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#setpagename(零姫さまの使い魔 第二話 )
「あっしは【手の目】だ
先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ
……尤も今じゃ 本業の方は廃業中だ
なにせ此方じゃ あっしの芸は御法度ときた
食い扶持求めて 令嬢の小間使いに収まったまでは良かったが そいつがとんだハネッ返り
じゃじゃ馬娘の使いっぱで糊口を凌ぐ日々たァ 我ながら堕ちたもんさ
それにつけても 此処の連中はどうにもいけ好かねぇ
めいじだか貴族だか知らないが ちょっとばかり手品が使えるくらいで御大尽気取りさ
いい加減 此方も我慢の限界だ この憤懣 何処にぶつけてやろうかと
思っていた矢先にこの騒ぎ まったく 運が良いやら悪いやら……」
「まったく どうしてくれるんだい?
君が軽率に 香水の壜を置いたおかげで レディの名誉に傷がついた」
金髪の若者がメイドの一人を詰問する姿に、ギャラリーの注目が集まる。
食後の退屈しのぎとばかりに、二人を中心として、野次馬たちのざわめきが起こる。
「なに言ってんのよ ギーシュ? 全部アンタの二股が原因じゃないの」
「うっ…… が 外野は口を挟まないでくれたまえ! ゼロのルイズ」
呆れたような非難の声に、ギーシュと呼ばれた若者が反論する。
尤も、この詰問の理不尽さを誰よりも痛感しているのは、他ならぬギーシュ自身であった。
だが、いかに責任転嫁のため口走ってしまった迷い言とはいえ、今さら撤回するワケにもいかない。
心中の動揺を悟られぬためにも、この場面は敢えて、力技で乗り切らねばならなかった。
「ともかくだ! 彼女がうまく話を合わせてくれさえすれば レディ達が傷つくことはなかった
貴族に仕えるものとして 彼女はもっと機転を利かせるべきだったと思うよ!」
滅茶苦茶である。
眼前で俯く少女の姿に、ギーシュの心がズキリと痛む。
だが、全てはこれで丸く収まるはずであった。
後は彼女の謝罪を許し、その上で自分の失言を詫びさえすれば――。
「……謝罪はしません
武道とは 弱者が強者の暴力に立ち向かう為にこそあります
ここで私が権力に屈し 正道を曲げてしまったならば
曾祖父の そして 剣の道に生きた先達の志を穢すことになってしまう」
「そうそう 素直に謝ってくれさえすれば僕だって……
へっ!?
武道? 曾祖父? 君は一体何を……」
「果し合いです! 私 シエスタ・佐々木は
グラモン家三男ギーシュ・ド・グラモンに対し 立ち合いを所望します!」
きっ、と顔を上げた少女の瞳に、凛然たる輝きが宿る。
突然の急展開に、ギャラリーが一気に沸き立つ。
「ギーシュと平民のメイドの決闘だ!」
「正気かッ!? ギーシュ!」
「ちょ ちょっと! 何考えてんのよ 平民の女の子と決闘だなんて!
恥を知りなさいよ ギーシュ!」
「イッ!? いや! 聞いてただろ? モンモランシー この決闘話は彼女が……」
「立ち合いは申の刻 ヴェストリの広場にて」
それだけを簡潔に述べると、シエスタは悠然と食堂を後にした。
その鮮やかな立ち居振る舞いに、女生徒達の間から悩ましげな溜息が洩れた。
・
・
・
――申の刻、ヴェストリの広場
「ねえ タバサ…… これは現実なの?」
「……私にも信じられない
いかにドットクラスとはいえ メイジの創りだしたゴーレムが
場面が切り替わった直後に いきなり斬り伏せられているなんて……」
赤毛の少女、キュルケの呆けたような問いに、友人のタバサが冷や汗を流しながら応じる。
彼女達だけではない。その場に居合わせた全員が、
物干し竿のような長刀を携えた少女の威圧感に呑まれていた。
無論、その有様に誰よりも驚いていたのは、対手のギーシュであったが……
(ううっ 何だ! 何だと言うんだ?
なし崩し的にメイドと闘うハメになったとか 気が付いたら夕刻のヴェストリの広場だったとか
なぜか自分の方が挑戦者の立場だったとか シエスタは羽織袴だったとか そんな事はどうでもいい!
たかだか平民の操る剣術相手に 僕のワルキューレが手も足も出ないなんて……!)
