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「紙袋の使い魔-10」(2008/07/01 (火) 13:12:19) の最新版変更点
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#navi(紙袋の使い魔)
馬車は、深い森へと入っていった。
昼間だというのに薄暗く、気味が悪い森だ。
少し進んだ所で道が急に狭くなっている。これ以上は馬車では進めそうに無いので
ルイズ達5人はそこからは歩いていく事になった。
一行は開けた場所に出た。例の廃屋らしい建物がある広場である。学院の中庭程の広さは
あるだろう。
一行は、その廃屋の死角へと隠れ、廃屋の様子を伺った。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中に入っていったようです」
ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。
人が住んでいる様子は見受けられない。
ルイズ達は、作戦を立てた。仮にあの中にいるとするなら、先手必勝であると
あちらは、自分たちの技量を上回る存在なのだ。対等にぶつかり合うよりも
奇襲をかける方が上策と言えよう。
タバサは地面に正座すると、地面に図を書いて自分の考えた作戦を披露する。
まず偵察兼囮が小屋の様子を探り、中にフーケがいればこれを挑発し、外へとおびき出す。
中にいてはゴーレムを作る土が使えない。外へ出てきた所を魔法の集中砲火で打ち倒す。
「分かりました。それでは皆さん、私が中へと行きますのでお願いしますねー」
「頼むわねファウスト」
「ええ。お任せ下さいルイズさん。いざとなったらすぐに逃げ出しますので!こう見えても後ろ歩きは速いんですよ!」
軽い口調で告げると、そのまま廃屋の方へと向かっていく。
そばまで近づき、中の様子を覗いた。部屋の中には、埃の積もった机と転がった椅子、部屋の隅には薪が置いてある。
その隣に木で出来たチェストがあった。この部屋には雰囲気が合わない大きい箱である。暫く様子をみたが、人の
気配は感じられないので、ファウストは、皆を呼んだ。
タバサが、扉にむけて杖を振る。
彼女の魔法では罠らしきモノは感知されなかった。
「ワナはない」
そう呟いて、小屋の中に入る。
ルイズも続いて小屋へと入る。すぐさまファウストは後に続いた。
キュルケは外で見張りをすると言って、後に残った。
ミス・ロングビルはあたりを偵察してきますと言って、森の中に消えた。
小屋の中でフーケの手がかりを探した。チェストの中を調べると・・・。
そこには「爆炎の鎌閃」が入っていたのだ。ルイズはそれを手に取ると、皆に見えるように掲げた。
「あっけないわね!でもこれってほんとにマジックアイテムなの?」
ファウストは爆炎の鎌閃を見つめルイズへと声をかけた。
「それが爆炎の鎌閃ですか?それは鎖鎌だと思いますよ」
「それってマジックアイテムじゃないの?」
「ええ・・・普通の武器ですね。私の知人が愛用しておりましたから」
2人の会話を聞いていたキュルケだったが、2人の話へと割り込む。
「でも確かに秘宝の筈よ。以前、宝物庫を見学したときにそれを見たわ」
その時、外の広場から異様な音が鳴り響いた。
急いで、小屋から外へ出た皆が見たものは・・・。
小屋へと向かってくる巨大なゴーレムであった。
「フーケ!?」
ルイズが叫んだ。ファウストは、「爆炎の鎌閃」を鞄へとしまうと、ルイズ達を守るように前へと出る。
タバサは、ゴーレムへと竜巻の呪文を唱えるが、その巨体の前では無力であった。
キュルケも負けじと自らの得意とする炎の呪文でゴーレムを火に包み込んだが、生命体ではないゴーレムは
それを意に介さずに向かってきた。
「どうしようもないじゃない!」
「一時撤退」
キュルケとタバサは、一目散へと逃げ出したが、ルイズは残ってゴーレムと対峙していた。
ルイズはゴーレムの前へ出ると、呪文の詠唱を行った。気合と共に杖をゴーレムへと振る。
彼女の魔法は爆発となりて、フーケのゴーレムの右足を吹き飛ばした。ゴーレムが倒れる。
「やったわ!これで・・」
勝利を確信したルイズだが、ゴーレムの右足はみるみる内に修復されていった。
「そんな・・・!」
「ルイズさん!!」
ファウストはルイズへと駆けより、逃げるよう促す。が・・・。
「嫌よ!!私はあんたのお陰で魔法が使えるようになってきたわ!そのあんたが見ていてくれているのに
おめおめと逃げ出したりなんかできるもんですか!」
「ですがルイズさん・・・」
「それに私は貴族よ・・・。敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!!」
ルイズの意志は固い、彼女の今の気持ちを変えるには時間が無さ過ぎる。
その間にもゴーレムは彼らへと近づいてくる。
「分かりましたルイズさん。では不肖、闇医師ファウスト。助太刀させていただきます!ルイズさんは魔法で援護を!」
その言葉にルイズは微笑みファウストの後方へとまわった。キュルケとタバサも後方援護に入る。
「では・・・いきますよ!出番です。ちびポチョムキンくん!
