「白き使い魔への子守唄 最終話 白き使い魔への子守唄」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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かつて、私はお父様の望みをかなえようとした。
――我ヲ滅セヨ。
うん、いいよ。私はお父様の願いをかなえる。
でも、私の力ではお父様を滅ぼす事はできなかった。
だから眠らせた。深い地の底に。お父様の願いをかなえられないまま……。
最終話 白き使い魔への子守唄
「再ビ我ト契約シ、自ラ契約ヲ断チ切リ、終止符ヲ打テ。
ウタワレルモノ、ルイズ……」
そう言うとハクオロは、ルイズを乗せてない方の手を自身の胸に当てて続けた。
「魔法トハ精神力……汝ガ不本意ナガラモ十六年間溜メ続ケタソレヲ、
今マデノヨウナ小出シデハナク、スベテヲ解放シ……其処ニ契約ガ加ワレバ……」
他にどうしようもない事が、使い魔のルーンから得られる感情や情報で解ってしまうから、
ルイズはうなずくしかなかった。
ハクオロが平穏を望んでも、分身が消える訳ではない。
そしてウィツァルネミテアの本能が、必ず禍を呼ぶ。
だから。
「……ええ。結ぶわ、その契約!」
高らかにルイズは答え、高らかにハクオロは応じた。
「今、ココニ契約ハ成立シタ」
「汝、虚無ノ魔法ヲ行使シ」
「我ヲ滅セヨ!」
「我ヲ滅セヨ!!」
「我ヲ滅セヨ!!!」
楔は――大神(オンカミ)に逆らった時、その五体を引き裂く。
しかし契約の内容は、大神(オンカミ)ウィツァルネミテアを滅する事。
ゆえにルイズは滅さねばならない。
再び黒く染まってしまう前に、己の白き使い魔を。
ルイズは自身に宿った契約の力を感じ取り、その威力を理解した。
虚無の魔法を最大の力で行使すれば、いかに神とはいえ……。
――お父様を眠らせて上げて――
「ええ、ムツミ。あなた達、親子の願い……確かに聞き届けたわ」
白き巨人となったハクオロの手の上で、ルイズは杖をかざす。
ハクオロの、もう一人の娘、ムツミ。
もっとも色濃くウィツァルネミテアの力を受け継いだマルタ。
その危険性から肉体を分解、破棄処分されたロストナンバー。
しかし脳だけの存在となりながら、テレパシーによってアイスマンに語りかけ、
名を授かり、親子の情を深めていった哀れな娘。
アイスマンが他のマルタ達と逃亡した時も、ムツミだけは連れ出せなかった。
しばらくして、アイスマンは地下へと連れ戻された。
アイスマンはミコトを殺された怒りと憎しみから、
ウィツァルネミテアとして覚醒し暴虐の限りを尽くした。
しかし人類を滅しようとしながらも、自分を止めてくれと彼は願った。
止める事ができぬなら、我を滅せよと。
その願いに答えたのがムツミだった。
ムツミは超能力を使い衛星兵器に意識を介入させ、
人類が暮らしていた地下施設ごとウィツァルネミテアを焼き尽くした。
しかしウィツァルネミテアは滅びなかった。
やむを得ずウィツァルネミテアを封印し眠らせたムツミは、
翼を持つ種族オンカミヤリューの始祖となって、その血と魂を残した。
本来白い翼を持つオンカミヤリューの中に生まれる、黒い翼のもの。
それは始祖の生まれ変わりであり、
ムツミが持つ数多の人格が表面化しているにすぎない。
そして必要とあれば、ムツミとしての人格を覚醒させ、現世に再臨する。
それがムツミという娘だった。
ルイズとムツミは声がとてもよく似ていると、ハクオロは思い出していた。
ムツミと同じ声で、ルイズが虚無の詠唱を始める――。
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」
虚無の詠唱は、虚無の使い魔にとってかけがえのないもの。
