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「FF:U:Z~ファイナルファンタジー:アンリミテッド:ゼロ-3」(2007/07/25 (水) 17:41:45) の最新版変更点
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メイドと別れた後、部屋に戻ってしばらくの時間が過ぎ…
朝食の時間というのはよくわからなかったが、起床した生徒も増えてきているようだ。
学舎内から感じられる気配でそう判断した風は、再びルイズに声をかける。
「おい…朝だ、起きろ」
「うぅ~にゅ…あとごふん~…はっ!時間が繰り返している!?これはバイツァ・ダストの攻撃!
…冗談よ、起こしてくれてありがと、風」
何を言っているのかはよくわからなかったが、とりあえず起きたので良しとしよう。
眠たげに目をこすりながらベッドのふちに座ったルイズは、ネグリジェ姿のまま風を見つめる。
「…?」
「『?』じゃないわよ、気が利かないわねー。制服と下着、早く取ってちょうだい」
曰く、使い魔がいる時は自分で着替えたりしないのが貴族らしい。
指示通りにクローゼットから下着を取り出し、昨晩脱いであった制服と共にルイズに渡す。
「ちょっとー、渡すだけじゃなくて着させてよ」
「…無理だ」
「そんな変なものずっと持ってるからでしょ、外して両手使えるようにしなさいよ。ていうか、それ何?」
「これは…俺の心臓だ」
まーた始まった、とジト目になるルイズ。もういいわ、と自分で着替え始める。
「はいはい心臓心臓、あんたの妄言のレパートリーの多さには感心するわ」
ま、もう慣れたからいいけど…と一人ごちる。実のない口論で朝食に遅れてしまうのもくだらない。
「さ、そろそろ朝食の時間。あんたも一緒に来るのよ」
「…」
どこか納得してないような風の手をとって部屋を出…ようとした瞬間、
「ふぎゅっ!!」
「おはようルイズ。あなたが召喚したっていう使い魔を見に来てあげたわよ。
…あら?何朝から鼻を押さえてのた打ち回ってるの?」
「あ、あああ…あんひゃねぇ…ほりょすわょ…」
目の前の扉が急に開けられた結果、顔面をしたたかに打ったルイズは涙目で扉の外にいる赤髪の少女を睨んだ。
「ごめんごめん、まさか扉の真ん前にいるなんて思わなかったわ」
「だからっていきなり開けるバカはいないわよ!ていうか、鍵かけてあったはずなのに…」
そこまで言って風を睨む。
彼女のお察しの通り、部屋を出入りした後鍵を掛け直さなかった犯人は彼である。
「…風、今日、朝食ヌキ」
鼻をティッシュで押さえたまま非情な通告をするルイズ。と、そこに赤髪の少女が割り込む。
「あ~ら、短気な主人を持つと苦労が絶えないわねぇ。食事抜きなんて虐待じゃない」
「人聞きの悪いこと言わないでツェルプストー、大体鍵をかけ忘れるなんて無用心が過ぎるわ、常考…」
だからこれは教育的指導!と風に指を突きつけた。
反論や謝罪するでもなくいつも通りに無言で佇む風を、赤髪の少女は興味深そうに眺め、
「聞いてた通りの平民ね、変わってる。名前は風、でいいのかしら?
