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#navi(ゲーッ!熊の爪の使い魔)
第七話 ヘルズ・ベアー
その日の昼、コルベールはオールド・オスマンにベルモンドについての発見を報告するため学院長室を訪れていた。
そして報告する。現れたルーンは特別であり、古文書によるとそれが伝説のルーンであると。
「見てください、ベルモンド君のルーンはあのガンダールヴのものなのです!
素晴らしい、あんなに愛らしいだけでなく伝説の使い魔でもあるなんて!
このコルベール、この魔法学院で教師をしてきたかいがありました」
「まあ、少し落ち着きたまえ。それで間違いはないんじゃな」
「はい、ベルモンド君にいい加減なことを伝えるわけにはいきませんからね、
何度も確認しました」
それを聞いてオスマンは思案する。もし本当ならいったいどう扱うものやら。
そのときドアがノックされ、オスマンの秘書ミス・ロングビルがやってきた。
なんでも決闘をしようとしている生徒がいるらしい。そのうちの一人はギーシュ、
そしてもう一人は今話に上がっていたベルモンド。
それを聞くとコルベールは飛び上がりオスマンに向かってまくし立てた。
「お願いです、今すぐ眠りの鐘の使用を!
ああ、決闘などと、ベルモンド君が殺されてしまう!
躊躇している場合ではありませんぞ、早く眠りの鐘を。
いやそれでは生ぬるい、いっそギーシュ君には実力行使で」
「……さっき自分で言ったことを忘れたのかの?
伝説のガンダールヴじゃなかったのかの、あの使い魔は」
「だってクマちゃんなんですよ!!あんなかわいいクマちゃんが戦うなんて。
ああ、ベルモンド君……」
「いいから落ち着きなさい」
オスマンはロングビルを下がらせるとヒートアップするコルベールをなだめながら、
杖を振ると鏡に広場の様子を映し出した。
ベルモンドがヴェストリの広場に到着すると、そこにはすでに大勢の生徒がギャラリーとしてたむろしていた。
そしてその中心にいるギーシュがベルモンドを見ると口を開く。
「やあ、逃げ出さずによく来たね。ボロ屑になる覚悟はできているようだな。
じゃあ始めよう。諸君、けっと」
「さあ!ついにこのヴェストリの広場に両雄が揃いました。
いよいよ決闘が始まります!
立ちはだかるのはドットクラス、土のメイジ、
「青銅」のギーシュ・ド・グラモンーー!!
対するはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、
「かわいいクマちゃん(チャーミング・ベアー)」ベルモンドォー!」
「実況」の二つ名をもつ生徒が皆に渡る声を響かせる。
なお、彼の使い魔はすでに彼とは反対側に位置し、「実況」本人が見聞きできない位置をカバーすべく待機している。
「……まあいい、そういうことだ。始めさせてもらうよ」
口上を途中で邪魔をされて憮然としながらもギーシュは早速行動を開始する。
ギーシュが薔薇の花を振ると花びらが一枚宙に舞い、 甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れる。
「先ほど言われたように僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
ギーシュはこれを見てあのふざけたクマ公も震え上がるだろうと考えていた。
だが、ベルモンドの行動はそんな彼の想像を超えたものだった。
「わあーい、お人形さんだー。なーんだ、決闘なんて言うから何やるのかなって思ったけどお人形遊びしてくれるんだ。
遊ぼ、遊ぼ」
そう言って手を差し出してワルキューレに近づいていく。
「ふざけるな、行け!」
それを見てギーシュは怒りとともにワルキューレを突進させていく。
「うわっと」
さすがに無防備にそれを受けはせずベルモンドは突き出された拳をよけようと身をひねる。
その結果、
ガシャーーン!
「あーっと、ベルモンドとワルキューレ、もつれ合ってともに地面に倒れたてしまった!
が、単に倒れただけなのだろう、ベルモンドはすぐに起き上がる。
しかしワルキューレも起き上がろうとするがうまく立ち上がれずまた倒れてしまった。
「なんだ、どうしたんだ!?」
「おい、何やってんだよ!」
「お、おい、見ろよ、足のところを」
ギーシュやギャラリーが混乱する中一人の生徒が異常に気付く。
すかさずそれを「実況」が続ける。
「なんと!ワルキューレの足が歪んでしまっている!!
