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#navi(ゼロのロリカード)
学院から早馬を飛ばしてルイズとアーカードは王宮へときていた。
アンリエッタ姫殿下直々の出陣という報を聞いたので、ルイズはいてもたってもいられなかったのである。
既に戦の準備は始められており、王宮内もそれに呼応するかのように張り詰めていた。
いよいよもってアンリエッタ直々の出陣もありえないことではないとルイズは思う。ならばせめて傍に控え、 お支えするのが自分の務めと考えていた。
前回の強引に通行した一件からか、話は通してあったようで、名を名乗るとあっさりと門を通された。
戦の準備が進められてる中、ルイズとアーカードは中庭を歩いていると見知った顔を見つける。
アーカードは爽やかに笑いその人物に手を振った。
視界の端に少女を捉えたマンティコア隊隊長、ド・ゼッサールは苦い顔をする。マザリーニ枢機卿に説明されたものの、恥を掻いたことには変わりない。
少女二人を呆気なく通してしまったということ。その不甲斐無さにマンティコア隊全員、自身のプライドが許せなかった。
手を振っていたアーカードはすぐにルイズに引っ張られる。
「はいはい余計なことしないの、とっとと行くわよ」
「りょ~かい」
◇
「姫さま・・・」
「ルイズ、会えて嬉しいわ」
部屋に通されると、アンリエッタは今まさに出撃準備をしているようであった。国を守る為、士気を高めアルビオンに打ち勝つ為に。
「やはり・・・姫さま自らご出陣なさるのですね、なれば私をお傍に・・・」
「ルイズ・・・・・・ありがとう、あなたが傍にいてくれればそれだけで心強いわ」
アンリエッタはすんなりとルイズの申し出を受け入れた、内心はやはり不安なのだろう。
ルイズはもう一人いる金髪で青い瞳の剣士風の女性に目をやった、すぐにその視線にアンリエッタが気付く。
「そういえば紹介がまだでしたね、彼女は新たに設置した『銃士』隊の隊長アニエスです。私直属の護衛を務めてもらっています」
アンリエッタの言葉の後、アニエスという名の女剣士は一歩前へ進み出てお辞儀をする。
「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランです」
軍人気質の一つ一つに無駄がない動作でアニエスは自己紹介をする。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。よろしく、アニエス」
「はっ、よろしくお願いします。ラ・ヴァリエール殿のことは姫殿下から、かねがね聞き及んでおります。今後様々な形でお会いすることになるでしょう」
次にルイズに目で促されたアーカードが名乗る。
「主人ルイズの従僕、アーカードだ」
「アニエスです、アーカード殿。あなたのことも姫殿下から聞いております」
「・・・ほう、なんと?」
「ええ、なんでも恩人だと」
アーカードはアンリエッタの方を見る、アンリエッタはにこやかに笑った。その様子にアーカードもフッと笑みを浮かべる。
概ね紹介も終わり、アンリエッタは出撃の為の準備を再開し、ルイズ達はアニエスから現状を聞くことにした。
現在トリステイン一国のみでアルビオンという大国と戦わなくてはならない状況、さらには既に劣勢の立場にあるということ。
アルビオンは突如として宣戦布告同時攻撃を敢行、矢継ぎ早に軍を侵攻させてきた。
これに対抗する為に急遽出撃したトリステイン艦隊は、準備の足りなさと敵旗艦の長射程の砲撃に出鼻を挫かれ、大打撃を受けた上で一時撤退。
その長射程の大砲を持つロイヤル・ソヴリン級『レキシントン』号を旗艦とした、アルビオンの先遣艦隊は現在示威行動に入っている。
さらにアルビオンの本艦隊も既にラ・ロシェールに展開しつつあった。トリステインには艦隊を二手に分けてまともに戦えるほどの余剰戦力はない。
示威行動に移っている先遣艦隊は、王都すらその侵攻圏内に入っている。当然これを放置することはできない。
しかしアルビオン本艦隊を後回しにすれば、国土を蹂躙されるのは目に見えている。
既にゲルマニアに使者を送り援軍要請の旨を伝えたのだが、未だ軍備が整っていないとの話である。
結果ただでさえアルビオン艦隊と比較して戦力の少ないトリステイン艦隊を、二つに分けるのも止む無しいう結果に至る。
