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使い魔はじめました―第14話―
「……盗む以外で手に入れた品をあんたに流すこと?
それが、あたしを逃がす条件?」
サララが告げた条件を聞いて、他の面々はきょとんとしていた。
「さ、サララ! こいつは盗賊なのよ! そんな約束守るわけないじゃない!
泥棒はうそつきだって昔っから言うわ!」
「……うそつきは泥棒の始まりとはいうけど、その発想はなかったよ」
ルイズの言葉にチョコは思わずツッコミを入れた。
サララはただ、彼女なら信じられる気がする、と笑顔を崩さなかった。
その笑顔をフーケは睨んでいたが、やがて観念したように息を吐く。
「分かった分かったよ。その条件も飲むし、あんたらに攻撃もしない。
それでいいんだろ? 全く、そんな顔で見られちゃあ、
嘘もつけないし、悪いこともできないじゃあないか」
そう言いだしたフーケを見て、ルイズは驚いた。
ひょっとして、根は悪い奴じゃないのかしら? と思った。
「で、でも、学院長にはどう説明するつもりなのかしら?」
それに関しても考えがあります、とキュルケの問いに笑って答える。
「……そういやあ、一つ聞きたいんだがねえ」
フーケが、ちらりとサララの抱えた袋を見ながら尋ねた。
「『魔王の宝珠』が手元にあったのに、どうしてあたしを捕まえるのに
使わなかったんだい? 祈るだけで使えるんだろ?」
サララはそう聞かれて苦笑いを返す。
この珠は、そんなに質の高くない、ただの宝石ですよ、と告げた途端、
チョコとサララを除く全員の顔が凍りついた。
「え、ど、どういうことだい? だって……」
混乱するフーケに対して、サララは説明する。
自分の家には、古い日記が何冊も受け継がれている。
その中には確かに、あらゆる願いを叶える『魔王の宝珠』、
サララの故郷で呼ぶところの『魔珠』の存在が記されている。
瀕死の怪我人を救ったり、恋愛を成就させたりと凄まじい力を持っていたらしい。
また、ある時は暗黒の力を持ったドラゴンの卵だったこともある。
しかし、ウワサだけで存在しなかったことも、
商店会の会長がにぎやかしのためだけに置いたものだったこともあった。
サララの故郷では、どれも全部一つにくくって『魔珠』と呼ぶのだ。
これはおそらく、そのにぎやかし用のイミテーションだろう、と。
「あ、あはは……何だい、そりゃあ……」
「そ、そんなもののために、私達は死にかけたの……?」
フーケとルイズが心底脱力した。
「学院長はこれがただの宝石だってことを知ってるのかしら?」
キュルケの問いかけに、サララも一緒になって首を傾げた。
まあ、それは学院に帰ってから聞けばいいだろう。
ロングビルの格好に戻ったフーケと共に、サララ達は学院長の下へ向かった。
学院長室で、オスマン氏は五人の報告を聞いた。
「ふむ……。フーケには逃げられてしまったか……。
いやいや、しかし『魔王の宝珠』が戻っただけありがたいわい」
誇らしげに、ロングビル以外の四人が礼をした。
ロングビルだけは居所が悪そうだ。
「君たちには、シュヴァリエの爵位申請を宮廷に出しておこうかの。
ミス・タバサはもうシュヴァリエじゃから、精霊勲章の授与を申請するかの」
「ほんとうですか! ありがとうございますオールド・オスマン!」
キュルケが喜びのあまりオスマン氏に抱きつく。
柔らかい感触を感じて、鼻の下が伸びる彼をルイズがひややかな目で見る。
「あー、こほん」
その視線に気づいたオスマン氏は真面目くさった顔をする。
ちょっとよろしいでしょうか、とサララは学院長に問いかける。
『魔王の宝珠』の正体について、オスマン氏はご存知でしょうか、と。
オスマンはきょとん、とした後、からからと笑い出した。
「あれはただの綺麗なだけの宝石じゃろ? どれだけ調べても
魔法の痕跡など見つかりはせんかったわい!」
笑う彼に、今度はサララ達がぽかーんとするばかりだ。
「あの、ではどうして、宝物庫に? 宝物庫にしまっておかなければ、
フーケに盗まれることもなかったのでは?」
ロングビルは微笑みながら尋ねるが、その額には若干血管が浮いている。
うむ、とオスマン氏は説明し始める。
