「虚無と狂信者-13」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「虚無と狂信者-13」(2008/10/18 (土) 15:45:08) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(虚無と狂信者)
「パンは肉、ワインは血。」
城の中では最後の晩餐会が行われていた、サイトは今まで見たこともないような豪勢な
食事を喜んだ。
「いや、タンパク質だろ常考。」
そう言い、昨日までで失った血を補充した。ふと目の前に人が来る。なんか輝いてる。
「ベルナドットさん!どうしたんすかソレ?!!」
ベルナドットは全身にアクセサリや指輪、宝石をふんだんに纏い、サンタクロースのような
袋を身に纏っている。おそらく中身は全て宝石だろう。総額で一億円位は軽くありそうだ。
「いやーどうせ貴族派に盗られるならっつうことで気前良くくれたんだよ。
まあ、ここまで死ぬ思いした駄賃ってとこかな。」
心底楽しそうに彼は笑った。
「そういうことだ。君もどうだね?」
ウェールズが正装でサイトに話しかける。その顔はどこまでも晴れやかだった。
「ああ、じゃあ後で。」
サイトは気のない返事をする。そして彼をまじまじと見つめる。
「………死ぬのが怖くはないんですか?」
「怖いよ」
ウェールズはあっさりと答えた。
「じゃあなんで逃げないんですか?」
ウェールズはうーんと唸った。その顔はどこか遠くを見ている。
「僕は王族だ。王と成るべくして生まれ、王と成るべく育った。
逃げず、退かず、名誉と民の安寧を守る為、そう育った。
ここで逃げたら僕は僕で無くなってしまう。誇り高きアルビオン王家ではなくなってしまう
ただの血と糞尿のつまった肉袋になってしまう。そんな気がしてね………」
ウェールズの言葉は勇壮で、心に響き、そしてどこか悲しかった。
「はは、すまないな、汚いこと言って。」
「いえ………」
きっと数か月前の自分なら解らなかっただろう。ただ今なら解る気がする。
サイトは懐から銃剣を取り出し、ウェールズに差し出した。
「祝福された武器です。ただの魔法よりは奴らに効果的でしょう。」
サイトとウェールズはがっしりと握手した。
彼の姿を見て、サイトは思う。
自分が吸血鬼と戦うのは、彼と同じく無謀。それは正しいことだろうか。と。
「ベルナドットさんは彼らのこと、どう思いますか?」
ウェールズが行った後、サイトは彼に聞いてみる。
「ん?べつにいいんじゃねえの?!」
彼はステーキをがっつりといただいていた。その横ではいつのまにか居たタバサがサラダを食べている。
「あの人達はさ、名誉の為にって言ってる。金の為に戦ってる俺なんかよりよっぽどマトモだ。」
そう、ベルナドットは自分と同じ世界、普通にいくらでも働きようのある世界の住人だ。
「まあ、そもそもよ、戦うのにさ、理由なんているのか?」
「……はい?」
サイトはその言葉の理解に苦しむ、それは理由があるから闘うのではないだろうか。
「戦わなくても何とかなる問題じゃねえのか?こんな戦争って。」
それはそうかもしれない。彼に政治の知識はあまり無いが、それでもニュースで言われて
いるようなことは、確かに態々殺し合うまでもないように思える。
「まあ、あいつらはな。そういうようなことでぶっ殺したりぶっ殺されたりしている連中
なんだからよ。お前がいちいち気にしてやるようなことじゃない。」
その言い草はどこか愉快そうで、サイトには理解できなかった。
「そんで俺もよ、お前位の年には学校も行かずに戦場行って殺し合ってたような奴さ。
それも誰に言われるでもなく好き好んでだ。お前の疑問にゃ答えられない。」
「………そうですか。」
