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#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
15.酒の席での墓穴
盗賊共と別れて後、ラ・ロシェールまで確かにそういった連中はいなかった。
何事も無く、無事にたどり着きマーティンはほっとした。
先に着いた三人と合流して今日の宿をとる。
この町で最も上等な『女神の杵』亭という宿であった。
「僕とルイズは今から船の交渉に行ってきます。マーティンさんと二人はこの店にいて下さい。
部屋の方はロビーに言えば鍵をくれますから」
にこやかに紳士の様相を崩さないまま、
ワルドはルイズと手を繋いで出て行った。
なんともなしに窓を見た。日が傾きつつある。
そろそろ夕方になる頃だろうか。そんな事を考えながら、
一階の酒場でマーティンはくつろいでいた。
常に神経を尖らせていると後に響く。
いくらなんでも、ここには宗教に狂った狂信者達はいなかろう。
自身が住んでいたクヴァッチから東に位置する街に、
神嫌いと呼ばれ、自身の暗殺を白昼堂々行おうとした女性の事を、
彼は思い出していた。
少々気を紛らわせる為に酒でも、いや、あぶないかそれは。
別段嗜む程度と彼は言うが、経歴が経歴なので、
マーティン自身は酒が好きな部類である。
九大神教団に入信してからも、それなりに飲んでいた。
かの教団には禁酒の項目はないのだ。
そんな事を考えていると、青い髪の雪風が近くに来た。
「寝る」
ロビーから鍵を取ってタバサは言った。ほんの少しだが眠たそうである。
「ああ、おやすみ。ミスタには私から言っておくよ。ミス・タバサ」
手を振って二階に行くタバサを見送る。いつの間にか赤髪の彼女が隣に座っていた。
「司祭様だからお酒は駄目かしら?ミスタ・セプティム」
ボトルが一つにグラスが二つ。キュルケは悩ましげな視線でマーティンを見ていた。
彼女は男を落とすのが趣味だったな。ギトー先生に飽きたのだろうか?彼はそんな事を思って、
目の前で艶かしく見える彼女を見ていた。
快楽の主サングインを信仰していた頃、
この手合いにはとてもよく出会った。快楽の申し子とも言える彼女らは情に厚く、
そして惚れっぽい。そんな彼女達は男達を平等に『愛して』しまう困った性癖を持っていた。
実際の所、キュルケにはそこに飽きっぽいが追加されるが、マーティンは知らぬ話である。
「あー。その、今更何だが。もう少々自分の体を労わった方が良い。気づいてからでは遅い事も多々ある。
若い内は遊びたくなるのは良く分かるが――」
聞かずにグラスにワインを注ぐ。説法とかどうでもいいですから。目はそう言っていた。
「では、アルビオンへ無事に着ける事を願って」
杯を取り、キュルケが言った。マーティンも取る。
注がれたものは飲むしかなかろう。飲まずに去るのは失礼だ。
「そして君の火遊びが緩和される事を祈って」
まだまだ収まりそうにありませんわと言って、キュルケは笑うのだった。
完全にこちらのペース。後はどうやって持って行くか。
久方ぶりのゲームは今始まったばかり。
上手い具合に避けられてばかりだったのだ。
今日こそ落とすと狩人は燃える。
「明日の船の予約が取れて良かった。これを逃すとやっかいだからね」
『桟橋』にて交渉を終えたワルドとルイズは、宿に戻らず町を散策していた。
アルビオンの戦のせいか、傭兵等が多く通常に比べガラが悪い印象を受けるが、
金は落としているようで、商売人からの反応はそれほど悪くない。
「ええ、けれどどうやって王党派の陣に行けばいいのかしら…聞こえてくる話だと、
もう貴族派に囲まれてどうしようにも無いって、いっているじゃない?