「これで降参ですか?」
「う うるさい! 勝負はまだ始まったばかりだッ!」
もはやヤケクソとばかりにギーシュが吠え、薔薇を投じる。
たちどころに錬金が発動し、その場に7体の戦乙女が出現する。
「お見事…… ならば私も 全身全霊を込めてお相手しましょう」
驚くべき事に、シエスタは5尺を越そうかと云うほどの大業物を右肩に担ぐと
地に伏せたワルキューレのレイピアを左手で引き抜き、二刀に構えた。
剣気に充ちたその姿に、ギーシュが戦慄する。
「うおおおおおッ! い いけッ! ワルキューレ!」
「ギーシュ・ド・グラモン 敗れたり!」
ギーシュが杖を振るう。その先を取り、風を巻いてシエスタが駆ける。
それはまさに、記すのも憚る光景だった。
記すのも憚るような異様な体勢から放たれた二本の刃が、記すのも憚る程の速度でギーシュに迫り
その前に立ちはだかった7体の青銅人形を、記すのも憚る程の無残なスクラップへと変えていく。
「分からない…… 分からないわ タバサ 彼女の剣が達人の域に達しているのは私も認める
けれど 魔法の使えない平民が こうも一方的にメイジを圧倒できるものなの?」
「剣道三倍段」
流石は修羅の世界に身を置くタバサである。
記すのも憚る程の事態に直面しながら、尚も冷静にシエスタの技量を分析していた。
「剣道初段の実力は 徒手空拳の武術ならば三段の実力者に匹敵する
しかも彼女は二刀流 仮に一流派を極めた彼女の実力を十段程度と見積もるならば 10×3×2の60段
その剣の冴えは トライアングル……いえ スクウェアクラスの術者をも凌駕するかもしれない」
「そ…… そういうもの なの?」
しかし、現実はそういうものであったらしい。
タバサの解説が終わる頃には、ギーシュの手駒は既に全滅していた。
「……決着 ですね?」
「あ ああ…… この勝負は 僕の」
その時である。
突如として周囲が巨大な影に覆われ、砲弾が唸りを挙げて飛び込んできた。
爆音が轟き、土煙が宙に舞い上がる。
突然の砲撃に、周囲はたちまちパニックに陥った。
「何だ!? あの巨大な飛行船は!」
「見ろ! あのゴーレムをかたどった旗印は……」
「まさか! 世界征服を企む悪の秘密結社 【M.O.S団】なのか?」
「ハァーッハッハッハッハッハ!」
飛行船のテラスから、首領と思しき覆面女の高笑いが響く。
「学院に潜伏し続けて早三年 探りを入れ続けた甲斐があったってもんさ!
ようやく見つけたよ! 大日本帝国海軍少尉・佐々木武雄が後裔 シエスタ佐々木!
貴様の曾祖父がハルケギニアに持ち込んだ 清王朝伝来の遺産とやらを こちらに渡して貰おうか!」
首領が号令を下す。
降り注ぐ砲弾が学舎の美観を容赦なく破壊し、機関銃を携えた覆面軍団が次から次へと飛来してくる。
鮮やかな奇襲の前に名だたる教師陣も手も足も出ない。
学院の制圧は時間の問題と思われた。
「いけないわ このままではアレが敵の手に渡ってしまう こうなったら……」
「し 清王朝の遺産? 君はいった……うわッ!?」
腰を抜かしたギーシュを抱え、シエスタが厨房へ跳びこむ。
中央に置かれたテーブルを蹴り飛ばすと、その下にあった色の違うタイルを一枚、手慣れた手つきで押し込んだ。
直後、グゴゴゴゴ、という音とともに部屋全体が鳴動し、竈の奥に秘密基地へのシューターが現れた。
「ギーシュさん 力を貸して下さい
【アレ】は今の人類が使いこなすには あまりにも強大な力を持った負の遺産
もしも 悪の組織の手に渡ったならば ハルケギニアが滅亡してしまう!」
「ちょ ちょっと待って まだ心の準備が……」
ギーシュの抗議も空しく、シエスタの渾身の一蹴りが放たれる。
「アレってなんだああああああああああああああああ!!」
悲痛な叫び声を響かせながら、ギーシュは暗闇の底へと転がり落ちていった。
・
・
・
「ハァーハッハッ! 他愛もないねぇ 逃げてばかりじゃ話にも……」
ズンッ――、と
突如、学院を襲った巨大な地震に、首領の高笑いが止まる。
地の底から響く怪物の咆哮に、敵も味方も動きを止め、固唾を飲んで行方を見守る。
やがて……
『ガ オ ォ オ ォ オ オ オ ン!』
という金属音と共に、巨大な鋼鉄の腕が学院の地下から飛び出してきた。
「げぇっ!? まさかアイツは
日本軍が本土決戦のために考案し 27度もの試作の果てに
遂には完成する事の無かったという究極の兵器……!」
「行けぇ! アイツをやっつけろ!」
シエスタの声に合わせ、轟音と共に土塊が空まで舞い上がり、巨大なロボットの上半身が姿を見せた。
「うわああああ!? やめてくれぇ! ここから下ろせぇ!!」
「ギーシュさん よく聞いて下さい
このリモコンの発する電波は 人間の大脳でしか受信出来ないんです
つまり あなたが頭部に乗っていなければ そのロボットは動かない」