ベルナドットはがしがしとサイトの頭を撫でてやる。その手を払おうとしても力が強くてできなかった。
「そう落ち込むな。わかんねえのが普通。解っちまったら旦那や俺と同類だ。親御さんのことも考えな。
勝手にいなくなって帰ってきたら戦争屋になってました。なんて親不孝はねえぞ。」
不死身の男になってましたも充分親不孝だ、という考えをタバサは心の中にしまった。
「俺やあの連中みたいな奴らを思って悩むなよ、サイト。好き好んで行って好き好んで死んだ。
自業自得だ。お前みてえないい奴はあの女の子のことでもきにかけてやんなよ。」
「ルイズ?どうした?」
サイトはボーっとしているルイズに訊ねる。見るとその眼には涙が浮かんでいた。
「何で皆笑って死ににいくの?馬鹿じゃないの?残される人のことを考えないの?」
ルイズの手にはアンリエッタの手紙があった。ふとサイトはルイズが姫から渡された親書を思い出す。
中身は、想像がついた。
「貴族ってのはそんなもんなんじゃねえの?」
サイトの言葉にルイズは彼を睨んだが、暫くして目を伏せた。
「そうね……貴族は………退いちゃいけないんだもの」
サイトは遠くの空を見つめる。
「俺の国ではさ、戦争が起こったら逃げろって言われてる。言われなくても逃げる奴ばっかりさ。」
ルイズは黙って聞いている。
「けどさ、逃げたらだめなんだよあの人達は、だって命より大事なものがあるんだから。」
名誉、誇り、信念、
信仰、そして、自分以外の誰か……
「あんたはあるの?大事なもの。」
彼女のその眼は。どこか不安げで。
「無いよ」
彼のその眼は、どこか羨ましげで。
ああ、そうか
アンデルセン神父に憧れるのはだからだろうか
彼は自分以外に何か大切なものを持っているから
それは勇壮で、甘美で、けどどこか哀しげで、魅きこまれてしまう。
「アンデルセンとあの人達は違うわ」
サイトはその言葉に驚く。
「アンデルセンは……勝つわ……勝つ気で戦うわ。勝機が私たちには見えないけど、彼には見えてる。」
「それが例え本当に僅かな那由他の彼方でも、彼は行く。けどこの人達は、死のうとしてるだけじゃない。」
サイトは少し考えて、頷いた。
「ふむ………。」
ワルドは廊下にて背を壁にもたれ、考え込む。
風のトライアングル二人、目覚めていないとは言え虚無一人、不死身の少年に強力な銃を使う平民。
こちらは風のスクウェアとは言え自分一人。
「さて、どうするか……。」
「困ってるね?」
ワルドが急いで振り向くと、そこには犬耳の少年が立っていた。
「貴様は……」
彼の組織の協力者である少年。その正体は知れないが、それよりも驚くべきはどう入ったかである。
この敵地のど真ん中に、どんな魔法を使ったのか。
「そんな怖い顔しないでよ。僕はどこにでもいるし、どこにもいない」
その言葉の意味も解らず、呆然とするワルドに、何かを手渡した。
「スキルニルって奴さ、それ使って何とかしなよ。こんだけ僕らが協力したんだからちゃんとね」
ワルドはそれを弄ぶ。それの使い方は分かっている。問題は無く自己の任務を達成できる。しかし。
「一つ答えろ。あれは何だ?グールなんて聞いてないぞ?!」
「何だといわれても……君みたいな裏切り者にそうホイホイ秘密を教えるわけないだろ?
まあ頑張ってこの任務を成功させたら教えたげるよ」
語気を強めるワルドを軽く受け流し、少年兵はどこかの部屋に入る。
ワルドが後を追い、その部屋に入る。そして驚愕の声を上げる。
その部屋は、もぬけの空だった。
ワルドの背筋に寒いものが流れた。
セラスは港町の牢獄に居た。不審人物として投獄されたのだ。どうしようかと思い悩む。
「何かできないかな……。あ、そういえば使い魔と主人って感覚を共有できるとか、よーし!