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」
それは赤ん坊が母親の子守唄(ユカウラ)を聴き安堵するのにも似ている
「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」
だからこの詠唱は、ルイズとハクオロの別れを告げるこの魔法は。
「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」
白き使い魔への子守唄――。
「エクスプロージョン」
白き閃光がハクオロを、そしてルイズを包む。
タルブの村の真ん中に、天空にまで届く光の柱が立つ。
虚無の光。
原子に直接働きかける虚無の魔法は、衛星兵器でさえ滅せなかったものを滅していった。
虚無の使い魔、記すことさえはばかられるもの。
神の元凶、ウィツァルネミテアを永久に眠らせるための輝き。
うたわれるもの、ルイズの起こす奇跡。
ルーンが教えてくれる。
ハクオロに痛みはない。
母に抱かれる赤子のように、優しいぬくもりに包まれている。
何もかもが白く染まる世界の中、ルイズは目を開いた。
「ハクオロ……」
そこには異国の衣装に白い仮面の、人間の姿のハクオロがいた。
彼は優しい笑みを浮かべて、とても嬉しそうだ。
「伝説の虚無の力に目覚めたんだ……もう誰にも"ゼロ"などとは呼ばれないな」
ううん、とルイズは首を横に振る。
目頭が熱くなって、視界が歪み、服の袖でそっと拭う。
「そんな事……ない。私はやっぱり"ゼロ"のままよ。
だって、だって自分の使い魔一人、満足に護れない。ハクオロを救えなかった」
いいや、とハクオロは首を横に振る。
さみしげだが、大地を包み込むような慈悲に満ちた表情だ。
「目を覚まし禍を大地に振りまくか、あるいは禍を孕んだまま永久に眠り続けるか。
それしか選択肢の無かった私が、ようやく人としての最期を迎えられる」
「……ハクオロ…………!」
ルイズはハクオロの胸に飛び込むと、涙で濡れた顔を押しつけた。
「本当なら、大封印の中で眠り続けていられたはずのハクオロを、
私が……召喚なんかしたせいで……目覚めさせてしまったせいで……」
「いいんだ。我を滅せよという願い、ようやくかなった。
これでもう、二度とこの世に禍(わざわい)を振りまく事なく……。
永久(とこしえ)に……眠れる……だから……」
「また、逢えるわよね?」
「ああ。もし……生まれ変われるのなら……。
ミコトと再びめぐり逢えたように……。
デルフと、シエスタを連れて……ルイズ、また君と……。
刻を越えて……再び……」
二人の姿が白い世界に溶けていく。
しかし互いに、進むべき場所は違っていた。
これが、二人が交わす、最後の言葉。
「おやすみ……ルイズ……」
「……おやすみ、ハクオロ」
虚無の白光が消えると、そこに白い巨人の姿はなく、
ルイズは一人でタルブの村にに立っていた。
胸に穴が空いてしまったようなさみしい気持ちと、小さな希望のぬくもり。
きっとまた逢える日が来る。
その時、ルイズはルイズではなく、ハクオロはハクオロではないかもしれない。
けれどいつか、魂がめぐり逢う日を、二人は信じていた。
こうして、うたわれるものと白き使い魔の物語は終焉を迎えた。
ハクオロの姿が消えてすぐ、アルビオン兵は投降し捕虜となった。
謎の巨人を倒した虚無の後光のおかげかもしれない。
けれど戦争までは終わらなかった。
タルブの村は戦争が終わるまで復興の目処が立たない。
シエスタのお父さんはすっかり塞ぎ込んでしまっている。
魔法学院でも、メイド達がシエスタの死を悼んでいて、ルイズも隠れて泣いた。
土くれのフーケは逃げ延びたようだが、ルイズに復讐する気はなかった。
だが戦場で出会った時、どうなるかは解らない。
殺したくはないが、償いはさせたかった。
