いが、1回のみな上に
素人童貞であることには変わりが無かったりするので注意されたい。
熱狂の最中とはいえ、中には冷静な奴も少しはいる。
金髪の風メイジ、レイナールが疑問を呈した。
「で、でも、それだけの物を建てるとなると、結構秘薬がいるよ?
それに、数時間で作るとなると、さすがに僕達だけじゃあ数が足りない。
それに設計図は? 装飾は申し訳程度で質実剛健に行くとしても、
必要なものは結構多いよ?」
「大丈夫だ。設計図は風呂屋作ったときのを取ってあるし、秘薬も在る。」
啓太は、自信たっぷりに言った。
「人数は、集めればいい。お前達は名門男子だ。コネはあるだろう?
それに、いくらなんでも俺たちでお湯を使いきれるわけが無い。
残ったお湯は一般水兵さんたちなんかにも分けてやらくちゃな。有償で。」
「それは!」「な、なんだかものすごく高く売れそうだな!?」
「下手をすれば1万エキュを超えるお金になるかも!?」「うん!」
「1万で済むか、売り方によっちゃ軽く数万になるぞ!」
「それって城が買えちゃわないか!?」「田舎なら結構な領地が!?」
「おい、コレってかなりすごくないか!?」「すごい!」
口々にうなずきあう男の子達である。
「あとな。お湯の処理が終わった後は、そろそろともはねのシャンプーを
してやらなくちゃいけない時期だな、と思ってるんだが、
何分時間は節約しなきゃならん。お前らと一緒にいれさせていいか?」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
今まで出最大の雄たけびが上がった。
それまで興味なさそうにしていた連中を中心として。
#navi(いぬかみっな使い魔)
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いぬかみっな使い魔 第21話(実質20話)
タイン陣地を撤退したレコンキスタ首脳陣は、敵の追撃をなんとか振り切る
ことに成功し、撤退を続けていたものの下がり続ける士気に頭を抱えていた。
「将兵に脱走が相次いでおります!」「いかがいたします、閣下!」
「脱走に歯止めをかけられません!」「かなりが敵に取り込まれております!」
「敵は3万5千ほどにも膨れ上がっている模様です。」
「わがほうの数はすでに2万5千にまで減りました。」
「これ以上の撤退は士気の決定的な低下を引き落とします。」
「さいわいもうすぐスコットランドの主城スコッチ城だ。」
「ここで踏みとどまって反撃するべきだ!」「うむ、そうですな。」
「スコッチ城は防御に適している。」「追撃が迫っているしな。」
レコンキスタは、スコットランドの中心都市にして最も堅固な城砦都市、
スコッチ城を目指し、何とか無事に入城した。一部の部隊はここを
素通りすると、シティ・オブ・サウスゴータに向かっていた。
連合艦隊が残した駐留戦力が申し訳程度に過ぎないと看破し、
一気に取り戻す予定で急行している。そこでも反撃の準備を整える予定だ。
いまだ保有している小さな港もさほど遠くない距離にあり、
そこをレコンキスタ残存艦隊の基地とした。
問題は二つ。
一つは、件の港は小さい規模であり、レコンキスタ艦隊の半分しか停泊できない点。
残りは交代で上空警戒任務に出すしかない。元から撤退援護に必要なので
今は問題ではないが、後々艦を停泊させるため盤木を土メイジに作らせている。
これらは敵が攻め寄せたらすぐに破壊されてしまいかねないものでしかないが、
無いよりはあったほうがずっとましなのである。風石の消耗がまったく違う。