こちらセラス、ワルド子爵は裏切り者の危険性あり注意せよ!!繰り返す。ワルド子爵は……。」
傍から見るとそれは怪しさ抜群であった。
「ふーー」
笑って死にに行くウェールズ
それを思い悩むなというベルナドット
泣いているルイズ
何が正しいんだろう。こちらに来てから色んな人達に会って、色んな考えに触れて。
誰もが正しいように見えて正しくないように見える。
俺はどうすればいいんだ。このまま神父について、戦うのか?あんな化け物に。
ふと人の気配に気づく。タバサだ。タバサは俺の横で、星を見上げる。
「悩んでる?」
「うん、まあ。」
「私も悩んでる。」
「お前も?」
そのまま二人は星を見上げる。それは非常に多くて、綺麗だった。
「あの人達は、なんで行くんだ?」
その疑問の呟きは宵闇に掻き消えたようだった。タバサはしばらくして答える。
「あなたは、アーカードに立ち向かった。それは、あの人達以上に、無謀。」
「いや、でもあれは………そうしないとあの女の人が死にそうだった訳で。」
「………あなたはそう戦う、彼らもそう戦う。そうあれば、それでいい。」
「………そうかな?」
「そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。」
神父が言った言葉。不思議とあの人が言ったというだけで真理のように感じるから不思議だ。
「その時が来たら、あなたはあなたの心のまま戦い、そうあれかしと叫んで、斬ればいい。」
「……………色々問題が無いか?それ?俺が間違ってたらどうするんだよ。」
「あなたは間違わない。」
いや、そんな断言されても、ていうか皆買いかぶりすぎだろう。俺は普通だぞ?
「あなたは、優しいから。」
そう言われると、むず痒い。そしてふと思う。
その時が来れば。
ルイズや、シエスタや、シルフィードや、あの女の人や、タバサが、
危ない時、衝動的に助け、結果としてうまくいった。後先考えないものであったが。
今、俺は吸血鬼を許せない。人に悲しみを振りまくあの化け物を。
それを作りだし、ばら蒔く連中を許せない。
そいつらのせいで知っている人達や罪も無い沢山の人達が死ぬことは許せない。
だから彼らが危害を加えてきたら、そうあれかしと叫んで、斬ればいい。
簡単だ。ひとまずはこれでいい。
「タバサ。」
青い髪の、小柄な少女が、自分を見上げる。
「ありがとう。考え纏まった。」
その表情の変化はよく分からなかったが、多分喜んでいる。と思う。
「友達」
あ、多分友達だから当然ってこと。凄い、わかるようになった。
「俺もその時が来たら戦う。死ぬのは怖いし、傷つくのは嫌だけど。タバサが危険になったら戦うよ。
ルイズもシエスタも、皆、神父はいらないだろうけど………。皆が危険になったら、死んでも戦う。怖いけど。」
私はサイトの悩みが解決したことを素直に喜んだ。
そしてまたも黒い炎が巻き起こる。
目的を達成可能にする力、それを手にした時、彼は私の敵となる。
そしてそうなった時、この時間が彼を苦しめることになることも。
いや、誰も彼も、賛同する訳が無い。キュルケもセラスもベルナドットも。
知っている。知っていてこうしている。
そこまで考えた時、使い魔の交信により、その思考をそれに集中させた。
ワルドの裏切り、節々に感じた違和感と鑑みて、さてどうしたものかと策を巡らせた。
「ワルドが裏切り者、ねえ?」
「確かか?」
「決め手に欠ける」
ルイズが部屋に入って来る。なぜか真赤な顔でサイトに聞く。
「ん?どうした?」
「………ワルド様が、結婚式を挙げようって………。ここで………。」
三人は顔を見合わせる。ベルナドットはニヤリと笑い、サイトは額に手を当てる。
「で、サイト!あんたはこの結婚についてどう思うの?ねえ?」
サイトは物憂げに溜息をつく、そして一言呟いた。
「ワルド………」
ルイズは予想外のサイトの反応に焦った。
(な、何よ、なんでワルド様なのよ?もしやサイトってそっち?
そういえばいつも神父神父って若干気持ち悪いし、男の方ばっか行くし!)
