「蒼い使い魔-18」(2020/04/26 (日) 16:14:51) の最新版変更点
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#navi(蒼い使い魔)
バージルがラ・ロシェールへ向け馬を走らせる、
馬で二日かかる距離であったが
途中約束通りタバサがシルフィードに乗り迎えに来たため
その日のうちに無事一行はラ・ロシェールへと辿りつくことができた。
バージルがタバサと共にルイズ達が宿をとっている『女神の杵亭』へと降り立つと
ずっと入口で待っていたのかルイズが立っていた。
「バージル!なにをしてたのよ!ご主人様を待たせるなんてっ…!」
目に涙を溜め真っ赤にしながらバージルに走り寄る。
「こいつに乗る人数が合わなかっただけだ」
そう言うとさっさとバージルとタバサは宿の中に入ってしまった。
「ばかっ…!どれだけ心配したと思ってるのよ…」
その様子を見ながらルイズは地団駄を踏みながらつぶやいた。
「あ、ようやく来たようだね、いやぁ心配していたよ!」
そう言いながらもすでに酔っているのかギーシュとキュルケがテーブルにつきながらバージルを見る。
「そうよぉ、ルイズったら、ダーリンが来てないことを知った時ったらすごかったのよぉ、
もう泣いちゃって泣いちゃって―「わー!!わー!!何言ってるのよ!そんなわけないでしょ!」」
酔ってもいないのに真っ赤になりながらキュルケにルイズが飛びかかる、
その様子を見ながらいつものように無表情のままバージルもテーブルについた。
「おや?使い魔君、ようやく到着かね?」
ワルドが入口から入ってくるなりバージルを見て言う、
だがなぜか言葉は刺々しく、表情もどことなく険しい。
「…ここは…岩盤をくりぬいたのか?」
それをナチュラルに無視しながらバージルは目の前のタバサに話しかける
「魔法で床もテーブルも崖の岩盤から削りだした」
バージルの露骨な無視っぷりにワルドの表情がより険しくなる。
「そ…そういえば子爵、アルビオン行きの船はどうでした?」
そんな険悪な空気を感じたのか酔いが回っていながらもギーシュが話題を切り出す、
その声に我に返ったのか、ワルドはテーブルについた一同を見渡し少し困った顔をして切り出した。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズが口を尖らせながら呟く。
「あたし、アルビオンに行ったことないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの方を向いて、ワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく。
船は限りある風石を使っていてね。最も近い距離で翌日飛べるのに、早くに飛んで無駄にしたがる船乗りはいないのだよ。」
「フン、前もってそんなことの調べも付いていないとはな、使えん奴だ」
バージルの一言に場の空気が凍りつく。
険悪だった空気がさらに悪化する。
「どっ…どういうことかな?使い魔君?」
「わからんのか?だとしたら想像以上に無能だな」
「バッ…バージル!何を…!」
ルイズは顔を青くして二人を見比べる。
バージルは呆れたような表情でワルドを見て、続ける。
「言葉の通りだ、学院から馬で二日の距離、予定通りならその『スヴェル』とやらで足が止まらず先に進めただろう。
なのに貴様はグリフォンでさっさと先へ進み、ここで足を止める結果を作った。貴族派とやらに襲ってくださいと言っているようなものだ。
わかるか?貴様が足並みを乱したんだ。」
強烈な皮肉と挑発、しかも事実だ、ぐうの音も出ないほどの。
ワルドの額に青筋が浮かぶ。
バージルは相変わらず氷のように無表情だ。
「め…面目ない…ね…使い魔君…!」
言葉こそ穏やかだが、ワルドは確実に激怒している。
「フン…、婚約者の前で舞い上がっているのか知らんが、その程度は考えろ」
そんなワルドをさらに挑発しバージルは目を瞑る。
言うまでもなく場の空気は最悪だ、ワルドは燃え上がるような怒りの目でバージルを睨みつけている。
杖を抜かないのが不思議な位だ。
「とっ…とりあえず、もう寝ましょう?ね?もう遅い時間だし、ね?」
キュルケが耐えられないといった悲痛な声で提案する、
ルイズとギーシュはうんうんと首を縦に振った。
「あ、あぁ…そうしよう…使い魔君が来る前に部屋を取っておいた」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そしてギーシュと使い魔君が相部屋」
「あれ?男女二部屋ではないのですか?」
その言葉を聞きギーシュが口を開くが、ワルドは当然と言った風の表情で答える。
「僕とルイズは同室だ。婚約者だからな」
