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#navi(蒼炎の使い魔)
夕方
広場
もうすでに野次馬はいない。
キュルケやタバサやあのメイドもだ。
倒れたギーシュもすでに連れて行かれている。
残ったのはカイトとルイズの2人だけ。
年頃の男と女の2人だけの空間といえば聞こえはいいが、
何も話さない使い魔と何を話したよいのか分からない主人だ。
しばらく沈黙が続いていたがルイズはやっと声を出した。
「何やってんのよ、この馬鹿犬!」
違う。
「勝ったからよかったものの、下手したらあんた死んでいたのよ!
何よ、あんな『余裕です』って態度は!」
違う。
「それにあんたなんでそんな力があるのに黙っていたのよ!?」
違う!違う!違う!言いたいのはこんな事じゃない!
「この馬鹿!」
主人として精一杯の虚勢を張るがそれも長くは続かなった。
「心配したんだから…!」
ルイズはすでに涙声だった。
初めてできた自分の使い魔が死んでしまうと思った。
最初は常識を知らない田舎者だと思ってがっかりした。
椅子を引けといったら遠くまで持っていくし、
常にそばにいろと言ったらトイレや浴室まで一緒に入ろうとした。
宙に浮いた時点で最初は貴族かと思ったが、服装を見るとそうは思えない。
しかし、彼女のわがままともいえる命令をカイトは嫌がることはなかったし、
教えたことは吸収していった。
彼女にとってこの学院ではじめてできた味方が傷つくのを恐怖していた。
「ひぐっ…えぐっ…」
すでにルイズはただの子供のように泣きじゃくっている。
ルイズは最近まで精神的に追い詰められていた。
食堂に行っても、授業でも、陰口を叩かれて本来皆が寝ている時間も勉強に費やして。
そんな生活のサイクルが毎日続いた。
いくら強くても人間なのだ。虚勢をはっても、いつかその壁は重みに耐えられず崩壊する
かつて、いじめを庇い自分が標的にされた少女がいた。
人間不信になり、自殺願望すら持っていた。
だが、彼女はネットワークの世界で救われ、普通の学生として復帰できた。
しかし、ルイズはどうだ?
追い詰められ、味方もいないこの世界で。
カイトには、世界で1番誇り高い貴族と自負した目の前の少女が、世界で1番弱い存在に見えていた。
レベルとかいう問題ではなくほかの何か。
それを今のカイトはまだ理解できなかったが。
「…ゴメン」
カイトは不安を与えてしまった主人に謝ることしかできなかった。
しばらくして気分が落ち着いたのだろう。
泣き止み、少し顔を赤くして
「へ、部屋に戻るわよ!」
そういってこの場に残された2人は部屋に戻っていった。
広場にはもう誰もいない。
だが、見ているものはいた。
「若いっていいのう…」
そのやり取りをまだ覗いていた学院長が呟いていた。
夜
ルイズの部屋
ルイズがベッドにうつ伏せになっている。
よっぽど泣いたのが恥ずかしかったのだろう。
そのベッドの横でカイトはやはりふわふわと浮いていた。
すでに30分もこの状態だ。
ルイズにとっても今日の変化のスピードについてこれないでいるのだろう。
何を言おうか迷っていた。
意を決してルイズが呼ぶ。
「カイト」
「ハアアアアアアアア」
やはり慣れないが贅沢は言ってられない。
「教えて、あの腕から出した光はなんなの?」
気になったのはギーシュを昏倒させた謎の閃光だ。
あの光は危険なモノだと心が警告していた。
あれはどの系統でもない。なんなのだろう。
しばらくするとカイトが答える。
「データドレイン」
「でーたどれいん?」
聞いたことのない単語にルイズは聞き返していたが、カイトはそれ以降何も言わなかった。
長い言葉は話すことができないようだ。
通訳がほしい。そう心の中で彼女は愚痴った。
「はあ、それじゃもうひとつ。ギーシュから聞こえた『声』と『黒い点』は一体なんなの?」
質問が2つになっているが彼女は恐らくあれは同一のものだということを理解していた。
何となくだが。
しかし、その答えは聞くことができなかった。
カイトが震えていたのだ。
怒りなのか、恐れなのかカイト自身ですら分かっていなかった。
ルイズは目の前の光景に何もいえない。
しばらく経つと震えは止まったがこれ以上聞き出すことは出来そうになかった。
「今日はもういいわ、あなたもゆっくり休みなさい」
そういって、ルイズは就寝に入った。
朝聞いた質問を思い出す。
『あんた、本当に『平民』?』
彼はこの質問に対して首を横に振ったのだ。
平民では無いと言う、しかし、貴族でもない。
本当に一体何者なのだろう。
考えても疲れるだけなので頭から振り払い、彼女は目を閉じる。
彼女は夢の中で『追跡者』という言葉を聞いた気がした。
一方、カイトは考えこんでいた。
なぜ、『The Wolrd』にいたアレがここにいる?
あれらはかつて自分達が追っていた1人のPCと共に消え去ったはずだ。
カイトは不安になっていた。今この世界にいるのは自分だけ。
『碑文』を持つものやその仲間達もここにはいない。
実際彼は無敵ではない。
3度、敗北もしている。1度目は碑文使いに。
2度目と3度目は同じ感染者に。
あれと同等の力が来たら、恐らく自分では対処できない。
カイトは目の前の少女を傷つけることだけは避けたかった。
いくら考えても仕方がないのでカイトはそのことを考えるのをやめたが。
ふと、ルイズの言葉を思い出す。
休みなさい、と。
そういえば以前彼の世界で1人のPCが部下に寝言(といえるのだろうか?)で
「逆行まぶしーんだよ、タコ」
といわれ凹んでいたのを見たことがある。
ハセヲ達も気の毒そうな顔で見ていた。
自分は寝ることが出来るのだろうか。
目の前の主人を見習って自分も目を閉じてみる。
そのうちに段々と意識が遠くなっていく。
そして次に目を覚ましたときは、
「とっとと起きなさい!この馬鹿犬!」
すっかり調子を取り戻した主人の姿だった。
「まったくおかしいわよ!立ったまま寝るなんて。」
彼女はすでに弱弱しい雰囲気をまとっていない。
これもカイトのおかげなのだろう。
その姿を見てカイトは口元が緩んだ。
ほんの数ミリの動きだったのでルイズは気づかなかったが。
「次からは横になって、私より早く起きなさいよ!」
それも使い魔の仕事なのだろう。彼は首を縦に振った。
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