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#navi(ゼロの工作員)
潰れた賭博場の隣に武器屋はあった。
店内は明るく開けている。
貴族向けの武器であろう、ごてごてと宝石が誂えられた剣や金の装飾が入った銃が目に付き、
見栄えの悪い無骨な銃やナイフは角に追いやられている。
置いてある銃もフリントロック式のライフルや、シリンダーの中に直接銃弾を埋め込む種類の
打ち切り型のリボルバーが並んでおり、当然薬莢を使った銃や遅延近接信管式の弾は売っていない。
武器屋よりも骨董品店が相応しいとフリーダは思う。
手首に隠してある銃の入ったホルスターを触る。
補給は受けられないから大事に使わなければいけない。
「貴族様とは珍しい。隣のお嬢さんは護衛の方ですかい?」
ルイズが扉を開けると中で暇そうにしていた店主が跳ね起き、
にやにやと揉み手をしながら高そうな商品を勧める。
「護衛の方の体格に合わせたものでしたらこれが一番でさあ」
鞘に金銀宝石の埋め込まれた鞘の付いたレイピアを店の奥から出す。
なるほど、店主の勧めは理にかなっている。
魔法使いを相手にした場合、呪文を唱えられる前に殺るのが理想。先手必勝だ。
レイピアなら護衛の際、鞘から抜くのが楽であるし軽くてフリーダにも使いやすい。
いくら破壊力が大きいからといって、対物ライフルを持ち歩く馬鹿者はいない。
自分の体重より重い武器を自在に振り回せるのは漫画の中だけだ。
身の丈にあった武器こそ必要だろう。
「ルイズ、どんな武器買うの?」
「貧弱そうな武器ね。簡単に壊れちゃうんじゃないかしら、これはどう?」
「素敵な剣よね」
ルイズが壁に立てかけられた巨大な西洋剣を指す。
130cm超、宝石が散りばめられた、分厚い刀身の両刃の剣だ。
何らかの技術でコーティングされているのか顔が写りそうなほど刀身が輝いていた。
キュルケは光物に目を晦ませ、カウンターに乗り出し店主に色仕掛けをかけ
タバサは冷ややかにその姿を見ている。
「いえ、これは少し大きすぎね」
「そう?」
物語の騎士は煌びやかな鎧に身を包み大剣を軽々と振り回し、竜さえ倒す。
このお嬢様は私を御伽噺と勘違いしてるんじゃないかしら。
「ところでこの辺りは治安が悪いのかしら。さっきは掏られそうになったわ」
「昔は良かったんですがねぇ。不景気で」
ルイズ達に気付かれないようそれとなく追い払ったスリの中に杖を使った奴が居た。
平民の何倍も働ける便利な魔法が使えるのに、
身を堕とした彼が昼の大通りのど真ん中でスリを働く、景気は深刻なのかもしれない。
「武器を使うのに携帯許可証はいるの?杖振ってきたスリが居たから」
「まだ田舎の方にはワイバーンや亜人がでやすから、いらねえですよ。
それにしてもどうして気にするんですかい?武器は貴族の特権だあね」
「そうね。ありがと」
ルイズでも知っている場所、街の真ん中で堂々と店を構え、
ワイバーンや亜人の脅威がある以上、ある程度の日用品として使われている。
都市部の人間は持っていないが、田舎の方になると使うのかもしれない。
害獣が野放しで、武器が一般流通に載っていて、杖を振り回す犯罪者が居るから治安は悪いのだろう。
「携帯用ナイフ数本と艶消し、リボルバーとシリンダーをいくつか、ワイヤーも貰おうかしら」
「「ねえっ!剣は!」」
ルイズとキュルケの声が大きい。耳元で叫ばないで欲しい。
彼女達は剣を貴族のステータスと思っている。
フリーダには、剣など持つつもりになれなかった。
人を殺すにはナイフで十分だ、剣相手にはリボルバーを使えばいい。
ハルケゲニアの銃技術は未発達だが、それでも十数メートルの以内の相手に対しては効果的だ。
魔法使い相手は、剣を背負っているだけで狙い打たれて終わりだ。
だったらそれと判らないような武器が必要だ。
剣は大きく邪魔で重い、持っているだけで目立つのだ。
「おでれーた!嬢ちゃん、見た目にそぐわず渋いねぇ!」
背後から男のダミ声が聞こえた。
振り返っても、あるのは剣の束だけ。
店主が声の方向に向かって叫んだ。
「こら! デル公てめぇ、お客様に生意気な口聞いてるんじゃねぇ!」
「へっ! 艶消し買った嬢ちゃんはこの店じゃあ初めてだ!
