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#navi(THE GUN OF ZERO)
緊張状態から解放され、シエスタは嬉しそうにクォヴレーに駆け寄った。
「クォヴレーさん、凄いです!お強いんですね!」
「それほどでもない。俺よりも強い奴はいくらでもいる」
レミントンより装填してある弾を抜きながら、シエスタに受け答えする。
「こんな武器など使わずに、素手でもって俺を赤子扱いした奴もな」
尻尾の生えた戦闘民族達とか。
一方、決闘を見ていた大多数の生徒達はざわついたまま遠巻きにしており、その中にルイズも含まれていた。
先程は、自身の召喚した平民が、メイジ殺しらしいと察しても、ただあのいけ好かないキザなギーシュをとっちめられるチャンスとしか思っていなかった。
だが、今の戦いを見て、そんな考えは一蹴された。
何故メイジ殺しがああも忌まれているのか、判った気がした。
成る程。クォヴレーの使っていた銃はハルケギニアの銃とは一線を画すようだ。だが、そこは問題ではない。
メイジであり、貴族である者を脅かす存在。
ハルケギニアの大地に置いて絶対的な権力者である貴族を刈り取りうる力を持つもの。
身分、という庇護を全く物ともせぬ圧倒的戦力。しかも、それを持っているのが、魔法の使えぬ平民。
その点に置いて、ハルケギニアにある技術なのかどうかというのはさして問題ではない。
遙か遠方から強弓でもって狙撃し、一方的にメイジを狩れるアーチャー。
身を隠す術に熟達し、影より近づき、首と胴を一瞬で断ち切るアサシン。
メイジ殺しは、平民の『反乱』の象徴なのだ。
(だから、私たちメイジはああもメイジ殺しを嫌う……)
今の自分ならば、判る。
最初に自身の使い魔に抱いた感情は失望。話した上で感じたのは友情。先程まで抱いていたのは希望。だが、メイジを一切のマジックアイテムの使用も無く敗北に追い込むあの戦いを見て、感じたのは恐怖。
今、おそらく自分の周りでクォヴレーを遠巻きにしている生徒達も、自覚しているいないはともかく、同じ感情を抱いているのだろう。
メイドが平気で祝福しているのは、自身が貴族でないから。
……ってちょっと待て。そのメイドと当のクォヴレーはどこに行った?
いつの間にやら、使い魔の姿は見あたらず、生徒の輪もぶつ切れ状態になっている。
あわてて辺りを見回すが、あの特徴的な銀色の服はどこにも見あたらない。代わりに、こちらに近づいてくる一人の教師が目に入った。
「ミス・ヴァリエール」
召喚の際にも立ち会っていたコルベールだ。
「先程まで、ここで決闘をしていたようだね」
「あ、あの……それは……!」
「ここに着くまでにおおよその経緯は聞いてるよ。発端はミスタ・グラモンなのだろう。まぁ此度の決闘で彼に罰則の代わりは十分成されたようだし、元よりきみ達に決闘そのものについて咎める気は無いよ」
ただねぇ……とコルベールが続けた言葉に、ルイズは色を失った。
一方のクォヴレー。彼は一応ルイズに一声かけながらその場を去っていた。ただ、思考のまっただ中にいたルイズは、それに全く気づかなかったが。
で、武器を片づけて来るというクォヴレーに、シエスタはにこやかにこういった。
「それじゃあ、片づけたら厨房に来てください!お昼まだですよね?」
人目に付かない手頃なところでコクピット内トランクに武器を片づけてきたクォヴレーが、厨房へはいると。
「いよぉ!我等の銃のお戻りだ!」
「我等の銃?」
マルトーが満面の笑みでクォヴレーに近づいてきた。
「マルトーさんったら、クォヴレーさんの話を聞いてからずっとこうなんです」
くすくすと笑いながら、シエスタが言った。
「あの鼻持ちならない貴族連中に、お前は魔法も使わずに一泡吹かせてやったんだ!お前は俺たちの英雄さ!」
感極まったのか、ぎゅうっと抱きついてくるマルトー。
「ま、マルトー、少し苦しい」
かろうじて動く右手でタップする。
「お?おお!すまねぇな!感動しちまってよ!」
豪快に笑いながら腕を放してくれる。
「それに、確かに俺は魔法は使えないが、手持ちの銃を使った。ハルケギニアの銃ではああはいかなかっただろう」
「くぅーっ!勝っても威張りもしないその態度!良いかお前等!これが本当に出来る人間って奴だ!見習えよ!」
マルトーの言葉に、厨房の面々が元気よく応じる。
