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#navi(ゼロの赤ずきん)
活路を見出すと言っても何をすればよいのか。ルイズは思い悩んでいた。
まず、初めに考えが及んだのは、今の段階で、これ以上、機密情報であろうアンリエッタの話を、
バレッタに聞かせるわけにはいかないことだった。
なぜなら、話を聞いたバレッタが、敵に回るか、それとも善意からでないとしても味方になるか、
それらの問題が宙に浮いたままで、話を進めるには危険すぎるからだ。
バレッタは、利によってのみ動く。
ならば、第一に、バレッタがどこに身を置くかを明確にさせておかなければならない。
おそらく、今は現在、バレッタは見定めているはずと考えた。
目の前にいる王女を、どのように利用するか、その価値を最大限に引き出すことができる手段を模索しているに違いない。
その末、出した答えが、アンリエッタにとってプラスに働くか、はたまたマイナスに働くかはわからない。
だが、手段を選ばないバレッタにおいては、どんな答えであろうと、危険性を孕むだろう。
ならば、バレッタが、この先の指標を定める前に、こちらから、道を指し示すことが肝要と言えるのでは、とルイズは考えた。
床に膝をつくルイズの背中に、冷たい汗が伝う。
失敗は許されない。
出した答えは、ルイズにとってもそして、アンリエッタにとっても、命がけの綱渡りであることには違いなかった。
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」
自らが持つ悩みを、そのような切り口で喋り始めたアンリエッタ王女は、苦々しい表情を作った。
「本来ならば、あなたに話すと、迷惑がかかるかもしれない危険がある話なので、避けたいことではあるのですが、
恥ずかしながら、わたくしの周りには、心から信頼できる者は数えるほどもいません、
それに、事は一刻を争うのです。ああ、無理をお願いしてしまう、このわたくしをどうか許して頂戴、ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは、目をつぶり、感慨深げに両手を組み許しを乞うよう祈るような動作をした、
その動作一つ一つが舞台劇で行われる、演技そのもののようにバレッタの目には映った。
王族ともなると、このような振る舞いが普通なのだろうかと、バレッタは解釈した。
アンリエッタの言葉を受けると恭しくルイズは答えた。
「許しなど、とんでもございません、昔はなんでも話し合った仲ではありませんか!
私をおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。そのおともだちに、相談や悩みを話すことや、
ものを頼むのに、何の遠慮が要りましょうか?何なりとお申し付けください、姫さま」
ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。
その後、アンリエッタは、決心したように頷くと、語り始めようとした。
しかし、それをルイズは言葉で遮った。
「……でも!姫さまのお話の前に、一つよろしいでしょうか?」
「まあ、なんでしょうか?」
ルイズの意外な発言にアンリエッタと共に、目を丸くしていたバレッタに、ルイズは視線を向けた。
生唾をゴクリと飲み込み、少し、緊張した面持ちでルイズは喋った。
「……バレッタ、あんたこの場から、席を外しなさい」
その瞬間、ルイズの周辺を纏う空気だけが、明らかに変化した。
重苦しく、そして、針のむしろのように刺々しく、ルイズに息苦しいまでの圧迫感を与えている。
原因は勿論、バレッタであった。
ルイズは、自分に向けられているバレッタの目を見た。
その目には明らかに殺意が込められている。淀んだような、奈落の底のような何もかも飲み込んでしまいそうな目。
無論アンリエッタには気づいていない。頭にすっぽりかぶった赤い頭巾によって、横からでは表情は見えない。
このためにバレッタは頭巾をかぶっているのかも知れないと思った。
バレッタの目は訴えている。
“ビジネスの邪魔をするな、ブっ殺すぞ”と
最初は、お手軽に利用できる相手として認識され、
フーケの盗賊騒ぎの後は、関わっても得のない相手だという認識に改められ、
そして、今、バレッタのルイズに対する認識は排除すべき敵に格上げされようとしていた。
ルイズの背筋が凍る。今にも震えだしたい心持ちを辛うじて抑え、気を保とうとした。
何故、ルイズはこれほどまでにバレッタに恐怖や危機感を抱いているか。
それは勿論、バレッタの狡猾さや、金銭に対する異常なまでの執着心や、メイジを倒したこと、
必要ならば相手の命までも取る決断を、簡単にするであろう残酷性が理由にあることは間違いのないことであった。
しかし、恐れる理由はそれだけではなかった。
ルイズが知る限り、バレッタはここハルケギニアに呼び出されてから、
一度も、まともに戦っていない。正確にいえば、戦闘能力を露わにして戦ったことはないということだ。
ギーシュとの決闘もフーケ捕縛のどちらに関しても、謀略を巡らせ、相手を隙をついて倒したり、
相手の力を最大限に抑え、捕えている。
自身の力が及ばないから、策略を用いているわけでなく、
むしろ、その実力を出し渋っているようにルイズは思えた。
