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「狂蛇の使い魔-08」(2008/10/25 (土) 01:19:45) の最新版変更点
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#navi(狂蛇の使い魔)
第八話
トリステイン魔法学院にある宝物庫。
その厳重に閉ざされた扉の前で、学院長の秘書ロングビルは立ち尽くしていた。
暗闇の中、壁に掛けられた松明が彼女のしかめた顔をぼんやりと照らし出している。
(錬金は無理、か……)
ロングビル―またの名を『土くれ』のフーケ―は、心の中で呟いた。
この学院にあると言われる曰く付きの秘宝『破滅の箱』。
その所在と入手方法を探るため、ロングビルと名を偽りこの学院に潜入したのである。
学院長秘書としての雑務や、変態オスマンのセクハラの数々……。
それらに耐えてきた甲斐あって、ようやくその居場所を突き止めることができた。
しかし、そこから先が問題だった。
何重にも施された固定化の魔法は、いくら『土くれ』の錬金術をもってしても潜り抜けることは不可能だという。
強力な物理的衝撃を与えれば破壊することが可能らしいが、果たしてゴーレムの力で足りるだろうか……。
「ここは一か八か、試してみるしかなさそうね……」
誰に言うでもなくそう呟くと、扉に背を向けて歩き出したのだった。
「お代わりなら沢山ありますから、遠慮なく言って下さいね!」
料理に夢中な浅倉の隣で、シエスタは微笑みながら言った。
腹を空かせた浅倉は、厨房にて生徒たちよりも一足早く昼食にありついていたのである。
浅倉がふと、料理を口に運んでいた手を止めると、半分ほどに減った料理を見つめたまま言った。
「お前、何で俺にここまでする」
「それは、浅倉さんが貴族に責められていた私を助けてくれたから……。そのお礼です」
顔を少し赤らめながら、シエスタが答えた。
エプロンを握る手に、思わず力が入る。
「……ふん。そうか」
浅倉はそう呟くと、止めていた手を再び動かし始めた。
「今日も世話になったな。じゃあな」
いくつかの料理を平らげた浅倉が、席を立つと同時に言った。
そのまま出口に向かって歩き出す。
「あの!」
「……なんだ」
背後から聞こえてきたシエスタの声に、浅倉は立ち止まり、後ろを振り向いた。
「何かあったら言って下さいね! 私、できることなら何でもしちゃいますからっ!」
「ほう……。覚えておくぜ」
そう言うと、浅倉は再び出口の方を振り向き、厨房を出ていった。
「あんた、こんなところで何してんの?」
地面に寝そべる浅倉に、ルイズは問いかけた。
「さあな」
「……ま、別にいいけど。それより、また聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
浅倉は空を見つめたまま答えない。
それを肯定と勝手に解釈したルイズは、再び問いかけた。
「たまにひどい耳鳴りがするんだけど、何か知らない? 例えば、こないだのバケモノが出た時とか……」
「それは、モンスターが近くにいると鳴るものだ」
浅倉がルイズの方を向き、口を開いた。
「ライダーにしかわからないわけなんだが、もしかして、お前……」
ルイズがあわてて両手を振る。
「そ、そんなはずないじゃない! 第一、そんな力があったらバケモノなんかに驚いてなんかないわよ!」
それもそうだな、と浅倉は再び空を見上げた。
近くにいる怪物の感知と、鏡の中を見ることができる能力……
もしかして、これが感覚の共有なのかしら?とルイズは手を口に当てて考える。
それと同時に、もう一つの疑問が浮かんできた。
「あんた、変な蛇とか大きなサイとか喚んでたけど、あいつらに食べられたりしないの?」
ルイズがそう尋ねると、浅倉は上半身を起こして答えた。
「エサをやってればな」
「エサって?」
「命だ。他のモンスターのな。……人間のでもいい。試してみるか?」
不気味な笑みを浮かべながら、懐からルイズの手鏡を取り出す。
あんたが言うと、冗談に聞こえない。
そうルイズが言いかけた時、突如背後から地響きが聞こえてきた。
振り返ると、そこには土でできた巨大なゴーレムが立っていた。
その巨体の肩に、何者かを乗せている。
「なんだ、あれは……?」
さすがの浅倉も驚き、立ち上がる。
戸惑うルイズたちをよそに、ゴーレムは学院の、ちょうど宝物庫がある辺りの壁へと近づくと、その大きな拳を打ち付けた。
何度も繰り返し拳を振るうゴーレムであったが、壁にはヒビが入っただけで、本格的に破壊するまでには至っていない。
「お前、何をするつもりだ?」
眼中にない、と判断したルイズは、杖を抜くと、聞こえてくる浅倉の声を無視して呪文の詠唱を始めた。
巨大なゴーレムを使い、数々の秘宝を盗み出してきたという噂の盗賊、『土くれ』のフーケ。
目の前にいるのはその人に違いない。
(あいつを退治できれば、私だって! 私だって認められるはず……!!)
