「ゼロの社長-07」(2008/10/09 (木) 17:14:30) の最新版変更点
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#navi(ゼロの社長)
ルイズと海馬の二人は、トリステイン魔法学院の中で最も背の高い、真中の本塔の中にある『アルヴィーズの食堂』の前へとたどり着いた。
食堂の中はとても広く、そしてやたら長い机が3つ並んでいた。
食堂の飾りは豪華で、全ての机にローソクが立てられ、花が飾られ、フルーツが盛られた籠がのっている。
ふと見上げると、ロフトの中階には教師達が集まって歓談をしている。
「なるほど、上は教師、そして3つの机は学年ごとで生徒を分けているのか。」
「そうよ。…ところで、本来ならば平民はこの食堂には入れないのだけど、あなたは別。私の使い魔だもの。
事後承諾になっちゃうけど、後で先生達にも掛け合っておくから、今後食事は私とここでとる事になるわ。」
「ふむ…しかしこの内装のセンスはどうだ。成金主義の塊のような…」
「文句をいわない。さっさと席につきなさい。」
ルイズに促され隣の席につく海馬。
机には朝食だというのに、豪華な鳥のローストや、鱒の形をしたパイ、ワインなどが取り揃えてある。
「朝から良くこんなものばかり食える…」
という海馬の呟きはルイズには届かなかったようである。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします。」
祈りの声が、唱和される。隣を見れば、ルイズも目を瞑りそれに加わっている。
「ふむ…儀礼的な文句とはいえ、これをささやかな糧とは…」
「ぶつぶついわないの。ってセト?食べないの?水しか飲んでないじゃない。」
「いや、今は別に空腹ではないのでな。」
あ、そう?とルイズは大して疑問ももたずに自分の皿の方に目を戻した。
(宗教的なこともよくわからんが、とりあえずこの国は女王…つまり王制を敷いているということか。
ふむ、いつまでもここにいる気は無いが、ここにいる以上最低限の知識を手に入れておかねばならんな。
学院というのだから図書館くらいあるだろう。後で探してみるか。)
と、先のことを考えて行動予定を立てていた海馬であったが、すぐさまその目論見は一つの障害にぶつかる事となる。
ルイズに付き添って授業を受けるために教室にルイズとともに向かっていたが、途中にある掲示板を見て気づいたのだ。
この世界の文字が読めないという事に。
(失念していた…言葉が通じるので油断をしていたな、曲がりなりにもここは異世界だったのだな。つまり文字を覚えるところから始めなければならない。)
魔法学院の教室は、中学高校の教室というより、大学の講義室にそっくりだった。
教壇がありその後ろに黒板が。そして階段状に生徒の座席がある。
ルイズと海馬が教室に入ると、既にいた生徒達から視線が集まった。
そのなかにはキュルケもいた。
キュルケの周りには、やたらと男子生徒が固まっていた。
(なるほど、あの容姿だ。群がる男も出てくるだろう。)
キュルケは海馬に気づくと目でアイコンタクトを海馬に送ってきたが、気づかなかったのか無視したのか、海馬は何も返さぬままルイズの隣に座った。
教室にはさまざまな使い魔たちがいた。
キュルケのサラマンダーのほかにも、蛇、梟、カエル、ネコ、烏。
わかりやすい動物のほかにも、デュエルモンスターズに出てきそうな架空の生物達もいた。
興味を持ったのか、海馬は目に意識を集中する事で、それらの使い魔たちの能力を覗き見ていく。
海馬の視線の動きの意味に気づいたのか、ルイズが海馬に話し掛けた。
「面白そうな力を持った使い魔はいた?」
「いいや?スペックはそれぞれどの動物に相応程度の力しかない上に、大した能力も持っていない。雑魚ばかりだ。」
あまりといえばあまりな辛辣な評価に、流石のルイズも苦笑いをするしかなかった。
「まぁ、私の使い魔じゃないし、別にどうでもいいわね。
それに、あの使い魔たちとあなたもしくは私が戦うなんて事はありえないことでしょうし。」
などと話しているうちに、扉が開き教師のような風体の女性が現れた。
中年の女性で、紫色のローブに身を包み、同じ色の魔女っぽい帽子を被っている。
彼女は教壇に立ち生徒達を見回すと、満足そうに微笑んで言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、さまざまな使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ。」
と言ったところで、シュヴルーズと海馬の目が合った。
そして、あぁ、あの。という顔で海馬を見た。
「おやおや、ミス・ヴァリエールは変わった使い魔を召喚したのですね。」
その言葉にクラス中がどっと笑い声に包まれる。
「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」
小太りの生徒が茶化すように煽ると、笑いが余計大きくなる。
「違うわ!背とは私がサモンサーヴァントで召喚した、れっきとした私の使い魔よ!」
ルイズは立ち上がり、肩を震わせながらその生徒に向かって反論した。
自分はちゃんと魔法を成功させた。
