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#navi(スナイピング ゼロ)
浮遊大陸アルビオン、その岬の突端。ニューカッスル城の最も高い所に位置する皇太子の部屋で、ルイズ達はウェールズと
向かい合っていた。ウェールズから手紙を受け取るルイズを、ワルド達は黙って見つめている。
「目的の手紙、確かに返却したよ。大使殿」
「ありがとうございます、殿下」
「明日の朝、イーグル号と捕獲したマリー・ガラント号に女性や子供を乗せて出港する。それに乗って、国に帰りなさい」
手紙を懐に入れるが、ルイズはウェールズから目を放さない。しばらく見つめていたが、決心をして問いかけた。
「殿下、無礼を承知で聞かせて下さい。殿下は、トリステインに亡命する気は御座いませんか?」
ワルドが驚きの表情を浮かべ、ルイズの肩に手を置いた。あっさりと、ウェールズは答える。
「申し訳ないが、その要望には答えられない。我が軍は三百の兵士で、五万の敵軍と戦わなくてはならない。その総司令官が
逃げ出すなど、考えられないからね。万が一にも我が軍が勝ち、私だけが生き残ってもだ」
「殿下は、勇敢な死に様を・・・貴族派の者達に見せ付ける気なのですね」
床を見つめながら、ルイズは小さく呟く。目の淵に、小さな涙が光っている。リップがポケットからハンカチを出し、
ルイズに渡した。涙を拭うルイズに、ウェールズは100万$の笑みを見せた。そして机に置かれた時計に目を向け、時刻を
確認する。
「そろそろパーティーの時間だ、君達も出席しなさい。なんと言ったって、我が王国が迎える最後の客人だからね」
ルイズが使い魔を連れて、廊下に出た。ワルドは残り、ウェールズに願った。
「恐れながら、陛下にお願いしたい事がございます。よろしいでしょうか?」
「なんだね子爵、願い事とは?」
「明日、私はルイズと結婚を行いたいのです。ですので殿下には、その式に立会いを願いたいのですが」
ウェールズは満面の笑みで、ワルドに了承の意思を示す。
「それは喜ばしい事ではないか、この私に任せておきたまえ」
ウェールズは椅子から立ち上がり、ワルドを連れて部屋を出た。廊下で待っていたルイズ達に、軽くウィンクする。
「会場まで案内するよ、着いて来てくれ」
そう言って、ウェールズは先頭をきって廊下を歩き始めた。ワルド達が、後に続く。後ろを歩いていたセラスが、リップに
こっそり話しかける。
「リップさん、私達もパーティーに参加した方が良いんですかね?」
「参加したくないなら、先に部屋で待ってていいわよ・・・昨日の続き、してあげるから♪」
◇
「あぁ疲れた~」
「随分とお疲れのようね」
割り当てられた使い魔用の部屋で、セラスはベットに仰向けになっていた。リップは自分のベットに座り、ワインをグラスに
注いでいる。それは真っ赤な色をした、血のように赤いワインだ。一気に飲み干し、唇に付いたワインをペロリと舐め取る。
「当然ですよ、明日には死ぬかもしれないのに・・・皆あんな楽しそうに騒いでるんですから」
セラスが思い出すのは、ホールで行われたパーティー。明日には滅びる運命である貴族や臣下が集まった、華やかな
パーティーだった。参加した者達は園遊会のように着飾り、テーブルに様々な料理が並べられていた。
「確かに、とても楽しいパーティーだったわね♪」
リップが思い出すのは、パーティーでの騒ぎ。ジェームズ一世が王座に座ってブルブル震えながら『ぶっちゃけあれだ、
私だけでいいから皆は逃げなさいよ』と言って部下から『何時も通り座ってて下さい、仕事の邪魔ですから』と言われたり、
ルイズ達に料理や酒を勧めようとした貴族がセラスの胸に仰天して『アルビオン万歳! バストレボリューション万歳!』と
大声を上げたり、変な化粧を施したウェールズがギターを振り回して『レコン・キスタをSATSUGAIせよ!』と
