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「巨人の使い魔-01」(2008/09/17 (水) 01:51:57) の最新版変更点
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#navi(巨人の使い魔)
第1話・伝説の始まり
トリステイン魔法学院の女子寮、
とっくに日は落ちていてあたりは真っ暗だが
その一室にだけ明かりがついていた。
その部屋の主は翌日に行われる使い魔召喚の儀式が
気が気でなく、いつまでたっても寝付けないために
寝るのをあきらめていた。
「はあ、もし留年しちゃったらどうしよう。」
重い溜息をつくのはルイズ・フランソワ―ズ・
ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
彼女の二つ名はゼロ、胸は大平原だが二つ名はそのせいではない。
魔法の才能がゼロだからだ。
彼女は生れてこのかた16年間一度も魔法が成功したことがない。
だが明日行われる使い魔召喚の儀式で成功しなければ留年となる。
魔法が使える貴族に生まれたからには絶対何か魔法が使えるはず、
そう信じてきた。出来そうな魔法はいままでほとんど試してみた。
だが成功しなかった。
だが、ここにきてルイズは1つだけ未だ試していない魔法があったことに
気がついた。
(もし成功しても契約の儀式をしなければ大丈夫よね、たぶん。)
杖を手に取りネグリジェ姿で呪文を唱える。
「・・・・・・・・・
五つの力を司るペンタゴン!
我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
すると1メイル程度の楕円形の鏡のようなゲートが出てきた。
「え、・・・これって成功?」
だが、ここで予想外のことが起きた。
本来なら使い魔となる者がでてくるゲートから強烈な光が発せられ、
ゲートに自分が逆に吸い込まれるような感覚を覚える。
「きゃあっ!」
眩しさで一瞬目を細め、それから眼をあけると目の前には違う世界が広がっていた。
上下左右、あらゆる方向にいろいろな景色が映る。
見たことのない高い塔が立ち並ぶ光景、
別の方向へ眼をやれば火山が噴火して15メイルはある竜が噴火から逃れている場面、
といった具合である。
驚くべきことは自分がまるで宙に浮いているかのようであることで、
自分の足元にもそうした光景が広がっている。
「な、なによこれ・・」
自分の周りの場面は次々と切り替わっていき、ルイズの顔は不安で引きつっていた。
突如、遠くに赤い点のようなものが見えた。
それは周りの場面が切り替わるにつれて自分に近寄ってきた。
「赤い、玉?」
まるで血のような色のガラス玉のような物体、大きさはリンゴほど。
それが点の正体だった。
それが目の前にくると、周りの視界がすべて同じ場面に切り替わった。
建物は瓦礫の山と化し、バラバラになった人の死体が燃え盛っている光景。
「な、なんなのよ一体。」
そこで再び猛烈な眩しさを感じ、目を細める。
目をあけるとそこはいつも通りの自分の部屋だった。
「今の、幻覚?一体・・・・そうだ、使い魔は?」
部屋を見渡すが自分以外に生き物は見当たらない。
つまり、失敗。
「はあ、サモン・サーヴァントもできないなんて、ほんとどうしよう。」
大きなため息をこぼしながらベットに戻ろうとすると
そこにはさっき見た赤い玉があった。
こんなものを部屋に置いた覚えはない。
気味が悪い、捨てようかと思ったときだった。
「願いを言え。」
声がした。だが部屋には自分一人しかいない。
「願いを言え。何でも叶う。」
「だ、誰?出てきなさい!」
声をしたほうを見ると、そこにはさっきの玉があるだけだ。
「まさか、この玉が?」
だとすればだれかのいたずらだろう。誰かがマジックアイテムを
買ってきて、悪戯に置いたのかもしれない。
それでもやっぱり本当に願いが叶うか試したくなり、その玉に
自分の一番の願いを言ってみることにした。
「魔法が使えるようになりますように。」
玉が赤い光を発する。
「なにこれ、ずいぶん凝った作りね。」
杖を取り、軽くレビテーションの呪文を唱えてみる。
だが魔法は発動せず、部屋の中で爆発が起きただけだった。
「ケホッ、ケホッ、何やってんだか私は。部屋の掃除は明日メイドに頼むとするか・・」
望みを捨てて、ベッドに潜ろうとすると玉が目に映った。
ムカついたのでそれを窓から捨てる。
