「ゼロのキタキタ」(2007/08/06 (月) 22:20:55) の最新版変更点
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「宇宙の果てのどこか(ry」
呪文の内容なんてどうでもいいですけど、それは使い魔を呼び出す『サモン・サーヴァント』の魔法です。
“魔法が一切使えない魔法使い”と馬鹿にされている『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは顔をすすだらけにしながら、それでも呪文を唱えていました。
他の生徒たちのあざ笑う声を聞きながら、それでもコルベールに言い渡された最後のチャンスに彼女はかけたのです。
ていうか一生懸命がんばる女の子をあざ笑うなんて、なんて品位のない方々でしょう。
まあそれはともかく、爆発の煙が晴れて出てきたのは、変態としか呼べない男でした。
「へ、変態だ!」
「ゼロのルイズが変態を呼んだぞ!」
ルイズは呆然とその男を見つめていました。
年のころは60前くらいでしょうか? ひげが白いせいか顔つきや体つきに比べふけて見えます。
服装は太陽を模したようなおかしなサークレット、そして腰みの、ただそれだけ。
ミスタ・コルベールに再召喚すら却下され、ルイズは絶望に打ちひしがれながら周りを見渡している男にに近づきました。
男は何か言っているようでしたが知ったことかとばかりに顔を引き寄せ、無理やりコントラクト・サーヴァントを行いました。
ルーンが刻まれる熱にのたうつ男を少しゆがんだ笑みで見つめた後、ルイズは問いかけました。
「あんた名前は?」
「私ですか? 私はアドバーグ・エルドルと申しますが……ここはどこですかな?」
その変態はとても強かったのです。
最初はギーシュとの決闘でした。
脇でおにぎりを作ろうとしてマルトーにジャーマンスープレックスを食らってぼこぼこの顔のまま食堂の手伝いをしていたアドバーグさんが、ギーシュの八つ当たりを受けていたメイドをかばったのが始まりでした。
高らかにバラの杖を掲げるギーシュと、それをいつもの変態的な格好で見るアドバーグさん。
だが次の瞬間、メイジたちは凍りつきました。
キタキター! の声に合わせて動く腰と手足。
変則的なチョップに見えなくもないそれが、ワルキューレを粉々に粉砕していきます。
恐怖に駆られたギーシュはさらに六体のワルキューレを出しますが、それらもすべて華麗にキモイ動きで避けられ、砕かれていきます。
最後にアドバーグさんのヒップアタックの直撃を受け、ギーシュは気絶してしまいました。
その何日か後に、アドバーグさんと同じ格好で目の幅の涙を流しながら踊るギーシュの姿が見られたそうです。
二番目は『土くれのフーケ』でした。
“破壊の杖”という名前のロケットランチャーを狙って学園の宝物庫を襲ったのでした。
まあ謎はさておきフーケ戦の前にルイズはアドバーグさんを伴って町に買い物に出かけました。
理由は格好です。
アドバーグさんが言うには自分の出身地に伝わる伝統舞踊の衣装とのことですが、まあたしかに普段着には適していません。
そんなわけで普段着を買いに来たのです。
途中すりをヒップアタックで吹き飛ばしたりしましたが、無事に普段着を買うことができました。
「あれ? 俺の出番は? なあ!」
ガンダールヴ? 知りませんよそんなもの。
フーケにとっては悪夢だったのではないでしょうか?
自慢のゴーレムで殴りつけても気の抜ける音楽と共に振るわれる突きで簡単に砕かれてしまいます。
鉄に錬金しても結果は同じです。なんで素手で鋼が砕けるんでしょう?
とにもかくにもフーケは退治されました。
普通なら衛兵とかに連れて行かれたりするんでしょうが彼の名はアドバーグ、贖罪代わりにフーケことマチルダさんはキタキタ踊りの弟子にさせられました。
ギーシュが開放されてうれしそうにしていたのが印象的でした。
ちなみに“破壊の杖”ですが、アドバーグさんとはこれっぽっちも関係ないのでそのまま宝物庫に戻されました。
彼が「あれは杖ではなく筒ですなぁ」とか言っていたのが印象的でした。実は結構賢い人なのです。
さて、フーケ関連のイベント(?)も終われば使い魔の品評会です。
アドバーグさんは当然キタキタ踊りを披露しようとしましたが、ルイズの必死の説得で踊るのは彼本人ではなく弟子のミス・ロングビルになりました。
さて、ここで思い出すべきはキタキタ踊りの本来の姿です。
アレは若い女性の踊りでしたが、後継者がいないため彼が忘れないように踊っていたのです。
ミス・ロングビルは美人でスタイルもグンバツです。
それはもう映えました。
気の抜けたような音楽はキレイな舞踊の歌に変わり、キモイはずのその動きは艶やかさをかもし出します。
やっぱり女性のための踊りを体の硬い男が踊っちゃいけないってことですね。
品評会の一位はタバサのシルフィードでしたが、キタキタ踊りは男性陣の中ではダントツで一位でした。
夜中にアンリエッタ王女が尋ねてきました。
なんでも政略結婚の邪魔になるかもしれない昔の恋人への手紙を取り返して欲しいそうです。
え? ネタバレしていいのかって? 長編じゃないから問題ありません。
にしてもこの王女、この態度はわざとなのか天然なのかどっちでしょう?