先ほどの転倒で変にひねってしまったのかーー!?」
「なんだよ、手抜きなんじゃないのか?」
「おいギーシュ、ろくにきちんとした錬金もできないのかよ!」
それを聞いた周りから馬鹿にした声が上がる。
「う、うるさい、これならどうだ!!」
ギーシュはそう言うと、立ち上がれないワルキューレをおいて、新たに二体ワルキューレを呼び出しベルモンドへと向かわせる。
「うわーい、今度は二人だー」
しかしベルモンドはまたしてもてってっと近づいてゆく。
そんなベルモンドにワルキューレが拳を突き出すが、それはむなしく宙を切った。
「おおっ、ベルモンド、巧みに二体の間をすり抜けたあっ!」
そして背後に回ったベルモンドは二体の腰にそれぞれ手を回すと、
「楽しーなー、楽しーなー」
スキップしながら二体と一緒にくるくると回り始めた。
「きゃー、かわいーー!」
そんな、クマと青銅の人形が戯れるようにしか見えない図に女生徒から黄色い声が上がる。
しかしギーシュにとっては馬鹿にされているようなものであり、離れようとワルキューレの足を動かす。
だが、それが地面を蹴ることはなかった。
「ああーーっ、いったいどこにそんな力があるのか、ベルモンドに抱えられたワルキューレが宙に浮いているーー」
なんと、ワルキューレは二体ともべとモンドに回されながら持ち上げられていた。
ワルキューレは腕を動かしベルモンドを振りほどこうとするが、
「おっと、いけない」
そのせいでバランスを崩したのか、ベルモンドが転んでしまい、
ドガアァッ!!
「あーーっと、体勢を崩したベルモンドから二体のワルキューレ、
投げっぱなしジャーマン気味に投げ飛ばされ頭から地面に叩きつけられたーー!!」
その二体のワルキューレは、金属製の体からくる体重を受けたことにより、頭部が完全にひしゃげてしまっていた。
無論、もう起き上れはしなかった。
「あれー?お人形さん、動かなくなっちゃったー」
そんな様子を見てベルモンドは残念そうな声を上げる。
「おい、見た目だけじゃなく作りにも凝れよ」
「真面目にやれよ、ギーシュ!」
再び男子生徒から囃し立てる声が起こる。
が、彼らとも黄色い声を上げる女生徒とも違う者たちもいた。
「珍しいわねえ、タバサがこんなのに興味を持つなんて、やっぱりあのクマちゃんがかわいい?」
「確かにかわいいけどそういうわけではない、でもあの使い魔には興味がある」
「なによ、もって回った言い回しねえ。
でもギーシュも情けないわねえ、あんな倒れただけでダメになるようなゴーレムしか出せないなんて」
「倒れただけ、そう見えた?」
「見えたもなにも実際そうじゃない。転んで足ひねったりクマごと倒れて頭打ったり」
キュルケが見たままの感想を述べる。しかしそれに対してタバサは、
「違う、最初はあのベルモンドが倒れるときにワルキューレの足をつかんで
しっかりとアンクルホールドに固めていた。
次の二体も投げ飛ばされるまで見事なジャーマンスープレックスのブリッジを描いている。
倒れた拍子にもつれたとか転んだ際に投げ出されたとかではない」
「えー、ちょっと待って。その前にアンクルホールドとか「実況」も言ってたけど
ジャーマンなんとかってなに?」
「プロレス技の一種」
プロレス、そういえばキュルケも聞いたことがあった。
確か平民の中で現在はやっている格闘のスポーツだったか。
でも、それは、
「プロレス、あれって見せもののショーなんじゃないの?そんな物の技が本当に効くの?」
だがタバサはすかさず反論する。
「確かに基本的には見せもの。でも技の威力は種類によっては本物。
