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&setpagename(第19話 まばたきひととき)
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時はわずかにさかのぼる。
言葉がルイズと再会し、まばたきの眠りについた間の出来事。
ティファニアは疲れていた。肉体的にも、精神的にも。
昨晩、もう子供達が寝静まって、ティファニアもぐっすり眠っていた時間に、
姉と慕うマチルダが怪我人を連れてやって来た。
ウェールズという男性と、ルイズという女の子。
ルイズは最初、ティファニアを見て怯えたけれど、ウェールズは怖がらなかった。
それが嬉しくて、ティファニアは母から譲り受けた指輪でウェールズを治療した。
傷はふさがったが出血が多く、体力の回復にはまだ時間がかかる。
もう一人のルイズはマチルダに傷の手当てをされると、ウェールズの看護を手伝ってくれた。
マチルダはそんなルイズに鞄を預けると、ティファニアに絶対に鞄に手を出さないよう注意した。
子供達にも手出しさせてはいけないと強く言われた。
それからすぐ、夜明けに間に合うようにとマチルダはどこかへ出かけてしまい、
交代でウェールズの看護をしつつ仮眠を取ったりしているうちにルイズとも仲良くなって、
昼頃になるとマチルダが言葉を連れ帰ってきた。
ルイズの使い魔だ、きっといい人だろう。
そう思って言葉の存在を聞いた時、ティファニアは質問をしていた。
「コトノハさんとも仲良くなれるかな?」
ルイズは「難しいと思う」と答えた。ちょっとさみしかった。
「コトノハさんとも仲良くなれるかな?」
ウェールズは「どうだろう……」と困った顔してしまった。
「コトノハさんとは仲良くなれないかな?」
マチルダは「あの魔法を使えば……多分ね」と答えたので、ティファニアは困惑した。
だって、あの魔法を使うという事は、ひとつの意味しかない。
お別れ。
今までは自衛のためにその魔法を使ってきた。
ルイズやウェールズに使うのも、やはり自衛のためではある。
しかし、仲良しになれた人に使った事は一度もなかった。
だからなぜあの魔法を使って言葉と仲良くなれるのか、その道理が解らない。
頭を悩ませながら、ティファニアは言葉の部屋を訪れた。
「ルイズ。お水とタオル、それからコトノハの着替えを持ってきたわ」
ベッドに寝かされた言葉の髪を撫でていたルイズが、疲労の色を微笑で隠して振り向く。
「ありがとう。……テファ、顔の色がちょっと悪いんじゃない? 少し休みなさいよ」
疲れているのはお互い様だろうに、ルイズの優しさが嬉しい。
「私は大丈夫。マチルダ姉さんは?」
「ウェールズ……様、の様子を見に行ったわ。眠ってるって言ったんだけど……」
表情を曇らせるルイズ。
ティファニアは知らないが、ルイズは森の中で出会った時の険悪さを気にしていた。
――"私達"は……"あんた達"に……追われた……だから!
私達とはここにいるティファニアも含めるのだろうか。
あんた達とはアルビオン王家なのだろうか。
どんな確執があったか、ルイズには解らない。
ただマチルダがウェールズを助けた事実を信じるのみだ。
水の入った桶を床に、タオルと着替えをテーブルに置いたティファニアは、
静かな寝息を立てる言葉へと視線を移した。
優しそうな顔つきだが、ルイズ同様自分を見たら最初は怖がるだろうか?
「とりあえず身体を拭いて、寝巻きに着替えさせて、ゆっくり眠らせて上げましょう」
睡眠不足の看病人二人ではあるが、交代で仮眠は取っており、
疲労も眠気もあるが、昨日から一睡もしていない言葉よりはマシだった。
実はマチルダも昨日からまったく眠っておらず、かつ魔法を使用して精神力まで消耗しているが、
言葉を連れ帰った後もきびきびと動いており、心配無用と気丈な振舞いを見せている。
ティファニアがタオルを水に浸し、しぼっている間に、ルイズは言葉の制服を脱がしにかかった。
学院のお風呂にこっそり夜中に入れてやった事があるため、服の構造は把握している。
シャツのボタンをはずしているところに、ティファニアが濡れタオルを持ってやってきて、
後ろから言葉の身体を覗き込む。
ティファニアの気配を感じながらも、声をかけてこない不審にルイズは眉をひそめた。
「テファ、どうかした?」
「あ、いえ」
シャツの合間から見える、ブラに包まれた言葉の乳房から、ティファニアは視線を動かした。
ルイズの顔――ではなく、胸へ。
「……」
「何よ?」
「昨日の夜から不思議に思ってたんだけど……」
「何を?」
「ルイズの胸、おかしいわ」
ルイズの唇がヒクッと動いた。
あえて、あえてスルーしていた話題を、ティファニアの方から振ってくるとは。
「どど、どこが、どう、おおお、おかしいのかしら?」
「だって、ルイズは子供でもないのに胸がたいらなんですもの」
本来なら、おかしいのはティファニアの胸である。
貧乳と巨乳ならば両方とも探せば見つかる程度のもので、
虚乳はさらに珍しいが少なくともルイズは虚乳の持ち主を自分を含め三人知っている。
すなわちヴァリエール家長女エレオノール姉様と、クラスメイトの雪風のタバサの二名。
だがしかし、巨乳を超え爆乳を超え、胸革命の領域に達する者の希少性は想像を絶する。
ティファニアは間違いなく胸革命の持ち主であった。
そして桂言葉もバスト100サントオーバーの見紛う事無き胸革命!
