「蒼い使い魔-14」(2008/08/09 (土) 06:51:59) の最新版変更点
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#navi(蒼い使い魔)
「まさかミス・ロングビルが『土くれ』のフーケだったとはのぅ…美人だったもので
何の疑いもせず採用してしまった」
フーケを捕え、学院に戻ったルイズ達はオスマンに事の顛末を報告していた。
オスマンが言うには居酒屋でたまたま働いていたフーケを採用したらしい。
隣にいたコルベールはあきれ返っている。
「「「死んだ方がいい…」」」
三人は口をそろえて呟く、バージルはいつも通り壁に寄りかかっているが…
そんな下らない理由で命を落としかけたのだ、三人が刺すような視線がオスマンを見つめる
そんな三人の視線に気がついたのかオスマンが本題に入るため真剣な表情へと変える。
「さてと、君達はかの有名なフーケを捕まえた。『破壊の杖』も無事戻って来た、
これからは我々が責任を持って今まで以上に厳重に管理しよう、バージル君の話によると
かなり危険な兵器のようじゃからな。」
バージル以外の三人は誇らしげに一礼をする
「君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておこう。追って沙汰があるじゃろう。
ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請をしておく」
ルイズとキュルケの顔がぱっと輝く、
「本当ですか!?」
キュルケが少し興奮気味に聞き返す
「もちろんじゃ、君らもフーケ討伐に加わったのじゃからのう。然るべき報酬を受けるのは当然じゃ」
その話を聞くとルイズはバージルを見る、相変わらずつまらなそうに壁に寄りかかり目を瞑っている。
「オールド・オスマン、私の使い魔、バージルには何もないのですか?」
バージルからオスマンへと視線を戻すとルイズはバージルについて尋ねる
「残念ながら、彼は貴族ではないからのぅ、爵位は授けられんのじゃ…」
「そんなくだらんものに興味はない、奴は賞金首なのだろう?俺は金でいい」
「そ、そうか、では報酬が届き次第追って連絡しよう」
それからルイズはバージルがそういうならと渋々と承諾した。
「そうじゃ、今日はフリッグの舞踏会じゃ。破壊の杖も元に戻ったことで、予定どおり執り行うぞ」
オスマンはポンッと手を叩き言うと、キュルケが嬉しそうに話す。
「そうでしたわ!はやく準備しなきゃ!」
「ほっほ、今日の主役は、見事フーケを討伐してみせたお主らじゃ、せいぜい着飾るのじゃぞ」
そう言うと、三人はそれぞれの自室へ戻ろうとする、
だがバージルはその場を動かなかった、
「ちょっとバージル、さっさと行くわよ」
「先に行け、俺はそこの爺に用がある」
そう言うとバージルは静かにオスマンを睨みつける、
「わかったわ、くれぐれも失礼のないようにね!あと舞踏会には必ず来るのよ!」
そう言うとルイズは学院長室から自室へと戻って行った。
ルイズ達が退室すると、学院長室にはオスマンとバージルの二人が残された
「さて、バージル君、君の要件はなにかね?と言っても大体はわかるがの…」
「フン…聞きたいことがある」
壁に寄りかかりながらバージルは続ける
「あの『破壊の杖』、どこで手に入れた?」
「ふむ、もっともな質問じゃの、君の話では君の世界の武器という話じゃったな、あれはのぅ…確か…」
そういうとオスマンは破壊の杖を手に入れた時の話を始めた、
それは約30年前、オスマンが森でワイバーンに襲われた時の事。
その時現れた恩人はもう一本の破壊の杖でワイバーンを吹き飛ばし、元からの怪我のせいで倒れた。
結局恩人は看護の甲斐無く死んだが、オスマンは 使われた杖を彼の墓に埋め、残りの1本を恩人の形見として宝物庫にしまい込んだという。
「ワイバーンが一撃で粉々になる程の威力じゃ。悪用されるのを防ぐ為に、というのも仕舞った理由じゃ。」