むしろ本気で技をかけると危険だからこそ真剣勝負ではなく
筋書きに沿ったショーとして見せているという部分もある」
祖国ガリアでの立場上危険な任務にたびたび駆り出されるタバサは単純な魔法の知識、技術だけでなく
他の戦闘技術にももしもの対策のため一応の知識を持つようにしている。
それゆえプロレス技の危険性についても分かっていた。
「ええっと、じゃあワルキューレが壊れたのは
ギーシュの作りが悪いからでも打ち所が悪かったわけでもなくて
あのクマちゃんがそのプロレス技ってのを掛けたからって言うこと?」
「そう、あの使い魔は明らかな確信を持って技をかけている。
見た目通りのかわいいクマちゃんではない」
「くそっ、もうお遊びは終わりだ!」
そんな中、ギーシュはそう叫ぶと今度は今出せる限界である
4体のワルキューレを一度に呼び出した。
しかも今度は素手ではなくそれぞれ剣、槍、斧、ハンマーを手にしている。
「ボロ屑にしてやれっ!」
そう言うと一斉に突撃させていく。
四つの武器による一斉攻撃、先ほどのようなくぐれる様なスペースもなく、
今度こそベルモンドを捉えられると思われたそれもやはり宙を切った。
「なんだあーー!ベルモンドが消えたーー!?
い、いや違う、ボールだ、ワルキューレに交じって茶色いボールのようなものが見えるっ!
なんとベルモンド、自分の身をボール状に小さく丸めて一斉攻撃をかわしていたーー!」
「くうーん」
「くそっ!」
ギーシュも手を休めずさらに攻撃を繰り返していく。
だが、ベルモンドはボール状に丸まったままころころと転がり、
ぽんぽんと跳ねて迫りくる攻撃をかいくぐっていく。
「かわいー、クマちゃーん頑張ってー!」
そんな光景にまたしてもベルモンドへ黄色い声が上がり、
「ちゃんとやれよ下手くそー!」
ギーシュを囃すが上がる。
ギーシュはさらに激しく攻撃を行うが逆に冷静さを欠いた結果、
ガスガシャァァッ!!
ベルモンドを攻撃しようとしてかわされ、勢い余って後ろのワルキューレを攻撃してしまった。
「これは痛い!斧を持ったワルキューレ、
他の三体の攻撃を受けてぐしゃぐしゃになってしまったーー!」
「なんだよ、ギーシュ、ばっかじゃねーの!」
「ぎゃはははは」
もはやギーシュへの声は嘲笑へと変わっていた。
ギーシュは唇を噛みしめ倒れたワルキューレを見つめる。
かろうじて人型を留めているだけのぼろぼろのワルキューレ、
これが逆にこちらの攻撃力を証明してもいたがどうしても当たらない。
もっと広く攻撃できるような方法があれば。
土の属性の魔法なら、石つぶてを飛ばすというものがあり、それなら条件を満たしている。
しかし、自分の得意とするのはワルキューレの錬金だ。
それを7体全部出し、しかも先ほど激しい攻撃を行ったため
かなり精神力を食ってしまっている。
この状態で、広範囲に十分な威力で石つぶてを飛ばせる自信はギーシュにはなかった。
くそっ、何か方法は。
その時ギーシュに閃きが舞い降りた。
飛ばすものならあるじゃないか。
「おい、こっちを見ろクマ公!!」
「くうーん?」
ギーシュは剣と槍をもつワルキューレに武器を捨てさせると、
先ほど同志討ちでボロボロになったワルキューレを両脇から抱えあげる。
「青銅の力を見せてやるっ!!」
そして、最後のハンマーを持ったワルキューレがハンマーを大きく振りかぶり、背後から叩きつけた。
ドガァッ!
すでにボロボロになっていたワルキューレはこの一撃でばらばらに砕け散り、
正面のベルモンドへと飛び散っていた。
ガスガスガスガスッ!!