世間知らずの胸革命が見た同年代の胸革命は『これが普通』と誤認する。
そしてマチルダのふくよかなバストは『小さめ』なのだと誤認する。
故に、ルイズの胸は『おかしい』のだ。
まるで絶壁。
とはいえ白い肌も小さな桜色も、芸術的な美しさである事実。
それを壁と呼ぶならば、輝かしくありながら触れるものを拒絶するクリスタルウォール。
対してティファニア(と言葉)が持つ胸革命。
その美しさははるか天空に輝く銀河の星々にすら匹敵する、柔肉の爆弾。
欲望という視線にさらされ魅惑の魔法を爆発させれば、
銀河の星々すら砕く超威力ギャラクシアンエクスプロージョン。
クリスタルウォール対ギャラクシアンエクスプロージョンではどちらが勝つか?
世間一般の評価ならば間違いなく後者であろう。
大きさを競えば、やわらかさを競えば、それこそまさに完全勝利!
されど前者が好き好き大好きというマイノリティ・リポート(少数意見)も存在する事実。
すなわち好みによって分かれるもので、完全なる優劣をつけるは不可能。
中には胸の大きさなど興味無く、顔や性格その他設定で女性を評する者もあり。
中には「ヤれればいいや」な男も存在する。例えば鞄の中とか。
だから! ルイズの胸とティファニアの胸、どっちが優れているかを論じるなど愚の骨頂ッ!!
……という事にしておかねば、この場ではルイズがあまりにも不憫。
「……あ、あああ、あのね? 確かに、私は、ち、小さい方よ。
ででで、でも、ハッキリ言わせてもらうわ。ああああ、あなた達の胸の方が、珍しいわ。
学院でも、あなた達みたいな大きさの娘、全然いないから。コトノハだけだから。
フ……マチルダくらいで、もう、大きい方に分類されるのよ。本来は。解る?
そそ、それに、大きければいいってもんじゃ、ないから。絶対……」
そこまで言って、ルイズは思い出す。
惚れ薬の力で抱きしめてきた言葉の胸のやわらかさ。
幸福至福の大絶頂! 正気を失いかけるほどの魅惑!
まさにそれは胸革命! 惚れ薬に匹敵するほどの凄まじき魔性の感触……。
ああ、思い出しただけで、ほらうっとり。
「……ルイズ? どうしてコトノハさんの胸を掴んでるの?」
「んはあっ!?」
気がついたら言葉の胸に手をぺったりと当てていたルイズ。無意識とは恐ろしい。
「あ、危なかった……もし揉んでいたら、帰って来れなかったかもしれない……」
「ルイズ、疲れているなら眠った方が……コトノハさんは、私が」
「大丈夫よ……それに、コトノハは私の……使い魔」
ボタンをはずす作業を再開したルイズは、シャツを脱がせてブラに手をかけた。
身体を拭くなら下着も脱がせた方がいいが、女同士とはいえやはり気恥ずかしい。
風呂場なら、気分的に楽だし、下着を脱ぐのも本人だ。
でも看病のためとはいえ、他人の下着を脱がせるのは初めての経験。
思い切って「えいっ」とブラをずらしてやると、後ろから声。
「怪我してる」
「え?」
「虫に食われたみたいな痣があるわ」
ティファニアに言われて、ルイズも気づいた。言葉の身体に小さな痣がいくつかついている。
虫に食われたにしては妙な位置だ。服や下着の下に潜り込まれて無視できるものだろうか。
「マチルダ姉さんは、怪我は無いって言ってたのに……今治すわ」
言って、ティファニアは母の形見を輝かせた。
指輪による癒しの先住魔法は、あっという間に言葉の痣を消し去る。
これで大丈夫と一息ついたところで、ティファニアは後ろから肩を掴まれた。
「二人とも、少し眠りな。その娘は私が面倒見るよ」
二人が振り返ると、いつの間にかマチルダがいた。
「でも、マチルダ姉さんだって帰って来たばかりで疲れてるでしょう?」
「いいから。眠くないならウェールズの容態でも見てきな」
「でも」
「いい娘だから聞いておくれ」
そう頼まれると、断れないティファニア。
何だかよく解らないけれど、マチルダがそうまで言うなら、そうすべきなのだろう。
「解ったわ。ルイズは――」
「お嬢ちゃんも邪魔だから出て行きな」
