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#navi(虚無と狂信者)
「ルイズ、僕と結婚しよう。」
一体なにを言っているのかわからなかった。そもそも彼にはアンデルセンを御せなかったことと、サイトに嫌われたことを相談していた。
それがいきなり求婚されてしまっては訳が分からない。確かアンデルセンが何者かが解らないという話だったか。
「いいかい君の使い魔は凄い!山賊を一撃で薙ぎ払い、吸血鬼とも互角に戦ってのけたじゃないか。」
それはそう思う。しかし、ではその吸血鬼を召喚したキュルケやタバサは一体何者であろうか。
「それに君の失敗魔法!あんな威力僕だって出せやしない!火系統のスクエアメイジに相当する威力じゃないか。」
魔法の話をしていただろうか。でも確かにネガティブなことを言ったかもしれない。
「君は素晴らしい、偉大なメイジとなりうる可能性を持っている。断言しよう。だからお願いだ。
どうか君の伴侶と成る資格を僕にくれないか。もちろん僕も君に相応しくなるよう努力するから。」
その言葉に私は仰天した。魔法衛士隊の隊長がゼロたる自分に頭を下げて求婚する。凄く嬉しい。しかし、
「あの平民の少年かね?」
私は答えない。
「彼が何者かはしらないが、ただの平民の少年が君と交際してみたまえ、冗談抜きで彼は死ぬぞ。」
そう、私はゼロとはいえ公爵家の令嬢、下級貴族でさえ不釣り合いである。ましてやただの平民、しかも異世界人。
交際どころか私が好意を持つだけで、玉の輿に乗らんとする貴族に殺されるかもしれないのだ。
貴族は平民のことなど虫の命程も思っていないのだから。
って違う!そうじゃなくて!
「別に!ただ命の恩人だからちょっと感謝してるだけよ。」
ワルドは驚いた顔をした。
「何!君は命の危機にあったのか?吸血鬼の件か?」
その時のことを思い出す。ふとあの血だまりの光景を思い出す。
「ゴメン、思い出したくないの…。」
そう、サイトはあんな目を背けるような怪我を負って私を助けてくれた。
なのに私は…。
俺、シエスタ、タバサ、キュルケ、ベルナドットさんは、安宿のなかでトランプをしていた。
俺は当然のようにいる二人の少女に疑問が湧いた。
「タバサ、キュルケ。こんなところで遊んでていいのか?お前ら貴族だろ?」
「ルイズじゃあるまいし、別に普通よ。ねえ?」
キュルケの問にタバサが頷く。そこにワルドがやって来た。
「ちょっといいかな?サイト君だっけ。」
女神の杵亭にて何故かワルドは俺にメシを奢ってくれた。なんでだろう?
「君は僕の婚約者を救ってくれた。こんなので済むとは思わないが。せめてものお礼だ。」
俺は慌てて首を振る。
「いや、そんな…。俺はただ何が何だかわからなくてやったことで。お礼は…。」
「はは、では君のような素晴らしい人間と友達になれたお祝いということにしてくれ。」
それ以上断るのも悪いと思い、食前の祈りをして食べ始めた。
「本当に君は凄いことをしたんだよ。もし君が貴族なら領地をもらって然るべきだ。」
「へえ、そうなんですか?」
「婚約者の僕から謝らせてくれ、彼女は君に失礼なことを言ったね。」
そう言われ、ああ、あのことかと見当をつける。さっき刺された件だろう。
「いや、まああれはあいつがやった訳じゃないから。」
「怒ってないのか?」
「うーん、ごめんなさいの一言ぐらいあってもいいかな?」
(可愛いし…)
あんなことを言われても呑気なことを考えるもんだな、と俺は俺を苦笑した
「それでいいのか?」
俺が頷くと何故かワルドは笑いだした。
「君はなんというか!本当いいやつだな。」
こっちに来てからいい人認定されることが増えた気がする。
しばらく食べていくと、お互いの話を始めた。
「そうか、君の国には貴族がいないのか…。」
「ええ、まあ。」
「羨ましいな…。」
「あなた貴族でしょ?」