わざとなら腹黒いことこの上ないですし、天然ならそういう演技が身につく生活環境ってことです。どっちにしろ泣きそう。
「それにしてもあなたの使い魔の踊りは美しかったですわね」
「あ、あはは、そうですねぇ……」
真実は言わぬが花というやつです。
ちなみにアドバーグさんはといいますと、今夜も広場でミス・ロングビルと一緒にキタキタ踊りの練習です。
ミス・ロングビル、なにやら吹っ切れた様子で楽しそうに踊っています。
最近は踊り子としてかなりの額を稼いでいるとか。
「盗賊なんでヤクザな商売はもうやめよ! 私は踊りに生きる!」
向こう側の勇者がブーたれる声が聞こえるような気がします。
ちなみに彼女を脅迫に来た白仮面(偏在)ですが、踊りに見とれているうちに背後から近づいてきたアドバーグにキタキター! とばかりに吹っ飛ばされてしまいました。偏在だからそのまま消えます。
「こんな時間にこんな場所まで覗きに来るとは! 世も末ですなぁ」
違うんだ! 星空で白仮面が叫んだような気がしました。
さて、お手紙を回収に出発です。
アドバーグさんはルイズを馬の前に乗せパカラパカラ。ちなみにちゃんと普段着です。
アドバーグさん、キタの村にいたころは移動手段に馬を使っていましたから手馴れたものです。
旗から見ていると乗馬している男とその孫のようなほほえましさです。
ワルド? そんなのいましたっけ?
「あれ? どこだい、僕のルイズ!」
置いてきぼりになっていた模様です。
勇者と魔王を倒す旅までしたアドバーグさん、宿屋の部屋でそのころの話を物語のようにルイズに聞かせます。
ちなみにルイズ、現在は買ってきた染色剤で茶髪になっています。
これはアドバーグさんの知恵でした。
「密命ですからな、ルイズどのの髪の色では見つかってしまう恐れがあります。薄い金色か茶色か迷いましたが茶色なら平民と同じでばれにくいでしょう」
「良くこんなこと考え付くわね」
「魔法は使えませんからなぁ。知恵を使わねばなりませんよ」
「ま、確かにそうね」
「急ぎですから早めに寝るとしましょう」
この案が功を奏したのか、レコン・キスタは二人を見つけることができませんでした。
さすがアドバーグさん、勇者と魔王を倒しに行っただけあります。まあ魔王に踊りを勧めるような人ですが。
「ああまずいぞ、これはまずい。ルイズはどこに行ったんだ?」
ワルドはピンク色の髪を目印に捜しているようでした。……なんで染めていると考えないのかしら?
船はどうやら何日か待たないと出せないらしいです。と思ったら風のメイジが風石の代わりをしてくれるとのこと。
ラッキーとばかりに便乗します。
でもいきなり海賊と鉢合わせです。運がない。
貴族の人は魔力切れの上船底に監禁中だそうです。
しょうがないからアドバーグさん、ルイズを背にかばいつつ奮戦しました。
海賊の副船長っぽいのを伸したあたりでルイズが叫んでいるのが聞こえたので戦闘を中断です。
……どうも依頼の相手のウェールズ皇太子だったようです。なんたること。
手紙はお城まで行かないとないそうです。
ルイズ、アドバーグさんとアルビオンのお城まで。
ルイズがウェールズ皇太子に必死に何か言ってますけど、アドバーグさんは特に関係ないのでパーティの御馳走をほおばっていました。
次の日風のルビーを受け取っていると、爆音と共に数名の白仮面が攻め込んできました。
どうもレコン・キスタっぽいです。予定調和ってやつでしょうか。
その一人が不意打ちでウェールズ皇太子の胸を貫こうとした瞬間、横からの衝撃で吹っ飛び消えてしまいました。
我らがアドーバグさんの参上です。
偏在、意味がありません。アドバーグさんに次々撃破されていきます。
最後の一体から仮面が落ちました。どうやら本体だったようです。
その顔は少なくともルイズには見覚えのあるひげ面。
「ワルド様!? まさか、まさか裏切ったのですか!?」
「ルイズ、僕には君が必要なんだ。一緒に来て欲しい。君がいれば世界を手に入れられる!」
予想外のことがおきすぎてぶっ飛んでしまったようです。何の脈絡もなくそんなこと言っても言われてるほうには寝言にしか聞こえません。
「ふざけないで! 私を裏切って! アドバーグ、やっちゃってぇ!」
「キッタキター!」
アドバーグさんにはギャグ補正がかかっています。
何があっても死なない彼に、魔法があたるわけがありません。
「何故だ、何故当たらない!」
「にゃんこらしょー!」
ワルドはアドバーグのヒップアタックに吹き飛ばされました。