玉はどこかへ転がって行き、そのまま見えなくなった。
次の日。
陽光が学院を照らすなか、その儀式は行われた。
広場で次々と自分の使い魔を召喚する。
青髪の短髪の少女は風竜を、憎き敵、ツェルプストーは
サラマンダーを召喚した。
次は自分の番。
「おいおい、ゼロのルイズに召喚なんてできるのか?」
「やるだけ無駄だ、やめとけって。」
「そうだそうだ。魔法の成功率0のルイズ」
周りから野次が飛ぶが、無視する。
ふと眼を遠くへやると、昨日の赤い玉があった。
窓から捨てた後ここまで転がってきたようだ。
最後のブリミル頼みもダメだった。ならいっそあのマジックアイテムにでも
頼んでみるか。
玉に祈りをこめるように、失敗するとわかっている呪文を詠唱する。
玉が赤く光った。
普段は何か呪文を詠唱すると魔法が起きる代わりに爆発が起きるが
今回はその爆発すら起こらなかった。
「ミスタ・コルベール、もう一度やり直しをさせてください。」
彼はルイズの普段の努力を知っていた。それゆえにこのまま留年するのを
不憫に思った。
「いいでしょう。やり直しを許可します。」
その時、突如轟音があたりに鳴り響いた。
ゴオオォォォ・・・
「何の音だ?」
「お、おい、あれを見ろ!」
生徒の一人が音のする方向―空を指差して言った。
そこには、空の代わりに蒼い海が逆さまの状態で広がっていた。
そしてその海面に直径15メイル程のゲートがあった。
普通ゲートの大きさは召喚される生物の大きさで決まる。
15メイルもあるゲートなら召喚されるのはおそらくドラゴンの類だろう。
「それにしてもこの現象は一体・・・・」
教師や生徒たちが見詰めるなか、轟音はその大きさを徐々に増していき、
そして突然ゲートから1つの赤い翼の生えた物体が飛び出てきた。
大きさは10メイルほどであろう。
「なんだ?竜か?」
だが、それの飛ぶ速さは明らかに普通の竜と比べ物にならないくらい速かった。
風竜を召喚した少女が竜に乗って追跡を試みたが
全く追いつけなかった。
前代未聞の使い魔にはしゃぐ周りに比べて、当のルイズは
あまりの予想外の出来事に呆然としていた。
「嘘・・・成功しちゃった・・・・」
その日は天候に恵まれていた。
風は弱く、空を飛ぶにはかなりの好条件。
「それじゃ我夢(がむ)気をつけてね。」
そう言うのはオペレータのジョジー。
魔の海域と言われているバミューダトライアングルの調査には
もってこいの日だった。
我夢の乗るXIGファイターEX(シグファイターエキサイタ―)にも
特に異常は見られない。
そう、事故など起こるはずがなかった。
だが調査海域に入ってしばらくすると突然キャノピーが眩い光に包まれた。
「うわっ!」
自動操縦に切り替える暇もなかった。
やがて目が眩しさを感じなくなってから目をあけると
見慣れない景色が広がっている。
しかも、いつの間にか天地が逆になっている。いや、グラスコクピットのHUD画面に映る計器は機体が180度逆さまになっていることを示している。
単に自分が逆さまになっていただけだった。
機体を180度ロールさせて機体を水平にする。
「こちら我夢、本部、本部応答を。チーフ、ジェジー!」
だが無線からはザザーという雑音が流れてくるだけだ。
「くそっ、応答なしか。無線が使えない。それにしてもここは一体どこなんだ?」
周りには広がる森と西洋風の建物が広がる。
旋回しながら周りを見ると城下町のような街もあった。
だが、日本のものではない建物の造り。
日本の下町とも違う、発展途上の中世のヨーロッパのようだった。
「ここは日本じゃないのか?」
周囲に着陸できそうな場所がないため、やむを得ずに近くにあった学校のような
建物の敷地に着陸することにした。
「PAL、あそこに着陸してくれ。」
搭載されている人口知能、PAL(パル)が広場のようなところへと機体を垂直着陸させた。
謎の飛行物体が学校に着陸したのを知ると、生徒たちの動きは速かった。
「うわー、でかいな・・」
「これどうやって翼を動かすんだ?さっきから全然動かしてないぞ。」
すると、それの頭と思われる部分の透明なところが後ろへとスライドした。
「あ、あれが口かしら。」
「しかしまあ、あのゼロのルイズがまさか竜を召喚するなんてねえ。
私のサラマンダーよりすごいじゃないの。」
「ふんっ、どう、思い知ったかしらツェルプストー。」
「まあ、確かに私の使い魔よりすごいかもしれないけど、あんな高い位置にある
口にレビテーションも使わないでどうやってキスをする気なの?
