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「ナイトメイジ-14」(2008/08/14 (木) 04:13:39) の最新版変更点
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#navi(ナイトメイジ)
きらめく朝日を受け、影を落とす巨木が一つ。
それこそが桟橋と呼ばれる物である。
ラ・ロシェールに停泊するフネは水に浮かぶことなく、この巨木に果実のようにぶら下がることで帆を休めるのだ。
木の根元にはいくつもの階段があり、それぞれが別々の枝に通じている。
ルイズ達はその階段に据え付けられたプレートを一枚一枚確認していた。
「えっと……どのフネに乗ればいいのかしら」
とはいうもののルイズにはどのフネに乗ったらいいかはよくわからない。
こういう事は使用人の仕事。
自分で乗るフネを見つけるなんて初めてなのだ。
「32番の桟橋。マリー・ガラント号に乗りましょう」
首を上げて木の天辺を睨むベルがルイズの隣に並んだ。
「え、なんで?」
「それがアルビオンに行くのにちょうどいいからに決まってるでしょ」
ベルはやけに自信ありげに言うが、ルイズは少し心配になって後の両手に荷物を持ったワルドを見上げた。
ベルだってこのあたりに来たことがないはずなのだ。
「僕もそれで異存はない。しかし、いつの間にそんなことを調べたんだね?」
「昨晩出かけたときよ。ルイズの使い魔らしいこともたまにはしようと思ってね」
ルイズは何か裏があると直感したが、代案もないのでベルに従うことにした。
何より、ワルドが賛成しているではないか。
ベルはルイズに変わりに先頭を歩き、プレートを順番に確認していく。
目当てのプレートと違うと、甲高い音を楽しむように指先でそれをはじいていた。
「それなら僕に言ってくれても良かったんだがね」
「あら、あなたは姫様と婚約者を守る栄誉のために来たんでしょ。おかげで主人の危険を気にせずに一番良さそうなフネを選べられたわ」
ワルドは手に弾みをつけて、荷物を持ち直す。
それは肩をすくめているようにも見えた。
「やれやれ、うまく使われたみたいだね」
もう少し歩いたベルはプレートをはじかずに手に持ち、その手で番号を指し示した。
「ここの桟橋みたいね。行きましょう」
32番のプレートのかかる階段を目で追うと遙か高くまでのび、一隻の船がぶら下がっている。
風が吹くとわずかにきしむ音が聞こえた。
勾配がきつく長い階段を上って半ばの踊り場まで着いたとき、先頭を歩くベルは足を止めて後に続くルイズ達を見下ろした。
「先に行ってて」
「どうした……のよ。疲れた……から休ん…でいくの?」
アンリエッタと一緒に荒い息をしているルイズの言葉は途切れ途切れになる。
反対にベルの方は全く平気だ。
「そういうわけじゃ無いのよね」
「ふむ……君一人で大丈夫かね?」
それに応えたのは、最後に階段を上っているワルドだ。
両手に荷物を抱えているのに全く疲れた様子がないのはさすがと言ったところだろうか。
「そうね……じゃあ、ギーシュ」
「え?」
階段を一段飛ばして飛び降りたベルはへたり込みそうになっているギーシュの前に立つ。
彼の体力を削りに削っている原因の両手の荷物を奪うようにして取ると、それを上の段に放り投げた。
「アンリエッタ、これお願い」
「え……ええ?はい」
アンリエッタはいきなりの事に飛んできた荷物を取りこぼしそうになったが、ルイズが手をすかさず出したおかげで荷物を落とさずにすんだ。
あまりと言えばあまりの不敬にルイズはベルを怒鳴りつけようとしたが、それはワルドに止められた。
「では、私たちは先にフネに乗っておく。なに、ゆっくり来たらいい。出航までまだ時間がある」
ルイズはマントで自分とベルを隔てる婚約者を見上げた。
何が起こっているのかはわからないが、その顔に浮かぶ慎重さはルイズに反論を許さなかった。
アンリエッタもまた同様だ。
投げ渡された荷物をしっかり持ち、うなずいて同意を伝える。
「ここはベール・ゼファー様にお任せしましょう」
そうなればルイズには反論のしようがない。
当てにされているのは自分ではなくベルだと言うことに少し悔しい思いはしたが、それでも一言だけ言っておくことにした。
「何があったか後で教えなさいよ」
ルイズはアンリエッタが抱えている荷物を半分受け取り、ベルの返事も聞かずに階段を駆け上がった。
文字通り肩の荷を下ろしたギーシュは階段に座り、空に向かって深呼吸を繰り返していた。
「やれやれ……ようやく休める。君が僕のことを気遣ってくれているとは思ってもいなかったよ」
よく考えれば姫様に荷物を押しつけるというとんでもないことをしたのではあるが、今のギーシュにはそれに気づくほどの余裕はない。
重い荷物を持ったおかげで赤くなって痛む手や肩をもみほぐすほうに忙しい。
「あなたの事なんて知らないわよ」
「は?」
「そうね、ちょっとした道化師が来るのよ。だから、ここで待っているの」
「ど、道化師?」
下から階段上る音がした。
たぶん自分たち以外の船客か、あるいは船員かとも思ったが足音の主が下の踊り場に姿を現すとその考えもがらりと変わった。
「道化……師」
なるほど、姿を現したその人物は道化師に見えないこともない。
