「ゼロの傀儡人形」(2008/08/10 (日) 12:18:52) の最新版変更点
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「あなたは弟を殺したい訳じゃぁない。ただ、許せない。」
「自分はこんなにも駄目で、馬鹿で使い物にならないのに、
なんで弟はあんなに高潔で素晴らしい精神に溢れているんだ」
「自分はこんなにも醜いのに何で弟はあんなに美しいんだ」
「自分は嘘つきで、嫉妬深くて、ちっぽけなのに、何であいつは正直で精錬なんだ」
「・・・何でこんな惨めな思いをしながら生きていなくちゃいけないんだ」
「あなたは彼が憎い、けれど殺したいんじゃあない。
ただ、堕ちて来て欲しいだけだ。
自分と同じ位置に来て欲しいだけだ。
違いますか?」
「ああ、その通りだ・・・・だが無理だろう?
あいつは、あいつのいる場所は俺なんか絶対に手に届かない場所にいる。
あいつは手に入る筈だった権力が手からすり抜けていっても、
素直に喜んでにこりと笑って。
『おめでとう、兄さんが王になってくれて、ほんとうによかった。
ぼくは兄さんが大好きだからね。
僕も一生懸命協力する。
いっしょにこの国を素晴らしい国 にしよう』なんていうような奴だぞ?
俺なんかとはいる次元そのものが違う」
「ならば私がその望み、叶えて差し上げましょう」
「何?」
眉を潜めてジョゼフは男を見る。
男は大仰な仕草でこちらに手を差し出した。
「あなたが私の指示に寸分違わず従ってくれるというのであれば、
おキレイで優しくて、誰からも愛される。
そんなあなたの弟が壊れ、歪み、堕ちてゆく。
そんな最高の悪夢歌劇(ナイトメアオペラ)を
プロデュースして差し上げましょう!」
「お前は・・・・一体」
「まぁ、私のことはこう呼んで下さい」
地獄の傀儡師と
それからのジョゼフは人が変わったかのようだった。
まず、これまでの卑屈で暗い表情がなりを潜め、笑顔で家族に接するようになった。
そして、シャルルに自分が王になったらこんな政策がしたい、こんなプランがある。などといった具体的な理想を語るようになったのだ。
それはガリアにとってとても優しい、とても美しい時間だった。
ジョゼフが正式に王に指名された事が発表された数ヵ月後、変死体となって発見されるまでは。
明らかに風魔法で殺されたと分かる体中の切り傷。
犯人は風のメイジと思われた。
だが犯人は発見されなかった。
候補者が多すぎて。
風石の名産地であるガリアには優秀な風魔法の使い手は大勢いた。
シャルルを初めとする王家の人間を含めて。
魔法を使えないジョゼフを殺すのは簡単過ぎた。
故に優秀かそうでないかは問題ではなかった。
シャルルを王にしたい人間は大勢いた。
ジョゼフが王になることに納得がいかない人間も大勢いた。
しかし、ジョゼフがいなくなってしまった以上、シャルルが王になるしかなかった。
そうなるしか『なかった』のだ。
シャルルが王となった。
ガリア国民は諸手を挙げて歓迎した。
シャルルは次々と画期的な国策や外交手段を打ち出してガリアを更に強大な国家へと発展させていった。
全てはうまく回っているようにみえた。
そう、見えた。
しかし、数年後、シャルルの娘シャルロットがトリステインに留学となった、その年。
「きゃあああああああーー!」
「か、カステルモール団長・・・・!」
王の側近、騎士が次々と暗殺される事件が起こった。
殺された者はいずれも王に対して忠誠心厚く、シャルルを積極的に王にと推した人物達ばかり。
それは奇妙な事に。
全ての事件にはジョゼフが殺された時と全く同じ状況で殺されていたのだ。
もちろん、誰も警戒していないわけではなかった。
あるものは屈強な傭兵を優秀なメイジを何人も雇い入れて自分の護衛に当たらせた。
その誰一人にも気づかれることなく、『いつの間にか』殺されていた。
あるものは『アンロック』の使用できないマジックアイテムの鍵を寝室の部屋に幾重にも掛けて休んだ。
それが抉じ開けられた形跡が全く無いままベッドの上で息絶えていた。
そしていずれもその傍らには血文字で「どこにいるのですかどこにいるのですかどこにいるのですか」と延々と書き綴られていたのだ。
ガリアは震え上がった。
これはジョゼフの呪いだと。
自分を殺した犯人を捜して回っているのだと。
馬鹿なと一笑に伏せる者は極めて少なかった。
皆が多かれ少なかれ、ジョゼフを疎んでいたのだから。
次に殺されるのは自分かといや自分かと震えていた。
「兄さんの呪い?馬鹿だね皆は。あんなに優しい兄さんが人を呪える訳無いのに」