もう一つが、この城に蓄えられた兵糧が心もとないことだ。
サウスゴータに向かった部隊が奪還に失敗すれば。あるいは連合艦隊が兵糧を
奪いつくしていれば。さらに言えば兵糧の輸送に失敗すれば、彼らに未来は無い。
綱渡りのような状況が続いている。
そんな幕僚達の動揺しまくっている中でただ一人、いや、二人だけが泰然と構え、
落ち着き払っていた。まるで、この程度なんでもないとの態度である。
「やれやれ。君たちは、忘れてしまったのかね?」
レコンキスタ首魁、オリヴァー・クロムウェルが一言述べると、
その場がぴたりと静まった。
「…閣下?」
「我々は、旗揚げの直後から、長いこと寡兵で多くの敵と渡り合ってきた。
先日までのようにより多くの戦力で戦えたことなど、ごく最近になってからだ。
この程度の戦力差など、何だというのかね?」
その通りであった。王国軍に始めて勝てたのは、レキシントンの戦場での事。
それまで彼らは、地方の一揆か大き目のゲリラと大差ない存在であったのだ。
彼らレコンキスタは長いこと少ない戦力でより多くの王軍に勝利してきた。
クロムウェルの巧妙もしくは卑劣な作戦と王軍のなかから頻繁に現れる裏切り者の
活躍、豊富な資金と補給によって幾度と無く劇的な逆転勝利を成し遂げてきたのだ。
それまでと比べれば、いまだいくつもの都市を支配し、2万5千もの地上戦力と
大艦隊を持っている状況ははるかに良い。
「な、なるほど。」「しかし、士気の低下は深刻です。」「何とかせねば。」
「さよう、戦いになりませぬ。」「現状では敵が来ただけで降伏しかねませぬ。」
クロムウェルは一つうなずくと、脇に立つ青年と何事か相談し、うなずいた。
「良かろう、閲兵の準備を。私自身が将兵の士気を鼓舞するとしよう。
そう、その時には何か景気付けになるものを。そうだな、演説開始前に
全員に金貨2枚を支給。ワインを一杯与え、演説の後皆で乾杯するとしよう。」
その日の朝。レコンキスタ地上戦力全軍に対して閲兵が行われた。
その場で提供された酒は、一旦とあるテントに集められた。
その作業に従事した人夫達の中に、一人の黒髪の青年が混じっていたのであるが、
誰も特に気にしなかったという。
そう。アンドヴァリの指輪から滴った雫がぶどう酒の樽に入っても、
気にするものはいなかった。クロムウェルは演説と乾杯の後、
全軍の見守る中一人の伯爵を“虚無の魔法”によって生き返らせた。
それを見た将兵達は熱狂的な喝采を上げ、レコンキスタの士気は回復したのである。
マジックアイテムで虚無の担い手を装っているとの噂は、
彼らの頭からきれいに消え去っていた。
第9日目早朝、ランスの港。この時、啓太は一人のゲルマニア商人と会っていた。
「やあ、トルネコさん、良く来てくれました。アンリエッタ姫殿下の軍事教師
をしております川平啓太です。よろしくお願いしますよ。」
「これはご丁寧に、ケータ殿。早速商談に入らせていただいてよろしいですかな?」
「ええ、時は金なり、リソースは常に足りない。手っ取り早いのは大歓迎です。」
戦争とは数の暴力と数の暴力が鬩ぎ合うものである。
現実世界よりも個人の力量差が与える影響が顕著なハルケギニアにおいても
それは変わらぬ真理であり、兵多ければ勝利の基本則は変わらない。
作戦で局所的に優位を作り、敵軍の士気や統制を崩壊させて勝利しようとしても、
数の差が絶対的に違えば話にならないのである。
となれば、数の暴力を維持しなければならない。すなわち、膨大な兵員を
食わせるための兵糧、武器弾薬、各種秘薬を必要なだけ集め、与えねばならない。
啓太は、各地で戦利品を獲得させ、大雑把な量で言えば充分すぎるほどの
