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「ゼロとクイズの部屋」(2008/06/18 (水) 23:37:48) の最新版変更点
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「さあ始まりました。クイズ!!「らめぇ! じんじんきちゃうぅ!」のお時間です」
(♪クイズーーーーーーーー ウフン……
クイズーーーーーーーーー♪ おお……)
その日は緊張と期待に満ち溢れた日だった。これまでの人生、一度たりとも魔法に成功した事のない彼女にとって、それはまさに伸るか反るかの一大イベントであった。
「司会はお馴染みこの人!! わたくし 野 沢 ウ ォ ー ケ ン です」
(♪JINJINキチャーーーーーーーーーーーウ♪
ワァーーーーーーーーーーーーーーオ!!♪)
そして例によって例のごとく、幾度となく失敗を繰り返した召喚の果て。
周りの野次もそろそろ息切れし始めたその時、漸く何か、決定的な「手応え」を感じたその瞬間、彼女の意識は暗転した。そして次に気がついた時には……。
「な……なに? 何処、ここ」
思わず呆然とした表情でルイズが呟く。
まず目の前に一人の男がいる。鼻が高く彫が深い顔で、造形だけならハンサムの部類に入るだろう。
だが、その濁り切って死んだ魚の様な目が全てを台無しにしている。トレンチコートを着込み、右手には杖を突いていた。
自分はいつの間にやら椅子に座っており、半ボックスタイプのデスクが目の前にあった。その上には用途不明の丸くて平べったい物がある。
視線を巡らせて見ると、自分の右側に三人、別の人間が座っていることに彼女は気付いた。
隣から、いけ好かないツェルプストー、彼女とよく一緒にいる青髪の少女、そして何故かマリコルヌ。
キュルケとマリコルヌはルイズと同じく呆然とした様子だが、その間に挟まれている少女だけ、鋭い視線を周囲に飛ばしていた。
自分一人ではないことに安堵しながらも、自分を馬鹿にする人間の筆頭に対して安堵感を得てしまった事に憤る。
しかし、このまま座っていても状況は改善しない。家と家の関係はこの際何とか押さえ込んで、話しかける必要がある。
そうして隣に話しかけようとしたその瞬間!
「 未 来 が 見 え る 。 」(フュチャッ!)
タバサ(ピクッ!)
キュルケ(ビクッ!)
マルコメ(ビクンッ!)
ルイズ(ガタンッ!)
完全に意味不明。
前後に全く繋がりがない台詞。
言葉と同時にピシッと九十度に曲げられた右腕の持つ杖の先にも、特に何もない。
何かを指し示したわけでもなかったのだ。
「乳房をね……
吸いたいんね……
乳房の 最先端をね……
イーーーーーーーーーーーーヒヒヒヒヒヒヒィィィィィ!」
とうとう先ほどまでの茫然自失の状態から、明確に恐怖の視線を向け始める四人の前で、トレンチコートの怪人はあらぬ方向を見ながらげらげらと笑う。
「失礼」(シュッ)
瞬きする間に元の無表情に戻った男は、先程と同じように右肘をピタッと九十度に曲げる。が、やはりそのステッキの先には誰もいない。
「何? 何なのこの状況」
「私が知るわけないでしょうが、ヴァリエール!」
「誘拐……?」
「なんだって!? 何処なんだ此処は!?」
「私語スンナそこ!! えぐっっ……えくぅ……」
「ぇえぇえ!?」
「何で泣いてるの!?」
「……」
「だ、誰なんだおm……」
「 そ れ で は 第 一 問 ! ! 」
聞いちゃあいなかった。
男は裏に「?」マークの書かれたカードをポケットから取り出す。
「ガガッと参上 勇気リンリン!!