だが、よく聞けば別にクォヴレーの言葉には謙遜じみた意味合いは欠片も入っていない。
『ハルケギニアの銃ではああはいかなかった』
ああはいかない、だけで、負ける、等とは一言も言っていないのである。
最初針鼠の如く武装していたのは、ギーシュが果たしてどのような魔法を使うのか、そのスペックが読めなかったためだ。
最初の一撃をかけた時点で、あっさりと動きを止めてしまったギーシュに、戦闘に不慣れな部分を感じ取り、素手でも十分勝てるだろうと目算は付いていた。
それでも派手に銃撃戦を展開したのは、主人であるルイズに、自分が呼び出した使い魔の使役する力を見せ、自信を付けさせようという魂胆からであった。まぁ、実は結構裏目に出ているのだが。
「ともかく、今日はお前の勝利祝いだ!じゃんじゃん喰ってくれ!」
とマルトーの指さす先には、料理料理料理料理……。貴族達に出すような上品さはないが、どれもボリューム満点で手の込んでいるのが判る。
そちらから料理をとりわけ、一際大きい皿をクォヴレーの席らしい所に出してくれるシエスタ。
「はい、クォヴレーさん!」
「シエスタ、その、心遣いは嬉しいんだが、こんなに食べきれない」
少し申し訳なさそうに言うクォヴレー。なにせ半年間絶食状態である。胃が収縮しきってしまっていて、身体が受け付けない。
「ハハハ!我等の銃が、なーに小娘みたいな事言ってやがる!」
ばしーんと思い切り背中を叩かれる。パイロットスーツが衝撃は吸収してくれるが、もちろん運動エネルギーそのものは殺せない。敵意も害意もないその一撃に対処しきれず、踏鞴を踏んでしまう。
「……小食なんだ。マルトー、この中で一番自慢出来る料理はどれだ?」
着席しながら首を向けて尋ねる。
「うん?あー、そうだな。その鶏の胸肉なんかは、野菜と一緒によーく煮込んであって、お勧めの一品だぜ!」
いわれた鶏肉を丁寧に骨から外し、一緒に煮込まれていた葉野菜でくるんで口に運ぶ。
口全体で味わい、よく咀嚼してから嚥下する。
「……成る程。マルトー、これは美味いな。レーツェルにも引けを取らない」
「そのレーツェルってのは、さっき言ってた貴族かい?
くぅー!引けを取らない?言ってくれるじゃねえか!じきに比べものにならないくらい美味いって言わせてやるからな!」
何やら決意に血をたぎらせつつ、燃えているマルトーだった。
それを横目に、少しずつ料理を口に運ぶクォヴレー。
他の小間使いやメイド、厨房関係者等も思い思いに食事を始めた、そんなときだ。
凄まじい勢いで、食堂側の扉が開き、桃色の髪とマントをなびかせながら、メイジが入ってきた。
「ルイズ?」
いきなりの主の登場に些か驚く。
クォヴレーでさえこんなだから、他の平民の面々など思わず直立不動の体勢をとってしまう。
だが、当のルイズは自分の使い魔以外見えていないようで、クォヴレーが立ち上がる間もなくその側まで来ると、
「銃を出しなさい」
とまるで悪鬼の如き声を出した。
「……何?」
流石に面食らう。
「アンタが使ってた銃よ。良いからとっとと出しなさい!」
先程クォヴレーに感じていた恐怖心などどこへやらという感じである。
「待て、ルイズ。事情が分からない」
がくがくと肩を揺さぶり始める主人に何とか事情説明を求める。
「まぁまぁ!ミス・ヴァリエール、落ち着いて!」
そこへ現れた二人目のメイジ。頭髪の薄さに定評のあるコルベールである。
厨房へ一度に二人ものメイジが現れる事態に、みんな度肝を抜かれる。
コルベールはルイズをクォヴレーから引きはがすと、その間に入った。
「……助かった。吐くかと思った」
青白い顔をしながら言うクォヴレー。
「それは良かった。それで、クォヴレーくんだったかな?」
「ああ」
まだ青い顔ながら、立ち上がる。
「先程、ミスタ・グラモンと決闘をしていたね」
「ああ」
ぎょっとした顔でコルベールを見るその場の大半。
「ま、待ってくだせえ!コルベール先生!あれは……」
マルトーが慌てて言葉を挟む。比較的平民と貴族の差にこだわらないコルベールとはいえ、貴族に刃向かうのも今回ばかりはお構いなしだ。
「ああ、別にその事で咎めるという訳ではないよ、コック長。事情は理解しているとも。ただ……」
マルトーに振り向くといつもの穏和な表情で否を告げ、クォヴレーに向き直る。