物資を手に入れさせているのであるが、いかんせん細かいところではどうしても
足りないものが出てきてしまう。そのため、購入という手段も必要なのだ。
啓太は、華々しい戦闘の裏でこういった地味な部分に関しても抜かりなく
手配りをしていた。その一つが、このトルネコという太った大商人との商談だ。
本籍はゲルマニアで、ツェルプストー家の武装商船に混じってただ一隻、
他の商会から参戦している大型武装商船の持ち主だ。アルビオン内にも
多数の支店を持っているとのことで、啓太は大商人トルネコを呼んだのである。
平民出身で魔法がろくに使えないそうなのだが、大手柄を立てて貴族に叙勲され、
立派なマントを羽織ってそろばんの飾りがついたごつい錫杖を持っている。
最近ゲルマニアの商人系貴族で流行っている正義のそろばんという武器だ。
ゆったりとした上着の下には、戦地のためか軽めの鎧を着込んでいるようだ。
体の動きに無駄や隙がなく、歴戦の戦士である事にうなずける。
「このリストが当商会がすぐに供給できる主な商品の品目と量です。
こちらは多少の時間がかかるもの。こちらは確約は出来ぬものの供給できる見込み
のある品のリストです。連合艦隊に必要そうなものを選びましたので、
他にもご入用な物がございましたら承ります。物によっては他から買い取る等して
ご提供できるかもしれません。」
「ほう、これはすばらしい。これで時間がだいぶ節約できます。
おい、これを頼む。不足物資のリストと照合して(後略)」
啓太は、すぐにリストを薬草クラブ員達に渡し、あれこれ指示を出して
買取物資のリストを作らせ始めた。艦隊の参謀達とはすでにある程度の
相談を済ませ、段取りは整えてある。というより、参謀達のあまりに低劣な
補給計画に関する能力を知ってしまい、泣きたくなってしまってから数日たつ。
以後啓太は、各種の現代的な補給計算法などのレクチャーを
姫様や薬草クラブ員達はおろか将軍や提督、参謀達にする羽目になった。
この時代、補給計画とは将軍や提督の経験則による非常に大雑把なものでしかない。
正面戦力の必要物資の量等は割と正確に推し量れても、必要物資が距離や時間
などにより幾何級数的に増える事や、攻撃力が距離の二乗に反比例して減る事も
あまり理解されていない。そんな連中を教育して補給計画立案の補助まで
しなければならないのだから事実上の作戦参謀たる啓太の負担は
相当なものである。ストレスも溜まりやすいといえる。
しかし啓太は、とある事情からストレス解消の最大の方法を失っていた。
故に、ある種のイジメを薬草クラブ員達にすることでストレス解消をしていたのだ。
だが、それも限界に来ていた。これ以上は啓太とクラブ員、双方が持たない。
ゆえに。
啓太は、薬草クラブ員達にとある褒美を与えることを計画していた。
啓太の前述した悩みゆえにちょっとばかり伸びていたのであるが、
リストの中に書いてあったとある品名に気づいた時。
「これは!」
バ イ ア グ ラ !!
ご褒美の即日渡しが1ミリ秒で決まった。
いや、秘薬の名前自体はもっと別のものだ。しかし、自動翻訳能力を
付与された啓太のノウミソは、その比較的レアな秘薬の効果を理解したとたん、
バイアグラという名前以外には認識できなくなった。
なってしまったのである。
「おや、ケータ殿、なにか秘薬のリストに問題でも?」
啓太が突然大声を上げたので、トルネコは心配そうに聞いてきた。
薬草クラブ員達も手を止めて啓太のほうを見た。
「い、いや、それほどの事ではありません。おいみんな、作業の手を休めるな!
