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#navi(Louise and Little Familiar’s Order)
カフェテラスでの一件から数日の間は殆んど何事も無く時間が流れていった。
ミーはたまに泣き言を言いながらだが与えられた仕事をこなすようになったし、
シエスタと懇意になっているお陰かルイズから指示されていない仕事も自分から進んでやるようになった。
夜になって空に浮かぶ二つの月を見る度に、望郷の念が心に去来し目に涙を湛えてしまうが、優しくしてくれる人は沢山いた。
シエスタは洗濯の仕方を始め、掃除や貴族の人達に対する振る舞い方を教えてくれたし、
マルトーさんや厨房の人達はいつもにこやかにミーを招き入れ、暖かい食事とたわいも無いが楽しい会話を振る舞ってくれる。
隣の部屋にいるキュルケは、仕事がキツくてしょんぼりしている時などに、慰めてくれたり抱き締めてくれたりしてくれる。
おまけに出るべき所は出ているし引っ込むべき所は引っ込んでいる。暖かみもある為か宛ら姉か母親の中にいる様な心地がする。
そしてあの騒ぎ以来ギーシュはとっておきたまえと言ってこっそり菓子の入った包みを渡したり、青銅で出来た小さな玩具をあげたりしている。
因みに何処でそれらの様子を見られたのか定かではないが、ギーシュと同級生のマリコルヌはギーシュがモンモランシーに自室で尋問の末お仕置きを受けるのを密かに見たとの事。
ともあれ、様々な人のお陰でハルケギニアという異世界に来て五日目が終わる頃にはミーは少しはゆっくりした気分になれた。
しかし……自分の主人、ルイズは相変わらずだ。
事が一つ済むと十まで命令し、決められた時間内に終わってないと済んでなかった事の分だけ叱られる。
時間があった際にキュルケの元に引っ込んでいると、ルイズは物凄い形相で二人をひっ剥がし声を震わせてキュルケに怒鳴るだけ怒鳴った後ミーを部屋まで引き摺り戻す。
貰ってちょこちょこ食べていたお菓子等も、見つかった時にルイズはむすっとして不味そうに頬張った後それを砕いて外にいる白鳩に撒いてやった。
無論、それらの最後には必ず鞭のお仕置きが待っていた。
そもそもミーはルイズと初めて会った時から今まで、ルイズの笑った顔という物を一度たりとも見たことがない。
何時も透明感のある冷めた表情か怒った顔しか自分に向けてこない。
ご主人様はどうしたら笑ってくれるのだろう?そう思いながらミーは眠りについた。
この数日ルイズは苛々し通しだった。
今日に至っては昼餐前に我慢出来ない程お腹が痛くなったので医務室に駆け込んで水薬を貰ったぐらいだ。
それもこれも使い魔召喚の儀の時に、今自分の隣にいる使い魔がのこのこ召喚されたせいだ。ドラコンとかグリフォンなんてのは贅沢な望みだとしても、せめて鷲か梟の方がまだマシな気がする。
母親が風系統のメイジである事から尚更希望的観測はあったというものだ。
あの日以来自分の顔からは怒りの感情以外すっかり流れ出てしまったんじゃないかと思う時が度々ある。
本当は優しくしたい、幼いから親代わりになってあげたいという意識が粉微塵も無い訳でもない。
しかしどうにも平民の非力な子供を召喚したという事実が同級生に会った時に起きる嘲笑や授業中の実技失敗時に思い起こされる事、そして山より高い矜持の為か少しも素直になれずにいた。
またルイズには姉が二人居り、年が近い姉からは実家にいる間よくしてもらっていた。
だがそのルイズは年下の者に対してどう上手く接すれば良いのかが分からない。
だからこそシエスタやキュルケ、最近ではギーシュまでもがミーの姉や兄の様な役割をかって出て、尚且つ綺麗にそつ無くそれをこなしている事に反発していた。
しかも当のミーがそれに甘んじているので、ルイズは余計に自分の無力さを内心で密かに嗟嘆する。
私はシエスタみたいに平民がしなきゃいけない事を何一つ教えてあげられないし、
キュルケみたいに豊かな体躯でないから抱いてやっても年上の者が持つ温かみはないだろうし、