アンリエッタの出陣も苦渋の選択であった。アルビオン本艦隊相手に王女率いる大いに士気を上げたトリステイン艦隊でなんとか食い下がる。
先遣艦隊とぶつかる方は布陣を展開、とにかく余計な動きを取らせないよう時間を掛ける。
あとは正式にゲルマニアの援軍がくるまで保たせるのが目的である。
ゲルマニア艦隊との挟撃の形になればさしものアルビオン軍とて長期決戦を持するとは思えない、戦力も風石も支援にも限界があるだろう。
同盟を組む国とはいえゲルマニアには余計な負担をかけさせる以上、トリステインには相応の代償を求められるだろう。
だがそれでもアルビオンに降伏するよりはいい、現在のアルビオンはゲルマニア以上に不明瞭で何を求めてくるかわからない恐ろしい敵である。
突然の宣戦布告、そしてその直後に艦隊を侵攻させるというほぼ不意打ちとなんら変わらない暴挙に出た国である。決して負けるわけにはいかない。
「クックック、まるで幽霊船だな。そして・・・ははっ、なんとおあつらえ向きなんだ」
戦況を聞いたアーカードはクスクスと笑う、その意図するところは本人にしか分からなかった。
その様子にアンリエッタは怪訝な顔を浮かべる。ルイズは思った、またアーカードはなにかとんでもないことをしでかす気なんじゃないかと。
「どうしたの?なにがそんなに面白いわけ?」
ルイズは問い掛ける。アーカードがおあつらえ向きと言って笑ったのだ、何か意味があるのだろう。
「示威行動をしている艦隊、そちらは私がなんとかしよう」
当然その場にいる者達はアーカードの言葉に驚く、いきなり何を言い出すのかと。
「たった一人で?いくらアンタでも艦隊を相手にするのは不可能でしょ」
ルイズの言葉にアーカードは首を振って否定する。
「SR-71は飛ぶ、コルベールが燃料を作ったからな。強力な対空ミサイルでもない限り、成層圏ギリギリをマッハ3以上でフッ飛ぶ超音速高高度偵察機を落とすことなどできはしない」
アンリエッタは心底わけがわからずアーカードの言葉を聞いていた。
ルイズも半信半疑な状態であった、あの金属の塊が本当に飛行するなんて。そして飛ばしたところで何をどうなんとかするのか。あとミサイルってなんだろう?
「尤も距離を考えれば高高度超音速で飛ばす必要性はないし、空中給油できない上に余分な燃料もない。だが普通に飛行しても、大砲程度じゃ到底捉えることなどできんから支障はない」
「申し訳ありません、仰ってる意味がよく・・・」
アンリエッタが言う。アーカードはポリポリと頭を掻く、どうやって説明したらいいのだろうか。
一貴族の一使い魔の意見一つで、トリステイン軍の動きを決定させるなんて。相応の根拠を提示されない限り納得できるものではないだろう。
しかし説明のしようがない。SR-71を見せてる暇もないだろうし、飛行機一機で敵艦隊を倒すなんて言っても到底信じられる筈もない。
「アーカード殿、先程から何を言っているのだ」
アニエスは鋭い目でアーカードを見据える。
「なんだ?」
「わけのわからない言葉を並べ立て、姫殿下を無闇に惑わすのはやめていただきたい」
「よいのです、アニエス。彼女は何か思うところがあって我々の力になってくれると言っているのですから」
アンリエッタはアニエスを窘める。
「しかし・・・いえ、口が過ぎました。無礼をお許しください」
アニエスはすぐに冷静になる。アンリエッタの大切な友人とその使い魔であり、姫殿下自身が信頼を置いた相手である。
思わず感情的になってしまったが、アンリエッタに制された以上、それ以降自分が差し出がましく口に出すことではない。
アーカードはその様子を静観しつつ、思考を巡らせていた。
「ふむ・・・そうだな、やはり殿下は普通に出撃してくれて構わん。トリステイン艦隊を二つに分けるのもいいだろう。
考えてみれば燃料不良で飛ばない可能性もないとは言えん。私は私で勝手にやらせてもらおう、終わったら援軍に向かう。ルイズ、命令をくれ」
「よくわかんないけど、本当に大丈夫なの?」
「無論だ、ちなみに複座型だが主は乗せられん。やることは特攻によるオーソドックスな攻城戦、そして只只一方的な虐殺だ。もし飛ばなかったらすぐに主達に合流しよう」
アンリエッタ達には未だ理解不能の内容だったが、進軍内容に変更は無いようなのでよしとする。