契約しないと使い魔とは言わないわよ。」
「う、うるさいわね!わかってるわよ、それぐらい。」
コルベールにレビテーションで浮かしてもらおうとした時、
ルイズたちが口と思いこんでいる部分から人が出てきた。
「おい、竜の口から人が出てきたぞ!どういうことだ?」
「ま、まさかあの竜に食われてたんじゃないだろうな。」
「ゼロのルイズが人食い竜を召喚したぞ!」
「な、ち、違うわよ。そんなわけないじゃない!」
周りが面白おかしく騒ぎ立てている中、青髪の少女がレビテーションで
竜に近づき、中の男に話しかけた。
「あなた、何者?それにこれはなんという種類の竜?」
「僕は高山我夢(たかやま・がむ)。これは竜じゃなくてただの飛行機だよ。」
「ヒコウキ?竜ではないのになぜ飛べるの?」
「えっと、急に訊かれてもちょっと困るけど・・・」
飛行機を知らない少女にいきなり飛行機の原理から説明しろといわれても
困る。しかもこの飛行機、XIGファイターは揚力でなくリパルサーリフトで飛ぶ
新しい概念の飛行機だ。わかるように説明できる自信がなかった。
その質問に我夢が答えられないと悟ると少女は次の質問をした。
「あなたはどこの国から来たの?」
「僕は日本から来たんだ。見た感じここは日本じゃないみたいだけど。」
「ニホン?それはどこの国の一部?ガリア?ゲルマニア?」
「ガリア?ブルガリアなら知ってるけど、そんな国は聞いたことないな。
君、日本を知らないの?」
「ニホンというのは国の名前?」
「そうだよ。ここはなんていう国なんだい?」
「ここはトリステインにあるトリステイン魔法学院。」
「魔法?」
そこまで話したとき、青髪の少女をだれかが下から大声で呼んできた。
「ちょっとタバサ、大丈夫なの?そいつに食われたりしないわよね。」
赤いロングヘアの女の子が下から呼んできた。
「大丈夫、キュルケ。これは竜じゃない。乗り物のよう。」
「ちょっと待って、竜じゃないってどういうことよ?」
今度は桃色の髪の少女が下から話しかけてくる。
「えっと、これは竜じゃなくて飛行機って言って空をとぶための機械で、」
「って、そういえばあんただれよ。なんでその中にいるのよ。」
タバサが代わりに説明をする。
「この人はタカヤマガム。あなたが召喚した人。これは竜でなく
ヒコウキという乗り物らしい。なぜ飛べるかについてはよくわからない。」
「竜じゃない・・・・って、もしかして私が召喚したのはあんた?」
「召喚?君が僕をここへ呼んだの?」
「そうよ。」
得意げにそう答える。
竜じゃないのは残念だけど、これならある意味竜よりいいかもしれない、そう思ったのだ。
「ミス・ヴァリエール、こ、これは一体・・・」
「ミスタ・コルベール!実はかくかくしかじかで。」
「な、なんと!しかし人間が召喚されるとは前例がありません。」
「ところであんた、魔法使えるの?」
「魔法?使えないけど。」
「じゃああんた平民ね。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール」
「平民?」
「五つの力を司るペンタゴン」
「ねえ、さっきから何唱えてるの?」
「このものに祝福を与え、我の使い魔となせ。ああ、ちょっとしゃがんでくれる?」
ガムがしゃがむとすぐに無理やりキスをした。
「むぐう!! ちょっと急になにするんだよ!」
ルイズはガムを無視し、はげ頭の教師に報告をする。
「先生、終わりました。」
すると、突然ガムの左手に激痛が走り、
苦悶の表情が浮かぶ。
「あ、があ、く、あ,A,A,あべし!」
「ああ、それは契約のルーンが刻まれてるだけだから心配しないで。じきに治まるわ。」
左手に何か文字のようなものが刻まれると痛みは治まった。
禿げた教師、コルベールは手のルーンを書き写し、珍しいルーンだとか言うと
どこかへ行ってしまった。
「さあて、儀式も無事済んだことだし私たちも帰りましょう。」
キュルケはそう言いながら杖を取り出し、何か呪文を唱えた。
すると、急にキュルケの体が宙に浮いた。
見れば周りの他の生徒も同じように浮いている。
「ま、魔法が0のルイズはその竜もどきに乗ってきなさいよ。」
「こ、これが魔法?」
あまりの非日常的な出来事に我夢が呆然としているとみんなそのままどこかに飛んで行ってしまった。
残されたのは我夢とルイズだけだった。
「・・・・・君も魔法で飛べばいいじゃないか。」
「き、貴族は滅多なことでは魔法を使わないものなの!」
そう言ってルイズは寮まで歩いて行った。
寮の部屋に着くと我夢は真っ先に気になっていた質問をした。
「それで、どうやったらもといた場所に帰れるの?」
はあ?とあきれ顔のルイズ。
「あんた、今の自分の立場わかってる?あんた私の使い魔なのよ!
