「大岡裁き」(2008/09/10 (水) 18:07:21) の最新版変更点
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春の使い魔召喚の儀式、少女は呪文を叫んだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
起きたのは大爆発だった。
その頃日本の某マンションの一室では、赤いショートヘアの少女が寝ぼけていた。
中学校への登校時間も差し迫った頃になり、ようやく目が覚めた少女がトイレの扉を開
けると、鏡があった。彼女は自分が寝ぼけているんだと思った。
大あくびをして、目をこすってから見直すと、鏡は消えていた。
「ちょっと薫ー、はよしてーな。後がつかえてんねんでー」
「あ、ごめーん」
慌てて明石薫はトイレに入った。
学院の広場で、多くの生徒があざ笑う中、ルイズはもう一度叫んだ。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ。神聖で美しく強力な使い魔よ。私は心より求め訴
えるわ。
我が導きに答えなさい!」
やっぱり起きたのは大爆発だった。
銀髪の少女は首を傾げていた。
鞄を取りに部屋へ戻ると、部屋のど真ん中に大きな鏡が浮いていたから。
「何これ…テレポートの転移ゲート!?」
何かが飛び出してくるものと思って身構え、銃に手をかけ、仲間を呼ぼうとする。
だが、次の瞬間には鏡が消えていた。
油断無く周囲を見渡すが、何も異常はない。
「・・・目の錯覚かしら?」
背後を通りがかったワイシャツにエプロン姿の男が少女の姿を訝しむ。
「どうしたんだ?紫穂」
「あ、うん…今、部屋に…」
と言って部屋の中を指さすが、やっぱり何もない。
「うんと、気のせいみたいね」
三宮紫穂は机の上に置いていた鞄を取り、部屋から出て扉を閉めた。
この召喚に失敗したら進級出来ない。メイジとしての未来は完全に閉ざされる。
「あーもー、早く出てこーい!
出てこいったらでてこーい!」
出てきたのは爆音と土煙だけ。
長い黒髪の少女は玄関先で驚愕していた。
「なんやこれは…間違いない。うちと同じテレポーターの仕業や!」
何故なら、登校しようとマンションの扉を開けた瞬間、目の前に大きな鏡の様に見える
転移ゲートがあったから。レベル7の瞬間移動能力者(テレポーター)である彼女には、
それが時空を歪めて作られた扉だと瞬時に知覚できた。
彼女は即座にマンション内へ警告を発する。
「敵や!テレポーターがでっかいゲートつくっとる。皆本はん、薫、紫穂!どこの誰か知
らんけど、来るで!」
即座にマンション内から、朝っぱらから良い度胸じゃねーか!パンドラかしら、それと
も黒幽霊?葵は下がって、リミッターを解除するから薫はゲートを出た瞬間を狙え!等の
声が帰ってくる。
「さぁ~うちらの力を…て、あれ?」
野上葵が振り返った時、やはりゲートは消えていた。
キョロキョロと周囲を見渡すが、何かが転移してきた様子は無かった。
いくら召喚呪文を唱えなおしても、何も召喚出来ない。
既に召喚と使い魔の契約をしていないのはルイズのみ。他の生徒からはヤジが飛び始め
ていた。
ルイズの背後で召喚の儀式を監督していたハゲの男も困り果てる。
「あの、えと、ミス・ヴァリエール…少し休憩しませんか?」
「いやです!コルベール先生、絶対、絶対に、召喚して見せます!!」
ピンクの長い髪を振り乱し、校庭を抉らんばかりの爆発が続く。
一台の巨大トレーラーが道路を走っていた。方向は法務省旧本館方面にある、内務省特
務機関超能力支援研究局B.A.B.E.L(バベル)。
「それじゃ、全員が見たんだね?」
「見た見た!見たよ皆本。やっぱ夢じゃなかったんだな」
「そのようね、でも、どうして誰も出てこないのかしら」
「あちらさんの都合なんやろけど、なんかたくらんどるんは間違いないわ」
それは日本で最高の超能力を持つ少女3人のチーム「ザ・チルドレン」の指揮車輌。朝
から続いている何らかのテレポーターからの接触を警戒し、中学は行かずバベル本部へ向
かっていた。
皆本と呼ばれた男は三人の少女に真剣な眼差しで語り出す。
「今のところ、相手はテレポーターだとしか分からない。所属も目的も不明。分かるのは、
君たちに何か接触をはかろうとしているが何故か上手く行ってない、ということだけらし
いね。
ここはバベルに戻り、何らかの対応を」
キキキイイイィィイイイイイッッ!!