アーカードにはアーカードの策があるようで、成功すればよくわからないけど、こちらに有利に働くということだけは把握した。
「・・・わかったわ、私は姫さまのお傍にいる。アーカード、あなたはあなたで我々に敵対する勢力を打ち倒しなさい」
「了解、我が主」
――――アーカードは既に学院に戻り、いよいよアンリエッタ指揮の下、トリステイン軍は出撃することとなった。
「・・・ルイズ、私は不安です。あなたがいてくれなければ、きっと重圧で押し潰れていたかもしれません」
ユニコーンに跨り、アンリエッタは隣で馬に乗っているルイズに心の内を明かす。
「ご安心ください、役に立たないかもしれませんが私は姫さまを精一杯お支えします。・・・・・・正直に言えば私も怖いです。でも、信じられるものがあります」
「アーカードさん、ね」
アンリエッタは微笑む。
「はい、アーカードと出会ってからまだ二ヶ月程度ですが・・・大丈夫だと思います。そりゃあ時々私に逆らうし、からかうし、遊ばれたりもしてますけど・・・」
ルイズは目を瞑る。
「それでも私が信じる、私の使い魔です。アーカードはいつだって有言実行をし、私を支えてくれました。だから私も負けられません」
「ふふっ、貴方達には助けられっぱなしです。・・・本当にありがとう」
アンリエッタは大きく一度だけ深呼吸をした。
「では、行きましょうルイズ」
「はいっ!」
アンリエッタは前を向く。国を民を守る王族として、親友とその使い魔に負けない為、強く生きるというウェールズとの約束の為。
ルイズは前を向く。姫殿下を守り支える為、いつだって自分を助けてくれる使い魔に笑われない為、己が歩み進む道程に後悔しない為。
◇
「コルベール、飛行の準備だ」
アーカードの突然の話にコルベールは戸惑う。
「え?は?今からですか?」
「そうだ」
アーカードはJP-7の入った樽を軽々と持ち上げる。
「燃料は私が運ぶ、コルベールはテントを撤去しといてくれ」
「あ・・・はい、わかりました」
コルベールは困惑したまま研究室を出てSR-71の元へと向かい、アーカードは樽を一旦外へとその全てを運び出す。
積み上げた樽を一気に持ち上げ、絶妙なバランスでSR-71が置いてあるところへと歩いていった。
「戦争に・・・行くのですか」
「んむ」
アーカードは簡潔に一言で肯定した、コルベールはなんともいえない顔になる。
「SR-71はあなたの物ですし、私にどうこう言う権利はありません。研究も大方終わりましたし、飛行するのも是非この目で見てみたい」
燃料を入れ終えたアーカードは計器類をチェックしている。
「ですが・・・戦争は、反対です」
アーカードが首を傾けながらコルベールを見る。
「私は好きだぞ」
薄く笑みを浮かべながら言う。コルベールはその言葉でさらに険しい顔になった。
「そんな顔をするな、私は吸血鬼だぞ。貴様よりも遥かに長く生き、幾つもの戦争をしてきた化物だ」
「そう・・・でしたね」
コルベールは煮え切らない態度を見せる。
そう、彼女は吸血鬼。それはSR-71を研究し始めてから数日経って聞いた話である。
アーカードの世界の話を聞いた時にカミングアウトされたこと。当然驚いたものの、異世界の話を考えればどうということはなかった。
「・・・なんだ、お前はこの私に戦争の無意味さでも説く気か?」
「いえ・・・そういうわけでは・・」
アーカードはまた計器類を見始める。特に問題も見当たらない、これなら飛べると確信する。
「ふっ、悩め悩め。若者らしくの」
もういい年であるコルベールは若者と言われ苦笑いを浮かべる、目の前の少女にとっては自分でもまだまだ若輩者ということか。
「あぁそれと、コレはもう戻ってこないからヨロシク」
「は?」
きょとんとしているコルベールにアーカードは続ける。
「コレは破壊槌だ。敵艦に打ち込むのでな、当然壊れる」
SR-71に使用される燃料のJP-7は発火点が低い為、トリエチルボランを始動とアフターバーナー点火に使用する。
特に問題もなくSR-71は始動され、そのエンジン音が響く。アーカードは満足げにうんうんと頷いた。
コルベールの情熱と錬金技術も大したものだと改めて感心する。
アーカードは窓越しにコルベールに手を振った、それに気付いたコルベールは会釈でかえす。