帰れるわけないじゃない。」
「え、そんなの聞いてないよ。それに使い魔って、なに?」
「はあ、使い魔も知らないなんてあんたほんとに一体何者?
来てる服も変だし。」
XIGの隊員服を見て言う。
「いい?使い魔っていうのはメイジの一生を共にする伴侶みたいなもんよ。
使い魔召喚の儀式で召喚された使い魔は死ぬまで一生その主に仕えるの。
一度召喚した使い魔は途中で変えることはできないわ、その使い魔が死なない限りね。」
「うん。それで、メイジってなに?」
「あんた、私に喧嘩売ってるわけ?」
「え、な、なんでそうなるんだよ。」
「メイジを知らなかったらハルケギニアで生きていけないわよ。」
「そのことについてなんだけど、実は僕はこの世界の人間じゃないんだ。
信じてもらえないかもしれないけど、たぶんこことは別の、異次元から
やって来たんだ。」
「は、異次元?」
「つまりこことは別の異世界ってこと。」
「そんなものが存在するわけないじゃない!あんた、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。」
怒気を含んだ声でルイズが言う。
「ほ、ほんとだよ。」
プチッと何かが切れるような音がしたような気もしたが、
怒り狂ってわめき散らすなどという貴族らしからぬ行動をとらないよう、
深呼吸をするルイズ。
「はあ、ほんとにあんたが異世界から来たなら何か証拠見せなさいよ。」
「え、えーっと・・・ほらこの服。こんな服ここにはないでしょ?多分。」
「ただ変な服着てるってだけじゃない。そんなのじゃ証拠にならないわよ。」
うーん、と首をひねって考える我夢。
「じゃあこれならきっと・・・・」
そう言って手首についた大きめの腕時計のような
無線機の画面をひらき、XIGファイターEXを呼ぶ。
「そのまま微速前進。降下。」
すると先ほどの轟音がまた聞こえてきた。
「これなら証拠になるかい?」
音は窓の外からする。
窓を開けるとそこには先ほどの飛行物体、XIGファイターが
ホバリングで静止していた。
「うわ、これこんなこともできるんだ。え、羽を使ってない?
いったいどうやって・・・」
「これで信用してくれたかな。これはこの世界の技術じゃない。」
ところが当のルイズはXIGファイターにすっかり見入ってしまい
我夢の話など上の空だった。
そこからルイズが導き出した答えは一つ。
「あなた、ひょっとしてエルフなの?」
数時間後。
あれほど高く昇っていた太陽は姿を隠し、代わりに夜空に
2つの月が浮かんでいた。
部屋の中ではあいかわらずルイズと我夢がそれぞれ自分について
説明していたがその顔は疲れを通り越して少しやつれているようにも
見えなくはない。
「・・・結局私どこまで説明したっけ?」
「使い魔は主人の目となり耳となり―・・・ってところまでだよ。」
「でも私にはあんたの見てるもの、特に見えないわ。人間相手じゃ
無理なのかしらね。」
「そ、そうか。ところで僕はどこまで説明したっけ。」
「えーっと、異世界から来て、家に帰りたくて困ってるんだけど
無理だから私の使い魔になりなさいってところまでよ。」
「ああ、そうだった。僕が異世界から来たってみんなに知れ渡ると面倒だから、
できれば内緒にしてほしいんだけど。」
「もう面倒事はたくさん。今日でだいぶ疲れたわ。私もう寝るわ。さっそくだけど仕事よ。
服を脱がすのを・・」
そう言いながら使い魔に目を移すと、すでに床の上で座りながら
眠っていた。
「・・・・ま、明日からやらせればいいか。」
ネグリジェに着替え、ベッドにもぐりこむ。
何かとても重大なことを忘れているような気がしたが、睡魔には勝てなかった。
ルイズと我夢のそれぞれの意識は深い闇の中へと落ちて行った。
#navi(巨人の使い魔)
第1話・伝説の始まり
トリステイン魔法学院の女子寮、
とっくに日は落ちていてあたりは真っ暗だが
その一室にだけ明かりがついていた。
その部屋の主は翌日に行われる使い魔召喚の儀式が
気が気でなく、いつまでたっても寝付けないために
寝るのをあきらめていた。
「はあ、もし留年しちゃったらどうしよう。」
重い溜息をつくのはルイズ・フランソワ―ズ・
ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
彼女の二つ名はゼロ、胸は大平原だが二つ名はそのせいではない。
魔法の才能がゼロだからだ。
彼女は生れてこのかた16年間一度も魔法が成功したことがない。
だが明日行われる使い魔召喚の儀式で成功しなければ留年となる。
魔法が使える貴族に生まれたからには絶対何か魔法が使えるはず、
そう信じてきた。出来そうな魔法はいままでほとんど試してみた。
だが成功しなかった。
だが、ここにきてルイズは1つだけ未だ試していない魔法があったことに
気がついた。
(もし成功しても契約の儀式をしなければ大丈夫よね、たぶん。)
杖を手に取りネグリジェ姿で呪文を唱える。
「・・・・・・・・・
五つの力を司るペンタゴン!