「クォヴレーくん、きみはあのとき、ミスタ・グラモンの後ろの壁に傷を付けたね?」
場に、嫌な空気が流れ始めた。
「先程も言ったとおり、決闘そのものについて君を咎めるつもりはないが、壁の修復費用はミスタ・グラモンと君の側、つまりミス・ヴァリエールで折半という形になると思うんだが……」
ようやく、先程から自分を睨み続けるルイズの視線の意味が分かった。
「そこで私からの提案なんだがね。クォヴレーくん、是非とも君の銃を譲って頂きたい。そうすれば、壁の修復費用の持ち分は私が支払おう!」
「…………」
無言のまま、バツの悪そうな顔をするクォヴレー。
「わかったら大人しく差し出しなさい」
ルイズの言葉に、くるりときびすを返して厨房の勝手口へ向かう。
「……わかった。持ってくる」
実際、少々調子に乗りすぎていたかと反省するクォヴレーだった。
一応とはいえ肉親の名を冠しているベレッタやキャリコ、スペクトラを渡すのは忍びなく、またコルベールの目的が銃の解析にあることは察せたので、
比較的構造が簡易で理解しやすいからとリボルバー、コルト・パイソンとその弾.357マグナム20発を差し出し、勘弁して貰った。
コルトにしたところで思い入れが無い訳でもない。馴染みのシティー・ハンターが扱っていたのと同型で、色も似せてある。
渋ったコルベールだが、クォヴレー自身が構造を教えることでなんとか合意にこぎ着けた。
実際に解体整備を行いつつ、それぞれの部分がどのように動くのかを説明していく。
「成る程、こうして既に火薬と一体化した弾を用意しておき、一発使うごとに次の穴へ移動する……そしてこちらのハンマーで……」
続けて材質だの製法だのについても一通り聞かれた末に、なるだけさりげない風を装って、しかし明らかにそれまでとは目つきが変わったコルベールに尋ねられた。
「クォヴレーくんは……どこから来たのだね?」
一瞬目をしばたたかせ、ふっと口元に笑みを作る。何を懸念しているのか判ったからだ。
「大丈夫だ。俺の故郷はここからは遠い。遠すぎる。魔法を恐れない文明を手にした者達がここへ攻め入る確率は、万に一つもない」
億に一つぐらいならあるかも知れないが。
具体的に言えば次元転移装置でこの世界に繋がってしまったシャドウミラーとか。新たな修羅界を求める修羅王アルカイドとか。流石にいくつもある平行世界のうちでそんな連中がいないとも言い切れない。
というか修羅の連中は修羅神抜きで、素手でこの世界を蹂躙出来る気もするが。
ともあれ、流石にそこまでの責任は持てない。よしんば来てしまったら、まぁ戦うしか無いだろうが……。
クォヴレーの内心の不安を余所に、コルベールは胸をなで下ろしたようだった。
「そ、そうかね?そんな遠いところからやってきて使い魔になったとは……済まないね。私も教師でね」
「気にすることはない。呼び出された時にも言ったが、俺は自分の意思でここまで来た」
ついでに自分は実は結構簡単に戻ることが出来る事は伏せておいた。自分と同じ技術を利用した者のために、その億に一つ以下の可能性を心配させて寂しい頭髪をより寂しくさせる必要も無いと思ったのか何なのか……。
その後も実際に撃つ練習もさせてみたりして、気づけば既に日が暮れていた。
ようやくコルベールから解放され、ルイズの部屋に戻る。
「ちゃんとコルベール先生の要求に応えてきたんでしょうね?」
「ああ、大丈夫だ」
先程までの不機嫌さはそのままに、読んでいた本から顔を上げてジト目で睨み付けてくるルイズに笑いかける。
「なら良いけど……アンタが結構強いのは判ったから、次からは自重しなさい」
「ああ。流石に懲りた」
ふぅと自嘲気味に小さく笑う。
そのまま座り込み、壁にもたれかかって目を閉じる。体力を温存するためだ。
ちらとその様子を見たルイズは、数秒そちらに視線を向け続けた末に尋ねた。
「クォヴレー。アンタ、何で私の使い魔になってくれたの?」
人間の使い魔だった衝撃が大きすぎたせいで忘れていたが、この男はそこからして他の使い魔とは違った。
使い魔召喚の儀は、対象となる動物が半ば無理矢理に連れてこられるため、契約をこなすのに多少苦労するケースもある。
だがクォヴレーは、端から合意の上でルイズの元に現れ、契約に際しても些か難色を示したモノの、割とあっさりと合意した。しかもこの一日の間、一言の文句もない。これは実は結構奇妙なのではないだろうか?