喚き散らしてホールがデスメタルライブ化したりと、ハチャメチャな状態だった。
「なんで皆、名誉や誇りのために死ぬんですかね?」
「なんで? そんなの、答えは決まってるわ」
足を組み替えながら、リップは振り向いた。顔が赤くなっており、足元には殻のワインが何本も転がっている。
「理由はただ一つ、王家の義務だから。王家に課せられた、最後の義務だからよ」
納得出来ないのか、セラスは不満気な顔だ。それを見たリップは、クスクスと笑いだす。
「警官の貴女には分からないでしょうね・・・軍人の私には、分かるけど」
そう言ってワインの残りを飲もうとして、リップのワインを持つ手が止まった。セラスの顔を、じ~っと見ている。
そして何かを思いついたのか、ニヤッと顔を歪めた。セラスは危機を感じ取り、上半身を起こす。
「な、なんですか一体? そ、その妖しい笑みは?」
リップはワインの残りを口に含むと、ベットを立ち上がった。そして、ゆっくりとセラスに近付いて行く。
「え、な何なんですか!? ちょ、それ以上近付かないで下sむぐぅ!?」
セラスをベットに押し倒し、唇に喰らいついた。頭を掴み上げて気道を広げ、無理矢理に口を開かせ、ワインを流し込む。
唾液とワインが混じり合った液体が、二人の唇から垂れ落ちる。床に落ちた液体はHELLSINGの文字には変化しない。
全てを飲み干し、唇が離れる。二人の間には、赤い糸が薄っすらと輝いていた。
「始まったようだな、僕のルイズ」
「始まったようですね、ワルド様」
使い魔の部屋の隣では、ワルドとルイズが揃って壁に耳を当てていた。ワルドなどワインを飲むために使っていた
グラスを使っての念の入れようだ。グラスを使ったからと言って、良く聞こえるとは限らないのだが・・・。
「女の使い魔同士が恋仲になるなど初耳だよ、僕のルイズ」
「褒められてるのか褒められてないのか分かりませんわ、ワルド様」
手で鼻を抑えながらも、ルイズは耳に全神経を集中させる。その横でワルドが懐から、茶色い板らしき物を取り出した。
それを四角形に広げ、床に置く。不可解な物に、ルイズは両目をパチクリさせた。
「ワルド様、それは何ですか?」
帽子とマントをベットに置き、迷彩柄のバンダナを額に巻く。先折り煙草を咥えて、ワルドは振り向いた。
「これはダンボール箱と言ってね、入ると人気付かれずに廊下や部屋を移動する事が出来るんだ」
「そんな凄い物があったんですか・・・それで、それに入って何処へ行くんですか?」
「勿論、隣を覗きに行くため・・・どうしたんだい僕のルイズ、杖を僕に向けて何を・・・ウボァー!」
大佐『ワルド? どうしたワルド!? 応答しろ! ワルドー!!』 WALD IS DEAD
・・・■ 『CONTINUE』 EXIT
「やるじゃないか僕のルイズ、良いセンスだ」
「仮にも婚約者であろう者を犯罪者にする訳にはいきませんわ、ソリッド・ワルド様」
口元に付いた血を拭い、ワルドはニヤリと微笑む。隣から物音がしなくなったのを確認すると、ルイズはベットに入る。
「ワルド様、どうやら隣は終わったようです。私達も眠りませんか?」
「そうだね、そろそろ眠ろうか・・・明日が楽しみだ」
「何かおっしゃいましたか、ワルド様?」
「いや別に、なんでも無いよ。お休み、ルイズ」
台に置かれたランプの火を消し、二人は眠りについた。ルイズの寝顔を見て、ワルドは恐ろしげな笑みを浮かべた。
◇
翌朝、セラスとリップは鍾乳洞の中にいた。ニューカッスルから疎開する人達がイーグル号とマリー・ガラント号に
乗り込む所を警備するよう、ルイズに命令されたからだ。その際、ワルドと結婚式を行う事も伝えられた。
「何でこんな時に結婚なんですかね、ウェールズさんも攻防戦で忙しいのに・・・」
「面白かったわね、アタフタするルイズの姿♪」
セラスの質問を無視するように、リップは口元に手を当ててクスクスと笑う。