「欠陥兵器じゃないかァーッ!」
拘束服の中でもがきながら、ギーシュが必死で抗議する。勿論誰も聞いてくれない。
「おのれぇ小娘! M.O.S団を舐めるでないよ」
首領が拳大の真っ赤なボタンを勢い良く叩きつける。
それに合わせ、飛行船の先端がガギョンガギョンと変形し、巨大なドリルが出現する。
「うおりゃあ デンジャラスドリル! くたばりなァ クズ鉄野郎!」
「飛べッ! カミカゼパンチよ!」
シエスタのリモコン操作に合わせ、ロボの両目が真紅に燃える。
同時に背中の超弩級ロケットエンジンがド派手に火を噴き、鋼鉄の巨体が恐るべきスピードで飛びあがる。
ギーシュの眼前に、デンジャラスサイズのドリルがグングン迫る。
「う ぎ ゃ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ー ッ ! !」
カッ――
眩い閃光の中、ギーシュの叫び声がトリステインの空にこだました……。
・
・
・
「――もし 落としやしたぜ お坊ちゃん」
「ハッ」
彼方からの自分を呼ぶ声に、ギーシュはようやく我に返った。
思わずキョロキョロと辺りを見回す。
平日の食堂――。
夕刻のヴェストリでも無ければ、巨大ロボのコックピットでもない。
テーブルの上には、全ての災いの元凶となった、香水の瓶が置かれている。
そして眼前には、例の右手をかざす仕草でこちらを覗きこむ、吊目の少女の姿があった。
「君は確か ヴァリエールの……」
「ほれ どうしたい? コイツはアンタが落としたんじゃ無いのかい?」
「え? あ ああ……」
促されるがままに、壜を手に取る。
半ば呆然と中の液体を眺めながら、ギーシュが思索にふける。
あれらの出来事は、全て夢だったと言うのか。
「これは…… 君が拾ってくれたのかい?」
「ん? いや あちらの親切なメイドさんがね……」
「――ッ!? ギニャアアアアアァァァ――ッ!」
手の目が形の良いあごを向けたその先、そこに彼女はいた。
刹那、ギーシュの脳裏を、先の壮絶なる大冒険が走馬灯のように駆け巡る。
痛烈な絶叫がたちまち食堂を突き抜け、平穏な午後の時間を打ち破った。
食堂が騒然となる中、その親切なメイドが、いかにも気弱そうな素振りを見せながら、おどおどとギーシュに声をかけた。
「あの…… わ 私…… 何か 間違った事を……」
ギーシュは高速で首をブンブン振ると、勢い良く少女の肩を抱いた。
「あ あ あ ありがとう! ありがとう! ありがとう!!
これは本当に 本ッ当に 大事な物だったんだ!
勿論二人のレディが傷ついたのは君のせいじゃないし ヴェストリの広場にも行かない!
清王朝の遺産なんかこれっぽちも知らないし デンジャラスドリルはもうコリゴリだよ!」
「キャアッ!? は 放して下さい!」
発狂せんばかりの喜びの声を挙げながら、勢い良くメイドをハグするギーシュ。
直後、当然のように、巻き毛の少女の鉄拳が飛んでくる。
「ギーシュッ また他の娘に手を出してッ!!」
「グワァァァー!!」
きりもみながら5メイル程勢いよくぶっ飛び、テーブルの角に脳天を強かにぶつけ
顔面をケーキまみれにしながら、それでもなお、今のギーシュは止まらない。
「ああ…… そうさ そうなんだ! 僕はヒドイ奴なんだモンモランシー
さあ 納得のいくまで殴り倒してくれッ!」
「な! ……あなた 何か変な物でも食べたの?」
「ハハ い 痛い ものッ凄く痛いよ……
うう 生きてる…… 生きてるよ 痛いから生きてる!
うおおお! 俺 生きてるぞォ――――――――――――ッ!!」
ドン引きする食堂の中心で、ギーシュは高らかと生を叫んだ。
・
・
・
「うわっ 何よ アレ……
手の目 アンタ もしかして何かやったの?」
「……クッ」
突如として始まったギーシュの一人舞台を、遠巻きに仏帳顔で眺めていた手の目であったが……、
「カハァッ! アハハ ハハハハ ハハハハハッ!」
――と、主人の問い掛けを合図に、こちらも堰を切ったかのように笑いだした。
「んなッ! 何よ突然! アンタもおかしくなっちゃったの?」
「ハハハ…… いや そうじゃねぇよ
確かにあっしも悪戯が過ぎた
何ね…… あの坊ちゃんが ふられた腹いせに
あっしに八つ当たりする気なのが分かったんでね
ちょっとばかり先回りして こっちがあべこべに憂さを晴らしてやったのさ」
「……? 何よ それ
結局 何が起こったって言うの?」
「なんにも起こらなかったのさ
見ろよ あの坊ちゃんの幸せそうな顔
よっぽど大切な物だったんだろうぜ
万事解決 めでたし めでたし さ」
尚も釈然としない表情のルイズを尻目に、手の目はいつまでもカラカラと笑い続けた。
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