貴族は見た目ばっか気にしてぴかぴかにしやがる。剣は使うものだってのによお!」
「デル公!たまにはいいこというじゃねえか!」
ずれた眼鏡を治しながら声の主を探す。
「珍しいわね。インテリジェンスソードじゃないの」
「インテリジェンス?」
「そうよ。意思を持って話す剣、魔法が掛かってるはずだから切れ味もいいし、錆びない筈だけど…」
ルイズが得意げに話し、言葉が詰まる。
声に合わせてつばの辺りの金具がカチカチ動くその剣は、赤く錆びていたのだ。
好奇心から抜き身で置いてあった150cmほどの長大な剣を試しに振ってみる。
持つと不思議に力が湧く、自身のためにあつらえたみたいにぴったりと手に馴染んだ。
錆びていても重量で斬る種類の剣なのであまり関係ないだろう。
「面白いわね」
「「ええ~」」
ルイズとキュルケが唱和する。
二人はいい剣あるのにと、しきりに豪華な剣を勧めてきた。それでもフリーダは断った。
何処に機械を埋め込んでるのかしらとか、会話パターンはどの程度か、
人工知能をどうやって小さくしたのか、どうして剣の姿なのかなど
『武器として使おうと全く思わなかった』が興味は尽きない。
「名前はデル公って言うの?」
「デルフリンガーだ。嬢ちゃん…あん」
剣のつばに付いている口のように動く金具に無理やり指を突っ込む。
「ふがふが…過去は聞かねえよ」
「賢明ね」
買い物の帰り道、重そうにきゅいきゅい鳴くシルフィの背中で、タバサは背後のフリーダを盗み見た。
彼女は珍しそうに風景を眺め、手元のインテリジェンスソード、デルフリンガーと話している。
唇を読み取るとレジャイナや傾斜都市といった聞き慣れない地方の言葉を喋っている。
「デルフリンガーだ。嬢ちゃん…あん」
言葉の途中で口を塞がれ最後まで聞き取れなかったが
あの時、デルフは何と言い掛けたのだろう。
「…過去は聞かねえよ」
デルフの声は低い。
武器屋で買った品物はナイフとリボルバー、剣には見向きもしなかった。
選んだ艶消しは剣や銃の反射をなくし、隠匿するもの。
見た目が悪くなるため普通、騎士や貴族は使わない。
ナイフや銃に塗って夜襲や待ち伏せをする実利重視の傭兵達が使うものである。
リボルバーのシリンダーごと弾を買ったのは弾込めの手間をなくすためだ。
銃の弾はシリンダーに入っているから、撃ち尽くしたらシリンダーごと変えるのは常識だ。
ギーシュとの決闘で魅せた体術と間接や急所を殴る迷いのなさ。
彼女は始めから目と首、膝の関節を狙っていた。胡椒を投げつけたのも適切な行動
加えて店の中で振るった剣先、狭い店の中で150サントもの剣を自在に振り回している。
「アンタ使い手か?」
「………何、それ」
フリーダとデルフの声が聞こえた。
インテリジェンスソードに認められ、使い手と呼ばれるからには相当な技量を持っている。
それがどんな技術かは抜きにして。
フリーダは素敵な人だ。
頭も良くて、綺麗で、優しい。料理も上手で話す言葉は常に正しく尊敬できる人。
ルイズやキュルケが馬鹿をやると、いつも困った笑みを浮かべて見守っている。
武器を買う姿をみて、『普通の人』だと思っていた彼女が
自分と近い暗い場所に居ると気付き、親近感を持った。
彼女は自分と似ている。
自身を知られたくないと仮面を被り偽っている。
だけど似すぎていて、なんでも出来るフリーダに『雪風』のタバサは嫉妬した。
「ねえ、シルフィ・・・寒いよ」
上空の風が寒くて羽織ったマントを握り締めた。
「おでれーた!使い手が暗殺者だなんてよお!」
「人の記憶を盗み見るなんて、悪い趣味をしてるのね」
フリーダは壁に立て掛けられたデルフリンガーを睨みつける。
人気のない倉庫の角、ルイズ達は授業、シエスタ達はこの時間は別の場所で仕事をしている
ここは見回りの教員達も近寄らない、もしものために探しておいた場所。
両手にはギーシュに造ってもらったハンマーが握られている。
「おっーと!待ってくれ。誰にもいわねぇよ。持ち主を守るのは剣の義務だぜ」
「何処まで判ったの?」
壊す前に聞いておかなくてはいけない。
今度同じ目にあった時、対処しなければいけないから。
「持ち主のことは大体判るわな。例えば、今まで殺った人数、記憶を書き換えた回数…」
「…やっぱり、壊すわ」
ハンマーを頭の上まで振り上げる。
「待て待て待て待て。俺にだって利用価値はあらあな!」
剣のつばをカチカチカチカチ捲くし立てる。
「<固定化>の魔法が掛かっていて簡単には壊れない」
「俺はお前のための剣で、魔法だって吸収できる!」
「………お前のため?」
ハンマーをデルフの真横に振り下ろす。
床が砕けひぃっと悲鳴が漏れた。
「俺は使い手のための剣だ。フリーダは使い手、こんな剣この世に二つとないぜ!」
「説明してくれる?」
閉めたドアに近寄り、周囲の気配を探る。
「………話しなさい」
「手に刻まれたルーンがあるだろ?そいつぁ、ガンダールヴ、虚無の使い魔の証明さ」
静かな部屋に声とカチカチと唾の音だけが響く。
「…知ってるわ」
「ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなせる。フリーダは剣使ったこたぁねぇだろ?