おかあちゃーん……月はごっつ寒いでー
乳首めっちゃ勃つわー
と言ったのはガガーリンです、が……」
くるぅりと最後の「が」の部分で一同を眺め見る男。
全員露骨に視線を合わせずに下を向いた。
「おやぁ……? どちら様も……」
ゆっくりと、じらすように四人の背後を男が練り歩く。
カッカッと床を打ち鳴らすステッキの響きが神経をすり減らした。
足音が背後を通り過ぎる時、タバサは汗でじっとりと濡れ始めた掌で杖を握り締める。彼女の戦闘者としての本能が囁いていた、この男は危険だ!
「おツッコミにならない!
放 置 プ レ イ か し ら ! ? 」
驚愕の表情も束の間、何事も無かったかのように新しいカードを取り出す。
「それでは第一問」
「意義あり!!!!」
思い切り目の前の机に叩き付けた掌は、たまたまそこにあった早押しボタンを押す。
「ピンポーン」という軽やかな音と共にルイズは椅子を蹴たぐって立ち上がった。
「1番の方、なにか?」
「アンタさっきも第一問って……つーかそんな事はどうでもいいの! ここはいったい何処でアンタは誰なのよ!? 何で私たちはこんな所でクイズなんてやらされてるの!?」
この異常な状況で無謀・蛮勇とも取れるその行為にキュルケは背筋が寒くなり、マリコルヌは驚愕し、タバサは男の視線がルイズに向いた隙に精神を統一する。
「正解者が無いならいつまでたっても第一問ですよ。あとここはクイズの部屋で私は 野 沢 ウ ォ ー ケ」
「ウィンドカッター!!」
渾身の力を込めたタバサのウィンドカッターが発動する!
これ以上ないほど完璧に、垂直に男の首へと吸い込まれた不可視の刃は、男の首を大根か何かの様に「すぽん」と切り落とした。
「ひっ……!」
「う、うわあ!?」
「ちょ……! タバサ!?」
いきなり目の前で人が死ぬ瞬間を見せられた三人は驚愕の表情でタバサを見やる。
そんな三人に、無表情に少し冷や汗をかきながら一言。
「危ない所だった……」
「何がよ!? 確かに危ないヤツみたいだったけど、話も聞かずにいきなり、こ、殺すなんて! いったい何考えてるのよ!」
突如目の目で成された殺人と、この訳の分からない状況で溜まりに溜まったストレスによってルイズは完全にいきり立った。
椅子を蹴り飛ばしてタバサに掴みかかろうとする彼女を、キュルケが抑える。
「落ち着きなさいよ、ヴァリエール!」
「あ、アンタも何言ってんの!? し、死んだのよ!? 人が! 目の前で!」
「あれが最善」
「何処が!? 人を殺しておいて!」
「あの男は危険」
「アンタの方が危険よ!」
「だからちょっと落ち着きなさいって! タバサもちょっと黙って!」
「……」
滅茶苦茶に暴れるルイズを押さえながら、キュルケはふとある事に気付く。さっきからもう一人が随分と静かだ。
ほぼ同時にそのことに思い至ったのか、三人は揃ってマリコルヌを見る。
そこで三人の目に入ったのは、蒼白を通り越して土気色になった顔だった。
その視線は瞬きすら忘れて三人の向こう側を凝視している。
「「あわてないあわてない」」
「「「!?」」」
背後からの声に一斉に振り返った三人は、大小はあるにせよ例外なく悲鳴を上げた。
そこにいたのは、さっき目の前で死んだはずの男。床に転げ落ちたはずの頭は男の右手で髪の毛を鷲掴みにされ、それが元々収まっていた所には新たな「頭」が出現していた。
否。それを頭と言ってしまって良いものか。それは成人男性の握り拳ほどしか大きさが無く、目も鼻も耳も存在しない。鮫の様な歯がびっしりと生えた口が顔と思しき部分の半分以上を占めていた。
そして、右手に持たれた頭と、新たに生えた頭の両方から声が出ていた。
「「危ないお嬢さんにはペナルティだッッ!!」」
いつの間にかステッキから手斧に姿を変えたそれを、男はタバサに向かって投げ放つ!