「相棒・・・俺は・・・」
「デルフちゃんは後です!」
「ひでぇ・・・」
ファウストが手を振りあげると、そこには筋肉隆々としたちびポチョムキンなるものが現れる。
一瞬、タバサは微笑んだ、が。
「・・・・・・かわいくない・・・」
お気に召さなかったようだ。
ちびポチョムキンはゴーレムの方へと歩み寄ると・・・。
「メガ・フィストぉ!!」
ゴーレムへと飛び掛る。ファウストはそこに追撃をかける。
「ごーいんぐ!まい!うぇい!」
どうやっているかは分からないが、顔以外を回転させ、ゴーレムへと突っ込む。
そのまま通り過ぎていく。ゴーレムの体は着実にダメージを受けているようだ。
「回復が早いのなら、それ以上の速度でダメージを与えればいいのですよ!皆さん、援護を!」
そういうが、ファウストとちびポチョムキンが邪魔で攻撃できない。
タバサだけはエア・ハンマーで2人?の居ないところへと攻撃を加えていた。
そこにちびファウストも援軍に入ると、戦いは荒れ模様と化していった。
ゴーレムはまとわり付くちびファウストとファウストを引き剥がそうとするが、ちびポチョムキンとタバサの魔法に
よる援護で上手くいかない。時間がたつにつれてゴーレムはその体積をみるみる内に削られていった。
「ハンマーフォール!!」
ちびポチョムキンの攻撃についにゴーレムの動きが止まる。
そのままちびポチョムキンはゴーレムを掴み持ち上げる。恐ろしい膂力だ。
「48の必殺技!ポチョムキィィィィィン・・・・・バスタァァァァァ!!」
空高くゴーレムを持ち上げ、落下する。あの強固なゴーレムはついに砕け散ったのだった。
ゴーレムの破片は辺りに降り注ぐと、土へと還る。後には小山のような土が残された。
ファウスト以外の3人は目の前の光景にぽかーんとしている。
「次、いってみよ~う!後は問題の人物を探すだけですね・・・」
フーケは自らのゴーレムが完膚なきまでに叩き潰されていくのを見届けていた。ファウストの発言を
耳にすると、急いでレビテーションをかけて逃げようとした・・・が。
「そこですね!!行きなさい!ちびファウスト君たち!」
森の方へと投擲すると、絹を引き裂くような悲鳴と共に、フードを被りこんだ人物を連れてでてくる。
「わ、私をどうするつもりだい!?このフーケ様に向かって・・・」
「おや・・・貴女、ミス・ロングビルではありませんか」
「!?どうしてフードを外す前から分かったんだい・・・?」
「いえね。心臓の音に聞き覚えがありましてね。一度近くで聞いた音なら覚えていますよ」
フードを外したフーケの正体に、ルイズ達は驚く。まさか自分たちとフーケ探索をしたミス・ロングビルが
フーケだったとは。
「盗んだはいいが使い方が分からなかったんで、あんたらに調べさせようとしたんだけどそれどころじゃ
無かったようだね。まさかアンタがこんな化けモンだとは・・・」
「化けモンは酷くありません?あ、ちなみにこれはマジックアイテムじゃないですよ。私の知人が使っていた
只の武器ですね」
「なんだって・・・?それじゃぁなんでそんなもんを秘宝とか呼んでたんだい?」
「それは、オスマンさんに聞いて見るしかないでしょうねぇ」
「そんなことも分かんなかったなんて、アタシも焼きが回ったようだねぇ。で、これからどうするつもりだい?」
ファウストの目の奥が光る。ルイズ達は、以前にもこのような目を見た記憶がある。
「・・・オシオキをします。然る後に学院で対応していただきましょう・・・」
「ファウスト!いくら犯罪者だからってアレは拙いわ!」
「ルイズさん。これはケジメでありお約束なのです。誰にもこれは変えることは出来ません」
2人の会話に全く付いていけないフーケ。そう、彼女はファウストとギーシュの決闘の結末を
知らないのだ。あの時、所詮は子供の絡んだ決闘と見るのをやめたのである。
言い知れない悪寒が彼女を襲う。しかしもう遅かった・・・。
「ではロングビルさん!みなさんお待ちかねのオ・シ・オ・キ!タ~イム!貴女はどんな声を聞かせて
くれますかねぇ~!」
ちびファウスト達に体を押さえつけられ、身動きが出来ない彼女の前に宝箱が四つ現れた。
「この中から当たりを引き当てたら貴女へのオシオキはナッシング!さぁそれではお考え下さい!」
訳が分からない・・・。だがこの展開の向こう側には恐ろしい予感がする。
どうやら、当たりを引き当てれば、自分への悲劇を避ける事が出来るようだ。
彼女は、盗賊人生の中でここまで本気で悩みぬいた事はないと言うほど、真剣に悩んだ。
そして選ぶ・・・。盗賊としての本能と、乙女の勘を信じて。
「一番左の宝箱に決めたわ・・・」
ファウストの顔がいやらしく微笑む。紙袋に隠されて見えないはずなのだが、その顔はみ○もんたの
ように微笑んでいた。
「ファイナルアンサー?」
「ファイ・・ナル・・・アンサー・・・」
永く沈黙をし・・・ファウストは声を上げた。
「・・・・・正解!!しぎゃぴぃー!!」
ファウストは爆発につつまれると、空高く、舞い上がった。皆さん!すまない!当たりを引かれたと叫ぶように。
自分の戒めは解かれ、目の前の珍妙な人物も空高く飛んでいった。勝った!第一部完!!
フーケは、今を好機と見た。残っているのは、自分のゴーレムの前では無力な生徒達。彼女は勝機を確信した。
ありったけの力でゴーレムを作り出す。最初に作った物よりは若干小さいが、強度は前よりあげてある。再生させる
余力すらない。これが本当の最後である。
「ファウストぉぉ!?」
ルイズは同じ女性であるフーケがオシオキされる様子に居た堪れない気分で見ていたが、オシオキは実行されず
ファウストが空へと吹き飛んでいく光景が目に飛び込んできた。
拘束から抜け出したフーケがゴーレムを作り出し、自分たちの目の前から逃亡しようとしている。
タバサ、キュルケはゴーレムへと魔法を放ったが、やはり効果は薄い。
このままでは逃げられてしまう。と2人は魔法を連射していた。
だが、ルイズは一人後ろで呪文を詠唱していた。ファウストと練習した時に初めて成功した時の感覚を
もう一度掴み直すように。ゆっくりと呪文を練り上げ、そして杖をゴーレムへと振り上げた。
「ガンフレイム!!!」
その名前に意味はない。だが、気合を込めてそう叫ぶ。自分のあの爆発呪文にふさわしい名前と直感で感じた。
凄まじい爆発音がすると、ゴーレムは跡形も無く吹き飛んでいた。
フーケは、一瞬目の前の事に頭が追いつかなかったが、事実を確認するとルイズ達の前にくると座り込んだ。
「もう、今日は種切れだよ。もう逃げようとはしないさ。煮るなり焼くなり好きにしな」
タバサとキュルケはルイズの起こした爆発を信じられないちいった様子でルイズを見ていた。
ルイズは、フーケを縄で縛っていると、上からファウストが落ちてくる。
「面目ないですルイズさん・・・。まさか当てられるとは・・・。しかし見ていましたよ。グッドでした!」
「褒めたってなんもでやしないわよ。あんたが飛んでった時はさすがに焦ったわ」
笑いながら談笑する二人にタバサ、キュルケが加わる。
「ルイズ。あんたいつの間にあんな魔法撃てる様になったの?火のトライアングル以上の威力じゃない」
「気になる。いったい何を」
ルイズとファウストは目で合図を送ると
「「秘密」」とだけ言った。
2人とも納得いかない様子であったが、ファウストが絡んでいるに違いないととりあえずは何も言わない事
にする。
「それじゃ。秘宝も奪還したし、フーケも捕まえた。学院に戻りましょうか」
ファウスト達は、ルイズの意見へと同意し帰途へとつく事になった。
「・・・テファ・・・ごめんね。お姉ちゃん・・・帰れそうにないよ・・」