私はキュルケ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
一応そこのルイズの友人よ、以後よろしくね」
そこまで言って髪をふぁさ、っとかきあげる。
空に踊る髪の鮮やかな赤が眩しかった。
「それにしても本当に平民を呼び出して契約しちゃうなんて…流石はゼロのルイズ、といったところかしら?」
「うっ、ウルサイわねぇ、わたしの勝手でしょ!」
「そりゃ確かに個人の勝手だけど、使い魔にするんだったらこれくらいは呼びたい所よね…フレイム!」
キュルケの呼び声に答えて、何かがのそり、と姿を現す。
「…サラマンダーか」
「そ、それがあんたの使い魔?」
「そう、すごいでしょう?好事家に見せても値がつけられないくらい立派なサラマンダーよ」
「あーはいはい、すごいですねー」
キュルケの自慢は今に始まったことではない、嵐が通り過ぎるのを待つように淡々と相槌を打つルイズ。
「いやねぇ、これくらい普通よ。もっとも、ゼロのルイズにはちょぉっとハードルが高いかも、だけど」
口元に手を当ててむふふ、と馬鹿にしたように言うキュルケ。
「…ゼロ?」
ここで珍しく風が口を開く。どうやらルイズがなぜ『ゼロ』の二つ名で呼ばれているのか解らないらしい。
「あら、知らないの?ルイズがゼロって呼ばれる理由は―」
「わーっ、わーっ!うるさーい!いらん事言うな~!!」
キュルケの言葉を遮り叫ぶルイズ、相当知られたくないような理由なのだろう。
「さ、さささ、さっさと食堂に行くわよ、風!」
これ以上都合の悪い展開になる前に、逃げるが勝ち!と風の手をとり走り出すルイズ。
微妙な笑顔でそれを見送ったキュルケだったが…
「ふふっ、聞いていた通り…いえ、それ以上に…いい男」
ルイズたちの姿が見えなくなったとたんにその笑顔を妖艶なものに変じる。
「ルイズにはもったいないわ…うふ、うふふふふふ…」
やがて妖艶を通り越し、もはや怖いモノになってきた表情の唯一の目撃者となった火竜は、
『キュ、キュルル…ル?』
少しだけドン引きしながらも主を心配するように低く唸っているのだった。
手を引かれて食堂へと向かう道すがら、風はゼロの呼び名について考えていた。
消滅したはずの自分を世界を超えて召喚したのだ、いずれ誉れ高い二つ名なのだろう、と考えていたのだが…
先ほどの様子からするとどうも違うらしい。
答えの出ないまま目的地に到着する、そこは食堂と呼ぶにはあまりにも広いホールだ。
アルヴィーズの食堂というらしい。平民がこの中に入れるなんて名誉な事なのよ、と席に着いたルイズは言う。
もっとも、食事抜きの刑に処された風にとっては、関係も興味も無いことだったが。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします―」
祈りの声が唱和され、食事が始まる。
「いただきまーす」
「…」
もぐもぐ
「…」
もぐ、もぐ
「…」
もぐ…も…ぐ…
「…」
「だーっ、もう、気になるっ!」
背後からの視線と何とも言えない威圧感に耐えかねたルイズが声を上げる。
考えてみれば、食事時に自分のすぐ後ろに人間が黙って突っ立っているのである。かな~り鬱陶しい事この上ない。
「まったく、落ち着いて食事もできないじゃない…ね、ねぇ…風も何か食べる?
どうしてもお腹がすいたのなら、少しくらい分けてあげるわ。た、倒れられても面倒だし」
結局前言を撤回し、自分の料理を少しだけ小皿に取り分けるルイズ。それは彼女なりの優しさだった…が、
「…必要ない」と一言で断る風。
特に空腹感を感じている訳ではなし、そもそもアンリミテッドな彼には食事自体ほとんど必要ないのだ。
それゆえ、ルイズの食べる分が減るのも申し訳ないとの考えだったのだが、
「…ふ~ん、そう、主人であるわたしの心遣いを無にするってわけね!」
いかんせん言い方が悪かった…確かに彼の言い方では十人中八人が不愉快になるだろう。
「だったらわたしの目に付かないところにさっさと行ってなさいっ!!」
青筋でも浮かべそうな形相で怒鳴られ、食堂を追い出されるのも至極当然の成り行きだった。
さて、所変わってここはアルヴィーズの食堂の外、使い魔が食事をする広場である。
貴族のための配膳を終えたシエスタは、続いて彼らの従者たちにも食事を運んでいた。
「は~い、ごはんですよ~」
大きな釜を台車で押しながら、横一列に並んだ皿の前で行儀よく待機している使い魔に配膳していく。