我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
すると1メイル程度の楕円形の鏡のようなゲートが出てきた。
「え、・・・これって成功?」
だが、ここで予想外のことが起きた。
本来なら使い魔となる者がでてくるゲートから強烈な光が発せられ、
ゲートに自分が逆に吸い込まれるような感覚を覚える。
「きゃあっ!」
眩しさで一瞬目を細め、それから眼をあけると目の前には違う世界が広がっていた。
上下左右、あらゆる方向にいろいろな景色が映る。
見たことのない高い塔が立ち並ぶ光景、
別の方向へ眼をやれば火山が噴火して15メイルはある竜が噴火から逃れている場面、
といった具合である。
驚くべきことは自分がまるで宙に浮いているかのようであることで、
自分の足元にもそうした光景が広がっている。
「な、なによこれ・・」
自分の周りの場面は次々と切り替わっていき、ルイズの顔は不安で引きつっていた。
突如、遠くに赤い点のようなものが見えた。
それは周りの場面が切り替わるにつれて自分に近寄ってきた。
「赤い、玉?」
まるで血のような色のガラス玉のような物体、大きさはリンゴほど。
それが点の正体だった。
それが目の前にくると、周りの視界がすべて同じ場面に切り替わった。
建物は瓦礫の山と化し、バラバラになった人の死体が燃え盛っている光景。
「な、なんなのよ一体。」
そこで再び猛烈な眩しさを感じ、目を細める。
目をあけるとそこはいつも通りの自分の部屋だった。
「今の、幻覚?一体・・・・そうだ、使い魔は?」
部屋を見渡すが自分以外に生き物は見当たらない。
つまり、失敗。
「はあ、サモン・サーヴァントもできないなんて、ほんとどうしよう。」
大きなため息をこぼしながらベットに戻ろうとすると
そこにはさっき見た赤い玉があった。
こんなものを部屋に置いた覚えはない。
気味が悪い、捨てようかと思ったときだった。
「願いを言え。」
声がした。だが部屋には自分一人しかいない。
「願いを言え。何でも叶う。」
「だ、誰?出てきなさい!」
声をしたほうを見ると、そこにはさっきの玉があるだけだ。
「まさか、この玉が?」
だとすればだれかのいたずらだろう。誰かがマジックアイテムを
買ってきて、悪戯に置いたのかもしれない。
それでもやっぱり本当に願いが叶うか試したくなり、その玉に
自分の一番の願いを言ってみることにした。
「魔法が使えるようになりますように。」
玉が赤い光を発する。
「なにこれ、ずいぶん凝った作りね。」
杖を取り、軽くレビテーションの呪文を唱えてみる。
だが魔法は発動せず、部屋の中で爆発が起きただけだった。
「ケホッ、ケホッ、何やってんだか私は。部屋の掃除は明日メイドに頼むとするか・・」
望みを捨てて、ベッドに潜ろうとすると玉が目に映った。
ムカついたのでそれを窓から捨てる。
玉はどこかへ転がって行き、そのまま見えなくなった。
次の日。
陽光が学院を照らすなか、その儀式は行われた。
広場で次々と自分の使い魔を召喚する。
青髪の短髪の少女は風竜を、憎き敵、ツェルプストーは
サラマンダーを召喚した。
次は自分の番。
「おいおい、ゼロのルイズに召喚なんてできるのか?」
「やるだけ無駄だ、やめとけって。」
「そうだそうだ。魔法の成功率0のルイズ」
周りから野次が飛ぶが、無視する。
ふと眼を遠くへやると、昨日の赤い玉があった。
窓から捨てた後ここまで転がってきたようだ。
最後のブリミル頼みもダメだった。ならいっそあのマジックアイテムにでも
頼んでみるか。
玉に祈りをこめるように、失敗するとわかっている呪文を詠唱する。
玉が赤く光った。
