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「ゼロのパラサイト-03」(2008/09/07 (日) 11:42:10) の最新版変更点
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#navi(ゼロのパラサイト)
あの乱痴気騒ぎの後、周囲の視線に気づいて冷静になったルイズは逃げるようにして部屋に戻った。
ガッチリと鍵をかけ、耳まで真っ赤になった頭をベッドに突っ込んで唸る。
ルイズの部分というかなんというか、変なタイミングで予想外の事が起きたせいで余裕が持てなかった。
肌を晒すなんてどうでもいいという思いがある一方で、顔からフレイム・ボールが出せそうなぐらい恥ずかしい。
その後の行動と周囲からの視線も十分すぎるほど恥ずかしいのだから、結局駄目だ。さらにベッドに顔をめり込ませる。
「そんな事してる場合じゃなかった……。練習しないと」
半時ほど悶えまくった後で、ようやくルイズは今日の目標を思い出した。
アレは疑われた時の防御策の一環だったと考えて前向きに処理、という名の現実逃避を実行する。
まだ世間では最初の授業が始まったところだが、かなり大幅に時間を無駄にしたと言わねばならない。
これに懲りて、胸を大きくするのは止めておこうと心に決めたルイズである。
「とりあえず……全身の強化ね」
例え右腕がドラゴンより強くても、それを支える肩や体を支える両足が普段のままでは、まともに力を発揮できない。
左手、右足、左足、と順に触手にばらしてから強化していき、最後に残った部分全てを強化した。これで素手での格闘ならばまず負けないだろう。
ルイズの姿ではなく、エイリアンの姿になれば今などより遥かに強くなるが、ルイズはあの姿が好きではなかった。
牙と触手の巨大な化け物など、少女であるルイズには許容し難い。それに正体丸出しだし。
「やっぱり、可愛くないとね。変なのは嫌」
強い姿をイメージしようにも、現在の状態からあまりにかけ離れているのは駄目だ。
あまりに化け物じみていては教師たちも使い魔を疑うだろうし、何より自分が気に入らない。
目指すのは強くて、可愛くて、貴族たる自分に相応しい物である必要がある。
「う~ん……」
ベッドの上に腰掛けて頭をひねってみるが、いいアイディアは浮かばなかった。もう少し具体的な物でないと駄目かもしれない。
強いといえばドラゴンやトロール鬼やオグル鬼、ミノタウルスや吸血鬼……。どれも異端と言われそう。却下。
大きく溜息を吐いたルイズには、なんとなくカーテンを開けて外を見上げた。今日も天気のいい快晴だ。
魔法の練習にでも行くのだろうか、青空を背景にして飛ぶ一団が遠くに見える。
「私も、空を飛べたらな……」
ゼロと呼ばれ続けているルイズにとって、空を飛ぶというのは大きな望みの一つだった。
どこかに移動する授業のたびに、飛び去っていくほかのメイジたちを見ながら悔し涙を抑えたものだ。
「ゼロは歩いて来いよ」「平民と一緒だな」「空も飛べないなんて」「本当にメイジなの?」
何度、そういう事を言われただろうか。コモンマジックの一つすら唱えられないゼロのルイズと。
「そうよ、翼がいいわ!」
ルイズの中に浮かんだのは、神々しい白くて大きな翼のイメージだった。
翼人という種類の亜人のためにイメージはいまいちだが、教師に使い魔の能力だと認めさせれば角も立たないだろう。
トリスティンにはグリフォン隊がいるし、風属性のメイジなら鳥を使い魔にしている者も多く、密かに翼を望む者は数多く居るはずだ。
それに土メイジとの戦闘において、魔法無しで空を飛べるという事は絶対的なアドバンテージになりえる。
「よしっ! 決めた!」
早速、実践するために邪魔な上着を脱ごうとしたが……。先ほどの大騒ぎを思い出した。
鍵をアンロックで開けた上に、ノックもなしに入ってくる野蛮な相手はツェルプストーだけで、あいつは授業中のはずだが、万が一という事がある。
この部屋で大規模な変身を練習するのは危険かもしれない。少なくとも教師たちを言いくるめられるまでは。
「失礼します、ミス・ヴァリエール。水差しをお持ちしました」
ルイズの思考はノックの音によって遮られた。そういえばメイドにそんな事を頼んだなと思い出す。
ドアの前まで行って鍵を開けると、大きな水差しといくつかのコップを持った黒髪のメイドが居た。丁度いい獲物だ。
部屋に招きいれて、テーブルの上に物を置き終わるタイミングを計り、後ろ手でドアの鍵を閉める。
「あ、そうだ。ちょっと窓を見てくれない? 何か変なものがついてたんだけど」
「はい、わかりました」
何も疑うことなく窓へと近づいていくメイドの背後に立ち、ルイズは両腕を触手に変えた。
音も無く息のかかるほどの距離まで接近すると、力加減に気をつけながら一瞬でメイドの口を塞いで全身を拘束する。
軽々とメイドの体を持ち上げて抵抗を封じ、くるりを向きを変えて此方を向かせた。恐怖に染まった瞳がこちらを見つめている。
「むぐぅ……うぅぅ!」
「大丈夫よ。何もかも忘れるわ」
ルイズは子供に言い聞かせるように優しく事を処理した。くぐもった苦痛の声が部屋に吸い込まれていく。