ワルドから結婚の旨を伝えられたルイズは、慌てまくっていた。『急に結婚なんて言われても困るわ、影武者でも立てて
逃げようかしら!』などと騒いでいたくらいだ。だが結局はワルドとウェールズに引っ張られる格好で断れなかった、
今頃は礼拝堂で結婚式が行われていることだろう。二隻の船が鍾乳洞を出航したのを見届けると、デルフが口を開く。
「避難民の警護が済んだら次は城門の監視だったわな、そろそろ行こうか相棒」
「そうですね、じゃあ行きましょうかリップさん」
「敵の攻撃は正午ごろ、か。何事も無ければ良いんだけど・・・」
左手の人差し指でアホ毛をピンと弾きながら、リップはセラスの後ろを歩いて行った。
◇
ウェールズは七色の羽が付いた帽子と明るい紫色のマントを身に着け、ワルドとルイズが現れるのを待っていた。
周りには誰もいない、戦闘の準備で出払っているからだ。始祖ブリミルの像を見上げていた時、扉が開き二人が姿を現す。
ルイズは新婦の冠を被り、下を向いている。ワルドは何時もの魔法衛士隊の服装で、威風堂々と仁王立ちしていた。
準備が整ったのを確認し、ウェールズが二人の真ん中に立った。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、
そして妻とすることを誓いますか?」
「誓います!」
重々しく頷き、ワルドは力強く宣言する。ウェールズは満足げに頷くと、新婦に顔を向ける。
「新婦、ラ・ヴァリエール三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・・・・」
ゆっくりと、ウェールズが誓いの詔を読み上げる。ルイズは呆然としたような様子で突っ立ち、まるで無反応だ。
そんな新婦の様子を、ワルドは肯定の意思表示と受け取っていた。
そのため、ウェールズとワルドは気付いていなかった。新婦が下を向いて、顔を伏せていること。腰を屈めて、
姿勢を低くしていることに・・・。
◇
「城門の監視だけなら簡単だわな、でもアレを目の前にすると緊張しちまうわなぁ・・・」
セラスとリップが見ている物を見て、デルフは呟く。二人の視線の先、城門の上に設置された警備所からは、アルビオン
空軍本国艦隊旗艦レキシントン号がハッキリと見える。ドーンドーン!と轟音を響かせ、ニューカッスルの城に砲弾を放つ。
命中した箇所で火災が発生し、水メイジが集まって消火活動を行っている。
「砲撃で城壁に穴を開け侵入箇所を増やし、火災を発生させて水メイジの疲労を増大させる。典型的な嫌がらせね」
マスケット銃で肩を叩きながら、リップは何でも無さそうに言った。日光を遮る傘を差し、空を見上げている。
セラスはフードを眼深に被り、巨大戦艦を見つめた。無数の大砲が舷側から突き出ており、艦上にはメイジを乗せた
ドラゴンが離発着を繰り返している。
「敵の攻撃は正午か・・・リップさん、正午まで後どのくらいですか?」
ベルトに引っかけた時計を確認し、リップは答える。
「あと1時間30分、その時が待ち遠しいわ」
「それまでに娘っ子には結婚を終わらせてもらって、急いでアルビオンから撤退だな」
そう?気な声でデルフが言う影で、リップは懐から本を取り出し読み始めた。それを見たセラスは赤面し、慌てだす。
「リップさん、その本ってまさか!?」
「静かにしなさいセラス、周りが見てるから」
城門を警戒しているメイジや兵士が、二人を見ている。ゴホンと咳をして、セラスは小さい声で尋ねた。
「それってラ・ロシェールの宿で読んでた本ですよね、なんでこんな時に読むんですか?」
リップは異常な程に嬉しそうな笑みを見せた。背中に氷の棒を差し込まれたかのような感覚に、セラスは後ずさる。
本を開いた状態で口元を隠し、リップは小さく笑った。
「別に、ただ暇だから。あとは貴女との関係を、もっと深めたいな~と思ったからよ♪」
この時、セラスは思った。自分の操が危機に瀕していると!