ルイズがその言葉にはっとして、ワルドの方を向く。
「そんな、駄目よ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
しかし、ワルドは首を振って、ルイズをみつめた。
「大事な話が有るんだ。二人きりで話したい」
「先に行く」
そう言うとバージルはさっさと自分の部屋の鍵をとりさっさと階段を上り二階へと姿を消した。
ギーシュは結局は険悪な空気が残るこの空間に居たくないのか、急ぎバージルの後を追う。
何も言わずさっさと去ってしまったバージルをルイズは複雑な心境で見送った。
「じゃ、わたし達も行きましょ」
キュルケも鍵を手にし、タバサに声をかけて続けて席を立った。
「バージル…君?あれでいいのかい?なんか彼女、止めて欲しかったみたいだったけど」
部屋に入ったギーシュはバージルに声をかける。
「フン…これ以上くだらん事に余力を割くつもりなら斬り捨てる」
「相棒…そりゃどっちの意味だ…?」
「…多分、置いて行く方…そうだと思いたいよ…、それにしても、なんであんなに挑発したんだい?見ていて怖い位だったよ…」
「事実を言ったまでだ」
「そ…そうかい、はぁ…」
ギーシュは深くため息をつき、これから先なにも起こらないことを祈った。
一方その頃、『女神の杵』亭で一番上等な部屋だけあって、
ワルドとルイズの部屋は、かなり立派な内装だった。
ベッドは天蓋付きでレースの飾りのついた大きな物。
ギーシュとバージルの部屋が簡素なベッドであることと比べると、かなりの差だ。
ワルドはテーブルに座ると、ワインの栓を抜き、杯に注ぎそれを飲み干した。
「君も腰をかけて1杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままに、テーブルにつき、ワインが杯を満たすと、ワルドのそれと合わせる。
「二人に」
グラスが触れ合う音が響く。
「その…ワルド…?ごめんなさい、バージルが…あいつ、言いすぎる所があるから…」
「はは…気にしていないよ…はは…」
ルイズが先のバージルの非礼を詫びる、それをワルドは少々堅い笑顔で返事をする。
「その…それで…大事な話って?」
ルイズが本題を促すと、ワルドは急に遠くを見るような目になった。
「覚えているかい? あの日の約束……。ほら、きみのお屋敷の中庭で……」
「あの、池に浮かんだ小船?」
ワルドは頷いた。
「きみは、いつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたな。まるで捨てられた子猫みたいに、うずくまって……」
そういうと二人は昔話に花を咲かせる、そしてその話はルイズ自身の魔法の話に変わっていく
そうして一通り話を終えた後ワルドが意外な事を語りだした。
「きみの使い魔、彼だって只者じゃない、彼の左手のルーンを見て、思い出した。
あれは始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔ガンダールヴの印だ」
「…伝説の使い魔?」
今一理解できないといった具合にルイズが聞き返す。
「『ガンダールヴ』の印。始祖ブリミルが用いたもので
誰もが持てる使い魔じゃあない。つまり君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
そう言われルイズはバージルの事を考える、
確かにバージルは強い、伝説の使い魔と言われれば頷かざるを得ない、
しかも彼が語るには彼の父親は悪魔でありながら、
魔界の侵攻から人間界を守り抜いた伝説の魔剣士だという。
その時点で彼は既に伝説の血を引く存在だ。
だが、そうだったとしても信じられなかった。自分は魔法の使えないゼロのルイズ、
しかもあの使い魔を制御できていない。
とても、ワルドが言うような力が自分にあるとは思えなかった。
「この任務が終わったら、ルイズ、僕と結婚しよう」
「え……」
いきなりのプロポーズに、ルイズは驚いた。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは、国を……、
このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも、私……。まだ……」
「もう、子供じゃない。君は16だ。自分のことは自分で決められる年齢だし、父上だって許してくださっている。
確かに、ずっとほったらかしだったことは謝るよ。婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかっている!でもルイズ、僕には君が必要なんだ!」
「ワルド……」
かなり情熱的なワルドの態度に、ルイズは戸惑う。ワルドのことは嫌いではない。
だが、こんな勢いに任せて結婚していいものだろうか?