「うわぁ!」「ひゃあっ!!」「キャア!」「なななんやあ!?」
突然指揮車輌が急ブレーキをかけて急停車した。
「葵!」「出るで!」
皆本のかけ声に、葵が四人をまとめてテレポートさせる。
一瞬で車外に飛び出した四人は、付近のビルの屋上へ降り立つ。
すぐに指揮車輌の方を見下ろすと、やはり鏡が。
直前で急停車した指揮車輌の前で、丁度キラキラ輝く鏡が消えた所だった。
一体何度目の失敗か分からないが、それでもルイズは諦めなかった。
コルベールの休息してはどうかという勧めも、他の生徒の罵声も聞こえない。
一心不乱に召喚呪文を唱え続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・出て、出てきなさいよ!五つの力を司るペンタゴン!さっさと
我の運命に従いし、"使い魔"を召喚しなさい!神聖で美しく強力な使い魔を心より求め訴
えるって言ってるのよ!
早く我が導きに答えなさい!」
彼女は召喚呪文を唱え続ける。
「・・・すると、朝から四度も謎のゲートが、かね?」
「はい、局長。この短い時間に四度も出現しました。恐らくは、再び現れるでしょう」
バベル局長室では、局長席に座る体格の良い初老の男に、皆本が手短に報告を行ってい
た。ザ・チルドレンの三人も各自の目撃証言を報告する。
局長は横に控える美人秘書へ視線を向けた。
「柏木君、この種のテレポーターに覚えはあるかね?」
「いえ、私も記憶にありません。部分テレポーターとしては体の一部を転移させるタイプ
が…て、え?」
柏木は、一瞬言葉に詰まった。視線が皆本の背後へ釘付けになる。
「な!?」
局長も同じく言葉を失った。視線は、やはり皆本の背後へ向けられている。
「何!?」
皆本は振り返った。腕を振り回して、勢いよく。
それがまずかった。
左手の指先が、彼のすぐ背後にあった噂の「鏡」に触れてしまった。
次の瞬間、鏡面が揺れた。まるで触手のように彼の腕を絡め取る。
「う、うわああああ!!!」
彼の肉体は、凄まじい吸引力で鏡へと吸われつつあった。
「皆本ぉ!!」
薫が叫び、彼女の能力である念動能力を全開にする。リミッターがかけられたままではあったが、それでも今使える全能力を使って彼の体を吸われてならじと力の限りに引っ張
りだす。
「いっ痛いいててててっ!!薫!そのまま放すな!リミッターを、誰か、右ポケットのリ
ミッターを取って!解除してくれ!!イタタタッ!す、吸われるー!」
「分かった!柏木君、緊急警報だ!!全エスパーを集めるんだ!警護隊も招集!!」
局長は慌てて駆け寄り、彼の背広からリミッターを取りだしてザ・チルドレンの能力を
解放した。
「うぅおおりゃあーーーっ!!サイキックうぅぅ綱引きぃーーーー!」
「ぃぎゃーーーーーっ!!」
レベル7の念動力全開で体を引っ張られた皆本の叫びは、まさに断末魔。
広場では、呆然としていた。
ルイズだけでなく、コルベールだけでもなく、全生徒が呆然としていた。
何故なら、召喚ゲートから人間の腕が生えてきたから。
なにやらジタバタジタバタともがいてる人間の腕が。
そして、少しづつだがゲートを通り抜けつつある。
コルベールが近寄って観察してみる。
「これは・・・間違いなく、人の腕ですね。どうやら召喚されつつあるようです」
その言葉にルイズの表情が明るくなる、と同時に暗くなる。
「あ、あの、それってどうなるんでしょうか?間違いなく人間なんですか?」
「ふぅ~む、亜人かもしれませんが、何にせよこれは、通り抜けられなくて困っているよ
うですね。
ちょっと手伝ってあげましょうか」
そういってコルベールは杖を手にして、ゲートに生える腕へ向かって魔法を放った。そ
れは『レビテーション』、腕を引っ張って通るのを手伝おうと、親切で魔法をかけてあげ
たのだった。
「ぎゃあーっ!!いたったたたたあああ!!ひ、引っ張られてる、何かに引っ張られてる