ウェールズ皇太子は今度こそ護るための戦いをするとアンリエッタに誓い、
トリステイン王国に留まり平和のために尽くした。
タバサは――母親を連れてゲルマニアに亡命。
ツェルプストー家に面倒を見てもらっているらしい。
けれどいずれ、真の平穏を手に入れるため、ガリアと戦う覚悟がある様子。
ハクオロだけでなくルイズにも恩義を感じているらしく、
ルイズを助けにトリステインへ戻ってくる事もあった。
トリステイン王国の、いや、ハルケギニア平和は遠い。
タルブの村で壊滅的な打撃を受けながらも本国に多大な軍隊を残すアルビオン。
レコン・キスタを裏から操るガリアの影。
聖地を目指すためすべてを利用しようとするロマリア。
それぞれの国の思惑が交差していく中、歴史の表舞台へと現れる四人の虚無と四人の使い魔。
元凶たるものがいなくとも、人は争う。
己の欲のため、大切なものを護るため。様々な理由で。
左手にルーンを刻んだ少年が、小さな村を護るために青き光沢のアヴ・カムゥを駆る。
右手にルーンを刻んだ青年が、聖地を奪回すべく白毛をなびかせる猛虎に騎乗する。
額にルーンを刻んだ美女が、主命に従い両腕にはめられた腕輪の白光珠と黒闇珠をきらめかせる。
そんな中、ルイズは使い魔を自ら滅した悲しみに屈せず、強く生きている。
虚無の担い手として相応しい行動を取ろうと、一生懸命に考え、
ハクオロが望まなかった戦争という悲劇を止めようとしても、やはり戦争に身を投じるしかなく、
傷つきながらも、ハクオロがくれた強さと優しさを今も胸に抱きしめて。
虚無の担い手という肩書きではなく、
ルイズという名前こそが戦いの終えた未来に伝わり"うたわれるもの"となる日まで。
白き使い魔への子守唄――完
時は折り重なり、数多の試練を越え、さらなる試練を越えるために――。
二度と使うまいと思っていたその魔法を、使わざるえない状況に追い込まれてしまった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
その魔法がもたらした出会いと別れは、今もルイズの心に深々と刻まれている。
「五つの力を司るペンタゴン!」
再び禍を呼び出してしまうかもしれない危険はあった。しかし。
「我の運命に従いし」
そうならないという確信があった。
「"使い魔"を召喚せよ!」
呼ばれている。
必要とされている。
お父様の遺志を感じる。
だから、彼女は、そっと別れを告げた。
――さようなら、もう一人の私。
「えっ……!?」
銀髪黒翼の少女は、確かにもう一人の自分の声を聞いて、
その気配がこの世界から消え去るのを感じた。
今一度、唄おう。
虚無ではない彼女自身の名が歴史に刻まれ、うたわれるその日まで。
始祖の遺志を正しく継ぎ聖地を真の敵から奪回するために。
こちらの世界のすべての元凶に決着をつけるために。
――後に【黒き使い魔との夢想歌】と呼ばれる伝説が生まれる。
伝説を操り英雄としてうたわれるものと、黒翼の使い魔の物語。
それを伝える文献は数多く残されている。
その中の一冊に【白き使い魔への子守唄】という一節が在った。
それはうたわれるものが歴史の表舞台に立つ前の短い物語だという。
【白き使い魔への子守唄】は娘へと伝えられたという。
しかしいくら調べてもヴァリエール家にそのようなものは残されていない。
とある時代、とある場所。
双月の輝き、星々がまたたく、黒き大空の見える窓の一室で。
「この本を受け取って」
「……これは……?」
「私達の成した事は歴史に記されるでしょうけど、
貴女のお父様との出来事はあまり知られてないし、吹聴する気もない。
けれど伝えたい人達がいる。
だから、この本は娘の貴女が持って行って」
「……そうする」
「……これで、私の役目はおしまい。
ねえ、あなたの故郷の子守唄、聴かせてくれない?