『この程度のことで使うのは勿体ない』
そう考えているように見えたのだから。
それならば、バレッタは、その幼く小さな体に内包している実力を、
ひた隠しにしたまま、魔法使いであるメイジを打倒したことになる。
魔法が使えない平民であることには間違いないのにも関わらず、そうであるのだから、異常としか言いようがない。
ルイズは知っている。
腕に下げたバスケットの中に用途不明の数々の武器が、未だその真価を見せずに眠っていることを。
ハンターとして魔物を倒してたというのは本人からの伝聞にすぎないもので、真偽はわからない。もしかしたら嘘かもしれない。
だが、ルイズはバレッタの実力を疑っていなかった。
それは、確信といってもよかった。
その確信を抱くに至る理由の一つとして、不確定要素も含まれていたが、それもまた無視できないものであった。
つまり、ルイズが出した答えは、
正面から戦ったとしても、バレッタはメイジにさえ通用するだけの力を備えている、というものである。
それに加えてあの性格。恐怖を抱くなというほうが無理がある。
襲いかかる恐怖と闘いながら、唇を強く噛み、ルイズは目で必死にバレッタに対して訴えかける。
“決して悪いようにはならないから大人しく従って”、と
アンリエッタがルイズの言動に対し、不思議そうに言った。
「メイジにとっては使い魔は一心同体。席をはずす理由はありませんが……。少なくともわたくしは構いません」
「いえ、これは、バレッタのためなのです、姫さま。それにバレッタには後で詳細は話すつもりです」
ルイズはきっぱりと言い切った。無論、この言葉の真意を伝えたい相手はアンリエッタにではなく、バレッタであった。
その言葉を受けたバレッタは、猜疑心をむき出しにした、冷酷な眼差しでルイズを見定めた。
ふと、先ほどまでの、険悪な表情から柔和な態度に瞬時に切り替わった。
「うんっ。ルイズおねぇちゃんがそう言うなら、部屋の外で待ってるよっ♪ヒメサマっまたね」
アンリエッタとバレッタが笑顔で互いにひらひらと、手を振った。
バレッタは、スタスタと、軽い歩調で部屋の扉まで行くと、
アンリエッタに向かって満面の笑みをくれ、恭しく礼をしたのち扉を閉めた。
その後、何か争うような音が、僅かにルイズの耳に届いたが、今、そこまで気にする余裕はなかった。
ルイズは、心の中で安堵のため息をついた。まずは一段階は通過した。だがこれからが問題だ。
アンリエッタに向きなおったルイズは言った。
「姫さま、お話を進めてください、謹んでお聞きいたします」
「わかりました。ルイズ・フランソワーズ。実は話というのは……」
……そして、アンリエッタが話し始めてから半刻ほど過ぎたころ、バレッタの入室が命じられた。
「お話は終わったのぉ?」
「いえ、まだ途中だけど、あんたの意見を聞かないといけないことがあるから呼んだの」
「……なに?いいこと?」
バレッタにも予想できないことであった。
二人の言葉を黙って待つバレッタに対して、アンリエッタが柔らかい口調で喋りかけた。
「突然だけど、バレッタちゃん。あなた、宮殿に来て、わたくしに仕えてみませんか?
勿論、あなたの主人であるルイズとは承諾済みです」
「え゛え゛ぇ!?」
思わず踏まれた蛙の鳴き声のような驚きの言葉をもらしてしまったバレッタ。
ルイズが何かを企んでいることは百も承知で、とりあえず泳がせてみたが、
まさか、こんな展開になるとはバレッタ自身も予想外であった。
アンリエッタは首を少しかしげて、きょとんとした顔をしている。
バレッタは、横にいるルイズに体を寄せ、アンリエッタに聞こえないように囁いた。
「一体、何を吹き込んだわけぇ?」
ルイズも声をひそめて言った。
「……端的に話すと、あんたが、貧乏大家族の唯一の稼ぎ頭で、仕送りをするため、稼ぎ口を探してるって言ったのよ
あんたの偽事情話したら、心やさしい姫さまは、ご同情してくださったのよ。……泣きたいわ、ホント」
良心の呵責、溢れ出す背徳感。押しつぶされそうなほどの罪悪感、
敬愛なる姫殿下に対して、嘘をつくことは、その信頼を裏切る行為であり、
貴族としての振る舞いを慮るルイズにとって、身を裂かれるような思いであった。
ルイズは絞り出すように一言一言を唇を噛みしめながら喋ったのだった。
「ふーん、で?」
「不本意だけど、あんたのことベタ褒めしたのよ。それと、私も知らなかったことだけど、
姫さまに言うには、土くれフーケを捕まえたのは、公では私ってことになってたらしいの、
逃げられたから白紙になったけど、そのこともちゃんと訂正して、あんたが単身でフーケを捕まえたことも話したわ。
……つまりわね、姫さまに、売り込んであげたの、ホント、ホントに不本意だけど」
何故、『土くれ』のフーケをルイズが捕まえたことになっているか。
それは、貴族達が、手を拱いて、対応に苦慮していた『土くれ』のフーケが、
使い魔とはいえ、平民の手によって捕まえられたとなれば、
貴族として、面目が立たない、なので表向きは使い魔の主であるルイズが、フーケを捕まえたことになっていたのだ。
バレッタは知らないことだが、学院は、報償や勲章云々は、申請していなかった。
「へぇー、ごくろーさんねっ」
二人の様子を中睦まじいものと思っているアンリエッタがバレッタに語りかけた。
「バレッタちゃん、お強いのですってね。とてもそうは見えないのですが、ルイズが言うのですもの間違いないわよね?