多種多様、千差万別の生物が一同に会したその広場は正に壮観の一言に尽きる。
普通のメイドなら一見凶暴に見える生物を怖がって嫌がる配膳の仕事だが、彼女は逆に進んでこれをこなしていた。
「様々な生物の造詣を見ることによって、インスピレーションが沸くのです!」とは本人の言である。
『きゅいきゅい』「うわ~、大きなドラゴンさんですねぇ。はい、たっぷり食べてください」
『きゅるっ!きゅるっ!』「ほらほら慌てないの、まだ熱いから気をつけて…って、火竜だから大丈夫か」
…といった調子でどんどん配っていく。
飛竜、火竜、土竜に蛙…そして列の最後まで配り、あれ?と声を上げた。
「妖精さんのお皿がありませんねぇ、配り忘れかな?今取ってくるから少し待って…」
『くっくるゆー』
「きゃっ!」
言葉を遮るように飛び立った妖精(?)に目の前を掠められたシエスタは転びかける、が…
とすっ、と背中が支えられ、なんとかバランスを取り戻す。
振り向いてみると、そこには朝方に出会った平民の使い魔が佇んでいた。
「あらら、いっちゃいましたね…どなたの使い魔さんなのかしら?」
先ほどの使い魔が飛んでいった先、本塔の方角を見やったシエスタは、次いで風のほうに向き直り、
「危ないところをありがとうございます、風さん」と、頭を下げる。
「お礼と言っては何ですけど、厨房のほうに来てくれませんか?おいしいお茶をごちそうしますよ」
「…」
相変わらず無言の風、シエスタは答えを待っていたが、
「ちょっと~、風~、食べ終わったから早く戻ってきなさ~い」
聞こえてきた声の主を探してみれば、食堂の入り口からこちらを見ているルイズの姿。
「授業に遅れちゃうでしょ~!」
「…」
「ふふっ、お呼びがかかっちゃいましたね、それじゃお茶の件はお昼の時にでも」
「…」
少し残念そうな顔のシエスタに小さくだが首肯を返し、風はルイズの元へと帰っていった。
「まったく、追い出されたからってそこらの召し使いに声かけてるなんて、いいご身分ですこと」
教室へと続く廊下で、ルイズはご機嫌ナナメな様子だった。
自分の気遣いをあっさり断った挙句、ご主人様をほっといてメイドと歓談とはけしからん。
(もっとも、こいつのことだからナンパしてたとかそういう事はないだろうけど…
と、とにかく、使い魔としての本分を忘れないようにしっかり躾けなきゃ!)
主人というかもはや飼い主の心境でひとり頷く。
風とメイドが楽しそうに話しているのを見た瞬間、チクリとした感情を覚えたのはとりあえずなかった事にして。
「さっ、着いたわよ」
ルイズが扉を開けて教室に入ったとたん、既に着席していた生徒たちの目がいっせいにこちらを向く。
そこかしこからかすかに聞こえてくる嘲笑や突き刺さる好奇の視線をガン無視し、中央近くの席に座った。
「風、あんたは一番うしろに行ってなさい、使い魔の席はそこだから」
教室の最奥、比較的小さい使い魔が並んでいる所を指差すルイズ。
風は指示通りにそちらへ向かい、使い魔に並んで立つ。これなら食事の時のように気になる事もないだろう。
やがて教室の席も埋まり、授業が始まった。
表れた新任の教師は、『赤土』のシュヴルーズ。土系統のメイジである。
魔法の四大系統といった基本的な話に始まり、土系統の重要性について説いていく。
そして自ら錬金を実演した後、今度は生徒を指名して錬金をさせようというのだが…
「そうですね…ミス・ヴァリエール、貴女にやってもらおうかしら」
名簿を見ながら適当に選んだその名を口にした刹那、教室に戦慄が走った。
「か、考え直してください!ミセス・シュヴルーズ!」
がたんっ、と机を揺らして発言したのは冷や汗を浮かべたキュルケである。
その言葉を皮切りに、教室内は一気に喧騒に包まれた。
「そうだ、危険だ…ゼロのルイズだぞ」
「ゼロのルイズにやらせるくらいなら自分が!自分がぁ!」
「お、俺を踏み台にしたぁッ!?」
ちなみに最後の台詞は、最短距離で室外に退避した青髪の少女に踏まれた生徒のものだ。
もはや喧々囂々、魔法で場を鎮めようとシュヴルーズが杖を手にしたその瞬間、
「や、やります!やらせてください!」
渦中の人、ルイズの叫びが教室に響き渡った。
「ね、ねぇ、考え直してくれない?ルイズ…」
教壇へと向かうルイズのマントを摘んで引きとめ、懇願するキュルケだが、
「きっ、基礎的な錬金なんだから、だ、大丈夫よっ」
ルイズは半分自分に言い聞かせるような調子で呟くと、キュルケを振りほどき歩を進める。