ギーシュみたいに魔法を使って何かを造り上げたり生み出したりなんか出来ない。
更には回避したものの、彼に対してはこの間の決闘騒ぎの時、感情的になって家の名前まで出すという失態を犯してしまっている。
考えれば考える程惨めになってきた。
それから暫くベッドの中でルイズは横になってぼんやりしていたが、不意に明日は虚無の曜日だという事を思い出す。
今日も今日とてキュルケと口論してしまったルイズは去り際にこう言われた。
『明日は虚無の曜日だから一日ぐらいあの子を休ませなさいな。なんなら私があの子を城下町まで連れて行ってあげましょうか?』
悔しいが前者は正論だし後者はされたら嫌だ。
ミーの心を少しでも自分に引き寄せるならば、明日は一日中自分の手で彼女を幸せな気分にしなくてはならない。
それが上手く出来るかどうか分からないが、とにかくやってみるより他は無いのだ。
自分の財布の中身と相談しつつ、ルイズは眠りにつくのだった。
Louise&Little Familiar's Order「Brilliant and surprising deals in the market's auction」
翌朝ルイズが目を覚ますと、既に陽は山の稜線から大分高い所にあった。
横を見るとここ数日の疲れが溜まっていたのか、ミーは未だに軽い寝息をたてていた。
いつもなら寝過ごしているのを叩き起こすところだが、駄目に出来ない計画があるので今日の所はぐっと我慢する。
その内にルイズは下着を着け、制服に袖を通す。ミーが目を覚ましたのは丁度マントを羽織っていた時だった。
慌てて跳ね起き寝坊した事を詫びようとしたが、その言葉は途中で遮られる。
「今日は手伝わなくていいわ。それにせっかく虚無の曜日なのにあんたを働かせたら悪いもの。
き、今日は街まで、つ、連れてってあげるから、か、感謝しなさいよね……ほら、行くわよ。」
ルイズはそう言って部屋を出る。置いていかれないようにミーがその後をとことことついて行った。
自分に言い寄ってくる何人もの異性の相手をする事は大変か?と訊かれたら少なくともキュルケは笑うだろう。
とにかく昨日の夜は時間を有効に使いつつ、五人の男の子の御相手をしなければならなかったので仮眠はとったがまだ少々疲れていた。
しかし彼女にとっては鬱陶しい事に、無粋な太陽はいい加減に起きんかい!と言わんばかりに部屋の中を照らし出す。
仕方が無いので衝立を窓の近くに立てようかと気怠い雰囲気を漂わせつつ窓の側に行くと、学院の門から一頭の馬が外へ駆けていくのが見えた。
乗っているのは桃色の髪をした女の子。誰なのかは言わずもがなである。
眠気は一気に吹き飛んだ。キュルケは軽く化粧を済まし衣服を整えて隣にあるルイズの部屋をノックしてみる。
しかし応答は無い。鍵もかかっていた。そこで『アン・ロック』の呪文を使って解錠し中に入ってみる。
案の定中には誰もいなかった。
戸を閉め、キュルケはタバサの部屋に向かった。
扉に手をかけて押してみるが、やはりここも鍵がかかっているらしく開かない。
またもこれを『アン・ロック』で開けてみると、タバサは部屋の隅で何やら恐ろしく難しい本を読んでいる最中だった。
キュルケはタバサに話しかけるが全く反応が無い。そこで本を取りあげてみたがこれでも反応しない。
仕方が無いので肩を掴んでガクガクさせたところ、やっと音を遮る魔法『サイレント』を切って話を聞く姿勢をとってくれた。
しかしタバサはこういう場合一筋縄ではいかない。何事においてもきちんと理由を説明してくれなければ腰を上げないのである。
一分一秒も惜しいのでキュルケは捲し立てる様に言った。
「今日は虚無の曜日だし素敵な本を読むには最高の時間だと私も思うわ。でもタバサ、あのヴァリエールが使い魔を連れて馬で街まで行ったのよ!
私不安なのよ!たくさん人がいて色々止めてくれるここならまだしも、二人っきりで何処かに行くなんて!何か起きかねないわ!何か起きてからじゃ遅いのよ!
