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第3話
虚無の曜日というのは、地球で言う日曜日の事だと考えて間違いはないだろう。それでも学院の使用人の朝は早い。
生徒達は好きなだけ寝過ごしても許されるが、生徒達の全てが遅くまで寝ているわけではない以上、早起きの生徒のための朝食の準備を欠かすわけにはいかない。
というわけで、悪ければ誰も手をつけることなく捨てられる食事の用意を済ませ、自分の朝食を摂り洗濯。をしようとしたところでルイズに捕まった。
「何してるのよ。あんた」
「何って、洗濯」
「今日は剣を買ってあげるから街に出かけるって言ったでしょ」
言ったわね。同意した覚えはないけど。それに街に行く予定があろうとなかろうと使用人の仕事は休みにならない。
「あんたは使用人じゃなくて私の使い魔でしょ!」
使い魔として役に立たないから雑用をするように言ったのは誰だったかしら。
早くも、そういうことは言うだけ無駄だということを理解してしまった私は口には出さなかったのだけれど。
学院から馬を走らせること三時間。そこにブンドルネ街があった。
「お尻が痛いわ」
「情けない。馬にも乗ったことないなんて。これだから平民は……」
はいはい。平民で、ごめんなさいね。
ぼやきながらも城下町だという街を見回す。
五メートルくらいの道幅の両端にはテーマパークのような白い石造りの建物。道端には露店を広げた人々。
「ほら、キョロキョロしない。スリが多いんだから! あんた、上着の中の財布は大丈夫でしょうね?」
私の懐には、下僕が持つものだと渡された金貨の詰まった財布がある。待ち逃げされたらどうするのかしら。しないけど。
「大丈夫よ。こんな重いもの盗られたらすぐに分かるわ」
「魔法を使われたら、一発でしょ」
そう言われると、魔法でどれだけのことが出来るのか知らない私としては沈黙するしかない。というか魔法なんか使われたら注意しててどうにかなるものかしら。
「魔法を使えるのって貴族だけでしょ? 貴族がスリなんてするの?」
「貴族は全員がメイジだけど、メイジのすべてが貴族ってわけじゃないわ。いろんな事情で、勘当されたり家を捨てたりした貴族の次男や三男坊なんかが、身をやつして傭兵になったり犯罪者になったりね」
なるほどね。だけど、それって家督を継げなかったメイジはカタギの職につけないって事?
ルイズに案内されて行った武器屋は、路地裏を抜けた四辻にあった。
店の中は日の光が射し込まないらしくて、薄暗く壁や棚に乱雑に詰まれた剣や槍をランプの灯りが照らしている。
店の奥には、パイプをくわえた壮年の男性がいて、じろりとルイズを睨みつけた。
「貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
男性にルイズが「客よ」と答えると、この店の主人なのだろう、その男性は驚きと共に愛想笑いを浮かべ、何故驚くのかと問うルイズに答える。
「いえ、若奥様。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」
「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるうようで」
いや、ふるわないでしょう。使い魔の人間なんて私しかいないらしいんだから。
「剣をお使いになるのは、この方で?」
店主が私を見ると、ルイズは頷き自分は剣の事は分からないか適当に選んでくれと答えた。
私の使う剣なら私に選ばせるべきじゃないのかしら。もっとも、剣が欲しいかというと本当のところ木刀ならともかく真剣なんていらないんだからどうでもいいのだけれど。
「……こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけるとしよう」
呟きつつ店主は奥の倉庫から細身の剣を持ってくる。ルイズには聞こえなかったみたいだけど伝えるべきかしら。
「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
どういう事かとルイズが主人の持ってきた剣を見ながら尋ねると、『土くれ』のフーケという盗賊が貴族の宝を盗んで回っていると教えてくれた。
しかし、盗賊には興味がないらしく、それ以上は聞かないでこの剣はどうかと尋ねてくるルイズに私は首を振る。
剣道しか知らない私は、片手で持つ突くための剣など使えない。振り回して折ってしまうのがオチだ。
そのことを話すと、ルイズはもっと大きくて太いのが欲しいと要求した。間違ってはいないけど、こっちの言ったことがちゃんと伝わってない?