「ああ、だが王宮では老人どもばかりが権力を握る。若い貴族は出世する隙がない。
おまけに出世しようとすれば、おべっかに権謀術数。賄賂に癒着。
さらには仁政を施せばあの連中は平民に媚びているとまで言うのさ。
やっていられないよ。」
ワルドはワインを煽る。結構飲んでいるが酔っているようには見えない。
「まあ、僕はマシだな。平民に比べたら、平民というだけで一生搾取され、差別されるよりは…。
だからゲルマニアは繁栄するんだな。皆が頑張れば報われ、頑張らなかったなら報われないのだから…。」
「まあ、古今東西そういう国が繁栄しますね。」
「なあ、君はどうだね?何か苦労してやっても誰も見ない、報いない。生まれた時の身分が全てを決める。
この国をどう思う?」
俺は向こう側の壁を見て言う。
「普通に考えたら滅びますね。」
ワルドは大笑いする。
「随分はっきり言うな!」
「まあ事実ですし。」
俺は笑ってジュースを飲む。何のフルーツかは分からないがとても美味い。
「僕だからいいが、あまり他の連中には言うなよ。ハハハハハ」
ルイズは月を見ていた。そこにアンデルセン神父がやってきて隣に立つ。
「元気がないですね。どうしました?」
ルイズは答えない。月明かりを黙って見ている。
「サイトのことですね。」
「どうしよ…。」
「仲直りできる呪文をおしえましょうか?」
素早く振り向き、ルイズはアンデルセン神父に教えるようせがんだ。
「それはですね。」
彼女は期待して言葉を待つ。
「『ごめんなさい。』」
彼女は呆けた。アンデルセンは笑って肩を叩く。
「気づきませんか?あなただけですよ?彼に謝っていないの。」
彼女はボケっと床を見る。そういえばそうだ。アーカードもアンデルセンもギーシュでさえ謝った。肩を震わせて言う。
「許して…くれるかな?」
「大丈夫。彼は優しい人ですから。」
背中を押しながらアンデルセンは彼女を導く。しかしその歩みが止まる。
なぜか月明かりが何かで遮られている。後ろを振り向く。そこには巨大なゴーレムが立っていた。
「生きてまた逢えたら…。」
「…そうですね…。」
巨大な腕が振りかぶられた。
「あれ、タバサ?戻らなくていいのか?皆飯食いに行ったぞ。」
どうやらシエスタと食べにいくようだ。ベルナドットと準備している。急に地震が起きたように部屋が揺れた。
突然の爆音に窓を見ると、巨大なゴーレムが女神の杵亭に攻撃している。彼らは飛びだした。
「ベルナドットさん早く!!」
ベルナドットはバッグから銃を取り出し、弾を込めている。
「覚えとけ!男も大人になると出かけんのにいろいろ準備がかかんだ!先行ってろ!」
サイトが彼を尻目に指笛を吹きながら外に出ると、青い翼が舞い降りた。
「大変です!!ゴイスーなデンジャーが迫ってます!」
一階の酒場にセラスがハルコンネンを抱えて駆け降りてくる。キュルケ、ギーシュ、ワルドが食事をしていた。
「一体なんでまた。」
「ハルコンネンの精が言ってました。」
空気が止まる。
「はは、またそんな」
言ったギーシュの鼻先を弓矢が掠め、壁に突き刺さる。
セラスとワルドが机を倒すのと矢が大量に飛んでくるのが同時だった。
「昼間の傭兵どもだな!」
セラスがハルコンネンを外に向け放とうとする。しかし彼女の眼は厄介なものを捉えた。
人間には不可視な速さで動く、その銃弾は唸りながらキュルケに当たろうとしていた。
セラスは咄嗟にそれを素手で掴む。キュルケには何が起こっているか分からない。
遠く三百メートルほど向こうにその銃弾を撃った狙撃手がいた。ハルコンネンは火を噴き、彼女を狙う。
リップバーン・ウィンクル中尉はあっさりとそれを回避し、次弾を装填する。
「皆さん行って下さい。邪魔です!」
その言葉にキュルケは同意した。全く以て自分達では介入不可能な戦いが繰り広げられているのだ。
そして退避しようとした時、彼が起きて来た。己の使い魔アーカード。
「命令を我が主人。」