アフターバーナーに点火し、SR-71はどんどん加速度を上げ、遂には離陸した。
轟音と共に飛び立った黒い鳥、その姿に思わずコルベールは見惚れていた。
それが戦争に使われ、一度飛び立った以上もう二度と帰ってこないと言われたものであったが・・・・・・それを忘れさせるほどに荘厳で美しかった。
しかし次の瞬間、SR-71が光った。次の瞬間には炎のようなものが見える。
何事かと思ってコルベールは見つめていたが、しばらくするとまた元に戻った。
心なしか最初より深い黒に染まったような気がしたが、風竜よりも遥かに速いそれはすぐに見えなくなった。
◇
離陸して間もなく、加速度が高まってきたところでSR-71は炎上した。
やはり錬金で同じものを作るのは無理があったようで、燃料に引火したのである。
アーカードは嘆息をつく。元々錬金で作るという事自体に無理があったのだ、飛べただけでも及第点である。
「拘束制御術式、三号二号一号開放」
アーカードの影は瞬時にSR-71を包み込み、燃え上がる機体は黒に覆われすぐに炎は消えた。
「なにも、問題は、ない」
燃料に引火しただけ、クロムウェルでもどうしようもない重大な故障というわけではない。
――――なら問題はない、飛行するのに何も問題は無い。
アーカードは足を組み、膝に手を置いた。端正な顔立ちを大きく歪ませて笑う。
「・・・・・・心せよ、亡霊を装いて戯れなば、汝、亡霊となるべし」
◇
順調だ、何もかも順調だ。
先遣艦隊旗艦レキシントン号に乗ったワルドはゆっくりと空を仰いだ。
既にアルビオン本艦隊はタルブの草原でトリステイン軍と交戦が開始されたらしい。
アンリエッタ直々の陣頭指揮の下、トリステイン軍はなんとか戦えてるという状態でしかない。
戦力的に見てもアルビオンが勝つのは自明の理である。あとはこちらに差し向けられている僅かなトリステイン軍を蹴散らすだけ。
その後は王都まで一気に攻め込んでもよいだろう、この艦なら・・・やれないことはない。
その時だった、ワルドに悪寒が走る。
ただの第六感でしかない、なんの根拠もない。しかし・・・・・・何かがおかしいことだけは、俄かに震える体が理解していた。
「何だ・・・!?何だこれは・・・?」
この心の奥底からナニカが滲み出る感覚、これは・・・以前にも味わったことがある。思い出せ、いつのことだ。
――――――思い出す、そうだ。自分がトリステインを明確に裏切って、『レコン・キスタ』についたあの日。
そう、アルビオンで・・・ウェールズを殺した、あの時に感じたではないかッ!!
「あいつだ・・・あいつだ!!奴が来るッ!!」
ワルドは空を凝視する、何かが見える、空にポツンと確認できる黒い点。それはあっという間に大きくなっていく。
降下による加速度でSR-71はレキシントン号に衝突した。
それはもはや轟音というレベルではない。ワルドは吹き飛ばされ、強く船の端に叩き付けられる。
打ち付けられた所為で呼吸困難に陥る。必死に息を吸い、吐く。燃える異臭が鼻をついた。
レキシントン号は衝撃で大きく高度を落とし、傾くもギリギリのところで保っていた。
爆発し炎上したそれは、十字を描いていた。傾いた船は少しずつだがまた水平に戻っていく。
朦朧とする意識に活を入れてワルドはなんとか立ち上がった、一体何が起こったのか必死に状況を把握しようとする。
その時、燃え上がる十字架に人影を見る。ああ、そうだ・・・そうだった。あいつだ、奴だ、狂気の代弁者、混沌そのもの。
「裏切り者は、一度も許したことがないと言ったろう」
少女は笑う、ただ単純に、しかし明確に、敵意を向けて。
「・・・・・・アーカード」
ワルドは少女の名を呟く。そうだ、まだだった。奴との決着はまだだった。
だが、退くわけにはにはいかない。我が野心の為にも―――ここで引くわけには・・・いかないのだ。
「・・・決着を、つけよう」
知らず知らず笑みを浮かべその言葉を口にした自分にワルドは気付く、一体どのような感情が自分にそうさせているのかわからない。
あまりに突然にやってきた、その非現実的な光景の中で、ワルドとアーカードは睨み合った。
「さあ行くぞ、歌い踊れ、ワルド。豚の様な悲鳴をあげろ」
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