物資の調達と輸送にはどうしても注文してからタイムラグが生じる。
となればあらかじめ手配しておかなきゃ必要なときに物資が
届いていない事になる。物資の不足は戦場で致命的な隙をさらす
原因となる事はわかるだろう。時間との勝負だ、急げ!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
啓太の一喝に、薬草クラブ員達は作業を再開した。
「見事な統制ですな。トリスティン魔法学院の生徒達は、みなこのように
即戦力となる優秀なものたちばかりなのですか。素晴らしいですな。」
トルネコが、感心したように言う。
「ええ、優秀です。即席で叩き込んだんですが、皆訓練にかじりついてくれます。
うん、がんばってくれてるし、これは例の褒美をやらないとな。」
「「「「(キュピーン)!!!!」」」」
突然機嫌が良くなった啓太の言葉に、薬草クラブ員達の目が光った。
啓太の言うご褒美とは、高確率でエロイ事関連なのである。
間接的にエロイ事、すなわち女にモテるために有用な金や知識の供与等も含めれば
その確率はさらに高くなる。その啓太が提示した今回の褒美は。
ある意味非常にでかかった。
薬草クラブ員達は、さらに猛然と作業を進めた。
「ほう! これはこれは。トリスティンの優秀さを垣間見させてもらいましたよ。」
トルネコがさらに褒める。
「はは、褒めすぎですよ、トルネコさん。さて、話を商談に戻しますが。
その、こちらの入手が不確実な秘薬のリストについてですがね。」
啓太は、勤めてさりげなくトルネコに探りを入れた。
「なんでございましょう?」
「ええ、ここからここまでの秘薬が欲しいのですが。量は、これくらい、かな。」
啓太は秘薬リストの一角を指差し、取り出した別の紙に品目と量を書いていく。
「どうです、いつぐらいまでにお願いできますか?」
啓太の目は、大いなる期待に輝いていた。
「そうですな、アルビオンの親交の在る商会と交渉して手に入り次第、ですな。
ものによっては私自身がダンジョンに直接もぐって探してきます。
期待されても困りますが、早ければこの期日、遅ければこう、(中略)それ以降は
短期間ではまず難しいためにですな、値段は(後略)」
「ふむ、おおよそ(後略)」
ダンジョンに自ら乗り込んで商品を手に入れるという、商人としては
およそありえない発言であったが、地下深くの洞穴でのみ手に入る秘薬も
注文リストにあったので、啓太は特に気にすることもなく詳しい商談に移った。
そして。
勤めてさりげなく、バイアグラ(仮称)の注文交渉を織り込んだのであった。
そして。それからしばらくの後。
すなわちアルビオン上陸9日目の朝、ランス港郊外。
啓太は、数十人の漢達を前に、訓示を垂れていた。
「諸君! ついにこの日が来た!」
マントをまとったメイジ達が整列する前を、威圧的にのし歩く。
「4つのレコンキスタ艦隊を撃破し、4つの港を陥落せしめ、
レコンキスタに占領されしロンディニウムを襲撃して捕虜を奪還し、
各地の資源集積地を襲って軍需物資を手に入れ…
我々トリスティン軍はまさに獅子奮迅、連戦連勝街道をひた走った!」
集まった漢達の顔に、強い誇りと自負が浮かんだ。
1週間前には祖国を小国と揶揄していた卑下の色は、もはやかけらほども無い。
「アンリエッタ姫はアルビオン王女として、アルビオン親征艦隊司令に正式になり、
レコンキスタから開放された多くの艦艇と人員が、ゆるぎない忠誠を誓ってくれている!」
先日、念のためにと啓太が正式な辞令をアルビオン国王ジェームズ一世に
求めるように進言し、直ちにその辞令と、アルビオン王国王位継承権
第2位の認定書が送られてきたのだ。これによって、トリスティン艦隊は
名実共にアルビオン王女の直卒する親征艦隊となり、寝返ったアルビオン艦隊への
正当な指揮権が発生し、取り込み工作は実に簡便な作業へとなった。
さらに、新たな“国王候補”が誕生した事により、多くの変化が在った。
王国を滅亡させるためには国王と皇太子、首都の3つを同時に押さえねばならない。
首都は押さえ、二人をすでに追い詰めている…はずだったのに、
強い戦略眼と指揮能力、巨大なカリスマを持(っているようにみえる)ち、
巨大な戦力を手にしたアンリエッタという皇太子の予備が出現したのだ。
これをも倒さねば目的を果たせないのだからレコンキスタは消沈もする。
逆にアルビオン陣営には希望と士気の上昇がもたらされていた。
今では、レコンキスタをきりきり舞いさせている“強い王女”が。
“未来の強い女王候補”が予備として存在しているのだ。アンリエッタ王女は、
敵の後方霍乱のみならず、ガリア傭兵3千と補給物資を送ってくれ、
両軍が対峙している戦場にも一度現れ、レコンキスタ艦隊に損害を与えてくれた。
アルビオン将兵の彼女への信頼は、すでに熱狂の域にまで達していた。
それらの作戦を練り、提示することで、軍師としての地位を確定しつつある
“アンリエッタ姫の軍事関連教師”である啓太は、戦闘の合間の補給と
休養のこの日…ナゼか、意欲満々な連中を前に訓示を垂れている。
「全ての作戦は、全ての戦闘は、今日この作戦の為の準備でしかなかった!」
全員、それを知って作戦の協約に署名した、固い結束を持つ連中だ。
中には、元帥の息子たる土のトライアングルメイジまでいたりする。
「わずかな齟齬が、この作戦の失敗にと繋がる。故に、間違いは許されない!