「あの傭兵たちと狙撃手を適当に追っ払った後、私たちと合流。」
ルイズとアンデルセンが降りてくる。
「土くれのフーケが!」
キュルケが頭を抱える。
「…及びフーケを討伐すること。とどめは無理にささないで、敵を全員殺すことより味方を全員助けることを優先なさい。」
キュルケはアーカードにとって最も困難な命令をくだしたが、吸血鬼はニヤリと笑った。
「了解した。」
アーカードが悠然と、突き刺さる矢をものともせずに突き進む。
「ハリー!!」
「了解した。」
すぐさま飛び掛かり、化け物が敵を屠りに向かった。
「さて、私は邪魔にならないところに待機してるわ。ルイズ。あんたは先行ってなさい。」
「で、でも。」
「何か知らないけど重要な任務なんでしょ。とっとと行きなさい。それに私には彼がいるから。」
アーカードを制御する必要がある。彼は両刃の剣なのだ。
セラスがいるなら後から追いかけることも可能だろう。そう思いキュルケは厨房に身を潜めた。
降りしきる矢が止まっている。かわりに悲鳴が聞こえてきた。
ワルドとルイズは眼前の敵に突撃しようとするアンデルセンを抑え、裏口へ向かう。
それをギーシュが追いかけた。その姿を見届ける。
カウンターを見ると酒場の店主が首に矢が刺さって倒れている。
その光景にキュルケは今自分が命の取り合いの場にいることを実感した。
アーカードに咥えられている仲間を見て、傭兵たちは恐れをなして逃げて行く。
追い掛けようとしたが、キュルケの命令のため、追撃を止め、次にリップバーンに狙いを定めた。
彼は人外の速度で走り、あっという間に距離をつめる。
彼女はその姿を見ると逃亡を始めた。アーカードも追いかける。
「狙撃兵なら明日のために、その1すごく見晴らしのいいところでうんと離れる。
その2近づかれたら死を覚悟。」
「覚えてますよ。アーカード」
彼女と彼は話しながらチェイスする。
リップバーンは不敵に笑った。
「ねえセラスヴィクトリア。」
初めキュルケは一体なにが起こったかわからなかった。
燃え盛る炎にいきなり包まれたセラス。
魔法がはなたれた先には首に矢を受け明らかに絶命したはずの店主。
店主、改め地下水の右手にはナイフが握られている。それを振るいさらに呪文を唱えようとした時、
セラスの左手が変化したと思うと、床から黒い刃が続々と生えてきた。
しかし、地下水はそれを飛び越え、セラスに飛び蹴りをくらわせる。
キュルケは意識を取り戻し、ファイアーボールを地下水に食らわせる。しかし、火をまるで意に解さぬかのように、
地下水はセラスを締め上げナイフにブレイドの魔法をかけた。ナイフの周りに魔力がかかる。
それはまるで長剣のような長さになった。
「首を刎ねたら死ぬんだろ?化け物。」
青白い剣がセラスの首を刎ねようとする。だが、セラスは間一髪逃れた。この場にいた三人は驚愕する。
セラスの首には店主の左腕がぶら下がっていた。切断されたのだ。
地下水は横を向く、そこには剣を持った娘がいる。
「島原抜刀術、秋水。」
シエスタというおとなしいメイドはそこになく、眼光鋭き剣士が立っていた。
フーケのゴーレムに対し、サイトとタバサがシルフィードに乗り戦っていた。その横をルイズ達は通り抜けた。
「シエスタは!?」
「そっちに行ったよ!」
サイトは発砲するも、昨日銃を触ったばかりの少年には荷が重かった。
「会ってないわよ!?」
「何だって?!聞こえねえよ?!」
ルイズは走りながら空を飛ぶサイトに毒づく。
「あとで来なさいよ!!」
「ああ!今忙しいから後でな!」
サイト達にゴーレムの腕が襲いかかり、シルフィードが旋回しそれを避けた。
シエスタは剣を鞘に納め、それを縦に構えて対峙した。互いに隙無く横に動き、円を作る。
その姿にキュルケもセラスもあっけにとられる。
だが、地下水の左腕が瞬時に再生されるのを見て闘志を取り戻す。祝福された武器ならともかく、