「うわーー!」
多少時が戻るがそのころルイズとシエスタはまだ食堂にいた。
決闘に向かうと告げるベルモンドの、これまで見せたことのない迫力に気圧されてしまっていたのだ。
そして、出遅れてタイミングを逃すと一層足が重くなってゆく。
どうしよう、自分のせいで。
行ってどうなる、もうベルモンドはやられてしまっているのではないか。
いやな想像が頭に次々と浮かび、今向かえばそれを現実に
目の当たりにしてしまうのではないのかという恐怖が足を留めてしまっていた。
しかし、真の貴族は立派な行いをするから偉いんだ、
そのベルモンドの言葉がルイズを奮い立たせる。
そうだ、私もそれを目指していたじゃない。
魔法が使えなくても、貴族として立派であろうって。
こんなことをしている場合じゃない。
「行かなきゃ、ほら、あなたも行くわよ。
私たちのために戦ってくれてるベルもん簿をほおっておくつもり?」
「そ、そんなことしません、待っててくださいベルモンドさん」
そうしてシエスタにも声をかけ二人は広場へと向かった。
しかしそこで二人が見たものは、
全身穴だらけになって立ちすくむベルモンドだった。
「そ、そんな、ベルモンド……」
「い、いやーー!」
そんな二人に何があったかを教えるように「実況」からの声が上がる。
「なんと、ギーシュ!傷ついたワルキューレを打ちすえ、破片として飛散させたーー!
これはまさに、青銅の散弾だーーー!!
これは効いたか!?ベルモンド、微動だにしないー!」
「はははははっ!貴族であるこの僕にたてつくからこうなるんだ、この畜生め!」
そう、高笑いを上げるギーシュに対して、ルイズとシエスタ以外の女生徒からも非難の声が上がる。
「ひどい、なんてことするの!」
「死なないで、クマちゃん!」
一方キュルケ達は、
「あーらら、結局やられちゃってるじゃない。
ドットのギーシュにも負けるんじゃあ、
あのクマちゃんが強いなんてのはやっぱりタバサの思い過ごしだったわね」
「だと、いいのだけれど」
だが、タバサにはまだこれで終わりだとは思えなかった。
これまで死地をくぐった経験が告げている。
あのクマちゃんの中にはまだ何かがあると。
そんなタバサの内心を知る由もなくギーシュは続ける。
「所詮は低能なケダモノにすぎなかったようだね、
ああ、まさに「ゼロ」のルイズの使い魔にふさわしいよ」
「……!」
自分の口上に酔っていたギーシュは気がつかなかった。
このとき、ベルモンドの目に力がこもったことを。
「やめなさい、これ以上私の使い魔を侮辱することは許さないわ!」
そんな中、ルイズは自分の使い魔を救おうと声をかける。
「ああ、無能なご主人様のお出ましかい?
だが悪いね、これはこのクマ野郎も認めた決闘だ。
例え主人であっても口出しはできないよ。
そこでこのクマ公が布と綿のボロ屑になるところを見ていたまえ、
行け!とどめだワルキューレ!」
そう言ってハンマーを持ったワルキューレが一撃を加えようと前に出てハンマーを振りかぶる。
「やめてーー!」
ルイズの悲鳴が響き渡る。
が、その時、
「グギャワアーン!」
突如ベルモンドが叫びをあげワルキューレに飛びかかった。
しかも足の筋肉は隆起し、着ぐるみの上からでも足の形がはっきり分かるほどに肥大していた。
バギャ!
そしれそのままワルキューレを蹴り飛ばす。
そのままワルキューレは10メイルは吹っ飛んで行った。
「ああーーっ!ベルモンド、突如生気が戻りワルキューレにドロップキックを叩き込んだー!!
なんという威力だ!青銅製のワルキューレがまるでおもちゃの人形であるかのように軽々しく吹っ飛んでいくー!!」
もちろんこれだけでは終わらなかった。
「グギャワアーン!」
ベルモンドは残る二体のワルキューレのもとへも向かっていく。
その二体は先ほどボロボロになったワルキューレを抱えるため武器を置いてしまっていたため、
拳での攻撃を繰り出すがあっさりかわされると一体が懐に潜り込まれる。
ガスッ!
そして腹部へのひざ蹴りを食らって片膝をついた所に、
ドガアアァッ!