昔、聴かせてもらった事があるの。お願い」
「うまく歌えるか解らない。それでもいいのなら」
「それでもいい。ありがとう、ムツミ」
――静かに訪れる 色なき世界
振り返れば、いなくなってしまった人々が微笑んでいる。
いつか自分も其処へゆくのだろう。
その刻こそ彼女が契約を終え、門を開き故郷へと還り唄を伝えるものとなる。
永久の別れではない。
いつかめぐり会うために。
すべての時を止め 眠りにつく――
「おやすみなさい、ルイズ」
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かつて、私はお父様の望みをかなえようとした。
――我ヲ滅セヨ。
うん、いいよ。私はお父様の願いをかなえる。
でも、私の力ではお父様を滅ぼす事はできなかった。
だから眠らせた。深い地の底に。お父様の願いをかなえられないまま……。
最終話 白き使い魔への子守唄
「再ビ我ト契約シ、自ラ契約ヲ断チ切リ、終止符ヲ打テ。
ウタワレルモノ、ルイズ……」
そう言うとハクオロは、ルイズを乗せてない方の手を自身の胸に当てて続けた。
「魔法トハ精神力……汝ガ不本意ナガラモ十六年間溜メ続ケタソレヲ、
今マデノヨウナ小出シデハナク、スベテヲ解放シ……其処ニ契約ガ加ワレバ……」
他にどうしようもない事が、使い魔のルーンから得られる感情や情報で解ってしまうから、
ルイズはうなずくしかなかった。
ハクオロが平穏を望んでも、分身が消える訳ではない。
そしてウィツァルネミテアの本能が、必ず禍を呼ぶ。
だから。
「……ええ。結ぶわ、その契約!」
高らかにルイズは答え、高らかにハクオロは応じた。
「今、ココニ契約ハ成立シタ」
「汝、虚無ノ魔法ヲ行使シ」
「我ヲ滅セヨ!」
「我ヲ滅セヨ!!」
「我ヲ滅セヨ!!!」
楔は――大神(オンカミ)に逆らった時、その五体を引き裂く。
しかし契約の内容は、大神(オンカミ)ウィツァルネミテアを滅する事。
ゆえにルイズは滅さねばならない。
再び黒く染まってしまう前に、己の白き使い魔を。
ルイズは自身に宿った契約の力を感じ取り、その威力を理解した。
虚無の魔法を最大の力で行使すれば、いかに神とはいえ……。
――お父様を眠らせて上げて――
「ええ、ムツミ。あなた達、親子の願い……確かに聞き届けたわ」
白き巨人となったハクオロの手の上で、ルイズは杖をかざす。
ハクオロの、もう一人の娘、ムツミ。
もっとも色濃くウィツァルネミテアの力を受け継いだマルタ。
その危険性から肉体を分解、破棄処分されたロストナンバー。
しかし脳だけの存在となりながら、テレパシーによってアイスマンに語りかけ、
名を授かり、親子の情を深めていった哀れな娘。
アイスマンが他のマルタ達と逃亡した時も、ムツミだけは連れ出せなかった。
しばらくして、アイスマンは地下へと連れ戻された。
アイスマンはミコトを殺された怒りと憎しみから、
ウィツァルネミテアとして覚醒し暴虐の限りを尽くした。
しかし人類を滅しようとしながらも、自分を止めてくれと彼は願った。
止める事ができぬなら、我を滅せよと。
その願いに答えたのがムツミだった。
ムツミは超能力を使い衛星兵器に意識を介入させ、
人類が暮らしていた地下施設ごとウィツァルネミテアを焼き尽くした。
しかしウィツァルネミテアは滅びなかった。
やむを得ずウィツァルネミテアを封印し眠らせたムツミは、
翼を持つ種族オンカミヤリューの始祖となって、その血と魂を残した。
本来白い翼を持つオンカミヤリューの中に生まれる、黒い翼のもの。
それは始祖の生まれ変わりであり、
ムツミが持つ数多の人格が表面化しているにすぎない。
そして必要とあれば、ムツミとしての人格を覚醒させ、現世に再臨する。
それがムツミという娘だった。
ルイズとムツミは声がとてもよく似ていると、ハクオロは思い出していた。
ムツミと同じ声で、ルイズが虚無の詠唱を始める――。
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」
虚無の詠唱は、虚無の使い魔にとってかけがえのないもの。