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥様の使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」
言われ、店主は一度頭を下げてまた奥に行って今度は、ルイズの身長ほどもある長さの大剣を持ってきた。奥に引っ込んだときに「素人が!」と言ってたけど聞こえなかったふりをしよう。うん。
「これなんかいかがです?」
油布で拭きながら持ってきたその大剣は、ところどころに宝石が散りばめられ鏡のように刀身が輝く、美術館にでも飾っておくべき剣だった。
「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。といっても、こいつを腰から腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、背中にしょわんといかんですな」
店一番という言葉にルイズは気に入ったようだが、私には美術品を振り回すような勇気はない。自分で捜すからと店のそこここにある剣を見て回る。
また勝手な事ばかりと怒るルイズと憮然とした顔になった店主が何か言っているが聞こえないふりをする。
そして、珍しい剣を見つけた。
長さはさっきの剣と同じくらいで、刀身は細く片刃の日本刀に近いという他にはない形状をしていて、しかも。
「錆びてるじゃない」
こんなものを売り物として並べておいてどうするつもりなんだろうか。
「うるせえ! 剣もまともにふれねえような小娘のくせに人の事をガタガタ言うんじゃねえ! おめえにゃ棒っきれがお似合いさ!」
「え?」
突然の、しかも目の前の剣から聞こえた罵声に驚いている間に、今度は店主から剣に客に失礼なことを言うなと罵声が飛び、ああこの剣が喋ったのかと遅ればせながらも理解した。
この世界には、インテリジェンスソードという剣があるのだそうだ。さすが魔法の国。
と、その剣に手を伸ばしてみたのは何かに引かれたのか、単にボロ剣なら過って折ったり傷をつけても弁償しなくてもすむだろうという打算ゆえか。
なんにしろ、その剣を手にしたとき左手のルーンが輝き剣が「おでれーた!」と声をあげた。
「見損なってた。てめ、『使い手』か」
「『使い手』?」
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい。てめ、俺を買え」
「そうね。ルイズ、これにするわ」
私の呼びかけに何事かと私の左手を見ていたルイスが嫌そうな顔になった。
「え~~~~。そんなのにするの? もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ。さっきのとか」
「あんなの使えないわよ。それに『使い手』って何なのか聞きたいし」
そう言うと自分も、さっきのルーンの輝きのことが気になったのかしぶしぶと同意した。
「あれ、おいくら?」
「あれなら、新金貨百で結構でさ」
手をひらひらさせる店主に私は財布の中の金貨を百枚数えカウンターに置いた。
正直、こんな錆びてボロボロの剣がそんなにするのかとか、最初に店主が鴨が来たとかいってたわねとか思わなくもなかったのだけど、私はここの物価を知らないしルイズも文句はないようなので何も言わないことにした。
「毎度。どうしても煩いと思ったら、鞘に入れればおとなしくなりまさあ」
分かったと、私は鞘に入り静かになった剣、デルフリンガーというらしいそれを受け取った。
その帰り、ついでにと服も何着か買ってくれた。でも、何故メイド服?
「ゃあぁーーー!!」
裂帛の気合と共に振り下ろされた剣は空を裂き。
「どおぁーーーっ!!」
横なぎに振られた剣もまた風を斬る。
「やっぱり運動能力が大幅に上がってるみたいね」
呟き、私を驚いた様子で見ているルイズに向き直る
街で剣を買った後、ルーンの事が気になっていた私とルイズは中庭に移動し、剣を抜いてみたところルーンの輝きと共に体が軽くなり力が湧くのを感じた。
ルイズにそのことを教えたところ試しに素振りをしてみるよう言われたのだが、その剣は私の能力を大幅に超える鋭さをみせたのだ。
「すごかったのね、あんた。剣を振ったと思ったら魔法でも使ったみたいに移動してるんだもん。ビックリしたわ」
珍しく賛辞を述べる。それほどのものだったかしらと首を傾げる。確かに体が軽く踏み込みも速かったと自覚してはいるが、目にも止まらぬというほどのものでもなかっただろう。
「それほどのものだったわよ」