敵陣突っ切って行くなんて…ねぇワルド。あなたのグリフォンでどうにか出来そう?」
船については色々言いたい事はあったが、今は平時ではない。
そんな事に思考を回すより、任務について考えなければいけなかった。
ルイズのそんな疑問に、ワルドは笑って答えた。
「何、心配はいらないさ。全部僕に任せておいてくれれば、全て上手くいくよルイズ」
ワルドは笑ってルイズの頭を撫でる。上手くごまかされた気がするが、
しかし彼がそう言ったのだ。昔からとてもたよりになる彼なら、
何の問題もない。ルイズはそう思ってされるがままになる。
「ところで、あの司祭のマーティンさんだったかな。彼は何故ここに?」
「姫さまから聞いていなかったの?言いにくいけれど、私の使い魔なの」
ワルドの目が大きく開いた。そうだったのかいと言って彼は優しく微笑む。
そして彼は、色々な意味で落ち込むルイズをなだめ始めた。
皇帝呼び出したとか言えない。人呼び出すって正直どうなの。
が主な落ち込みの内容である。
「姫殿下も随分慌てていたからね。使い魔の事はすっかり忘れていたのだろう。
それにしてもルイズ。君には何か凄い力が隠れている気がするよ」
人を、それもメイジを呼び出したんだ。そんじょそこらの連中より、
よっぽど凄い力を持っていないと、呼ぶ事は出来なかったに違いないさ。
ワルドはそう言ってルイズを元気付ける。
「そ、そうよね。ワルドとマーティンくらいだわ。そんな事言ってくれるの」
「ところで、ルイズ。彼が使い魔というならルーンが刻まれているはず。どこに刻まれているんだい?」
「左手の甲よ。武器を持つと光って、体が軽くなるんですって。後、いつでも魔法の能力が上がっているとか」
『破壊』系統だけとはいえ、
効率的な魔法力で大技が使えるのはとても喜ばしい事だと、
左手の効果について研究したときにマーティンは言っていた。
何でもハルケギニアに比べ、彼のいたタムリエルの魔法は、
魔法を使うための力はすぐ補充できるものの、
その分強力な魔法を使うとすぐに力が無くなってしまうらしい。
だから少しでも消費を減らしたいところであり、
敵から身を守る為に使う攻撃魔法の消費量が減るのは、
彼の国のメイジ達からしてみれば、願ってもない事なのだそうだ。
本来ならこの問題は、魔法力回復用のポーションでも飲めば良い。
今より千年以上前にアスリエル・ディレニ、
というエルフが技術革新を起こした「錬金術」は、
今やタムリエル全土のメイジに薬品作成の手段として親しまれている。
様々な器具を用いるこの学問だが、
ハルケギニアにはポーションを作るための専門的な器具が無いのだ。
一応、そこらの乳鉢で何か食料を二品混ぜ合わせ、水に溶かせば簡単な薬品になるが、
味は悪く効果が薄い。ただ、それ以外の物はギルドが販売している品でないと、
何が起こるか分からず危険な為、マーティンは代用をやめている。
それに、マーティンがメイジギルドに入っていたのは若い頃で、
「錬金術」の様な渋い物を学ぶより、「破壊」の魔法や「召喚」の魔法を優先して学んだ。
これらは派手好きだった彼にピッタリだったのだ。
故に、彼はあまり錬金術が得意とは言えない。勿論素人より良い物は作れるが、
しかし実力として見習いか、それに毛が生えたくらいだろう。
そんな訳で比較的簡単に見つかり、
かつ彼でも魔法力回復の材料として扱える品は少ない。
亜麻の種と、カンムリタケのかさを合わせたポーションなんかが丁度良いが、
あいにくカンムリタケが見つからなかった。だからそれ用の薬は今回持参していない。
「そうか…僕の記憶が正しければ、彼は『ガンダールブ』かもしれないな」
真顔でそう言ったワルドにルイズは何も返す事が出来なかった。
ありえないと思って何を言えばいいか分からなかったのだ。
ガンダールブと言えば、始祖ブリミルの四つの使い魔の一つだ。
経歴から考えて、彼がそういう使い魔として選ばれる事については、
特に問題はない。皇帝として命をかけて国を守ったのだから。
始祖ブリミルを守ったという使い魔に相応しいと言えるかもしれない。
けれど、それがどうして私に?