「次の質問だ」
そう言うとバージルは自分の左手のグローブを外し、手の甲をオスマンに向けて見せる。
「このルーンは何だ」
「うぅむ…ミスタ・コルベールの言う通り…やはりそれは『ガンダールヴ』のルーンじゃ…」
「『ガンダールヴ』だと?」
「ほっほっ、伝説じゃよ。あらゆる武器を使いこなし、その力は一人で一国の軍隊に匹敵する、
伝説の使い魔、それが『ガンダールヴ』という話じゃ、もっとも、わしも実物を見るのは初めてじゃがの」
「フン、それを確かめるためにあのガキとの決闘を見ていた、そういう事か」
「やはり君にはかなわんな、しっかり気がついていたとは、しかも攻撃してくるとは思わなかったがのぅ」
「この際だから一つ教えてやる、このルーン、俺に対し一度もそれらしい力を貸していない」
「なんじゃと?」
「あるとすれば、あの小娘へ対する忠誠心の刷り込み、いや、『洗脳』といったところか…」
そう忌々しくバージルは吐き捨てる。
「『洗脳』とは…いささか口が過ぎやせんか?」
その言葉はバージルの逆鱗を削ったのか、即座に閻魔刀を抜刀しオスマンの喉元へ突き付ける
「黙れ…!心を無理矢理こじ開けられ従わされる、その屈辱が貴様にはわかるまい!」
その眼に宿るは静かな、だが激しい怒り、あの盗賊との戦いもそうだ、
気がつけばあの小娘を救い、あまつさえ心を開きかけていた。
「すまなかった…君の気持も知らんで、わしが軽率じゃった…この通りじゃ、じゃからその刀を納めてくれ…」
オスマンが謝罪すると、バージルは静かに閻魔刀を納めた。
「(何と言うプライドの高い…ここらへんはヴァリエールといい勝負じゃな…)」
「と、とにかく、君のそのルーンは特別なものじゃ、必ずこの先、君に力を貸すじゃろう」
「フン…どうだかな」
そういうとつまらなそうにバージルは視線を外す。
「そう言えば、君の世界、というと君は別の世界から来た、ということかね?」
「…そうだ」
そう言うと、オスマンに自分の世界のことをぽつぽつと語り出したバージル、もちろん自分が半人半魔であることは伏せたが。
「にわかには信じられんの…別の世界とは…しかし、30年前のこともある…信じるしかないじゃろう…」
「フン、信じるも信じないも、貴様次第だ」
そういうとバージルは踵を返しドアの前まで進み、立ち止まる。
「もう一つ聞きたい、ここには図書館があるな?そこは俺も使えるのか?」
「なんじゃ、そういうことか、あそこは本来貴族しか使えんのじゃが、君が使いたいのならば自由にするがよい、手配しておこう」
「…」
その答えを聞くとバージルはドアノブに手をかける、そこにオスマンが声をかける
「バージル君、これはわしからの頼みじゃ、これからもどうかミス・ヴァリエールの使い魔として彼女を支えて欲しい、
もちろん君の生活と身分の保障はする、じゃからどうにか、頼めんか?」
「断る、と言ったら?」
「…その時には君を止めることはできん…残念じゃが諦めるしかなかろうて…」
「フン…考えておいてやる…」
そう言うとバージルは学院長室を出て行った。
その姿を見送りオスマンはソファに深く身を沈め、深くため息をつく
「あれほど会話していて疲れる相手は初めてじゃ…、ヴァリエールはよくあの重い空気に耐えられるのぉ…」
そう言うと先ほどの雰囲気を思い出したのか軽く身震いをする。
特に彼の逆鱗を削ってしまった時の事を、
「(おっそろしい刀があったもんじゃのぉ…それにあの男の魔力…ネジがはずれとんのか?まるでデタラメじゃ…)」
オスマンは密かにディテクト・マジックを行いバージルの魔力を計測した、
その結果彼の恐ろしい魔力を見て内心冷や汗をかいていた。
「まるで魔人じゃの…」
そうつぶやくとオスマンは大きくため息をつき、自身の使い魔であるネズミのモートソグニルを呼びよせ頭を撫でる
「モートソグニルよ…お主は心からわしを慕ってくれておるのか…?」
オスマンのその呟きを肯定するようにモートソグニルは気持ちよさそうに目を瞑った。
フリッグの舞踏会