その事を否定される。何より瀬人を馬鹿にされた事が、ルイズは非常に悔しかった。
だが、その対象となった海馬はといえば
「放って置けルイズ。ただ生まれたときより魔法が使えるという、貴族などという名のぬるま湯に浸かって育った豚の鳴き声などで
いちいち腹を立てる必要など無い。」
と、とんでもない暴言を口にしていた。
流石にこの発言には笑っていた生徒達も呆然とし、言われた本人すらも理解をするまでに数秒かかり、そして顔を真っ赤にして叫んだ。
「ぶっ…豚だと!?平民の癖に僕を豚呼ばわりするのか!?無礼者!」
「無礼とは、礼を尽くすべき相手に礼を尽くさない事を言う。貴様のような豚に尽くす礼など無い。
特にとりえもなく、風をヒューヒューふかす事しか出来ないドットメイジは黙っていろ。マリコルヌ・ド・グランドプレ」
「なっ…なっ…なっ…」
確かにこの少年、マリコルヌ・ド・グランドプレはドットメイジである。
だが彼は、名乗ってもいない自分の名前と能力をなぜ言い当てられたのか。
なにより、このような暴言を言われた事が無いために、どう返していいのかわからなくなっていた。
もちろん、海馬は先ほどの間に彼の能力を見ていたのである。
もっとも、見た結果がどんなに優秀であろうとも、海馬の答えは一緒であっただろうが。
「はい、そこまでです。ミスタ・グランドプレ、元はあなたの軽率な発言が原因です。反省をしなさい。」
でも!などといおうとしたマリコルヌの口に、赤土の粘土がぶち込まれた。
そして、静寂と化した教室で、海馬の方を見てシュヴルーズが口を開いた。
「ミスタ…失礼。あなたの発言は主人であるミス・ヴァリエールの代弁にもなるのですよ。
不用意に相手を挑発する行為は控えなさい。」
「海馬瀬人だ。ミセス・シュヴルーズ。しかし、奴の発言は聞き流す事が出来ないものだ。
根拠なくルイズを侮辱した、それはこの俺に対する侮辱でもある。」
「ふぅ…わかりました。では、今後気をつけなさい。それでは授業を始めます。」
シュヴルーズはコホン、と咳をして杖を振るった。
机の上にはいつのまにか石ころが現れていた。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。
魔法の四大系統はご存知ですね?…ミスタ・グラモン」
ミスタ・グラモンと呼ばれた少年は、バラを翳し気取った口調で答えた。
「『火』『水』『風』『土』の4系統です。そして何たる奇遇。僕の属性もミセスと同じく『土』。二つ名を、『青銅』のギーシュ・ド・グラモンと、申します。」
そして手に持ったバラを口にくわえ、会釈をしながら
「お見知りおきを」
と、決めた。
いや、本人は決めたつもりなのだろうが、クラス中からは冷たい視線が集まった。
特に、隣に座っている金髪で巻き髪の少女は、またいつものが始まったと呆れている。
「よろしく、ミスタ・グラモン。今答えていただいた4系統に、今は失われた『虚無』をあわせて、
全部で5つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。
さて、『土』系統は万物の創生を司る、重要な魔法であると考えています。
まずそれを知ってもらうために、基本である錬金の魔法を覚えてもらいます。」
シュヴルーズが机の上の石に対し杖を振るうと、石はまばゆい光を放ちだした。
おお!とクラス中から感嘆の声が漏れる。
「ゴゴ、ゴールドですか?ミス・シュヴルーズ!」
キュルケは身を乗り出した。
「いいえ、これはただの真鍮です。ゴールドを錬金したければ、スクウェアクラスのメイジだけ。私はただの…『トライアングル』ですから。」
(ふむ…。5大系統か…なるほど、デュエルモンスターズの属性と近いものがあるな。
しかし、そうするとルイズが俺の目を通して出た属性が闇だったが…)
他の生徒を見回しても、闇属性は見当たらない。
海馬の脳裏にある可能性が現れた。
(もしや…ルイズの失敗魔法は失敗ではなく『そう言う魔法』なのでは?)
その可能性を考えつつ、ふと隣を見ると、ルイズの姿がなかった。
見ると教壇の前にルイズが立っているではないか。
どうやら、海馬が考え事をしている間にルイズが指名され、錬金をすることになったらしい。
(まずい、俺の予想通りならば、あの魔法は絶対に『爆発』する。)
ルイズが呪文を唱え終わる前に、海馬を含む全員が机の下へと隠れた。
そしてルイズの呪文が完成する。
結果、海馬が、いや、このクラス(ルイズ、シュヴルーズを除く)全員が想像したとおりに、ルイズの目の前の石は爆発した。
机はみごとに消し飛び、爆風が生徒達の席を襲ったが、全員慣れたもので、誰一人怪我なく爆風を回避した。
そして、爆心地である黒板の前は、もくもくと煙が上がっていた。
やがて煙が晴れるとそこには、爆発で目を回しているシュヴルーズと、服装は少し傷だらけになってはいるものの、無事なルイズが立っていた。
顔のすすをハンカチで拭きながら、ルイズは淡々と
「ちょっと失敗したみたいね。」
といった。
当然即答でクラスメイト全員からのブーイングを浴びせられたのは言うまでもなかったのだった。
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