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「ゼロのアトリエ-17」(2010/11/24 (水) 18:13:03) の最新版変更点
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ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭に止まることにした一行は、
一階の酒場でくつろいでいた。
生のにんじんをかじりつつニンジン酒を注文するヴィオラートに、呆れ返るキュルケ。
何かの草のサラダをもくもくと咀嚼するタバサ。
精根使い果たした顔で、テーブルに突っ伏しているのはギーシュ。
そこに、桟橋へ乗船の交渉に言っていたワルドとルイズが帰って来る。
ワルドは席に着くと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ。」
「急ぎの任務なのに…」
ルイズは口を尖らせる。
「どうして明後日にならないと船が出ないの?」
問うたキュルケのほうを向き、ワルドが答えた。
「月が重なる『スヴェル』の翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくんだ。」
ヴィオラートはほろ酔い気分の頭で、潮の満ち引きでも関係してるんだろうか、と思った。
潮の満ち引きは月の動きで決まるからなあ。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った。」
ワルドは鍵束をテーブルの上に置いた。
「キュルケとタバサ、ミス・プラターネが相部屋だ。そしてギーシュが一人部屋。」
「僕とルイズは相部屋だ。婚約者だからな、当然だろう。」
ルイズがはっとして、ワルドの方を向く。
「そんな、ダメよ!私達まだ結婚してるわけじゃないじゃない!」
しかし、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい。」
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師17~
貴族相手の宿『女神の杵』亭で一番豪華な部屋だけあって、ワルドとルイズの部屋は、
かなり立派なつくりであった。
誰の趣味なのか、ベッドは天蓋つきの立派なものだったし、高そうなレースの飾りがついていた。
テーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて杯についだ。それを飲み干す。
「君も一杯、やらないか?ルイズ。」
ルイズは言われたままにテーブルに着いた。
「二人に。」
ルイズはちょっと俯いて、杯を合わせる。
「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」
「…ええ。」
ルイズはポケットの上から、アンリエッタから預かった封筒を抑えた。
「心配かい?無事に皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるかどうか。」
「…そうね、心配だわ。」
ルイズは可愛らしい眉を、への字に曲げて言った。
「大丈夫だよ、きっと上手く行く。なにせ、僕がついてるんだから。」
「そうね、あなたがいればきっと大丈夫よね。あなたは昔からとても頼もしかったものね。」
「それで、大事な話って何?」
ワルドは遠くを見る目になって、話し始める。
「君はいつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてたね。」
ルイズは恥ずかしそうに俯く。
「でも僕は…それは、間違いだと思う。」
「君は、他人にはない特別な力を持っている。僕には、それが判るだけの力がある。」
「まさか」
「まさかじゃない。例えば、そう、君の使い魔…」
「ヴィオラートのこと?」
「そうだ。彼女が杖を振った時に浮かび上がったルーン、あれはただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ。」
「伝説の使い魔の印?」
「そうさ、あれは『ミョズニトニルン』の印だ。始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔さ。」
ワルドの眼が光った。
「ミョズニトニルン?」
ルイズは怪訝そうに尋ねた。
「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ。」
「信じられないわ。」
ルイズは首を振った。ワルドは冗談を言っているのだと思った。
確かにヴィオラートは道具を持つとやたらと強くなったり、速くなったりするし、
先住魔法が使えて、桁外れの知識と実行力があって、その上信じられないくらい私に優しいけど。
伝説の使い魔だなんて信じられない。何かの間違いだろう。自分はゼロのルイズ、落ちこぼれなのだ。
どう考えても、ワルドが言うような力が自分にあるなんて思えない。
「君は偉大なメイジになるだろう。」
「そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう確信している。」
ワルドは熱っぽい口調で、ルイズを見つめた。
「この任務が終わったら結婚しよう、ルイズ。」
「え…」
いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。
「僕はこのまま終わるつもりはない。いずれはこの国、いやハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている。」
「で、でも…」
「でも、何だい?」
「わ、わたし、まだ…」
「もう子供じゃない。君は十六だ、自分の事は自分で決められるし、父上のお許しもある。確かに…」
ワルドはそこで言葉を切った。それから、再び顔を上げて、ルイズに顔を近づける。
「たしかに、ずっとほったらかしだった事は謝るよ。婚約者なんていえた義理じゃない。」
「でもルイズ、僕には君が必要なんだ。」
「ワルド…」
ルイズは考えた。憧れの人。幼い頃は本気で、ああ、私はこの人のお嫁さんになるんだと、そう思っていた。
でも今は。今はどうなのだろう?
