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「ベルセルク・ゼロ-21」(2008/10/21 (火) 19:10:08) の最新版変更点
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#navi(ベルセルク・ゼロ)
ワルドが杖を構え、ガッツがそれに応えたことで事態は一気に緊迫する。
杖を持つ右手を前に出し、やや半身になって構えたワルドに対し、ガッツは腰を落としドラゴンころしを後ろに引いた明らかな迎撃の構え。
「ねえギーシュ、実際にダーリンとやりあったあなたはこの勝負どうなると思う?」
今は物置となった練兵場の端っこで、二人を遠巻きに見つめていたキュルケは隣で苔むした木箱に腰掛けるギーシュに声をかけた。
「ううむ……」
ギーシュの顎に手を当て、頭を捻った。
常識外れの鉄塊を振り回し、ワルキューレを軽々と屠った、悪夢のようなガッツの姿が思い出される。
確かにガッツは強い。そこらの傭兵とは桁が違う。昨日もあっという間に盗賊たちを蹴散らしていた。
しかし、対するワルドも相当な実力の持ち主であることは明白だ。
圧倒的な力で自分を打ち負かした『鉄屑』のグリズネフを、さらに圧倒的な力で持って叩き伏せたワルド。一晩たったことで消耗した精神力も回復したことだろう。
何より彼は『ドット』に過ぎない自分とは違う。メイジの最高位『スクウェア』だ。ガッツがどれほど『戦士』として優れていようが勝てるとは思えない。
「いくらガッツが常識離れしているとはいっても、彼に勝てるとは思えないね」
「あら、そうかしら?」
「だって常識的に考えてごらんよ? 彼は、ワルドはただのメイジじゃない。その頂点に立つ『スクウェア』なんだ。それが杖も持たない平民に負けるはずがないだろう」
ギーシュの言葉に、くすくす、とキュルケは笑った。
「何がおかしい?」
「だってあなた今自分で言ったじゃない。ダーリンは『常識離れ』してるって」
「む……」
ギーシュは口ごもった。
確かに、ガッツは色々と飛びぬけている。あの大剣などもはや狂気の沙汰だ。
あんなものを軽々と振り回す時点で『平民』なんて枠組みはとっくに超えている。
「じゃあ君はどっちが勝つと思っているんだ?」
「応援しているのはダーリンの方よ、もちろん。でも勝つのはワルドでしょうね」
「な、なんだそりゃ? 結局君も僕と変わらないんじゃないか」
「あなた、素手で強力な『ブレス』を吐くドラゴンに勝てる? 杖を持たない人間が、スクウェアのメイジに挑むっていうのは『そういうこと』なのよ」
普段の恋する乙女のものとは違う、冷静な瞳でキュルケは言った。
「えーい!」
キュルケとギーシュの間にルイズが顔を出した。
「どっちが勝つとかはどーでもいいのよ!!」
二人に割り込んだルイズが、がしがしとギーシュの肩を揺さぶる。
「アンタ止めてきなさいよ! 姫様の任務の途中なのよ!? こんなことしてる場合じゃないのはわかるでしょお!?」
「いいやややややしししししかしだね」
「お、おち、落ち着いてくださいルイズさん!」
脳みそがシェイクされんばかりにギーシュの頭がガクガク揺れる。メリッサは大絶賛沸騰中のルイズのマントを掴み、必死で宥めにかかった。
「と、とと止めろったってそりゃりゃりゃむむむ無理だだだよよよよ」
「なによ意気地なし!! へっぽこギーシュ!!」
「手を! まずは手を離しましょうルイズさん!!」
メリッサに懇願され、ようやくルイズがギーシュの肩から手を離す。ギーシュはため息をつくと乱れた前髪を戻した。
「意気地がどうとかいう問題じゃないんだルイズ。いいかい? これは『決闘』なんだ」
ギーシュは胸元から薔薇の造花を抜き、くりくりと指で遊ぶ。
「確かに、今は『こんなこと』をしている場合ではないだろう。これからのことを考えればこちらの主戦力である二人が潰しあうなんて馬鹿げてる……しかし『そんなこと』は最早関係がないんだ。
周りの人間がとやかく言えることじゃない。周りの状況も関係ない。決闘が始まってしまった以上、これは決闘に望む二人、その『誇り』の問題なんだ。この決闘を止められるとしたら、それは彼ら自身だけだ」
「でも……!」
「君も貴族だ。誇りの在り方については理解しているはずだ。本当はわかってるんだろう? だから君自身、無理やりに割り込んででも止める、そういった強硬な手段は取っていない」
ルイズはぐっ、と言葉を詰まらせた。確かに決闘に横槍を入れるなど、これほど貴族としての矜持を欠いた行為はない。
「こうなったら腹くくって見守りなさいよルイズ」
あくまで軽い調子のキュルケをむっ、と睨みながらもルイズは木箱に腰掛けた。
こうなっては決闘が何とか無事に終わることを願うしかない。
「もう……なんでこうなるのよ……!」
無意識に手を重ねて、祈るようなポーズのままルイズはガッツとワルドを見守った。
キュルケはふと気になって後ろを振り返った。
少し高く積まれた木箱の上にタバサが座っている。珍しいことに本は閉じて膝の上に置いたままだ。
その目はしっかりとガッツとワルド、二人の決闘を見つめている。
(いえ、違うわね――――)
キュルケは思い出す。ギーシュとガッツの決闘を。
その時も、今のようにタバサは決闘を食い入るように見つめていた。
(見ているのは――――ダーリン、か)
思い返せばガッツに対しては、タバサは最初からよく喋った。昨日もガッツに体の調子を尋ねていた。他人にはとことん無関心なこの子がだ。
何かあるのだろうか?