それを彼のグリフォンが拾って天井の穴から逃げていきます。
レコン・キスタの軍が攻めてきます。
王子は逃げろといいますが、おかしなスイッチが入ったのかルイズは目が渦巻きになっています。
「あははははは! 行くわよアドバーグ!」
レコン・キスタの兵はルイズの失敗魔法とキタキタ踊りの前に敗れ去りました。方法? そんなもの『キタキタ親父だから』ですよ。深く考えると禿げます。
ルイズは二つのルビーをこっそり着服しました。まるでどこかの世界の勇者のようです。
何かいろいろあってルイズたちは現在タルブの村にいます。
いる理由はシエスタがルイズを誘ったからです。仲いいですね。人気の百合の花でしょうか? まあいいや。
ちなみにマチルダさん、耳がとがってる女の子を連れてきた模様。
気のせいですと言い張ってヨシェナヴェをむさぼっています。
しかしみなさま、「ああ、気のせいか」はないんじゃないでしょうか?
ルイズは始祖の祈祷書とか言うのを読んでます。読むって言っても白紙ですけど。
アドバーグさんが表紙の絵を見ながら「ククリどのの魔法書と同じ表紙ですなぁ」とか言ってるのは無視しましょうね。
さっさと帰ればいいのに酒を入れるから村で寝込んだままになっちゃいました。
回復して帰ろうとしたら、アレに見えるはレコン・キスタ。
ウェールズ皇太子は亡命してがんばってるというのに遠慮や美学のない人たちです。
この村には『竜の羽衣』とか呼ばれてるゼロ戦がありますけど、アドバーグさんが知ってるわけがありません。
トマ君とかがいれば別ですがアドバーグさんからすれば「変わった代物ですなぁ」でおしまい。
「ルイズどの、早く避難しないといけませんぞ!」
「らによう! あらしのみゃほうをくらいらさい!」
酔っ払ったままの頭で炸裂する失敗魔法、同時に光る始祖の祈祷書。
そのままぶっ倒れかけたルイズを支えるアドバーグさんの目に、爆発が描いた魔法陣が飛び込んできました。
それは見覚えのある、ネコのような猫の目のような魔法陣。
まあなんということでしょう。大きな、ネコのような間抜けな顔をしたオブジェが出現しました。
『ナアアアァァァア~~~~~~~オ』
あまりに気の抜ける声に、レコン・キスタの皆さんは総崩れです。
立ちたくても足腰がなえて動くこともできません。ほら、ドラゴンもぼとぼと落ちてます。
それは旗艦レキシントン号にいるお偉いさん方も同じです。
気が抜けて立っていられないワルドの目に飛び込んできたのは、かつて己を吹き飛ばした腰みのの理不尽という恐怖でした。
ビ~ヒャラ~ラ~という間抜けな音と共に、ピンク色を背負った何かが戦場の真ん中を土煙を上げて疾走しています。
かろうじて動ける兵士たちをそのクイックイッキュッという擬音が似合いそうな動きで吹き飛ばし、その恐怖はただレキシントンへ向かって一直線。
それでもワルドは何とか立ち上がり、その人影に向かって杖を向けます。
「この変態がぁ! 食らえ! 『ライトニング・クラウド』!」
その魔法よりも一歩早く、アドバーグさんが背負っていたルイズが酔ったままの勢いで杖を振るい、失敗魔法が魔法陣を描きます。
それは目と多角形を組み合わせた、すべてを台無しにする魔法陣。
『はぁ~さっぱりさっぱり!』
ワルドの頭の上でくるくる回る扇を持った妖精。
ワルドの杖から放たれたのは雷鳴と雷光ではなく、破裂音と紙ふぶき、それに紙リボンでした。
「ななななな、ウウウウウインド・ブレイク!」
眼前に迫るアドバーグさんに向けて振られた杖から飛び出したのは、見たこともないクリーチャーでした。
「野菜を食べよう!」
ただそれだけを叫ぶとアドバーグさんを飛び越えかなたへ。
唖然とするワルドの視界が腰みので埋め尽くされ、彼はそのまま意識を失いました。
「にゃんこらしょー!」
ワルド撃沈。
レキシントンの各部から連続して崩壊音が響きます。
「あははははははは! 食らえ食らえ~!」
狂ったように叫ぶ杖を振るうルイズから放たれる失敗魔法、それは着弾地点に魔法陣を描きます。
魔法陣から生えたつたがレキシントン号に絡みつき、爆発するイチゴをばら撒きます。
同じように魔法陣から飛び出した炎が地面をもぐり兵士たちを吹き飛ばします。
何とか立ち上がった兵士が剣を構えますが、同じく出現した嫌な感じの顔のネコがどこからともなく取り出したガラスを引っかいて動きを止めてしまいます。
武器を落とし耳をふさいだ瞬間横合いからのキタキタ一撃、哀れ彼らは青空に笑顔で決め!