ただの鉄では吸血鬼たる体にはダメージが与えられない。
セラスが発砲、キュルケがフレイムボールをそれぞれ行おうとした時、
セラスは左腕の掌底で吹き飛ばされ壁を突き抜け、炎球は風の障壁で跳ね返され、キュルケに返ってくる。
そして地下水は体を回転させ、蹴りをシエスタに見舞う。
生身の人間である自分がこれを食らえばたちまちバラバラになるだろう。
しかしシエスタに恐怖はない。
あるのはただ、戦っているという自覚だけ。
自らの意志で助太刀したのだ。
後悔は無い。
彼女は日本刀の鞘で蹴りを受け、体を回転させその衝撃をいなした。
そして回転中に刀を縦から横に変えて抜刀を敢行する。
「首を刎ねたら死ぬんですよね?」
だが地下水は難なく右手のナイフでそれを受け止めた。
口ではルーンが唱えられている。
急激にシエスタに死の実感が沸き起こった。
火球が完成される。
しかしその時地下水の右手が吹きとんだ。
その瞬間地下水は己の戦略ミスを悔いた。
狙撃手たる敵を彼方に吹き飛ばしたことを。
ハルコンネンの集中砲火が地下水の体をバラバラに吹き飛ばした。
ヘタンと座り込むシエスタにセラスとキュルケが駆け寄る。この戦士をどう称えたものかと見る。
シエスタはボケっとしていたと思うと、キュルケに手を伸ばす。
「腰ぬけちゃいました…アハは……。」
スプラッタと命の危機を同時に味わったのだ。無理もない。
キュルケは彼女をひっぱり起こすとその胸で彼女を抱きしめた。
魔弾を取り逃がした。まあ、射程距離を遠く離れたし、捨て置いても良いだろうと、
アーカードは辺りを見回す。
遠くでゴーレムとサイト達が格闘していた。彼は嬉しそうに笑い、駆けだした。
「立てますか?」
そう言ってセラスがシエスタの肩をつかもうとした時、ゾクりとした感覚が奔った。
「逃げて!!」
叫んだセラスが何かに吹き飛ばされた。
シエスタとキュルケはまたもや何が起こったか分からない。
しかし、次の瞬間彼女達はへたり込んだ。
見るとそこに男が居る。
厚手のコートと帽子を被った長身の男。
彼を目の前に彼女たちの思考が止まる。
突然目の前でドラゴンが口を開けていた以上の感覚。
彼はハルコンネンをまるで鉛筆のようにへし折り、店主のナイフを拾い、
彼女らを一瞥した。
彼女達は意識が遠のくのを感じる。
キュルケは悟った。
今目の前に居た男がアーカードやアンデルセンと同じ次元の力を持っていると。
そして己の使い魔達は今まで本気の闘気を纏ったことなど一度も無かったことを。
男は彼女達を無表情で見下ろす。
己の任務はアンデルセン及びその他危険人物とルイズ・ヴァリエールとの分断。
アーカードというでかすぎる不確定要素の為に大尉は彼女達を見逃した。
シルフィードのブレスがゴーレムの頭を吹き飛ばす。タバサの氷の矢が右手を吹き飛ばす。
しかしゴーレムは瞬時に再生する。
「畜生!しぶといな!」
シエスタはルイズの護衛に行かせたが大丈夫だろうか。まあ、この巨大なゴーレム相手に、
自分やシエスタができることは皆無だったからだが。一応ポケットには手榴弾があるけれども。
サイトはこのままシルフィードのブレスやタバサの魔法を駆使すれば勝てるだろうと思った。
あちらの攻撃は空飛ぶ自分たちにはとどかないのだから。そう考えていた時、
ゴーレムが宿屋に手を突っ込んだ。タバサが叫ぶ。
「危ない。」
次にゴーレムは腕をこちらに向けて振る。すると宿の木の板や家具が雨あられと散弾のように振り注いだ。
シルフィードを急降下させそれらをかわす。そしてゴーレムの射程距離に入った自分たちにもう一方の腕がおそいかかった。
シルフィードはさらにスピードを上げ、なんとか腕よりも下に高度を下げる。
しかし、上に乗っていたサイトはその腕に当たってしまった。そしてそのまま建物の壁に腕ごとめり込む。
フーケはやったか、とそちらを見る。だが次に彼女が見たのはとんでもない映像だった。
