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「理想的民主国家トリステイン社会主義連邦」(2008/05/25 (日) 23:26:59) の最新版変更点
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神聖な儀式だとか属性を決めるのに重要だとか、そんな理由でうっかり変なものを召喚するモンじゃない。
ゼロのルイズと馬鹿にされていた少女が春の使い魔召喚の儀式で召喚した「使い魔」のせいで、トリステインの日常はすっかり様変わりしてしまった。
「缶詰」の普及によって食料が100年でも備蓄できるようになり、何処にでも持っていけるようになった。
「ウォトカ」と「煙草」なる嗜好品が人気で、街中の何処へ行ってもヨッパライの姿と煙が目に付くようになった。あと道端の吸殻。
電信の普及で国中のどんな場所からでも情報をやりとり出来るし、その他の情報も電線を飛び交っている。
コルベール先生が協力して量産可能になった「エンジン」のおかげで、物資の運送には革命がおきたと言えるだろう。
けれど、何より変わったのは社会体制そのものだった。
革命と社会主義は精神的な伝染病だとは、ルイズの知らない異世界の冗句だが、その病に真っ先に罹患したのが、事も有ろうに女王・アンリエッタだったのだ。
戦争によって愛した人、ウェールズを失った彼女の心に、貴族も平民も関係ない、誰もが平等な理想郷という思想がスルリと入り込んだのである。
現在、トリステイン王国はアンリエッタを同志主席としたトリステイン社会主義連邦となっていた……
(パーパーッパラーッパー!)
安っぽいラッパの音と共に、魔法学院の側にそそり立つ「使い魔」が今日も活動を開始する。
ルイズによって異世界から召喚された「理想食堂(ユートピアカフェ)」は、隣接して発展した工業地帯の同志労働者の胃袋を満たす主体的食堂となっている。
装甲版によって守られた外壁には、右肩上がりを示す向上の生産量増加を誇らしげに喧伝するグラフと、
労働者一同が敬愛する同志主席アンリエッタの肖像が掲げられていた。
国内の様々な情報管理に利用されているパンチカード式タイムカードを押しながら、次々と開店準備を整えるメイド達は、親衛女給小隊の精鋭達である。
ちなみに、決められた時間までに入店していない場合はサボタージュの疑いにより取り調べを受けた後銃殺が定番だ。
「はい、それでは今日も祖国の自由と同士のために頑張りましょうね! なお、今月の標語は『お客様のニーズに合ったサービスを提供する』です。復唱!!」
整列したメイド達を前に、胸に勲章、腰に拳銃をぶら下げたメイド小隊長シエスタの訓示述べられている間にも、他の部署では着々と準備が整えられていた。
「死んでも水温計から目を離すな!」
「全自動シチュー調理器、炉心臨界です」
「よしっ、バブル開放!!」
無数の自動調理器がゴトゴトと音を立てる中で、突撃調理中隊の同志中隊長マルトーが檄を飛ばす。
「本日の逮捕ノルマは5人です。見つけた人には一杯奢ってあげますよ」
戦旗忠誠心高揚中隊では同志情報将校であるギトーが反社会主義者を逮捕すべく監視装置に目を光らせる。
その手にあるのは、複雑な形にパンチ穴の開いた酒類配給チケットだ。
「各部所、準備完了です」
「よし、理想食堂開店だ!!」
店と一緒に異世界から運ばれてきた「店長」の号令一下、開店を告げる警笛が鳴り響けば、たちまち店内は客の姿でごったがえす。
ユートピア・カフェは連日満員である。
「いらっしゃいませー。重トラクター省のお客様どうぞー」
ちなみに昼食は午前10時から、部署単位、分単位で来店して食事するように、国家主導の元スケジュールが決められている。
また、金銭ではなく支給されている食券で食事が出来るので、国民が飢える事は決して無いのであった。
今日のメニューは油っこくて灰色のシチュー(具材不明)と合成タンパクに各種調味料・香料を添加して作られた合成ニシン。
水っぽいのにパサパサした黒パンとチューブ入りの練りサラダ。更に色付きぬるま湯みたいな大麦コーヒーが付くという豪華なものだ。
味がイマイチな事に関しては、自動調理器の民主的かつ主体的な発展が望まれる所である。
同志労働者達はアンリエッタ同士主席に感謝を捧げると、黙々と食べ黙々と席を立った。
「ありがとうございましたー。次は民主主義ベアリング工場の皆様どうぞー」
かくしてベルトコンベアにのった工業製品のように同士労働者の食事ノルマはこなされてゆく。
万が一食事中に、元貴族のぽっちゃり系少年労働者が
「相変わらずマズなぁ、ここの食事」
などと反国家的な思想を口にしても、たちまち警報が鳴り響き、カラシニコフを携えた戦旗忠誠心高揚中隊の憲兵が駆けつけて
「国家機密漏洩罪容疑だこのスパイめ! 逮捕するッ!」
と地下の取調室へと連れ出してしまうので、同志諸君は安心してノルマ通りに食事を遂行できるのである。
……しかしまぁ、たまにはノルマの通りに食事を終えられない日もある。
この日も、平和平等板金工場の労働者がまだ昼食を終わらないうちに、終業時間の午後10時が迫っていた。
「あのぉ、そろそろ女給小隊の労働時間が規定を超えるのですが……」
「しかし、労働者に昼食を提供しないのはサボタージュにあたりますぞ、店長」
「ええい、お前達にサービス業の自覚は無いのか! お客様から全力で食券を受け取れ!」
シエスタとギトーに両側から責められて「店長」は指示を下す。
平和平等板金工場の同志労働者から集められた食券は纏められ、即座にギトーの元へと届けられる。
「うむ、書類は整っているな」
「我が国は自由と民主の理想国家であるから、残業などの悪しき因習は廃絶せねばならない。
よって―――この基本原則に則り、当店はこれより全力で閉店する!」
ノルマさえこなせば食わせたかどうかは重要ではない。
店の前に列を作る平和平等板金工場の同志労働者を残して、ユートピア・カフェは閉店した。
そこで文句を言うような反社会的な労働者は即逮捕なので、同志一同は静々と各自の家へと帰宅していく。
ちなみに「各自の家」も国家によって支給され平等に割り振られる、通勤に便利な理想的集合住宅で国民は安泰だ。
……
…………
………………
「と、ゆーワケで、本日も問題なくノルマをこなすことができました、じょうお……同志アンリエッタ様」
「そう。それは良かったわ。貴方の召喚した使い魔『理想食堂』のおかげで、この国は本当に理想的な素晴らしい国家になったわね、同志ルイズ」
「……本当に、そうなんでしょうか?」
「もちろんよ。同然じゃないの? そうじゃないなんて言ったら、危険思想で地下室行きになってしまうわルイズ。うふふふふふふふふふ」
「そ、そうですよね、社会主義万歳、アンリエッタ様万歳ですよね。おほほほほほほほほほ」
「うふふふふふふふふふふふ」
「おほほほほほほほほほほほ」
ガス田からパイプラインで送られてくるエネルギーのおかげで、夜も明るい首都トリスタニア。
その中心、旧トリステイン王城、現連邦中央評議会議事堂の最上階で、二人の少女の笑い声は何時までも響き渡るのであったとさ。
めでたくなし、めでたくなし。
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