前を向き、視線を戻す。
今度、尋ねてみよう―――――キュルケはそう思った。
もしもそれが『恋』なのだとしたら―――そう想像すると嬉しくなる。
あたしたち、ライバルよ。タバサ。
キュルケは楽しそうにくすりと微笑んだ。
(さて……どうするか)
ワルドはガッツの体勢、その眼光を観察しながら黙考する。
昨晩の、軽々と盗賊を屠るガッツの姿が脳裏を掠める。
自分の持つ杖であの大剣と切り結ぶことは到底出来まい。例え魔法で杖を強化したとしても、だ。あの剣の一撃を受けうるだけの腕力を自分は持っていない。
ではどうするか。
実のところ、対策は簡単に思い浮かぶ。
ガッツは迎え撃つ姿勢を取っている。ならば、彼の射程の外から魔法を放てばいい。例えガッツが迎撃の姿勢を解いても同じこと。一定の距離を保ち、魔法を放ち続ければそれだけで勝てる。
(しかし……それでは逃げ回っているようで、どうにも癪だな)
ワルドはチラリとルイズに目を向けた。ルイズはその小さな胸を押さえて、こちらを心配そうに見つめている。
この決闘は、彼女を自分に振り向かせるための布石だ。無様な勝ち方では意味がない。
ここは、正面から切り崩す。
一歩、ワルドは踏み出した。
(あえて彼の射程まで踏み込む。そして彼が剣を振り出した瞬間、エア・ハンマーで剣を撃ち払う!)
じり、じり、と二人の間が縮まっていく。
シン―――と空気が張り詰める。ワルドの靴と石床が擦れ合う音だけが部屋に響く。
見守るキュルケ、タバサ、ギーシュ、メリッサ、そしてルイズはごくり、と唾を飲んだ。ただ一人、パックだけがお気楽に二人の様子を眺めていた。
一歩、さらに一歩。杖を構えたまま、ワルドが距離を詰めていく。
7メイル―――6メイル―――5メイル。
ガッツはまだ動かない。
そこからさらに半歩だけ歩を進めて、ワルドはピタリと動きを止めた。
(まだ動かぬつもりか……?)
昨晩見たガッツの体さばき、そして大剣の長さを考慮すれば、ワルドの立つその場所は既にガッツの射程の内であるはずだ。
そして、もう半歩進めばガッツがワルドの射程に入る。そうすれば、もはや勝負は決したも同然だ。ガッツの始動を待つまでもなく、一呼吸のうちにワルドの持つ杖がガッツの喉を切り裂くだろう。
にもかかわらず、ガッツはピクリとも動かない。表情すら変えず、じっとワルドを見据えている。
(何を……考えている……?)
ガッツの考えが読めない。ワルドの頬をつう、と汗が流れた。
ゆっくりと、油断無く、細心の注意を払って―――さらに、半歩前へ進む。
ガッツは、動かない。
ワルドの中で困惑が嘲りへと変わっていく。
すなわち――――「馬鹿め」と。
(愚かな…! こちらの射程を読み違えたか!)
ガッツに気取られぬよう、静かに息を吸う。ワルドの目が鋭い光を放った。
(ここまで踏み込めばもはや魔法など必要ない!! 終わりだ!!)