「完全に黒だな……」
「ええ、完全にマジだわ」
思案するベルナドットと腹を括るサイト、焦るルイズ、読めないタバサ。
「で、子爵どうします?」
「どうするってなによ!ナニするのよ?!」
「罠」
「いいなタバサ、それ。」
「何よ、ワルド様を罠に嵌めて何するのよ?」
「………話についていけてる?お前?」
「そ、そりゃ私はついてないけど、当たり前じゃない!非生産的よ!そんなの!」
「だから何の話をしてるんだ?」
閑話休題
「あ、そうワルド様は裏切り者ってことね?分かってたわよ!」
真赤になりながら逆ギレするルイズにポカンとするサイトと哀れみの目で見るベルナドットだった。
「まあ、とにかくだ。」
ベルナドットの顔には笑み、それはかれが戦地に赴くときいつも見せる心底楽しげな表情。
プロフェッショナルの傭兵団ワイルド・ギースの隊長のものだった。
「喧嘩強い魔法衛士様に、雇われの力、見せてやるか。」
「さて、もうバレている所だろう。」
ワルドの手には、木の人形。
魔法人形、スキルニル。
杖で掌を切り、握りしめ、血をそこに垂らす。
それはむくむくと大きくなり、ワルドの姿そのものとなった。
「罠にかけるのはどちらになるか、お楽しみ。といった所か。」
城ではワルド子爵の結婚式が行われていた。お相手はルイズ。
(何でよ?いや、それはまあ、結婚式を挙げるのがそもそも違うんだけど。)
「ええ、それでは、誓いのキスを。」
二人の前に立つのはサイトであった。ウェールズは一番前の席にて笑顔で式を見ている。
(何であんたが神父なのよ?仮にも私が結婚するのよ!ちょっとは妬きなさいよ!)
むくれるルイズ、ワルドは下を向いている。
突然、タガが外れたように笑いだした。それにつられ才人もまた笑い始める。
しばし、その場には彼らの笑い声のみが響く。
そして、その狂笑はピタリと止まった。
「いつ気づいた?」
サイトは笑いながら懐から銃剣を取り出す。ルイズ含め周りの全てのメイジが杖を取り出す。
「親切な友達が教えてくれました。」
「まあ、使い魔と主人は感覚を共有できるからね。アンデルセンかセラスかは分からないが。」
ワルドは緩やかな姿勢を崩さない。メイジはこの場に10人、さらにサイトもいる。
「何故祖国を裏切った、ワルド子爵。」
ウェールズが無表情で聞く。すでに風の呪文は完成され、もはや解き放たれるのみ。
「裏切った?何故?実際は分かっているのではないかねウェールズ皇太子。」
ワルドは堂々と口上を始めた。
「領民のことを考えもせず、国の存続も考えず、国事よりも恋愛を優先する不幸に酔った姫!
そいつを意のままに操るは骨まで腐った老人どもだ!
マザリーニ枢機卿はまだマシだがたった一人では限界と言ったところ!
沈みゆく泥舟ならいっそ沈めて木の船に乗り換えるだけのことだよ!!」
「そんなことはどうでもいい!」
サイトは口上を遮り叫んだ。ワルドに銃剣を向ける。
「あんなものを生み出しておいて、あんなものを生み出す片棒を担いで、領民?国?笑わせるなワルド!!」
その言葉を聞き、ワルドの顔がかすかに曇った。しかし、その変化はウェールズの言葉で阻まれる。
ワルドは目線をルイズへと戻す。その瞳はどこか優しい様子だった。
「一緒に来てはくれないんだな?ルイズ」
ルイズの返事は彼に杖を向けることだった。
「それで子爵?この状況をどう収める?一対十一だが?」
気を取り直したワルドは大声で笑う。
「ではこんなのはいかがだろう?」
柱の影からワルド達が現れる。そろそろと歩きながら、辺りに散らばる。
サイトも含め、さして驚かない。
「風の偏在だろ?ネタは上がってるんだ。」
「そうだ、私は4体出せる。まあ、それではちょっと厳しい、私が。」
