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#navi(ルイズが世界を征服するようです)
「始めるわよ」
首都トリスタニア、某所。
明かりはただ一本の蝋燭のみという、薄暗く狭い小部屋に、数人が集まっていた。
いずれもローブに身を包み、フードで顔を隠している。
「……まずは、現状確認からいきましょうか」
アルビオンを制圧したトリステインは、すぐさま帝政ゲルマニアに宣戦を布告。
同日、ゲルマニア首都ヴィンドボナは壊滅した。
……噂を信じるならば、ただ1騎の竜騎士によって。
主要都市をわずか数日の内に陥落させられたゲルマニアは、成す術無く降伏した。
現在、トリステインはロマリア連合皇国と交戦中。
トリステインはトロルやオークなど亜人に加え、エルフ、
更には無数の強力なドラゴンまでも戦線に投入している。兵力差は圧倒的だった。
アルビオン、ゲルマニアを傘下に加え、更には『東方』――エルフ達と同盟を結ぶことにすら成功。
最早、トリステインは小国などでは無く、世界有数の覇権を誇る大国だ。
「そして、それを操るのがあの2人。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、その使い魔ね」
女王に即位したアンリエッタ。
それを傀儡とし、裏から操る者が居た。
マザリーニなど、優秀な人物は既にあらかた粛清され、この世から去ってしまっている。
「このままでは、世界は本当に、あの2人のものになってしまう」
無論、ルイズ達に対する抵抗が無かったわけではない。
送り込まれた暗殺者は、既に3桁にまで上る。
しかし。グリフォン隊隊長を務めるジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵や、
『シュヴァリエ』の称号を持つ少女といった凄腕の側近。
そして何より、本人達の力の前にあっては、暗殺者などカス同然だった。
「そうはさせない。絶対にね。
――ここに、レジスタンスの結成を宣言するわ。
同意する者は素顔を晒し、血判状にサインを」
そう言い放った人物が、まずフードを脱ぐ。
素顔が、蝋燭の淡い光に下から照らされた。
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
祖国を蹂躙され、復讐に燃える火のトライアングルメイジである。
「――彼女らは。私の、敵です」
シエスタ。
かつて魔法学院にて、メイドを務めていた少女。
「あいつらを、許しておくわけにはいかないよな」
「はい。頑張りましょう。
……それに、彼らはウェールズ兄様を……!」
異世界人であり、伝説の『ガンダールヴ』である平賀才人。
そして、その主、ルイズと並ぶ『虚無』の使い手、ティファニア。
「人数こそ少ないけど、十分ね。
このメンバーならば、十分あいつらに勝利し得るわ」
朗々と、誓約の言葉を読み上げる面々。
それは、遥か昔よりこの大陸に伝わる、死地へ赴く人々が交わす誓いの証である。
この言葉が一体、どこで生み出され、どう伝わったのかは定かではない。
一般的には、始祖とその仲間達の言葉が、その始まりであるとされる。
――だが。
それは、遥か異世界、とある冒険者が集う酒場にて、
今まさに邪悪に立ち向かわんとする1人の少年、そして3人の仲間達が交わした言葉と。
奇しくも、まったく同じものであった。
"我はここに集いたる戦友の前で厳かに精霊に誓わん。
我が生涯を光と共に過ごし、我が使命を忠実に果たさんことを。
我は全ての邪悪なるもの、闇たるものを絶ち、
悪しき力を用いることなく、また知りつつこれを許さざるべし。
我は我が命の限り、我が意志の揺るがざることをつとむべし。
我が使命にあたりて、与えられし力に驕らず、慢心に捉われることなく、幾万の敵を恐れることも無し。
我は心より人々を助け、
我が手に託されたる未来の幸のために身を捧げん。"
――アリアハン戦士誓詞
「――さぁ。反撃開始といきましょうか」
キュルケは、獰猛に笑った。
――ルイズが世界を征服するようです――
「ウェールズ様……」
「アンリエッタ可愛いよアンリエッタ」
ぶちゅー。
「はん。よくもまぁ、飽きないものね」
「クク。1度離れた分、余計に愛が深まったということであろうよ。麗しきものではないか」
トリステイン王国、王宮。
人目を憚ることもなくウェールズと抱き合うアンリエッタに、主は呆れ、使い魔は哂う。
「水の指輪。アルビオンでは苦しめられたけど、手に入れてしまえばこんな便利な物も無いわ」
右手中指に嵌められた指輪を眺めながら、ルイズは漏らした。