声と音に耐性がつき始めたのでしょう、よろよろと起き上がりすわ攻撃だと杖を振るうルイズと踊るアドバーグさんめがけドラゴンたちが殺到します。
杖を掲げたルイズとそれを守るように構えるアドバーグさんの真下で、ひときわ大きな魔法陣が輝きました。
それは怒れる大地、それは地下の魔神。
魔神ベームベーム顕現せり。
見上げる高さとあふれる威圧感、そびえ立つその巨体をぐるりと回る無数の目、それらが一斉に輝きけたたましい雷光を放ちました。
とどろく爆音、吹き飛ぶレコン・キスタ。ベームベームの上で踊るアドバーグさん。
雷光のいくつかがレキシントンを吹き飛ばし、ワルドがハヒフヘホ~とか叫びながらお星様になったころ、寝こけるルイズと一心不乱に踊るアドバーグさんだけになっていました。
せっかく駆けつけた軍隊は、その惨状にただただ唖然とするほかありませんでした。
村を上げて祝杯です。
オールド・オスマンも出席日数がどうとか忘れて酒盛りです。
舞台ではアドバーグさんが後ろのほうで見守る中、ミス・ロングビルと養女のティファニアがキタキタ踊りを披露しています。
男たちは全員そろって前かがみです。ギーシュなど下品にも口笛を吹いてモンモランシーにフルボッコです。
アドバーグさんは感動の涙を流しながらうんうんうなっています。後継者ができてよかったね。
後ろのほうでルイズがわめいています。どうやら魔法が使えるようになったのをキュルケに信じてもらえず憤っているご様子。
「証明してやるわ!」と杖をとりいつもの失敗魔法を唱えました。
かっこつけずに魔法陣を書けばよかったのに、いつものように詠唱なんてしちゃうからいけなかったんです。
舞台の下で小さな炸裂音がしたと思ったら舞台が踊り子とアドバーグさんを乗せたまま浮かび上がりました。
なんということでしょう。舞台の真下にできた魔法陣から幻獣ヨンヨンが召喚されてしまったのです。
踊りに夢中で気づかないキタキタ三人衆を乗せたまま、ヨンヨンは日食に消えていきました。
ルイズはとりあえずごまかすために、美しく締めることにしました。
「アドバーグ、いろいろありがとう! あなたのこと、きっと忘れないから!」
ルイズは美しい涙を流します。でも“きっと”とか言ってるあたりもう駄目です。
他の人たちも一応ルイズに習い、日食に向かって涙を浮かべます。
後ろのほうですごい顔をしているたまねぎっぽい何かを気にしたら負けです。
「宇宙の果てのどこか(ry」
使い魔がどこかへ行ってしまったため、ルイズは特別措置として再召喚が許されました。
系統はまったく違いますが魔法が使えるようになった彼女を笑うものはもういません。
魔法は唱えられ、爆発の代わりに魔法陣が輝きます。
そして新たな使い魔が、ここトリステインに顕現しました。
それはあまりに美しく
それはあまりに気高く
それはあまりにセクシーで
それはあまりにたくましい
そして何よりそれは、息が止まるほどかっこいい
魔法陣の上で浮かび上がり輝く四つの影。
あまりのかっこよさにその場の全員が言葉を失い、オールド・オスマンに至っては涙を流していました。
運命に導かれ「すぎた」世界最強の四人衆。60年間無敗の男たち。
彼らこそ『爺ファンタジー』!!