なぜか、それはできないような気がした。
ヴィオラートの、ワルドに向ける繕った笑顔が頭に浮かぶ。
「でも、でも…」
「でも?」
「わたしまだ、あなたに釣りあう立派なメイジじゃないし…もっと修行して…」
ルイズは俯いた。俯いたルイズを、ワルドがじっと見つめる。
「…今すぐに返事をくれとは言わないさ。とりあえずはこの旅の間に、僕を見ていてくれればいい。」
ルイズはただ、頷く。
「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう。」
ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。
ルイズの体が一瞬こわばり、すっとワルドを押し戻す。
「ルイズ?」
「ごめん、でもなんか、その。」
ルイズはもじもじしてワルドを見つめた。
ワルドは苦笑いして首を振る。
「急がないよ、僕は。」
ルイズは再び、頷いた。
どうしてだろう。ワルドは凛々しくて、こんなにも優しいのに。ずっと憧れていたのに。
結婚してくれと言われて嬉しくないわけじゃない、それなのに。
何かが心に引っかかる。引っかかったそれが、ルイズの心を前に歩かせないのだ。
翌日。ヴィオラートがいち早く起きてコメート原石を磨いていると、扉がノックされた。
「おはようございます。ミス・プラターネ。」
ドアを開けると、羽帽子をかぶったワルドがヴィオラートを見下ろしている。
「おはようございます。こんな朝早くから、どうしたんですか?」
ヴィオラートがそう言うと、ワルドはにっこり笑った。
「貴女は伝説の使い魔『ミョズニトニルン』なのでしょう?」
「え?」
ヴィオラートはきょとんとして、ワルドを見た。
ワルドは何故か誤魔化すように、首を傾げる。
「その、あれだ。フーケの一軒で、僕は貴女に興味を抱いたのだ。」
身振りがいつもよりも、大げさになっている。
「ルイズに聞きましたが、貴女は異世界からやってきたというではないですか。」
わざとらしく指を立てて、同意を求める。
「フーケを尋問した際にあなたに興味を持ち、王立図書館で『ミョズニトニルン』にたどりついたのです。」
なるほど、勉強熱心ですねと思った。
「あの土くれを捕まえた腕がどれくらいのものか、知りたいのです。少々お手合わせ願いたい。」
「お手合わせ、ですか?」
「そのとおり。」
「どこでやるんですか?」
「中庭に、練兵場があるはずです。」
ヴィオラートとワルドは中庭の練兵場で、二十歩ほど離れて向かい合う。
少しすると、物陰からルイズが姿を現した。
「ワルド。来いっていうから来てみれば、何をする気なの?」
「なに。貴族というのは厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ。」
ルイズはヴィオラートを見た。
「やめなさい。ワルドとやりあうなんて…」
ヴィオラートは答えない。ただ、ワルドを見つめている。
「なんなのよ!もう!」
「では、介添え人も来た事だし、始めるか。」
ワルドは腰の杖を引き抜いて、それを前に突き出す。
「えーっと、手加減とか…」
ヴィオラートがそう言うと、ワルドは薄く笑った。
「かまいません。全力で来て下さい。」
ヴィオラートは頷いて、杖を振った。帯状の火球が、ワルドに向かって飛ぶ。
しかしワルドは火球を避けようともせずに、構えた杖をまるで剣のようになぎ払う。
烈風が生まれ、炎をかき消し、残った火の粉がヴィオラートに向かい、服に着火した。
「あちち!あちゃあっ!」
ヴィオラートは情けない声をあげ、そばにあったたるの中に突っ込んだ。
水しぶきが上がり、あたりが静寂に包まれた後…
ヴィオラートは、たるの縁に手をかけ、顔を半分だけ覗かせながら、
「水もしたたるいい女~…なーんてっ!」
と、高らかに宣言した。
ワルドは、肩を震わせて含み笑いを漏らした。
「くっくっ、いや失敬。少々力が入りすぎていたようです。」
少し肩の力が抜けた様子のワルドは、ため息を一つついた。
「着替えが終わったら、朝食にしましょう。僕が頼んでおきます。」
そういうと、踵を返した。
ヴィオラートとルイズは微動だにせず、ワルドの後姿をたっぷり見送る。
またしばらくの静寂の後、ようやくルイズが口を開いた。
「ヴィオラート。あなた、手を抜いたでしょう。」
ヴィオラートはたるに入ったまま、答える。
「うん。」
これでもかというくらい、水をしたたらせたままに。
#navi(ゼロのアトリエ)
ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭に止まることにした一行は、
一階の酒場でくつろいでいた。
生のにんじんをかじりつつニンジン酒を注文するヴィオラートに、呆れ返るキュルケ。
何かの草のサラダをもくもくと咀嚼するタバサ。
精根使い果たした顔で、テーブルに突っ伏しているのはギーシュ。
そこに、桟橋へ乗船の交渉に言っていたワルドとルイズが帰って来る。
ワルドは席に着くと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ。」
「急ぎの任務なのに…」
ルイズは口を尖らせる。
「どうして明後日にならないと船が出ないの?」