そう、聞こえない程の声で呟くのを聞こえていたのはファウスト一人であった。
学院長室で、オールド・オスマンはルイズ達の報告を聞いていた。
「ふむ、ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな」
「一体、どこで採用されたんですか?」
隣に控えたコルベールが尋ねた。
「街の居酒屋でな・・・彼女は給仕をしておった。あまりに美しいモンでな。つい・・・ワシの手が勝手に
尻を・・・」
「・・・で?」
「それでも怒らないんでな。気付いた時には秘書にならんかと言っておったわい」
「・・・去勢したほうがいいようですね」
「何じゃと!?」
様子を伺っていたファウストが2人の会話に入った。
「よろしければ私がしましょうか?」
「ミスタ・ファウスト。出来るのですか?」
「はいコルベールさん。私は医者ですので」
「ほう。お医者様でいらっしゃったのですか・・。ならばお願いできますかな?」
「ええ・・・。一瞬で仕上げましょう。ミセス・オスマンの誕生デスね」
真っ青な顔をしたオスマンは声を張り上げた。
「止めてぇぇ!!まだ若い証拠なの!!いつまでも元気でいたいのじゃぁ!だから・・・だから・・・
それだけは止めてくれぇ・・・」
老人は泣いている。漢泣きである。
コルベールは、オールド・オスマンが反省したようなので軽く笑い告げた。
「冗談ですよ。間に受けないで下さい」
「なんじゃー。コルちゃんったら・・・。イ・ケ・ズ」
「次は無いですから」
「・・・・ハイ」
沈黙した後、生徒達の冷たい視線を感じたので、オスマンは話を変える事にした。
「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ「爆炎の鎌閃」を取り戻してくれた」
ルイズ達は、誇らしげに礼をした。
「フーケは城の衛士に引き渡した。「爆炎の鎌閃」は宝物庫でと収まった。一件落着じゃ」
オスマンは、生徒たちの頭を一人ずつ撫でた。
「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請と、ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っておるので
『精霊勲章』の授与を宮廷に申請しておいた」
ルイズとキュルケは、自分たちへの爵位申請にも驚いたが、タバサが既にシュヴァリエであった事には
さらに驚いた。
「タバサ。貴女ッたら凄いじゃないの!なんで言わなかったの?」
あまり嬉しそうな顔をしなかったが、タバサは軽く頷いた。
「別にいうまでもないと思ったから」
タバサの微妙な変化を感じ取ったキュルケは話をそこでお終いにした。
すぐにオールド・オスマンへと話を振った。
「オールド・オスマン。ありがとう御座います」
「うむ。当然じゃ。君たちはそれだけの事をしたのじゃから」
「オールド・オスマン。ファウストには何も無いのですか?
「すまんのう・・・。彼は使い魔じゃから・・・」
「いえ。お気になさらず。私は私の出来る事をしただけなのですからところでロングビルさんの
事なんですが・・・」
「盗賊は大抵極刑と決まっている。残念じゃがな」
「そうですか・・・」
オスマンは手を叩いた。
「今日はフリッグ舞踏会じゃ。秘宝も戻ってきたのでな。予定通り執り行う」
キュルケは顔をぱっと輝かせると、タバサを連れて足早に出て行った。
ルイズも席を後にしようとしたがファウストとオールド・オスマンが見詰め合っているので
黙って待つことにした。
ふと、オールド・オスマンが喋りだした。
「ファウスト君・・・と言ったかの?少し話をしたいのじゃが時間はあるかね?」
「ええ。私もそう思って居た所です。ルイズさん、よろしいですか?」
ルイズはどれに同意し、頷いた。
「それでは、ファウスト君。君から話をしてくれていいのじゃよ?君に爵位を授ける事は出来んが
出来るだけ力になろう。せめてものお礼じゃ」
「それでは・・・。あの「爆炎の鎌閃」何処で手に入れられました?」
「あれかね?あれを知っているのかね?」
「あれは元いた世界で私の知人が使っていた武器と同じようです」
オスマンはその目を光らせた。
「どういう事じゃ?」
「私は、この世界の人間ではありません。あの日、ルイズさんの召喚の魔法で異世界からこの世界へと
召喚されました」
「なんと・・・!それは本当なのかね?」
ファウストは、初めてルイズに自分の説明をしたときと同じ様にオールド・オスマンへと自分の力と医者で
ある事を説明した。
「そうじゃったか・・・」
「ハイ。分かっていただいたようですね。それで、その「爆炎の鎌閃」をどうやって手に入れたのですか?」
オスマンは、ため息をつくと昔を思い出すように語りだした。
「あれは30年前の事じゃ森を散策していたワシは、ワイバーンの群れに襲われた。こりゃたまらんと逃げ出したのじゃが
追いつかれてしもうての。命の危機を感じたその時じゃ・・・彼が現れたのは・・・。彼はその「爆炎の鎌閃」にて
凄まじい炎を操るとワイバーンの群れを瞬く間に蹴散らしていったのじゃ。それも殺さずにな。全てのワイバーンを
気絶させると彼は人懐っこい笑みでワシへと話しかけてきたのじゃ」
「そこのじっちゃん!大丈夫だった?こいつらってギアかい?」
「ギア・・・?何のことじゃ?」
「アレ?違うのかい?そりゃまた失礼しました~」
「危ないと所を助けてもらい何と言っていいやら・・・せめて名前を聞かせていただけぬか?」
「いいって~いいって~!気にしちゃダメだよ!あ、ちなみに俺はアクセルって名前ねー」
「アクセル君・・・。改めて礼を言わせて貰おう。ワシの名はオスマンという。君さえよければワシの
内で礼をしたい。酒でも振舞わせてもらえないか?」
「にょほほ~!いいの!?お酒大好き!」
「ワシは彼を家に招待し、酒と馳走をふるまったのじゃ。彼と完全に打ち解けてきたころ、それは起こった・・・」
「オスマンのじっちゃんはいい人だね!今日は最高だ・・・あれ・・・まさか・・・」
「どうしたのじゃね!?アクセル君!体が光っているぞ!」
「アレが来たみたいだねぇ。オスマンのじっちゃん!楽しかったよ!いつの日かまたあおうぜ!」
「ワシは、彼が光っていたのでそれを召喚の光じゃと思った。離すまいと、つい恩人の武器を掴んでおった」
「あぁ!じっちゃん!はなし・・・・」
「彼はそういってワシの前から消えたのじゃよ・・・」
オールド・オスマンの話を最後まで聞いたファウストは自分の思った通りであったので、オスマンへと
説明をした。
彼、アクセルが自分と同じ世界の住人だという事、彼が次元を超えてしまう体質の持ち主だという事
そして彼の武器が炎を生んだのではなく、彼自身が法力にて炎を操っていた事を。
「そうじゃったか。これはただの武器じゃったのか。だとすればそのような強い炎を生み出す「法力」とやら
凄いものじゃのう・・・」
そこで、オスマン達の目の前に光が現れた。中から男が一人出てくる。
「やぁ~っと見つけたよ!オスマンのじっちゃん!俺の鎖鎌返してもらいにきたよん!」
「ア、アクセル君!?」
「いやー。まさかあそこで武器をつかまれるとは思ってなかったんでねー!あれ?じっちゃん老けた?」
思わず涙ぐみアクセルへと抱きつくオスマン。そんな彼に苦笑いしていたアクセルだが、見知った顔が自分を
見ているのに気付いた。
「あっれー?ファウストの旦那じゃないの?どしたのこんなとこで?」
「アクセルさん。お久しぶりです」
そういうと、ファウストはアクセルへ自分の事情を話した。
「へー。なんか変な事になってるんだねぇー。ていうか別世界だったのねココ。ぜーんぜん気付かんかった!