そうした思いを胸に秘め、呪文の詠唱を完了させる。
そして、ゴーレムの肩の上にいる人物に杖を向け、叫んだ。
「ファイヤーボール!!」
その瞬間、大きな爆発音と共に、ゴーレムの拳が、打ち付けていた学院の壁ごと木端微塵に吹き飛んだ。
「これは一体……!?」
ゴーレムの力ではびくともしなかった宝物庫の壁が、容易く吹き飛ばされてしまった。
フーケはゴーレムの肩の上で唖然としていたが、状況を把握するとすぐに頭を切り替える。
再生したゴーレムの手の上に移動すると、爆発でできた穴から宝物庫に侵入し、目的の品を手に再びゴーレムの肩に飛び乗った。
辺りを見回し、ルイズと浅倉を見つけると、深々と被ったフードの下からこう言った。
「誰だか知らないが、礼を言うよ! これはついでだ!!」
言い終わると同時に、ゴーレムの拳がルイズたちに向けて勢いよく振り下ろされた。
迫りくる巨大な拳に、二人は咄嗟に身構えた。
当たるかと思われたその時、二人の後ろを何かが通り抜ける。
「シ、シルフィード!?」
次の瞬間、二人は風竜に掴まれ空を飛んでいた。
頭上から声がする。
「危ないところだったわねぇ、ホント」
「間に合った」
「その声は……タバサ!? それにキュルケも!!」
見上げると、赤い髪と青い髪の二つの顔が上からこちらを覗きこんでいた。
「助かったわ……」
ゴーレムが学院内から去っていくのを見届けた後、ルイズと浅倉は地面に下ろされた。
以前ルイズが買ってきた錆びた剣。
それが浅倉への贈り物だと知ったキュルケは、タバサに頼んでシルフィードに乗せてもらい、急遽武器屋に剣を買いに出掛けたのである。
その帰り、学院についた二人が目にしたのは、巨大なゴーレムに襲われているルイズの姿であった。
シルフィードを全速力で飛ばし、間一髪間に合ったというわけである。
「ともかく、学院長に報告に行きましょう」
キュルケに背負われている、いつかの武器屋で見かけた派手な大剣から目線を彼女に戻し、ルイズは頷いた。
ルイズたちが学院内へと歩いていくその後ろで、浅倉は呆然と立ち尽くしていた。
さっきの盗賊が盗んでいった物。
破滅の箱だとか何とか言っていたが、間違いない。
あれはカードデッキだ。
(またライダーと戦えるのか……?)