この国の王となり誰からも慕われ「善良且つ清廉な人物」と誰もが疑っていないその男は、そっと手に持った日記帳に愛おしげに頬を摺り寄せる。
そこには兄の全てが書かれていた。
魔法が使えず、常に周囲からの声無き嘲笑に晒されていて苦しかったこと。
生きる事自体が苦痛で仕方が無かったこと。
自ら命を断てればどれほど楽だろうと何度も発作的に自殺を図りそうになったこと。
弟に・・・・自分に嫉妬し、憎くて仕方が無かったこと。
そこには自分が知らなかった、いや、見ようともしていなかった兄がいた。
「兄さん・・・・・」
シャルルは嬉しかった。
嬉しかったのだ。
兄が笑うようになってくれて。
王にと望まれたことで自信がついたのだろうか。
ジョゼフは自分に対して様々な国策や今後のガリアをどうして行きたいかと言った展望を顔を輝かせて教えてくれたのだ。
『俺は魔法が使えない。そんな俺だからこそ国を根底から支えている平民の気持ちが分かると思うんだ。俺はいつか、魔法に頼らずに国が発展していけるような体制を作っていきたい』
日記にもそう書かれていた。
しかし、兄が次の王だということが発表された日付から様子が変わり始める。
そこにはジョゼフが身の危険を感じ始めたことが書かれていた。
自分が王になれないことを予感する文章が書かれていた。
『俺はいてもいなくても同じだ。シャルルに俺の考えている政策を話しておいたから、シャルルなら・・・きっとあいつならうまくやってくれるだろう。シャルルが話した政策なら誰も反対などしないだろう。シャルル、後は頼む・・・・俺はもう、疲れ』
そこで日記は途切れていた。
兄の予言は当たっていた。
今の自分は兄の考えた政策を使って賢王と呼ばれている。
兄ならばどうするだろうかと考えて国を治めている。
自分は、自分こそが、兄の劣化コピー。
「陛下」
突然背後に現れた影に驚きもせず、シャルルは少し視線を動かしただけだった。
この男はいつでも神出鬼没だ。
だが、この男こそが自分に兄の苦しみを教えてくれ、そしてそれを晴らす為の手段を与えてくれたのだ。
「ありがとう、ヨウイチ。君の策謀がなければここまでうまくはいかなかったよ。兄さん亡き後もよくこの国に残ってくれたね」
「いいえ、私はジョゼフ様の使い魔でありますれば。その弟君の役に立とうとするのは当然のことかと」
「ふふ、そうだね。もう下がっていいよ」
「は」
そして現れた時と同じように音もなく消えていくその男。
唇を歪めてシャルルは兄の日記帳を撫でた。
自分が『殺した』連中の『信じられない』という顔が蘇る。
『陛下・・・・・!?何故、何故ですか!?』
『私は・・・陛下の陛下の為だけに・・・・!』
ああ、鬱陶しい。
そうやって兄さんを傷つけたのか。
あの人を追い詰めていったのか。
『私の為に』
そう思うのならば死ね。
死んでくれ。
『陛下・・・!一体何故!このような恐ろしい事を!あなたはそのような事をなさる方ではない筈です!これではまるで・・・ジョゼフのようではないですか!』
その通り。
私は兄のコピー
誰からも愛された王子はもういない。
兄の無残な死体を見たとき一緒に死んでしまったから
優しい、博愛の心はもうない。
兄の日記を読んだ時、涙と共に流れ落ちていってしまったから。
「兄さん・・・・待ってて。全部、ぜぇんぶ、壊してあげるから」
許さない。
絶対に許さない。
兄を殺した人間を。
兄を追い詰めたこの国を。
兄が疎まれる原因となった魔法を。
その魔法を作った始祖ブリミルを。
始祖ブリミルを崇め奉るこの世界を。
そしてこの自分自身を。
劣化コピーの自分がいなければ兄は殺されなかった。
自分がいなければ兄しか王位を継げる人間はいないのだから。
自分の存在が・・・兄を殺した。
「待っててね。兄さん・・・・」
そこにはかつての高潔で善良な人格者などいなかった。
そこにいたのは、暗く、濁った瞳を持って。
兄の影を追い求める一人の男だった。
全てを壊そうとする破壊者だった。
金田一少年の事件簿より地獄の傀儡師 高遠 遙一を召喚。
「あなたは弟を殺したい訳じゃぁない。ただ、許せない。」
「自分はこんなにも駄目で、馬鹿で使い物にならないのに、
なんで弟はあんなに高潔で素晴らしい精神に溢れているんだ」
「自分はこんなにも醜いのに何で弟はあんなに美しいんだ」
「自分は嘘つきで、嫉妬深くて、ちっぽけなのに、何であいつは正直で精錬なんだ」
「・・・何でこんな惨めな思いをしながら生きていなくちゃいけないんだ」
「あなたは彼が憎い、けれど殺したいんじゃあない。
ただ、堕ちて来て欲しいだけだ。
自分と同じ位置に来て欲しいだけだ。
違いますか?」
「ああ、その通りだ・・・・だが無理だろう?