ワルドが地を蹴り、一瞬でガッツへと肉薄する。
「あの距離を一瞬で!!」
その速度に、観戦していた皆から驚愕の声が上がる。
ワルドの動きは正しく『閃光』の如き速度。だが同時にガッツも動いた。ぎしりとドラゴンころしを握りこむ。右腕の筋肉が膨張する。
「今更!!」
既にワルドの杖がガッツに届く距離。
ガッツの喉に向け、ワルドはさながら侍が抜刀するが如く杖を放つ。
バリリ―――!!
響いたのはガッツが歯を強く噛み締めた音。
前に出した左足を軸足としてガッツの体がぎゅるりと回る。ごぅんと音を立て、ドラゴンころしが風を裂く
(は、速―――!!)
ワルドの目が大きく見開かれる。
その鉄塊は、弧を描くように振り下ろされ、凄まじい速度で持ってワルドに迫る。今更エア・ハンマーで撃ち払うことはできない。
「く、うおおおお!?」
ごぅ、と空気を切り裂く轟音が響いた。
砂塵が舞い上がり、二人の姿を覆い隠す。
「ど、どうなった!?」
ギーシュが身を乗り出して叫んだ。答えられる者はいない。皆、土煙が晴れるのをじっと見つめている。
ルイズは、ただ二人の無事を祈った。
土煙が晴れる。
ガッツは立っていた。その喉元にはワルドの杖が突きつけられている。
ワルドも立っていた。その肩の上でガッツの大剣は止められている。
「相…打ち……?」
キュルケがそう呟いたとき、ガッツの喉からつぅ、と血が流れ始めた。
「届いたのはワルド子爵の一撃か!」
ギーシュが思わず木箱から立ち上がり、叫んだ。その様子を一瞥して、ワルドはガッツに視線を戻した。
「成程……な………」
口の端を歪めてワルドは笑い、ガッツの喉元に突きつけたままだった杖を腰にしまった。
ガッツもドラゴンころしを引くと背中に仕舞う。
それを見届けるとワルドはくるりと踵を返した。
「君の力はよく分かった。手間をかけさせてすまなかったな。明日に備えてゆっくりと休んでくれ」
そう言い残して、ワルドは足早に練兵場を後にする。残されたガッツはぼりぼりと頭をかいた。
「…ったく、勝手な野郎だ。貴族ってのはどうしてこうどいつもこいつも……」
「ダーーーリーーンッ!!」
駆け寄ってきたキュルケがそのままの勢いで抱きついてくる。抱きつく寸前にジャンプしてガッツの顔に胸を押し付ける徹底ぶりだ。
「―――どいつも、こいつも」
ガッツは呆れてそのままキスしようとしてきたキュルケの顔を引き剥がす。
「ちょっと! 離れなさいよ年中発情猫!! 人の使い魔にベタベタするんじゃないわよ!!」
ルイズがキュルケのマントを引っ掴んでガッツから引きずり落とした。
「誰が猫ですってちびルイズ!!」
「猫のほうがまだマシよ!! 愛嬌があるもの!! あんたなんてただの淫売よ!! 売女!!」
「言ったわねこの洗濯板!! ナイチチ!! ゼロチチ!! 貧乳!! 貧しい乳!!」
「キイィーーーーーーー!!!!」
ぎゃあぎゃあとルイズとキュルケは取っ組み合いを始めた。
ギーシュはそれを呆れた様子で眺めていて、メリッサはただおろおろし、タバサは黙々と本を読んでいた。
ガッツは踵を返すと練兵場の出入り口へ向かう。
「待ちなさいガッツ!」
ルイズはガッツを呼び止める。足を止め、振り返ったガッツにルイズはとたとたと駆け寄った。
「……血が出てるわ」
ルイズはポケットからハンカチを取り出し、差し出した。
「いいよ、いらねえ」
「いいから」
ルイズは背伸びして、ガッツの喉をそっと拭った。
「お、おい」
「やりにくいわ。すこし屈んで」
ルイズは強い目でガッツを見つめてくる。有無を言わせぬ剣幕だ。
ガッツは「やれやれ」とため息をついた。
どかり、とその場に座り込む。
ルイズも膝を曲げてしゃがみ込んだ。
切り傷を撫でるように血を拭う。白いハンカチが赤く染まっていく。
「ねえ……」
血を拭いながらルイズが口を開いた。
「何でこんな馬鹿なことしたのよ?」
「知るか。ふっかけてきたのは向こうだ。向こうに聞け」
「それでも、そんな馬鹿正直に受ける必要ないじゃない。馬鹿」
「てめ……」
ルイズはハンカチをポケットに仕舞い、代わりに小さな巾着を取り出した。
「パックがくれたの。妖精の粉。塗っちゃうからじっとしてて」
ガッツはギーシュの肩にいるパックに目を向けた。
パックがぐっ、と親指を突き出してくる。
「くれた」というルイズの言葉に、ギーシュは愕然として親指を突き出すパックを見ていた。
「夕べは……ありがとう」
「あん?」
ぽつりと呟かれたルイズの言葉。聞き取ることが出来なくて、ガッツは問い返す。
「なんでもないわよ!」
ルイズはふん! とガッツから顔を背けた。
「なによルイズのやつダーリンといちゃいちゃして!」
キュルケはルイズへの嫉妬を隠そうともせずぎりぎりと親指の爪を噛んだ。
はっ、としてタバサの方を振り返る。タバサはいつも通り、我関せずと本を読んでいた。
(恋…ってわけじゃないのかしら? わからないわ……)
ふむぅ、とキュルケは首を傾げた。
カツン、カツンと廊下に足音が響く。その音は、歩く者の心情を表す様に荒い。
足音の主はワルドだった。ぎりっ、と歯を噛み締めたその表情には、怒り、苛立ち、悔しさ、様々な感情がない交ぜになっている。
(相打ちなどでは――――ない!!)