一同は目を疑った。さらにぞくぞくとワルドが出てくるではないか。
「スキルニルというやつでね?親切な友達がくれたんだ。これで十対十一だな。
ちょっと厳しいかな?君たちが」
#navi(虚無と狂信者)
#navi(虚無と狂信者)
「パンは肉、ワインは血。」
城の中では最後の晩餐会が行われていた、サイトは今まで見たこともないような豪勢な
食事を喜んだ。
「いや、タンパク質だろ常考。」
そう言い、昨日までで失った血を補充した。ふと目の前に人が来る。なんか輝いてる。
「ベルナドットさん!どうしたんすかソレ?!!」
ベルナドットは全身にアクセサリや指輪、宝石をふんだんに纏い、サンタクロースのような
袋を身に纏っている。おそらく中身は全て宝石だろう。総額で一億円位は軽くありそうだ。
「いやーどうせ貴族派に盗られるならっつうことで気前良くくれたんだよ。
まあ、ここまで死ぬ思いした駄賃ってとこかな。」
心底楽しそうに彼は笑った。
「そういうことだ。君もどうだね?」
ウェールズが正装でサイトに話しかける。その顔はどこまでも晴れやかだった。
「ああ、じゃあ後で。」
サイトは気のない返事をする。そして彼をまじまじと見つめる。
「………死ぬのが怖くはないんですか?」
「怖いよ」
ウェールズはあっさりと答えた。
「じゃあなんで逃げないんですか?」
ウェールズはうーんと唸った。その顔はどこか遠くを見ている。
「僕は王族だ。王と成るべくして生まれ、王と成るべく育った。
逃げず、退かず、名誉と民の安寧を守る為、そう育った。
ここで逃げたら僕は僕で無くなってしまう。誇り高きアルビオン王家ではなくなってしまう
ただの血と糞尿のつまった肉袋になってしまう。そんな気がしてね………」
ウェールズの言葉は勇壮で、心に響き、そしてどこか悲しかった。
「はは、すまないな、汚いこと言って。」
「いえ………」
きっと数か月前の自分なら解らなかっただろう。ただ今なら解る気がする。
サイトは懐から銃剣を取り出し、ウェールズに差し出した。
「祝福された武器です。ただの魔法よりは奴らに効果的でしょう。」
サイトとウェールズはがっしりと握手した。
彼の姿を見て、サイトは思う。
自分が吸血鬼と戦うのは、彼と同じく無謀。それは正しいことだろうか。と。
「ベルナドットさんは彼らのこと、どう思いますか?」
ウェールズが行った後、サイトは彼に聞いてみる。
「ん?べつにいいんじゃねえの?!」
彼はステーキをがっつりといただいていた。その横ではいつのまにか居たタバサがサラダを食べている。
「あの人達はさ、名誉の為にって言ってる。金の為に戦ってる俺なんかよりよっぽどマトモだ。」
そう、ベルナドットは自分と同じ世界、普通にいくらでも働きようのある世界の住人だ。
「まあ、そもそもよ、戦うのにさ、理由なんているのか?」
「……はい?」
サイトはその言葉の理解に苦しむ、それは理由があるから闘うのではないだろうか。
「戦わなくても何とかなる問題じゃねえのか?こんな戦争って。」
それはそうかもしれない。彼に政治の知識はあまり無いが、それでもニュースで言われて
いるようなことは、確かに態々殺し合うまでもないように思える。
「まあ、あいつらはな。そういうようなことでぶっ殺したりぶっ殺されたりしている連中
なんだからよ。お前がいちいち気にしてやるようなことじゃない。」
その言い草はどこか愉快そうで、サイトには理解できなかった。
「そんで俺もよ、お前位の年には学校も行かずに戦場行って殺し合ってたような奴さ。
それも誰に言われるでもなく好き好んでだ。お前の疑問にゃ答えられない。」
「………そうですか。」