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」
それは赤ん坊が母親の子守唄(ユカウラ)を聴き安堵するのにも似ている
「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」
だからこの詠唱は、ルイズとハクオロの別れを告げるこの魔法は。
「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル」
白き使い魔への子守唄――。
「エクスプロージョン」
白き閃光がハクオロを、そしてルイズを包む。
タルブの村の真ん中に、天空にまで届く光の柱が立つ。
虚無の光。
原子に直接働きかける虚無の魔法は、衛星兵器でさえ滅せなかったものを滅していった。
虚無の使い魔、記すことさえはばかられるもの。
神の元凶、ウィツァルネミテアを永久に眠らせるための輝き。
うたわれるもの、ルイズの起こす奇跡。
ルーンが教えてくれる。
ハクオロに痛みはない。
母に抱かれる赤子のように、優しいぬくもりに包まれている。
何もかもが白く染まる世界の中、ルイズは目を開いた。
「ハクオロ……」
そこには異国の衣装に白い仮面の、人間の姿のハクオロがいた。
彼は優しい笑みを浮かべて、とても嬉しそうだ。
「伝説の虚無の力に目覚めたんだ……もう誰にも"ゼロ"などとは呼ばれないな」
ううん、とルイズは首を横に振る。
目頭が熱くなって、視界が歪み、服の袖でそっと拭う。
「そんな事……ない。私はやっぱり"ゼロ"のままよ。
だって、だって自分の使い魔一人、満足に護れない。ハクオロを救えなかった」
いいや、とハクオロは首を横に振る。
さみしげだが、大地を包み込むような慈悲に満ちた表情だ。
「目を覚まし禍を大地に振りまくか、あるいは禍を孕んだまま永久に眠り続けるか。
それしか選択肢の無かった私が、ようやく人としての最期を迎えられる」
「……ハクオロ…………!」
ルイズはハクオロの胸に飛び込むと、涙で濡れた顔を押しつけた。
「本当なら、大封印の中で眠り続けていられたはずのハクオロを、
私が……召喚なんかしたせいで……目覚めさせてしまったせいで……」
「いいんだ。我を滅せよという願い、ようやくかなった。
これでもう、二度とこの世に禍(わざわい)を振りまく事なく……。
永久(とこしえ)に……眠れる……だから……」
「また、逢えるわよね?」
「ああ。もし……生まれ変われるのなら……。
ミコトと再びめぐり逢えたように……。
デルフと、シエスタを連れて……ルイズ、また君と……。
刻を越えて……再び……」
二人の姿が白い世界に溶けていく。
しかし互いに、進むべき場所は違っていた。
これが、二人が交わす、最後の言葉。
「おやすみ……ルイズ……」
「……おやすみ、ハクオロ」
虚無の白光が消えると、そこに白い巨人の姿はなく、
ルイズは一人でタルブの村にに立っていた。
胸に穴が空いてしまったようなさみしい気持ちと、小さな希望のぬくもり。
きっとまた逢える日が来る。
その時、ルイズはルイズではなく、ハクオロはハクオロではないかもしれない。
けれどいつか、魂がめぐり逢う日を、二人は信じていた。
こうして、うたわれるものと白き使い魔の物語は終焉を迎えた。
ハクオロの姿が消えてすぐ、アルビオン兵は投降し捕虜となった。
謎の巨人を倒した虚無の後光のおかげかもしれない。
けれど戦争までは終わらなかった。
タルブの村は戦争が終わるまで復興の目処が立たない。
シエスタのお父さんはすっかり塞ぎ込んでしまっている。
魔法学院でも、メイド達がシエスタの死を悼んでいて、ルイズも隠れて泣いた。
土くれのフーケは逃げ延びたようだが、ルイズに復讐する気はなかった。
だが戦場で出会った時、どうなるかは解らない。
殺したくはないが、償いはさせたかった。
ウェールズ皇太子は今度こそ護るための戦いをするとアンリエッタに誓い、
トリステイン王国に留まり平和のために尽くした。
タバサは――母親を連れてゲルマニアに亡命。
ツェルプストー家に面倒を見てもらっているらしい。
けれどいずれ、真の平穏を手に入れるため、ガリアと戦う覚悟がある様子。