ナイフや銃は慣れてるみたいだけどな!」
フリーダの<<記憶領域>>に入っている情報には白兵戦の技術もある、
銃やレールガンを持つのが当たり前の時代に古臭い剣を使う必要などない、
体術や棒術の心得はあるつもりだが、専門の技術は持っていなかった。
「武器を触ってみな、構造や使い方が判るぜ。魔術で体も強化される」
「どうして黙っていたの?」
じろりと睨んだ。
「忘れてたが思い出したんだ。死にたくねえからな。無機物の俺だって死ぬのは怖い。
本当はときが来たら教えるつもりだったんだが、仕方がねえやい」
手首ホルスターに格納してある電磁誘導銃を触る。
頭の中に設計図が流れ込み、力が湧き上がる、手を見ると文字が光っていた。
射程や残弾、中の細かい傷までが手に取るようにわかる。
「……………これで全部?」
「そうだぜ。ぶっそうなハンマーから手を離してくれよ。無い心臓に悪い」
「なら聞くことは無いわね。さよなら」
高々と上げたハンマーを振り下ろした。
「ちょ、待てええええええ!」
「…やっぱり、まだ隠してたわね」
振り下ろす勢いを殺しきれなかったハンマーが軽くデルフの刀身に当たった。
「おめー、マジだったぜ!俺に眼があったら怖くて泣いてらあ」
「………………」
ガチガチガチガチつばが鳴る。
「語学のために聞いておく、どうして見抜けた?」
「少し脅しただけで喋ったわね、あらかじめ答えを用意しておいたんでしょ」
「おお怖ええ。いやあ、大した使い手だぜ」
出来の良い弟子に出会ったみたいにかっちゃかっちゃと愉快そうに鳴った。
「俺は魔法を吸収できてな、その魔力を身体能力強化に廻せるんだよ」
「相手が強いほど強くなるわけね。どれぐらい吸収できるの?」
フリーダはデルフを値踏みする。
「スクウェアクラスでも十分吸える、戦略級の大魔法や軍の一斉射撃は無理だがな」
「吸収できるだけじゃガンダールヴのためである武器の意味は通らないわ」
かっちゃかっちゃ鳴らす。
「見抜かれちまったか。俺は魔術を使い手がガンダールヴでなくとも吸収できる」
「けどな、吸っちまったもんは出さないといけねえ。ガンダールヴの身体強化に
魔力を使えねえと破裂しちまう。使い手意外が使うと吸収力も落ちる」
「過剰な薬は毒なわけね。他にも制約はありそうね」
考えているのかカッチンカッチンつばを鳴らす。
「身体強化しても、体に負担を掛けるから長時間の行動は無理だぜ。
元の身体能力が高い奴はより力が引き出せる。
俺の力を引き出すためにゃ『心の震え』が必要だ」
「『心の震え』?」
「怒りや悲しみ、強い感情さ。フリーダは感情を押さえ込む訓練をされてるから
出すのは難しいと思うぜ」
人の心まで理解出来るとは、とんでもない剣だ。
どこにでもありそうな見た目の量産品剣に、
ここまでの会話能力と知識を付ける魔法は反則だ。
そこらの人よりよっぽど人間らしい。
「デルフって凄い剣なのね」
「おう!当然よお!伊達に5千年は生きてねえよ。まあ殆ど寝てたがな
久々に人とたくさん話せたぜ」
機嫌良くかっちゃかっちゃ動く。
「素晴らしいデルフなら錆びも吹き飛ばせるわよね」
「もちろんだ!破ッ!」
剣の表面に付いていた錆が一瞬で消え、美しい刀身が姿を現した。
「やれば出来るわ」
「え?」
フリーダは少し嬉しそうだった。
だが、それ以上にデルフは興奮していた。
「ふおおおおおおおっ!」
「どうしたの?」
「錆取れるの忘れてたぜええっ!」
「………良かったわね」
5千年も生きて呆けてやしないだろうか?
「人前では錆は取らなくていいわよ」
「どうしてだい?折角思い出したんじゃねえか」
不満そうにカチャカチャ。
「………ルイズを喜ばせるの、癪だもの。偽装もあるから」
「捻くれてるなあ。フリーダ」
少し素直になったフリーダにデルフは笑いながら言った。
「これからよろしくな。相棒」
「………ええ、宜しく」
剣の塚を握られ、5千年を生きた剣、デルフリンガーは確信した。
悪くない使い手だと。
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