「そうですよ、ミス・ヴァリエール、何も気負うことはありません。
錬金したい金属を頭に強く念じ、詠唱は丁寧に、かつ無駄な力を抜いて…」
教育熱心な、しかし生徒からすれば空気の読めないことこの上ないシュヴルーズは、
石ころを睨むルイズに懇切丁寧に指導を続けている。
( こ れ は も う だ め か も わ か ら ん ね … )
図らずも生徒の意見が一致し、各々机の下に避難を始めた。
そしてほぼ全員の生徒が避難を完了し、頭の上に?マークを浮かべたシュヴルーズのみが残された頃、
ルイズは意を決して呪文を詠唱し、杖を石ころに突きつけ…
―その日の午前、とある教室を襲った爆発は、学院全体を奮わせたという―
ぱらぱらと、建材の破片が降り注ぐ。
教壇、机、椅子に窓、ついでに目を回している新任教師。
全てが吹っ飛び、見通しと、更に風通しもよくなってしまった劇的ビフォーアフターな元・教室の中、
爆心地に居たにも関わらずほとんど無傷の匠…もといルイズは、
「う~ん、ちょっと失敗しちゃったかしら?」
と取り出したハンカチで上品に顔を拭きながらお茶目に言った。
「まあ、なんということでしょう…じゃなくってルイズ!なーにが『ちょっと失敗』よっ!」
破片となった机の下から這い出してきたキュルケが叫ぶ。
「あんた、いっつも失敗ばかりじゃないの!」
「そ、そうだぞっ、ゴホッ、成功率『ゼロ』のルイズ!こうなるのはわかってたのに!」
煙を吸ってしまったのか、当社比1.5倍ほど声が掠れているマリコルヌが続ける。
やがて何とか復帰した生徒たちが口々に糾弾の声を上げはじめた。
「ゼロはおとなしく座ってろ!」
「一生魔法となえるな!!」
「マジで自重しる!!!」
「ロビン!私のロビンはどこっ!?」
もはや先ほど以上の騒動になりつつある、とそこへやっと別の教師が姿を見せ…
教室の惨状を見てたっぷりと絶句した後、騒ぎ立てる生徒たちを解散させ、シュヴルーズは医務室へ運び、
そしてルイズには魔法使用禁止の条件の下、教室の片づけを命じたのだった。
「あー、もうっ、どうしてこうなるの」
一抱えほどもある破片に悪戦苦闘しつつ片づけを続けるルイズ。
「…」
「ちょっと!ボケーっと見てないであんたも手伝うの!」
爆風が直撃したはずなのに何故か彼女と同じくほぼ無傷だった風に怒鳴る。
しかし彼はルイズを見つめ、
「…これが二つ名の所以か」
と一言。
問われたルイズは、一瞬言葉に詰まり顔を赤くするも、やがて力が抜けたようにため息をつく。
「そ、そうよ…魔法の成功率ゼロ、だからゼロのルイズ。わかったでしょ、わたしは落ちこぼれなの」
認めたつもりではなかった、ゼロの名を。甘んじるつもりもなかった、ゼロの名に。
だがしかし、この現状…基礎的な錬金すら失敗するという現実を突き付けられ、ルイズの心は打ちひしがれていた。
「意地ばっかり張って、失敗するってわかってるのに…バカみたいよね」
自嘲するような笑みを浮かべる。
「でも、本当に自信はあったのよ、勉強も練習も人一倍やってるんだもの…それなのに…」
実際、彼女の努力は並々ならぬものだった、それは事実である。
それでも失敗続き…悔しくて、悲しくて、彼女は目に涙を浮かべる。雫が大きくなり、頬を伝った瞬間…
「泣くな!」
「っ!な、何?突然…」
風が突然声を上げる。今まで聞いた事の無いその剣幕に、ルイズはびくっと震えた。
「泣くな、何の意味も無いことだ」
普段と同じ無表情で、だが力強い口調で言葉を続ける。
「お前はゼロではない」
「あ、あんたに何がわかるのよ」
「お前には力がある。お前の召喚の成功によって、俺はここにいる、それを忘れるな」
そこまで言うと口を閉ざし、黙々と片づけを始める風。
ルイズはというと、放心したような表情で彼を見つめていた。
屁理屈だと思った。あんたみたいな平民を呼び出して何が成功よ、と。
「つ、つつつ使い魔に同情されて慰められるようじゃわたしもおしまいね!」
でも…
「口を動かす暇があったらもっと手を動かしなさい、早くしないとお昼までに終わらないでしょ!」
風の気持ちは伝わった。
「…あ、ありがと」
もちろん面と向かってそんな事言えるわけが無い。ルイズは風に背を向けた後、本当に小さい声で感謝の意を示す。
我ながら素直じゃないなぁ…と、少しだけ心が軽くなった彼女は苦笑するのだった。
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