アルビオン侵攻の際にクロムウェルから奪ったマジックアイテム、『水の指輪』。
ルイズは先住魔法の力がこめられたそれを使い、ウェールズの死体を操ることでアンリエッタを骨抜きにしていた。
(※これも、前編にてルイズがウェールズを殺害する際、
きちんと死体に傷がつかない方法で殺していたからこそ成せる業である。
仮に、『イオ』で爆破するなどという愚かこの上無い方法を取っていたならば、まず不可能であっただろう。
筆者が前編投下真っ最中にこのミスに気付いて頭を抱えたなどという事実は決して存在しないので、
その旨ご了承いただきたい。というか、正直ごめん)
「ヴァリエール宰相。前線より伝令です」
「聞くわ」
「最前線にて、極めて強力な竜騎士と遭遇。
交戦の結果制空権を奪われ、現在戦線は膠着状態にあるとのことです」
報告を聞いた小竜が顔をしかめる。
「何? スカイドラゴン大隊はどうしておる」
「……そのほとんどが戦死。残った者も、本格的な戦闘は不可能と聞いております」
「バカな。我がスカイドラゴンが、そこらの竜騎士隊に劣る筈が――」
「それが、その。……相手は、僅か一騎だと、報告にはあります」
「何だと?」
りゅうおうはしばし黙考する。
……ただ一騎にスカイドラゴン隊がやられるなど、通常ではまず考えられない。
いや、それどころか、あれ一体で竜騎士小隊を壊滅させられる程の戦力差なのだ。
それは敗れるとなると――相手も、この世界の常識では計れないクラスの戦力か。
「……やむをえんな。すぐにしんりゅう大隊の出撃をさせよ。
同時に、地上戦力も補強する。
そうだな……ダースドラゴン連隊を、しんりゅう隊に載せてゆけ」
「了解しました」
下がろうとする武官を、ルイズは引き止める。
「ちょっと待ちなさい。――ワルド?」
「何かな?」
「いくらりゅうおうのマジックアイテムで遠距離からすぐ連絡出来ると言っても、
いちいちこちらに指示を仰いでいるのでは対応が遅れる。
アンタ、前線指揮官として行ってきなさい。全て任せるわ。
必要なものがあれば送るから、何でも遠慮せず伝えなさいよ」
「しかし、護衛はいいのかな、ルイズ?」
ルイズは鼻息を漏らす。
「ここ1ヶ月は暗殺も減ってきてるし、シャルロットだけでも十分よ。
いいから行ってきなさい。
そしてとっとと、その竜騎士とやらの首を晒しなさい」
「このような時のために力を授けたのだ。わかっておろうな?」
ワルドはりゅうおうの指導と『改造』により、
『バギ』系統の全ての呪文を、更に『ピオリム』『スカラ』などの補助魔法すらも身につけていた。
「わかった。行ってくるよ、ルイズ。
さぁ、行ってらっしゃいの接吻を――」
「2週間以内に教皇の首を持ってきたら、褒美にね」
「マジで!?」
「マジよ」
うっしゃー、と全力で走り去るワルド。
「よいのか?」
「いいのよ。どうせ、私のファーストキスはあんたなんだから。もうどーでもいいわ」
「カカカカカカカ! そうであったな!」
――数日後。
「やぁ、ルイズ。いや、ヴァリエール宰相とお呼びするべきかな?」
「どうでもいいわ。とっとと用件を言いなさい、ギーシュ」
王宮の片隅、一室。
突然姿を見せた元級友相手に、ルイズはうんざりと返す。
今は、少しの時間であっても無駄にしたくない状況なのだ。
深く椅子に体を沈め、ルイズはため息をついてから促した。
「こんな時に何なの?」
「今日はグラモン家の代表として来たんだ。父も兄さん達も、それどころではないようでね。
ロマリア侵攻の状況について、グラモン家として――と、」
そこでギーシュは言葉を切り、室内を見回した。
「あの使い魔はどうしたんだい?」
「りゅうおうなら、戦力の補強のために部下を召喚中よ。いいから、とっとと話しなさい」
「やれやれ、忙しないねルイズ。まぁいいか。こちらも、遊びに来たわけじゃないんだ。
まずは、この資料を見てもらえるかな?」
ギーシュが懐に手をやると、ルイズは背もたれにもたれたまま、無言で右手を伸ばし、
「驕ったな、ルイズ」
瞬間。
鋭利な何かが、背後からルイズの胸を貫通した。
「がっ……!」
吐血。
思わず体を丸めようとするも、椅子に縫い付けられているような状況では、それすら許されない。
続けて2、3と、何かがルイズの体を貫通する。更に大量の血を吐き出し、ルイズは痙攣した。
必死で痛みを堪えながら、自らの体を貫通し、突き出ているものを確認。
鋭く、槍のように尖った青銅。……椅子を、『錬金』したのか。
懐から出した杖を突き出すギーシュを、睨みつけた。
「油断したね、ルイズ。
護衛の1人もつけないとは、僕も舐められたものだ。ドットメイジごとき、警戒する必要も無い?