マチルダの言動から何かあると察したルイズは首を横に振った。
「……私は残るわ。コトノハは私の使い魔だから」
「……そうかい」
瞼を下げ、溜め息ひとつ。
「そういう事だから、この娘は私達に任せて休んできな」
「あの……もうお昼だから、ご飯を作るわ。子供達もお腹を空かせてるだろうから」
「食べ終わったら、寝るんだよ。仮眠を何度か取っただけなんだろう?」
「うん……」
部屋から追い出されたティファニアは、大きなあくびをしてから台所に向かった。
眠いけれど、子供達の分、ルイズ達の分、いっぱい作らなければならない。
もう一頑張りとティファニアは気合を入れた。
部屋に残ったルイズは、黙々と言葉の身体を拭いていた。
マチルダがやると言ったのだが、ルイズが頑として譲らなかったのだ。
冷たいタオルが心地よいのか、言葉の寝顔が安らぐ。
けれどルイズの表情は険しかった。
「……フーケ……コトノハは……」
「疲れたなら代わってやるよ。
それとティファニアがいなくても、ここにいる限り私は『マチルダ』だよ」
「ん……ごめん。ねえマチルダ、コトノハは……その……」
「こっちの下着は、もう捨てた方がいいかもねぇ。洗っても気持ち悪いだろうし」
「ま、マチルダ……それって……?」
「ガキには早い。そろそろ代わってやるよ」
「でも、コトノハは」
「寄越しな」
強引にタオルを奪ったマチルダは、桶の水に浸して絞り直す。
その間、ルイズは言葉の身に何が起きたのかを想像していた。
爪を立てるようにして手を握り、唇を噛む。痛い。
「向こう向いてな」
「私は目をそむけないわ」
「ご勝手に」
宣言通り、ルイズは目をそむけなかった。
言葉の身体は、半分をルイズが拭き、もう半分をマチルダが拭いて綺麗になり、
ティファニアの寝巻きを着せて、布団をかぶせた。これで一区切り。
事を終えたマチルダは言葉の服を洗濯するため部屋を出て行った。
残されたルイズは、これ以上する事がないため、ただ、見つめていた。
言葉の寝顔を、ただ、見つめていた。
言葉が目覚めた時、一番側にいてやるために。
しばらくして、ティファニアが昼食を運んできてくれた。
椅子をテーブルの前に動かし昼食を食べ始める。
言葉はまだ目覚めない。
昼食を食べ終え食器を台所に返しに行く。
マチルダがいて、ティファニアが眠った事を教えてくれた。
ルイズもそろそろ眠るよう言われたが、構わず部屋に戻る。
言葉はまだ目覚めない。
マチルダもそろそろ眠ったらどうだろうかとルイズは思った。
自分達を救出し、言葉を迎えに行った彼女が、一番眠たいはずだ。
言葉はまだ目覚めない。
日が暮れる、あるいは沈む頃には目覚めるだろうか。
お腹がふくれて睡魔が押し寄せるが我慢して、言葉が起きたらまず何と言おうか思案する。
「謝る事があるんじゃないの?」
いきなりこれだと、つらいだろう。ワンクッション置いてからにしよう。
「おかえりなさい」
いや、言葉はルイズがこの家にいる事に驚いていた。
ルイズがいると知ってここに来たのではないなら、帰って来たのとは違うだろう。
「おはよう……かな」
そう決めた。
「どう思う? コトノハ」
質問すると、言葉は惚れ薬を飲んだ時のような快活な笑顔で返事をした。
「目を覚ましたら、おはようございますって言うのが一番だと思います」
「そうよね、それじゃ決まり。早く目を覚ましなさいよ」
「はい。目を覚ました"本当の私"がルイズさんの使い魔ですから」
その会話が夢であると気づかぬまま、ルイズは寝息を立てていた。
椅子に座って、言葉の方を向いたまま。
言葉が目覚めた時、一番側にいてやるために。
そんな夢を見ている間に日が暮れて、言葉はまぶたを開けた。
これが言葉のまばたきひとときの間に起こった出来事である。
眠っているルイズに気づき、マチルダと名乗るフーケと短い会話をして、また眠る。
次の目覚めまで、もう一休み。
第19話 まばたきひととき
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