んです!!助けてくれー!!」
「み、皆本ぉ!!耐えろよ、すぐに引っ張り出してやる!!」
薫は念動力を全開にして皆本の体を支える。
そこへ局長室の扉を叩き開けて、一組の男女が飛び込んできた。
「ワイルド・キャット、谷崎及び梅枝ナオミ参りました!・・・って、これはどうしたこ
とだ!?」
「た、大変!!加勢します、皆本さん、もう少しの辛抱ですよ!」
レベル6の念動能力者、梅枝ナオミも皆本を念力で引っ張る。
更に少年少女を連れた一人の女性も飛んできた。
「ザ・ハウンド来ました…きゃー!大変だわ!明くん、初音ちゃん!」
「初音、行け!ご褒美は皆本さんがステーキおごってくれるぞ!」
「初音、頑張る!」
少年の号令のもと、少女は狼へと変身した。そして、皆本の足に噛みついて思いっきり
ひっぱった。
さらに局長室には次々と人が飛び込んでくる。念動力や怪力のない者達も、次々と皆本
の体に取りつき、鏡から引っ張り出そうと奮闘する。
・・・アアッ・・・
朝のバベル、その大きな建物から声にならない叫びがこだました。
そして、学院側でも同じような状況だった。
多くの生徒が皆本の腕や肩に『レビテーション』をかけ、引っ張り出そうとしていた。
「出てこないねぇ…」
「何に引っかかってるのかしら?」
「まー、何でも良いからサッサと引っ張り出そうぜ。早く終わらせよーや」
「ね、ねぇ、でも、このままじゃ、使い魔の体が千切れて死んじゃったり・・・」
「そんときゃしゃーねーってことで。新しいの喚んでもらうっきゃないねえ」
「めんどくさいから、もう落第でいいんじゃない?」
そんな不平たらたらな台詞に、ルイズの半泣きな眼光が飛ぶ。
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと引っ張りだしなさいよぉ!!」
杖を振り上げ、ルイズは必死で叫んでいる。そんなルイズに協力させられている学友達
は溜め息が漏れてしまう。
「ふぅん・・・なるほど。そういうことだったのね」
突然、彼等の背後から聞き覚えのない声がした。
「うちらの皆本はんを奴隷にしようと捕まえてたわけや・・・んでもって、死んでもええ
から引っ張り出せ・・・やて?」
彼等が振り向くと、二人の少女と一人の女性がいた。見た事もない服を着た、見知らぬ
人達だ。そして何故か、銀髪の少女がルイズの体に僅かに触れる手が光っている。
巨乳の女性は、こめかみに血管を浮かべて顔を引きつらせている。
「葵ちゃん・・・この人達には、ちょお~っと詳しくお話を聞こうと思うのよぉ。だから
ねぇ・・・全員、バベルにテレポートさせちゃうわよ!!」
「任せぇや!!いくでばーちゃん!」
ばーちゃんと呼ばれた美しい女性と、長い黒髪の少女が生徒達へ不可視の力を発した。
とたんに彼等の姿がかき消えていく。
全員、召喚ゲートを経由してバベル局長室まで次々と転移させられていたのだ。
「皆本さんっ!大丈夫!?」
紫穂がゲートから飛び出して校庭の草むらに倒れた皆本へと駆け寄る。レベル7の接触
感応能力で彼の状態を確認する。
「大変よ!すぐに連れて帰って手当を!!」
言うが早いか、彼等の姿もかき消えた。
こうしてバベル局長室では、完全武装で拳銃や自動小銃を構える特殊部隊員達に囲まれ
た異世界からの闖入者達に対し、知的好奇心からの人体実験やら異種文明とのファースト
コンタクトそっちのけで、包帯ぐるぐる巻きで怒り狂う皆本はじめ全局員からの激しい説
教が加えられたのだった。
小ネタ 大岡裁き 終
春の使い魔召喚の儀式、少女は呪文を叫んだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」
起きたのは大爆発だった。
その頃日本の某マンションの一室では、赤いショートヘアの少女が寝ぼけていた。
中学校への登校時間も差し迫った頃になり、ようやく目が覚めた少女がトイレの扉を開