黒いマントと剣拵えの杖は貴族の象徴ではあるものの、その顔につけられた白く冷たい仮面には不気味さすら感じる。
そして何より、命をかけた戦いなどしたことのないギーシュにもわかるほどの恐ろしい感覚──ギーシュは後にそれが殺気というものであったことを理解する──は階段と荷物で暑くなっていた彼の体をぞっとするほどに冷やしていた。
階段に立つベール・ゼファーはあからさまな失望を顔に浮かべ、下にいるの仮面の男をため息混じりに見つめていた。
「相手をして欲しかったらもっと面白い物を見せなさい、と言ったはずよね」
男は腰の杖に手をかけてもベール・ゼファーは指先一つ動かさない。
「聞こえていなかったのかしら?それとも聞く気がないのかしら?どっちでもいいわ。面白いものを見せないのならあなたとやりあう気はないのよ」
男が上の段に足をかける。
ギーシュが「ひぃ」と言う小さい悲鳴を上げた。
「そうね、あなたの相手はこのギーシュにやってもらいましょう」
「えええええっ」
慌てるギーシュが今度は叫び声を上げる。
仮面の男はそれに合わせ、見せつけるように抜いた杖にブレイドの魔法をかける。
光の刃がギーシュを照らした。
「む、無理だ。勝てない。あの魔法をみたまえ!絶対ライン以上だ!」
ブレイドそのものはドットでも使える。
だが、ドットとライン、あるいはそれ以上では威力でも見た目でも大きな違いが出る。
「あなたも姫様の力になるために来たんでしょ。なら、命をかけるくらいしさい」
「だ、だが。しかししかししかしっっっ!」
ベール・ゼファーは舌がもつれ回るギーシュの耳にそっと唇を寄せる。
そこから出る言葉は一夜の恋を囁くようだった。
「大丈夫。私が教えてあげるわ。あなたの自慢の青銅のゴーレム、ワルキューレって言うんでしょ?それを使えば、勝てるわ」
「あ、ああ」
ベール・ゼファーに逆らうという気はしない。
むしろ従って当然というきすらしていた。
震えながらもギーシュは杖を振る。
そこからこぼれ落ちる花びらが仮面の男の目の前に落ち、粘土のように姿を変えて乙女の姿をしたゴーレムに変わる。
そして次の瞬間、仮面の男により真っ二つに切り裂かれた。
「だ、ダメだ。やっぱりダメだ」
「当然よ、一つだけじゃダメ。だから、いい?全部出すの。いいわね」
「わ、わかった」
もう一度ギーシュは杖を振る。
落ちる花びらは6枚。
それが狭い階段の一段に一枚ずつ落ち、ワルキューレとなる。
一列に並んだワルキューレは仮面の男に向かい行進を始めた。
男もそれをただみているだけではない。
ブレイドをまとった杖で来た端から切り刻んでいく腹づもりなのはギーシュの目にも明らかだ。
「そう、それでいいわ。後は仕上げに……こうよっ」
どん
「……え?」
ギーシュは自分の背中に衝撃を感じた。
狭い階段でのことだ。
足下は定まらず、バランスを崩し、下にいるワルキューレの背中めがけて真っ逆さま。
どうにか後ろを見ると、足の裏を見せるベール・ゼファーが片足で立っていた。
何をされたかは明らかだ。なお、ぱんつは見えなかった。
「うわあああああああああああ」
それだけでは終わらない。
ギーシュがぶつかったワルキューレもまたバランスを崩し、下にいるワルキューレへ。
それまたバランスを崩し下へ。
くりかえすこと6回。
塊となったギーシュとワルキューレ計6体は魂を込めた速度を持ってして仮面の男に激突……できなかった。
仮面の男は素早くフライの呪文を唱えると空中へ逃れ、哀れギーシュ塊は階段の手すりを突き破って遙か下へ自由落下。
二度と上ってくることはなかった。
光る杖を持つ男はフライを使った勢いのままベール・ゼファーに向けて飛ぶ。
既に二人の間に障害物はない。
ならば勢いのある仮面の男が有利。
だが肉に食い込む勢いで突進する魔力の刃はベール・ゼファーに届くことはなかった。
ベール・ゼファーが仮面の男につきだした指先。
そこに灯る魔法に光。
徐々に大きくなるそれをみた仮面の男は、再び呪文を唱える。
呪文は向かい風を生み、それにあおられた仮面の男は後ろに飛び、元の踊り場に着地する。
「さあ、どうするのかしら」
男は何も言わない。
代わりにギーシュが壊した手すりの外に身を投げ、そのまま巨木の下に姿を消した。
「最後までやる気はない……。お互いにね」
ベール・ゼファーは手首を返し、指先に作ったただ光るだけの魔法の光球を握りつぶした。
その頃トリステイン王宮
体の不調を訴えているとはいえ、ベッドのとばりを下ろしたまま一向に出て来ないアンリエッタ王女に業を煮やしたマザリーニ枢機卿は強引な手段を使って見たアンリエッタの姿に目を点にしていた。
「あ、あのー」
ベッドの上で王女がほほえんでいる。
当たり前だ。
いやいや、王女は黒髪でもなければ、黒目でもなかったはずだ。
そばかすもなかったはずだ。
「これを……」
王女らしき者がおずおずと差し出した王家の封印付きの書状を広げたマザリーニはついに点にした目を白目に変え、その体勢のままぶっ倒れてしまった。
「あ、あの、あのどうしたんですか?起きてください、起きてくださーい」
彼の瞳に再び光が戻り、心臓が動き出したのはその10分後だったという。
「下僕が少ないと大変ね。あんなのでも助けてやらないといけないし。面白くなりそうだからいいけど」
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