いや、それとも信用してくれていたのかな? だとしたら、嬉しいね。
そのおかげで、君をこうして葬れるのだから」
「……ギーシュ……あんた……!」
ギーシュは暗い瞳でルイズを見下ろした。
「ゲルマニア戦で父は死んだよ。2人の兄も、ロマリアでね。
知っていれば、さっきの僕の言葉がおかしいことに気付いた筈だ。
仮にも、元帥の死を知らなかったのかい?
だとすれば、僕がこうして直接手を下すことも無かったかな。
そんな有様では、いずれ誰かが君を殺しただろう」
喋ることすら出来ず、血にまみれ、痛みにあえぐルイズ。それを眺めながら、ギーシュは哂う。
傍らのランプを手に取り、『錬金』。青銅の剣を作り出し、構えた。
「あぁ、でも。こうして君を直接殺すことが出来て、嬉しく思うよ。
――さらばだ、『魔王』ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
貴族の誇りなど欠片も無い、愚かな侵略戦争で多くの命を散らした罪。死で償え」
剣が、振り下ろされる。
早く、速く、疾く迅く捷く!
転移魔法『ルーラ』を超短距離間で使用、それを連発することで限りなく最速に近づく。
扉を吹き飛ばし、階段の上を飛翔して、目的の一室へと全力で向かう。
油断した。驕っていた。
いくら主が大丈夫だと主張しようと、聞き入れるべきではなかったのだ。
その傲慢こそ、敵が狙っていた隙に他ならないというのに――!
最後の扉を中級火炎魔法『メラミ』で焼き尽くし、部屋に文字通り飛び込む。
目に入ったのは、振り下ろされる剣、歪んだ笑みを浮かべた少年、そして血に塗れ瀕死の主。
怒りに、視界が赤く染まった。
轟音。
大量出血のせいか、霞む目を凝らす。
――自分とギーシュの間に、紫のローブを纏った背中が立ち塞がっていた。
ああ、きてくれたんだ。よかった。もう、あんしんだ。
「りゅう、おう」
「喋るな、主」
杖でギーシュを牽制しながら、片手でルイズを即興の槍から引き抜くりゅうおう。
苦悶の息が漏れ、血が噴き出す。りゅうおうはすぐに回復魔法『ベホマ』を起動。ルイズを床に寝かせる。
あまりに深い致命傷だったが、何とか間に合ったらしく、傷は塞がっていった。
怒り狂う使い魔は後ろ手に回復を続行しつつ、剣を下ろした少年を睨みつける。
ギーシュは、全てを諦めたかのように笑みを浮かべていた。
「好機を逃したか。――無念だよ」
「我が主をここまで傷つけた罪、千度殺しても尚余りある。死ね」
りゅうおうの杖に、膨大な量の魔力が集中する。発動すれば、塵も残さずギーシュを焼き尽くすだろう。
ルイズは震える腕を何とか動かし、ローブの裾をつまむ。
「りゅうおう、まって」
「喋るな、主。傷はまだ塞がっておらん」
使い魔の言葉を聞き流し、ルイズは掠れた声で続けた。
「ギーシュ、みごとだったわ。
ドットメイジでありながら、ここまでのけいびをすりぬけて、わたしにいちげきをくわえるなんてね。
みなおした。やるじゃないの」
「は。ここまで絶好の条件でありながら、殺せなかったのは僕の落ち度だ。
褒められるようなことじゃないよ」
「喋るなと言っておろうが、貴様も黙れ!」
激昂するりゅうおうを尻目に、ルイズは荒い息を隠そうともせず言葉を継ぐ。
「いいえ。たまたまりゅうおうはいなかったけれど、
そうでなくともあんたはやったはず。
すぐにころされるのをかくごで、いちげきにすべてをかけてね。
そのかくごとじっこうりょく、しょうさんにあたいするわ。
ねぇ、いまからでもおそくはないわ、わたしたちのなかまにならない?