全員、充分な睡眠をとり、必要な秘薬と道具を用意してきているな!?」
啓太は厳しい目つきで、薬草クラブ員を中心として、
同じ志を持った王軍や空軍の高級士官たちを見つめる。
「段取りはきちんと頭に入っているな? よし、では、作戦開始!」
かくして、彼らは…
アンリエッタ王女殿下が最初に入る事になる『 お 風 呂 』
の新築作業に入ったのであった。
事の起こりは、ラ・ロシェールに到着した晩に船上で一泊した時に遡る。
フネを降りて、女神の杵亭にて休もうとしたアンリエッタ達女性陣を、
マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが止めたのだ。
「殿下。現在ラ・ロシェールにはレコンキスタに雇ってもらおうと
アルビオンに向かう傭兵が多数おります。さらに、レコンキスタの間諜も
多数潜んで虎視眈々と監視をしております。アルビオンに攻めあがるには、
ここを拠点とする事になりますからな。となりますと、レコンキスタへの
示威行為をしているトリスティン艦隊は敵とみなされましょう。
暗殺を警戒せねばなりませぬ。襲撃しやすい地上の宿では危険すぎます。
ご不自由をおかけしますが、今夜は船室でお休みください。」
最もな話である。啓太も、すぐに賛同した。収まらないのはルイズだ。
「それでは姫様がお風呂に入れませんわ! それにベッドにせよ食事にせよ姫様に
ご不自由をおかけすることになるますわ! 警備を強化すればよい話でしょう!」
これも最もな発言だ。王女となれば身奇麗にしてその美貌を公開するのは公務だ。
美しい姫のために、と将兵は勢いづき、士気が上がる。
薄汚れた姫では士気が上がらない。これは戦術上の大問題なのだ。
姫様付きの女官となればその辺りを心配するのは責務である。
「そこは濡れタオルで拭いて洗面器で髪を洗うなどしていただいて、ですな。
工夫していただきたい。無論、入浴券は数倍お出し出来ますので。」
船の上における入浴券とは、銭湯のチケットとは違う。
洗面器を持って所定の場所に行くとお湯を一杯くれる、というものだ。
洗面器一杯のお湯で口をゆすぎ、顔を洗い、体を拭かなければならない。
量が少ないために結構コツがいる。船の上では水も燃料も貴重で、
水兵程度なら週に1枚、下士官で2枚、士官で数枚という配給態勢だ。
蒸気船時代以降の海軍であれば話は別だ。蒸気機関の余熱で海水を温め、
毎日でも風呂に入れるのであるが、ここはハルケギニア。
空の上では海水すら入手は難しく、雨を集めてわずかに風呂用水にしている。
港で停泊中といえど水事情は余りよくない。世界樹が生えるのはなぜか
岩山の上で川が遠い上に井戸を掘っても岩又岩。人工的に作られた鉄塔の港でも、
さびを防ぐために乾燥した土地が選ばれる。港は真水を得にくいのだ。
故に水はまず飲料水、それも長期移動のフネに積み込む飲料水に回される。
港は農業に今ひとつ適さない事が多いから生鮮食料も遠くから運ぶ事になる。
必然的にフネでは飲み水は配給制となって1日の量が決まっており、
食事も出航後日が経つにつれ生鮮食品が減り、カビや虫の沸いたビスケットと
硬い乾燥肉だけ、なんて事になる事が多い。
だから上陸して思う存分飲み食いでき、ゆっくり風呂に入れる上陸は、
船乗りにとって何よりの休暇であり娯楽なのである。
意外な事に女を抱けるから、というのはあくまで副次的な理由なのだ。
ちなみに、庶民は蒸し風呂に入るのが普通だが、蒸し風呂は出た後冷水を