ルイズはひどくさめた思考で、ただポツリとつぶやきました。
「絶対アドバーグと同じとこのやつだ……」
女王は今日も道を行く
四つの指輪をその手にはめて
四つの秘法を携えて
四人の使い魔引き連れて
女王は今日も道を行く
虚無の女王は道を行く
次回:『ゼロのかっこいい奴ら』
続くわけがない。
アドバーグさんは結局最後まで、異世界だと気づかなかったのでした。
「宇宙の果てのどこか(ry」
呪文の内容なんてどうでもいいですけど、それは使い魔を呼び出す『サモン・サーヴァント』の魔法です。
“魔法が一切使えない魔法使い”と馬鹿にされている『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは顔をすすだらけにしながら、それでも呪文を唱えていました。
他の生徒たちのあざ笑う声を聞きながら、それでもコルベールに言い渡された最後のチャンスに彼女はかけたのです。
ていうか一生懸命がんばる女の子をあざ笑うなんて、なんて品位のない方々でしょう。
まあそれはともかく、爆発の煙が晴れて出てきたのは、変態としか呼べない男でした。
「へ、変態だ!」
「ゼロのルイズが変態を呼んだぞ!」
ルイズは呆然とその男を見つめていました。
年のころは60前くらいでしょうか? ひげが白いせいか顔つきや体つきに比べふけて見えます。
服装は太陽を模したようなおかしなサークレット、そして腰みの、ただそれだけ。
ミスタ・コルベールに再召喚すら却下され、ルイズは絶望に打ちひしがれながら周りを見渡している男にに近づきました。
男は何か言っているようでしたが知ったことかとばかりに顔を引き寄せ、無理やりコントラクト・サーヴァントを行いました。
ルーンが刻まれる熱にのたうつ男を少しゆがんだ笑みで見つめた後、ルイズは問いかけました。
「あんた名前は?」
「私ですか? 私はアドバーグ・エルドルと申しますが……ここはどこですかな?」
その変態はとても強かったのです。
最初はギーシュとの決闘でした。
脇でおにぎりを作ろうとしてマルトーにジャーマンスープレックスを食らってぼこぼこの顔のまま食堂の手伝いをしていたアドバーグさんが、ギーシュの八つ当たりを受けていたメイドをかばったのが始まりでした。
高らかにバラの杖を掲げるギーシュと、それをいつもの変態的な格好で見るアドバーグさん。
だが次の瞬間、メイジたちは凍りつきました。
キタキター! の声に合わせて動く腰と手足。
変則的なチョップに見えなくもないそれが、ワルキューレを粉々に粉砕していきます。
恐怖に駆られたギーシュはさらに六体のワルキューレを出しますが、それらもすべて華麗にキモイ動きで避けられ、砕かれていきます。
最後にアドバーグさんのヒップアタックの直撃を受け、ギーシュは気絶してしまいました。
その何日か後に、アドバーグさんと同じ格好で目の幅の涙を流しながら踊るギーシュの姿が見られたそうです。
二番目は『土くれのフーケ』でした。
“破壊の杖”という名前のロケットランチャーを狙って学園の宝物庫を襲ったのでした。
まあ謎はさておきフーケ戦の前にルイズはアドバーグさんを伴って町に買い物に出かけました。
理由は格好です。
アドバーグさんが言うには自分の出身地に伝わる伝統舞踊の衣装とのことですが、まあたしかに普段着には適していません。
そんなわけで普段着を買いに来たのです。
途中すりをヒップアタックで吹き飛ばしたりしましたが、無事に普段着を買うことができました。
「あれ? 俺の出番は? なあ!」
ガンダールヴ? 知りませんよそんなもの。
フーケにとっては悪夢だったのではないでしょうか?
自慢のゴーレムで殴りつけても気の抜ける音楽と共に振るわれる突きで簡単に砕かれてしまいます。
鉄に錬金しても結果は同じです。なんで素手で鋼が砕けるんでしょう?
とにもかくにもフーケは退治されました。
普通なら衛兵とかに連れて行かれたりするんでしょうが彼の名はアドバーグ、贖罪代わりにフーケことマチルダさんはキタキタ踊りの弟子にさせられました。
ギーシュが開放されてうれしそうにしていたのが印象的でした。
ちなみに“破壊の杖”ですが、アドバーグさんとはこれっぽっちも関係ないのでそのまま宝物庫に戻されました。
彼が「あれは杖ではなく筒ですなぁ」とか言っていたのが印象的でした。実は結構賢い人なのです。
さて、フーケ関連のイベント(?)も終われば使い魔の品評会です。
アドバーグさんは当然キタキタ踊りを披露しようとしましたが、ルイズの必死の説得で踊るのは彼本人ではなく弟子のミス・ロングビルになりました。
さて、ここで思い出すべきはキタキタ踊りの本来の姿です。
アレは若い女性の踊りでしたが、後継者がいないため彼が忘れないように踊っていたのです。
ミス・ロングビルは美人でスタイルもグンバツです。
それはもう映えました。
気の抜けたような音楽はキレイな舞踊の歌に変わり、キモイはずのその動きは艶やかさをかもし出します。
やっぱり女性のための踊りを体の硬い男が踊っちゃいけないってことですね。
品評会の一位はタバサのシルフィードでしたが、キタキタ踊りは男性陣の中ではダントツで一位でした。
夜中にアンリエッタ王女が尋ねてきました。
なんでも政略結婚の邪魔になるかもしれない昔の恋人への手紙を取り返して欲しいそうです。
え? ネタバレしていいのかって? 長編じゃないから問題ありません。
にしてもこの王女、この態度はわざとなのか天然なのかどっちでしょう?