ベルナドットはがしがしとサイトの頭を撫でてやる。その手を払おうとしても力が強くてできなかった。
「そう落ち込むな。わかんねえのが普通。解っちまったら旦那や俺と同類だ。親御さんのことも考えな。
勝手にいなくなって帰ってきたら戦争屋になってました。なんて親不孝はねえぞ。」
不死身の男になってましたも充分親不孝だ、という考えをタバサは心の中にしまった。
「俺やあの連中みたいな奴らを思って悩むなよ、サイト。好き好んで行って好き好んで死んだ。
自業自得だ。お前みてえないい奴はあの女の子のことでもきにかけてやんなよ。」
「ルイズ?どうした?」
サイトはボーっとしているルイズに訊ねる。見るとその眼には涙が浮かんでいた。
「何で皆笑って死ににいくの?馬鹿じゃないの?残される人のことを考えないの?」
ルイズの手にはアンリエッタの手紙があった。ふとサイトはルイズが姫から渡された親書を思い出す。
中身は、想像がついた。
「貴族ってのはそんなもんなんじゃねえの?」
サイトの言葉にルイズは彼を睨んだが、暫くして目を伏せた。
「そうね……貴族は………退いちゃいけないんだもの」
サイトは遠くの空を見つめる。
「俺の国ではさ、戦争が起こったら逃げろって言われてる。言われなくても逃げる奴ばっかりさ。」
ルイズは黙って聞いている。
「けどさ、逃げたらだめなんだよあの人達は、だって命より大事なものがあるんだから。」
名誉、誇り、信念、
信仰、そして、自分以外の誰か……
「あんたはあるの?大事なもの。」
彼女のその眼は。どこか不安げで。
「無いよ」
彼のその眼は、どこか羨ましげで。
ああ、そうか
アンデルセン神父に憧れるのはだからだろうか
彼は自分以外に何か大切なものを持っているから
それは勇壮で、甘美で、けどどこか哀しげで、魅きこまれてしまう。
「アンデルセンとあの人達は違うわ」
サイトはその言葉に驚く。
「アンデルセンは……勝つわ……勝つ気で戦うわ。勝機が私たちには見えないけど、彼には見えてる。」
「それが例え本当に僅かな那由他の彼方でも、彼は行く。けどこの人達は、死のうとしてるだけじゃない。」
サイトは少し考えて、頷いた。
「ふむ………。」
ワルドは廊下にて背を壁にもたれ、考え込む。
風のトライアングル二人、目覚めていないとは言え虚無一人、不死身の少年に強力な銃を使う平民。
こちらは風のスクウェアとは言え自分一人。
「さて、どうするか……。」
「困ってるね?」
ワルドが急いで振り向くと、そこには猫耳の少年が立っていた。
「貴様は……」
彼の組織の協力者である少年。その正体は知れないが、それよりも驚くべきはどう入ったかである。
この敵地のど真ん中に、どんな魔法を使ったのか。
「そんな怖い顔しないでよ。僕はどこにでもいるし、どこにもいない」
その言葉の意味も解らず、呆然とするワルドに、何かを手渡した。
「スキルニルって奴さ、それ使って何とかしなよ。こんだけ僕らが協力したんだからちゃんとね」
ワルドはそれを弄ぶ。それの使い方は分かっている。問題は無く自己の任務を達成できる。しかし。
「一つ答えろ。あれは何だ?グールなんて聞いてないぞ?!」
「何だといわれても……君みたいな裏切り者にそうホイホイ秘密を教えるわけないだろ?
まあ頑張ってこの任務を成功させたら教えたげるよ」
語気を強めるワルドを軽く受け流し、少年兵はどこかの部屋に入る。
ワルドが後を追い、その部屋に入る。そして驚愕の声を上げる。
その部屋は、もぬけの空だった。
ワルドの背筋に寒いものが流れた。
セラスは港町の牢獄に居た。不審人物として投獄されたのだ。どうしようかと思い悩む。
「何かできないかな……。あ、そういえば使い魔と主人って感覚を共有できるとか、よーし!