「20年くらい前にの、時の王女様が旅の商人から買ったんじゃ。
で、ワシのところへ調べてくれ、と持ち込んできてな。
ワシも調べたんじゃが、結局はただの石じゃった。
だが、王女様があまりにもワクワクして結果を待っておったものじゃから、
まさかただの石です、というわけにもいかなくてのう……」
彼は遠い目をして、ため息をこぼした。
「それで、『この石は恐ろしい力を持っておるので、学院で預かる』
と言ってごまかしたのじゃよ……。あ、だから他言無用じゃぞ?」
茶目っけたっぷりに、彼はウインクをした。
「時の王女というと……マリアンヌ様、ですか」
現在は大后となった人物の名をあげて、ルイズは脱力した顔をする。
「うむ……、その通りじゃ」
オスマン氏の言葉にルイズは頭が痛くなった。
あァ、そういえばアンリエッタ殿下と幼少のみぎりに、
遊び相手を勤めさせていただいた時、宝物庫に色んなものがあったな、と追憶する。
あらゆるものの動きを止めるとかいうみょうちきりんなからくりとか、
青い鉱石で作られた魂も切れるとかいうナイフとか、
宝物の地図が刻まれてるとかいう古ぼけたメガネとか。
ガラクタにしか見えなかったけど、あれは本当にガラクタだったのね……。
そんなことを思い出しながら、ルイズは遠い目をした。
「あーそうじゃ、褒賞じゃがな。ミス・ロングビルとミス・サララには
ワシから特別ボーナスを出しちゃおうかの」
その言葉に、二人が小さくガッツポーズしたのをタバサは見た。
ツッコミを入れるのも面倒でスルーした。
「さて、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ! みな楽しんでくれ! 解散!」
三人は礼をするとドアに向かった。
ルイズはちらっとサララとチョコを見つめた。そして、立ち止まった。
「ちょっと話があるから、先に行ってていいよー」
チョコの言葉にうなずくサララを見て、心配にはなったが頷き、部屋を出た。
サララはオスマン氏に向き直った。
「何か、聞きたいことがおありのようじゃな?」
サララは頷き、自分の事情について説明した。
自分が異世界から来たこと、魔王の宝珠が元々自分の世界のものであること、
それから、額のルーンに不思議な力があるらしいこと。
それら全てを聞いて、オスマン氏は頷いた。
ミス・ロングビルを部屋から出すタイミングを計り損ねたのは
失敗だったかのう、と口の中で呟いた。
「元の世界に帰る方法や、どうしてそれがこちらにあるのかは分からぬ。
だが、そのルーンについては知っておるよ」
彼女になら話しても問題あるまい、と思い口を開いた。
「ミョズニトニルンの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」
「伝説ゥ? サララが? うっそだー!」
チョコにそう言われて、若干腹を立てるサララ。
軽くそのわき腹を靴の横で蹴る。
「その伝説の使い魔は、あらゆる『魔道具』を使いこなしたそうじゃ。
おぬしの使う道具の力が増大されたのも、そのおかげじゃろう」
なるほど、とサララは納得がいった。
でもどうして、私が伝説の使い魔に? と首を傾げた。
「それについては何も分からぬ。まあ、こちらも出来る限り
おぬしの居た世界については調べてみるつもりじゃよ。
ああ、帰れんかったとしても恨まんでくれな」
オスマンはニヤリと笑いながら言葉を続けた。
「なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。婿さんだって探してやるぞい」
「それはセクハラです」
ロングビルが盛大にオスマン氏の頭を叩いた。
サララは乾いた笑いをこぼしながら視線をそらし、部屋を出た。
ただいま戻りましたー、とサララがルイズの部屋に戻る。
「おかえり。待ってたわよ」
すると、そこにはルイズ以外の三人の人物が居た。
キュルケとタバサとシエスタである。
舞踏会に出席するためであろう、ルイズとキュルケとタバサは着飾っている。
「あなたも、今回の主役だものねえ」
綺麗なドレスに身を包んだキュルケがサララににじり寄る。
嫌な予感がして、サララは後ずさった。
「このドレス、昨日買っていただいたんでしょう?