恐ろしい風切音を放ちながら高速で飛来した手斧は、タバサの持つ杖を半ば程で切り飛ばした。
「さあ盛り上がって参りました!! 上げてテンション!! ブチ抜け成層圏!!」
再び手元に戻った手斧を振り回しながら、男は雄叫びを上げ、斧を持った右手を高々と振り上げた。
「オーディエンスの皆さーーーーーーーん!!!」
(うおおおおおおおおおあああぁぁぁああぁああぁぁぁあぁああぁ!!)
「こーろーせ!!」 「こーろーせ!!」
「こーろーせ!!」 「こーろーせ!!」
「ひぃぃぃ!?」
「な、な……」
「ッ……」
「さ、殺気しか感じねえ!?」
解答席の背後のカーテンが開くと、そこには目を血走らせた大勢の「観客」が現れた。
「は、ははは、そうよ、これは夢よ、こんなの現実なはずないわ」
「夢ではなくてクイズです!! パメルクラルク 第 一 問 ! !」
「いやあぁぁぁ!!」
現実逃避をあっさり無視され。もはや半狂乱のルイズ。
泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、「泣きたいのはこっちだ」と内心溢しながらも諦める事を良しとしないキュルケ。
もはや死人同然の体でうつろな視線を中空にやるマルコメ。
そして、この絶望的状況にありながらも、タバサの灰色の頭脳は事態打破の為に高速回転していた。
(相手は圧倒的に有利な状況にあるにも拘らず、直接危害を加える事は一切なかった)
唯一の例外は、先程の手斧。しかしそれでも、杖を切り飛ばしただけでタバサ自身には指一本触れなかった。
(明らかに正常な精神の持ち主ではない。狂人。言動も不安定。だが……)
今の今まで、一貫している事がある。それが……。
(それは、「クイズ」! この男はあくまで「クイズ」のルールに則ってでしか行動出来ない! そう、先程の攻撃の時もこの怪人はこう言ったのだ。「ペナルティ」だと!)
あまりに少ない情報を基礎にした、綱渡りの様な仮説。しかし、彼女はこれこそが生還のための重要なキーだと確信した!
(だが、あと一手。たった一つだけでいい。何か新しい情報があれば、確実になる……!)
この間約二秒。
合理的かつ幾多の戦闘経験に裏打ちされた思考に淀みはない。
数々の修羅場を潜って来た彼女にとって高速思考は必須のスキルである。
そして男がカードの内容を読み上げた。
「白の国との異名も名高い浮遊大陸アルビオン。さて、その総面積はいったい何平方キロ? ㌔以下の単位は省略可!」
(まともな問題! やはりこれが本当の「第一問」! しかし、本当の核心に至るにはさらにあと半歩。この問題に正解か……或いは不正解だった時の状況を知る必要があるッ!)
しかし、彼女にはアルビオンの総面積など見当もつかなかった。
さっと視線を巡らせると、キュルケは「そんなもん知るか!」と今にもブチギレそうな顔で、マルコメは必死に考えている。ルイズにいたってはポカーンと口を開いて完全にアホの子状態。
万事休すかと思われたその瞬間!
ピンポーン!