ん・・・どうやら、時間が来た様だね。オスマンのじっちゃん。ファウストの旦那、それと・・・えーと。ルイズ
ちゃん?俺様は御暇するよ!元気でねー・・・・・」
そういうと、彼は光につつまれて消えていった。最初から最後まで騒がしい男だった。オスマンは満足そうな
顔をしてファウストへと話しかけた。
「ファウスト君。君のお陰で恩人に再会出来た気がするよ。ワシの知っている事を話そう。君の左手のルーン・・・・
それは伝説の使い魔、ガンダールブの物じゃ」
「伝説の使い魔ですか?」
「そうじゃ。そのルーンを持つものはありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。始祖ブリミルの伝承にはそう
残っておる」
ルイズは、椅子に座って話を聞いていたが、自分にも関係すると思われる話だったので、オスマンへと尋ねた。
「それでは、そのガンダールブを使い魔とする私は・・・」
「うむ。虚無の系統を継ぐ者・・・かもしれぬ」
「そう・・・ですか・・・」
「虚無の実態は伝承にも残されておらぬ。じゃが、ガンダールブが現れた以上、その可能性は高いじゃろう。虚無に関しては
ワシの方で調べてみるので待っていて欲しい」
ファウストの言っていた事が最も事実に近しい事だったらしい。まさか・・・自分が・・・。ルイズは、自分の系統の解明に
また一歩近づいたと嬉しい反面。ファウストの考えを知りたかった。
「ワシの知っている事はとりあえずそこまでじゃ。何か分かったらすぐに教えるのでな。それでは今日の事については改めて礼
を言わせて貰う。ありがとう。さて、疲れたじゃろう。今日のところは舞踏会に参加せずにゆっくりしたほうがいいじゃろう」
2人はオスマンへと一礼し、自室へと戻った。
2人きりになったルイズはファウストへと問いかけた。
「ファウスト・・・その・・・ガンダールブに関してなんだけど・・・」
「安心してくださいルイズさん。ガンダールブであろうがなんだろうが私には関係ありません。私はただの医者ですから
貴女を見捨てて自分の世界に帰りたいだなんて思って居ませんよ。ここにはまだ私を必要としている人たちがいるのです
から」
ファウストの答えに、自分はまだまだ彼を信じきれていないのだな、と思い恥ずかしくなって布団へと潜り込んだ。
ファウストも彼女の反応に微笑みながら、自室へと帰ろうとした。ドアを閉める際一言聞こえた。
「・・・ありがと。おやすみ」
「おやすみなさい」
ルイズが眠るのを確認したファウストは本日最後の仕事へと取り掛かることにした。
月明かりだけが唯一の光となった時間。フーケは鉄格子から外を眺めていた。
明日を迎えれば、その日にでも処刑されるかもしれない。自分を待っていてくれる
妹や、民衆達の笑顔を見るの事は無いと思うと、目頭が熱くなった。しかし
困っている人のためとはいえ、自分は確かに罪を犯した。その事実は変わらない。
フーケが自室の方へと目を向けたときそれは起こった。
「ちょいとお邪魔しますよ」
「あ、あんたは!?」
急に壁に扉が出来るとその男は出てきた。
「ロングビルさん。お元気そうでなによりです」
「何が元気なもんか!こちとら明日が最後かも知れないってのに!」
元はといえば自分はこいつのせいで捕まったのだ。そう思うと語気が荒くなる。
「ここから出してあげます」
「!?どういうこったい?自分たちで捕まえておいて・・・」
「いえ。貴女にも家族がいるでしょう?国に帰してあげます。貴女は確かに盗みを犯した。ですが、私たちを
傷付けようという意志は感じられなかった」
図星を付かれて黙り込んでいるとファウストはそのまま話を続けた。
「テファさん・・ですか?」
「どうしてそれを!?」
「あの時、貴女が呟くのが聞こえましたので・・待っている家族が居る。ならば貴女はここで命を散らしては
なりません。家族の為にも生きるのです。だから、盗賊家業から足を洗ってください」
「・・・分かったよ。あんたの話。聞いとくよ。」
「それじゃぁロングビルさん。行きたい場所を思い浮かべて下さい」
「それでどうかなるのかい?」
「貴女をそこに送り届けます」
「そんな事できるのかい?ま、今更何がおきたって驚かないさね。それじゃあお願いするよ」
何処○もどあーへと向かうフーケ。
「はい。ロングビルさん。お元気で」
「ロングビルじゃないよ」
「はい?」
そういうとファウストへと向きなおす。
「アタシの本当の名はマチルダって言うんだ。あんたは何て呼べばいいんだい?」
「私は・・・ファウスト。医者です」
「ファウスト・・・先生ね。ファウスト先生!恩にきるよ!それじゃあサヨナラだね!」
「テファさんにもヨロシクお伝え下さい」
分かったよ・・・と呟き彼女は扉の向こうへと消えていった。
その日一人の少女の涙を流させない事が出来たのだ。
ファウストの長い一日は終わりを告げた。
彼は自室へと音も無く帰ると、目を閉じたのであった。
だがしかし、その日、すすり泣くような声が響いたという。