その時、背後の扉が勢いよく開いた。二人が振り向くと、そこにはルイズの姿が有った。
「二人とも礼拝堂に行くわよ、急ぎなさい!」
◇
「新婦、どうかしたのかね?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔をして、ルイズを見る。ルイズは俯いたまま、首を左右に振った。
「ワルド、私は・・・貴方とは結婚できません」
突然の急展開に、ワルドはスタープラチナの如く全身を硬直させた。ウェールズは首を傾げながら、ルイズに尋ねる。
「新婦は、この結婚を望まぬのか? 本当に良いのかね・・・後になってドッキリだったなんてオチでは困るんだが」
「いいえ、これは真の言葉です。私は、この結婚を望みません」
ワルドの顔色が、みるみる真赤になっていく。それに気付かず、ウェールズは空気が読めない発言をしてしまった。
「子爵、申し訳ないが式は中止だ。花嫁が望まぬ式を、これ以上続ける事は出来ないのでね・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい殿下・・・なあルイズ、ただ緊張してるだけなんだろ? 何も急ぐ事は無い、気分でも
悪いのなら日を改めるよ!」
必死に説得を試しみようとするが、ルイズは下を向いたままワルドを見ようとはしない。
「何故だルイズ、なぜ僕と結婚してくれないんだ!?」
「私は、貴方を愛していない。そしてまた、貴方は私を愛していない・・・それが理由よ」
その言葉にワルドはショックを受けたのか、片膝を屈した。ワルドの肩に、ウェールズが手をかける。
「子爵、君はフラれたのだ。ここは潔く、諦めたまえ・・・」
そう言うと、ワルドは立ち上がった。天を仰ぎ、溜息をつく。
「分かったよルイズ、君との結婚は諦める。殿下、この旅は貴重な時間を取らせてしまって申し訳ありません」
ウェールズの方を向いて、恭しく頭を下げた。苦い顔をしながらも、ウェールズは慰めの言葉を探し出す。
「花嫁の都合が有るのだ、仕方がないよ」
「はい・・・ですので、目的の一つは諦める事にします」
「目的? それはどう言うことだね子爵?」
「それはですね、殿下・・・こう言う事ですよ!」
一瞬で杖を引き抜き、一瞬で詠唱を完成させる。レイピアを青白く光らせ、まるでフェンシングのように
ウェールズの心臓を貫いた。
「貴様・・・レコン・キスタ・・・・・・」
その言葉を最後に、ウェールズは倒れた。傷口からは、多量の出血をおこしている。
「貴方、レコン・キスタだったのね・・・どうしてトリステインの貴族である貴方が?」
「なに、月日な数奇な運命の巡り合わせだよ。では君にも死んでもらうよ、ルイズ」
楽しそうに、ワルドは杖を構えた。ルイズは、ゆっくりと顔を上げる。その瞬間、ワルドは構えを止めた。
「君は・・・ルイズじゃ無い!」
一瞬で目を吊り上げ、表情を強張らせる。後ろに飛び去り、ルイズだと思っていた相手から距離をとる。
「その顔、それに背の高さ・・・君は誰だ、いつルイズとすり替わった!」
花嫁は冠を掴み取り、天高く放り投げた。長い桃色の髪が揺れ、美しい声が礼拝堂に響き渡る。
「私の名はシェリル・ノーム、マクロス・ギャラクシー船団出身のTOPアイドルよ!」
◇
「どうしたんですかマスター、礼拝堂で結婚式してたんじゃなかったんですか!?」
ルイズの後を追いながら、セラスとリップは礼拝堂へと伸びる廊下を走っていた。セラスの問いに、ルイズは前を
向いたまま答える。
「私が朝に言ってたでしょ、『結婚なんて困る、影武者でも立てて逃げようかしら』って。だから銀河の妖精に影武者を
頼んで、礼拝堂を隅で覗いてたのよ。そしたらワルドが殿下を殺しちゃうし、レコン・キスタだって分かったし・・・
だから貴女達を呼んだって訳!」
「それと影武者の救助もね」
リップの付け足しの言葉に、ルイズは振り返らず走り続ける。そして礼拝堂に辿り着こうとした時、爆発音が響いた。
セラスが窓から外を見ると、礼拝堂の壁に穴が開いているのが見えた。その後、その穴から戦闘機が飛び去って行く。
「マスター、あれってもしかして影武者さんのですか?」
同じ窓から外を覗いたルイズは、空を仰ぎ見る。別の窓からは、リップも空を見上げた。
「あれはVF-25だわ。シェリルは逃げたみたいね、急いで突入するわよ!」
ルイズ達が礼拝堂に踏み込んだ時、ワルドはグリフォンに乗って逃げ出そうとしている所だった。左腕の肘から先を
無くし、右手で傷口を抑えている。床にはウェールズが仰向けに倒れ、胸を赤く染めていた。
「ワルドさん・・・奴らに、奴らに一体何を!?」
セラスが叫び、リップはマスケット銃を構える。ワルドはグリフォンに跨ったまま、ルイズ達を見下ろす。
「奴らに何を・・・だと? 捕えられ仲間にさせられ 洗脳させられて哀れにも婚約者に杖を向けられさせて