それに今から行くんじゃあなたの使い魔じゃないと追いつかないの!お願い助けて!」
するとタバサはこくりと頷き、窓から自分の使い魔である風竜の幼生、シルフィードを口笛で呼び出した。
青い鱗は陽光の照り返しを受けてきらきらと輝き、はためく翼は見る者全てに力強さを与えているようでもある。
タバサとキュルケは窓からシルフィードに乗って街の方へ向かおうとしたが、間の悪い事にある者によってすぐ下から呼び止められた。
「おーい、二人共!ルイズの使い魔を見なかったかね?探しているんだが見当たらないんだ!」
はたしてそれはギーシュであった。キュルケは考える。彼を乗せて行っても支障は無いだろうかと。
まあ、今のところミーと懇意にしているのは貴族の内じゃ自分と彼ぐらいなものだ。
この間の騒ぎの際にも彼女の待遇について色々と話していたのでルイズに会い次第そこそこ良いブレーキ役にはなるだろう。
「あと一人ぐらい乗せられる?タバサ?」
「訳は無い。」
タバサはそう答えてシルフィードを地面に向かって降下するよう指示した。
その様子を見ながら当のギーシュは首を捻って質問した。
「ん?あの子はルイズと一緒にどこかへ行ったのかい?っていうか僕がこれに乗っても良いのかい?」
「乗っていい。」
タバサは短くそう答える。それを聞いたギーシュは二人の後ろに腰をかけた。
役者は揃ったので、シルフィードは翼を振り始める。
「馬一頭。食べちゃだめ。」
タバサがそう告げると、シルフィードは短く鳴いて勢い良く学院の外に飛び出した。
トリステインの城下町、ブルドンネ街の大通りをミーはルイズに手を引かれながら歩いていた。
両端には白石で出来ているこぢんまりとした商店が軒を連ね、様々な物を陳列している。
多種類の草の葉と根、色とりどりで形も大きさもバラバラな石、瓶詰めにされた小動物の肝や目玉に角等があるかと思えば、
新鮮な野菜や果物、凝った装飾が施された家具に、堆く積まれた書物等が置いてあったりもする。
そしてそれらを取り囲むように多くの老若男女が長い石畳の上を歩いている。
ミーにとっては生まれて初めて見る物ばかりなので、もっとじっくり見ていたかったがルイズが早足で歩くので止まる間も無かった。
他人とぶつかりそうになりながら、ミーはやっとのことで質問をする。
「ご主人様。どこに行くんですか?」
「中央広場よ。ここに来るまで今日はただの虚無の曜日じゃないのをすっかり忘れていたわ。
毎年この時期に東方やサハラから色々な物を持って来た商人が開催する大きな競り市があるの。
大抵は取るに足らないつまらない物ばかりだけど、たまに貴族も欲しがるような掘り出し物があるから無視出来ないのよ。
買う物は他にもあるけれど少しくらいなら持ち合わせの余裕があるから、欲しい物があったら競り落としてあげる。」
分からない言葉が半分近くを占めていたが、取り敢えず何か欲しい物を買ってくれるというのでミーは嬉しく感じる。
今まできちんと使い魔としての仕事をやってきた甲斐があるというものである。
暫く雑踏の中を進んでいると円形の開けた場所、中央広場が急に現れた。
その中心には少し高く作られた木製の競り市用即席舞台があった。
その上では商品を乗せるテーブルがあり、横では気取った服装をした男が大声で競り市開始前の口上を述べていた。
「さあさあ、紳士淑女の皆さん!見物するだけの人も寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!
東方で怪物達の猛攻に立ち向かい、サハラでエルフ達との修羅場と死線を潜りまくってきた商人がこのトリステインにやって来た!
彼等がもたらす物はそこらの店に並ぶ様な物とは一癖も二癖も違う。正に!掘り出し物!いやいや、お宝がゴロゴロ!
一生お目にかかる事が無い様な物もあること間違いなしだ!
倹約に努める方々も今日だけは解禁日ですぞ!雨の様にエキュー金貨やスゥ銀貨を我等の元に降らして下さいませ!
さて、盛り上がって来たところで先ずはこの商品から行きましょう!」
ルイズとミーは人だかりの真ん中辺りに場所を取る。
しかしそれだけではミーには何も見えないので、ルイズは思い切って肩車をしてやる事にする。
意外に重いので一瞬ちょっとふらついてしまうが、慣れればどうという事はなかった。
丁度その時、テーブルに一つ目の品物が置かれた。石造りで穴が開いている事から某かの楽器の様である。
司会の男がまたも大声を出して商品の紹介をする。
「商品番号一番。石造りの笛!
趣向も造りもハルケギニアの技術とは一線を画している!音は勿論はっきりしているし、音色も素晴らしい!
おまけに持ち運びにも便利ときた!