「俺の・・出番・・・」
哀れ。デルフリンガーであった。
#navi(紙袋の使い魔)
#navi(紙袋の使い魔)
馬車は、深い森へと入っていった。
昼間だというのに薄暗く、気味が悪い森だ。
少し進んだ所で道が急に狭くなっている。これ以上は馬車では進めそうに無いので
ルイズ達5人はそこからは歩いていく事になった。
一行は開けた場所に出た。例の廃屋らしい建物がある広場である。学院の中庭程の広さは
あるだろう。
一行は、その廃屋の死角へと隠れ、廃屋の様子を伺った。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中に入っていったようです」
ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。
人が住んでいる様子は見受けられない。
ルイズ達は、作戦を立てた。仮にあの中にいるとするなら、先手必勝であると
あちらは、自分たちの技量を上回る存在なのだ。対等にぶつかり合うよりも
奇襲をかける方が上策と言えよう。
タバサは地面に正座すると、地面に図を書いて自分の考えた作戦を披露する。
まず偵察兼囮が小屋の様子を探り、中にフーケがいればこれを挑発し、外へとおびき出す。
中にいてはゴーレムを作る土が使えない。外へ出てきた所を魔法の集中砲火で打ち倒す。
「分かりました。それでは皆さん、私が中へと行きますのでお願いしますねー」
「頼むわねファウスト」
「ええ。お任せ下さいルイズさん。いざとなったらすぐに逃げ出しますので!こう見えても後ろ歩きは速いんですよ!」
軽い口調で告げると、そのまま廃屋の方へと向かっていく。
そばまで近づき、中の様子を覗いた。部屋の中には、埃の積もった机と転がった椅子、部屋の隅には薪が置いてある。
その隣に木で出来たチェストがあった。この部屋には雰囲気が合わない大きい箱である。暫く様子をみたが、人の
気配は感じられないので、ファウストは、皆を呼んだ。
タバサが、扉にむけて杖を振る。
彼女の魔法では罠らしきモノは感知されなかった。
「ワナはない」
そう呟いて、小屋の中に入る。
ルイズも続いて小屋へと入る。すぐさまファウストは後に続いた。
キュルケは外で見張りをすると言って、後に残った。
ミス・ロングビルはあたりを偵察してきますと言って、森の中に消えた。
小屋の中でフーケの手がかりを探した。チェストの中を調べると・・・。
そこには「爆炎の鎌閃」が入っていたのだ。ルイズはそれを手に取ると、皆に見えるように掲げた。
「あっけないわね!でもこれってほんとにマジックアイテムなの?」
ファウストは爆炎の鎌閃を見つめルイズへと声をかけた。
「それが爆炎の鎌閃ですか?それは鎖鎌だと思いますよ」
「それってマジックアイテムじゃないの?」
「ええ・・・普通の武器ですね。私の知人が愛用しておりましたから」
2人の会話を聞いていたキュルケだったが、2人の話へと割り込む。
「でも確かに秘宝の筈よ。以前、宝物庫を見学したときにそれを見たわ」
その時、外の広場から異様な音が鳴り響いた。
急いで、小屋から外へ出た皆が見たものは・・・。
小屋へと向かってくる巨大なゴーレムであった。
「フーケ!?」
ルイズが叫んだ。ファウストは、「爆炎の鎌閃」を鞄へとしまうと、ルイズ達を守るように前へと出る。
タバサは、ゴーレムへと竜巻の呪文を唱えるが、その巨体の前では無力であった。
キュルケも負けじと自らの得意とする炎の呪文でゴーレムを火に包み込んだが、生命体ではないゴーレムは
それを意に介さずに向かってきた。
「どうしようもないじゃない!」
「一時撤退」
キュルケとタバサは、一目散へと逃げ出したが、ルイズは残ってゴーレムと対峙していた。
ルイズはゴーレムの前へ出ると、呪文の詠唱を行った。気合と共に杖をゴーレムへと振る。
彼女の魔法は爆発となりて、フーケのゴーレムの右足を吹き飛ばした。ゴーレムが倒れる。
「やったわ!これで・・」
勝利を確信したルイズだが、ゴーレムの右足はみるみる内に修復されていった。
「そんな・・・!」
「ルイズさん!!」
ファウストはルイズへと駆けより、逃げるよう促す。が・・・。
「嫌よ!!私はあんたのお陰で魔法が使えるようになってきたわ!そのあんたが見ていてくれているのに
おめおめと逃げ出したりなんかできるもんですか!」
「ですがルイズさん・・・」
「それに私は貴族よ・・・。敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!!」
ルイズの意志は固い、彼女の今の気持ちを変えるには時間が無さ過ぎる。
その間にもゴーレムは彼らへと近づいてくる。
「分かりましたルイズさん。では不肖、闇医師ファウスト。助太刀させていただきます!ルイズさんは魔法で援護を!」
その言葉にルイズは微笑みファウストの後方へとまわった。キュルケとタバサも後方援護に入る。
「では・・・いきますよ!出番です。ちびポチョムキンくん!