加えて、だ。今日判明したのは、クォヴレーがメイジ殺しだと言うこと。それもとびっきり強力な。
昼間夢想したアーチャーやアサシンなど比較にならない。こいつは真っ正面からメイジとぶつかり合ってなお勝てる可能性を持つメイジ殺しだ。
そんなクォヴレーが何故に唯々諾々と自分のような半人前以下メイジの使い魔をやっているのかが、どうしても判らなかった。
ぱちりと目を開き、床に座ったまま椅子に座るルイズを見上げる。
「最初に言っただろう?ルイズが、助けを呼ぶ声が聞こえた。俺はそれに答えたに過ぎない」
「理由になってないわ。それじゃあ、あなたは請われれば誰でも助けるって事じゃない」
ルイズの言葉にしばし考え込むと、再び口を開く。
「もし、そうして呼ばれた先で、世界征服に手を貸せというような奴がいたなら、逆に俺は敵対しただろう。俺を捕らえ、何かの実験に利用しようなどとたくらむ奴なら、全力で抵抗しただろう。
だがルイズ。お前はそのどちらも望まなかった。望んだのは、身の回りの世話と、お前の身を守ること。その程度の願いぐらいは、俺でも叶えてやれるし、何の悪意も持たない第三者を傷つけることにも繋がらない」
クォヴレーの言葉を、しばし自分の中で反芻し、そしてルイズは再び首を振った。
「……やっぱり判らないわ。私は……その、今は何も出来ない半人前のメイジで、アンタはあんなに強くって……普通、自分より劣る奴に仕えたいって思わないもの」
少なくとも自分はそうだ。
実技こそ失敗続きだが、その分座学では同学年を遙かに上回る知識を得ている自分が、たとえば座学では圧倒的下に見ている他の生徒の元に付くなど、想像したくもない。
クォヴレーはしばし困ったように首をかしげていたが、ややあってルイズに向く。
「俺の知り合いの盗賊が、常々こう言っていた。『誰かを助けるのに理由がいるか』と。つまりはそういうことだと思う。誰かが困っていたら、助けたくなるのが人情というものだろう」
その、さも当たり前のように言う言葉は、衝撃だった。
理由はない。何の見返りも打算もなく、ただ助けたいから助ける。全く、想像の外の事象。
「確かに、普通なら使い魔までやろうとは思わないだろう。大抵の人間は、残してきたものやしがらみがあるから、帰らなければならない。
だが、幸い旅の身の上の俺は何もない。だから、ルイズがそう不思議がるほどあっさりと今の地位に収まったんだろう」
なおも悩み続けるルイズに、立ち上がりながらそう付け加える。
「それに、俺も何も要求しなかった訳ではないしな」
「へ?」
はて、何かあげる約束でもしていたか?
「二時間ほど自由時間を設ける約束だ」
「あ、ああ!そうね」
「というわけで、二時間後には戻る」
「はぁ!?」
いきなりの出かけてくる発言に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「こ、こんな時間からどこに行くのよ!?」
「こんな時間だからだ。多分、あまり目立っては騒ぎになるんでな。夜陰に乗じさせて貰う」
「?????」
ますますもって意味が分からない。
「俺の敵はいろいろなところに居ると言っただろう。ここにも、居るかも知れない。自由時間でそれを探す。もっとも、今日は下調べ程度だが」
たった二時間で何が出来るのだろうか?
最後にちらと腕時計を見ると、クォヴレーは部屋を出て行った。
約二時間後。
「はっ……はっ……はっ……」
短く息継ぎをしながら、学園の敷地内をクォヴレーは走っていた。
ルイズの部屋のある水の塔に突入し一気に駆け上がる。無駄のないしなやかな動きだ。
ノンストップでルイズの部屋の前にたどり着き、パイロットスーツに備え付けられている腕時計を見る。
外出より1時間58分。
元より二分は予備時間として取っていたので、予定通りである。
さて、扉を開けようかというところで足をぺちぺちと叩かれる。
「きゅるるる」
見下ろすと、キュルケの使い魔フレイムがトントンとクォヴレーの足を叩いていた。
そのジェスチャーから見るに、付いてこいと言っているのか?