あんたになら、せかいの5%くらいはくれてやってもいいわ」
ギーシュは鼻を鳴らした。
「冗談にしても最悪の部類だね。殺せ」
「ならばその望み、叶えてやろう!」
杖を振り下ろそうとするりゅうおうはしかし、後ろからローブを引かれる感触に動きを止める。
「主よ……! 何故止める!」
「ひつようだから。……そいつをちかろうに。けっしてみはりをおこたらないよう」
「は、はい!」
ようやく現れた武官達に命じるルイズ。
ギーシュは杖を取り上げられ、数人に拘束されて運ばれていった。
「まったく。あるじのいうことはちゃんとききなさい、りゅうおう」
「何故止め……いや、いい、喋るな主」
「だいじょうぶよ。あんたがこうしてくれてるんだから。
あいつはグラモンけのゆいいつのいきのこり。いかしておけば、なにかとべんりよ」
「回復魔法では傷を塞ぐことしか出来ぬと、知っておろうが!
いい加減に黙らんかこの痴れ者が!」
激怒する使い魔を前に、ルイズは青白い顔でくすりと笑う。
「ふふ。しんぱいしてんのね、あんた」
「当たり前であろうが! 黙れ!」
ルイズはその笑みをやがて大きくし、肩を震わせて笑い始めた。
「ふ、ふふふふ!
ねぇりゅうおう、あんたはわらう?
たかがどっとめいじひとりとゆだんして、そのけっかがこれよ!
あはははは! こっけいね! これが『まおう』ですって!」
「主!」
「ふふふふふふ!
ねぇきいてよ、わたしね、もしかしたら、
じぶんからいけんをいいにくるなんて、ギーシュはなかまになるのかもっておもってた!
もとは、おなじがくいんせいなんだしって! あはははははは!
ここまでしておいて、なにをいまさら! はははは!」
ルイズは自嘲する。
――ああ、そうだ。愚鈍なことこの上無い。
私は、人に恨まれることをしてきた。
数え切れない程に人を殺し、多くの村を、町を、国を、叩き潰し、蹂躙した。
後悔はしていない。全ては、目的のため。必要な行動だ。
その私が! 今更!
「主……」
「あははは!