わざとなら腹黒いことこの上ないですし、天然ならそういう演技が身につく生活環境ってことです。どっちにしろ泣きそう。
「それにしてもあなたの使い魔の踊りは美しかったですわね」
「あ、あはは、そうですねぇ……」
真実は言わぬが花というやつです。
ちなみにアドバーグさんはといいますと、今夜も広場でミス・ロングビルと一緒にキタキタ踊りの練習です。
ミス・ロングビル、なにやら吹っ切れた様子で楽しそうに踊っています。
最近は踊り子としてかなりの額を稼いでいるとか。
「盗賊なんでヤクザな商売はもうやめよ! 私は踊りに生きる!」
向こう側の勇者がブーたれる声が聞こえるような気がします。
ちなみに彼女を脅迫に来た白仮面(遍在)ですが、踊りに見とれているうちに背後から近づいてきたアドバーグにキタキター! とばかりに吹っ飛ばされてしまいました。遍在だからそのまま消えます。
「こんな時間にこんな場所まで覗きに来るとは! 世も末ですなぁ」
違うんだ! 星空で白仮面が叫んだような気がしました。
さて、お手紙を回収に出発です。
アドバーグさんはルイズを馬の前に乗せパカラパカラ。ちなみにちゃんと普段着です。
アドバーグさん、キタの村にいたころは移動手段に馬を使っていましたから手馴れたものです。
旗から見ていると乗馬している男とその孫のようなほほえましさです。
ワルド? そんなのいましたっけ?
「あれ? どこだい、僕のルイズ!」
置いてきぼりになっていた模様です。
勇者と魔王を倒す旅までしたアドバーグさん、宿屋の部屋でそのころの話を物語のようにルイズに聞かせます。
ちなみにルイズ、現在は買ってきた染色剤で茶髪になっています。
これはアドバーグさんの知恵でした。
「密命ですからな、ルイズどのの髪の色では見つかってしまう恐れがあります。薄い金色か茶色か迷いましたが茶色なら平民と同じでばれにくいでしょう」
「良くこんなこと考え付くわね」
「魔法は使えませんからなぁ。知恵を使わねばなりませんよ」
「ま、確かにそうね」
「急ぎですから早めに寝るとしましょう」
この案が功を奏したのか、レコン・キスタは二人を見つけることができませんでした。
さすがアドバーグさん、勇者と魔王を倒しに行っただけあります。まあ魔王に踊りを勧めるような人ですが。
「ああまずいぞ、これはまずい。ルイズはどこに行ったんだ?」
ワルドはピンク色の髪を目印に捜しているようでした。……なんで染めていると考えないのかしら?
船はどうやら何日か待たないと出せないらしいです。と思ったら風のメイジが風石の代わりをしてくれるとのこと。
ラッキーとばかりに便乗します。
でもいきなり海賊と鉢合わせです。運がない。
貴族の人は魔力切れの上船底に監禁中だそうです。
しょうがないからアドバーグさん、ルイズを背にかばいつつ奮戦しました。
海賊の副船長っぽいのを伸したあたりでルイズが叫んでいるのが聞こえたので戦闘を中断です。
……どうも依頼の相手のウェールズ皇太子だったようです。なんたること。
手紙はお城まで行かないとないそうです。
ルイズ、アドバーグさんとアルビオンのお城まで。
ルイズがウェールズ皇太子に必死に何か言ってますけど、アドバーグさんは特に関係ないのでパーティの御馳走をほおばっていました。
次の日風のルビーを受け取っていると、爆音と共に数名の白仮面が攻め込んできました。
どうもレコン・キスタっぽいです。予定調和ってやつでしょうか。
その一人が不意打ちでウェールズ皇太子の胸を貫こうとした瞬間、横からの衝撃で吹っ飛び消えてしまいました。
我らがアドーバグさんの参上です。
遍在、意味がありません。アドバーグさんに次々撃破されていきます。
最後の一体から仮面が落ちました。どうやら本体だったようです。
その顔は少なくともルイズには見覚えのあるひげ面。
「ワルド様!? まさか、まさか裏切ったのですか!?」
「ルイズ、僕には君が必要なんだ。一緒に来て欲しい。君がいれば世界を手に入れられる!」
予想外のことがおきすぎてぶっ飛んでしまったようです。何の脈絡もなくそんなこと言っても言われてるほうには寝言にしか聞こえません。
「ふざけないで! 私を裏切って! アドバーグ、やっちゃってぇ!」
「キッタキター!」
アドバーグさんにはギャグ補正がかかっています。
何があっても死なない彼に、魔法があたるわけがありません。
「何故だ、何故当たらない!」
「にゃんこらしょー!」
ワルドはアドバーグのヒップアタックに吹き飛ばされました。