普段は何か呪文を詠唱すると魔法が起きる代わりに爆発が起きるが
今回はその爆発すら起こらなかった。
「ミスタ・コルベール、もう一度やり直しをさせてください。」
彼はルイズの普段の努力を知っていた。それゆえにこのまま留年するのを
不憫に思った。
「いいでしょう。やり直しを許可します。」
その時、突如轟音があたりに鳴り響いた。
ゴオオォォォ・・・
「何の音だ?」
「お、おい、あれを見ろ!」
生徒の一人が音のする方向―空を指差して言った。
そこには、空の代わりに蒼い海が逆さまの状態で広がっていた。
そしてその海面に直径15メイル程のゲートがあった。
普通ゲートの大きさは召喚される生物の大きさで決まる。
15メイルもあるゲートなら召喚されるのはおそらくドラゴンの類だろう。
「それにしてもこの現象は一体・・・・」
教師や生徒たちが見詰めるなか、轟音はその大きさを徐々に増していき、
そして突然ゲートから1つの赤い翼の生えた物体が飛び出てきた。
大きさは10メイルほどであろう。
「なんだ?竜か?」
だが、それの飛ぶ速さは明らかに普通の竜と比べ物にならないくらい速かった。
風竜を召喚した少女が竜に乗って追跡を試みたが
全く追いつけなかった。
前代未聞の使い魔にはしゃぐ周りに比べて、当のルイズは
あまりの予想外の出来事に呆然としていた。
「嘘・・・成功しちゃった・・・・」
その日は天候に恵まれていた。
風は弱く、空を飛ぶにはかなりの好条件。
「それじゃ我夢(がむ)気をつけてね。」
そう言うのはオペレータのジョジー。
魔の海域と言われているバミューダトライアングルの調査には
もってこいの日だった。
我夢の乗るXIGファイターEX(シグファイターエキサイタ―)にも
特に異常は見られない。
そう、事故など起こるはずがなかった。
だが調査海域に入ってしばらくすると突然キャノピーが眩い光に包まれた。
「うわっ!」
自動操縦に切り替える暇もなかった。
やがて目が眩しさを感じなくなってから目をあけると
見慣れない景色が広がっている。
しかも、いつの間にか天地が逆になっている。いや、グラスコクピットのHUD画面に映る計器は機体が180度逆さまになっていることを示している。
単に自分が逆さまになっていただけだった。
機体を180度ロールさせて機体を水平にする。
「こちら我夢、本部、本部応答を。チーフ、ジェジー!」
だが無線からはザザーという雑音が流れてくるだけだ。
「くそっ、応答なしか。無線が使えない。それにしてもここは一体どこなんだ?」
周りには広がる森と西洋風の建物が広がる。
旋回しながら周りを見ると城下町のような街もあった。
だが、日本のものではない建物の造り。
日本の下町とも違う、発展途上の中世のヨーロッパのようだった。
「ここは日本じゃないのか?」
周囲に着陸できそうな場所がないため、やむを得ずに近くにあった学校のような
建物の敷地に着陸することにした。
「PAL、あそこに着陸してくれ。」
搭載されている人口知能、PAL(パル)が広場のようなところへと機体を垂直着陸させた。
謎の飛行物体が学校に着陸したのを知ると、生徒たちの動きは速かった。
「うわー、でかいな・・」
「これどうやって翼を動かすんだ?さっきから全然動かしてないぞ。」
すると、それの頭と思われる部分の透明なところが後ろへとスライドした。
「あ、あれが口かしら。」
「しかしまあ、あのゼロのルイズがまさか竜を召喚するなんてねえ。
私のサラマンダーよりすごいじゃないの。」
「ふんっ、どう、思い知ったかしらツェルプストー。」
「まあ、確かに私の使い魔よりすごいかもしれないけど、あんな高い位置にある
口にレビテーションも使わないでどうやってキスをする気なの?