そう、はじめから、こうしておけばよかった!」
ルイズは右手を掲げ、魔力を集中する。
『水の指輪』が起動。城内全てに、力の波紋を広げていった。
「ギーシュがつえをもってここまではいってこれたということは、
じょうないにそのてびきをしたやつがいるはずよ。
これで、あんしん。じょうないのほとんどのにんげんは、かんぜんにあやつれるわ」
有事にそなえ、『水の指輪』を使うための下準備は済ませてある。
特に城内の人間には、秘薬を混入した食事や水を摂取させることで、
『完全盲従』という暗示をかけることに成功していた。
「わかった、もうよい。休め、主」
「あはは……はぁ」
ルイズは再び、ローブの端を握り締めた。
ローブでルイズを包むように、抱きしめるりゅうおう。
「……あんたのからだ、つめたいわね」
「ああ。竜であるからな」
ルイズは微笑む。
それまでのような狂乱したものではなく、穏やかな、安心し切った赤子のような笑み。
「……ほんと、つめたい。ああ、でも――」
きもちいいわ、と呟き、ルイズは瞼を閉じた。
りゅうおうは睡眠魔法『ラリホー』を使った手を下ろし、杖をしまって両手でルイズを抱き上げる。
まさに、一国の姫を攫う魔王のような構図。
それにしては、その手つきは、酷く慈愛に溢れていたが。
「…………」
ルイズの寝室にたどり着き、ゆっくりとベッドに下ろす。
枕元に置かれた宝玉を起動。魔力で編まれた、緑色の幕が豪奢なベッドを包み込む。
元の世界にあった結界装置を更に改良したもので、
耐衝、耐熱冷、防音、更に魔法を反射する『マホカンタ』の機能をも併せ持ち、
りゅうおう以外の内部への侵入を決して許さない、鉄壁の守り。
例え城が崩落しようとも、ルイズはそれに気付かず眠り続けるだろう。
「…………」
りゅうおうはしばらくの間、眠る主の姿を見つめ、やがて部屋を出た。
廊下を渡り、階段を下る。進むにつれ、徐々に騒音が大きくなっていく。
爆発音に、風を切る音。何者かが、戦闘しているのだ。
「そこまでだ」
その階全体を貫く、一際広大な廊下。
護衛を勤めるタバサと共に、数人の近衛兵が奮戦していた。
相手は、4人。
その内の1人――燃えるような赤髪の少女が、現れたりゅうおうを見て目を剥く。
「な――!」
「そこの貴様ら。我が相手をしよう。それが目的であろう?」
驚きを露わにしてこちらを向くタバサ達に向けて、顎をしゃくる。
「貴様らは、上で主の護衛だ。決して誰も近づけるな」
「しかし――」
「行け」
たった二文字の言葉に込められた感情を瞬時に汲み取り、タバサは顔を青ざめながら頷く。
他の兵たちを引き連れ、上のフロアへと去っていった。
「まさか、そっちから来るとはな。前の戦いでつけられなかった決着、ここで決めてやる」
言葉と共に、2本の剣を構える少年。他の3人も体勢を整える。
りゅうおうは笑い、演説するかのように手を広げた。
「まぁ待て。ここで我が戦っては、城が無くなってしまう上に人的被害も膨大だ。
それは、貴様らにとっても不都合であろう? 場所を変えるぞ」
「ど――」
どこに、とメイドが続ける暇も無く、彼らの体は遠方へ転移されていった。
「……ここは、アルビオン?」
「そうだ。ここでなら、周囲を気にする必要はあるまい」
半年ほど前、7万のアルビオン軍とルイズ達が対峙した草原。
りゅうおうと4人は、一瞬にしてそこに辿り着いていた。
転移魔法『ルーラ』及び『バシルーラ』を併用した結果である。
「さて、戦う前にひとつ聞いておきたい」
「何でしょうか?」
ハーフエルフの少女が、背の丈ほどの大きな杖を構えながら返す。
「先ほどの小僧。あれは、貴様らの差し金か?」
キュルケが厳しい表情で答える。
「……ええ、そうよ。ここにあんたが居るってことは、失敗ってことだろうけどね」
「ククク。いや何、立派であったぞ。主も賞賛していた。
いやいやしかし、そちらも中々に残酷な作戦をとるものだな。
戦力にならないドットメイジに、一か八かの特攻をさせるとは」
りゅうおうの嘲笑に、キュルケは悔しげに唇を噛み締めた。
「……あいつの発案よ。私たちに、その覚悟を止める資格は無い」
「なるほど。ああ、しかしなるほどなるほど――貴様らの策か」
何を言いたいのか。シエスタは訝り、そしてすぐあることに気付く。
りゅうおうの瞳。
普段は黄色のそれが、真っ赤に染まっていた。
「…………っ!」
シエスタは直感する。まずい。
あれは、逆鱗だ。
「よくも、主をあのような目にあわせてくれたものだ」
戯れるような口調。
それを口にするりゅうおうの脳裏には――血まみれで苦しげに喘ぐ、主の姿があった。
りゅうおうの額のルーンが、輝き出す。
「――皆殺しだ」
りゅうおうは、真の姿を見せた。
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