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#navi(絶望の街の魔王、降臨)
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは最早数えるのも馬鹿馬鹿しい程の失敗を繰り返していた。
彼女はこの『春の使い魔召喚』の儀式に全てを賭けていたと言っていい。使う魔法が例外無く爆発する、故に着いた渾名が『ゼロ』。魔法が使えない『ゼロのルイズ』、と他の生徒に馬鹿にされていた。彼等を見返す為にも、この召喚だけは成功させなければならない。
ところが時の流れは無情なもので、担当のコルベール師はもう時間が無い事を理由に、次の召喚が最後と告げた。ルイズの努力を知っている彼にその宣告は心苦しいものだったが、彼女一人の為にこれ以上の時間を割くわけにはいかない。
そしてルイズは、最後の呪文を唱える。心の中では泣いていた。
詠唱が終わり、また爆発が起こる。しかし……今回は規模が違った。今までのより遥かに、軽く3倍は越える被害半径を誇り、ルイズの背後でからかっていた生徒や使い魔逹をも巻き込んだ。爆風により薙ぎ倒され、煙が晴れても立っている者は居なかった。空中を浮遊している使い魔は遥か遠くに飛ばされ、地を這うものは白眼を剥き気絶していた。しかし、死傷者はいない。
「な、何よこれ!」
ルイズが叫ぶ。彼女はあの爆発の中、平然と立っていた唯一の例外であった。
その彼女が見たものは、爆心と思われる場所で咳き込む、一人の女だった。
地面にはクレーターができ、そこに居た見慣れない格好の女は、ルイズの前に歩いてきて、
「あの鏡は何? アンブレラの作ったもの? ここは何処? 何が目的?」
矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「か、鏡とかアンブレラとかは知らないわ。ここはトリステイン魔法学院で、何だか判らないけど、貴女は私が使い魔召喚で喚び出したの」
女の持つ異様な迫力に負けじと、強気を保ち答える。
「喚び出した……?」
あの鏡を思い出す。鏡面に触れた途端、強い力で吸い込まれ、暫く気持ち悪い浮遊感を感じた後、ここで煙に包まれていた。
「あの鏡は貴女の仕業ね」
「だから! 鏡なんて知らないわよ!」
「あー、ミス・ヴァリエール」
不意に名前を呼ばれ、振り向くとコルベールが居た。あの爆発で意識を保っていた、数少ない人間だ。
「この方を、喚び出したのか」
「ミスタ・コルベール、サモン・サーヴァントのやり直しをさせてください! 平民を喚ぶなんて、これは失敗です!」
ルイズの要求に、コルベールは首を振る。
「それは出来ません。春の使い魔召喚の儀式は神聖だ、そう簡単にやり直しはできないのだよ。彼女と契約しなさい」
「……判りました」
置いてきぼりを食らったジルは立ち尽くして二人が話す様子を見ていた。契約だとか使い魔だとかは判らないが、どうも雲行きが怪しい。そのうち話が終わり、桃色の髪をした少女──『ヴァリエール』とか呼ばれていたか──がこちらに近づいてきた。
「ちょっと、しゃがんでもらえる?」
「それよりまだ訊きたい事があるのよ」
「それは後でゆっくり聞くわ。今は時間が無いの」
確かに、周りには目の前の少女と似たような格好の少年少女が煤けて倒れている。見た事の無い動物も転がっている。まさか、ここでもバイオハザードが起きたのか、と考えが至り、時間が無いという『ヴァリエール』の言葉で、彼女に従う事にした。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我が使い魔と為せ」
突然キスをされた。
「何をするの!?」
反射的に緊急回避を行い、『ヴァリエール』から離れる。ハッシュパピーを抜き、相手に向ける。
今回はBOW捕獲用に麻酔弾を装填していた為、子供相手でも銃口を向けられる。
現状は把握できず、話は判らず、行動も理解できない。セーフハウスで拉致されて、いきなり任務に駆り出された時より酷い。ブリーフィングの有り難みを噛み締める。
「訳の判らない事ばかりね。今度妙な事をしたら、眠ってもら────」
突然、左手に痛みが走る。今まで感じた事の無い痛み。撃たれたり、化物に噛まれたりする痛みとは別の……一番近いのは、酸で焼ける様な痛み。
「貴女、私に何を……」
「つ、使い魔のルーンが刻まれているだけよ。すぐ治まるわ」
ハッシュパピーが転がっている。いつの間に落としたのだろうか?
「ふっ……」
最早余裕が無くなり、タクティカルベストからベレッタを抜く。これは実弾が装填してある。
それを『ヴァリエール』に向け────安全装置を外す前に、意識を失った。
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