ルイズはバージルのことを考える、あいつはなんて言うだろうか?「俺には関係ない、貴様の問題だ」、そう言うかも知れない。
ワルドと結婚したら、バージルはどうするのだろう?
もしかしたら、もう二度と相手にしてくれなくなるかもしれない。
二度と振り向いてくれないかもしれない、それだけは嫌だ。
様々な思いが胸の中で渦巻く、やがて、ルイズは顔を上げ、ワルドを正面から見た。
「私はまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃない。『ゼロ』だもの……。
その前に立派なメイジになって見返したい奴がいるの、だから…」
それを聞くと、ワルドはルイズの手を離し、俯く。
「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」
「そんなことないの! そんなことないのよ!」
ルイズは慌てて否定した。
「いいさ、僕にはわかる。わかった。取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。
でも、この旅が終わったら、君の気持ちは、僕に傾くはずさ」
ルイズは頷いた。
「それじゃあ、もう寝よう。疲れただろう」
ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。ルイズの体が一瞬、こわばり、ワルドを押し戻した。
「ルイズ?」
「ごめん。でも、なんか、その……」
ルイズはモジモジとして、ワルドを見つめた。ワルドは苦笑いを浮かべて、首を振った。
「急がないよ。僕は」
ルイズはもやもやする気持ちを抱えながら、再び頷いた。
翌日、時間的にはまだ早朝にも関わらず、バージルは浅い眠りから覚醒し
立て掛けてあったコートを羽織り閻魔刀を手に取る。
ギーシュは前衛的な格好で寝息を立てている
朝食の時間にはまだ余裕があるため、デルフを抜き、錆を落として時間を潰していた。
「相棒…おめぇってやつは…俺っちの手入れをしてくれるなんて…!」
「時間潰しだ」
泣きそうな声を上げているデルフを軽く流し錆を落としていると不意に扉がノックされた。
「相棒、誰か来たぜ?」
「…」
デルフを立て掛け無言のまま立ちあがりドアを開ける、そこにはワルドが爽やかな笑顔を浮かべ立っていた。
「おはよう、使い魔君」
「…失せろ」
そう言うやドアを閉めるが、ワルドはすぐに再びドアを開けて入って来た。
「話くらいしてくれてもいいじゃないか、使い魔君」
「…何の用だ」
バージルは鬱陶しそうな表情でワルドを睨む、それを気にせず微笑みながらワルドは続けた。
「君は伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
「…何故そう思う?」
「君の左手を見た時にルーンを見たんだよ、そのルーンは間違いなく伝説の『ガンダールヴ』のルーンだ」
「…左手を見たのか…」
バージルの表情が疑惑を含んだものに変わる、そして『グローブがついた左手』をみせた
「貴様の前でこれを外した覚えはない…この状態でよく判別できたな?」
「…ッ!」
虚を突かれワルドが軽く動揺する。確かにこれではルーンの『一部』は見えても全体を見ることはできない。
それだけで判別は困難だろう。
「このルーンのことを知る者は、俺以外にはごく一部の学院の人間しか知らん…貴様…どこで知った?」
バージルから疑惑のこもった視線を受ける。だがワルドはふっと微笑むと
「オスマン氏から聞いたのだよ、同行が決まった時にね、それに僕は伝説や歴史を調べるのが趣味でね。
伝説に登場するルーンについても色々と王立図書館の書物で勉強した。
それはその時に見た、ブリミル四体の使い魔の一つの『ガンダールヴ』の物に間違いない、と
君のルーンの一部をチラと見た時に、思ったわけさ」
この返答には一応矛盾はない。秘密の任務とやらもオスマンの耳に入っている可能性はある、
それにワルドは魔法衛士隊の隊長という地位にいる、オスマンも『知っているのであれば』信頼に値すると考え話したのであろう。
「それに『ガンダールヴ』のルーンは左手に刻まれるというじゃないか、それが一番の証拠だよ」
「…」
その返答にバージルも納得したのかどうか、憮然とした表情でワルドを睨みつける。
「それで…?伝説の講義をしに来たのか?」