きっと、よぉくお似合いになりますよぉ?」
その隣で、シエスタがひらひらのついたドレスを構えている。
買い物に行った際、キュルケに見立ててもらったものだ。
あまり着飾ることをしないサララには、少々気恥ずかしい。
背を向けてとっさに逃げようとしたが、つんのめった。
ルイズに足をひっかけられたのだ。
「あ、あなたが主役なんだからね! 逃げようなんて許さないわよ!」
サララがこけた拍子に、袋から転がり出たデルフリンガーが最終宣告をした。
「諦めな、相棒」
それは、放置されたうっぷんを晴らすかのような声音だった。
きっと、彼に顔があったら満面の笑みをこぼしているに違いない。
黒いパーティドレスを着たタバサが、どこか楽しげにため息をついた。
ホールの壮麗な扉が音を立てて開いた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・
ヴァリエール嬢とその使い魔、ミス・サララのおな~~~り~~~」
着飾ったルイズとその使い魔であるサララを見て、
舞踏会に来ていた生徒達がざわめいた。
主役が全員揃ったことを確認した楽師達が音楽を奏で始めた。
ルイズの姿と美貌に驚いた男達が群がり、盛んにダンスを申し込み始める。
だが、彼女は彼らの誘いを丁寧に断りながらバルコニーへ向かう。
「サララったら、こういう場面は苦手なのね?」
サララの弱点を見つけ、してやったり、というようにルイズが笑った。
普段つけている帽子を外し、ルイズのより少し色の濃い桃色の髪は
ルイズのものと揃いのバレッタでまとめあげている。
クセっ毛なので大変でした、とはシエスタの談だ。
もっとも、目元だけは本人が凄い勢いで拒否したので隠したままである。
普段のワンピースと同じ若草色を基調としたドレスは
素朴な感じの彼女にとても良く似合っている。
顔を赤くしているサララの足元で、チョコがくすくすと笑った。
「サララったら、いつもの服装で王城に入れるくせに、
こうやってオシャレをするのは苦手なんだねー」
「けっ。おめーさんだって風呂に入れられて、
ぎゃあぎゃあにゃあにゃあ騒いでたじゃねえか!」
カタカタとデルフリンガーが鍔を振るわせた。
その言葉にチョコはムッとした顔をする。
『使い魔の使い魔が汚れてたらパーティーに相応しくないじゃない!』
そう言われてチョコは洗われた。茶色の毛並みはつやつやと輝いており、
首元には美しい宝石をあてがった新しい首輪がつけられている。
ちなみに、デルフリンガーの声が若干苛立ち混じりなのは、
本人(本剣?)もリボンで飾られてるからだ。
鞘からはほんの少しだけ出されて話している状況である。
ああもう騒がしいし恥ずかしいし、と顔を赤くしているサララ。
そんなサララをおかしげに見ながら、ルイズは彼女に手を差し出す。
「踊りましょ? 折角の舞踏会なんだから!」
戸惑うサララの手をとって、ホールへと出て行く。
踊り方なんて知らない、とわたわたするサララにルイズは微笑む。
「大丈夫よ、私に合わせて」
サララがぎこちないステップを踏むのを見ながら、
ルイズは、不意に小さな声で呟いた。
「ねえ、元の世界に、帰りたい?」
その問いにサララも小さな声で答える。
帰りたいですけど、我慢します。帰る方法の検討もつきませんし。
それに、今はルイズさんのパートナーですから。
そう言って、サララはルイズに笑いかけた。
「馬子にも衣装ってやつだね」
「お、なんでえ毛玉。珍しく意見があうじゃねえか」
「毛玉っていうな! このガラクタ!」
バルコニーでは一匹と一人が言い合いをしていた。
だが、どちらも本気で怒っているわけではなく、ふざけているだけだ。
「にしても、おでれーたぜ、相棒!
主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、始めて見た!」
サララとルイズを見つめながら、デルフリンガーが楽しげに叫んだ。
二人の魔法が使えない魔法使いのダンスを、
水晶玉のように美しく輝く二つの月が見つめていた。
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