こちらセラス、ワルド子爵は裏切り者の危険性あり注意せよ!!繰り返す。ワルド子爵は……。」
傍から見るとそれは怪しさ抜群であった。
「ふーー」
笑って死にに行くウェールズ
それを思い悩むなというベルナドット
泣いているルイズ
何が正しいんだろう。こちらに来てから色んな人達に会って、色んな考えに触れて。
誰もが正しいように見えて正しくないように見える。
俺はどうすればいいんだ。このまま神父について、戦うのか?あんな化け物に。
ふと人の気配に気づく。タバサだ。タバサは俺の横で、星を見上げる。
「悩んでる?」
「うん、まあ。」
「私も悩んでる。」
「お前も?」
そのまま二人は星を見上げる。それは非常に多くて、綺麗だった。
「あの人達は、なんで行くんだ?」
その疑問の呟きは宵闇に掻き消えたようだった。タバサはしばらくして答える。
「あなたは、アーカードに立ち向かった。それは、あの人達以上に、無謀。」
「いや、でもあれは………そうしないとあの女の人が死にそうだった訳で。」
「………あなたはそう戦う、彼らもそう戦う。そうあれば、それでいい。」
「………そうかな?」
「そうあれかしと叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。」
神父が言った言葉。不思議とあの人が言ったというだけで真理のように感じるから不思議だ。
「その時が来たら、あなたはあなたの心のまま戦い、そうあれかしと叫んで、斬ればいい。」
「……………色々問題が無いか?それ?俺が間違ってたらどうするんだよ。」
「あなたは間違わない。」
いや、そんな断言されても、ていうか皆買いかぶりすぎだろう。俺は普通だぞ?
「あなたは、優しいから。」
そう言われると、むず痒い。そしてふと思う。
その時が来れば。
ルイズや、シエスタや、シルフィードや、あの女の人や、タバサが、
危ない時、衝動的に助け、結果としてうまくいった。後先考えないものであったが。
今、俺は吸血鬼を許せない。人に悲しみを振りまくあの化け物を。
それを作りだし、ばら蒔く連中を許せない。
そいつらのせいで知っている人達や罪も無い沢山の人達が死ぬことは許せない。
だから彼らが危害を加えてきたら、そうあれかしと叫んで、斬ればいい。
簡単だ。ひとまずはこれでいい。
「タバサ。」
青い髪の、小柄な少女が、自分を見上げる。
「ありがとう。考え纏まった。」
その表情の変化はよく分からなかったが、多分喜んでいる。と思う。
「友達」
あ、多分友達だから当然ってこと。凄い、わかるようになった。
「俺もその時が来たら戦う。死ぬのは怖いし、傷つくのは嫌だけど。タバサが危険になったら戦うよ。
ルイズもシエスタも、皆、神父はいらないだろうけど………。皆が危険になったら、死んでも戦う。怖いけど。」
私はサイトの悩みが解決したことを素直に喜んだ。
そしてまたも黒い炎が巻き起こる。
目的を達成可能にする力、それを手にした時、彼は私の敵となる。
そしてそうなった時、この時間が彼を苦しめることになることも。
いや、誰も彼も、賛同する訳が無い。キュルケもセラスもベルナドットも。
知っている。知っていてこうしている。
そこまで考えた時、使い魔の交信により、その思考をそれに集中させた。
ワルドの裏切り、節々に感じた違和感と鑑みて、さてどうしたものかと策を巡らせた。
「ワルドが裏切り者、ねえ?」
「確かか?」
「決め手に欠ける」
ルイズが部屋に入って来る。なぜか真赤な顔でサイトに聞く。
「ん?どうした?」
「………ワルド様が、結婚式を挙げようって………。ここで………。」
三人は顔を見合わせる。ベルナドットはニヤリと笑い、サイトは額に手を当てる。
「で、サイト!あんたはこの結婚についてどう思うの?ねえ?」
サイトは物憂げに溜息をつく、そして一言呟いた。
「ワルド………」
ルイズは予想外のサイトの反応に焦った。
(な、何よ、なんでワルド様なのよ?もしやサイトってそっち?
そういえばいつも神父神父って若干気持ち悪いし、男の方ばっか行くし!)