「……悪いが、もう時間がない。用事はまた明日頼む。ルイズは時間にうるさそうだからな」
腕時計を見て、さらっと拒絶の意を手で示すクォヴレー。
「きゅ!」
そうはいかないとどこかに噛み付いてでも引っ張ろうとするフレイムだが、生憎とパイロットスーツに噛み付けるような余裕のある部分はなく、
またそう易々と爬虫類に噛み付かれるクォヴレーでもなかったため、するりと扉の中に逃げ込まれてしまった。
「今もどっ――」
「遅いじゃない!」
部屋にはいると同時に、投げつけられた枕を反射的にキャッチする。
「……遅いか?」
「遅いわよ!約束の時間なんて、とっくに過ぎてるんだからね!」
ゆっくりと枕を顔の高さから下ろすと、ベッドの上で半分泣き顔のようなルイズが怒っていた。
「そんな筈は無いと思うが……」
腕時計を見る。
先程フレイムに捕まり、多少時間は食ったが、まだ二時間以内の筈だ。
「時計をよっくみてみなさいよね!」
ビシッと部屋にある時計を指さすルイズ。
扉口からそちらまで歩いていって、腕時計と時間を見比べる。三十分ほど時間がずれていた。
(……どうも今日は締まらないな)
冷や汗を垂らしつつそう思う。
実際、クォヴレーの時計が故障で遅れたとかそういう事態ではなかった。
要は相対性理論の根幹部分である。
物体が光速に近づけば近づくほど、時間の流れは緩慢になる。
つい先程まで愛機で宇宙を飛び回っていたクォヴレーは、ウラシマ効果の事をすっかり失念していた。
「わ、私っ……アンタが、どっか行っちゃったんじゃないかって……私をっ見捨てて……行っちゃったんじゃ、ないかって……!不安、だったんだからねっ!」
しゃくり上げ始めながらぼろぼろ涙を溢すルイズ。何しろつい先程まで、何故この男が自分の所にいてくれているのかと考えていた位である。気が変わって、出て行ってしまったのではないかと気が気ではなかった。
自分の眼前で泣き始める少女。
経験は薄いが、こういったこともこれまで無い訳ではない。こういう時は
「済まなかった、ルイズ」
優しく抱きしめてやれば良いんだったか?
「あ、謝ったって……!許して、やらないんだからぁ……!」
安堵も手伝ってか、そのままうわーんと本格的に泣き出してしまった。
隣の壁と、ついでに開け放たれた窓からも悪友の泣き声が聞こえ、ふぅとキュルケはため息をついた。
「流石に今日は無理か」
ルイズの使い魔。
沢山の銃を使い、アクロバティックな動きでもってギーシュを打ち負かしてしまった男。
その強さに惹かれたキュルケであったが、いくら何でもこんな状況からクォヴレーを連れ出そうとは思わない。
というか泣き声にすっかり気分が萎えてしまった。
「フレイム、戻ってきなさい」
使い魔を呼び戻しながら、窓を閉じる。
「キュルケ、待ち合わせの場所にウボァー」
窓を閉める時に何か居た気もするが、気にしない気にしない。
四方の壁に杖をそれぞれ一降り。防音の魔法を施し、一人寂しく毛布にくるまるキュルケだった。
しばらくの後。
腕の中ですやすやと寝息を立てているルイズに、クォヴレーはすっかり困っていた。
泣く少女を抱き留めて慰めたことはあるが、抱きつかれたまま寝られるのは未だ経験がなかった。
しかも、その腕は自分の背中に回されていて、無理に剥がそうとするとすっげー嫌そうな顔で全力で抗ってくるため、引きはがせないで居た。
自分はまぁ、座ったまま朝を迎えても問題はない。なぜなら俺はタイムダイバーだから。
某魚雷のような思考はさておき、問題なのは眼前のルイズである。
座ったまま寝てはどこか寝違えないとも限らない。
どうにか起こさぬように抱きかかえながら、室内の明かりを消し、改めてルイズをベッドに横たえる。
……やっぱり腕は離れない。
仕方ないかと諦観のため息をつきながら、少女のベッドに一緒に入り込む。枕をルイズの頭の下に入れ、自分の身体がルイズを圧迫せぬように位置取りに気をつける。
明日の朝怒られる気もしたが、まぁ最初にミスをしてしまったのは自分だ。予想される怒りは甘んじて受けようとクォヴレーは目を瞑った。
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