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「Mr.0の使い魔 第二話」(2007/09/04 (火) 18:37:08) の最新版変更点
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召喚早々にギーシュをノックアウトしたクロコダイルは、その傍若無人
な性分を遺憾なく発揮した。周囲を威圧しながらコルベールに詰め寄り、
ルイズを伴ってここのトップ、学院長オスマンの元へと向かう。置き去り
にされた生徒達は、三人の姿が見えなくなるとようやく安堵感に包まれた。
気絶したギーシュは、本人が目を覚まし自力で這い出てくるまで皆から
忘れ去られていた。
Mr.0の使い魔
―エピソード・オブ・ハルケギニア―
第二話
学院長室にはオスマン一人であった。普段なら秘書のロングビルもいる
筈だが、この日は丁度街へ出ていたのである。
「お初にお目にかかる、学院長殿」
「ふむ、珍しい客人じゃの」
クロコダイルは先程までとはまるで違う、“やや”丁寧な態度で挨拶した。
彼が優先したのは情報収集である。その為にはアメとムチを適度に使い分
けるべきだと、クロコダイルはよく理解していた。まず現在地――ハルケ
ギニア大陸という名を尋ねる所から始まり、このトリステイン魔法学院、
諸国家の名前やメイジ、魔法についてなど、クロコダイルの質問は多岐に
渡った。
逆にオスマンやコルベールも、クロコダイル自身の事を問いただした。
大航海時代や王下七武海、悪魔の実などの聞き慣れない単語が出るたびに
説明を求めたが、意外にもクロコダイルは快く答えた。自分が悪魔の実の
一つ『スナスナの実』を食べた『砂人間』である事も明かし、実際に体を
砂に変えて三人を驚かせた。
「海賊ってワリに、案外まともな奴かも。それに強そうだし、当たりかしら」
大人達の会話を聞いていたルイズはそんな事を呟いたが、教師二人には
とてもそうは思えなかった。クロコダイルの柔らかい物腰の裏に、微かだ
が得体の知れない“闇”を感じたのだ。
特に出現時の暴れっぷりを間近で目にしたコルベールの警戒心は、主人
として制御できると考えるルイズ、現場を見ていないオスマンに比べ一段
と強かった。もっとも、会話の内容が技術関連の事に及ぶと途端に目の色
を変えていた辺り、いつまで気を張っていられるか怪しいものだが。
「何と、魔法を使わずに雨を降らせる事ができるのか!?
素晴らしい! 天候操作は魔法でもかなりの高等技術だというのに!」
「あくまで一時的、その場しのぎ程度のものだがね。
それに問題点も多い……時に、ミスタ・コルベール」
「何ですかな、ミスタ・クロコダイル」
「もう少し離れてくれ。顔が近い」
「やや、これは失敬。それで、他にはどういったものがあるのです?」
その後は特筆する程の事はない。ルイズが気にしていた『使い魔として
の主従関係の締結』を、クロコダイルがあっさりと認めたからだ。教師達
の心配をよそに、ルイズは喜んだ。問題があるとすれば。
「ベッドは一つか。仕方ない、今日はこの椅子で我慢してやる」
会談を終えて自室に戻るなり、彼がそう言って椅子の一つを占領した事
ぐらいである。
一夜明けて、翌朝。
「……ん」
窓から差し込む光で、ルイズは目を覚ました。寝ぼけ眼をこすりつつ
部屋の中を見回す。と、未だに寝息を立てるクロコダイルが目に入った。
ルイズの眉間に皺がよる。
「ご主人様より長く寝てる使い魔なんて……!」
枕を引っ掴んで、投棄。「ボフン」と鈍い音をたてて、柔らかい枕は
厳つい顔面を叩いた。しかしクロコダイルは相変わらず眠りっぱなし。
起きる気配すらない使い魔に、ルイズは頬を膨らませた。
「つつ、使い魔の分際で、いい度胸じゃない!」
傍らの杖を手に、【ファイヤーボール】の呪文を唱える。失敗しても
かまわない。火炎だろうと爆発だろうと、起こせればよいのだ。素早く
詠唱を終えたルイズは、クロコダイルの頭目掛けて杖を振った。
轟音、爆発。
「お目覚めかしら、クロコダイル? いつまでも寝てんじゃ……」
怒りで紅潮していたルイズの顔は、一瞬で蒼白になった。背もたれに
よりかかるクロコダイルの首から上が、綺麗さっぱり消えていたのだ。
砕けた木片が、爆発の威力を物語る。
(あ……あ、あああ!?)