「伝説の『ガンダールヴ』の強さがどれ程のものかを知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「断る」
あっさりと拒否された。
「何故だい?」
ワルドは気に入らん男だと心で呟きながら口を開く。
「俺はそんなものに興味はない。力を貸さぬルーンなど、ただの足枷だ」
「だ…だが君自身の強さにも興味がある、本当に君にルイズを守れるのか。そしてフーケを倒した君の実力が、
君も、魔法衛士隊の隊長である僕と戦って見たいと思わないのかい?」
「悪いが貴様に興味はない」
昨日会ったばかりの人間に対しこの言い草である。
しかも昨日の今日で、部屋の中に一触即発の空気が流れる。
さすがにそのピリピリした空気に目が覚めたのかギーシュがいつのまにか起き上がり部屋の隅で固まっている。
一歩間違えればこの部屋で戦闘が起きかねない。
「そうか、つまり君は怖いのかね?僕と戦って怪我をすることが」
「安い挑発だな、そんなに小娘の気を引きたいのか?もっとマシな趣味を持つことを勧めるな」
「ちょちょちょちょちょっと!やるんならここじゃなくて別なとこに行ってくれたまえ!」
ついに我慢できなくなってギーシュが叫び出す、その声に我に返ったのかワルドが苦笑しながらギーシュに話しかけた。
「は…ははは、すまなかったねギーシュ君、とにかく!君には申し出を受けてもらう!
10分後この中庭で決闘だ!もし逃げたら君はそれまでの男だった、と言うことにする!」
そう言うとワルドは踵を返し怒りの歩調で部屋を後にする。
「はぁ~~~~。バージル君…もうなんていうか…いや、もうなんでもない…起きたばっかりなのに…僕疲れたよ…」
ようやく重い空気から解放されたギーシュは昨日の祈りがブリミルに届かぬ事を悟り、再びベッドに倒れ伏した。
#navi(蒼い使い魔)
#navi(蒼い使い魔)
バージルがラ・ロシェールへ向け馬を走らせる、
馬で二日かかる距離であったが
途中約束通りタバサがシルフィードに乗り迎えに来たため
その日のうちに無事一行はラ・ロシェールへと辿りつくことができた。
バージルがタバサと共にルイズ達が宿をとっている『女神の杵亭』へと降り立つと
ずっと入口で待っていたのかルイズが立っていた。
「バージル!なにをしてたのよ!ご主人様を待たせるなんてっ…!」
目に涙を溜め真っ赤にしながらバージルに走り寄る。
「こいつに乗る人数が合わなかっただけだ」
そう言うとさっさとバージルとタバサは宿の中に入ってしまった。
「ばかっ…!どれだけ心配したと思ってるのよ…」
その様子を見ながらルイズは地団駄を踏みながらつぶやいた。
「あ、ようやく来たようだね、いやぁ心配していたよ!」
そう言いながらもすでに酔っているのかギーシュとキュルケがテーブルにつきながらバージルを見る。
「そうよぉ、ルイズったら、ダーリンが来てないことを知った時ったらすごかったのよぉ、
もう泣いちゃって泣いちゃって―「わー!!わー!!何言ってるのよ!そんなわけないでしょ!」」
酔ってもいないのに真っ赤になりながらキュルケにルイズが飛びかかる、
その様子を見ながらいつものように無表情のままバージルもテーブルについた。
「おや?使い魔君、ようやく到着かね?」
ワルドが入口から入ってくるなりバージルを見て言う、
だがなぜか言葉は刺々しく、表情もどことなく険しい。
「…ここは…岩盤をくりぬいたのか?」
それをナチュラルに無視しながらバージルは目の前のタバサに話しかける
「魔法で床もテーブルも崖の岩盤から削りだした」
バージルの露骨な無視っぷりにワルドの表情がより険しくなる。
「そ…そういえば子爵、アルビオン行きの船はどうでした?」
そんな険悪な空気を感じたのか酔いが回っていながらもギーシュが話題を切り出す、
その声に我に返ったのか、ワルドはテーブルについた一同を見渡し少し困った顔をして切り出した。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
ルイズが口を尖らせながら呟く。
「あたし、アルビオンに行ったことないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの方を向いて、ワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく。