その膝を踏み台にして飛び上がったベルモンドからの強烈な飛び膝蹴りが頭部に叩き込まれた。
「おおーっ、これはすごい、膝をつかせたところへ流れるようにシャイニングウィザード
(相手の膝などを踏み台に飛び膝蹴りを仕掛ける技)
が叩き込まれたー!!」
これは先ほどのドロップキックと違い斜め上からの攻撃であったためそこまで吹っ飛びはしなかったが、
それでもワルキューレは2-3メイルは地面を転がって行った。
ゴスゥッ!
さらに残る一体へと襲いかかるとラリアットを叩き込む。
倒れたところにすかさず両足を取ってわきに抱えるとそのまま自分を軸に振り回した。
ミスミスミスミス……
そして勢いが付いてくると、何とそのまま上へと向かって投げ上げた。
「うわあーー!!これは信じられない!!
ラリアットで倒したワルキューレをジャイアントスイングにとらえたかと思うと、
なんと横ではなくて上に!投げ飛ばしたぁーーー!!!」
「う、うあわああぁー!」
次々と、もはやだれの目にもわかるような力でワルキューレを倒されたギーシュは恐慌状態になり、
自分を守らせようと先ほどシャイニングウィザードを受け倒れたワルキューレを立ち上がらせた。
が、その瞬間ベルモンドが正面から組みついてベアー・ハッグで締め付ける。
「くそっ、振りほどけ、ワルキューレ!」
ギーシュはそう命令を与えるが、そのかいもなく、
ミシミシミシミシッ!!
「うわああぁぁー!!なんということだ!
ベルモンド、ベアー・ハッグで青銅製のワルキューレを腕だけでなくボディまでもへし折っていくーー!!!」
「ゴギャアアアアアァァァーーーーッ!」
一体どれだけのパワーが必要なのか、
投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりというように勢いをつけるわけでもなく密着状態から締め上げているだけで、
ワルキューレの体は軋み、歪み、ねじ曲がっていった。
「ね、ねえ、クマちゃんが元気だったのはいいけど、なんだか変じゃない?」
「う、うん。私も思う、何だか怖いような……」
そんな様子にベルモンドに黄色い声をあげていた女生徒たちも違和感を感じ始める。
が、そんなものは無視して、
「うおおーーっ、いくぜーー!」
そう、アグレッシブな声を上げると、ワルキューレをベアー・ハッグに捉えたまま、
「ゴギャア!」
上空へと飛びあがった。
さらにその上からは先ほど投げ飛ばされたワルキューレが頭を下に落下してくる。
そして、
「ロンリー・テディー・クラッシャーーー!!!」
ガッグゴオオォォンン!!!!
「あああぁーーっ!こ、これはなんという凄まじい大技!!
投げ上げられ落下してくるワルキューレとベアー・ハッグに捉えて上昇させたワルキューレの頭部同士を
空中で激突させたーー!!
これはもはや「かわいいクマちゃん(チャーミング・ベアー)」などではない、
これはまさしく、「地獄のクマ(ヘルズ・ベアー)」だあぁぁーーーっっ!!!」
そのまま、完全に破壊された二体のワルキューレはギーシュの手前に落下し、
先ほど投げっぱなしジャーマンで倒された二体に折り重なるように倒れた。
「ゴギャ」
そしてベルモンドもその後ろに降り立つと、
ドバドバドバ!
突如体から何かを放出した。
「うわっなんだ!?」
それは一部観客にまで降り注ぎ混乱を呼んだが、
タバサはそれと風で防ぐとキュルケと二人で飛んできたものを見つめた。
「青銅の破片」
「それにこっちの木片ってルイズが授業で吹っ飛ばした机とかの破片?