殺した。
殺してしまった。
自分より先に起きていなかった、ただそれだけの理由で。
この時、ルイズはまだ頭が覚醒しきっていなかった。だから、相手が
どういう能力を持つ人間だったのか、それをすっかり忘れていた。
「随分乱暴な朝の挨拶だな、ミス・ヴァリエール」
耳元で聞こえた声に、ルイズはハッと振り返る。
そこにあったのは――顔。クロコダイルの“頭だけ”。
「ひ……!」
短い悲鳴を上げ、ルイズは気を失った。
「おいおい、このぐらいで気絶するんじゃねぇよ……」
空中に浮かぶ生首が、呆れたようにため息をついた。
ルイズがもう一度目を開けたのは、たっぷり一時間以上経ってからだ。
背もたれの欠けた椅子で葉巻を吹かしていたクロコダイルが、顔を傾けて
薄く笑う。
「クハハハ……お目覚めかね、ミス・ヴァリエール」
「く、クロコダイル」
頭を吹っ飛ばされた筈のクロコダイルがぴんぴんしている。それを見て、
ようやくルイズは彼が『砂人間』である事を思い出した。剣だろうと爆弾
だろうと、砂に変化すれば無傷ですむのだ。さっきの爆発も、そのおかげ
で傷一つ負わなかったのである。
ベッドから起き上がったルイズは、取り敢えず制服に着替える事にした。
『従者がいる場合、貴族はその者に着付けを任せる』というのがルイズの
持論であるため、クロコダイルに声をかける。
「ちょっと、クロコダイル。ふk「ああん?」何でもないです、ゴメンナサイ」
二秒で挫折した。
怖いのだ、顔が。睨まれると思わず謝るくらいに。クロコダイルは単に
名を呼ばれて応じただけなのだが、その顔つきが幼い少女を脅している事
に気付いていない。
ルイズは大人しくクローゼットに向かい、新しい制服と下着を取り出す。
途中、昨日脱ぎ散らかした自分の服と下着が目に入った。『専属の従者に
家事全般を任せる』というのもルイズの考えである。具体的には洗濯など。
「ねぇ、クロコダイル」
「何だ?」
「昨日着てた分の洗濯なんだけど」
「おれからメイドに言っておいた。後で取りに来るそうだ」
そうじゃない。
そうじゃないのだが、ルイズは説明する気になれなかった。言い直すと
また睨まれそうなのだ。あれは怖い、泣きそうなくらい怖い。
(メイドに言っといてくれたのは、こいつなりの気遣いよね)
都合良く思い込んで、ルイズは無理にでも納得しようとした。でないと
勢い余って取り返しのつかない事をしそうである。
「そういえば」
のろのろとした手つきで着替えを始めたルイズに、思い出したように
クロコダイルが声をかけた。
「今日は予定はないのか、ミス・ヴァリエール。随分ゆっくりだが」
「何よ、急に。この後は朝ご飯食べて、それから授業よ」
「朝食ならもう終わったぞ」
「……へ?」
思わず、ルイズは目を丸くした。
「くくく、クロコダイル? いい、今何て?」
「朝食はとっくに済んだ、と言ったんだ。それにしてもここの食事は豪勢だな。
朝からあの量は体に悪いんじゃないか? おれでも胸焼けするかと思ったぞ」
感嘆の混じるクロコダイルの言葉は、最初以外はルイズの耳に入らな
かった。聞き逃した後半部分にも色々と問題があるのだが、今のルイズ
にとって最も重要なのは“朝食の時間が終わっている事”。
学院の午前一番の授業は、朝食終了からそう間を置かずに開講する。
「おい、どうした?」
「ちちち、遅刻する~!!」
慌ててブラウスとスカートを着込んだルイズは、寝癖もそのままに
クロコダイルの手を引っ掴んで駆け出した。
...TO BE CONTINUED
召喚早々にギーシュをノックアウトしたクロコダイルは、その傍若無人
な性分を遺憾なく発揮した。周囲を威圧しながらコルベールに詰め寄り、
ルイズを伴ってここのトップ、学院長オスマンの元へと向かう。置き去り