けると、鏡があった。彼女は自分が寝ぼけているんだと思った。
大あくびをして、目をこすってから見直すと、鏡は消えていた。
「ちょっと薫ー、はよしてーな。後がつかえてんねんでー」
「あ、ごめーん」
慌てて明石薫はトイレに入った。
学院の広場で、多くの生徒があざ笑う中、ルイズはもう一度叫んだ。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ。神聖で美しく強力な使い魔よ。私は心より求め訴
えるわ。
我が導きに答えなさい!」
やっぱり起きたのは大爆発だった。
銀髪の少女は首を傾げていた。
鞄を取りに部屋へ戻ると、部屋のど真ん中に大きな鏡が浮いていたから。
「何これ…テレポートの転移ゲート!?」
何かが飛び出してくるものと思って身構え、銃に手をかけ、仲間を呼ぼうとする。
だが、次の瞬間には鏡が消えていた。
油断無く周囲を見渡すが、何も異常はない。
「・・・目の錯覚かしら?」
背後を通りがかったワイシャツにエプロン姿の男が少女の姿を訝しむ。
「どうしたんだ?紫穂」
「あ、うん…今、部屋に…」
と言って部屋の中を指さすが、やっぱり何もない。
「うんと、気のせいみたいね」
三宮紫穂は机の上に置いていた鞄を取り、部屋から出て扉を閉めた。
この召喚に失敗したら進級出来ない。メイジとしての未来は完全に閉ざされる。
「あーもー、早く出てこーい!
出てこいったらでてこーい!」
出てきたのは爆音と土煙だけ。
長い黒髪の少女は玄関先で驚愕していた。
「なんやこれは…間違いない。うちと同じテレポーターの仕業や!」
何故なら、登校しようとマンションの扉を開けた瞬間、目の前に大きな鏡の様に見える
転移ゲートがあったから。レベル7の瞬間移動能力者(テレポーター)である彼女には、
それが時空を歪めて作られた扉だと瞬時に知覚できた。
彼女は即座にマンション内へ警告を発する。
「敵や!テレポーターがでっかいゲートつくっとる。皆本はん、薫、紫穂!どこの誰か知
らんけど、来るで!」
即座にマンション内から、朝っぱらから良い度胸じゃねーか!パンドラかしら、それと
も黒幽霊?葵は下がって、リミッターを解除するから薫はゲートを出た瞬間を狙え!等の
声が帰ってくる。
「さぁ~うちらの力を…て、あれ?」
野上葵が振り返った時、やはりゲートは消えていた。
キョロキョロと周囲を見渡すが、何かが転移してきた様子は無かった。
いくら召喚呪文を唱えなおしても、何も召喚出来ない。
既に召喚と使い魔の契約をしていないのはルイズのみ。他の生徒からはヤジが飛び始め
ていた。
ルイズの背後で召喚の儀式を監督していたハゲの男も困り果てる。
「あの、えと、ミス・ヴァリエール…少し休憩しませんか?」
「いやです!コルベール先生、絶対、絶対に、召喚して見せます!!」
ピンクの長い髪を振り乱し、校庭を抉らんばかりの爆発が続く。
一台の巨大トレーラーが道路を走っていた。方向は法務省旧本館方面にある、内務省特
務機関超能力支援研究局B.A.B.E.L(バベル)。
「それじゃ、全員が見たんだね?」
「見た見た!見たよ皆本。やっぱ夢じゃなかったんだな」
「そのようね、でも、どうして誰も出てこないのかしら」
「あちらさんの都合なんやろけど、なんかたくらんどるんは間違いないわ」
それは日本で最高の超能力を持つ少女3人のチーム「ザ・チルドレン」の指揮車輌。朝
から続いている何らかのテレポーターからの接触を警戒し、中学は行かずバベル本部へ向
かっていた。
皆本と呼ばれた男は三人の少女に真剣な眼差しで語り出す。
「今のところ、相手はテレポーターだとしか分からない。所属も目的も不明。分かるのは、
君たちに何か接触をはかろうとしているが何故か上手く行ってない、ということだけらし
いね。
ここはバベルに戻り、何らかの対応を」
キキキイイイィィイイイイイッッ!!