船は限りある風石を使っていてね。最も近い距離で翌日飛べるのに、早くに飛んで無駄にしたがる船乗りはいないのだよ。」
「フン、前もってそんなことの調べも付いていないとはな、使えん奴だ」
バージルの一言に場の空気が凍りつく。
険悪だった空気がさらに悪化する。
「どっ…どういうことかな?使い魔君?」
「わからんのか?だとしたら想像以上に無能だな」
「バッ…バージル!何を…!」
ルイズは顔を青くして二人を見比べる。
バージルは呆れたような表情でワルドを見て、続ける。
「言葉の通りだ、学院から馬で二日の距離、予定通りならその『スヴェル』とやらで足が止まらず先に進めただろう。
なのに貴様はグリフォンでさっさと先へ進み、ここで足を止める結果を作った。貴族派とやらに襲ってくださいと言っているようなものだ。
わかるか?貴様が足並みを乱したんだ。」
強烈な皮肉と挑発、しかも事実だ、ぐうの音も出ないほどの。
ワルドの額に青筋が浮かぶ。
バージルは相変わらず氷のように無表情だ。
「め…面目ない…ね…使い魔君…!」
言葉こそ穏やかだが、ワルドは確実に激怒している。
「フン…、婚約者の前で舞い上がっているのか知らんが、その程度は考えろ」
そんなワルドをさらに挑発しバージルは目を瞑る。
言うまでもなく場の空気は最悪だ、ワルドは燃え上がるような怒りの目でバージルを睨みつけている。
杖を抜かないのが不思議な位だ。
「とっ…とりあえず、もう寝ましょう?ね?もう遅い時間だし、ね?」
キュルケが耐えられないといった悲痛な声で提案する、
ルイズとギーシュはうんうんと首を縦に振った。
「あ、あぁ…そうしよう…使い魔君が来る前に部屋を取っておいた」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そしてギーシュと使い魔君が相部屋」
「あれ?男女二部屋ではないのですか?」
その言葉を聞きギーシュが口を開くが、ワルドは当然と言った風の表情で答える。
「僕とルイズは同室だ。婚約者だからな」
ルイズがその言葉にはっとして、ワルドの方を向く。
「そんな、駄目よ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」
しかし、ワルドは首を振って、ルイズをみつめた。
「大事な話が有るんだ。二人きりで話したい」
「先に行く」
そう言うとバージルはさっさと自分の部屋の鍵をとりさっさと階段を上り二階へと姿を消した。
ギーシュは結局は険悪な空気が残るこの空間に居たくないのか、急ぎバージルの後を追う。
何も言わずさっさと去ってしまったバージルをルイズは複雑な心境で見送った。
「じゃ、わたし達も行きましょ」
キュルケも鍵を手にし、タバサに声をかけて続けて席を立った。
「バージル…君?あれでいいのかい?なんか彼女、止めて欲しかったみたいだったけど」
部屋に入ったギーシュはバージルに声をかける。
「フン…これ以上くだらん事に余力を割くつもりなら斬り捨てる」
「相棒…そりゃどっちの意味だ…?」
「…多分、置いて行く方…そうだと思いたいよ…、それにしても、なんであんなに挑発したんだい?見ていて怖い位だったよ…」
「事実を言ったまでだ」
「そ…そうかい、はぁ…」
ギーシュは深くため息をつき、これから先なにも起こらないことを祈った。
一方その頃、『女神の杵』亭で一番上等な部屋だけあって、
ワルドとルイズの部屋は、かなり立派な内装だった。
ベッドは天蓋付きでレースの飾りのついた大きな物。
ギーシュとバージルの部屋が簡素なベッドであることと比べると、かなりの差だ。
ワルドはテーブルに座ると、ワインの栓を抜き、杯に注ぎそれを飲み干した。
「君も腰をかけて1杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままに、テーブルにつき、ワインが杯を満たすと、ワルドのそれと合わせる。
「二人に」
グラスが触れ合う音が響く。
「その…ワルド…?ごめんなさい、バージルが…あいつ、言いすぎる所があるから…」
「はは…気にしていないよ…はは…」
ルイズが先のバージルの非礼を詫びる、それをワルドは少々堅い笑顔で返事をする。
「その…それで…大事な話って?」
ルイズが本題を促すと、ワルドは急に遠くを見るような目になった。
「覚えているかい? あの日の約束……。ほら、きみのお屋敷の中庭で……」
「あの、池に浮かんだ小船?」