かつて味わった、超現実の戦い。
剣を振るうだけでイライラが消え、傷つけ合う度に快感を得ることができる……。
そう思い出すと、浅倉の体が喜びで震えた。
「クックックックッ……ッハハハハハハ!!!!」
狂気染みた笑い声をあげ、そのまま地面に仰向けに倒れ込む。
「誰だか知らんが、待っていろ……!!」
口元に笑みを湛えたまま、呟いた。
空を見上げているはずのその目には、間近に迫ったライダーとの戦い以外、何も映っていなかった。
#navi(狂蛇の使い魔)
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第八話
トリステイン魔法学院にある宝物庫。
その厳重に閉ざされた扉の前で、学院長の秘書ロングビルは立ち尽くしていた。
暗闇の中、壁に掛けられた松明が彼女のしかめた顔をぼんやりと照らし出している。
(錬金は無理、か……)
ロングビル―またの名を『土くれ』のフーケ―は、心の中で呟いた。
この学院にあると言われる曰く付きの秘宝『破滅の箱』。
その所在と入手方法を探るため、ロングビルと名を偽りこの学院に潜入したのである。
学院長秘書としての雑務や、変態オスマンのセクハラの数々……。
それらに耐えてきた甲斐あって、ようやくその居場所を突き止めることができた。
しかし、そこから先が問題だった。
何重にも施された固定化の魔法は、いくら『土くれ』の錬金術をもってしても潜り抜けることは不可能だという。
強力な物理的衝撃を与えれば破壊することが可能らしいが、果たしてゴーレムの力で足りるだろうか……。
「ここは一か八か、試してみるしかなさそうね……」
誰に言うでもなくそう呟くと、扉に背を向けて歩き出したのだった。
「お代わりなら沢山ありますから、遠慮なく言って下さいね!」
料理に夢中な浅倉の隣で、シエスタは微笑みながら言った。
腹を空かせた浅倉は、厨房にて生徒たちよりも一足早く昼食にありついていたのである。
浅倉がふと、料理を口に運んでいた手を止めると、半分ほどに減った料理を見つめたまま言った。
「お前、何で俺にここまでする」
「それは、浅倉さんが貴族に責められていた私を助けてくれたから……。そのお礼です」
顔を少し赤らめながら、シエスタが答えた。
エプロンを握る手に、思わず力が入る。
「……ふん。そうか」
浅倉はそう呟くと、止めていた手を再び動かし始めた。
「今日も世話になったな。じゃあな」
いくつかの料理を平らげた浅倉が、席を立つと同時に言った。
そのまま出口に向かって歩き出す。
「あの!」
「……なんだ」
背後から聞こえてきたシエスタの声に、浅倉は立ち止まり、後ろを振り向いた。
「何かあったら言って下さいね! 私、できることなら何でもしちゃいますからっ!」
「ほう……。覚えておくぜ」
そう言うと、浅倉は再び出口の方を振り向き、厨房を出ていった。
「あんた、こんなところで何してんの?」
地面に寝そべる浅倉に、ルイズは問いかけた。
「さあな」
「……ま、別にいいけど。それより、また聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
浅倉は空を見つめたまま答えない。
それを肯定と勝手に解釈したルイズは、再び問いかけた。
「たまにひどい耳鳴りがするんだけど、何か知らない? 例えば、こないだのバケモノが出た時とか……」
「それは、モンスターが近くにいると鳴るものだ」
浅倉がルイズの方を向き、口を開いた。
「ライダーにしかわからないわけなんだが、もしかして、お前……」
ルイズがあわてて両手を振る。
「そ、そんなはずないじゃない! 第一、そんな力があったらバケモノなんかに驚いてなんかないわよ!」
それもそうだな、と浅倉は再び空を見上げた。
近くにいる怪物の感知と、鏡の中を見ることができる能力……
もしかして、これが感覚の共有なのかしら?とルイズは手を口に当てて考える。
それと同時に、もう一つの疑問が浮かんできた。
「あんた、変な蛇とか大きなサイとか喚んでたけど、あいつらに食べられたりしないの?」
ルイズがそう尋ねると、浅倉は上半身を起こして答えた。
「エサをやってればな」
「エサって?」
「命だ。他のモンスターのな。……人間のでもいい。試してみるか?」
不気味な笑みを浮かべながら、懐からルイズの手鏡を取り出す。
あんたが言うと、冗談に聞こえない。
そうルイズが言いかけた時、突如背後から地響きが聞こえてきた。
振り返ると、そこには土でできた巨大なゴーレムが立っていた。
その巨体の肩に、何者かを乗せている。
「なんだ、あれは……?」
さすがの浅倉も驚き、立ち上がる。
戸惑うルイズたちをよそに、ゴーレムは学院の、ちょうど宝物庫がある辺りの壁へと近づくと、その大きな拳を打ち付けた。
何度も繰り返し拳を振るうゴーレムであったが、壁にはヒビが入っただけで、本格的に破壊するまでには至っていない。
「お前、何をするつもりだ?」
眼中にない、と判断したルイズは、杖を抜くと、聞こえてくる浅倉の声を無視して呪文の詠唱を始めた。
巨大なゴーレムを使い、数々の秘宝を盗み出してきたという噂の盗賊、『土くれ』のフーケ。
目の前にいるのはその人に違いない。
(あいつを退治できれば、私だって! 私だって認められるはず……!!)