にされた生徒達は、三人の姿が見えなくなるとようやく安堵感に包まれた。
気絶したギーシュは、本人が目を覚まし自力で這い出てくるまで皆から
忘れ去られていた。
Mr.0の使い魔
―エピソード・オブ・ハルケギニア―
第二話
学院長室にはオスマン一人であった。普段なら秘書のロングビルもいる
筈だが、この日は丁度町に出ていたのである。
「お初にお目にかかる、学院長殿」
「ふむ、珍しい客人じゃの」
クロコダイルは先程までとはまるで違う、“やや”丁寧な態度で挨拶した。
彼が優先したのは情報収集である。その為にはアメとムチを適度に使い分
けるべきだと、クロコダイルはよく理解していた。まず現在地――ハルケ
ギニア大陸という名を尋ねる所から始まり、このトリステイン魔法学院、
諸国家の名前やメイジ、魔法についてなど、クロコダイルの質問は多岐に
渡った。
逆にオスマンやコルベールも、クロコダイル自身の事を問いただした。
大航海時代や王下七武海、悪魔の実などの聞き慣れない単語が出るたびに
説明を求めたが、意外にもクロコダイルは快く答えた。自分が悪魔の実の
一つ『スナスナの実』を食べた『砂人間』である事も明かし、実際に体を
砂に変えて三人を驚かせた。
「海賊ってワリに、案外まともな奴かも。それに強そうだし、当たりかしら」
大人達の会話を聞いていたルイズはそんな事を呟いたが、教師二人には
とてもそうは思えなかった。クロコダイルの柔らかい物腰の裏に、微かだ
が得体の知れない“闇”を感じたのだ。
特に出現時の暴れっぷりを間近で目にしたコルベールの警戒心は、主人
として制御できると考えるルイズ、現場を見ていないオスマンに比べ一段
と強かった。もっとも、会話の内容が技術関連の事に及ぶと途端に目の色
を変えていた辺り、いつまで気を張っていられるか怪しいものだが。
「何と、魔法を使わずに雨を降らせる事ができるのか!?
素晴らしい! 天候操作は魔法でもかなりの高等技術だというのに!」
「あくまで一時的、その場しのぎ程度のものだがね。
それに問題点も多い……時に、ミスタ・コルベール」
「何ですかな、ミスタ・クロコダイル」
「もう少し離れてくれ。顔が近い」
「やや、これは失敬。それで、他にはどういったものがあるのです?」
その後は特筆する程の事はない。ルイズが気にしていた『使い魔として
の主従関係の締結』を、クロコダイルがあっさりと認めたからだ。教師達
の心配をよそに、ルイズは喜んだ。問題があるとすれば。
「ベッドは一つか。仕方ない、今日はこの椅子で我慢してやる」
会談を終えて自室に戻るなり、彼がそう言って椅子の一つを占領した事
ぐらいである。
一夜明けて、翌朝。
「……ん」
窓から差し込む光で、ルイズは目を覚ました。寝ぼけ眼をこすりつつ
部屋の中を見回す。と、未だに寝息を立てるクロコダイルが目に入った。
ルイズの眉間に皺がよる。
「ご主人様より長く寝てる使い魔なんて……!」
枕を引っ掴んで、投棄。「ボフン」と鈍い音をたてて、柔らかい枕は
厳つい顔面を叩いた。しかしクロコダイルは相変わらず眠りっぱなし。
起きる気配すらない使い魔に、ルイズは頬を膨らませた。
「つつ、使い魔の分際で、いい度胸じゃない!」
傍らの杖を手に、【ファイヤーボール】の呪文を唱える。失敗しても
かまわない。火炎だろうと爆発だろうと、起こせればよいのだ。素早く
詠唱を終えたルイズは、クロコダイルの頭目掛けて杖を振った。
轟音、爆発。
「お目覚めかしら、クロコダイル? いつまでも寝てんじゃ……」
怒りで紅潮していたルイズの顔は、一瞬で蒼白になった。背もたれに
よりかかるクロコダイルの首から上が、綺麗さっぱり消えていたのだ。
砕けた背もたれの破片が爆発の威力を物語る。
(あ……あ、あああ!?)