ワルドは頷いた。
「きみは、いつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたな。まるで捨てられた子猫みたいに、うずくまって……」
そういうと二人は昔話に花を咲かせる、そしてその話はルイズ自身の魔法の話に変わっていく
そうして一通り話を終えた後ワルドが意外な事を語りだした。
「きみの使い魔、彼だって只者じゃない、彼の左手のルーンを見て、思い出した。
あれは始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔ガンダールヴの印だ」
「…伝説の使い魔?」
今一理解できないといった具合にルイズが聞き返す。
「『ガンダールヴ』の印。始祖ブリミルが用いたもので
誰もが持てる使い魔じゃあない。つまり君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
そう言われルイズはバージルの事を考える、
確かにバージルは強い、伝説の使い魔と言われれば頷かざるを得ない、
しかも彼が語るには彼の父親は悪魔でありながら、
魔界の侵攻から人間界を守り抜いた伝説の魔剣士だという。
その時点で彼は既に伝説の血を引く存在だ。
だが、そうだったとしても信じられなかった。自分は魔法の使えないゼロのルイズ、
しかもあの使い魔を制御できていない。
とても、ワルドが言うような力が自分にあるとは思えなかった。
「この任務が終わったら、ルイズ、僕と結婚しよう」
「え……」
いきなりのプロポーズに、ルイズは驚いた。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは、国を……、
このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも、私……。まだ……」
「もう、子供じゃない。君は16だ。自分のことは自分で決められる年齢だし、父上だって許してくださっている。
確かに、ずっとほったらかしだったことは謝るよ。婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかっている!でもルイズ、僕には君が必要なんだ!」
「ワルド……」
かなり情熱的なワルドの態度に、ルイズは戸惑う。ワルドのことは嫌いではない。
だが、こんな勢いに任せて結婚していいものだろうか?
ルイズはバージルのことを考える、あいつはなんて言うだろうか?「俺には関係ない、貴様の問題だ」、そう言うかも知れない。
ワルドと結婚したら、バージルはどうするのだろう?
もしかしたら、もう二度と相手にしてくれなくなるかもしれない。
二度と振り向いてくれないかもしれない、それだけは嫌だ。
様々な思いが胸の中で渦巻く、やがて、ルイズは顔を上げ、ワルドを正面から見た。
「私はまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃない。『ゼロ』だもの……。
その前に立派なメイジになって見返したい奴がいるの、だから…」
それを聞くと、ワルドはルイズの手を離し、俯く。
「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」
「そんなことないの! そんなことないのよ!」
ルイズは慌てて否定した。
「いいさ、僕にはわかる。わかった。取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。
でも、この旅が終わったら、君の気持ちは、僕に傾くはずさ」
ルイズは頷いた。
「それじゃあ、もう寝よう。疲れただろう」
ワルドはルイズに近づいて、唇を合わせようとした。ルイズの体が一瞬、こわばり、ワルドを押し戻した。
「ルイズ?」
「ごめん。でも、なんか、その……」
ルイズはモジモジとして、ワルドを見つめた。ワルドは苦笑いを浮かべて、首を振った。
「急がないよ。僕は」
ルイズはもやもやする気持ちを抱えながら、再び頷いた。
翌日、時間的にはまだ早朝にも関わらず、バージルは浅い眠りから覚醒し
立て掛けてあったコートを羽織り閻魔刀を手に取る。
ギーシュは前衛的な格好で寝息を立てている
朝食の時間にはまだ余裕があるため、デルフを抜き、錆を落として時間を潰していた。