契約しないと使い魔とは言わないわよ。」
「う、うるさいわね!わかってるわよ、それぐらい。」
コルベールにレビテーションで浮かしてもらおうとした時、
ルイズたちが口と思いこんでいる部分から人が出てきた。
「おい、竜の口から人が出てきたぞ!どういうことだ?」
「ま、まさかあの竜に食われてたんじゃないだろうな。」
「ゼロのルイズが人食い竜を召喚したぞ!」
「な、ち、違うわよ。そんなわけないじゃない!」
周りが面白おかしく騒ぎ立てている中、青髪の少女がレビテーションで
竜に近づき、中の男に話しかけた。
「あなた、何者?それにこれはなんという種類の竜?」
「僕は高山我夢(たかやま・がむ)。これは竜じゃなくてただの飛行機だよ。」
「ヒコウキ?竜ではないのになぜ飛べるの?」
「えっと、急に訊かれてもちょっと困るけど・・・」
飛行機を知らない少女にいきなり飛行機の原理から説明しろといわれても
困る。しかもこの飛行機、XIGファイターは揚力でなくリパルサーリフトで飛ぶ
新しい概念の飛行機だ。わかるように説明できる自信がなかった。
その質問に我夢が答えられないと悟ると少女は次の質問をした。
「あなたはどこの国から来たの?」
「僕は日本から来たんだ。見た感じここは日本じゃないみたいだけど。」
「ニホン?それはどこの国の一部?ガリア?ゲルマニア?」
「ガリア?ブルガリアなら知ってるけど、そんな国は聞いたことないな。
君、日本を知らないの?」
「ニホンというのは国の名前?」
「そうだよ。ここはなんていう国なんだい?」
「ここはトリステインにあるトリステイン魔法学院。」
「魔法?」
そこまで話したとき、青髪の少女をだれかが下から大声で呼んできた。
「ちょっとタバサ、大丈夫なの?そいつに食われたりしないわよね。」
赤いロングヘアの女の子が下から呼んできた。
「大丈夫、キュルケ。これは竜じゃない。乗り物のよう。」
「ちょっと待って、竜じゃないってどういうことよ?」
今度は桃色の髪の少女が下から話しかけてくる。
「えっと、これは竜じゃなくて飛行機って言って空をとぶための機械で、」
「って、そういえばあんただれよ。なんでその中にいるのよ。」
タバサが代わりに説明をする。
「この人はタカヤマガム。あなたが召喚した人。これは竜でなく
ヒコウキという乗り物らしい。なぜ飛べるかについてはよくわからない。」
「竜じゃない・・・・って、もしかして私が召喚したのはあんた?」
「召喚?君が僕をここへ呼んだの?」
「そうよ。」
得意げにそう答える。
竜じゃないのは残念だけど、これならある意味竜よりいいかもしれない、そう思ったのだ。
「ミス・ヴァリエール、こ、これは一体・・・」
「ミスタ・コルベール!実はかくかくしかじかで。」
「な、なんと!しかし人間が召喚されるとは前例がありません。」
「ところであんた、魔法使えるの?」
「魔法?使えないけど。」
「じゃああんた平民ね。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール」
「平民?」
「五つの力を司るペンタゴン」
「ねえ、さっきから何唱えてるの?」
「このものに祝福を与え、我の使い魔となせ。ああ、ちょっとしゃがんでくれる?」
ガムがしゃがむとすぐに無理やりキスをした。
「むぐう!! ちょっと急になにするんだよ!」
ルイズはガムを無視し、はげ頭の教師に報告をする。
「先生、終わりました。」
すると、突然ガムの左手に激痛が走り、
苦悶の表情が浮かぶ。
「あ、があ、く、あ,A,A,あべし!」
「ああ、それは契約のルーンが刻まれてるだけだから心配しないで。じきに治まるわ。」
左手に何か文字のようなものが刻まれると痛みは治まった。
禿げた教師、コルベールは手のルーンを書き写し、珍しいルーンだとか言うと
どこかへ行ってしまった。
「さあて、儀式も無事済んだことだし私たちも帰りましょう。」
キュルケはそう言いながら杖を取り出し、何か呪文を唱えた。
すると、急にキュルケの体が宙に浮いた。
見れば周りの他の生徒も同じように浮いている。
「ま、魔法が0のルイズはその竜もどきに乗ってきなさいよ。」
「こ、これが魔法?」
あまりの非日常的な出来事に我夢が呆然としているとみんなそのままどこかに飛んで行ってしまった。
残されたのは我夢とルイズだけだった。
「・・・・・君も魔法で飛べばいいじゃないか。」
「き、貴族は滅多なことでは魔法を使わないものなの!」
そう言ってルイズは寮まで歩いて行った。
寮の部屋に着くと我夢は真っ先に気になっていた質問をした。
「それで、どうやったらもといた場所に帰れるの?」
はあ?とあきれ顔のルイズ。
「あんた、今の自分の立場わかってる?あんた私の使い魔なのよ!