それで話し合ったのだけれでも、普段は表向きわたくし付きの侍女として、
そして有事の際にわたくしの力になってくれたらうれしいのだけれども……、
もちろんお給金はちゃんと用意させるわ、そこはわたくしがなんとしてでも言って聞かせます」
降って湧いた話ではあるが、バレッタにとって決して悪い話ではない。
王族の傍にいられるということは、それだけで何かと便利がいい。
それに、アンリエッタに関しても、考えるところがある。
しかし、何か納得ができない部分がある様な気がした。
バレッタは腕を組んで少しの間、考えを巡らせた。
話の先が見えないまま承諾していいものかと。
ルイズは、我ながら本当に、苦し紛れの、その場しのぎで方法であることは重々承知していた。
だが、今現在これ以外で思いつく術がない。
こちら側に身を置くと、宣言させた後でならば、幾分か危険性が減るといった程度、
つまりは、やらないよりはましだという具合であった。
無論、アンリエッタにバレッタのことを丸投げにするつもりは毛頭ない。
それが、自国の王女である、アンリエッタに嘘をついてまで画策した自分が通すべき筋であり、
負うべき責任であるとルイズは思っていた。
なんとしてでも、転機を逃さずアンリエッタの身の安全を確保しなければならない。
しかし、この策にバレッタが乗ってこなければ元の木阿弥、全てが振り出しに戻る。
いや、それならまだまし、もしかしたならば、バレッタが強行策をとってくるかもしれない。
そうなったならば、身を呈して、アンリエッタを逃がさなければならないとルイズは覚悟していた。
他の二人が考えにふけっている間、手持無沙汰なアンリエッタは疑問に思っていたことを聞いた。
「ところでルイズ?先ほど、なぜ、バレッタちゃんを退席させる必要があったのかしら?」
「え?そ、それは……」
本当の理由を言えるはずもなく、仕方なくまたルイズは嘘をついた。
「そ、それは、バレッタは、その、他人に対して気を遣いすぎるというか、遠慮しすぎるところがありましてー……?
謙虚ともいいますか……?とにかくバレッタが居合わせたら姫さまに遠慮して、話が進まなくなるかも……とか?
ですので差し出がましい真似だったとは思うのですが、バレッタ抜きで話を纏めておくのが肝要かと判断したわけでー……」
声がうわずって、話の途中で言い表しがたい拒絶反応が起こっていた。
気を遣いすぎる!?遠慮!?謙虚!?どこ産のバレッタよ!!?これ!!私自分で何口走ってんの!?
本心では、叫びだしたいほど憤りを感じている。
「そうなの、やっぱりいいコなのね。……何か知らないけど大丈夫?ルイズ・フランソワーズ」
「は、はいっ、勿論!……そ、それよりもバレッタ!バレッタはどうなの?姫さまにお仕えするの?しないの?」
バレッタの答えをルイズとアンリエッタは言葉静かに待った。
内心は穏やかではなく、ルイズの心臓は早鐘を打っていた。
バレッタは、何か思慮深げな面を一瞬だけ露わにしたが、その顔いっぱいに、柔らかな笑みを浮かべる。
そしてスカートの両端を手で摘み上げ、恭しくアンリエッタに向かって頭を下げた。
「そのお役目、よろこんでお受けしちゃいまーすっ♪」
アンリエッタは嬉しそうに両の手のひらを合わせ、ルイズは思わず小さくガッツポーズをした。
はやる思いをなんとか抑えルイズは言った。
「なら、姫さま」
「ええ、そうですね。ルイズ」
「?」
不思議そうな顔をするバレッタに対し、凛とした表情で、アンリエッタは言い放った。
「此度、わたくしが授ける任務を見事果たした暁には、わたくしの従者として、働けるよう手配いたします。
これは、トリステイン王国王女アンリエッタの確約です。」
バレッタが一瞬固まった。
「……?……う゛ぇっ!」
そしてすぐに状況を理解した。元からルイズがそういう話に持って行っていたに違いなかった。
“任務を果たしたなら”なんていう条件なんざ聞いてねぇえっつのっ!
ルイズの計略もバレッタの心情も与り知らないアンリエッタは続けて喋り始めた。
「それでは、バレッタちゃんにも、事の詳細を話さなければなりませんわね、最初から話すことになりますが、実は……」
……チッ!任務を無事に果たさないと、ヒメサマに近づけないってか?
かといって、この場で、ヒメサマをどうかするなんていう、アホな真似はできねーしぃ、もったいない、……チクショウ。
ジョウトーよっ、このピンク頭っ!
お望み通り、任務を完遂させてやろうじゃねーのっ!
……まっ、任務の内容によるけどっ♪
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