さあこの不思議な笛、十エキューから開始だ!始め!」
競り開始の合図と共にあちこちから値をつり上げる声が出される。
ルイズはミーの意見を聞いてみた。
「ミー、あれは欲しい?欲しくない?」
「えーと……欲しくないです。」
「そう。欲しい物が出てきたら言うのよ。」
その後も競りは続き、テーブルの上には奇妙な生物を描いた壁画、てっぺんに水晶の塊が付いた杖、美しいガラス製の記章等が上がった。
中でも人間の頭ぐらいはありそうな大きい紫石英が出てきた時はルイズの方が夢中になったが、
残念なことにそれは別の貴族が千エキュー払って自分の物にしていった。
商品の数はどんどん少なくなり、客もそれと共に減っていく。
そして遂に最後の商品となった。
「さあ、お待たせ致しました!今年の競り最後の商品にしてハイライト!
お子様のプレゼントに困っている方はいらっしゃいますかぁ?可愛いペットの登場でーす!」
その声と共にテーブルに乗せられたのは子熊の入った小さな檻だった。
しかし子熊にしては小さすぎるというのがルイズの第一印象だった。
実家ですぐ上の姉、カトレアが飼っている子熊でも倍くらいはあるものである。
そもそもあれは本当に熊なのかしらと訝しんでいると、頭の上からミーの絶叫が聞こえてきた。
「ご主人様!ミー、あれが欲しいっ!あれが欲しいですっ!」
「分かったわ。取り敢えず私が告げる値段以上に高くならない事を祈りましょ。」
叫ぶからには余程欲しいのだろう。ルイズは財布をギュッと握りしめた。
始まりの値段は最初の品物と同じ十エキュー。それから次第に五エキューずつ値段が上がっていく。
ルイズにとっての問題は百五十エキューを越えるかどうかである。越えれば手出しは出来ない。
ところが値段上昇の打ち止めは意外に早くやって来た。
ルイズと同じくらいの年の少女が八十五エキューの値をつけると、値をつり上げようとする者はいなくなったのである。
「他にいらっしゃいませんか?金髪のお嬢さんが八十五エキューです!もう一声、どなたかいらっしゃいませんか?
いらっしゃらないのならカウントいきます。八十五一回……八十五二回……」
その時、ルイズはすっと手を伸ばし値を告げた。
「九十!」
「はい、九十!有り難うございます!九十五はいませんか?」「百!百よ!」
「はい、百!有り難うございます!百五はいませんか?」
いちいち五エキューずつではいつまで経っても埒が開かない。焦れたルイズは安全圏まで十ずつ一人で上げ始める。
「百十、百二十、百三十、百四十……百五十!!」
「はい、百五十!有り難うございます!さあ、貴族のお嬢さんが百五十をつけましたよ!他に誰かいらっしゃいませんか?
いらっしゃらないのなら子熊はお嬢さん!貴女の物です!それではカウントいきます!
百五十一回……百五十二回……」
ここで誰かの一声があれば目論見はパーになる。緊張しながらもルイズは祈る。
それは頭の上にいるミーも同じだった。
そして一瞬静かになった後、
「百五十三回!おめでとうございます!子熊はお嬢さんの物となりました!
では、前の方へどうぞ!」
「やったあっ!!」
ルイズはミーを地面に下ろした後で手を取り合って喜ぶ。それから二人は晴れ晴れとした気分で舞台上に昇った。
ミーは目を輝かせる程夢中になって檻の中の子熊を見つめる。
子熊の方は始めかなり怯えていたが、次第にミーの近くに体をよせていった。
その様子をほっとした顔で見ていたルイズに、今回競りにかけられた品々を持って来たと思われる行商人が話しかけてきた。見たところ、年は二十代の後半くらい。
背は高くひょろりとしていたが、この競り市に実のある物を持って来るために東方やサハラへ行ったという話は満更嘘ではないらしく、体つきはとてもがっしりしている。
顔も精悍ななりをしており傷も幾つかあったが、逆にそれが格好の良さを引き立てていた。
そしてマントを羽織っていて杖を懐に携帯している事から彼は貴族である事が分かる。
貴族でありながら行商人をやっているだなんて物好きな人もいるものだとルイズは思った。
「お嬢さん。競り落とせて嬉しいとこ悪いんだけど、あの子熊には用心した方が良いぞ……」
「へっ?どうして?」
「あいつはな恐ろしい程知恵が回りやがる。力もそれなりにあるから、とてもじゃねぇけどあんなガキんちょには手懐けられやしないぜ。」