今仕方、壁に激突し死んだと思われた少年が、銃剣を己のゴーレムの腕に突き刺し、よじ登った。
その姿は血塗れだったが、目には爛々とした闘志が込められフーケを見据える。
そのままこちらに腕を渡って突撃してくる少年に彼女は舌打ちし、杖を向ける。
不意に後ろからの冷気に気づき、フーケはゴーレムの一部から鉄の壁を錬成し、それを防いだ。
タバサのウィンディ・アイシクルだ。しかしその一瞬が命取りだった。
サイトは彼女が後ろを向いた隙に駆け寄り、フーケの後頭部に銃口を、首筋に銃剣を当てる。
観念した様子でフーケが手を挙げる。
「あんた、何者だい?あいつらと同じ吸血鬼か?」
サイトは答える。
「いや、人間だよ?ただ、ちょいと丈夫なだけさ。」
「アハハハハハ、同じだよ、化け物。」
フーケは急に笑い出した。サイトはむっとする。
「そうかい、それなら……遠慮はいらないね!!」
フーケがゴーレムの魔法を解除した。引き金を引く間もなくサイトは三十メートル上空から落ちて行った。
ゴーレムの魔法を解除すれば自分は落ちる。自分の考えの至らなさにサイトは唇を噛んだ。
シルフィードがサイトをキャッチする。フーケは予備の杖を取り出しレビテーションをかける。
地面に降り立ち、フーケは駆けだした。もう魔力はほとんど無い。路地裏に逃げ込もうとした。その時。
ダン!!
フーケは転倒した。見ると足が撃たれている。立てそうにない怪我だ。後ろを見ると、
そこには赤い服、赤い目、馬鹿げたデカサの銃を掲げた狂気の代弁者が立っていた。
フーケが降参の意を示す両手を挙げる。するとアーカードにその手を掴まれ、引き寄せられる。
その瞬間、彼女の生存本能が重大な危機を察知した。
(マズイ!!!)
その牙が首筋に到達する前に、フーケは杖にブレイドをかけ、アーカードの首に突き刺した。
しかし、アーカードは手を離したものの、すぐにフーケのもとに歩み寄る。
フーケは必死になって逃げ出した。様々な考えが脳内をまわる。
あいつがいるなんて聞いてない!
杖が落とされ、乾いた音が響く。
まだ死ねない死にたくない!
足音がする。
死ねない!
すぐそこまで来ている。
ティファニア!
髪の毛をつかまれる。
ティファニア!ティファニア!ティファニア!ティファニア!ティファニア!
銃口が突き付けられる。
「ティファニア……。」
マチルダは泣きながら虚空に手を伸ばした。
ドッ
ボトリと落ちた。
腕が。
アーカードが不思議そうに自分の無くなった左手を見ている。
突然解放され、地面に倒れたフーケは、恐れを持って振り返る。
黒髪に、厚手のコートを着た少年が立っていた。アーカードは呑気な口調で聞く。
「…なんのつもりだ?」
「それはこっちのセリフだ!!」
サイトはこれまでにない程に激昂して叫び、アーカードを睨んだ。サイトはフーケを指し示す。
「もうケリは着いただろ!」
アーカードは圧力を込めてその言葉に答える。フーケはその威風に脅えた。
「それがどうした?闘争の契約だ。そいつは来た
殺し打ち倒し朽ち果てさせるために
殺されに打ち倒されに朽ち果たされるために
それが全て
全てだ!」
凄しい迫力に降り立ったタバサやシルフィードも怯む。
しかしサイトは汗を流すも、一歩も退かない。
「それがどうした!闘争の契約?知ったことか!
あんたのような化け物が戦いを止めた人間を殺そうとしてる。
そんなのは俺が許さねえ!」
少年の声が響いた後、張り詰めた静寂が辺りを包んだ。周囲は呆気に取られている。
少年の勇気と、無謀に。
急にアーカードの顔に笑みが浮かぶ。
「では…やるか?」
その言葉にサイトは銃剣を構える。
「あんたがこの人を殺そうとするならな!!不本意だけどしょうがねえだろ!!」
アーカードは嬉しそうに、サイトの眉間に照準を合わせた。
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