問うたキュルケのほうを向き、ワルドが答えた。
「月が重なる『スヴェル』の翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくんだ。」
ヴィオラートはほろ酔い気分の頭で、潮の満ち引きでも関係してるんだろうか、と思った。
潮の満ち引きは月の動きで決まるからなあ。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った。」
ワルドは鍵束をテーブルの上に置いた。
「キュルケとタバサ、ミス・プラターネが相部屋だ。そしてギーシュが一人部屋。」
「僕とルイズは相部屋だ。婚約者だからな、当然だろう。」
ルイズがはっとして、ワルドの方を向く。
「そんな、ダメよ!私達まだ結婚してるわけじゃないじゃない!」
しかし、ワルドは首を振ってルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい。」
ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師17~
貴族相手の宿『女神の杵』亭で一番豪華な部屋だけあって、ワルドとルイズの部屋は、
かなり立派なつくりであった。
誰の趣味なのか、ベッドは天蓋つきの立派なものだったし、高そうなレースの飾りがついていた。
テーブルに座ると、ワルドはワインの栓を抜いて杯についだ。それを飲み干す。
「君も一杯、やらないか?ルイズ。」
ルイズは言われたままにテーブルに着いた。
「二人に。」
ルイズはちょっと俯いて、杯を合わせる。
「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」
「…ええ。」
ルイズはポケットの上から、アンリエッタから預かった封筒を抑えた。
「心配かい?無事に皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるかどうか。」
「…そうね、心配だわ。」
ルイズは可愛らしい眉を、への字に曲げて言った。
「大丈夫だよ、きっと上手く行く。なにせ、僕がついてるんだから。」
「そうね、あなたがいればきっと大丈夫よね。あなたは昔からとても頼もしかったものね。」
「それで、大事な話って何?」
ワルドは遠くを見る目になって、話し始める。
「君はいつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてたね。」
ルイズは恥ずかしそうに俯く。
「でも僕は…それは、間違いだと思う。」
「君は、他人にはない特別な力を持っている。僕には、それが判るだけの力がある。」
「まさか」
「まさかじゃない。例えば、そう、君の使い魔…」
「ヴィオラートのこと?」
「そうだ。彼女が杖を振った時に浮かび上がったルーン、あれはただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ。」
「伝説の使い魔の印?」
「そうさ、あれは『ミョズニトニルン』の印だ。始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔さ。」
ワルドの眼が光った。
「ミョズニトニルン?」
ルイズは怪訝そうに尋ねた。
「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ。」
「信じられないわ。」
ルイズは首を振った。ワルドは冗談を言っているのだと思った。
確かにヴィオラートは道具を持つとやたらと強くなったり、速くなったりするし、
先住魔法が使えて、桁外れの知識と実行力があって、その上信じられないくらい私に優しいけど。
伝説の使い魔だなんて信じられない。何かの間違いだろう。自分はゼロのルイズ、落ちこぼれなのだ。
どう考えても、ワルドが言うような力が自分にあるなんて思えない。
「君は偉大なメイジになるだろう。」
「そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジになるに違いない。僕はそう確信している。」
ワルドは熱っぽい口調で、ルイズを見つめた。
「この任務が終わったら結婚しよう、ルイズ。」
「え…」
いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。
「僕はこのまま終わるつもりはない。いずれはこの国、いやハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている。」
「で、でも…」
「でも、何だい?」
「わ、わたし、まだ…」
「もう子供じゃない。君は十六だ、自分の事は自分で決められるし、父上のお許しもある。確かに…」
ワルドはそこで言葉を切った。それから、再び顔を上げて、ルイズに顔を近づける。
「たしかに、ずっとほったらかしだった事は謝るよ。婚約者なんていえた義理じゃない。」
「でもルイズ、僕には君が必要なんだ。」
「ワルド…」
ルイズは考えた。憧れの人。幼い頃は本気で、ああ、私はこの人のお嫁さんになるんだと、そう思っていた。
でも今は。今はどうなのだろう?