殺した。
殺してしまった。
自分より先に起きていなかった、ただそれだけの理由で。
この時、ルイズはまだ頭が覚醒しきっていなかった。だから、相手が
どういう能力を持つ人間だったのか、それをすっかり忘れていた。
「随分乱暴な朝の挨拶だな、ミス・ヴァリエール」
耳元で聞こえた声に、ルイズはハッと振り返る。
そこにあったのは――顔。クロコダイルの“頭だけ”。
「ひ……!」
短い悲鳴を上げ、ルイズは気を失った。
「おいおい、このぐらいで気絶するんじゃねぇよ……」
空中に浮かぶ生首が、呆れたようにため息をついた。
ルイズがもう一度目を開けたのは、たっぷり一時間以上経ってからだ。
背もたれの欠けた椅子で葉巻を吹かしていたクロコダイルが、顔を傾けて
薄く笑う。
「クハハハ……お目覚めかね、ミス・ヴァリエール」
「く、クロコダイル」
頭を吹っ飛ばされた筈のクロコダイルがぴんぴんしている。それを見て、
ようやくルイズは彼が『砂人間』である事を思い出した。剣だろうと爆弾
だろうと、砂に変化すれば無傷ですむのだ。さっきの爆発も、そのおかげ
で傷一つ負わなかったのである。
ベッドから起き上がったルイズは、取り敢えず制服に着替える事にした。
『従者がいる場合、貴族はその者に着付けを任せる』というのがルイズの
持論であるため、クロコダイルに声をかける。
「ちょっと、クロコダイル。ふk「ああん?」何でもないです、ゴメンナサイ」
二秒で挫折した。
怖いのだ、顔が。睨まれると思わず謝るくらいに。クロコダイルは単に
名を呼ばれて応じただけなのだが、その顔つきが幼い少女を脅している事
に気付いていない。
ルイズは大人しくクローゼットに向かい、新しい制服と下着を取り出す。
途中、昨日脱ぎ散らかした自分の服と下着が目に入った。『専属の従者に
家事全般を任せる』というのもルイズの考えである。具体的には洗濯など。
「ねぇ、クロコダイル」
「何だ?」
「昨日着てた分の洗濯なんだけど」
「おれからメイドに言っておいた。後で取りに来るそうだ」
そうじゃない。
そうじゃないのだが、ルイズは説明する気になれなかった。言い直すと
また睨まれそうなのだ。あれは怖い、泣きそうなくらい怖い。
(メイドに言っといてくれたのは、こいつなりの気遣いよね)
都合良く思い込んで、ルイズは無理にでも納得しようとした。でないと
勢い余って取り返しのつかない事をしそうである。
「そういえば」
のろのろとした手つきで着替えを始めたルイズに、思い出したように
クロコダイルが声をかけた。
「今日は予定はないのか、ミス・ヴァリエール。随分ゆっくりだが」
「何よ、急に。この後は朝ご飯食べて、それから授業よ」
「朝食ならもう終わったぞ」
「……へ?」
思わず、ルイズは目を丸くした。
「くくく、クロコダイル? いい、今何て?」
「朝食はとっくに済んだ、と言ったんだ。それにしてもここの食事は豪勢だな。
朝からあの量は体に悪いんじゃないか? おれでも胸焼けするかと思ったぞ」
感嘆の混じるクロコダイルの言葉は、最初以外はルイズの耳に入らな
かった。聞き逃した後半部分にも色々と問題があるのだが、今のルイズ
にとって最も重要なのは“朝食の時間が終わっている事”。
学院の午前一番の授業は、朝食終了からそう間を置かずに開講する。
「おい、どうした?」
「ちちち、遅刻する~!!」
慌ててブラウスとスカートを着込んだルイズは、寝癖もそのままに
クロコダイルの手を引っ掴んで駆け出した。
...TO BE CONTINUED
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