「ゼロの写輪眼-1」(2008/08/20 (水) 01:43:58) の最新版変更点
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#navi(ゼロの写輪眼)
死の淵にあって、彼は満足だった。
彼の体は不治の病に冒され、余命幾許も無い状態だった。そんな状態でも薬を使って無理に体を動かし、彼の目的である最も愛する弟のためにその命を使うことができたのだから。
といっても、不安要素は残っている。自分に協力したあの男が弟に余計なことをし、全てを弟に明らかにしてしまうのだけは何としても避けたかった。それを防ぐための芝居、そして仕掛けは施してあるが、それでもあの男の底知れなさを考えれば十分ではないかもしれない。
しかし、もしその仕掛けが破られたとしても、彼は大丈夫だと思った。弟のことを愚直なまでに思いやり、青臭いとも言える理想を曲げず、それに向かってひた走っているあの少年がいるのだから。彼ならあの男を、そして男に取り込まれてしまった弟を止めることができるだろう。
決して折れることの無い少年のまっすぐな目を思い出しながら、笑みを浮かべて彼は死を受け入れた。もはや自分がするべきことは何も無い。そう思ったから。
彼は安らかに死を受け入れ――――
「……あんた誰?」
少女の疑問に満ちた声を聞いた。
ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは目の前の出来事についていけなかった。
発端は使い魔を召喚して自分の属性を決める春の召喚の儀。進級の試験の意味合いも持っているこの儀に日頃から『ゼロ』と呼ばれ続けてきたルイズは並々ならぬ覚悟で持って
臨み、
どかーん 一回目、失敗
どこーん 二回目、失敗
ちゅどーん 三回目、失敗
以下略
と、いつものごとく失敗続きであった。
生徒から野次を飛ばされ、教師にもこれが最後といわれてルイズは極限まで集中して叫び、
「宇宙の果てのどこかにいる、私の僕よ! 神聖で美しく!! そして、強力な使い魔よ!! 私は心より求め、訴えるわ!!! ……我が導きに、応えよっ!!!!」
杖を振り下ろした。
途端、今までの爆発よりも更に大きな爆発が起きる。
周囲には黒煙が立ちこめ、何も見えない。周りの生徒達は咳き込み死ながらルイズの文句を言っている。しかしルイズそれらの声も気にならない。
ルイズは、今回の召喚に何かしらの手ごたえを感じていたのだ。今までの何も出なかった爆発とは違い、何かを呼び出した感覚があったのである。
「げほっ……つ、使い魔は……!」
煙を払いのけ、爆発の中心に近づいてみる。
すると、男が一人、仰向けに倒れていた。
ただ男の格好はハルケギニアではまるで見かけないものだった、というかむしろ怪しすぎる格好だった。
男はメイジのようにマントを全身に纏っている。ただそれだけだったらまだよかったのだろうが、その黒いマントには赤い雲の模様数多く刺繍されており、その模様には不気味さを感じてしまう。足にはサンダルをつけ、手足の指は黒く塗られておりその一指には文字のようなものが描かれた指輪をつけていた。黒髪の下には端整な顔立ちがあり、その若々しさからまだ二十歳を過ぎたくらいだと知れる。そして何かの文様、これは紋章だろうか? が描かれ、それを横一文字に走る傷が刻まれた額当てをつけていた。
怪しい姿をした男を見下ろし、ルイズは立ち尽くす。
ついさっきまでこんな男などここにはいなかった。つまるところ、こいつがここにいる
のは、
「わたしがこいつを召喚した、ってこと?」
呆然と、ルイズは呟くのだった。
ふと、そこで男の眉がぴくりと動いた。額に手を当てながら身を起こし、首を振る。
「……何だ……? 俺は、どうなった……?」
そして、そんなことを口走った。
ルイズは自分が呼び出したのが訳の分からない男だということに困惑しながら、男に聞く。
「……あんた誰?」
男は困惑していた。確かに自分は死んだはずである。弟に自分の持つ瞳力を託し、力尽きたはずだ。その自分が何故、生きているのだろうか?
それに、自分の状態もおかしかった。最後に行った弟との戦いで、身に付けていた装備は失われたはずである。だが一通り確認してみたところ、それら全て、それも属していた組織の証たる外套込みでそろっていた。更におかしいのは、自分の体の状態だ。既に彼の体は不治の病に冒されて、死が避けられない状態になっていた。だが今は、病による動機も、心の臓の痛みも無い。それどころか軽いくらいだ。かつての男の全盛期に迫る状態を体は取り戻していたのである。
だが、極め付けにおかしいのは……
(……周囲の状況だ)
男の冷徹ともいえる観察眼が、周囲の状況を見極め始める。
周囲には黒い外套とブラウス、そしてなぜか杖を持っている少年少女たちが人垣を作っている。人垣の更に外にある建物や周囲を囲っている石壁を見るに、どうやら今自分がいるのは建物の中庭に当たる部分らしいが、それにしても自分が今までいた場所とは違いすぎる。
(時空間忍術で移動させられたか? だが、それならなぜ装備、いや、これは今はどうで
もいい。俺の体が元に戻っている?)
医療忍術による蘇生も考えには浮かんだが、そもそも自分が抱えていた病はそれすらも受け付けないものだったのだ。すぐさまその考えを打ち消すが、ますます状況が分からな
くなってくる。
そんなときだった。目の前に来ていた、身長の低い桃色の髪を持った少女が声をかけてきたのは。
「……あんた誰?」
困惑がにじむ声だった。
男は未だに状況掴みきれていないまでも、どうやら敵意や害意は無いと判断し、少女に答えてやった。……まあ知ればすぐに敵意を向けてくるだろうが、それももう慣れてしまっているし、覚悟していたことだ。それに弟のことが終わった以上、無理に相手を殺す必
要も無い。すぐにでもここを去ればいい。
彼は、自らの名を口にする。
それは自らの一族を皆殺しにした、木の葉最悪の抜け忍の名。
「……俺はイタチ……うちは、イタチだ」
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