それを彼のグリフォンが拾って天井の穴から逃げていきます。
レコン・キスタの軍が攻めてきます。
王子は逃げろといいますが、おかしなスイッチが入ったのかルイズは目が渦巻きになっています。
「あははははは! 行くわよアドバーグ!」
レコン・キスタの兵はルイズの失敗魔法とキタキタ踊りの前に敗れ去りました。方法? そんなもの『キタキタ親父だから』ですよ。深く考えると禿げます。
ルイズは二つのルビーをこっそり着服しました。まるでどこかの世界の勇者のようです。
何かいろいろあってルイズたちは現在タルブの村にいます。
いる理由はシエスタがルイズを誘ったからです。仲いいですね。人気の百合の花でしょうか? まあいいや。
ちなみにマチルダさん、耳がとがってる女の子を連れてきた模様。
気のせいですと言い張ってヨシェナヴェをむさぼっています。
しかしみなさま、「ああ、気のせいか」はないんじゃないでしょうか?
ルイズは始祖の祈祷書とか言うのを読んでます。読むって言っても白紙ですけど。
アドバーグさんが表紙の絵を見ながら「ククリどのの魔法書と同じ表紙ですなぁ」とか言ってるのは無視しましょうね。
さっさと帰ればいいのに酒を入れるから村で寝込んだままになっちゃいました。
回復して帰ろうとしたら、アレに見えるはレコン・キスタ。
ウェールズ皇太子は亡命してがんばってるというのに遠慮や美学のない人たちです。
この村には『竜の羽衣』とか呼ばれてるゼロ戦がありますけど、アドバーグさんが知ってるわけがありません。
トマ君とかがいれば別ですがアドバーグさんからすれば「変わった代物ですなぁ」でおしまい。
「ルイズどの、早く避難しないといけませんぞ!」
「らによう! あらしのみゃほうをくらいらさい!」
酔っ払ったままの頭で炸裂する失敗魔法、同時に光る始祖の祈祷書。
そのままぶっ倒れかけたルイズを支えるアドバーグさんの目に、爆発が描いた魔法陣が飛び込んできました。
それは見覚えのある、ネコのような猫の目のような魔法陣。
まあなんということでしょう。大きな、ネコのような間抜けな顔をしたオブジェが出現しました。
『ナアアアァァァア~~~~~~~オ』
あまりに気の抜ける声に、レコン・キスタの皆さんは総崩れです。
立ちたくても足腰がなえて動くこともできません。ほら、ドラゴンもぼとぼと落ちてます。
それは旗艦レキシントン号にいるお偉いさん方も同じです。
気が抜けて立っていられないワルドの目に飛び込んできたのは、かつて己を吹き飛ばした腰みのの理不尽という恐怖でした。
ビ~ヒャラ~ラ~という間抜けな音と共に、ピンク色を背負った何かが戦場の真ん中を土煙を上げて疾走しています。
かろうじて動ける兵士たちをそのクイックイッキュッという擬音が似合いそうな動きで吹き飛ばし、その恐怖はただレキシントンへ向かって一直線。
それでもワルドは何とか立ち上がり、その人影に向かって杖を向けます。
「この変態がぁ! 食らえ! 『ライトニング・クラウド』!」
その魔法よりも一歩早く、アドバーグさんが背負っていたルイズが酔ったままの勢いで杖を振るい、失敗魔法が魔法陣を描きます。
それは目と多角形を組み合わせた、すべてを台無しにする魔法陣。
『はぁ~さっぱりさっぱり!』
ワルドの頭の上でくるくる回る扇を持った妖精。
ワルドの杖から放たれたのは雷鳴と雷光ではなく、破裂音と紙ふぶき、それに紙リボンでした。
「ななななな、ウウウウウインド・ブレイク!」
眼前に迫るアドバーグさんに向けて振られた杖から飛び出したのは、見たこともないクリーチャーでした。
「野菜を食べよう!」
ただそれだけを叫ぶとアドバーグさんを飛び越えかなたへ。
唖然とするワルドの視界が腰みので埋め尽くされ、彼はそのまま意識を失いました。
「にゃんこらしょー!」
ワルド撃沈。
レキシントンの各部から連続して崩壊音が響きます。
「あははははははは! 食らえ食らえ~!」
狂ったように叫ぶ杖を振るうルイズから放たれる失敗魔法、それは着弾地点に魔法陣を描きます。
魔法陣から生えたつたがレキシントン号に絡みつき、爆発するイチゴをばら撒きます。
同じように魔法陣から飛び出した炎が地面をもぐり兵士たちを吹き飛ばします。
何とか立ち上がった兵士が剣を構えますが、同じく出現した嫌な感じの顔のネコがどこからともなく取り出したガラスを引っかいて動きを止めてしまいます。
武器を落とし耳をふさいだ瞬間横合いからのキタキタ一撃、哀れ彼らは青空に笑顔で決め!