「うわぁ!」「ひゃあっ!!」「キャア!」「なななんやあ!?」
突然指揮車輌が急ブレーキをかけて急停車した。
「葵!」「出るで!」
皆本のかけ声に、葵が四人をまとめてテレポートさせる。
一瞬で車外に飛び出した四人は、付近のビルの屋上へ降り立つ。
すぐに指揮車輌の方を見下ろすと、やはり鏡が。
直前で急停車した指揮車輌の前で、丁度キラキラ輝く鏡が消えた所だった。
一体何度目の失敗か分からないが、それでもルイズは諦めなかった。
コルベールの休息してはどうかという勧めも、他の生徒の罵声も聞こえない。
一心不乱に召喚呪文を唱え続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・出て、出てきなさいよ!五つの力を司るペンタゴン!さっさと
我の運命に従いし、"使い魔"を召喚しなさい!神聖で美しく強力な使い魔を心より求め訴
えるって言ってるのよ!
早く我が導きに答えなさい!」
彼女は召喚呪文を唱え続ける。
「・・・すると、朝から四度も謎のゲートが、かね?」
「はい、局長。この短い時間に四度も出現しました。恐らくは、再び現れるでしょう」
バベル局長室では、局長席に座る体格の良い初老の男に、皆本が手短に報告を行ってい
た。ザ・チルドレンの三人も各自の目撃証言を報告する。
局長は横に控える美人秘書へ視線を向けた。
「柏木君、この種のテレポーターに覚えはあるかね?」
「いえ、私も記憶にありません。部分テレポーターとしては体の一部を転移させるタイプ
が…て、え?」
柏木は、一瞬言葉に詰まった。視線が皆本の背後へ釘付けになる。
「な!?」
局長も同じく言葉を失った。視線は、やはり皆本の背後へ向けられている。
「何!?」
皆本は振り返った。腕を振り回して、勢いよく。
それがまずかった。
左手の指先が、彼のすぐ背後にあった噂の「鏡」に触れてしまった。
次の瞬間、鏡面が揺れた。まるで触手のように彼の腕を絡め取る。
「う、うわああああ!!!」
彼の肉体は、凄まじい吸引力で鏡へと吸われつつあった。
「皆本ぉ!!」
薫が叫び、彼女の能力である念動能力を全開にする。リミッターがかけられたままでは
あったが、それでも今使える全能力を使って彼の体を吸われてならじと力の限りに引っ張
りだす。
「いっ痛いいててててっ!!薫!そのまま放すな!リミッターを、誰か、右ポケットのリ
ミッターを取って!解除してくれ!!イタタタッ!す、吸われるー!」
「分かった!柏木君、緊急警報だ!!全エスパーを集めるんだ!警護隊も招集!!」
局長は慌てて駆け寄り、彼の背広からリミッターを取りだしてザ・チルドレンの能力を
解放した。
「うぅおおりゃあーーーっ!!サイキックうぅぅ綱引きぃーーーー!」
「ぃぎゃーーーーーっ!!」
レベル7の念動力全開で体を引っ張られた皆本の叫びは、まさに断末魔。
広場では、呆然としていた。
ルイズだけでなく、コルベールだけでもなく、全生徒が呆然としていた。
何故なら、召喚ゲートから人間の腕が生えてきたから。
なにやらジタバタジタバタともがいてる人間の腕が。
そして、少しづつだがゲートを通り抜けつつある。
コルベールが近寄って観察してみる。
「これは・・・間違いなく、人の腕ですね。どうやら召喚されつつあるようです」
その言葉にルイズの表情が明るくなる、と同時に暗くなる。
「あ、あの、それってどうなるんでしょうか?間違いなく人間なんですか?」
「ふぅ~む、亜人かもしれませんが、何にせよこれは、通り抜けられなくて困っているよ
うですね。
ちょっと手伝ってあげましょうか」
そういってコルベールは杖を手にして、ゲートに生える腕へ向かって魔法を放った。そ
れは『レビテーション』、腕を引っ張って通るのを手伝おうと、親切で魔法をかけてあげ