そうした思いを胸に秘め、呪文の詠唱を完了させる。
そして、ゴーレムの肩の上にいる人物に杖を向け、叫んだ。
「ファイヤーボール!!」
その瞬間、大きな爆発音と共に、ゴーレムの拳が、打ち付けていた学院の壁ごと木端微塵に吹き飛んだ。
「これは一体……!?」
ゴーレムの力ではびくともしなかった宝物庫の壁が、容易く吹き飛ばされてしまった。
フーケはゴーレムの肩の上で唖然としていたが、状況を把握するとすぐに頭を切り替える。
再生したゴーレムの手の上に移動すると、爆発でできた穴から宝物庫に侵入し、目的の品を手に再びゴーレムの肩に飛び乗った。
辺りを見回し、ルイズと浅倉を見つけると、深々と被ったフードの下からこう言った。
「誰だか知らないが、礼を言うよ! これはついでだ!!」
言い終わると同時に、ゴーレムの拳がルイズたちに向けて勢いよく振り下ろされた。
迫りくる巨大な拳に、二人は咄嗟に身構えた。
当たるかと思われたその時、二人の後ろを何かが通り抜ける。
「シ、シルフィード!?」
次の瞬間、二人は風竜に掴まれ空を飛んでいた。
頭上から声がする。
「危ないところだったわねぇ、ホント」
「間に合った」
「その声は……タバサ!? それにキュルケも!!」
見上げると、赤い髪と青い髪の二つの顔が上からこちらを覗きこんでいた。
「助かったわ……」
ゴーレムが学院内から去っていくのを見届けた後、ルイズと浅倉は地面に下ろされた。
以前ルイズが買ってきた錆びた剣。
それが浅倉への贈り物だと知ったキュルケは、タバサに頼んでシルフィードに乗せてもらい、急遽武器屋に剣を買いに出掛けたのである。
その帰り、学院についた二人が目にしたのは、巨大なゴーレムに襲われているルイズの姿であった。
シルフィードを全速力で飛ばし、間一髪間に合ったというわけである。
「ともかく、学院長に報告に行きましょう」
キュルケに背負われている、いつかの武器屋で見かけた派手な大剣から目線を彼女に戻し、ルイズは頷いた。
ルイズたちが学院内へと歩いていくその後ろで、浅倉は呆然と立ち尽くしていた。
さっきの盗賊が盗んでいった物。
破滅の箱だとか何とか言っていたが、間違いない。
あれはカードデッキだ。
(またライダーと戦えるのか……?)
かつて味わった、超現実の戦い。
剣を振るうだけでイライラが消え、傷つけ合う度に快感を得ることができる……。
そう思い出すと、浅倉の体が喜びで震えた。
「クックックックッ……ッハハハハハハ!!!!」
狂気染みた笑い声をあげ、そのまま地面に仰向けに倒れ込む。
「誰だか知らんが、待っていろ……!!」
口元に笑みを湛えたまま、呟いた。
空を見上げているはずのその目には、間近に迫ったライダーとの戦い以外、何も映っていなかった。
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