もしガッツの剣が振り切られていたとしたら、無様に地に転がっていたのは自分だった。
完全に! 先手を取ったにもかかわらず! 身体に到達したのはガッツの剣の方が先だったのだ!!
―――それも、あの馬鹿げた鉄の塊で!!
『閃光』の名を持つワルドにとって、これほどの屈辱はなかった。
しかし、決してワルドが遅かったわけではない。その証拠に、この決闘の正しい結末を知るのは当事者であるワルドとガッツだけだ。周囲で遠巻きに見守っていた者たちには認識しえぬ、刹那の差だったのだ。
ワルドは己の左肩に手を触れた。先程までほんの間近にあった鉄塊を思い出すとぞっとするが、その肩には傷一つない。
その事実がさらにワルドを戦慄させた。
あれだけ巨大な鉄塊を、自身の剣速を上回る速度で振り回しながら、それでいてなおピタリと寸止めして見せたのだ。
どれ程の『力』があればそんな芸当が可能になるのか。余りにも人間離れしすぎている。
「さすがは伝説の使い魔……といったところか。ガンダールヴ…一筋縄ではいかないな」
少し落ち着いたのか、先程よりは幾分穏やかな足取りで歩きながら、ワルドはぽつりと呟いた。
さて、決闘騒ぎも一段落した夜。ギーシュは『女神の杵』亭一階の酒場で昨夜と同じく頭を抱えていた。
テーブルを挟んだ向かい側にはメリッサが申し訳なさそうに座っていて、その隣にはルイズが座っている。キュルケとタバサは別のテーブルで酒を飲み、大いに盛り上がっていた。
といっても、相変わらずタバサは本を読んでいて、キュルケがお構い無しに喋っているだけなのだが。
「もう! どうしてダーリンは私に振り向いてくれないのかしら!! ねえ、タバサ、私に足りないものって何!?」
「慎み」
「ちょっと! もう少し静かにしなさいよ!!」
ルイズがキュルケ達の方を向いて怒鳴った。
「まったく…」と呟くと、再びテーブルに向き直る。
「それで話の続きだけど……」
メリッサの話を整理するとこうだ。
メリッサ――本名メリッサ・ヴァルカモニカ――はアルビオンの貴族であり、父の昔からの友人であるというジュール・ド・モット伯爵を頼って亡命してきたのだという。
その道中、あの『鉄屑』のグリズネフ達に襲われてしまった。
それをルイズ達が救出したという形なのだが―――これからメリッサをどうするか、それでルイズ達は頭を悩ませている。
「あの盗賊共から私を救っていただいただけで十分です。これ以上御迷惑をおかけするわけにはまいりません。どうぞ私のことはお気になさらずにアルビオンへ渡って下さい」
メリッサはそう言うが、それが出来ないからギーシュは机に突っ伏して頭を抱えているのだ。
何しろ、一切合財を強奪されてしまったので、メリッサは今一文無しだ。仮に路銀を貸し与えたとしても、メリッサ一人では危険すぎる。
トリステイン魔法学院からここラ・ロシェールに来るまでの約一日の間に、二度も盗賊に襲われたのだ。今、トリステイン周辺の治安は非常に悪くなっているのだろう。
そんな中をメリッサ一人で行かせるわけにはいかない。『これ以上』彼女に辛い思いをさせるわけにはいかなかった。
「ぐぬぅ……」
奇妙な呻き声を上げてギーシュは頭を抱えている。ギーシュの頭の中で、アンリエッタの笑顔とメリッサの泣き顔が天秤にかけられ揺れていた。
姫殿下から賜った重大な任務か、目の前で困っている一人の少女か。
ギーシュはだらだらと脂汗をかいた。メリッサはただただ申し訳なさそうに肩をすくめている。
だが、答えを出す必要は無くなった。
「伏せて!」
鋭いタバサの叫びと共に、無数の矢が窓から飛来してきたからだ。
キュルケは咄嗟にテーブルを倒して盾にした。それに倣ってギーシュもテーブルを倒す。飛来した矢がタバサの魔法で巻き上げられた。