あいつは、あいつのいる場所は俺なんか絶対に手に届かない場所にいる。
あいつは手に入る筈だった権力が手からすり抜けていっても、
素直に喜んでにこりと笑って。
『おめでとう、兄さんが王になってくれて、ほんとうによかった。
ぼくは兄さんが大好きだからね。
僕も一生懸命協力する。
いっしょにこの国を素晴らしい国 にしよう』なんていうような奴だぞ?
俺なんかとはいる次元そのものが違う」
「ならば私がその望み、叶えて差し上げましょう」
「何?」
眉を潜めてジョゼフは男を見る。
男は大仰な仕草でこちらに手を差し出した。
「あなたが私の指示に寸分違わず従ってくれるというのであれば、
おキレイで優しくて、誰からも愛される。
そんなあなたの弟が壊れ、歪み、堕ちてゆく。
そんな最高の悪夢歌劇(ナイトメアオペラ)を
プロデュースして差し上げましょう!」
「お前は・・・・一体」
「まぁ、私のことはこう呼んで下さい」
地獄の傀儡師と
それからのジョゼフは人が変わったかのようだった。
まず、これまでの卑屈で暗い表情がなりを潜め、笑顔で家族に接するようになった。
そして、シャルルに自分が王になったらこんな政策がしたい、こんなプランがある。などといった具体的な理想を語るようになったのだ。
それはガリアにとってとても優しい、とても美しい時間だった。
ジョゼフが正式に王に指名された事が発表された数ヵ月後、変死体となって発見されるまでは。
明らかに風魔法で殺されたと分かる体中の切り傷。
犯人は風のメイジと思われた。
だが犯人は発見されなかった。
候補者が多すぎて。
風石の名産地であるガリアには優秀な風魔法の使い手は大勢いた。
シャルルを初めとする王家の人間を含めて。
魔法を使えないジョゼフを殺すのは簡単過ぎた。
故に優秀かそうでないかは問題ではなかった。
シャルルを王にしたい人間は大勢いた。
ジョゼフが王になることに納得がいかない人間も大勢いた。
しかし、ジョゼフがいなくなってしまった以上、シャルルが王になるしかなかった。
そうなるしか『なかった』のだ。
シャルルが王となった。
ガリア国民は諸手を挙げて歓迎した。
シャルルは次々と画期的な国策や外交手段を打ち出してガリアを更に強大な国家へと発展させていった。
全てはうまく回っているようにみえた。
そう、見えた。
しかし、数年後、シャルルの娘シャルロットがトリステインに留学となった、その年。
「きゃあああああああーー!」
「か、カステルモール団長・・・・!」
王の側近、騎士が次々と暗殺される事件が起こった。
殺された者はいずれも王に対して忠誠心厚く、シャルルを積極的に王にと推した人物達ばかり。
それは奇妙な事に。
全ての事件にはジョゼフが殺された時と全く同じ状況で殺されていたのだ。
もちろん、誰も警戒していないわけではなかった。
あるものは屈強な傭兵を優秀なメイジを何人も雇い入れて自分の護衛に当たらせた。
その誰一人にも気づかれることなく、『いつの間にか』殺されていた。
あるものは『アンロック』の使用できないマジックアイテムの鍵を寝室の部屋に幾重にも掛けて休んだ。
それが抉じ開けられた形跡が全く無いままベッドの上で息絶えていた。
そしていずれもその傍らには血文字で「どこにいるのですかどこにいるのですかどこにいるのですか」と延々と書き綴られていたのだ。
ガリアは震え上がった。
これはジョゼフの呪いだと。
自分を殺した犯人を捜して回っているのだと。
馬鹿なと一笑に伏せる者は極めて少なかった。
皆が多かれ少なかれ、ジョゼフを疎んでいたのだから。
次に殺されるのは自分かといや自分かと震えていた。
「兄さんの呪い?馬鹿だね皆は。あんなに優しい兄さんが人を呪える訳無いのに」
この国の王となり誰からも慕われ「善良且つ清廉な人物」と誰もが疑っていないその男は、そっと手に持った日記帳に愛おしげに頬を摺り寄せる。
そこには兄の全てが書かれていた。