「相棒・・・俺は・・・」
「デルフちゃんは後です!」
「ひでぇ・・・」
ファウストが手を振りあげると、そこには筋肉隆々としたちびポチョムキンなるものが現れる。
一瞬、タバサは微笑んだ、が。
「・・・・・・かわいくない・・・」
お気に召さなかったようだ。
ちびポチョムキンはゴーレムの方へと歩み寄ると・・・。
「メガ・フィストぉ!!」
ゴーレムへと飛び掛る。ファウストはそこに追撃をかける。
「ごーいんぐ!まい!うぇい!」
どうやっているかは分からないが、顔以外を回転させ、ゴーレムへと突っ込む。
そのまま通り過ぎていく。ゴーレムの体は着実にダメージを受けているようだ。
「回復が早いのなら、それ以上の速度でダメージを与えればいいのですよ!皆さん、援護を!」
そういうが、ファウストとちびポチョムキンが邪魔で攻撃できない。
タバサだけはエア・ハンマーで2人?の居ないところへと攻撃を加えていた。
そこにちびファウストも援軍に入ると、戦いは荒れ模様と化していった。
ゴーレムはまとわり付くちびファウストとファウストを引き剥がそうとするが、ちびポチョムキンとタバサの魔法に
よる援護で上手くいかない。時間がたつにつれてゴーレムはその体積をみるみる内に削られていった。
「ハンマーフォール!!」
ちびポチョムキンの攻撃についにゴーレムの動きが止まる。
そのままちびポチョムキンはゴーレムを掴み持ち上げる。恐ろしい膂力だ。
「48の必殺技!ポチョムキィィィィィン・・・・・バスタァァァァァ!!」
空高くゴーレムを持ち上げ、落下する。あの強固なゴーレムはついに砕け散ったのだった。
ゴーレムの破片は辺りに降り注ぐと、土へと還る。後には小山のような土が残された。
ファウスト以外の3人は目の前の光景にぽかーんとしている。
「次、いってみよ~う!後は問題の人物を探すだけですね・・・」
フーケは自らのゴーレムが完膚なきまでに叩き潰されていくのを見届けていた。ファウストの発言を
耳にすると、急いでレビテーションをかけて逃げようとした・・・が。
「そこですね!!行きなさい!ちびファウスト君たち!」
森の方へと投擲すると、絹を引き裂くような悲鳴と共に、フードを被りこんだ人物を連れてでてくる。
「わ、私をどうするつもりだい!?このフーケ様に向かって・・・」
「おや・・・貴女、ミス・ロングビルではありませんか」
「!?どうしてフードを外す前から分かったんだい・・・?」
「いえね。心臓の音に聞き覚えがありましてね。一度近くで聞いた音なら覚えていますよ」
フードを外したフーケの正体に、ルイズ達は驚く。まさか自分たちとフーケ探索をしたミス・ロングビルが
フーケだったとは。
「盗んだはいいが使い方が分からなかったんで、あんたらに調べさせようとしたんだけどそれどころじゃ
無かったようだね。まさかアンタがこんな化けモンだとは・・・」
「化けモンは酷くありません?あ、ちなみにこれはマジックアイテムじゃないですよ。私の知人が使っていた
只の武器ですね」
「なんだって・・・?それじゃぁなんでそんなもんを秘宝とか呼んでたんだい?」
「それは、オスマンさんに聞いて見るしかないでしょうねぇ」
「そんなことも分かんなかったなんて、アタシも焼きが回ったようだねぇ。で、これからどうするつもりだい?」
ファウストの目の奥が光る。ルイズ達は、以前にもこのような目を見た記憶がある。
「・・・オシオキをします。然る後に学院で対応していただきましょう・・・」
「ファウスト!いくら犯罪者だからってアレは拙いわ!」
「ルイズさん。これはケジメでありお約束なのです。誰にもこれは変えることは出来ません」
2人の会話に全く付いていけないフーケ。そう、彼女はファウストとギーシュの決闘の結末を
知らないのだ。あの時、所詮は子供の絡んだ決闘と見るのをやめたのである。
言い知れない悪寒が彼女を襲う。しかしもう遅かった・・・。
「ではロングビルさん!みなさんお待ちかねのオ・シ・オ・キ!タ~イム!貴女はどんな声を聞かせて
くれますかねぇ~!」
ちびファウスト達に体を押さえつけられ、身動きが出来ない彼女の前に宝箱が四つ現れた。
「この中から当たりを引き当てたら貴女へのオシオキはナッシング!さぁそれではお考え下さい!」
訳が分からない・・・。だがこの展開の向こう側には恐ろしい予感がする。
どうやら、当たりを引き当てれば、自分への悲劇を避ける事が出来るようだ。
彼女は、盗賊人生の中でここまで本気で悩みぬいた事はないと言うほど、真剣に悩んだ。
そして選ぶ・・・。盗賊としての本能と、乙女の勘を信じて。
「一番左の宝箱に決めたわ・・・」
ファウストの顔がいやらしく微笑む。紙袋に隠されて見えないはずなのだが、その顔はみ○もんたの
ように微笑んでいた。
「ファイナルアンサー?」
「ファイ・・ナル・・・アンサー・・・」
永く沈黙をし・・・ファウストは声を上げた。
「・・・・・正解!!しぎゃぴぃー!!」
ファウストは爆発につつまれると、空高く、舞い上がった。皆さん!すまない!当たりを引かれたと叫ぶように。
自分の戒めは解かれ、目の前の珍妙な人物も空高く飛んでいった。勝った!第一部完!!
フーケは、今を好機と見た。残っているのは、自分のゴーレムの前では無力な生徒達。彼女は勝機を確信した。
ありったけの力でゴーレムを作り出す。最初に作った物よりは若干小さいが、強度は前よりあげてある。再生させる
余力すらない。これが本当の最後である。
「ファウストぉぉ!?」
ルイズは同じ女性であるフーケがオシオキされる様子に居た堪れない気分で見ていたが、オシオキは実行されず
ファウストが空へと吹き飛んでいく光景が目に飛び込んできた。
拘束から抜け出したフーケがゴーレムを作り出し、自分たちの目の前から逃亡しようとしている。
タバサ、キュルケはゴーレムへと魔法を放ったが、やはり効果は薄い。
このままでは逃げられてしまう。と2人は魔法を連射していた。
だが、ルイズは一人後ろで呪文を詠唱していた。ファウストと練習した時に初めて成功した時の感覚を
もう一度掴み直すように。ゆっくりと呪文を練り上げ、そして杖をゴーレムへと振り上げた。
「ガンフレイム!!!」
その名前に意味はない。だが、気合を込めてそう叫ぶ。自分のあの爆発呪文にふさわしい名前と直感で感じた。
凄まじい爆発音がすると、ゴーレムは跡形も無く吹き飛んでいた。
フーケは、一瞬目の前の事に頭が追いつかなかったが、事実を確認するとルイズ達の前にくると座り込んだ。
「もう、今日は種切れだよ。もう逃げようとはしないさ。煮るなり焼くなり好きにしな」
タバサとキュルケはルイズの起こした爆発を信じられないちいった様子でルイズを見ていた。
ルイズは、フーケを縄で縛っていると、上からファウストが落ちてくる。
「面目ないですルイズさん・・・。まさか当てられるとは・・・。しかし見ていましたよ。グッドでした!」
「褒めたってなんもでやしないわよ。あんたが飛んでった時はさすがに焦ったわ」
笑いながら談笑する二人にタバサ、キュルケが加わる。
「ルイズ。あんたいつの間にあんな魔法撃てる様になったの?火のトライアングル以上の威力じゃない」
「気になる。いったい何を」
ルイズとファウストは目で合図を送ると
「「秘密」」とだけ言った。
2人とも納得いかない様子であったが、ファウストが絡んでいるに違いないととりあえずは何も言わない事
にする。
「それじゃ。秘宝も奪還したし、フーケも捕まえた。学院に戻りましょうか」
ファウスト達は、ルイズの意見へと同意し帰途へとつく事になった。
「・・・テファ・・・ごめんね。お姉ちゃん・・・帰れそうにないよ・・」