ダンスホールでは優雅な音楽と共に華やかな舞踏会が行われていた
生徒や教師達が、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。
キュルケやタバサ、他の生徒や教師達も着飾り出席しているため、いつもとは違った雰囲気を纏っている
キュルケは女王蜂のようにホールに君臨し群がる男共相手と談笑し、
タバサは大量の料理と格闘している。ルイズはまだ到着していないらしい、姿を見ることはなかった。
学院長室から戻って来たバージルは中に入り食事をするわけでもなくデルフを立て掛けバルコニーに立ち
半ば趣味と化している二つの月を眺めていた。
すると近くに今まで食事をとっていたタバサが近寄ってくる、手に持った皿にはサラダが盛られていた。
「何だ…?」
「これ」
そう言って持っていた皿を差し出す、どうやらバージルに持って来てくれたらしい。
「フン…」
せっかくなのでタバサが持って来たサラダに手をつけようとしたその時、門に控えた呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」
ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、 ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。
肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さを美しく演出し、 胸元の開いたドレスが造りの小さい顔を宝石のように輝かせている。
主役が全員揃った事を確認した楽士達が、小さく、流れるように音楽を奏で始め、貴族たちは男女対になり、優雅に踊り始めた。
ルイズの周りにはその姿と美貌に驚いた男達が群がり、盛んにダンスを申し込んでいる。
それを全員断り、バージルの元に歩み寄ってくる。
「楽しんでるみたいね」
「…」
「フーケとの戦いの時…」
バージルを見ながら静かにルイズは話し出す
「ゴーレムから守ってくれて…そして初めて私の名前を呼んだわよね…」
「…」
「その…ちょっとうれしかった…」
そう顔を赤くしながら上目使いにバージルを見る。
「フン…覚えがないな…」
そっけなくバージルは言うとタバサの持って来たサラダに手をつける
「あっ、そのサラダ…」
「おい相棒!やめろ!」
ルイズとデルフが警告の声を上げるも間に合わずバージルはそれを口に運ぶ。
はしばみ草のサラダ、それを口にした瞬間、バージルの顔が険しくなる。
体中にダンテのリアルインパクトを食らったような衝撃が走る、デビルトリガーを引く寸前だ、
「ぐ……ぅっ……」
短くうめき声をあげる、苦い、とにかく苦い、枯れたはずの涙まで出そうだ、
「ちょっとバージル!大丈夫!?」
突如悶絶しはじめたバージルにルイズは急いでワインの入ったグラスを差し出す
「ぐっ…!」
バージルはそれを手に取るとぐいっと一気に飲み干した。
だが、その時、彼ははしばみ草の悪魔も泣き出す不味さに自身の事をすっかり忘れていた、バージルは酒に滅法弱いのだ、
ただでさえ不味いはしばみ草のサラダを食べ、苦手な酒まで飲んでしまった場合どうなるかはいわずもがな。
「がぁっ…!」
そう呻くとバタンとバージルは倒れ伏し、そのまま意識を手放してしまった。
「ちょっと!バージル!どうしたのよ!」
「意外な弱点」
そう騒ぐルイズをよそに、タバサはバージルの食べたはしばみ草のサラダを平気な顔をして口に運んでいた。
「おでれーた!流石の相棒も酒とはしばみ草には弱いか!」
愉快そうにカチカチと笑うデルフ。
「一緒に踊ろうと思ってたのに!どうしてこうなっちゃうのよーーー!!!!」
医務室に担ぎ込まれるバージルを見て、狙いが外れたルイズの叫びはいつまでもホールに響いていた。
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