その声は、いつの間にかやってきて、こちらを見ていたらしい2人連れの1人、キュルケのものだった。
「何よ? キュルケ、覗き見なんてはしたないわね」
「中庭で、堂々とやっておいて覗きも何もないでしょ」
自意識過剰なんじゃないの。と聞こえよがしに呟くキュルケに、顔を真っ赤にするルイズ。まあ、さっきから寮に帰る生徒達が何人も近くを通ってるしね。
それはともかく、今はルーンの事だ。忙しく言い合う2人はアテにならぬとキュルケの連れ、タバサに尋ねてみる。
「使い魔は、契約したときに特殊能力を得ることがある」
「特殊能力って?」
短く答えるタバサにどういうことかと問うと、例えば黒猫を使い魔にすると人の言葉を話せるようになることがあるらしく。また、話すところまではいかなくても人の言葉を理解するだけの知能を得るらしい。
つまり、元々人間である私は話せるようになる代わりに、身体能力が上がるということか。でも、剣を抜いたときだけっていうのもおかしな話よね。身体能力が上がったからってどれだけ役に立つのか分からないし。
「だったら、試してみれば?」
ルイズをからかうのを中断したらしいキュルケが、通りかかった少年を呼んだ。
「なんの用かな? 僕はそんなに暇な人間じゃないんだが」
金色の巻き髪のフリルのついたシャツを着た少年は、気取った仕草で薔薇を弄んでいる。
「ゴーレムを作ってショウコと手合わせをしてほしいのよ。得意でしょ『青銅』のギーシュ」
ウインクをしてみせるキュルケだがギーシュは渋面になる。
「僕に平民と決闘しろって言うのかい?」
「ただのお遊びよ。お遊び。」
ね。と、しなだれかかるキュルケにギーシュは鼻の下を伸ばして同意する。男の子って……。
「見たまえ、僕の美しきゴーレム『ワルキューレ』をっ!」
ギーシュの持った薔薇の花びらが一枚、宙を舞い甲冑を着た女戦士の形をした青銅像になって私の前に立った。
つまり、コレと戦えと? まあ、いいけどね。
なんだか、ルイズが「何ご主人様に断りもなく勝手なことしているのよ」と怒っている声が聞こえたけど気のせいだろう。
ワルキューレを前に正眼に構える私に、ギーシュは先に攻撃してくるように言う。向こうは斬られても痛くもかゆくもないけど、こちらは殴られでもしたら大怪我をするかもしれないのだから当然の申し出だろう。
青銅の塊が斬れるかどうかはともかく。
「ゃあぁーーー!!」
さび付いた刀身が折れるかもしれないという事は考えず遠慮なく振り下ろされた剣は、藁を切るほどの抵抗もなくゴーレムを真っ二つにした。
「弱っ」
「お遊びにもならなかったわね」
「役立たず」
何が起こったのか理解が追いついていなかったギーシュはルイズ、キュルケ、タバサの言葉に我を取り戻す。
「いや、今のは油断……。いやいや、わざとやられてあげただけだよ。次は、僕の実力をみせてあげるよ」
薔薇の花を振り舞う二枚の花びら、一枚はさっきのと同じワルキューレに、もう一枚は一振りの剣に変わる。
「今度はこちらから行くよ」
ギーシュの宣言と共にワルキューレの握った剣がふるわれる。しかし、
「遅い!」
横薙ぎの剣が、やはり容易くワルキューレの胴を断つ。
「そんなバカな!」
更に薔薇をふり今度は一度に五体ものワルキューレを作り出し私を包囲させるギーシュに、さすがに慌てた様子のキュルケが制止の声を上げようとするのが見えた。
だけど、その前に私は五体のワルキューレを切り裂いていた。
多対一の戦闘に慣れていない私が五体もの青銅の戦士を一瞬で打ち倒せるなんて、とんでもないわね。
「君は何者なんだ? この僕の『ワルキューレ』を倒すなんて……」
信じられないものを見たと驚愕しているギーシュに礼と共に、ただの平民だと答えると、ただの平民にゴーレムが負けるわけがないと言われた。
「それじゃあ、そうね。ルイズの使い魔だから『ゼロの使い魔』かな」
実際そうとしか言いようがない。ルイズの使い魔の証であるルーンの力がなければ、あそこまでの事はできなかっただろうから。
「とんでもない当たりを引き当てたんじゃない? ゼロのルイズ。あんたには不相応なくらいに」
「俺の相棒なんだぜ! 当然だろ!」
キュルケの声にデルフリンガーが答える。何故、相棒だと当然なのかと尋ねたが、デルフリンガーは忘れたと答えるだけだった。
そして、このとき私は自分の失言に気づいていなかった。
ルイズの顔をチラリとでも見れば気づいていたはずのなのに。
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