いるのですよ・・・とでも答えれば、満足かね? ミス・セラス」
残忍な笑みを浮かべながら、ワルドはルイズを睨みつける。眼光で殺すかのような勢いに、ルイズは後ずさった。
「私は皇帝に命を受けここに立っている、私は私として立っている。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドとして、
ここに立っている!」
杖の先が、じょじょに青白く光きだす。危険を感じたルイズは、右手を上げる。
「私は皇帝の命を以って、この場所で殿下を抹殺したのだよ・・・ルイズ」
「セラス、リップ、撃ちなさい!」ルイズが右手を振り下ろす
「だが遅い!」杖をルイズ達に向けた
二人が引き金を引く前に、ワルドは杖を振った。ルイズ達の足元の床が爆発し、煙に撒かれ視界が奪われる。
その隙にワルドは右手で手綱を握り、翼を広げたグリフォンで壁に開いた穴から逃げ出した。
「さらばだルイズ、それに使い魔君。近い内に、また会えることを願っているよ!」
そう捨て台詞を残し、ワルドは姿を消した。煙が晴れた礼拝堂には、三人の息遣いだけが残る。
「逃げられたわね、と言う事は帰還するしか無いけど・・・どうする?」
さっきまで敵と睨み合っていたとは思えない口調で、リップが言った。ルイズは腕を組んで、セラスに視線を向ける。
「セラス、貴女たしか左腕を翼に変化させられるのよね。私とリップを背負って、滑空とか出来る?」
「人を乗せて飛んだ事が無いんで、分らないですけど・・・たぶん墜落しますね」
「吸血鬼の相棒でも、何でも出来るって訳じゃないんだな」
そうデルフが呟いた時、ルイズのすぐ横の床が盛り上がった。ビビった三人は、思わず後ずさる。
「な、なに!? まさか、また敵?」
ルイズがビビる中、セラスは床に耳を当てる。そこからは『モグモグ・・・モグモグ』と、生物の鳴き声が聞こえてくる。
「この声って・・・もしかして」
その瞬間に床が割れ、UMAが姿を現した。その生物は尻餅をついたルイズを見つけると、右手に鼻を近付け嬉しそうに
モグモグと声をあげる。
「このモグラって・・・確かギーシュって人の使いm『こらヴェルダンテ、お前はどこまで穴を掘る気・・・ってアレ?』
「何だ君達、こんな所にいたのかい」
「ギーシュじゃないの! なんでアンタがここにいるの!?」
ルイズの怒鳴り声にギーシュが返答しようとして、横からキュルケが顔を出した。
「タバサのシルフィードよ!」
「キュルケ、アンタまでいたの!?」
「そりゃ一緒にいるわよ・・・それで理由だけど、フーケとの戦いを終えた後に急いでアルビオンに飛んで来たのよ。
それで貴女達をどうやって探そうか考えてる時に、ヴェルダンテが穴を掘りだしたの。それで後を追って、
感動の再会って訳」
「ヴェルダンテは宝石を探す事に関しては一人前だからね、しかも姫様が持っていた一級品ときた。君達と再び
出会えたのも、僕の可愛い使い魔のお陰なのさ。所でヴェルダンテ、どばどばミミズは沢山食べておいたかい?」
モグラに頬擦りするギーシュの姿を、ルイズ達とキュルケは苦笑いしながら見ていた。まさか巨大モグラによって
合流出来るとは思っていなかったのだから、無理も無い。
「相棒、敵がすぐそこまで来てるぜ。早く逃げた方が良いじゃないか?」
「に、逃げるって? なんで?」
「相棒の相棒さんよ、いま何時だい?」
デルフの言葉に、リップは時計を見る。長針と短針は、すでに12を超えていた。
「正午を超えてるわね、確かに逃げた方が良いわ」
「じゃあ撤収するわよ二人とも、落し物や忘れ物は無い?」
リップに抱きか上げられた状態で、ルイズは二人に確認する。二人は装備を確認し、同時に頷く。
そして穴に入ろうとした時、セラスは足を止めた。振り返り、ウェールズの元へ近付く。
「何してるのセラス、早く逃げるわよ!」
「ちょっと待って下さい、すぐ戻ります!」
傍に座り、状態を見る。胸は上下しておらず、瞳孔は開ききっている。死亡を判断すると、亡骸を抱きかかえた。
その場を移動し、始祖ブリミルの像の下に置く。近くの窓からカーテンを外し、上から被せた。
外からは戦艦が砲撃したり壁が崩れたり音、魔法を飛ばしたり泣き叫んだりする声などが、混ざり合って聞こえてくる。
城が制圧されるのは、もう目の前にまで迫っている。
「王子様、私達は城を離れます。貴方のことは、決して忘れません」
両手を合わせ、深く一礼する。そして薬指に嵌めた風のルビーを抜き取り、ポケットに入れた。
「待っていて下さい・・・必ず、敵は取りますから」
そう言って、セラスはルイズ達の元へ戻った。そして穴に飛び込んだ瞬間、貴族派のメイジや傭兵達が扉を打ち破った。
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