言われてミーの方を見たルイズは首を傾げた。
たった今、係員により檻から出されてミーにじゃれついている子熊はとてもそうには見えない。
するとルイズはミーの右手の甲にある異変が起きているのを認めた。
なんと右手の甲にあるルーンが輝いているのである。
どういう事なのか不思議に思っていると、その光景を見た行商人は、目が飛び出んばかりに見開かせ口をパクパクとさせた。
そんなに驚く事なのだろうかとルイズは思ったが、その理由は行商人から直に語られた。
「こ、こりゃあ、たまげた!お嬢さん!俺と一緒こっちにに来てくれ!」
「ええっ?どうしてよ?」
「訳は後で話す!いいから来るんだ!」
訳も分からぬままルイズはミーを連れて行商人と共に壇の裏に行った。
息も整ったところで行商人は真剣な顔つきでルイズに話しかける。
「いんやぁ、たまげた!あんた、その子に刻まれているのはヴィンダールブのルーンだぞ。」
「ヴィンダールブ?」
「そうだ。聞いたことは無いのかい?伝説の使い魔の印さ。“神の右手 ヴィンダールブ 心優しき神の笛 あらゆる獣を操りて 導きし我を運ぶは地海空”とな。
いやぁ、俺も伝説が書かれてる本は今までたんと読んだが、生ける伝説にあったのは初めてだよ!」
伝説の使い魔?こんな平民の子供が?この行商人はこっちを担ごうとしているのではないか?
ルーンだって今は光を失い元の通りになっている。
行商人はルイズの感情など露知らず勿体をつけて話し出した。
「しかしな、お嬢さん。この子の事を考えるのなら、あまりこのルーンの事は公にしない方が良い。
君の使い魔が王政府や軍の戦争道具になるか、アカデミーで実験材料としてずんばらりになってもいいというなら話は別だがね。
強い力ってのは人を幸せにもするがその逆を引き起こす事もままあるからな。
おっ、そうだ。忘れるところだった。」
そう言って彼は荷物袋をごそごそと漁り、薄手の長剣を一本取り出した。
ただ見かけはボロボロで刀身には錆が浮いており、お世辞にも名刀とは言えない代物だ。使えるかどうかも怪しい。
だが行商人はニコニコしてルイズにそれを差し出して言った。
「こいつは旅の途中で拾ったんだが、なかなかに良い話し相手になってくれたんだ。
生ける伝説を見せてくれた礼だ。特別にタダでこれをやるよ!」
「ねえ、これ何?こんなのタダで貰っても嬉しくないんだけど。」
「そいつはインテリジェンスソードのデルフリンガーってんだ。今は鞘に収めているから喋りはしねえが必要な時に抜いてみな。
きっとお嬢さんの役に立つと思うぜ。」
ルイズとミーは行商人と別れ、再び大通りを歩き始める。
ミーはルイズの隣を子熊の手を握りながら上機嫌に歩いている。
だが当のルイズの頭の中では先程行商人に言われた事がぐるぐる回っていた。
本当にこの子は伝説の使い魔なのだろうか?
それが本当だと仮定すれば、何故こんな少女がそんな大それた役を引き当てたのだろうか?
更に言えば魔法の才能なんて無いと思っていた自分が、いつからそんな使い魔を使役するに値する存在になったのか。
謎が謎を呼ぶこの状況で謎一つを解こうにも、まともな論証が何一つ無いのでどうにも仕様が無い。
まあ今あれこれ悩むよりは資料の充実している学院に戻ってから考え直した方が得策というものである。
先生方が何か知っているという可能性も否定出来ない。
そんな事を思っているとミーが「お腹が空いた」と言ったので近くにある喫茶店に足を運んでみる。
しかし……喫茶店には思わぬ先客がいた。
「ハーイ、ルイズ。こんな所で会うなんて奇遇ね。こっちに来なさいよ。」
「…………」
「や、ルイズ。最初に言っておくけど僕にとって用があるのは使い魔の彼女だからね。君にはこの間の事があるからね。さ、使い魔君、こっちにおいでー。」
神、いや空気が死んだ。
そう思っているのはルイズだけかもしれなかったが、とにかく空気は死んだのだ。
しかも彼女にとってよく見知った三人によって。
ルイズの心の中にあった幸福感も何もかもが一斉にガラガラと音を立てて崩れていく。
せっかくの虚無の曜日なのに。
ルイズは俯き加減に三人とは違うテーブルに座る。
直ぐ後で給仕の持って来たお茶は、何時も学院で飲んでいる物とは違いほんの少ししょっぱい味がした。
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