健気な抵抗を見せていた両腕から力が抜け、驚愕に見開かれていた双眸が閉じられる。メイドはあっけなく気を失った。
「まあまあ順調。この手は使える」
糸の切れた繰り人形のようになったメイドを見つめ、ルイズは少しばかり処分に困っていた。ずっとこのままという訳には行かない。
体を作り変える前でも、自分に対する無意識的な好意と従順さを同時に植えつけるぐらいは出来るが、それにしたって触手を見れば驚くだろう。
あの男の場合は起きるまで地面に転がしていたが、女性を床に寝かせるのは忍びない気がする。
平民のメイドとはいえ、もう彼女はルイズの分身にも等しいのだから。胸があるのは悔しいけれど。
少しだけ迷って、ルイズはこのメイドを自らのベッドの上に寝かせた。
「やっぱり、私もこのぐらい欲しいわね……」
呼吸と共に少しだけ上下する胸はルイズよりずっと大きく、女性らしいプロポーションを持っている。
こういう女の子に変身する事が出来れば、寄生相手にも困らなさそうだ。やっぱり羨ましい。
「ん、う……」
「眼が覚めた?」
「ふえ……? って、あれ……? わわわわ、私ったら! も、申し訳ありません!」
幸せそうな寝顔から一転、メイドは体を起こして自分の置かれた状況を素早く理解すると、死にそうなぐらい顔を真っ青にした。
お使いを頼まれた貴族様の部屋で気を失い、それだけならまだしも貴族様に介抱されるなど、とんでもない異常事態である。
それ以前に貴族のベッドでメイドが寝たというだけでも、上に報告されれば罰されるのは眼に見えていた。
良くてここを解雇になるか、悪くすれば本物の首が飛ぶ事だって……。再び気絶する寸前だ。
「別にいいわよ、暇だったしね……。それより、あなたのお名前を教えてくれない?」
「は、はい……。シエスタと申します」
「シエスタ、か。良い名前。でも、働きすぎには注意するのよ?」
いかにも優しい貴族らしく笑顔で対応するルイズを、シエスタは神様を見るような目で見つめていた。
普段から貴族に虐げられている平民のメイドたちにとって、この優しさは麻薬のように染み込む。
短いお喋りだけで、あっという間にルイズを心から信頼したらしく、いかにも純朴そうな笑顔を向けてくれる。
もしルイズの正体がばれてしまっても、こういう人間を学校内に複数作っておけば保険にはなるだろう。
雑談を交えながら昼食の後で又水差しを持って来てくれる様に頼んだが、その際に、
「ただし、働き過ぎないように……。持ってくるのは別のメイドに頼んで、貴方はその間サボっていなさい」
と冗談を交えて言うと、シエスタは笑いながらより一層の好意を向けてくれた。扱いやすい。
やがて深々とお辞儀をして部屋を去っていったシエスタを見送り、テーブルの上に会った水差しを手に取る。
一日がかりで消費するような量があるというのに、直接口をつけると一気に飲み干した。
まだ別に乾いていないが、水分は十分にあるに越した事はない。保水力を上げる訓練も兼ねている。
空になった水差しをテーブルの上に戻して時計を確認すると、まだ昼食には一刻ほど早かった。
「そうね、体内に杖を隠せるかしら……」
メイジが無手を装えるというのは計り知れないメリットだ。
魔法こそトリスティンにて貴族の地位を確立する力の根源であり、杖が無ければ魔法を使えないというのは常識で、杖の無い貴族など平民と大差ない。
カーテンとドアの鍵を確認した後で、ルイズはルーンの刻まれた左腕を触手の束へと変えた。
付け根から少しずつ人間の腕へと戻していく最中に、二の腕が出来始めた辺りで束の中に杖を押し込む。
そのまま杖が弾き出されないように慎重に戻していくと、上手い具合に杖は腕の中に納まった。
杖を隠すための溝を尺骨に作ったため、やや強度が落ちる事になったが、その分は太さを増してごまかす。
指揮棒サイズの小さな杖であった事も幸いした。もう少し大きかったら、とても隠す事は出来なかっただろう。
いくら外側を見回してもルイズの細い腕は何の変化もなく、まさか杖が入っているとは誰も思わないはずだ。
この状態でも魔法が使えるのかという不安はあったが、爆発する失敗魔法を部屋の中で試すわけには行かない。
まあ無手を装えるだけでもメリットはあるだろう。この状態なら左手のルーンも光らないようだし。
「後は反復ね」
この形を覚えさせるため、ルイズは何度何度も同じ事を繰り返した。咄嗟に失敗すれば一大事だ。
10回、20回、30回。スピードはどんどんと上昇し、やがて試行回数が3桁を越えた頃になると、投げた杖を空中で腕の中に収める事も可能になった。
続いて腕の筋肉を操作し、溝の中に入っている杖を手の平へと押し出す練習を始める。こちらは非常に簡単で、すぐに覚えた。
親指と人差し指が交差する辺りから飛び出す杖を、手を閉じるようにして指で捕まえると、そのまま構えた形になる。
戻す時は、手首を固定したまま左手を体のほうに引き寄せ、手を打ち合わせるようにして音を出せばいい。
おそらく魔法しか眼中にないメイジたちは、この手品を魔法の一種と勘違いしてくれるはずだ。
ルイズは閉ざされた部屋の中で、独り笑った。
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