「相棒…おめぇってやつは…俺っちの手入れをしてくれるなんて…!」
「時間潰しだ」
泣きそうな声を上げているデルフを軽く流し錆を落としていると不意に扉がノックされた。
「相棒、誰か来たぜ?」
「…」
デルフを立て掛け無言のまま立ちあがりドアを開ける、そこにはワルドが爽やかな笑顔を浮かべ立っていた。
「おはよう、使い魔君」
「…失せろ」
そう言うやドアを閉めるが、ワルドはすぐに再びドアを開けて入って来た。
「話くらいしてくれてもいいじゃないか、使い魔君」
「…何の用だ」
バージルは鬱陶しそうな表情でワルドを睨む、それを気にせず微笑みながらワルドは続けた。
「君は伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
「…何故そう思う?」
「君の左手を見た時にルーンを見たんだよ、そのルーンは間違いなく伝説の『ガンダールヴ』のルーンだ」
「…左手を見たのか…」
バージルの表情が疑惑を含んだものに変わる、そして『グローブがついた左手』をみせた
「貴様の前でこれを外した覚えはない…この状態でよく判別できたな?」
「…ッ!」
虚を突かれワルドが軽く動揺する。確かにこれではルーンの『一部』は見えても全体を見ることはできない。
それだけで判別は困難だろう。
「このルーンのことを知る者は、俺以外にはごく一部の学院の人間しか知らん…貴様…どこで知った?」
バージルから疑惑のこもった視線を受ける。だがワルドはふっと微笑むと
「オスマン氏から聞いたのだよ、同行が決まった時にね、それに僕は伝説や歴史を調べるのが趣味でね。
伝説に登場するルーンについても色々と王立図書館の書物で勉強した。
それはその時に見た、ブリミル四体の使い魔の一つの『ガンダールヴ』の物に間違いない、と
君のルーンの一部をチラと見た時に、思ったわけさ」
この返答には一応矛盾はない。秘密の任務とやらもオスマンの耳に入っている可能性はある、
それにワルドは魔法衛士隊の隊長という地位にいる、オスマンも『知っているのであれば』信頼に値すると考え話したのであろう。
「それに『ガンダールヴ』のルーンは左手に刻まれるというじゃないか、それが一番の証拠だよ」
「…」
その返答にバージルも納得したのかどうか、憮然とした表情でワルドを睨みつける。
「それで…?伝説の講義をしに来たのか?」
「伝説の『ガンダールヴ』の強さがどれ程のものかを知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「断る」
あっさりと拒否された。
「何故だい?」
ワルドは気に入らん男だと心で呟きながら口を開く。
「俺はそんなものに興味はない。力を貸さぬルーンなど、ただの足枷だ」
「だ…だが君自身の強さにも興味がある、本当に君にルイズを守れるのか。そしてフーケを倒した君の実力が、
君も、魔法衛士隊の隊長である僕と戦って見たいと思わないのかい?」
「悪いが貴様に興味はない」
昨日会ったばかりの人間に対しこの言い草である。
しかも昨日の今日で、部屋の中に一触即発の空気が流れる。
さすがにそのピリピリした空気に目が覚めたのかギーシュがいつのまにか起き上がり部屋の隅で固まっている。
一歩間違えればこの部屋で戦闘が起きかねない。
「そうか、つまり君は怖いのかね?僕と戦って怪我をすることが」
「安い挑発だな、そんなに小娘の気を引きたいのか?もっとマシな趣味を持つことを勧めるな」
「ちょちょちょちょちょっと!やるんならここじゃなくて別なとこに行ってくれたまえ!」
ついに我慢できなくなってギーシュが叫び出す、その声に我に返ったのかワルドが苦笑しながらギーシュに話しかけた。
「は…ははは、すまなかったねギーシュ君、とにかく!君には申し出を受けてもらう!
10分後この中庭で決闘だ!もし逃げたら君はそれまでの男だった、と言うことにする!」
そう言うとワルドは踵を返し怒りの歩調で部屋を後にする。流石ルイズの婚約者、自分勝手な所がそっくりである。
「はぁ~~~~。バージル君…もうなんていうか…いや、もうなんでもない…起きたばっかりなのに…僕疲れたよ…」
ようやく重い空気から解放されたギーシュは昨日の祈りがブリミルに届かぬ事を悟り、再びベッドに倒れ伏した。
#navi(蒼い使い魔)
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