大量にかぶるのが常だ。垢をこすり落とすタオルをゆすぐのにも水が必要だ。
蒸し風呂だから温水は少なく済んでも水が大量に必要なのは
風呂に共通する補給上の問題なのである。
なおも抗議していたルイズに、啓太が懇々と諭した。
「ルイズ。これから姫様は当面こんな状況が続く事になる。
なにしろ、俺たちはレコンキスタの勢力圏に殴り込みをかけるんだ。
敵地で油断は出来ない。ずっと船にこもってもらうことになる。
幸い今日は、味方の港にいる。失敗してお湯を使いすぎても、
港から多少は補充できる。訓練のためにはいい条件だ。がんばれ。」
「それは…」
まっとうな事を言われて、言いよどむルイズに、アンリエッタが声をかけた。
「ルイズ、ルイズ、私のルイズ。国を守り民を守るは王族の義務。
そのために戦地におもむくことも義務。ほうっておけばアルビオンを
蹂躙した後に、トリスティンに襲い掛かるであろうレコンキスタを倒し、
後顧の憂いを払うのも義務。幸い私は、勝利の目算を得られた上で
戦いに望む事が出来るのです。望外の幸運です。わずかな不自由が
何だというのでしょう。この程度、甘んじて受けねばなりませぬ。」
「姫様…!!!」「きょろ~!?」
毅然としたアンリエッタに、ルイズは尊敬と感動の眼差しを浮かべた。
二人して試練に打ち勝つのがどーのこーのと手を取り合って感動している。
その二人を見て、ともはねが
「お姫様、かっこいいです!」
とうんうんうなずいていた。
その脇で啓太は、暖かいまなざしで彼女達を見守っていた。
生徒が成長していくのを見るのは、師として実にうれしいことだからである。
(「とはいえ、こんな不自由をいつまでもさせるわけに行かないよな。」)
うれしくなった啓太はそんなふうに考えた。
そして啓太は、さらに考えを進める。
(「早めに姫様だけでも帰れるようにするか? ごく短期間の援護だけして
後はアルビオンに自力でがんばってもらえば…いや、それだと領土を得られない。
となると、絶対に暗殺されない方法でお風呂に入ってもらう?
キュルケみたいに小型のバスタブを持ち込んで入るとか? 姫様が満足するかな?
宿で暗殺される可能性の要素はアレとコレとソレと…あ!」)
啓太が、残り湯大作戦なるものを思いつき、色々と画策しだしたのには。
こんなきっかけがあったのであった。
「と、いうわけでだ! 有志を募りたい!」
ある日啓太が執務室で計画を打ち明けると、皆が一斉につり込まれ、たりはしなかった。
「浴場を作って、褒美に二番風呂を使わせてもらう?」
「覗き部屋を作るわけでもないのにそんなかったるいことはなあ。」
「姫様たちの後に入れるだけじゃあ、さすがにやる気が起きないよ。」
「そりゃまあ名誉といえばいえるけど、2番風呂ってだけだろ?」
口々に否定の言葉を吐く薬草クラブ員達に、啓太はちっちっちっと指を振った。
「わかっていないな、君たち。2番風呂には入れるって事はだ。いいか。」
機密保持のために盗聴防止魔法を常動でかけているのに、
さらに耳を寄せさせ、声を潜めて言う啓太である。
「例えば。姫様が使った洗面器やタオルで、体を洗える!」
「おお!?」「なに!?」「姫様の洗面器で!?」「それは!」
早くも数名の男子が、前かがみになった。
「さらに。王族が入るとなれば、当然風呂用椅子を用意するよな?」
「あ、ああ。」「そ、そうだな。」「う、うん。」
「当然姫様はその椅子に座る。湯着だけのお尻で座る!