「何事だ!!」
二階からワルドが降りてきた。直後にパックを肩に乗せたガッツも姿を見せる。
「見ての通りよ! 襲撃されてるわ!!」
姿勢を低くしてテーブルに隠れながらルイズは叫んだ。ワルドがそんなルイズの元に駆け寄り、テーブルの隙間から外を伺う。玄関から傭兵たちが突入してくるのが見えた。
ちらほらといた他の客は一目散に店の奥へと駆け出し、店の主人は傭兵たちに何か喚いていたがその喉に矢を受け沈黙した。
「参ったな」
ワルドが杖を振り、魔法で傭兵達を攻撃しながら呟いた。
「数が多いわ! 何人いるのか分からない!! このままじゃジリ貧よ!!」
ルイズもまた杖を振りながら叫んだ。唱えている呪文は『ファイヤー・ボール』。もちろん炎球は発生せず、ただ爆発が巻き起こる。だが狭い店内に次々と傭兵たちが押し入ってくる今の状況では十分に効果的だった。
だが一向に傭兵の数が減る気配がない。確かにジリ貧だった。
「諸君……」
ワルドが皆に呼びかける。その声を遮るようにガッツがテーブルの前に躍り出た。
「馬ッ…!!」
思わずルイズは叫んでいた。その目の前で、ガッツに向かって矢が飛来する。
「うわわわ!!」
ガッツの肩にいたパックは「わたたた!」とガッツの腰元の鞄に逃げ込んだ。ガッツは身体を半身にし、ドラゴンころしを盾にすることで矢を防ぎきる。
ドラゴンころしに阻まれた矢がぽろぽろと落ちた。その様子をそこにいる全員が、襲ってきた傭兵たちでさえも唖然と見つめている。
その一瞬の隙をつき、ガッツはドラゴンころしを振るった。ドゴン!! と激しい音を立て、甲冑を着込んだ傭兵三人が同時に身体を分かたれ、吹き飛ぶ。
ギーシュは、その様子を声も無く見つめていた。杖を振ることも忘れ、余りにも荒々しく、美しくすらあるガッツの姿にただ見入る。
「こんな奴らを相手にしていてもしょうがない!! 裏口から出るんだ!!」
ワルドの声でギーシュは我に返る。タバサの指がタバサ自身とキュルケ、それからギーシュを指差した。
「私たちが囮になる」
「感謝する」
ワルドは頷き、礼を言うとルイズとガッツに声をかけ、裏口に向かった。
ギーシュは遠ざかるガッツの背中を、見えなくなるまで見つめていた。
「こら、ギーシュ! ぼけっとしないでよ!!」
そんなギーシュにキュルケが声を荒げる。ギーシュはぐっ、と唇を引き結び、傭兵達に向き直った。
ワルドの先導の元、ルイズとガッツはラ・ロシェールの町を駆ける。
階段を駆け上がり、上へ、上へ。気付けばラ・ロシェールの町を一望できる程の高さまで上がってきていた。
「な……!」
階段を上り切り、丘の上に出たところで、そこに現れた光景にガッツは思わず声を漏らした。
目の前に巨大な樹が聳え立っていた。大きさが山ほどもある巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしている。
その枝から吊り下がっているもの――目を凝らしてみれば、信じられぬことにそれは船だった。
「ふわぁ~、なんだこれ!!」
ガッツの鞄から顔を出して、パックも感嘆の声を上げる。
ワルドはその樹の幹に向かって駆け出した。ルイズも迷うことなくついて行く。どうやらこの巨大な樹が目的地のようだった。
ガッツも駆け出そうとした時、急に前を行くワルドが足を止めた。
何事かと前方に目を向けると、人影がある。
その人物はガッツと似たような黒いマントを纏っていた。マントの隙間から、さらに黒い杖が顔を覗かせている。
「何者だ」
ワルドの問いに、男は答えない。
男の顔を覆う白い仮面が、一つに重なった双月の光を反射した。
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