なぜか、それはできないような気がした。
ヴィオラートの、ワルドに向ける繕った笑顔が頭に浮かぶ。
「でも、でも…」
「でも?」
「わたしまだ、あなたに釣りあう立派なメイジじゃないし…もっと修行して…」
ルイズは俯いた。俯いたルイズを、ワルドがじっと見つめる。
「…今すぐに返事をくれとは言わないさ。とりあえずはこの旅の間に、僕を見ていてくれればいい。」
ルイズはただ、頷く。
「それじゃあ、もう寝ようか。疲れただろう。」
ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。
ルイズの体が一瞬こわばり、すっとワルドを押し戻す。
「ルイズ?」
「ごめん、でもなんか、その。」
ルイズはもじもじしてワルドを見つめた。
ワルドは苦笑いして首を振る。
「急がないよ、僕は。」
ルイズは再び、頷いた。
どうしてだろう。ワルドは凛々しくて、こんなにも優しいのに。ずっと憧れていたのに。
結婚してくれと言われて嬉しくないわけじゃない、それなのに。
何かが心に引っかかる。引っかかったそれが、ルイズの心を前に歩かせないのだ。
翌日。ヴィオラートがいち早く起きてコメート原石を磨いていると、扉がノックされた。
「おはようございます。ミス・プラターネ。」
ドアを開けると、羽帽子をかぶったワルドがヴィオラートを見下ろしている。
「おはようございます。こんな朝早くから、どうしたんですか?」
ヴィオラートがそう言うと、ワルドはにっこり笑った。
「貴女は伝説の使い魔『ミョズニトニルン』なのでしょう?」
「え?」
ヴィオラートはきょとんとして、ワルドを見た。
ワルドは何故か誤魔化すように、首を傾げる。
「その、あれだ。フーケの一軒で、僕は貴女に興味を抱いたのだ。」
身振りがいつもよりも、大げさになっている。
「ルイズに聞きましたが、貴女は異世界からやってきたというではないですか。」
わざとらしく指を立てて、同意を求める。
「フーケを尋問した際にあなたに興味を持ち、王立図書館で『ミョズニトニルン』にたどりついたのです。」
なるほど、勉強熱心ですねと思った。
「あの土くれを捕まえた腕がどれくらいのものか、知りたいのです。少々お手合わせ願いたい。」
「お手合わせ、ですか?」
「そのとおり。」
「どこでやるんですか?」
「中庭に、練兵場があるはずです。」
ヴィオラートとワルドは中庭の練兵場で、二十歩ほど離れて向かい合う。
少しすると、物陰からルイズが姿を現した。
「ワルド。来いっていうから来てみれば、何をする気なの?」
「なに。貴族というのは厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ。」
ルイズはヴィオラートを見た。
「やめなさい。ワルドとやりあうなんて…」
ヴィオラートは答えない。ただ、ワルドを見つめている。
「なんなのよ!もう!」
「では、介添え人も来た事だし、始めるか。」
ワルドは腰の杖を引き抜いて、それを前に突き出す。
「えーっと、手加減とか…」
ヴィオラートがそう言うと、ワルドは薄く笑った。
「かまいません。全力で来て下さい。」
ヴィオラートは頷いて、杖を振った。帯状の火球が、ワルドに向かって飛ぶ。
しかしワルドは火球を避けようともせずに、構えた杖をまるで剣のようになぎ払う。
烈風が生まれ、炎をかき消し、残った火の粉がヴィオラートに向かい、服に着火した。
「あちち!あちゃあっ!」
ヴィオラートは情けない声をあげ、そばにあったたるの中に突っ込んだ。
水しぶきが上がり、あたりが静寂に包まれた後…
ヴィオラートは、たるの縁に手をかけ、顔を半分だけ覗かせながら、
「水もしたたるいい女~…なーんてっ!」
と、高らかに宣言した。
ワルドは、肩を震わせて含み笑いを漏らした。
「くっくっ、いや失敬。少々力が入りすぎていたようです。」
少し肩の力が抜けた様子のワルドは、ため息を一つついた。
「着替えが終わったら、朝食にしましょう。僕が頼んでおきます。」
そういうと、踵を返した。
ヴィオラートとルイズは微動だにせず、ワルドの後姿をたっぷり見送る。
またしばらくの静寂の後、ようやくルイズが口を開いた。
「ヴィオラート。あなた、手を抜いたでしょう。」
ヴィオラートはたるに入ったまま、答える。
「うん。」
これでもかというくらい、水をしたたらせたままに。
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