2番風呂となれば! その椅子にほお擦りなんか出来ちゃうんだぞ!」
湯着とはいわゆる脇や下が大きく開いていて体をこするタオルなどを
入れやすい、うすでの服だ。申し訳程度に体を覆う布地の裾は短く、
当然ながら下着=ぱんつはつけず、事実上椅子には生尻で座ることになる。
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
雄たけびが上がった。
すでに、ほぼ全員が前かがみである。
「さらに。あの高貴なアンリエッタ姫だけでなく、キュルケやタバサ、
ルイズなんかも一緒に入ってもらう予定だ。お姫様二名に女官が二名。
あとは、護衛としてともはねにも行って貰うかな。よりどりみどり!」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
再び雄たけびが上がった。
「そしてもちろん! 風呂の残り湯、すなわちアンリエッタ姫たちが
その身を浸し、汗を流した浴槽のお湯は、俺たちが好きにしていいわけだ!」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
三たび雄たけびが上がった。
「そそそそ、それは、匂いをかいだりしてもいいのか!?」
「おう、嗅げ嗅げ!」
「ひ、姫様のあんなところやこんなところを浸したお湯を触っても!?」
「おう、触れ触れ!」
「あああああ、あまつさえ、のののののの、飲んだりしても!?」
「おう、飲め飲め!」
「ううううう(鼻血)」「す、すごいよ啓太君!」「い、生きてて良かった!」
「一生ついていきます!(鼻血)」「先生と呼ばせてください!(鼻血)」
「俺は今、モーレツに感動している!(滂沱の涙)」「俺もだ!(滂沱の涙)」
「お、おれ、一生壷に入れて宝物にするよ!」「俺も!」「おれも!」
「おう! 土メイジに頼んで固定化かけてもらいな!」
このあたり、純情な童貞少年達の心理を見事に突いた啓太の作戦勝ちである。
なお、建築員たちは童貞ではなくなっているものも多いが、1回のみな上に
素人童貞であることには変わりが無かったりするので注意されたい。
熱狂の最中とはいえ、中には冷静な奴も少しはいる。
金髪の風メイジ、レイナールが疑問を呈した。
「で、でも、それだけの物を建てるとなると、結構秘薬がいるよ?
それに、数時間で作るとなると、さすがに僕達だけじゃあ数が足りない。
それに設計図は? 装飾は申し訳程度で質実剛健に行くとしても、
必要なものは結構多いよ?」
「大丈夫だ。設計図は風呂屋作ったときのを取ってあるし、秘薬も在る。」
啓太は、自信たっぷりに言った。
「人数は、集めればいい。お前達は名門男子だ。コネはあるだろう?
それに、いくらなんでも俺たちでお湯を使いきれるわけが無い。
残ったお湯は一般水兵さんたちなんかにも分けてやらくちゃな。有償で。」
「それは!」「な、なんだかものすごく高く売れそうだな!?」
「下手をすれば1万エキュを超えるお金になるかも!?」「うん!」
「1万で済むか、売り方によっちゃ軽く数万になるぞ!」
「それって城が買えちゃわないか!?」「田舎なら結構な領地が!?」
「おい、コレってかなりすごくないか!?」「すごい!」
口々にうなずきあう男の子達である。
「あとな。お湯の処理が終わった後は、そろそろともはねのシャンプーを
してやらなくちゃいけない時期だな、と思ってるんだが、
何分時間は節約しなきゃならん。お前らと一緒にいれさせていいか?」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
今まで出最大の雄たけびが上がった。
それまで興味なさそうにしていた連中を中心として。
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