ハクオロだけでなくルイズにも恩義を感じているらしく、
ルイズを助けにトリステインへ戻ってくる事もあった。
トリステイン王国の、いや、ハルケギニア平和は遠い。
タルブの村で壊滅的な打撃を受けながらも本国に多大な軍隊を残すアルビオン。
レコン・キスタを裏から操るガリアの影。
聖地を目指すためすべてを利用しようとするロマリア。
それぞれの国の思惑が交差していく中、歴史の表舞台へと現れる四人の虚無と四人の使い魔。
元凶たるものがいなくとも、人は争う。
己の欲のため、大切なものを護るため。様々な理由で。
左手にルーンを刻んだ少年が、小さな村を護るために青き光沢のアヴ・カムゥを駆る。
右手にルーンを刻んだ青年が、聖地を奪回すべく白毛をなびかせる猛虎に騎乗する。
額にルーンを刻んだ美女が、主命に従い両腕にはめられた腕輪の白光珠と黒闇珠をきらめかせる。
そんな中、ルイズは使い魔を自ら滅した悲しみに屈せず、強く生きている。
虚無の担い手として相応しい行動を取ろうと、一生懸命に考え、
ハクオロが望まなかった戦争という悲劇を止めようとしても、やはり戦争に身を投じるしかなく、
傷つきながらも、ハクオロがくれた強さと優しさを今も胸に抱きしめて。
虚無の担い手という肩書きではなく、
ルイズという名前こそが戦いの終えた未来に伝わり"うたわれるもの"となる日まで。
白き使い魔への子守唄――完
時は折り重なり、数多の試練を越え、さらなる試練を越えるために――。
二度と使うまいと思っていたその魔法を、使わざるえない状況に追い込まれてしまった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
その魔法がもたらした出会いと別れは、今もルイズの心に深々と刻まれている。
「五つの力を司るペンタゴン!」
再び禍を呼び出してしまうかもしれない危険はあった。しかし。
「我の運命に従いし」
そうならないという確信があった。
「"使い魔"を召喚せよ!」
呼ばれている。
必要とされている。
お父様の遺志を感じる。
だから、彼女は、そっと別れを告げた。
――さようなら、もう一人の私。
「えっ……!?」
銀髪黒翼の少女は、確かにもう一人の自分の声を聞いて、
その気配がこの世界から消え去るのを感じた。
今一度、唄おう。
虚無ではない彼女自身の名が歴史に刻まれ、うたわれるその日まで。
始祖の遺志を正しく継ぎ聖地を真の敵から奪回するために。
こちらの世界のすべての元凶に決着をつけるために。
――後に【黒き使い魔との夢想歌】と呼ばれる伝説が生まれる。
伝説を操り英雄としてうたわれるものと、黒翼の使い魔の物語。
それを伝える文献は数多く残されている。
その中の一冊に【白き使い魔への子守唄】という一節が在った。
それはうたわれるものが歴史の表舞台に立つ前の短い物語だという。
【白き使い魔への子守唄】は娘へと伝えられたという。
しかしいくら調べてもヴァリエール家にそのようなものは残されていない。
とある時代、とある場所。
双月の輝き、星々がまたたく、黒き大空の見える窓の一室で。
「この本を受け取って」
「……これは……?」
「私達の成した事は歴史に記されるでしょうけど、
貴女のお父様との出来事はあまり知られてないし、吹聴する気もない。
けれど伝えたい人達がいる。
だから、この本は娘の貴女が持って行って」
「……そうする」
「……これで、私の役目はおしまい。
ねえ、あなたの故郷の子守唄、聴かせてくれない?
昔、聴かせてもらった事があるの。お願い」
「うまく歌えるか解らない。それでもいいのなら」
「それでもいい。ありがとう、ムツミ」
――静かに訪れる 色なき世界
振り返れば、いなくなってしまった人々が微笑んでいる。
いつか自分も其処へゆくのだろう。
その刻こそ彼女が契約を終え、門を開き故郷へと還り唄を伝えるものとなる。
永久の別れではない。
いつかめぐり会うために。
すべての時を止め 眠りにつく――
「おやすみなさい、ルイズ」
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