魔法が使えず、常に周囲からの声無き嘲笑に晒されていて苦しかったこと。
生きる事自体が苦痛で仕方が無かったこと。
自ら命を断てればどれほど楽だろうと何度も発作的に自殺を図りそうになったこと。
弟に・・・・自分に嫉妬し、憎くて仕方が無かったこと。
そこには自分が知らなかった、いや、見ようともしていなかった兄がいた。
「兄さん・・・・・」
シャルルは嬉しかった。
嬉しかったのだ。
兄が笑うようになってくれて。
王にと望まれたことで自信がついたのだろうか。
ジョゼフは自分に対して様々な国策や今後のガリアをどうして行きたいかと言った展望を顔を輝かせて教えてくれたのだ。
『俺は魔法が使えない。そんな俺だからこそ国を根底から支えている平民の気持ちが分かると思うんだ。俺はいつか、魔法に頼らずに国が発展していけるような体制を作っていきたい』
日記にもそう書かれていた。
しかし、兄が次の王だということが発表された日付から様子が変わり始める。
そこにはジョゼフが身の危険を感じ始めたことが書かれていた。
自分が王になれないことを予感する文章が書かれていた。
『俺はいてもいなくても同じだ。シャルルに俺の考えている政策を話しておいたから、シャルルなら・・・きっとあいつならうまくやってくれるだろう。シャルルが話した政策なら誰も反対などしないだろう。シャルル、後は頼む・・・・俺はもう、疲れ』
そこで日記は途切れていた。
兄の予言は当たっていた。
今の自分は兄の考えた政策を使って賢王と呼ばれている。
兄ならばどうするだろうかと考えて国を治めている。
自分は、自分こそが、兄の劣化コピー。
「陛下」
突然背後に現れた影に驚きもせず、シャルルは少し視線を動かしただけだった。
この男はいつでも神出鬼没だ。
だが、この男こそが自分に兄の苦しみを教えてくれ、そしてそれを晴らす為の手段を与えてくれたのだ。
「ありがとう、ヨウイチ。君の策謀がなければここまでうまくはいかなかったよ。兄さん亡き後もよくこの国に残ってくれたね」
「いいえ、私はジョゼフ様の使い魔でありますれば。その弟君の役に立とうとするのは当然のことかと」
「ふふ、そうだね。もう下がっていいよ」
「は」
そして現れた時と同じように音もなく消えていくその男。
唇を歪めてシャルルは兄の日記帳を撫でた。
自分が『殺した』連中の『信じられない』という顔が蘇る。
『陛下・・・・・!?何故、何故ですか!?』
『私は・・・陛下の陛下の為だけに・・・・!』
ああ、鬱陶しい。
そうやって兄さんを傷つけたのか。
あの人を追い詰めていったのか。
『私の為に』
そう思うのならば死ね。
死んでくれ。
『陛下・・・!一体何故!このような恐ろしい事を!あなたはそのような事をなさる方ではない筈です!これではまるで・・・ジョゼフのようではないですか!』
その通り。
私は兄のコピー
誰からも愛された王子はもういない。
兄の無残な死体を見たとき一緒に死んでしまったから
優しい、博愛の心はもうない。
兄の日記を読んだ時、涙と共に流れ落ちていってしまったから。
「兄さん・・・・待ってて。全部、ぜぇんぶ、壊してあげるから」
許さない。
絶対に許さない。
兄を殺した人間を。
兄を追い詰めたこの国を。
兄が疎まれる原因となった魔法を。
その魔法を作った始祖ブリミルを。
始祖ブリミルを崇め奉るこの世界を。
そしてこの自分自身を。
劣化コピーの自分がいなければ兄は殺されなかった。
自分がいなければ兄しか王位を継げる人間はいないのだから。
自分の存在が・・・兄を殺した。
「待っててね。兄さん・・・・」
そこにはかつての高潔で善良な人格者などいなかった。
そこにいたのは、暗く、濁った瞳を持って。
兄の影を追い求める一人の男だった。
全てを壊そうとする破壊者だった。
金田一少年の事件簿より地獄の傀儡師 高遠 遙一を召喚。
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