「一番の方どうぞ」
「……24万4820平方キロメルトル」
「大正解!!」
ぱんぱかぱーん、とファンファーレの鳴り響く音と共にルイズの頭上から紙吹雪が落ちてきた。
その他の三人は驚愕の目でルイズを見やる。
その視線に彼女は居心地悪そうに身じろぎした。
「な、なによ……これくらい、一年の地理で習ったでしょ?」
そうだ、確かに一年の時に使った地理(社会)の教科書にのっていた。だが、そんなものを覚えている人間は皆無だった、ルイズを除いて。
実技が壊滅的な状況にあった彼女はそれこそ舐めるように教科書を隅から隅まで読み漁り、完全に頭に入れていたのだった。
「大正解した一番の方には豪華賞品が当たるダーツチャンス!!」
男がルイズにダーツを一本渡すと、少し離れたところにルーレットが登場する。
「な、何? 何なの?」
「さあ! 配置について!」
男に促されるままに配置につくと、彼女はルーレットに書かれた文字を読んだ。
「オルロック、アンデッタ、辻斬り108号、蟹江リカ、警部、ギャルキング、変な猫、短いサンタ、ウニボウヤ、平賀(源内)、平賀(才人)、たわし、パジェロ……? 何これ」
「見事ダーツが当たれば、それを使い魔にプレゼンツ! 貴女が……今一番欲しいもの……でしょう?」
「え…………」
ぞくり、と耳元で囁かれた言葉にルイズは総毛立った。
「さあ……遠慮は要りません、見事射止めて御覧なさい……貴女だけの、使い魔を」
「私だけ、の……使い魔……」
ルーレットが回り始める。グルグルと回り始めるそれを見つめるうちに、彼女の脳は霞がかかったように不鮮明になっていく。
尋常ではない様子にキュルケが席を立とうとするも、何故か下半身は椅子から動かす事ができない。
「ルイズ!」
「…………」
ルイズは虚ろな目つきでダーツを振りかぶり、投げ放った!
「「「「「………………」」」」」
不気味な沈黙の後、ルーレットが止まる。
そして……。
「大当たり!! 一番さんは見事、最高の使い魔を引き当てました!」
「えっ……」
はっと気がついた時には、既にルーレットは跡形もなくなっていた。
「ちょっと! 見せなさいよ! 何があたったの?」
「賞品の発表は発送をもって代えさせてもらいます」
「は?」
「貴女が「向こう」に帰った時、私が商品をお届けに参ります。それまで何が当たったかはお楽しみで。あ、スモモどうぞ」
「「たわし」じゃないでしょうね……何でスモモ……」
「とんでもない! たわしをお当てになった場合はこの場でプレゼントいたしますよ…………肛○にッ!!!」
ぶぴゅっ、とその場で食べかけのスモモを噴出すルイズ。
その言葉の表す結果に、青ざめる。
キュルケとタバサも青ざめた。
何故かマルコメだけ興奮している。
「な、なな、な、こ、こうも」
「それでは第二問!!」
またしてもスルーだった。
「おっと、その前に……一番の方はイチ抜けで先にお帰りください」
「え?」
ルイズが間抜けな返答をした次の瞬間、何の前触れもなく足元に開いた穴に彼女は落ちた。
「ボッシュゥゥゥゥトッ!!」
「きゃああぁぁぁぁあぁあ!?」
妙な効果音と共に奈落の果てに消えていくスーパーひとs……ルイズ。
最早驚き疲れたのか、ウンザリした顔でキュルケが呟く。
「それで……つまりこれは、正解しないと帰れないって訳かしら?」
「恐らくそう」
男がカードを取り出した。
「それでは皆さん……次の問題に行きましょう。はてさて、最後まで居残りする間抜けはいったい誰か……。ナントモ見物だ!! ヒィィヒヒヒヒヒィ!」
「こーろーせ!!」 「こーろーせ!!」
「こーろーせ!!」 「こーろーせ!!」
げらげらと笑う怪人と会場一杯の殺せコール。
後に三人にとって生涯のトラウマとなる「クイズ」が始まったのだった……。
「 そ れ で は 問 題 で す ! ! 」
おまけ
観客「パージェーロ!」
野沢「パージェーロ!」
キュルケ「パージェーロ!!」
タバサ「パージェーロ!!」
マルコメ「ちょ、ま、無理だって!! こんなもん幾らなんでも入んないよ!! ちょ、待て、止めろ、来るな、あ、ああ、あ……」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
END
『不死身探偵オルロック』から野沢ウォーケンとクイズの部屋
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