帰れるわけないじゃない。」
「え、そんなの聞いてないよ。それに使い魔って、なに?」
「はあ、使い魔も知らないなんてあんたほんとに一体何者?
来てる服も変だし。」
XIGの隊員服を見て言う。
「いい?使い魔っていうのはメイジの一生を共にする伴侶みたいなもんよ。
使い魔召喚の儀式で召喚された使い魔は死ぬまで一生その主に仕えるの。
一度召喚した使い魔は途中で変えることはできないわ、その使い魔が死なない限りね。」
「うん。それで、メイジってなに?」
「あんた、私に喧嘩売ってるわけ?」
「え、な、なんでそうなるんだよ。」
「メイジを知らなかったらハルケギニアで生きていけないわよ。」
「そのことについてなんだけど、実は僕はこの世界の人間じゃないんだ。
信じてもらえないかもしれないけど、たぶんこことは別の、異次元から
やって来たんだ。」
「は、異次元?」
「つまりこことは別の異世界ってこと。」
「そんなものが存在するわけないじゃない!あんた、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ。」
怒気を含んだ声でルイズが言う。
「ほ、ほんとだよ。」
プチッと何かが切れるような音がしたような気もしたが、
怒り狂ってわめき散らすなどという貴族らしからぬ行動をとらないよう、
深呼吸をするルイズ。
「はあ、ほんとにあんたが異世界から来たなら何か証拠見せなさいよ。」
「え、えーっと・・・ほらこの服。こんな服ここにはないでしょ?多分。」
「ただ変な服着てるってだけじゃない。そんなのじゃ証拠にならないわよ。」
うーん、と首をひねって考える我夢。
「じゃあこれならきっと・・・・」
そう言って手首についた大きめの腕時計のような
無線機の画面をひらき、XIGファイターEXを呼ぶ。
「そのまま微速前進。降下。」
すると先ほどの轟音がまた聞こえてきた。
「これなら証拠になるかい?」
音は窓の外からする。
窓を開けるとそこには先ほどの飛行物体、XIGファイターが
ホバリングで静止していた。
「うわ、これこんなこともできるんだ。え、羽を使ってない?
いったいどうやって・・・」
「これで信用してくれたかな。これはこの世界の技術じゃない。」
ところが当のルイズはXIGファイターにすっかり見入ってしまい
我夢の話など上の空だった。
そこからルイズが導き出した答えは一つ。
「あなた、ひょっとしてエルフなの?」
数時間後。
あれほど高く昇っていた太陽は姿を隠し、代わりに夜空に
2つの月が浮かんでいた。
部屋の中ではあいかわらずルイズと我夢がそれぞれ自分について
説明していたがその顔は疲れを通り越して少しやつれているようにも
見えなくはない。
「・・・結局私どこまで説明したっけ?」
「使い魔は主人の目となり耳となり―・・・ってところまでだよ。」
「でも私にはあんたの見てるもの、特に見えないわ。人間相手じゃ
無理なのかしらね。」
「そ、そうか。ところで僕はどこまで説明したっけ。」
「えーっと、異世界から来て、家に帰りたくて困ってるんだけど
無理だから私の使い魔になりなさいってところまでよ。」
「ああ、そうだった。僕が異世界から来たってみんなに知れ渡ると面倒だから、
できれば内緒にしてほしいんだけど。」
「もう面倒事はたくさん。今日でだいぶ疲れたわ。私もう寝るわ。さっそくだけど仕事よ。
服を脱がすのを・・」
そう言いながら使い魔に目を移すと、すでに床の上で座りながら
眠っていた。
「・・・・ま、明日からやらせればいいか。」
ネグリジェに着替え、ベッドにもぐりこむ。
何かとても重大なことを忘れているような気がしたが、睡魔には勝てなかった。
ルイズと我夢のそれぞれの意識は深い闇の中へと落ちて行った。
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