たのだった。
「ぎゃあーっ!!いたったたたたあああ!!ひ、引っ張られてる、何かに引っ張られてる
んです!!助けてくれー!!」
「み、皆本ぉ!!耐えろよ、すぐに引っ張り出してやる!!」
薫は念動力を全開にして皆本の体を支える。
そこへ局長室の扉を叩き開けて、一組の男女が飛び込んできた。
「ワイルド・キャット、谷崎及び梅枝ナオミ参りました!・・・って、これはどうしたこ
とだ!?」
「た、大変!!加勢します、皆本さん、もう少しの辛抱ですよ!」
レベル6の念動能力者、梅枝ナオミも皆本を念力で引っ張る。
更に少年少女を連れた一人の女性も飛んできた。
「ザ・ハウンド来ました…きゃー!大変だわ!明くん、初音ちゃん!」
「初音、行け!ご褒美は皆本さんがステーキおごってくれるぞ!」
「初音、頑張る!」
少年の号令のもと、少女は狼へと変身した。そして、皆本の足に噛みついて思いっきり
ひっぱった。
さらに局長室には次々と人が飛び込んでくる。念動力や怪力のない者達も、次々と皆本
の体に取りつき、鏡から引っ張り出そうと奮闘する。
・・・アアッ・・・
朝のバベル、その大きな建物から声にならない叫びがこだました。
そして、学院側でも同じような状況だった。
多くの生徒が皆本の腕や肩に『レビテーション』をかけ、引っ張り出そうとしていた。
「出てこないねぇ…」
「何に引っかかってるのかしら?」
「まー、何でも良いからサッサと引っ張り出そうぜ。早く終わらせよーや」
「ね、ねぇ、でも、このままじゃ、使い魔の体が千切れて死んじゃったり・・・」
「そんときゃしゃーねーってことで。新しいの喚んでもらうっきゃないねえ」
「めんどくさいから、もう落第でいいんじゃない?」
そんな不平たらたらな台詞に、ルイズの半泣きな眼光が飛ぶ。
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと引っ張りだしなさいよぉ!!」
杖を振り上げ、ルイズは必死で叫んでいる。そんなルイズに協力させられている学友達
は溜め息が漏れてしまう。
「ふぅん・・・なるほど。そういうことだったのね」
突然、彼等の背後から聞き覚えのない声がした。
「うちらの皆本はんを奴隷にしようと捕まえてたわけや・・・んでもって、死んでもええ
から引っ張り出せ・・・やて?」
彼等が振り向くと、二人の少女と一人の女性がいた。見た事もない服を着た、見知らぬ
人達だ。そして何故か、銀髪の少女がルイズの体に僅かに触れる手が光っている。
巨乳の女性は、こめかみに血管を浮かべて顔を引きつらせている。
「葵ちゃん・・・この人達には、ちょお~っと詳しくお話を聞こうと思うのよぉ。だから
ねぇ・・・全員、バベルにテレポートさせちゃうわよ!!」
「任せぇや!!いくでばーちゃん!」
ばーちゃんと呼ばれた美しい女性と、長い黒髪の少女が生徒達へ不可視の力を発した。
とたんに彼等の姿がかき消えていく。
全員、召喚ゲートを経由してバベル局長室まで次々と転移させられていたのだ。
「皆本さんっ!大丈夫!?」
紫穂がゲートから飛び出して校庭の草むらに倒れた皆本へと駆け寄る。レベル7の接触
感応能力で彼の状態を確認する。
「大変よ!すぐに連れて帰って手当を!!」
言うが早いか、彼等の姿もかき消えた。
こうしてバベル局長室では、完全武装で拳銃や自動小銃を構える特殊部隊員達に囲まれ
た異世界からの闖入者達に対し、知的好奇心からの人体実験やら異種文明とのファースト
コンタクトそっちのけで、包帯ぐるぐる巻きで怒り狂う皆本はじめ全局員からの激しい説
教が加えられたのだった。
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