じゃあ、あのクマちゃんはルイズの起こした爆発で吹っ飛んだ破片も
ギーシュがハンマーで飛ばした青銅の散弾も体に通さなかったて言うこと!?」
「そうなる、恐るべき頑強な肉体」
この事実を前にタバサの声にも珍しく感情がこもる。
しかしそんな考察などしている余裕のない者がいた。
ギーシュである。
この間に、さきほどドロップキックで遠くへ吹っ飛んだワルキューレをようやく自分のもとへ戻すことはできていたが、
たかが一体ではこのクマを相手に何の役にも立たないことはもはや明らかだった。
そんな彼を睨みつけるベルモンド。
「ゆ、許してくれ、僕の負けだ!」
半ば無意識にギーシュはそう言っていた。
「ほんと?」
「あ、ああ。約束通りキチンと謝りもする」
「そう、じゃあみんなに謝りに行こう」
そう言うとベルモンドの目も穏やかになりギーシュのもとに近づいていく。
確かにこの降参にうそ偽りはなかった。ギーシュの理性はこの実力差に間違いなく敗北を認めていた。
しかし感情はそうではなかった。
ゼロのルイズの使い魔のクマ公ごときに負けを認めることを受け入れられずにいた。
そしてその想いが、折り重なって倒れる4体のワルキューレをベルモンドがまたごうとしたときにある閃きを与えたのだった。
「そ、そうだ、これだ!くらえクマ野郎!!」
そう言うや否やギーシュは残る精神力を振り絞り、ベルモンドの足元のワルキューレを足に絡みつく青銅の塊に変えた。
「ク、クゥーン」
ベルモンドは当然ふりほどこうとするものの、さすがにワルキューレ4体分の重さに完全に足は固定されてしまっていた。
「ははは、どうだクマ公!これが偉大なる魔法の力だ!
メイジであるこの僕にたてついた愚かしさを思い知るんだよぉっ」
ガスゥッ!
そう言うと最後に残ったワルキューレがベルモンドに正面からハンマーを叩きつけた。
「キュウーン」
しかもこれだけでは終わらず、
ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスゥッ!
何度も何度もハンマーを叩き込んでいく。
「あああー!これは残酷!足を固められたベルモンドに対して、
さきほどワルキューレを散弾に変えたハンマーの一撃が、直に! しかも何度も叩き込まれるーー!!」
その一撃一撃はベルモンドの着ぐるみを破り、綿と血しぶきを舞わせていく。
「クゥーンクゥーンクゥーン!」
これにはベルモンドも悲鳴を上げる。
「卑怯よー、ギーシュ!」
「やめてー!クマちゃんを殺さないでー!」
非難の声が上がるも、食堂の時のようにまたしてもそれらは逆にギーシュをヒートアップさせていく。
「うるさい!黙れ!こんなクマ野郎にさっきからキャーキャー言いやがって!
こんなボロ屑の畜生が何だって言うんだ。こんなやつ所詮は血にまみれた布と綿に過ぎないことを教えてやる!」
そう、普段は決して口にしないような言葉を吐くとさらにベルモンドを打ちすえる。
ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!
「いやーー、もうやめてーーー!!」
その惨状にルイズはひときわ大きな声を上げる。
それすらも無視して打ち続けるギーシュにベルモンドの弱弱しい声が掛けられた。
「ね、ねえ、さっき自分の負けだって……みんなに謝るっていたのはウソだったの……?」
「はははっ、そんなの当たり前だろう。
どうしてこんな畜生ごときに約束など守らなければいけないんだい!」
「ど、どうしても謝ってくれない……?」
「まだ言うのかい?そんなの当たり前だろうがーー!」
そう言ってワルキューレはひときわ大きくハンマーを振りかぶる。
「………………そうか、もういい」
ザグ!
だが、次の瞬間、ベルモンドの胴体を突き破って回転する漆黒の何かが飛び出した。
そして、
ギュガガガガガガガ!
それはそのままワルキューレの胴体をえぐり飛ばすとギーシュの目の前に着地した。
そこには、左手の甲に4本の鋭い爪をもち、表情のない仮面をつけた、
鍛えこまれ抜いた肉体をもつ漆黒の戦士が降り立っていた。
この出来事を前に誰一人として声を上げられるものはいなかった。
ギャラリーも「実況」もシエスタもギーシュもルイズでさえも。
その静寂の中、
コーホーー
彼の呼吸音だけが広場に響いていた。
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