そう、聞こえない程の声で呟くのを聞こえていたのはファウスト一人であった。
学院長室で、オールド・オスマンはルイズ達の報告を聞いていた。
「ふむ、ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな」
「一体、どこで採用されたんですか?」
隣に控えたコルベールが尋ねた。
「街の居酒屋でな・・・彼女は給仕をしておった。あまりに美しいモンでな。つい・・・ワシの手が勝手に
尻を・・・」
「・・・で?」
「それでも怒らないんでな。気付いた時には秘書にならんかと言っておったわい」
「・・・去勢したほうがいいようですね」
「何じゃと!?」
様子を伺っていたファウストが2人の会話に入った。
「よろしければ私がしましょうか?」
「ミスタ・ファウスト。出来るのですか?」
「はいコルベールさん。私は医者ですので」
「ほう。お医者様でいらっしゃったのですか・・。ならばお願いできますかな?」
「ええ・・・。一瞬で仕上げましょう。ミセス・オスマンの誕生デスね」
真っ青な顔をしたオスマンは声を張り上げた。
「止めてぇぇ!!まだ若い証拠なの!!いつまでも元気でいたいのじゃぁ!だから・・・だから・・・
それだけは止めてくれぇ・・・」
老人は泣いている。漢泣きである。
コルベールは、オールド・オスマンが反省したようなので軽く笑い告げた。
「冗談ですよ。間に受けないで下さい」
「なんじゃー。コルちゃんったら・・・。イ・ケ・ズ」
「次は無いですから」
「・・・・ハイ」
沈黙した後、生徒達の冷たい視線を感じたので、オスマンは話を変える事にした。
「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ「爆炎の鎌閃」を取り戻してくれた」
ルイズ達は、誇らしげに礼をした。
「フーケは城の衛士に引き渡した。「爆炎の鎌閃」は宝物庫でと収まった。一件落着じゃ」
オスマンは、生徒たちの頭を一人ずつ撫でた。
「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請と、ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っておるので
『精霊勲章』の授与を宮廷に申請しておいた」
ルイズとキュルケは、自分たちへの爵位申請にも驚いたが、タバサが既にシュヴァリエであった事には
さらに驚いた。
「タバサ。貴女ッたら凄いじゃないの!なんで言わなかったの?」
あまり嬉しそうな顔をしなかったが、タバサは軽く頷いた。
「別にいうまでもないと思ったから」
タバサの微妙な変化を感じ取ったキュルケは話をそこでお終いにした。
すぐにオールド・オスマンへと話を振った。
「オールド・オスマン。ありがとう御座います」
「うむ。当然じゃ。君たちはそれだけの事をしたのじゃから」
「オールド・オスマン。ファウストには何も無いのですか?
「すまんのう・・・。彼は使い魔じゃから・・・」
「いえ。お気になさらず。私は私の出来る事をしただけなのですからところでロングビルさんの
事なんですが・・・」
「盗賊は大抵極刑と決まっている。残念じゃがな」
「そうですか・・・」
オスマンは手を叩いた。
「今日はフリッグ舞踏会じゃ。秘宝も戻ってきたのでな。予定通り執り行う」
キュルケは顔をぱっと輝かせると、タバサを連れて足早に出て行った。
ルイズも席を後にしようとしたがファウストとオールド・オスマンが見詰め合っているので
黙って待つことにした。
ふと、オールド・オスマンが喋りだした。
「ファウスト君・・・と言ったかの?少し話をしたいのじゃが時間はあるかね?」
「ええ。私もそう思って居た所です。ルイズさん、よろしいですか?」
ルイズはどれに同意し、頷いた。
「それでは、ファウスト君。君から話をしてくれていいのじゃよ?君に爵位を授ける事は出来んが
出来るだけ力になろう。せめてものお礼じゃ」
「それでは・・・。あの「爆炎の鎌閃」何処で手に入れられました?」
「あれかね?あれを知っているのかね?」
「あれは元いた世界で私の知人が使っていた武器と同じようです」
オスマンはその目を光らせた。
「どういう事じゃ?」
「私は、この世界の人間ではありません。あの日、ルイズさんの召喚の魔法で異世界からこの世界へと
召喚されました」
「なんと・・・!それは本当なのかね?」
ファウストは、初めてルイズに自分の説明をしたときと同じ様にオールド・オスマンへと自分の力と医者で
ある事を説明した。
「そうじゃったか・・・」
「ハイ。分かっていただいたようですね。それで、その「爆炎の鎌閃」をどうやって手に入れたのですか?」
オスマンは、ため息をつくと昔を思い出すように語りだした。
「あれは30年前の事じゃ、森を散策していたワシは、ワイバーンの群れに襲われた。こりゃたまらんと逃げ出したのじゃが
追いつかれてしもうての。命の危機を感じたその時じゃ・・・彼が現れたのは・・・。彼はその「爆炎の鎌閃」にて
凄まじい炎を操るとワイバーンの群れを瞬く間に蹴散らしていったのじゃ。それも殺さずにな。全てのワイバーンを
気絶させると彼は人懐っこい笑みでワシへと話しかけてきたのじゃ」
「そこのじっちゃん!大丈夫だった?こいつらってギアかい?」
「ギア・・・?何のことじゃ?」
「アレ?違うのかい?そりゃまた失礼しました~」
「危ない所を助けてもらい何と言っていいやら・・・せめて名前を聞かせていただけぬか?」
「いいって~いいって~!気にしちゃダメだよ!あ、ちなみに俺はアクセルって名前ねー」
「アクセル君・・・。改めて礼を言わせて貰おう。ワシの名はオスマンという。君さえよければワシの
家で礼をしたい。酒でも振舞わせてもらえないか?」
「にょほほ~!いいの!?お酒大好き!」
「ワシは彼を家に招待し、酒と馳走をふるまったのじゃ。彼と完全に打ち解けてきたころ、それは起こった・・・」
「オスマンのじっちゃんはいい人だね!今日は最高だ・・・あれ・・・まさか・・・」
「どうしたのじゃね!?アクセル君!体が光っているぞ!」
「アレが来たみたいだねぇ。オスマンのじっちゃん!楽しかったよ!いつの日かまたあおうぜ!」
「ワシは、彼が光っていたのでそれを召喚の光じゃと思った。離すまいと、つい恩人の武器を掴んでおった」
「あぁ!じっちゃん!はなし・・・・」
「彼はそういってワシの前から消えたのじゃよ・・・」
オールド・オスマンの話を最後まで聞いたファウストは自分の思った通りであったので、オスマンへと
説明をした。
彼、アクセルが自分と同じ世界の住人だという事、彼が次元を超えてしまう体質の持ち主だという事
そして彼の武器が炎を生んだのではなく、彼自身が法力にて炎を操っていた事を。
「そうじゃったか。これはただの武器じゃったのか。だとすればそのような強い炎を生み出す「法力」とやら
凄いものじゃのう・・・」
そこで、オスマン達の目の前に光が現れた。中から男が一人出てくる。
「やぁ~っと見つけたよ!オスマンのじっちゃん!俺の鎖鎌返してもらいにきたよん!」
「ア、アクセル君!?」
「いやー。まさかあそこで武器をつかまれるとは思ってなかったんでねー!あれ?じっちゃん老けた?」
思わず涙ぐみアクセルへと抱きつくオスマン。そんな彼に苦笑いしていたアクセルだが、見知った顔が自分を
見ているのに気付いた。
「あっれー?ファウストの旦那じゃないの?どしたのこんなとこで?」
「アクセルさん。お久しぶりです」
そういうと、ファウストはアクセルへ自分の事情を話した。
「へー。なんか変な事になってるんだねぇー。ていうか別世界だったのねココ。ぜーんぜん気付かんかった!