未だルイズは魔法が使えないままである。
以前に比べさほど気にしている訳でもなく、
「ゼロ」の二つ名を呼ばれて癇癪を起こす事はなくなったが、
魔法が使える様になりたいのは事実である。
マーティンはそれについて問題は無いと言った。
『どんな時代でも、遅咲きのメイジはいる。そして大抵そのメイジ達は、
何か大きな事を成し遂げるものだ。そこいらにいるいっぱしのメイジが、決してできないような事をね』
爆発が起きているから魔法が使えない訳ではないんだ。
「きっかけ」があれば必ず使えるようになる。彼はそう言って励ましてくれた。
問題はその「きっかけ」である。一体何だというのだろう。
マーティンも色々考えているが、何分この世界の魔法についてはルイズの方がまだ詳しい。
こちら側の考えでいかなければいけないが、しかしそう上手くはいかないもので、
マーティンに詳しく教えつつ、共に原因を突き止めるつもりだ。
「ありえないわ、そんな事。まさか私が…」
可能性の問題として提示したマーティンのルイズ虚無説は、
次の日までに彼女自身の頭の中で、否決処分が下されていた。
まさか今まで魔法が一切使えなかった私が現実に虚無とか、
そんな事はありえないという訳である。
「どこかの誰かが言っていたよ。ありえないなんて事はありえない、と。
きっと君は偉大なメイジになるよ。始祖ブリミルの様な、ね」
ワルドが笑う。けれど、何故だろうか。先ほどに比べて笑い方が違う。
探し続けていた宝物を見つけた様な笑顔で、たしかに嬉しそうだけれど、
何か、何か変だと思う。そんなルイズの違和感は拭えないまま、
ワルドと共に宿へ戻った。
日が暮れて夜。二人は『女神の杵亭』に帰ってきた。
タバサの姿は見えず、酒場にはつぶれかけのキュルケと、
ちびちびとワインを飲むマーティンの姿があった。
「ああ、おかえりなさい。ミス・タバサは寝ているよ。道中で疲れたそうだ」
そして彼女もそろそろ上へ連れて行くべきだろうな。そう言ってマーティンは笑った。
「ま、まだらいじょうぶれすわ。あ、ルイズおあえりー」
種族として交渉事に長けた「インペリアル」。
それに属し色々と経験豊富なマーティンは、
のらりくらりとキュルケの質問をかわして、
逆に彼女へ上手い具合に酒を勧めた。
完全に自分の術中だと彼女は思い込んでいたが、
しかしそれは完全に相手の思うツボだった、
そう理解した時にはもはや手遅れで、彼女はまたも獲物を逃したのだった。
呂律が回っていない。お前は何をしに来たんだとルイズは思ったが、
考えてみれば彼女達は私について来ただけだ。
ここで別れてしまうのが彼女らの為というものだろう。
ルイズがそれを言おうとする前に、キュルケが熱っぽい声で言った。
「れぇ、マーチン…」
キュルケが落ちた。テーブルに突っ伏し、寝息を立てるキュルケを見て、
少々飲ませすぎたか、とマーティンは言って店員から毛布をもらい、彼女にかけた。
「それで、船の方はどうだったのですか?ミスタ・ワルド」
マーティンもルイズと同じつもりだったらしい。
学院の話ではキュルケはゲルマニアで、
タバサの方は髪の色からガリアからの留学生だと言われていた。
異国の貴族が秘密の任務に参加して、失敗したらどうするか。
軍事同盟どころか、下手をすればトリステインと二国の関係が悪化してしまう。
ここで置いていくのがもっとも賢明な判断だと思えた。
「無事に、明日の朝一番の船が取れましたよ。もっとも、貨物船ですから部屋の質は悪いものですが」
いかに白の国と呼ばれ、その美麗で圧倒される空に浮かぶ島といえども、
今は戦争の真っ只中である。そんな中旅行に行くなんてバカはいない。
貴族派への物資輸送船しか飛ばないと言うのは仕方ない事である。
「こんな時にそんな事は構いませんよ。さて、後は明日に備えて寝るだけですな」
「ええ、ところでマーティンさん。使い魔のルーンを見せてもらっても?」
ああ、はい。とマーティンはワルドに見せる。ワルドはやはりと思って息をのんだ。
「そのルーンの事はご存知ですか?」
「ああ、ガンダールブのルーンだと学院長から聞いていますよ」
本当にそうなのかは分からないし、それで気負わせたくなかったから、
ルイズには何も言ってなかったけどね。そう言って笑った。
「もう、そういうのはちゃんと言ってくれないと」
「すまない。少々気が引けてね」
自分から伝説のガンダールブなんて言っても、説得力ないだろう?
むー、確かにそれもそう…いや、あんたの経歴的にあるとは思うけど。
そんな二人を見ながら傍から見れば微笑ましい笑みを浮かべるワルド。
しかし、その笑みは黒い野心に覆われていた。
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