声と音に耐性がつき始めたのでしょう、よろよろと起き上がりすわ攻撃だと杖を振るうルイズと踊るアドバーグさんめがけドラゴンたちが殺到します。
杖を掲げたルイズとそれを守るように構えるアドバーグさんの真下で、ひときわ大きな魔法陣が輝きました。
それは怒れる大地、それは地下の魔神。
魔神ベームベーム顕現せり。
見上げる高さとあふれる威圧感、そびえ立つその巨体をぐるりと回る無数の目、それらが一斉に輝きけたたましい雷光を放ちました。
とどろく爆音、吹き飛ぶレコン・キスタ。ベームベームの上で踊るアドバーグさん。
雷光のいくつかがレキシントンを吹き飛ばし、ワルドがハヒフヘホ~とか叫びながらお星様になったころ、寝こけるルイズと一心不乱に踊るアドバーグさんだけになっていました。
せっかく駆けつけた軍隊は、その惨状にただただ唖然とするほかありませんでした。
村を上げて祝杯です。
オールド・オスマンも出席日数がどうとか忘れて酒盛りです。
舞台ではアドバーグさんが後ろのほうで見守る中、ミス・ロングビルと養女のティファニアがキタキタ踊りを披露しています。
男たちは全員そろって前かがみです。ギーシュなど下品にも口笛を吹いてモンモランシーにフルボッコです。
アドバーグさんは感動の涙を流しながらうんうんうなっています。後継者ができてよかったね。
後ろのほうでルイズがわめいています。どうやら魔法が使えるようになったのをキュルケに信じてもらえず憤っているご様子。
「証明してやるわ!」と杖をとりいつもの失敗魔法を唱えました。
かっこつけずに魔法陣を書けばよかったのに、いつものように詠唱なんてしちゃうからいけなかったんです。
舞台の下で小さな炸裂音がしたと思ったら舞台が踊り子とアドバーグさんを乗せたまま浮かび上がりました。
なんということでしょう。舞台の真下にできた魔法陣から幻獣ヨンヨンが召喚されてしまったのです。
踊りに夢中で気づかないキタキタ三人衆を乗せたまま、ヨンヨンは日食に消えていきました。
ルイズはとりあえずごまかすために、美しく締めることにしました。
「アドバーグ、いろいろありがとう! あなたのこと、きっと忘れないから!」
ルイズは美しい涙を流します。でも“きっと”とか言ってるあたりもう駄目です。
他の人たちも一応ルイズに習い、日食に向かって涙を浮かべます。
後ろのほうですごい顔をしているたまねぎっぽい何かを気にしたら負けです。
「宇宙の果てのどこか(ry」
使い魔がどこかへ行ってしまったため、ルイズは特別措置として再召喚が許されました。
系統はまったく違いますが魔法が使えるようになった彼女を笑うものはもういません。
魔法は唱えられ、爆発の代わりに魔法陣が輝きます。
そして新たな使い魔が、ここトリステインに顕現しました。
それはあまりに美しく
それはあまりに気高く
それはあまりにセクシーで
それはあまりにたくましい
そして何よりそれは、息が止まるほどかっこいい
魔法陣の上で浮かび上がり輝く四つの影。
あまりのかっこよさにその場の全員が言葉を失い、オールド・オスマンに至っては涙を流していました。
運命に導かれ「すぎた」世界最強の四人衆。60年間無敗の男たち。
彼らこそ『爺ファンタジー』!!
ルイズはひどくさめた思考で、ただポツリとつぶやきました。
「絶対アドバーグと同じとこのやつだ……」
女王は今日も道を行く
四つの指輪をその手にはめて
四つの秘法を携えて
四人の使い魔引き連れて
女王は今日も道を行く
虚無の女王は道を行く
次回:『ゼロのかっこいい奴ら』
続くわけがない。
アドバーグさんは結局最後まで、異世界だと気づかなかったのでした。
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