ん・・・どうやら、時間が来た様だね。オスマンのじっちゃん。ファウストの旦那、それと・・・えーと。ルイズ
ちゃん?俺様は御暇するよ!元気でねー・・・・・」
そういうと、彼は光につつまれて消えていった。最初から最後まで騒がしい男だった。オスマンは満足そうな
顔をしてファウストへと話しかけた。
「ファウスト君。君のお陰で恩人に再会出来た気がするよ。ワシの知っている事を話そう。君の左手のルーン・・・・
それは伝説の使い魔、ガンダールブの物じゃ」
「伝説の使い魔ですか?」
「そうじゃ。そのルーンを持つものはありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。始祖ブリミルの伝承にはそう
残っておる」
ルイズは、椅子に座って話を聞いていたが、自分にも関係すると思われる話だったので、オスマンへと尋ねた。
「それでは、そのガンダールブを使い魔とする私は・・・」
「うむ。虚無の系統を継ぐ者・・・かもしれぬ」
「そう・・・ですか・・・」
「虚無の実態は伝承にも残されておらぬ。じゃが、ガンダールブが現れた以上、その可能性は高いじゃろう。虚無に関しては
ワシの方で調べてみるので待っていて欲しい」
ファウストの言っていた事が最も事実に近しい事だったらしい。まさか・・・自分が・・・。ルイズは、自分の系統の解明に
また一歩近づいたと嬉しい反面。ファウストの考えを知りたかった。
「ワシの知っている事はとりあえずそこまでじゃ。何か分かったらすぐに教えるのでな。それでは今日の事については改めて礼
を言わせて貰う。ありがとう。さて、疲れたじゃろう。今日のところは舞踏会に参加せずにゆっくりしたほうがいいじゃろう」
2人はオスマンへと一礼し、自室へと戻った。
2人きりになったルイズはファウストへと問いかけた。
「ファウスト・・・その・・・ガンダールブに関してなんだけど・・・」
「安心してくださいルイズさん。ガンダールブであろうがなんだろうが私には関係ありません。私はただの医者ですから
貴女を見捨てて自分の世界に帰りたいだなんて思って居ませんよ。ここにはまだ私を必要としている人たちがいるのです
から」
ファウストの答えに、自分はまだまだ彼を信じきれていないのだな、と思い恥ずかしくなって布団へと潜り込んだ。
ファウストも彼女の反応に微笑みながら、自室へと帰ろうとした。ドアを閉める際一言聞こえた。
「・・・ありがと。おやすみ」
「おやすみなさい」
ルイズが眠るのを確認したファウストは本日最後の仕事へと取り掛かることにした。
月明かりだけが唯一の光となった時間。フーケは鉄格子から外を眺めていた。
明日を迎えれば、その日にでも処刑されるかもしれない。自分を待っていてくれる
妹や、民衆達の笑顔を見るの事は無いと思うと、目頭が熱くなった。しかし
困っている人のためとはいえ、自分は確かに罪を犯した。その事実は変わらない。
フーケが自室の方へと目を向けたときそれは起こった。
「ちょいとお邪魔しますよ」
「あ、あんたは!?」
急に壁に扉が出来るとその男は出てきた。
「ロングビルさん。お元気そうでなによりです」
「何が元気なもんか!こちとら明日が最後かも知れないってのに!」
元はといえば自分はこいつのせいで捕まったのだ。そう思うと語気が荒くなる。
「ここから出してあげます」
「!?どういうこったい?自分たちで捕まえておいて・・・」
「いえ。貴女にも家族がいるでしょう?国に帰してあげます。貴女は確かに盗みを犯した。ですが、私たちを
傷付けようという意志は感じられなかった」
図星を付かれて黙り込んでいるとファウストはそのまま話を続けた。
「テファさん・・ですか?」
「どうしてそれを!?」
「あの時、貴女が呟くのが聞こえましたので・・待っている家族が居る。ならば貴女はここで命を散らしては
なりません。家族の為にも生きるのです。だから、盗賊家業から足を洗ってください」
「・・・分かったよ。あんたの話。聞いとくよ。」
「それじゃぁロングビルさん。行きたい場所を思い浮かべて下さい」
「それでどうかなるのかい?」
「貴女をそこに送り届けます」
「そんな事できるのかい?ま、今更何がおきたって驚かないさね。それじゃあお願いするよ」
何処○もどあーへと向かうフーケ。
「はい。ロングビルさん。お元気で」
「ロングビルじゃないよ」
「はい?」
そういうとファウストへと向きなおす。
「アタシの本当の名はマチルダって言うんだ。あんたは何て呼べばいいんだい?」
「私は・・・ファウスト。医者です」
「ファウスト・・・先生ね。ファウスト先生!恩にきるよ!それじゃあサヨナラだね!」
「テファさんにもヨロシクお伝え下さい」
分かったよ・・・と呟き彼女は扉の向こうへと消えていった。
その日一人の少女の涙を流させない事が出来たのだ。
ファウストの長い一日は終わりを告げた。
彼は自室へと音も無く帰ると、目を閉じたのであった。
だがしかし、その日、すすり泣くような声が響いたという。
「俺の・・出番・・・」
哀れ。デルフリンガーであった。
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