「完全に黒だな……」
「ええ、完全にマジだわ」
思案するベルナドットと腹を括るサイト、焦るルイズ、読めないタバサ。
「で、子爵どうします?」
「どうするってなによ!ナニするのよ?!」
「罠」
「いいなタバサ、それ。」
「何よ、ワルド様を罠に嵌めて何するのよ?」
「………話についていけてる?お前?」
「そ、そりゃ私はついてないけど、当たり前じゃない!非生産的よ!そんなの!」
「だから何の話をしてるんだ?」
閑話休題
「あ、そうワルド様は裏切り者ってことね?分かってたわよ!」
真赤になりながら逆ギレするルイズにポカンとするサイトと哀れみの目で見るベルナドットだった。
「まあ、とにかくだ。」
ベルナドットの顔には笑み、それはかれが戦地に赴くときいつも見せる心底楽しげな表情。
プロフェッショナルの傭兵団ワイルド・ギースの隊長のものだった。
「喧嘩強い魔法衛士様に、雇われの力、見せてやるか。」
「さて、もうバレている所だろう。」
ワルドの手には、木の人形。
魔法人形、スキルニル。
杖で掌を切り、握りしめ、血をそこに垂らす。
それはむくむくと大きくなり、ワルドの姿そのものとなった。
「罠にかけるのはどちらになるか、お楽しみ。といった所か。」
城ではワルド子爵の結婚式が行われていた。お相手はルイズ。
(何でよ?いや、それはまあ、結婚式を挙げるのがそもそも違うんだけど。)
「ええ、それでは、誓いのキスを。」
二人の前に立つのはサイトであった。ウェールズは一番前の席にて笑顔で式を見ている。
(何であんたが神父なのよ?仮にも私が結婚するのよ!ちょっとは妬きなさいよ!)
むくれるルイズ、ワルドは下を向いている。
突然、タガが外れたように笑いだした。それにつられ才人もまた笑い始める。
しばし、その場には彼らの笑い声のみが響く。
そして、その狂笑はピタリと止まった。
「いつ気づいた?」
サイトは笑いながら懐から銃剣を取り出す。ルイズ含め周りの全てのメイジが杖を取り出す。
「親切な友達が教えてくれました。」
「まあ、使い魔と主人は感覚を共有できるからね。アンデルセンかセラスかは分からないが。」
ワルドは緩やかな姿勢を崩さない。メイジはこの場に10人、さらにサイトもいる。
「何故祖国を裏切った、ワルド子爵。」
ウェールズが無表情で聞く。すでに風の呪文は完成され、もはや解き放たれるのみ。
「裏切った?何故?実際は分かっているのではないかねウェールズ皇太子。」
ワルドは堂々と口上を始めた。
「領民のことを考えもせず、国の存続も考えず、国事よりも恋愛を優先する不幸に酔った姫!
そいつを意のままに操るは骨まで腐った老人どもだ!
マザリーニ枢機卿はまだマシだがたった一人では限界と言ったところ!
沈みゆく泥舟ならいっそ沈めて木の船に乗り換えるだけのことだよ!!」
「そんなことはどうでもいい!」
サイトは口上を遮り叫んだ。ワルドに銃剣を向ける。
「あんなものを生み出しておいて、あんなものを生み出す片棒を担いで、領民?国?笑わせるなワルド!!」
その言葉を聞き、ワルドの顔がかすかに曇った。しかし、その変化はウェールズの言葉で阻まれる。
ワルドは目線をルイズへと戻す。その瞳はどこか優しい様子だった。
「一緒に来てはくれないんだな?ルイズ」
ルイズの返事は彼に杖を向けることだった。
「それで子爵?この状況をどう収める?一対十一だが?」
気を取り直したワルドは大声で笑う。
「ではこんなのはいかがだろう?」
柱の影からワルド達が現れる。そろそろと歩きながら、辺りに散らばる。
サイトも含め、さして驚かない。
「風の偏在だろ?ネタは上がってるんだ。」
「そうだ、私は4体出せる。まあ、それではちょっと厳しい、私が。」
一同は目を疑った。さらにぞくぞくとワルドが出てくるではないか。
「スキルニルというやつでね?親切な友達がくれたんだ。これで十対十一だな。
ちょっと厳しいかな?君たちが」
#navi(虚無と狂信者)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: